違法収集証拠排除法則①(排除の根拠・昭和53年判決の2要件)
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第5章 証拠法 ⑳/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入
図:警察が違法な捜索で覚醒剤を見つけた
- 覚醒剤は本物で、被告人が持っていたことも間違いない
- それでも裁判所は、この覚醒剤を証拠から外すことがある
- 真実を探すはずの裁判が、なぜ本物の証拠を捨てるのか
警察が違法な捜索をして、覚醒剤を見つけたとします。覚醒剤は本物で、被告人が持っていたことも間違いありません。それでも裁判所が、その覚醒剤を証拠から外すことがある、と聞きました。本物の証拠を捨てたら、真実が分からなくなりませんか。そこが、今日の問いです。警察が違法な方法で集めた証拠は、そのまま裁判で使えるのか。そして、法律に書かれていないのに、なぜ裁判所は証拠から外せるのか。その考え方と、判断の枠組みを見ます。手がかりは、所持品検査の回で見た、上着のポケットに手を入れた事件です。承諾なくポケットに手を入れて取り出した検査は、違法でした。では、その違法な検査で見つかった覚醒剤は、証拠に使えたのか。同じ判決の、後半です。答えを先に言います。違法に集めた証拠は、外されることがあります。ただし、違法があれば必ず外れるわけではありません。最高裁は、2つの要件で線を引きました。その線の引き方と、そう引く理由を、今日は1本で通します。
証拠禁止:証明力とは別次元の「使わせない」理由
図:証拠禁止と関連性の違い
- 関連性は推認力があるか
- 証拠禁止は推認力があっても手続など別の理由で使わせない
- 両方とも証拠能力を否定する理由の整理で、重なって否定理由になりうる
- 自白の例、嘘を誘う聞き方は関連性の側、黙秘権の侵害などの手続の違法は証拠禁止の側
最初に、関連性の回の入口を思い出します。証拠能力、つまり、証拠が法廷で取り調べられるための法律上の資格を考える観点は、2つありました。関連性と、証拠禁止です。関連性は、その証拠が、証明したい事実を推認させる力を持つか、を見ます。証拠禁止は、推認する力があっても、手続の公正を守るなど、事実の認定とは別の理由で使わせない、という観点です。2つは排斥し合わず、どちらの理由でも、証拠能力は否定されえます。自白で言えば、嘘の答えを誘うような聞き方で取った自白は、事実を誤って認定させるおそれがあるので、関連性の側の問題です。話す自由を奪うなど、手続そのものが違法なら、中身が正しくても外す理由になります。こちらが、証拠禁止の側です。違法収集証拠排除法則は、この証拠禁止の代表例です。捜査機関が、法律に違反して集めた証拠の証拠能力を、否定する考え方です。
明文がない:それでも外す理由はあるのか
図:違法に集めた証拠を使えないという条文はない
- 自白には319条1項があるが物には明文がない
- かつての否定論3つ
- 国家賠償で足りる、真犯人を放免する必要はない、証拠物は押収が違法でも物の性質形状は変わらず証拠としての価値も変わらない
- 判決も一度は認める、直ちに否定は相当でない
次に、明文の話です。自白には、条文がありました。319条1項を、もう一度置きます。
条文刑事訴訟法第319条第1項
刑事訴訟法第319条第1項 強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。
自白は、この条文で外せます。ところが、違法な捜索で集めた覚醒剤のような物について、違法に集めたから証拠にできない、と書いた条文は、ありません。憲法にも、刑事訴訟法にも、ありません。条文がないなら使ってよい、と考える立場が、かつては有力でした。理由は3つです。1つ目は、違法な捜索をした警察官は、国家賠償や懲戒で責任を取らせれば足りる、という考えです。2つ目は、証拠から外すと、真犯人を放免することになり、社会の利益に反する、という考えです。3つ目が、いちばん強い理由です。証拠物は、押収の手続が違法でも、物そのものの性質や形状は変わりません。覚醒剤は、違法に押収しても、覚醒剤のままです。ですから、証拠としての価値も変わらない、という考えです。
