刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#134

毒樹の果実とは何か(希釈・独立入手源・不可避的発見)

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第5章 証拠法 ㉑/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

導入

警察が違法に手に入れた証拠は使えない。では、その違法がきっかけであとから見つかった証拠は。毒は木から実へうつるのか。うつらない場合があるとすれば、それはどんなときか 図:警察が違法に手に入れた証拠は使えない

  • では、その違法がきっかけであとから見つかった証拠は
  • 毒は木から実へうつるのか
  • うつらない場合があるとすれば、それはどんなときか

警察が違法に手に入れた証拠は、使えません。では、その違法な捜査がきっかけで、あとから見つかった証拠は、どうでしょうか。毒は、木から実へ、うつるのか。うつらない場合があるとすれば、それはどんなときなのか。前回までは、証拠をとる行為そのものが違法な場合を見ました。今日は、証拠をとる行為は適法なのに、その前の手続が違法だった場合です。ここで効いてくるのが、違法と証拠とのつながり、つまり因果性という軸です。持ち帰ってほしいのは3つです。1つ目は、違法と証拠のつながりが、判断の新しい軸になること。2つ目は、毒樹と果実という言葉の意味です。3つ目は、つながりが薄いとされる3つの考え方、希釈、独立入手源、不可避的発見の区別です。

2つの場面:証拠をとる行為が違法か、その前が違法か

場面Aと場面Bの対比。場面A=警察官Nが違法な行為そのもので証拠を獲得。違法の重大性と排除相当性を見れば足りる。場面B=証拠の獲得は適法で、違法なのは先に行われた行為。後の証拠まで排除すべきかを別に考える。設例の入口=Nが逮捕状なしで違法な連行、連行先でMが覚醒剤を任意に提出 図:場面Aと場面Bの対比

  • 場面A=警察官Nが違法な行為そのもので証拠を獲得
  • 違法の重大性と排除相当性を見れば足りる
  • 場面B=証拠の獲得は適法で、違法なのは先に行われた行為
  • 後の証拠まで排除すべきかを別に考える
  • 設例の入口=Nが逮捕状なしで違法な連行、連行先でMが覚醒剤を任意に提出

場面を2つに分けます。場面Aは、警察官が、違法な行為そのもので、証拠を手に入れた場合です。前の2回で見た型です。その行為の重大な違法と、排除相当性を見れば足ります。場面Bは、証拠を手に入れた行為は適法なのに、その前に行われた行為が違法だった場合です。自前の設例で見ます。警察官のNが、逮捕状もなしに、被疑者のMを、事実上拘束するような形で違法に連行しました。連行先で、Mは、尋ねられて、自分から部屋にある物を出すと言い、鞄の中の覚醒剤を、任意に提出しました。提出は任意だから、適法に見えます。でも、その前の連行は違法です。この覚醒剤は、排除されるのでしょうか。そこが問題です。提出そのものは適法でも、前の違法の影響を受けるかもしれません。ですから、場面Bでは、場面Aとは別に、後の証拠まで排除すべきかを考える必要があります。

排除の目的に戻ります。排除するのは、将来の違法な捜査を抑えるため、そして、裁判所が違法な捜査に手を貸さないためです。もし、違法のおかげで証拠が手に入ったという関係がなければ、その証拠を排除しても、違法捜査の抑止にも、裁判所の廉潔さを保つことにも、つながりません。ですから、問われるのは、前の違法と、後の証拠との間に、違法のおかげで手に入ったというつながりがあるか、あるならどの程度か、です。このつながりが問題になる場面が、毒樹の果実の問題です。

毒樹の果実の意味:毒樹は違法な行為、果実は派生した証拠

毒樹の果実の意味。毒樹=違法な捜査行為そのもの。果実=その違法な行為がきっかけで手に入った証拠。先行行為そのものによって得た証拠も、それを手がかりに得た証拠も含む。因果性が問題になるかで整理し、一次か二次かで判断の枠組みを分けない。毒樹の果実を直接定めた条文はない。設例では、違法な連行が毒樹、連行後の任意提出で得た覚醒剤が果実 図:毒樹の果実の意味

  • 毒樹=違法な捜査行為そのもの
  • 果実=その違法な行為がきっかけで手に入った証拠
  • 先行行為そのものによって得た証拠も、それを手がかりに得た証拠も含む
  • 因果性が問題になるかで整理し、一次か二次かで判断の枠組みを分けない
  • 毒樹の果実を直接定めた条文はない
  • 設例では、違法な連行が毒樹、連行後の任意提出で得た覚醒剤が果実

