違法収集証拠の同意・申立適格・私人による収集
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第5章 証拠法 ㉑/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入
図:違法に集めた証拠でも、被告人の側が使ってかまいませんと言ったら使えるのか
- 違法な捜査を受けたのが被告人ではなく隣の人だったら
- 集めたのが警察ではなく一般の人だったら
- 3つの問いの答えは、なぜ違法な証拠を外すのか、という1つの問いから決まる
違法に集めた証拠でも、被告人の側が、使ってかまいません、と言ったら、裁判所は使ってよいのでしょうか。違法な捜査を受けたのが、被告人ではなく、隣の人だったら、どうでしょうか。集めたのが、警察ではなく、一般の人だったら。前回までは、違法な捜査をした警察と、その被害を受けた被告人が、同じ事件の中に収まっていました。今日は、その前提を外します。同意した被告人、被害を受けた第三者、集めた私人。登場人物が増えます。ただ、3つの問いの答えは、すべて1つの問いから決まります。なぜ、違法な証拠を外すのか。排除は、誰のためのもので、誰に向けた規律なのか。この見取り図で、今日は通します。持ち帰ってほしいのは3つです。1つ目は、326条の同意と、違法収集を争わないこととは別の話だ、ということ。2つ目は、同意、申立適格、私人の3つの問いが、排除の根拠で結論の分かれる問いだ、ということ。3つ目は、最高裁の判例がどこまであって、どこから無いのかです。
道具を取り出す:排除の3つの根拠
図:排除の3つの根拠
- 適正手続=ルールそのものを守る
- 憲法31条などの保障を実効化する法規範で、法規範説とも呼ばれ、被告人の権利に結びついた排除と見る
- 司法の廉潔性=店の信用
- 違法な証拠を使えば裁判への信頼が傷つく
- 違法捜査の抑止=盗みを続けさせない
- この回の2列は、適正手続(法規範説)の側と、廉潔性・抑止の側
- 排除に至る前提は重大な違法と排除相当性の2要件
道具を取り出す前に、1問だけ、思い出してください。排除の3つの根拠を、盗品の店の比喩で言うと、どうなりますか?1つ目は、ルールそのものを守る。2つ目は、盗品を平気で買う店は信用を失う。3つ目は、盗品が売れないなら、盗む意味がなくなる、でした。ルールそのものを守るのが、適正手続です。憲法31条などの保障を実効化する法規範として排除を見るので、法規範説とも呼ばれます。店の信用が、司法の廉潔性です。盗みを続けさせないのが、違法捜査の抑止、つまり抑止効です。今日は、この3つを、2つの立場に束ねて使います。1つは、適正手続、つまり法規範説の側です。憲法35条は、令状主義、つまり、捜索や押収は裁判官の令状によらなければできない、という原則を定めて、一人ひとりに、令状なしに住居や持ち物を調べられない権利を保障しています。排除は、その権利を実際に効かせるためのものなので、権利を侵された被告人に結びついたもの、と見ます。もう1つは、廉潔性と抑止の側です。排除を、裁判への信頼や将来の違法の防止という、政策の目的のためと見ます。3つの問いを、この2つの立場で解きます。その前に、1つ確認します。判例の排除の要件は2つでした。令状主義の精神を没却するような重大な違法と、排除相当性、つまり、その証拠を使うことが、将来の違法な捜査を抑える見地から相当でないこと、です。違法収集証拠の最初の回で見たとおり、適正手続だけを根拠にすれば、憲法に違反する違法があればそれで外す、違法基準説という考え方もありました。ただ、答案は、判例の2要件で書きます。今日の問いは、その要件を満たすほどの違法があるのに、当事者の事情で排除が止まるのか、という問いです。
第1問・同意:まず「同意」を2つに分ける
図:設例の関係図
- A=警察官が令状も承諾もなく更衣室のロッカーを開けて拳銃を押収
- B=検察官が拳銃と、捜索差押調書・拳銃の性能鑑定書を請求
- C=弁護人が書面2通に同意、拳銃に異議なしと述べる
- D=裁判所が押収の経過から重大な違法の心証
- 問い=裁判所は拳銃と鑑定書を排除できるか