盗品でも品物の価値は変わらない、という見方は、この3つ目の理由に近い例えです。そして、最高裁も、この3つ目の理由を、まず認めています。押収手続が違法だというだけで、直ちに証拠能力を否定するのは、真相の究明に資さず、相当でない、と述べました。古い最高裁判例にも、押収物は手続が違法でも、性質や形状は変わらないので、証拠としての価値に変わりはない、と述べたものがあります。ただし、これは旧刑事訴訟法の時代の判決で、その押収は適法だったと認めたうえで、付け加えるように述べた部分です。上着のポケットの判決は、この古い判例について、押収手続にきわめて重大な違法がある場合まで証拠に使ってよい、と言ったものではない、と読みました。つまり、排除を全面的に否定した判例ではない、という整理です。
本物でも外す理由として、ここから、排除の根拠を作ります。質屋の例えを、もう少し続けます。
排除の3つの根拠と、根拠が決める排除の範囲
図:排除の3つの根拠
- 適正手続は憲法31条33条35条の保障を実効化する憲法上の法規範で、法規範説や憲法説とも呼ばれる
- 司法の廉潔性は裁判所が違法な証拠を使えば違法に加担し国民の信頼を損なう
- 違法捜査の抑止は使えないとしておけば将来の違法を防げる
- いずれも事実認定以外の利益を守る、証拠禁止の一類型
ここで、少し思い出してください。自白法則の3つの考え方のうち、取調べの手続が違法かどうかを拾う考え方は、何でしたか?違法排除説です。違法な手続で取った自白は、将来の違法な取調べを抑えるために外す、でした。今日の3つ目の根拠は、その考え方の物版です。では、3つを順に置きます。質屋さんが、盗品だと知りながら、その本物のブランド品を買い取ったとします。品物は本物です。それでも買い取りを断るべき理由は、品物が偽物だからではありません。この理由を分けると、3つになります。1つ目は、ルールそのものを守る、という理由です。盗みを禁じるルールがあるのに、そのルールを破って手に入れた物を、普通に取引していたら、ルールに意味がありません。これが、適正手続を根拠とする考え方です。憲法31条が適正な手続を保障し、憲法35条が令状主義を保障している。その保障を、実際に効かせるために、違法に集めた証拠は外す。憲法上の法規範としての要請だと見るので、法規範説、憲法説とも呼ばれます。2つ目は、店の信用です。盗品を平気で買う店は、盗みに加担した、と見られます。裁判所も同じです。違法に集められた証拠を、裁判所が平然と使えば、違法に手を貸したことになり、裁判への国民の信頼が傷つきます。これが、司法の廉潔性です。秘密録音の回でも、判決の言葉として出てきました。廉潔とは、後ろめたいところがなく、清らかなこと、という意味です。
3つ目は、盗みを続けさせない、という理由です。盗品が売れないなら、盗む意味がなくなります。使えないとしておけば、警察官が違法な捜査をする動機が減ります。これが、違法捜査の抑止、つまり抑止効です。3つとも、事実が正しいかとは、関係がないです。そこが大事です。3つとも、事実認定とは別の利益を守る理由です。ですから、さきほどの証拠禁止の一類型になります。そして、どの根拠に立つかで、どこまで外すかが、変わります。
根拠が決める基準:違法基準説と相対的排除説
図:根拠が基準を決める
- 適正手続の根拠なら憲法違反などの違法があれば証拠能力を否定する、違法基準説
- 司法の廉潔性と違法捜査の抑止の根拠なら政策目的に必要な限りで排除する、相対的排除説
- 明白に重大な違法なら排除、そのほかは排除が信頼と再発防止に資するか、事案の重大性、証拠の重要性、違法と証拠獲得の結びつきの強さなどを衡量
適正手続を根拠にすると、憲法の力で外すので、憲法に違反する捜査で得た証拠は、その違法を理由に、証拠能力が否定されます。違法があるかどうかが、基準です。これを、違法基準説と呼びます。廉潔性や抑止効は、憲法の命令というより、政策の目的です。政策は、目的を達するのに必要な範囲で使うものです。ですから、排除が裁判の信頼や再発の防止に役立つかを、はかる必要があります。これが、相対的排除説です。相対的排除説でも、違法が誰の目にも明らかに重いときは、それだけで排除します。そこまで重い違法の証拠を使えば、裁判の信頼も、再発の防止も、大きく損なわれることがはっきりしているので、はかるまでもない、という理由です。そのほかは、排除が信頼の回復や再発防止に資するか、事案の重大性、その証拠の重要性、違法と証拠の入手との結びつきの強さなどを、総合してはかります。
根拠が違うと、同じ事件でも結論が変わるんですか。変わりえます。少し考えてください。違法の程度は軽いけれど、同じ手口が毎日繰り返されている場合。そして、違法は重いけれど、二度と起きない場合。排除したくなるのは、それぞれ、どの根拠を重く見たときでしょうか?
