刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#136

違法の承継と違法収集証拠(同一目的・直接利用)

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第5章 証拠法 ㉑/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

導入

尿を出したのは本人の意思。それでも鑑定書が違法収集証拠かどうか争われた。問題は、尿をとる前に警察が何をしていたか。最初の違法が、後の適法な手続にまで引き継がれるのか 図:尿を出したのは本人の意思

  • それでも鑑定書が違法収集証拠かどうか争われた
  • 問題は、尿をとる前に警察が何をしていたか
  • 最初の違法が、後の適法な手続にまで引き継がれるのか

尿を出したのは、本人の意思でした。それなのに、その尿の鑑定書が、違法収集証拠かどうか、争われました。問題は、尿をとる前に、警察が何をしていたか、です。答えを先に言います。前の手続と後の手続が同じ目的に向けられ、前の違法が作った状態をそのまま使っているなら、違法は後の手続に引き継がれます。ただし、それですぐ排除されるわけではなく、最後は、証拠をとった手続の違法が重大かで決まります。中身に入る前に、2本前の毒樹の果実の道具を、短く思い出します。毒樹とは、違法な捜査行為そのものでした。果実とは、その違法な行為がきっかけで手に入った証拠です。判断の軸は2つ、違法の重大性と、違法と証拠のつながり、つまり因果性でした。つながりが薄い類型として、希釈、独立入手源、不可避的発見も見ました。今日は、そのつながりを、判例が別の言葉で測っている場面を見ます。持ち帰ってほしいのは3つです。1つ目は、つながりの物差しとしての、同一目的と直接利用。2つ目は、違法承継論と毒樹の果実論が、何が違うのか。3つ目は、違法が証拠の獲得の後に起きた場合です。

問題の所在:証拠をとる行為は適法、でもその前が違法

問題の所在。証拠をとる行為(採尿)は本人の任意の提出で適法。しかし、そこに至る手続(立入り・同行・留め置き)が違法。先行手続の違法は、適法な後の手続でとった証拠の証拠能力に影響するか。2つの見方=毒樹の果実論(先行行為の違法の重大性+つながりは排除するかどうかの判断の中)/違法承継論(違法が後の手続に引き継がれるかを順に確認し、最後に証拠をとった手続の違法の重大性) 図:問題の所在

  • 証拠をとる行為(採尿)は本人の任意の提出で適法
  • しかし、そこに至る手続(立入り・同行・留め置き)が違法
  • 先行手続の違法は、適法な後の手続でとった証拠の証拠能力に影響するか
  • 2つの見方=毒樹の果実論(先行行為の違法の重大性+つながりは排除するかどうかの判断の中)/違法承継論(違法が後の手続に引き継がれるかを順に確認し、最後に証拠をとった手続の違法の重大性)

状況を整理します。2本前の回の、場面Bです。尿を出す行為そのものは、本人が自分の意思で出したもので、適法です。ところが、そこに至るまでの、家に入る、連れて行く、帰らせない、といった手続が違法でした。先行する手続が違法で、あとの手続は適法。このとき、先行する違法は、あとの手続でとった証拠の証拠能力に、影響するのでしょうか。採尿だけを見れば適法、という見方は自然です。ただ、排除の目的に戻ってください。将来の違法な捜査を抑えるためでした。もし、違法な手続で相手を追い込んで、その状態のまま、形だけ任意で尿を出させれば、違法をしても得をする、という結果になります。それを許すと、抑止になりません。ですから、先行手続と後の手続が、どれだけ強く結びついているかが問われます。この結びつきを、どう測り、どう扱うか。扱い方に、2つの見方があります。1つが、2本前の回で作った、毒樹の果実論です。もう1つが、今日、判例を使って組み立てる、違法承継論です。違いは、あとで表にします。

奈良の生駒の事件:事実を順に追う

奈良の生駒の事件の流れ。A=警察官3名、B=被疑者。覚せい剤の前科、複数の協力者の情報→午前9時30分ころ私服で自宅へ、玄関先で警察の者ですと声をかけ上がってよいかと尋ねる→明確な承諾が認められないまま寝室まで立入り→同行を求める→車で署へ→補導室で事情聴取、使用を認める→午前11時30分ころ採尿→受験の申し出が採尿の前後に少なくとも2回、応じず→鑑定で陽性、逮捕 図:奈良の生駒の事件の流れ

  • A=警察官3名、B=被疑者
  • 覚せい剤の前科、複数の協力者の情報→午前9時30分ころ私服で自宅へ、玄関先で警察の者ですと声をかけ上がってよいかと尋ねる→明確な承諾が認められないまま寝室まで立入り→同行を求める→車で署へ→補導室で事情聴取、使用を認める→午前11時30分ころ採尿→受験の申し出が採尿の前後に少なくとも2回、応じず→鑑定で陽性、逮捕