自前の設例です。警察官のRが、被告人Sの経営する店の更衣室で、ロッカーの錠を壊して開けました。令状もなく、Sの承諾もありません。中にあった拳銃を押収しました。銃砲刀剣類所持等取締法違反の公判で、検察官は、拳銃そのものと、押収の経過を書いた捜索差押調書と、拳銃の性能の鑑定書を、請求しました。弁護人は、深く考えずに、2通の書面には、同意します、拳銃には、異議ありません、と述べました。ところが、裁判所は、押収の記録と被告人質問から、令状主義を正面から無視した、重大な違法があるという心証を持ちました。裁判所は、拳銃と鑑定書を排除できるでしょうか。
書面に同意したら、違法な集め方も、もう問えなくなるのか。ここが、今日の落とし穴です。立ち止まって考えてください。弁護人が言った同意は、書面に向けた同意と、違法の主張を手放すことと、どちらの話だと思いますか?書面に向けた同意ですよね。326条の同意、です。ここで、条文を確認します。
図:刑事訴訟法326条1項
- 検察官及び被告人が証拠とすることに同意した書面又は供述は、相当と認めるときに限り、321条から前条までの規定にかかわらず証拠にできる
- 対象は書面と供述だけ
条文刑事訴訟法第326条第1項
刑事訴訟法第326条第1項 検察官及び被告人が証拠とすることに同意した書面又は供述は、その書面が作成され又は供述のされたときの情況を考慮し相当と認めるときに限り、第三百二十一条乃至前条の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
対象は、書面又は供述です。外れるのは、321条から前条までの規定、つまり伝聞の関門です。伝聞の回で見た、書面は原則として証拠にできない、という壁を、同意が外します。一方、違法収集を争わないことは、別の話です。違法に集められた証拠について、異議を申し立てない。これは、排除という保護を、当事者が手放せるか、という問題です。異議の根拠は、309条にあります。
条文刑事訴訟法第309条第1項
刑事訴訟法第309条第1項 検察官、被告人又は弁護人は、証拠調に関し異議を申し立てることができる。
異議を申し立てられるのに、申し立てない。それは、この証拠の違法を争う機会を、自分から使わない、ということです。ですから、異議がないことが、排除という保護を手放したことになるのか、という問いが立ちます。
図:2つの同意の弁別表
- 326条の同意=対象は書面又は供述/外すのは伝聞の関門/言い方は同意・不同意
- 違法収集を争わないこと=証拠物にも及ぶ/問いは排除の保護を手放せるか/言い方は異議がある・異議がない
- 同意が開けるのは伝聞の鍵だけで、違法収集の鍵は別に掛かっている
2つを並べます。326条の同意は、対象が書面又は供述です。外すのは伝聞の関門です。言い方は、同意か不同意です。違法収集を争わないことは、拳銃のような証拠物にも及びます。問いは、排除の保護を手放せるか、です。言い方は、同意の回で見たとおり、異議がある、異議がない、です。2通の書面には、伝聞の関門が外れます。拳銃そのものには、同意という言葉は使えません。弁護人が言った、異議ありません、のほうです。鍵にたとえると、326条の同意が開けるのは、伝聞という鍵だけです。違法収集という鍵は、別に掛かっています。ここで、同意の回で予告した話を回収します。同意の性質について、一般的な理解は、付与説でした。同意は、書面に、証拠として使う資格を与える行為だ、と見ます。名前だけ出した、伝聞性解除説もありました。同意は、伝聞であるという問題だけを外す、と見ます。伝聞性解除説なら、同意で外れるのは伝聞の壁だけなので、違法収集証拠の排除の法則が働く余地が残る、と説明しやすくなります。付与説に立つと、同意の効果が違法収集の問題にまで及ぶ、という理解につながりやすくなります。ただ、付与説に立っても、任意性に疑いのある自白は、同意しても証拠能力がありませんでした。同意で与えられない資格がある、ということです。ですから、同意があったというだけで、違法収集の問題が当然に消えるわけではありません。結論は2つです。326条の同意があっても、消えるのは伝聞の問題だけで、違法収集の問題は残りうる。そして、違法収集の問題が残ったときに、争わないことで止まるのかは、排除の根拠で答えが分かれます。
同意の問いに、根拠ごとに答える
図:同意の結論を根拠別に整理
- 廉潔性・抑止の側=当事者の意向にかかわらず裁判所が排除すべき場合がある
- 適正手続(法規範説)の側は2通りに割れる