図:設例ア
- M巡査らは、同じ署で、軽微な違法のある同じ手法の捜索を日常的に繰り返している
- 被告人Rの捜索もその1つ
- 違法の程度は小さいが、歯止めがなければ続く
設例アです。警察官のMたちは、同じ署で、同じ手法を日常的に繰り返しています。1回ごとの違法は、小さいものです。被告人Rの捜索も、その1つでした。抑止を重く見れば、排除して歯止めをかける必要が大きい事件です。反対に、廉潔性を重く見る立場なら、裁判所が違法に手を貸したと見られるかは、その違法がどれだけ重いかで決まります。1つ1つが軽い以上、排除に慎重です。
図:設例イ
- N巡査は、令状を取る時間が十分あったのに面倒だとして取らず、被告人Rの住居を捜索した
- その後、署は運用を全面的に改め、N巡査は処分された
- 同じことは二度と起きない
設例イです。警察官のNは、令状を取る時間が十分あったのに、面倒だとして取らず、被告人Rの住居を捜索しました。違法は、重いです。ただし、その後、署は運用を全面的に改め、Nは処分され、同じことは二度と起きない状況にあります。廉潔性を重く見れば、令状主義を無視した証拠を裁判所が使うのは許されず、排除に傾きます。抑止だけで見ると、すでに再発の心配がないので、排除の必要が小さく見えます。ここまでが、道具づくりです。次に、最高裁が実際に、どの根拠で、どう線を引いたかを見ます。
最高裁の枠組み:真相究明と適正手続の調和
図:判決の構造
- 出発点は、憲法にも刑訴法にも規定がなく、刑訴法の解釈に委ねられる
- 刑訴1条の見地から検討する
- 調和、押収手続の違法だけで直ちに否定は真相究明に資さない
- しかし真相究明も適正な手続のもとで
- 憲法35条が令状主義、憲法31条が適正手続
- 規範、令状主義の精神を没却する重大な違法かつ将来の違法な捜査の抑制の見地から相当でない場合に証拠能力を否定
上着のポケットの事件の判決を、3つの段に分けて読みます。出発点、調和、規範の順です。その前に、もう1つ思い出してください。令状主義とは、何でしたか。精神を没却する、とは、どういう意味でしたか?令状主義は、逮捕のような強制処分は、裁判官の令状によらなければできない、という原則でした。精神を没却する、は、その趣旨を丸ごと無にするほど、という意味でした。十分です。その令状主義の、憲法上の根拠が、35条です。置きます。
条文日本国憲法第35条
日本国憲法第35条 1項 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。 2項 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
そして、刑事訴訟法の側で、これを受けた条文が、218条1項です。
条文刑事訴訟法第218条第1項
刑事訴訟法第218条第1項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、捜索、電磁的記録提供命令又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。
ここに加えて、31条と刑訴法1条が、判決に出てきます。
条文日本国憲法第31条
日本国憲法第31条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
条文刑事訴訟法第1条
刑事訴訟法第1条 この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。
準備ができました。第1の段、出発点です。
判例最判昭53・9・7 刑集32巻6号1672頁
上着のポケットに手を入れた事件——出発点は刑訴法の解釈 違法に収集された証拠物の証拠能力については、憲法及び刑訴法になんらの規定もおかれていないので、この問題は、刑訴法の解釈に委ねられているものと解するのが相当であるところ、刑訴法は、「刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。」(同法一条)ものであるから、違法に収集された証拠物の証拠能力に関しても、かかる見地からの検討を要するものと考えられる。
刑訴法の解釈に委ねる、という出発点が、憲法の命令という根拠とどう違うのかは、あとで戻ります。まず、判決は、刑訴法1条の見地、つまり、真相の解明と、人権の保障の、両方を見る、と宣言しました。第2の段が、その調和です。
判例最判昭53・9・7 刑集32巻6号1672頁
上着のポケットに手を入れた事件——真相究明の側 証拠物は押収手続が違法であつても、物それ自体の性質・形状に変異をきたすことはなく、その存在・形状等に関する価値に変りのないことなど証拠物の証拠としての性格にかんがみると、その押収手続に違法があるとして直ちにその証拠能力を否定することは、事案の真相の究明に資するゆえんではなく、相当でないというべきである。
