刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#98

厳格な証明と自由な証明

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第5章 証拠法 ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

導入

保釈を求める場面で伝聞の手紙を出す場合と同じ手紙で無罪を証明しようとする場合を対比する導入板

保釈を認めるかどうかを判断する材料としてなら、この手紙をそのまま出せます。ところが同じ一枚の手紙でも、何に使うかで話が変わります。もし弁護人が、この手紙を使って「被告人は犯人ではない」という無罪の事実そのものを証明しようとしたら、今度は伝聞のままでは通りません。今日は、この違いを生むものさしに入ります。前回まで見てきた証拠能力や証明力、裁判官の自由な判断に委ねる自由心証主義は、出てきた証拠をどう扱うかという話でした。今日はその一段手前、証明そのもののやり方に、どれだけ厳しい手続を要求するかという、別の軸を見ていきます。名前が似ている自由心証主義とは、まったく別の話だと先に断っておきます。

厳格な証明と自由な証明——分かれ目のものさし

有罪無罪や刑の重さそのものを決める事実は厳格な証明で手続を進めるための判断材料は自由な証明であるという物差しを示す板

厳格な証明とは、証拠能力のある証拠を、法律で定められた手続、公判廷での朗読や展示、証人尋問といった適式な証拠調べを経て行う証明のことです。自由な証明とは、この2つの縛り、証拠に資格を求めることと、決まった手順で取り調べることを、どちらも課されない証明のことです。「自由」という名前から、制限のない証明を思い浮かべるのが、一番よくある誤解です。今日、まずその誤解を解きたいと思います。分かれ目になるものさしはこうです。その事実が崩れたとき、有罪無罪や刑の重さそのものがひっくり返るか、それとも、裁判を前に進めるための手続的な判断材料にすぎないか。

さっきの手紙の話に当てはめると、保釈するかどうかの判断は、有罪無罪そのものではないから自由。でも「犯人ではない」を証明する場面は、まさに有罪無罪を決めるから厳格。良質な証拠で慎重に決めるべき事実か、多少質を落としてでも幅広く情報を出して素早く決めたい事実か。この違いだと考えてください。

自由な証明の下限——正体は伝聞法則が外れること

320条1項の伝聞法則が公判外供述を証拠から締め出す仕組みと自由な証明ではその締め出しだけが外れるという限定を示す板

さっき「無制限ではない」と言っていましたね。自由な証明といっても、何か縛りは残るんですか。残ります。まず今日の核になる条文を見てください。

条文刑事訴訟法第320条第1項

刑事訴訟法第320条第1項 第三百二十一条乃至第三百二十八条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。

これが伝聞法則です。公判の外で誰かが話した内容を書き取った書面や、又聞きの供述は、原則として証拠にできない、という条文でした。自由な証明の実質は、この伝聞法則が外れるという、その一点に尽きます。つまり公判の外で作られた書面や、又聞きの話でも、証拠として使ってよいということです。拷問で無理やり引き出した自白のようなものも、自由な証明なら使えてしまうんですか。使えません。そこが下限です。自由な証明で外れるのは、伝聞法則という一つの制約だけで、証拠として使うこと自体が禁じられているもの、たとえば任意性のない自白や、違法に集められた証拠は、自由な証明でも使えません。最初に、自由な証明では証拠に資格を求めないと言いましたが、正確には、資格のルールを丸ごと外すのではなく、そのうち伝聞法則だけが外れる、という限定された意味です。「自由」という言葉は、証拠の質を何でも許すという意味ではない、と理解してください。

厳格な証明を要する事実——刑罰権の存否・範囲

犯罪事実処罰条件処罰阻却事由刑の加重減免事由が厳格な証明を要する事実として並ぶ一覧板

では、厳格な証明を要する事実を具体的に見ていきます。まず一番の中心は、犯罪事実、つまり構成要件に該当する事実や、違法性・責任を基礎づける事実です。これはまさに有罪無罪を決める事実なので、厳格な証明を要します。それ以外にもあるんですか。あります。処罰条件です。犯罪そのものは成立していても、法律が定める別の条件がそろって初めて処罰できる、その条件のことです。たとえば、破産の手続で財産を隠す罪は、破産手続開始の決定が確定して初めて処罰されます。それから、処罰阻却事由。犯罪は成立しているのに、特別な関係があるので処罰だけはしない、という事由です。条文を見てください。