言葉の整理です。毒樹とは、違法な捜査行為そのものです。果実とは、その違法な行為がきっかけで手に入った証拠です。設例では、違法な連行が毒樹、連行のあとの任意提出で得た覚醒剤が果実です。派生して得られた証拠の総称を、派生証拠と呼びます。先行する行為そのものによって得た証拠を一次証拠、それを手がかりにさらに見つけた証拠を二次証拠と呼ぶことがあります。ただ、これは意味の説明のための言葉です。毒樹を一次証拠、果実を二次証拠以降に限って使う論者もいます。ただ、因果性が問題になるのは、二次証拠に限りません。一次証拠でも、先行する違法とのつながりが問題になることがあります。排除の目的から見て大事なのは、何番目の証拠かではなく、違法のおかげで手に入ったかどうかです。設例の覚醒剤も、連行から数えて何番目かでは結論は決まらず、連行のおかげで出てきたかで決まります。ですから、一次か二次かで、判断の枠組みを分けません。この点は、あとで一次証拠と二次証拠を見る回に、つながります。

一次証拠なら、当然に排除されるのですか。違います。一次証拠にも、重大な違法があるか、排除相当性があるか、という判断が要ります。当然に排除、とは言えません。以前、自白の回で、毒のある木の実も毒、という考え方を見ました。違法な手続で得た証拠から、さらに得た証拠も外す、という考え方です。今日は、その考え方を、違法な行為から派生した証拠全体に広げて、整理します。ただし、毒樹の果実を直接定めた条文は、ありません。排除法則そのものが、解釈で立てたものです。

判断の軸:違法の重大性と、つながりの密接さ

前回の確認。重大な違法の判断で特に重みを持ちやすい2つの事情は、強制処分に至っていたか、令状主義を潜脱する意図があったか 図:前回の確認

軸を作る前に、前回の確認を1問だけ。前回、重大な違法を判断するとき、特に重みを持ちやすい2つの事情は何でしたか?強制処分に至っていたかと、令状主義を潜脱する意図があったか、でした。その2つに、違反の程度と緊急性もあわせて、総合して評価するのでした。この評価を、今日は、第1の軸の中身として使います。

派生証拠の判断の軸。第1に、先行する捜査行為の違法の重大性。第2に、その行為と後の証拠との因果性の有無と程度。違法が重大で、かつつながりが強ければ、証拠能力は否定される方向。つながりが密接でなければ、先行手続に重大な違法があっても、証拠能力は認められる。設例では、連行は逮捕に等しい拘束なら重大に傾き、連行中の延長で出させたならつながりは密接 図:派生証拠の判断の軸

  • 第1に、先行する捜査行為の違法の重大性
  • 第2に、その行為と後の証拠との因果性の有無と程度
  • 違法が重大で、かつつながりが強ければ、証拠能力は否定される方向
  • つながりが密接でなければ、先行手続に重大な違法があっても、証拠能力は認められる
  • 設例では、連行は逮捕に等しい拘束なら重大に傾き、連行中の延長で出させたならつながりは密接

派生証拠の判断は、2段階です。第1に、先行する捜査行為の違法が、重大かどうか。第2に、その行為と後の証拠との間のつながりが、密接かどうか。先行行為の違法が重大で、しかも、つながりが強い。この場合は、重い違法をしたおかげで、証拠が手に入っています。その証拠を使わせなければ、違法をしても得をしない、と示せて、将来の違法を抑える力が働きます。ですから、証拠能力は否定される方向です。反対に、つながりが密接でなければ、先行手続に重大な違法があっても、証拠能力は認められます。Nの連行が、逮捕状なしの実質的逮捕に当たるなら、強制処分に至っていて、重大に傾きます。そして、覚醒剤は、その連行の最中、連行の延長で出させたものです。つながりは密接です。ですから、排除に傾きます。最高裁が、この2段階の判断を、そのまま採用すると明言しているかは、議論があります。大津の判決は、前回見た、逮捕状を示さずに逮捕し、あとで取り繕った事件です。その判決は、尿の鑑定書について、違法が重大と評価されてもやむを得ないとしたうえで、違法な逮捕に密接に関連する証拠を許容することは、将来における違法捜査抑制の見地からも相当でない、と述べて、尿の鑑定書を排除しました。この、相当でない、という部分が、前回までに見た2つ目の要件、排除相当性です。つまり、つながりの密接さを、排除相当性の中で確かめて排除した判決がある、ということです。同じ判決は、令状で押さえた覚醒剤については、つながりが密接でないことを挙げて、重大な違法があるとまではいえない、としています。つながりの置き場所は、一つに決まっているわけではありません。判決の中身は、別の回で扱います。