奈良の生駒の事件です。事実を、順に追います。生駒署の警察官3名が、覚せい剤の前科がある被告人が、また使っているという、複数の協力者の情報を得ました。朝9時30分ころ、私服で被告人の家へ向かいます。ここは間違えやすい点です。警察官は、門を入って、玄関先で、戸を開けずに、警察の者です、と声をかけています。戸を半開きにして、生駒署の者ですが、ちょっと尋ねたいことがあるので、上がってもよろしいか、と尋ねました。少なくとも玄関先では、警察の者だと名乗っています。被告人の明確な承諾があったとは認められないのに、屋内に上がり、奥の八畳間、つまり寝室まで入ったことです。被告人はベッドで目を閉じて横になっていました。警察官は、枕元に立って、名前を呼び、左肩を軽くたたいて起こし、同行を求めます。被告人は、金融屋の取立てだと思ったらしく、わしも大阪に行く用事があるから一緒に行こう、と言って着替えました。警察官の自動車の後部座席に、隣に警察官がつく形で乗ります。車の中で、警察官ではないかと考えましたが、反抗はしませんでした。約10分で署に着きます。署の補導室で事情聴取が始まり、11時ころ、被告人は覚せい剤を使ったことを認めます。11時30分ころ、求めに応じて、採尿して提出し、腕の注射痕も見せました。もう1つ、大事な事実があります。被告人は、署に着いてから、採尿の前と後の、少なくとも2回、受験票を示して、午後1時半までに、大阪市内のセンターで、タクシー乗務員の地理試験を受けることになっている、と申し出ました。最初の申し出に、巡査部長は返事をしませんでした。採尿後の申し出には、尿検の結果が出るまでおったらどうや、と言って、応じませんでした。

午後2時30分ころ、鑑定の結果が、陽性だと電話で回答されます。逮捕状を請求して、5時過ぎに逮捕しました。第一審のあと、原審の高裁は、一連の手続は違法で、尿の鑑定書の証拠能力は否定される、としました。検察官が上告して、最高裁が、原判決を破棄して、差し戻しました。つまり、鑑定書の証拠能力を、否定しなかったのです。

判決の枠組み:同一目的・直接利用から、違法の有無と程度を考える

判決の枠組み。第1段=立入り・任意同行・留め置きの一連の手続と採尿手続は、覚せい剤事犯の捜査という同一目的に向けられ、しかも一連の手続がもたらした状態を直接利用してなされている。第2段=採尿手続の適法違法は、前の手続の違法の有無・程度も十分考慮して判断。第3段=違法でも直ちに排除されない。重大な違法かつ排除相当性(昭和53年判決の規範に戻る) 図:判決の枠組み

  • 第1段=立入り・任意同行・留め置きの一連の手続と採尿手続は、覚せい剤事犯の捜査という同一目的に向けられ、しかも一連の手続がもたらした状態を直接利用してなされている
  • 第2段=採尿手続の適法違法は、前の手続の違法の有無・程度も十分考慮して判断
  • 第3段=違法でも直ちに排除されない
  • 重大な違法かつ排除相当性(昭和53年判決の規範に戻る)

最高裁の判断の骨組みです。3段に分かれます。第1段は、前の手続と採尿が、どう結びついているか。第2段は、そのとき、採尿の違法をどう判断するか。第3段は、違法でも、すぐには排除されないことです。第1段と第2段が、今日の中心の文です。

判例最判昭61・4・25 刑集40巻3号215頁

奈良の生駒の事件——同一目的・直接利用 本件においては、被告人宅への立ち入り、同所からの任意同行及び警察署への留め置きの一連の手続と採尿手続は、被告人に対する覚せい剤事犯の捜査という同一目的に向けられたものであるうえ、採尿手続は右一連の手続によりもたらされた状態を直接利用してなされていることにかんがみると、右採尿手続の適法違法については、採尿手続前の右一連の手続における違法の有無、程度をも十分考慮してこれを判断するのが相当である。

順に読みます。まず、同一目的です。立入り、同行、留め置きと、採尿は、どれも、被告人の覚せい剤事犯の捜査という、同じ目的に向けられていた、ということです。次に、直接利用です。採尿は、一連の手続がつくり出した状態、たとえば、署に連れてこられて、帰りにくい状況を、そのまま使って行われた、ということです。この2つがそろうので、採尿が適法か違法かは、採尿の前の手続の違法の有無と程度も、十分に考えて判断する、という流れになります。なぜ、前の手続まで見るのか。さきほど見たとおり、前の違法が作った状態を使って、形だけ任意で尿を出させても許されるなら、違法をしても得をすることになるからです。

たとえると、リレーのバトンです。前の走者が転んだとします。次の走者が、同じレースで、同じゴールを目指していて、しかも、転んだ走者から渡された状態のまま、バトンを受けて走るなら、転倒の影響を引き継いでいます。同じゴールを目指す、が同一目的。渡された状態をそのまま使う、が直接利用です。そしてもう1つ。ここで言う違法は、任意捜査の限界を超えた違法です。なかでも留め置きは、被疑者の取調べの回で見た、198条1項に関わります。被疑者の出頭と退去について、こう定めています。