条文刑法第244条第1項

刑法第244条第1項 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。

これは、窃盗にあたる行為をしても、配偶者や直系血族、同居の親族の間であれば刑が免除される、という規定です。この「親族関係があるかどうか」という事実も、刑罰権の有無を左右するので、厳格な証明を要します。たとえば、同居している弟が、兄の財布からお金を抜き取ったとします。窃盗の罪自体は成立しますが、兄弟は同居の親族にあたるので、刑は免除されます。犯罪の成立は認めたうえで、刑だけを外す。これが処罰阻却事由です。だからこそ、その関係が本当にあったのかどうかは、厳格な証明で確かめる必要があるのです。前科による刑の加重については、最高裁の大法廷がはっきり判断しています。

判例最高裁判所大法廷決定・昭和33年2月26日(刑集12巻2号316頁)

累犯前科の認定——実質は犯罪構成事実に準ずる 「累犯加重の理由となる前科は、刑訴三三五条にいわゆる『罪となるべき事実』ではないが、かかる前科の事実は、刑の法定加重の理由となる事実であつて、実質において犯罪構成事実に準ずるものであるから、これを認定するには、証拠によらなければならないことは勿論、これが証拠書類は刑訴三〇五条による取調をなすことを要するものと解すべきである。」

累犯前科そのものは、犯罪事実の中身ではありません。でも、これが認められると刑が重くなる、つまり刑罰権の範囲を左右する事実なので、実質は犯罪構成事実に準ずる、として厳格な証明を要求しています。刑の減軽の側も、扱いは同じです。自首が認められれば刑を減軽できるので、自首があったかどうかは、法律が定める刑の枠そのものを動かす事実です。だから厳格な証明を要すると考えられています。刑を重くする方向でも、軽くする方向でも、刑罰権の範囲そのものを動かす事実である以上、扱いは対称です。

被告人に有利な事実も、厳格な証明を要する

検察官が有罪を立証する場合だけでなく被告人が正当防衛や責任能力の欠如を主張する場合も同じ重さの証明が要ることを示す板

さっきから、有罪の方向に働く事実の話ばかりですね。逆に、被告人の側が「自分は正当防衛だった」とか「責任能力がなかった」と主張する場合、証明のレベルは緩くなるんですか。緩くなりません。有利な事実だから緩くていい、というのは直感的にはありそうな話ですが、実際はそうなっていません。検察官が有罪を立証するときと同じ重さの、厳格な証明を要すると解されています。理由の一つは、条文の書きぶりです。刑事訴訟法は、犯罪事実が「あること」だけでなく「ないこと」も並べて扱っています。たとえば321条1項3号は、「犯罪事実の存否の証明」と、あることとないことを一続きに書いています。有罪方向の証明も、無罪方向の証明も、同じ重みで扱う、という条文の構造があるのです。もう一つの手がかりが、この条文です。

条文刑事訴訟法第322条第1項

刑事訴訟法第322条第1項 被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき、又は特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り、これを証拠とすることができる。

この条文は、被告人にとって不利益な供述だけでなく、「特に信用すべき情況」の下でされた供述、つまり被告人に有利な内容の供述にも、同じように証拠としての要件を課しています。有利な供述だからといって、法律は証拠の質を緩めていません。決着そのものを動かす事実である以上、有利か不利かは関係なく、厳格な証明を要すると考えてください。冒頭で、弁護人が上司の手紙を使って「犯人ではない」と証明しようとした場面は、まさにこの有利な事実の証明です。だから、あの手紙は伝聞のままでは通らなかったのです。

訴訟法上の事実——原則は自由な証明

逮捕勾留保釈召喚といった手続を進めるための判断材料は原則自由な証明で足りることを示す板

次は、冒頭の手紙の話に戻ります。逮捕や勾留、保釈、召喚といった、手続を進めるための判断材料になる事実、これを訴訟法上の事実と呼びます。これは原則、有罪無罪の決着そのものには関わらないので、自由な証明で足ります。実際に判例でも、そう扱われています。