覚える一文です。派生証拠は、先行手続の違法の重大性と、先行手続と証拠とのつながりを見て、違法が重大でつながりが強ければ排除、つながりが密接でなければ排除されない。ここは、論文で論点になりうる部分です。

設例で確かめる:つながりの距離で、結論が動く

設例の3つの変形。同じ違法な連行でも、証拠とのつながりの距離で結論が動く。変形1=連行の最中に、連行の延長で鞄の中を見せろと言って提出させた。つながり密接、排除に傾く。変形2=数日後、Mが弁護人の助言も受けたうえで自分の意思で鞄ごと持参して提出した。本人の意思による任意提出という適法な手続が介在し、つながりが薄まる方向。変形3=連行とは無関係に、別の班が別ルートで同じ覚醒剤を押収した。違法のおかげで得たものではない 図:設例の3つの変形

  • 同じ違法な連行でも、証拠とのつながりの距離で結論が動く
  • 変形1=連行の最中に、連行の延長で鞄の中を見せろと言って提出させた
  • つながり密接、排除に傾く
  • 変形2=数日後、Mが弁護人の助言も受けたうえで自分の意思で鞄ごと持参して提出した
  • 本人の意思による任意提出という適法な手続が介在し、つながりが薄まる方向
  • 変形3=連行とは無関係に、別の班が別ルートで同じ覚醒剤を押収した
  • 違法のおかげで得たものではない

同じ違法な連行でも、証拠との距離を動かすと、結論が動きます。3つの変形で確かめます。変形1。連行の最中に、Nが、鞄の中を見せろと言って、提出させました。違法とつながりが一番近い形です。さきほどのとおり、排除に傾きます。変形2。連行の数日後に、Mが、弁護人に相談して助言を受けたうえで、自分から鞄ごと警察署に持参して提出しました。違法な連行から日がたち、弁護人の助言も受けて、本人が自分の意思で出しています。この、本人の意思による任意の提出が、間に入った適法な手続です。連行とのつながりは、薄まる方向です。この型が、あとで見る希釈に近い場面です。変形3。連行とは関係なく、別の班が、取引先からの情報にもとづいてひそかに捜査を進めていて、令状を得て、同じ覚醒剤を押収していました。このときは、違法な連行のおかげで得たものではありません。この型が、独立入手源です。

違法の重さは同じでも、証拠とのつながりしだいで、結論は動きます。ここが、今日の軸です。

例外①希釈:適法な手続が間に入り、つながりが薄まる

希釈法理。違法のあとに適法な手続がはさまり、先行する違法と証拠獲得とのつながりが、違法の影響が目立たなくなるほど薄れたとき、排除法則は適用されない。決め手は後の証拠獲得に対する先行違法の寄与度が低下する事情の有無。例は持ち主が自分の意思で承知して物を預けた場合、令状審査の介在。令状審査が本当に薄めるかは疑問も出される 図:希釈法理

  • 違法のあとに適法な手続がはさまり、先行する違法と証拠獲得とのつながりが、違法の影響が目立たなくなるほど薄れたとき、排除法則は適用されない
  • 決め手は後の証拠獲得に対する先行違法の寄与度が低下する事情の有無
  • 例は持ち主が自分の意思で承知して物を預けた場合、令状審査の介在
  • 令状審査が本当に薄めるかは疑問も出される