まず、真相究明の側です。違法があるというだけで、直ちに証拠能力を否定するのは、真相の究明に資さず、相当でない、と言います。さきほどの、物は変わらない、という反対論を、ここで受け止めています。そこで、第3の段が来ます。
判例最判昭53・9・7 刑集32巻6号1672頁
上着のポケットに手を入れた事件——適正手続の側と、2つの要件 しかし、他面において、事案の真相の究明も、個人の基本的人権の保障を全うしつつ、適正な手続のもとでされなければならないものであり、ことに憲法三五条が、憲法三三条の場合及び令状による場合を除き、住居の不可侵、捜索及び押収を受けることのない権利を保障し、これを受けて刑訴法が捜索及び押収等につき厳格な規定を設けていること、また、憲法三一条が法の適正な手続を保障していること等にかんがみると、証拠物の押収等の手続に、憲法三五条及びこれを受けた刑訴法二一八条一項等の所期する令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合においては、その証拠能力は否定されるものと解すべきである。
ここで、覚える中身が出ました。排除の要件は2つです。1つ目は、令状主義の精神を没却するような重大な違法があること。2つ目は、その証拠を許すことが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして、相当でないこと。短く言えば、重大違法と、排除相当性です。
⭐ 論文で書く規範:【論文で書く規範】証拠物の押収等の手続に、令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合は、証拠能力が否定される (規範(最高裁・上着のポケットの判決)/重大違法と排除相当性の2要件/論文で論点になりうる)
ここが、理由つきで大事です。違法だけで直ちに外すと、真実を捨てる代償が、大きすぎるからです。ですから、令状主義の趣旨を丸ごと無にするほどの重大な違法と、外すことに将来の違法を抑える意味がある、という場合に、絞りました。重大違法の輪郭を、ペアで見ます。たとえば、令状が取れる状況なのに、あえて取らずに捜索した。裁判官の審査を丸ごとすり抜けているので、重大と言いやすい例です。反対に、令状を取り、令状に書かれた場所を捜索して押収したが、押収した物の目録を本人に渡し忘れた。手続の違反はありますが、裁判官の審査は生きているので、令状主義の趣旨を丸ごと無にしたとは言いにくい。この物差しで、そう分けられます。ただし、これは物差しを示す例で、実際の結論は事情しだいです。そして、結論です。この判決は、この覚醒剤の証拠能力を、肯定しました。排除しませんでした。実は、第一審は、この覚醒剤を証拠として調べることを認めず、控訴審もその判断を支持していました。最高裁は、その判断を破棄して、第一審に差し戻しました。審理のやり直しです。つまり、上着のポケットの検査は違法でしたが、2つの要件の両方を満たす、とは認めなかったのです。どの事情で、そう判断したのかは、次の回で、当てはめとして見ます。
判決はどの根拠に立つのか:断定できない部分
図:判決はどの根拠に立つか
- 出発点は刑訴法の解釈に委ねられるで、憲法の要請から直接導く憲法説は採りにくい
- ただし憲法から排除が導かれる可能性を完全に否定したとまでは言えない
- 廉潔性か抑止効かは判決が明示していない
- 判決の語は将来における違法な捜査の抑制まで
- 説示の内容から、政策的に排除の要否を判断する、相対的排除説に近いと評価される
3つの根拠のうち、どれに立ったのか、判決は、はっきりとは言っていません。ここは、断定できない部分です。ただ、読み取れることは3つあります。1つ目。判決は、出発点を、刑訴法の解釈に委ねられている、としました。憲法の要請から直接、排除を導く形ではないので、1つ目の根拠を憲法の要請と見る憲法説は、採りにくいと考えられます。ただし、憲法から排除が導かれる余地を、完全に否定したとまでは、言えません。2つ目。廉潔性と抑止効の、どちらを根拠にしたかは、判決は明示していません。判決の言葉は、将来における違法な捜査の抑制の見地、までです。司法の廉潔性という言葉は、判決に出てきません。3つ目。説示の中身は、令状主義の精神を没却する重大な違法と、将来の違法な捜査の抑制の見地、でした。つまり、政策の見地から、排除すべきかを、場合に応じて判断する姿勢です。そのため、相対的排除説に近い、と読むのが自然です。
答案では、根拠を無理に断定しません。判例の2つの要件、重大違法と排除相当性、として書きます。