- 第1=憲法35条は証拠を排除せよと書いていない、排除は特権で当事者が手放せる、異議がなければ排除できない
- 第2=適正手続の原理を重く見る、令状主義を守るため手放しは認めない、排除すべき
廉潔性と抑止の側から答えます。重大な違法な手続を、裁判所が不問にすれば、裁判への信頼も、違法捜査の抑止も損なわれます。店が、盗品と知って、客の同意があったからといって買い入れたら、信用を失うのと同じです。ですから、当事者の意向にかかわらず、裁判所が排除すべき場合があります。設例の拳銃も鑑定書も、排除できます。権利なら本人が手放せる、と考える人もいます。ただ、法規範説は、この問いで2つに割れます。一方の考え方は、憲法35条は、令状なしの捜索や押収を禁じてはいても、そうして得た証拠を排除せよ、とまでは書いていない、と見ます。排除は、憲法35条が書いているわけではなく、令状主義の保障を守るために、権利を侵された当事者に認められた、特権のようなものです。特権なら、持ち主である当事者が、使わないと決めて手放せます。同意や異議なしで違法を争わなければ、裁判所は排除できません。設例なら、拳銃も鑑定書も、排除できないことになります。もう一方の考え方は、適正手続の原理を重く見ます。令状主義という規範を、本当に守り通すには、当事者が手放せる、とするべきでない。手放せるとすると、異議さえ出なければ、令状なしの捜索で得た証拠が、そのまま裁判に通ってしまうからです。ですから、手放しを認めず、排除すべきだ、とします。設例なら、拳銃も鑑定書も、排除すべきことになります。同じ法規範説でも、結論が逆になります。
ここが見どころです。まとめると、廉潔性と抑止は、放棄にかかわらず排除すべき場合があります。法規範説は、放棄できるなら排除できない、放棄できないなら排除すべき、の2通りです。
判例:古い大法廷判決と、福岡高裁の裁判例
図:判例の位置づけ
- 最大判昭36・6・7=麻薬の事件
- 主たる理由は、この捜索差押えは緊急逮捕の現場でなされたもので違憲違法とする理由がないこと
- のみならず、同意があり異議なく適法な証拠調べを経た調書と鑑定書は、手続の違法にかかわらず証拠能力を有する、と付加的に述べた
- 違法収集証拠排除法則を最高裁が採る前の判断
- 福岡高判平7・8・30=憲法上の権利を侵す重大な違法で当事者が放棄できないものは、異議がなくても証拠能力を認めるのは手続の基本的公正に反する
では、判例です。まず、最高裁の大法廷判決です。麻薬の事件でした。麻薬取締官が、緊急逮捕のために被疑者の家に赴き、本人の帰宅前から捜索を始めて、麻薬を押収しました。第一審で、被告人と弁護人は、捜索差押調書と麻薬の鑑定書を証拠とすることに同意し、異議なく証拠調べが進みました。ところが、高裁は、この捜索差押えは令状によらない違法なものだとして、証拠採用を違法としました。最高裁は、これを破棄して差し戻しました。判旨の構造に注意してください。まず、主たる理由は、この捜索差押えが、緊急逮捕の現場で行われたもので、違憲違法とする理由はない、ということです。そのうえで、のみならず、と付け加えます。調書と鑑定書は、同意があり、異議なく適法な証拠調べを経たのだから、捜索差押手続の違法であったかどうかにかかわらず、証拠能力を有する、と述べました。
同意があれば違法でも使える、と最高裁が一般に述べた、とまでは言えません。理由は3つあります。1つ目は、同意の判示は、付加的な理由だったことです。主たる理由は、手続が適法だった、ということです。2つ目は、向けられた対象が、調書と鑑定書、つまり書面2通だったことです。3つ目は、この判決は、違法収集証拠排除法則を最高裁が判例として採る前の判断だったことです。重大な違法と排除相当性という2要件の枠組みの外にあります。法廷意見は、同意の理由づけも示していません。もう1つ、福岡高裁の裁判例があります。この問題と同じ論点を扱いました。憲法上の権利を侵害する重大な違法で、しかも当事者が放棄できない性質のものがあるときは、当事者が証拠採用に異議を述べなくても、証拠能力を認めるのは、手続の基本的公正に反して許されない、と説きました。ポイントは、放棄できない、という留保が付いているところです。なんでも放棄不可、と言っているわけではありません。結論の方向は、さきほどの法規範説のもう一方、適正手続を重く見て放棄を認めない考え方と重なります。ただ、この裁判例が法規範説に立つと述べているわけではありません。設例のように、錠を壊して令状も承諾もなくロッカーを開けた場面が、その放棄できない侵害に当たるかが問われます。覚える一文です。最高裁は、排除法則の採用前に、同意があれば調書と鑑定書は違法にかかわらず証拠にできる、と述べた。ただし主たる理由は別。高裁には、放棄できない権利侵害を伴う重大な違法なら、異議がなくても許されない、とした裁判例がある。