1つ目の考え方、希釈です。違法のあとに、適法な手続がはさまって、先行する違法と証拠獲得とのつながりが、最初の汚れが消えるほど、薄くなった場合です。後の証拠を得る場面で、先行する違法が果たした役割、つまり寄与度が、下がったと言える事情があるかが、決め手です。自白の回で、勾留質問の裁判官のように、別の機関や別の目的の手続が間に入ると薄まる、と見た考え方です。汚れは、先行する違法から証拠が受けた影響のたとえです。川上で水が汚された、と思ってください。そのまま流れてくれば、下流の水も飲めません。でも、途中に浄水場が入って、きれいに処理されたなら、下流の水は飲めます。この浄水場が、間に入る適法な手続です。具体例は、先行手続が違法でも、持ち主が自分の意思で承知して、警察に物を預けた場合です。変形2も、この型に近い場面です。最初の設例のように、違法な連行の最中に任意に出させた場合は、汚れがそのまま流れてくるので、薄まりません。もう1つ、令状審査によって、つながりが薄まる、という説明もされます。違法に収集した証拠を、疎明資料の1つとして令状を請求し、ほかの疎明資料もあって令状が出て、執行した結果、新しい証拠を得た場合です。裁判官が、違法な証拠以外の資料もあわせて見て、令状を出しているので、そこで違法の影響が薄まる、と見るわけです。令状審査が間に入った事情を挙げて、証拠能力を認めた最高裁の判断もあります。

令状審査が入れば、本当に薄まるのですか。そこは、疑問も出されるところです。違法に集めた証拠が疎明資料に入っていても、令状は出ることがあるからです。ですから、薄まる、という説明がされる、という温度で受け取ってください。

例外②独立入手源:現実に、別の適法な手続で入手した

独立入手源法理。違法な手続に頼らず、別の適法な手続で、現にその証拠を手に入れていたと評価できる場合は、排除法則を適用しない。違法手続と証拠入手との間に因果性がなかったと評価できる。ポイントは現実に別の適法ルートで入手していること。設例=Nが違法に立ち入って帳簿を撮影、その日、別の班が取引先の任意の情報提供に基づく令状で同じ帳簿を差し押さえた 図:独立入手源法理

  • 違法な手続に頼らず、別の適法な手続で、現にその証拠を手に入れていたと評価できる場合は、排除法則を適用しない
  • 違法手続と証拠入手との間に因果性がなかったと評価できる
  • ポイントは現実に別の適法ルートで入手していること
  • 設例=Nが違法に立ち入って帳簿を撮影、その日、別の班が取引先の任意の情報提供に基づく令状で同じ帳簿を差し押さえた

2つ目、独立入手源です。違法な手続に頼らず、別の適法な手続で、現にその証拠を手に入れていた、と評価できる場合です。違法な手続と証拠入手との間に、因果性がなかったと言えるので、証拠は排除されません。設例です。Nが、違法に立ち入って、帳簿を見つけ、撮影しました。ところが、その同じ日に、別の班が、Nの立入りを知らないまま、取引先から任意に得た情報にもとづいて令状をとり、同じ帳簿を差し押さえていました。帳簿は、別の適法なルートで、現実に入手されています。ですから、排除されません。水でたとえると、汚された川とは別の、きれいな水源から、現に水を汲んでいた、という場合です。ポイントは、現実に、です。これを、頭に置いてください。

例外③不可避的発見:いずれは適法に見つかったはず

不可避的発見法理。実際には違法行為で証拠を発見・獲得したが、いずれは適法な手続で発見・獲得されたはずだという仮定的な判断で証拠排除を回避する考え方。独立入手源との差は現実か仮定か。適法に得られた蓋然性が具体的で一定程度以上高い必要がある。仮定的判断を認めることには批判もある。設例=違法な聞き込みで得た供述から凶器を発見、その日の朝から別の班が令状で川底の探索を区画ごとに進め、発見地点は数時間後に探索予定 図:不可避的発見法理

  • 実際には違法行為で証拠を発見・獲得したが、いずれは適法な手続で発見・獲得されたはずだという仮定的な判断で証拠排除を回避する考え方
  • 独立入手源との差は現実か仮定か
  • 適法に得られた蓋然性が具体的で一定程度以上高い必要がある
  • 仮定的判断を認めることには批判もある
  • 設例=違法な聞き込みで得た供述から凶器を発見、その日の朝から別の班が令状で川底の探索を区画ごとに進め、発見地点は数時間後に探索予定

3つ目、不可避的発見です。実際には、違法な行為によって証拠を手に入れたけれど、いずれは、適法な手続で見つかっていたはずだ、という、仮定的な判断で、排除を避ける考え方です。設例です。Nが、威迫による違法な取調べで得た供述から、川の下流の護岸の下で、凶器を見つけました。ところが、実は、その日の朝から、別の捜査班が、令状にもとづいて、川底の探索を区画ごとに進めていて、凶器の見つかった地点の区画は、数時間後に探索する予定でした。この場合、適法な探索で見つかったはずだ、という蓋然性が、具体的に高いので、不可避的発見の考え方で、排除が避けられる余地があります。なぜ排除しないのか。違法がなくても、同じ凶器がいずれ適法に見つかっていたのなら、違法のおかげで手に入った、とは言いにくいからです。つながりが薄い、と評価するわけです。ただし、仮定の話ですので、蓋然性が具体的で、一定程度以上高いことが必要です。こうした仮定的な判断を認めることには、批判もあります。