判例最高裁判所第一小法廷決定・昭和58年12月19日(刑集37巻10号1753頁)

手続上の判断のための訴訟法的事実——自由な証明で足りる 「右のような訴訟法的事実については、いわゆる自由な証明で足りるから、右回答書が刑訴法三二三条三号の書面に該当すると否とにかかわらず、これを取り調べた原審の措置に違法はない」

この事件は、電報電話局長が作成した「逆探知の資料は存在しない」という回答書を、原審が逆探知資料の送付嘱託の当否や、逆探知に関する証人申請の採否を判断する材料として使ったという事案です。伝聞にあたるかどうかを気にする必要すらなく、自由な証明で足りると判断されています。冒頭の手紙も、保釈の判断材料として使うだけなら、同じ訴訟法上の事実の扱いです。

訴訟法上の事実——実務が厳しく扱う場面

自白の任意性や訴訟条件のように有罪無罪や公判打切りに直結しうる訴訟法上の事実は実務上厳格に扱われるという揺れを示す板

原則は自由な証明ですが、例外があります。自白の任意性や、証拠の関連性、証拠が違法に集められたものかどうかといった、証拠能力に関する事実、それから、訴訟条件があるかどうかという事実は、実務上・学説上、厳格な証明を求める扱いが有力です。ものさしに立ち返れば理由は同じです。自白の任意性が否定されれば、その自白は有罪の証拠から外れます。訴訟条件、つまり裁判ができるための前提条件が欠ければ、有罪無罪を判断しないまま公判が打ち切られます。どちらも、崩れると裁判全体の帰趨に直結してしまうのです。手続を進めるための判断材料というより、決着そのものに近い性質を持つので、実務は厳しく扱うのです。この論点は、答案でも問われうる骨格の一つですが、規範の細部は別の回で扱います。もっとも、上告審という特殊な場面には留保があります。

判例最高裁判所第二小法廷決定・平成23年10月26日(刑集65巻7号1107頁)

上告審における訴訟条件の認定——適宜の方法でよい 「訴訟条件である告発の存在については、当審において、証拠調手続によることなく、適宜の方法で認定することができるものと解される」

この事件では、下級審が見落としていた告発という訴訟条件の有無を、上告審が証拠調べ手続を経ずに認定できるとしています。上告審は、事実を新たに取り調べる事実審ではなく、書面で審理する法律審です。そのことが判断に影響した可能性も指摘されていて、通常の事実審で同じように扱えるとは限らない点に注意してください。証拠能力に関する事実の代表例が、328条の弾劾証拠です。

条文刑事訴訟法第328条

刑事訴訟法第328条 第三百二十一条乃至第三百二十四条の規定により証拠とすることができない書面又は供述であつても、公判準備又は公判期日における被告人、証人その他の者の供述の証明力を争うためには、これを証拠とすることができる。

この条文は、本来なら証拠にできない伝聞の書面でも、法廷での供述の証明力を争う、つまり「前にこう言っていたのに、法廷ではこう言っている」という矛盾を指摘するためだけなら、証拠として使ってよい、という規定です。ただし、前に矛盾する供述をしたという事実そのものは、厳格な証明で立証する必要があります。

判例最高裁判所第三小法廷判決・平成18年11月7日(刑集60巻9号561頁)

328条の弾劾証拠——補助証拠の存在は厳格な証明で 「別の機会に矛盾する供述をしたという事実の立証については、刑訴法が定める厳格な証明を要する趣旨であると解するのが相当である。そうすると、刑訴法328条により許容される証拠は、信用性を争う供述をした者のそれと矛盾する内容の供述が、同人の供述書、供述を録取した書面(刑訴法が定める要件を満たすものに限る。)、同人の供述を聞いたとする者の公判期日の供述又はこれらと同視し得る証拠の中に現れている部分に限られるというべきである。」

この事件では、署名も押印もない報告書を弾劾証拠として使おうとしましたが、法律が定める要件を満たしていないとして、証拠能力自体が否定されました。矛盾を指摘するためだけの証拠だからといって、出どころの確かでない書面を野放図に認めるわけではない、ということです。328条の書面も、使えるかどうかで証人の話の信用性、ひいては有罪無罪が動きます。崩れたら決着がひっくり返る事実だから厳格な証明、というものさしは、例外の場面でもそのまま効いています。