第2問・申立適格:第三者への違法を、被告人は言えるか
図:申立適格の設例の関係図
- A=警察官が令状なしにWのアパートを捜索し通帳と手書きのメモを押収
- B=被告人U(受け子として起訴・自分の権利は侵害されていない)
- C=第三者W(Uに頼まれて口座を貸した人・捜索を受けた人)
- UはWへの違法を理由に排除を求められるか
第2問です。申立適格とは、誰が排除を求められるか、という問題です。英語で、スタンディングと呼ぶこともあります。違法な捜査を受けたのが、被告人以外の第三者で、被告人自身の権利は侵害されていない場面で問題になります。自前の設例です。振り込め詐欺の受け子として、Uが起訴されました。検察官は、Uに頼まれて口座を貸したWのアパートで、警察官のRが令状なしに押収した、通帳と手書きのメモを請求しました。Uは、Wの部屋への無令状の捜索は重大な違法だとして、異議を述べました。Uには、そもそも排除を求める資格があるでしょうか。
捜索を受けたのはWです。Uは、自分の部屋を荒らされたわけではありません。そこが問題の核心です。まず、廉潔性と抑止の側です。違法に集めた証拠を使えば、誰が被害を受けたかにかかわらず、裁判の信頼は傷つき、違法捜査を許すことになります。ですから、申立適格は、被害を受けた本人に限られず、広く認めます。Uは、Wへの違法を理由に、排除を求められます。次に、法規範説の側です。排除を、令状主義違反による、権利侵害の救済と見るなら、自分の権利を侵されていないUには、適格がありません。Uは求められない、という結論になります。誰のための排除か、という軸が、そのまま結論を分けています。この点を正面から判断した最高裁判例は、一般には挙げられていません。短答では、最高裁は、第三者への違法な捜索で得た証拠について、被告人の申立適格を認めた、という文が、×になります。
第3問・私人による違法収集
図:私人による収集の2場面
- 依頼あり=警察官Rが元従業員Xに事務所の帳簿の持ち出しを持ちかけ、Xが持ち出して提出
- 実質は捜査機関の行為で排除法則が適用されうる
- 依頼なし=元交際相手Yが腹いせに被告人宅からUSBメモリーを持ち出し警察に持ち込む
- 最高裁判例なし
- 法規範説・抑止の側は排除が困難、廉潔性の側は排除の余地
- 私人は刑訴法の名宛人ではない
第3問です。警察ではなく、一般の人、つまり私人が、違法な方法で集めた証拠は、どうなるでしょうか。まず、一般論です。私人は、刑訴法の名宛人、つまり、この法律が守るよう命じている相手ではありません。私人が違法な方法で証拠を集めても、一般には、刑訴法上は違法になりません。なお、住居侵入や窃盗などの責任、民事の責任は、別に問われえます。排除法則は、捜査機関の違法に向けた規律です。私人が集めた証拠は、いつでも排除されないのですか。違います。場面を2つに分けます。1つ目は、捜査機関の命令や依頼で、私人が集めた場合です。設例です。警察官のRが、被害を訴えに来た元従業員のXに、社長の事務所から帳簿を持ち出して見せてほしい、と持ちかけました。Xは、無断で事務所に入って帳簿を持ち出し、警察に提出しました。この場合、Xは、実質的には、捜査機関の手足として動いています。ですから、捜査機関の行為と評価できて、排除法則が適用されえます。ここは、暗記してください。2つ目は、依頼がないのに、私人が集めて、捜査機関がそれを利用する場合です。設例です。元交際相手のYが、腹いせに、被告人の家に無断で入って、USBメモリーを持ち出し、警察に持ち込みました。Rは、依頼も指示もしていません。この場合、最高裁の判例は、ありません。根拠で、結論が分かれると説明されます。法規範説の側は、証拠を使うのは捜査機関で、集めたのは私人だ、と見ます。主体が違いますし、使えなくしても、私人の行為の適正は担保されません。ですから、排除は困難です。抑止の側も、排除しても、私人の将来の違法を抑止できると期待できません。ですから、やはり排除は困難です。