独立入手源は、現実に、別の適法な手続で入手しています。不可避的発見は、現実には違法な行為で入手していて、いずれ適法に見つかったはずだ、と仮定します。水でたとえると、汚れた水を汲んでしまったけれど、予定どおりなら、きれいな井戸から汲んでいたはずだ、という話です。現実か、仮定か。その差です。

3つの区別と、最高裁との距離

3類型の区別の表。希釈=違法の後に適法な手続が介在。独立入手源=違法を利用せず、現実に別の適法手続で入手。不可避的発見=違法で現実に入手したが、いずれは適法に入手したはずという仮定。共通=先行する違法と証拠とのつながりが密接でないと評価される類型。一次証拠でも二次証拠でも使える。最高裁が3類型を名指しで採用したとは言えない。善意の例外は3類型に入らない 図:3類型の区別の表

  • 希釈=違法の後に適法な手続が介在
  • 独立入手源=違法を利用せず、現実に別の適法手続で入手
  • 不可避的発見=違法で現実に入手したが、いずれは適法に入手したはずという仮定
  • 共通=先行する違法と証拠とのつながりが密接でないと評価される類型
  • 一次証拠でも二次証拠でも使える
  • 最高裁が3類型を名指しで採用したとは言えない
  • 善意の例外は3類型に入らない

ここで、立ち止まって考えてください。違法な手続で、実際に証拠を手に入れてしまった。それでも、排除されない余地があるのは、どの類型でしょうか?不可避的発見です。現実には違法に入手したけれど、いずれ適法に入手したはず、という仮定で、排除を避けます。独立入手源は、現実に別ルートで入手していました。ここで、3つを並べ直します。希釈は、違法のあとに、適法な手続が間に入った場合。独立入手源は、違法を利用せず、現実に、別の適法な手続で入手した場合。不可避的発見は、違法で現実に入手したが、いずれ適法に入手したはず、という仮定の場合です。3つに共通するのは、先行する違法と証拠とのつながりが、密接でないと評価される類型だ、という点です。一次証拠でも二次証拠でも、つながりが問題になる場面なら、同じように使えます。

最高裁には、3つの考え方を、その名前で採用した、と言い切れる判決は、ありません。大津の判決と、同じように令状審査が間に入った最高裁の決定には、希釈、独立入手源、不可避的発見という言葉そのものは、出てきません。大津の判決のうち令状で押さえた覚醒剤の部分と、この決定は、どちらも、違法な先行行為や、それで得た証拠と、関連性を有する証拠としたうえで、令状審査が間に入ったことや、違法の重大性と証拠の重要性などの諸事情を総合して、証拠能力を判断しています。ですから、3つは、学説が整理した、つながりの薄い類型です。判決の中に、その考え方にあてはまる事情が現れることはあっても、類型の名前で採用した、とは言えません。答案では、類型の名前を挙げることより、つながりを薄める事情を、事実で示すことが大事だ、ということです。違法が後の手続に引き継がれるか、という別の問題は、別の回で見ます。もう1つ。アメリカには、警察官が、適法だと合理的に信じて行動した場合の、善意の例外があります。これは、つながりの3類型には入りません。日本では、令状主義を潜脱する意図があったかどうか、つまり違法の重大性の側で見ます。

答案での順序

答案での順序。1 先行行為が違法か、所持品検査・任意同行・逮捕・捜索の違法。2 先行行為の違法は重大か。3 後の証拠と先行行為とのつながりは密接か。4 密接でない事情があるか、希釈・独立入手源・不可避的発見にあたる事情の有無。5 排除相当性。違法だから排除とは書かない 図:答案での順序

  • 1 先行行為が違法か、所持品検査・任意同行・逮捕・捜索の違法
  • 2 先行行為の違法は重大か
  • 3 後の証拠と先行行為とのつながりは密接か
  • 4 密接でない事情があるか、希釈・独立入手源・不可避的発見にあたる事情の有無
  • 5 排除相当性
  • 違法だから排除とは書かない