2要件の関係:重畳説と競合説、そして最高裁の傾向
図:2要件の関係
- 重畳説は重大違法と排除相当性の両方が必要、抑止効を根拠にし、両方が認められたとき抑止の政策を発動
- 競合説はどちらか一方で排除、重大違法は司法の廉潔性、排除相当性は抑止効に対応
- 最高裁の傾向は、重大違法も排除相当性も認められないか、両方認められるかを並べて説示し、どちらかは必ずしも明らかでない
- 実質は重大違法が重要
最後に、2つの要件の関係です。両方が揃わなければ排除できないのか。どちらか一方で足りるのか。重畳説は、重大違法と排除相当性の両方が必要だ、と考えます。抑止効だけを根拠に据え、両方が認められたときに、違法な捜査を抑えるために排除する、という政策を発動します。競合説は、どちらか一方があれば排除される、と考えます。廉潔性と抑止効の両方を根拠にします。重大違法があれば、廉潔性を損なうので排除する。排除相当性は、抑止効の観点から、別に排除すべき場面があるかを見る要件です。重畳説は、根拠が抑止効だけです。競合説は、廉潔性と抑止効の2つです。さきほどの設例なら、設例イのような、重いが再発しない事件は、競合説なら重大違法で排除でき、重畳説なら排除相当性で止まる可能性があります。
最高裁が重畳説と競合説のどちらなのかも、必ずしも明らかではありません。上着のポケットの判決のあとの最高裁は、2つの要件を、どちらも欠くと判断するか、どちらも満たすと判断するか、という形で結論を出してきました。この形が、重畳説なのか、競合説の余地を残すのかは、判文からは、はっきりしません。確実に言えるのは、実質的には、重大違法かどうかが、排除の重要なポイントになっている、ということです。排除相当性は、違法行為と証拠の間の結びつきを見る場面などで、独自の役割を持ちます。そこは、あとの回で見ます。答案での扱いです。根拠や説を断定せず、判例の2つの要件に沿って、重大違法、排除相当性の順に検討します。当てはめは、次の回です。
短答の落とし穴
図:短答の落とし穴
- 違法に集めた証拠は刑訴の明文で排除されるは誤り
- 違法があれば必ず排除されるは誤り
- 上着のポケットの判決は重大な違法と排除相当性を要件としたは正しい
- 憲法の要請として排除を導いたは誤り
- 判決は本件覚醒剤の証拠能力を否定したは誤り、肯定して破棄差戻し
- 最高裁は重畳説を採用したと明言しているは誤り
- 証拠物は性質形状が変わらないので証拠能力は一切否定されないは誤り
短答の確認です。違法に集めた証拠は、刑事訴訟法の明文で排除される。×です。明文はなく、解釈で認められています。違法があれば、必ず排除される。×です。重大違法と排除相当性が要ります。上着のポケットの判決は、重大な違法と、排除相当性を、要件とした。○です。この判決は、憲法の要請として、排除を導いた。×です。刑訴法の解釈に委ねられている、と述べました。この判決は、本件の覚醒剤の証拠能力を否定した。×です。肯定して、破棄差戻しです。違法な検査だったことと、排除したことは別です。最高裁は、重畳説を採用したと、明言している。×です。必ずしも明らかではありません。証拠物は、押収手続が違法でも、性質や形状が変わらないので、証拠能力は一切否定されない。×です。2つの要件を満たせば、否定されます。
今日の地図(保存版)
図:今日の地図、保存版
- 証拠禁止は証明力と別次元
- 明文はなく解釈
- 反対論は物は変わらない
- 3つの根拠、適正手続と司法の廉潔性と違法捜査の抑止
- 根拠が基準を決める、違法基準説と相対的排除説
- 判決の規範、令状主義の精神を没却する重大な違法かつ将来の違法な捜査の抑制の見地から相当でない
- 結論は証拠能力肯定
- 重畳説と競合説、最高裁は必ずしも明らかでない
まとめます。違法に集めた証拠は、本物でも、外されることがあります。証拠禁止という、証明力とは別の理由です。条文はなく、刑訴法の解釈で認められます。根拠は3つです。適正手続、司法の廉潔性、違法捜査の抑止。どれを重く見るかで、排除の範囲が変わります。最高裁は、真相究明と適正手続を調和させて、令状主義の精神を没却するような重大な違法と、将来における違法な捜査の抑制の見地からの排除相当性、の2つの要件を示しました。そして、この判決自身は、この覚醒剤を排除していません。では、なぜ排除しなかったのか。次は、2つの要件を、どんな事情で判断するのかです。違反の程度、令状主義を避けようとする意図、緊急性。上着のポケットの事件で、最高裁が実際にどう当てはめたかを見ます。
参照条文
- 刑事訴訟法第319条第1項
- 日本国憲法第35条
- 刑事訴訟法第218条第1項
- 日本国憲法第31条
- 刑事訴訟法第1条