廉潔性の側だけ、方向が違います。違法な行為で得た証拠を、司法の場で使えば、司法への信頼を失います。盗品と知って買う店と同じ、という比喩が、そのまま当てはまります。ですから、排除できる可能性があります。ただし、私人の収集は一切排除されない、とも、依頼によらなければ必ず排除されない、とも言えません。
外国の機関が集めた証拠
図:外国で収集された証拠
- 日本の捜査機関が外国の捜査機関に捜査共助を要請し、日本法に照らせば違法となりうる方法で得た証拠
- 最判平23・10・20=国際捜査共助の回で見た、中国の捜査官が取った供述調書の判決
- 321条1項3号の枠で処理した判断で、排除法則の基準を示したものではなく、申立適格の判例でもない
最後に、外国の機関が集めた証拠です。日本の捜査機関が、外国の捜査機関に、捜査共助を求めて、証拠を集めてもらいます。捜査共助とは、外国にいる人の取調べなどを、日本の側が、その国の捜査機関に頼むことです。その方法が、日本の法律に照らせば違法になりうる場合に、証拠能力が問題になります。廉潔性や法規範説の観点からは、証拠能力を否定する可能性があります。集めたのが外国の機関でも、使うのは日本の裁判所です。日本の法律なら許されない方法で得た証拠を使えば、盗品と知って買う店と同じく、裁判への信頼が傷つきえます。ここで思い出してほしい判決があります。国際捜査共助の回で見た、中国の捜査官が取った供述調書の判決です。日本側の要請があり、黙秘権が実質的に告知され、強制の形跡もない、という事実関係を前提に、供述調書の採用を認めました。
その判決は、違法収集証拠排除法則の基準を示したのですか。示していません。この判決は、321条1項3号という、伝聞例外の枠で処理されています。供述者の署名か押印のある書面について、供述者が国外にいるなどで公判で供述できず、その供述が犯罪事実の証明に欠かせず、しかも供述が特に信用できる情況でされていれば、証拠にできる、という規定です。外国の捜査官は、日本の裁判官でも検察官でもないので、その調書はここに入ります。外国機関の行為に、排除の2要件をどう当てはめるか、という基準を示したものではありません。そして、申立適格の判例でも、ありません。申立適格と結びつけた、という誤りには、気をつけてください。
3つの問い×根拠の比較表
図:3つの問い×根拠の比較表
- 同意=法規範説は2通り(35条に排除の文言なし→放棄可・排除不可/適正手続重視→放棄不可・排除すべき)、廉潔性・抑止は当事者の意向にかかわらず排除すべき場合がある
- 申立適格=法規範説は権利侵害の救済で被告人自身が侵害されていなければ不可、廉潔性・抑止は広く認める
- 私人(依頼によらない)=法規範説は主体が違い困難、抑止は将来の違法を抑止できず困難、廉潔性は排除の可能性
- 外国機関=廉潔性・法規範説は否定の可能性、判例は321条1項3号の枠
1枚の表に通します。同意は、法規範説が2通りに割れます。35条に排除の文言がないから放棄できる、という考え方と、適正手続を重く見て放棄できない、という考え方です。廉潔性と抑止は、当事者の意向にかかわらず、排除すべき場合があります。申立適格は、法規範説が、権利侵害の救済と見るなら、被告人自身が侵害されていなければ認めません。廉潔性と抑止は、広く認めます。私人の、依頼によらない収集は、法規範説と抑止が、困難とします。廉潔性だけが、排除の可能性を残します。外国機関は、廉潔性や法規範説の観点から、証拠能力を否定する可能性があります。判例との距離も確認します。同意は、最高裁は古い大法廷判決だけで、それも排除法則の採用前で、付加的な理由でした。申立適格は、正面から判断した最高裁判例が、一般には挙げられません。依頼によらない私人の収集は、最高裁の判例が、ありません。外国機関は、国際捜査共助の判決がありますが、321条1項3号の枠です。軸は、1本です。同意と申立適格は、誰のための排除か。私人は、誰に向けた規律か。法規範説は、同意の問いで2つに割れる、ここも覚えておいてください。
答案での順序と短答の落とし穴
図:答案での順序
- 1 証拠収集の手続に違法があるか