答案での順序だけ、置きます。ここは、論文で論点になりうる部分です。1つ目、先行行為が違法かを認定します。所持品検査、任意同行、逮捕、捜索などの違法です。次に2つ目、その違法は重大かを検討します。前回の、強制処分に至っていたかと、潜脱の意図が、特に重みを持ちやすい事情でした。3つ目、後の証拠と先行行為とのつながりは密接か。4つ目、つながりが密接でない事情があるか。適法な手続が介在していないか、別の適法ルートはないか、いずれ適法に見つかったはずと言えないか、を見ます。最後に、5つ目、排除相当性です。前回までに見たとおり、その証拠を許すことが、将来の違法捜査を抑えるうえで相当でないか、を見ます。ここでは、つながりの強さも効いてきます。

重大な違法があっても、つながりが密接でなければ排除されません。つながりまで、事実を挙げて、書きます。

短答の落とし穴

短答の落とし穴。ここでの定義では、毒樹とは違法に収集された一次証拠を指す、は誤り。先行手続に重大な違法があれば派生証拠は必ず排除される、は誤り。独立入手源は仮定に基づく、は誤り。不可避的発見は現実に違法に得たことが前提で蓋然性が具体的で高い必要、は正しい。希釈は違法の後に適法な手続が介在、は正しい。最高裁は3類型の採用を明言、は誤り。毒樹の果実を定めた条文が刑訴法にある、は誤り 図:短答の落とし穴

  • ここでの定義では、毒樹とは違法に収集された一次証拠を指す、は誤り
  • 先行手続に重大な違法があれば派生証拠は必ず排除される、は誤り
  • 独立入手源は仮定に基づく、は誤り
  • 不可避的発見は現実に違法に得たことが前提で蓋然性が具体的で高い必要、は正しい
  • 希釈は違法の後に適法な手続が介在、は正しい
  • 最高裁は3類型の採用を明言、は誤り
  • 毒樹の果実を定めた条文が刑訴法にある、は誤り

短答の確認です。毒樹とは、違法に収集された一次証拠を指す。ここでの定義では、×です。違法な捜査行為そのものを指します。先行手続に重大な違法があれば、そこから派生した証拠は必ず排除される。×です。つながりが密接でなければ、証拠能力が認められることがあります。独立入手源は、いずれは適法に入手できたはずだという仮定にもとづく。×です。それは不可避的発見です。独立入手源は、現実に別の適法な手続で入手しています。不可避的発見は、現実に違法な手続で証拠を得たことが前提で、適法に発見できた蓋然性が、具体的で高い必要がある。○です。希釈は、違法のあとに適法な手続が介在して、つながりが薄まった場合の考え方。○です。最高裁は、3つの類型を採用すると明言している。×です。毒樹の果実を定めた条文が、刑訴法に置かれている。×です。明文は、ありません。

今日の地図(保存版)

今日の地図、保存版。違法な先行手続から後の適法な収集へ。判断の軸は第1に先行手続の違法の重大性、第2に違法と証拠とのつながり。つながりが密接でなければ排除されない。3つの区別は、間に入る適法な手続=希釈、現実の別ルート=独立入手源、仮定の別ルート=不可避的発見。最高裁は名指しで採用していない 図:今日の地図、保存版

  • 違法な先行手続から後の適法な収集へ
  • 判断の軸は第1に先行手続の違法の重大性、第2に違法と証拠とのつながり
  • つながりが密接でなければ排除されない
  • 3つの区別は、間に入る適法な手続=希釈、現実の別ルート=独立入手源、仮定の別ルート=不可避的発見
  • 最高裁は名指しで採用していない

まとめます。違法な捜査で得た証拠を手がかりに、さらに見つかった証拠。最初の違法がその先に及ぶかどうかは、2つの軸で見ます。第1に、先行手続の違法が重大かどうか。第2に、その違法と証拠とのつながりが、密接かどうか。違法が重大で、つながりが強ければ、排除の方向です。つながりが密接でなければ、重大な違法があっても、排除されません。つながりが薄いとされる類型が、3つあります。間に適法な手続が入る希釈。現実に、別の適法ルートで得た独立入手源。現実には違法に得たが、いずれ適法に見つかったはず、と仮定する不可避的発見です。最高裁は、この3つを名指しで採用したとは言えません。次は、被告人が同意したら、違法な証拠でも使えるのか、そもそも、誰が排除を求められるのか、という話です。

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