量刑に関する事実——犯情と一般情状

犯罪事実と重なる犯情は厳格な証明一般情状は判例上自由だが実務は厳格が多いという判例と実務のズレを示す板

最後に、量刑に関する事実です。これは、犯情と一般情状という2つに分けて考えます。犯情とは、被告人と被害者の関係や、犯行の動機・態様、被害の大きさといった、犯罪事実そのものと重なり合う量刑事実です。犯罪事実と地続きなので、厳格な証明を要します。生い立ちや性格、環境、前科前歴、被害弁償や示談の有無といった、犯情以外の情状です。判例では、これは自由な証明で足りるとされてきました。ものさしで言えば、累犯や自首は、法律が定める刑の枠そのものを動かします。これに対して一般情状は、その枠の中で裁判官がどこに決めるかの材料にすぎません。たとえば、被害を弁償したという事実は、刑を軽くする方向に働きますが、被害弁償それ自体は、法律が刑の枠を動かす理由として定めた事実ではありません。枠を動かさないので、判例は自由な証明でよいとしてきたのです。

判例最高裁判所第二小法廷判決・昭和24年2月22日(刑集3巻2号221頁)

執行猶予の情状——法定の証拠調べを経なくてもよい 「刑の執行を猶予すべき情状の有無に関する理由は判決にその判断を示すことを要する事項ではなく、またその証拠理由を示す必要もないところであるが、……この情状に属する事項の判断については、犯罪を構成する事実に関する判断と異り、必ずしも刑事訴訟法に定められた一定の法式に従い証拠調を経た証拠にのみよる必要はない」

判例最高裁判所第二小法廷決定・昭和27年12月27日(刑集6巻12号1481頁)

量刑資料——厳格な証拠調べ手続を要しない 「所論の資料は単なる量刑判断に用いたものであつて罪となるべき事実認定の証拠ではない」

事実を認定する証拠として使うのではなく、量刑を決める材料に使うだけだから、厳格な証拠調べの手続を経る必要はない、という判断です。判例の立場と実務の運用には、ずれがあります。判例の立場は今も自由な証明で足りるというものですが、実務では、前科事実や被害弁償・示談の事実については、厳格な証明で認定するのが一般的です。法律が定める刑の枠を動かさない、という点では判例の言うとおりです。ただ、前科や示談は、その枠の中で、実際に言い渡される刑を確実に、しかも大きく上下させます。ものさしの「刑の重さ」を、法律上の枠ではなく実際に言い渡される刑で測れば、決着に近い事実になる。実務が厳しく扱うのはそのためです。判例上の建前と、実務の運用に、ずれが生じている場面だと理解してください。

今日の地図(保存版)

決着に直結する事実は厳格な証明手続を進める事実は自由な証明ただし自由な証明にも伝聞法則が外れるだけという下限があることをまとめる板

今日のまとめです。もう一つだけ、区別しておきたい言葉があります。誰が証明する責任を負うか、という挙証責任は、原則として検察官が負いますが、それは今日の「どれだけ厳しい手続で証明するか」という話とは別の軸です。挙証責任の中身は、別の回で扱います。今日のものさしは一つでした。その事実が崩れたとき、有罪無罪や刑の重さそのものがひっくり返るなら厳格な証明、手続を進めるための判断材料にすぎないなら自由な証明。犯罪事実も、被告人に有利な事実も、犯情も、決着に直結するので厳格。逮捕や保釈のような手続的判断は、原則自由。ただし自由な証明にも下限があり、その正体は伝聞法則が外れるという一点だけで、任意性のない自白や違法収集証拠は、自由な証明でも使えません。そして訴訟法上の事実の中でも、証拠能力や訴訟条件に関わるものは、決着に直結しやすいので、実務は厳格に扱います。

「自由」という言葉に引っ張られて、何でもありだと思っていましたが、決着に直結するかどうかという同じものさしで、全部つながっていたんですね。

参照条文

  • 刑事訴訟法第320条第1項
  • 刑法第244条第1項
  • 刑事訴訟法第322条第1項
  • 刑事訴訟法第328条

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