- 2 重大な違法と排除相当性
- 3 同意・異議なしがあるときは、その放棄が排除を妨げるかを根拠から述べる
- 4 被告人自身の権利侵害でないときは申立適格を述べる
- 5 私人の収集は、捜査機関の依頼・命令の有無から入る
- 短答の落とし穴、○×8問
答案での順序を置きます。ここは、論文で論点になりうる部分です。1つ目、証拠収集の手続に違法があるかを認定します。2つ目、重大な違法と排除相当性を検討します。3つ目、同意や異議なしがあるときは、その放棄が排除を妨げるかを、根拠から述べます。4つ目、被告人自身の権利侵害でないときは、申立適格を述べます。5つ目、私人の収集は、捜査機関の依頼や命令があったかどうかから入ります。答案では、同意の有無だけで結論を書かずに、まず、どの根拠に立つかを示して、その根拠から結論を導きます。同じ同意でも、廉潔性と抑止なら排除できて、法規範説の一方なら排除できません。根拠を書かないと、結論の理由が答案に残らないからです。
図:短答の落とし穴
- 326条の同意があれば違法収集証拠でも当然に排除できなくなる、は×
- 最高裁は同意があれば手続の違法にかかわらず調書・鑑定書の証拠能力を認めた(排除法則の採用前・主たる理由は別・書面2通)、は○
- 福岡高裁は憲法上の権利を侵す重大な違法で当事者が放棄できないものなら異議がなくても許されないと説示、は○
- 最高裁は第三者への違法な捜索で被告人の申立適格を認めた、は×
- 法規範説なら被告人自身が権利侵害を受けていない場合は申立適格が認められない、は○
- 依頼に基づく私人の収集でも排除されない、は×
- 依頼によらない私人の収集を最高裁が判示、は×
- 最判平23・10・20は排除法則の基準を示した、は×
短答の確認です。326条の同意があれば、その書面が違法収集証拠でも、裁判所は当然に排除できなくなる。×です。排除の根拠で分かれます。廉潔性と抑止の側は、排除できます。最高裁は、同意があれば、捜索差押手続の違法の有無にかかわらず、調書と鑑定書の証拠能力を認めた。○です。ただし、排除法則の採用前で、主たる理由は別で、書面2通です。福岡高裁は、憲法上の権利を侵す重大な違法で当事者が放棄できないものなら、異議がなくても証拠能力を認めるのは許されないと説示した。○です。最高裁は、第三者への違法な捜索で得た証拠について、被告人の申立適格を認めた。×です。正面から判断した最高裁判例は、一般には挙げられていません。法規範説なら、被告人自身が権利を侵害されていない場合、申立適格は認められない。○です。私人が違法に集めた証拠は、捜査機関の依頼による場合でも、名宛人でない以上、排除されない。×です。実質的に捜査機関の行為と評価されます。依頼によらない私人の収集について、最高裁は判示している。×です。判例はありません。国際捜査共助の判決は、外国機関が違法に収集した証拠に、排除法則の基準を示した。×です。伝聞例外の321条1項3号で、調書を採用したことを認めた判断で、排除法則の基準は使っていません。
今日の地図(保存版)
図:今日の地図、保存版
- 3つの問いは、誰のための排除か、誰に向けた規律かで決まる
- 同意=2つの同意を区別、根拠別の結論、古い大法廷判決と福岡高裁
- 申立適格=正面から判断した最高裁判例は挙げられていない、広く認めるか権利侵害の救済か
- 私人=依頼ありは適用されうる、依頼なしは判例なしで根拠により割れる
- 外国機関=321条1項3号の枠
まとめます。3つの問いは、すべて、排除は誰のためのものか、誰に向けた規律か、で決まりました。同意では、326条の同意と、違法収集を争わないこととを、分けました。前者は伝聞の関門を外すだけで、後者は排除の保護を手放せるかの問題です。結論は、廉潔性と抑止なら排除すべき場合があり、法規範説は2通りに割れます。申立適格は、正面から判断した最高裁判例が一般に挙げられず、廉潔性と抑止なら広く認め、法規範説なら権利侵害の救済と見て否定します。私人の収集は、依頼があれば適用されえて、依頼がなければ判例がなく、根拠で割れます。外国機関の判決は、321条1項3号の枠で処理されたもので、排除法則の基準ではありません。次は、最初の違法が、その後の適法な手続にまで引き継がれるのか、という話です。
参照条文
- 刑事訴訟法第326条第1項
- 刑事訴訟法第309条第1項