刑事訴訟法198条1項。被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。任意の取調べの根拠と、退去の自由 図:刑事訴訟法198条1項

  • 被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる
  • 任意の取調べの根拠と、退去の自由

条文刑事訴訟法第198条第1項

刑事訴訟法第198条第1項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。

逮捕も勾留もされていない被疑者は、出頭後でも、いつでも帰ることができます。任意の取調べは、あくまで任意です。帰りたいという申し出に応じずに、署に留め置けば、この退去の自由を損なう、という評価につながります。もう1点。判決は、違法承継、毒樹の果実、という言葉を、使っていません。判決の言葉は、同一目的、直接利用、そして、違法性を帯びる、です。承継という整理は、あとで見るとおり、学説のものです。最後に、第3段です。採尿手続が違法だと評価されても、直ちに鑑定書が排除されるわけではありません。違法の程度が、令状主義の精神を没却するような重大なもので、鑑定書を証拠にすることが、将来の違法な捜査の抑制の見地から相当でない、と言えるときに、はじめて排除されます。排除の2要件でしたね。重大な違法と、排除相当性です。違法があるたびに外すと、真実を捨てる代償が大きすぎるので、この2つに絞ったのでした。

判決の当てはめ:違法性を帯びる、しかし重大とはいえない

判決の当てはめ。違法性を帯びる事情=寝室まで承諾なく立入り、同行に明確な承諾を得ていない、退去の申し出に応じず署に留め置いた。重大とはいえないとした4事情=①当初から無断で入る意図はなく玄関先で承諾を求める行為に出ていた ②任意同行に有形力は行使されず途中で警察官と気付いても異議なく応じた ③受験の申し出に応答しなかったが、それ以上に留まることを強要する言動はない ④採尿自体は強制なく自由な意思での応諾。結論=違法の程度はいまだ重大とはいえず、鑑定書の証拠能力は否定されない 図:判決の当てはめ

  • 違法性を帯びる事情=寝室まで承諾なく立入り、同行に明確な承諾を得ていない、退去の申し出に応じず署に留め置いた
  • 重大とはいえないとした4事情=①当初から無断で入る意図はなく玄関先で承諾を求める行為に出ていた
  • ②任意同行に有形力は行使されず途中で警察官と気付いても異議なく応じた
  • ③受験の申し出に応答しなかったが、それ以上に留まることを強要する言動はない
  • ④採尿自体は強制なく自由な意思での応諾
  • 結論=違法の程度はいまだ重大とはいえず、鑑定書の証拠能力は否定されない

次に、当てはめです。結論を先に言うと、判決は、採尿手続も違法性を帯びる、と認めました。ただし、その違法は重大ではない、として、鑑定書の証拠能力を認めました。違法を認めたうえで、排除しない。ここが、今日の最初の落とし穴です。

判例最判昭61・4・25 刑集40巻3号215頁

奈良の生駒の事件——違法性を帯びる、しかし重大とはいえない ……これに引き続いて行われた本件採尿手続も違法性を帯びるものと評価せざるを得ない。しかし、……本件採尿手続の帯有する違法の程度は、いまだ重大であるとはいえず、本件尿の鑑定書を被告人の罪証に供することが、違法捜査抑制の見地から相当でないとは認められないから、本件尿の鑑定書の証拠能力は否定されるべきではない。

前半の、違法性を帯びる、の理由です。採尿の前の一連の手続に、任意捜査の域を逸脱した違法な点がありました。寝室まで、承諾なく立ち入ったこと。任意同行に際して、明確な承諾を得ていないこと。被告人の退去の申し出に応じないで、署に留め置いたこと。これに引き続いて行われた採尿も、違法性を帯びる、と評価しました。後半の、重大とはいえない、の理由は、4つの事情です。1つ目。立入りの際、警察官は、当初から無断で入る意図はなく、玄関先で声をかけるなど、承諾を求める行為に出ていました。2つ目。任意同行では、有形力は行使されておらず、途中で警察官だと気づいても、異議を述べずに同行に応じました。3つ目。受験の申し出に応答しなかったことはありますが、それ以上に、署に留まることを強要するような言動はしていません。4つ目。採尿そのものは、何の強制も加えられず、被告人の自由な意思での応諾に基づいていました。ここで、1問です。受験の申し出に返事をしなかった点が、どうして、重大とまでは言われなかったのでしょうか?

それ以上に留まることを強要する言動がなく、採尿も任意だった。この2つが効いています。1つ目と2つ目も、同じ方向に効きます。初めから無断で入るつもりなら、令状の手続をわざと避けたことになりますが、そうではありませんでした。力ずくで連れて行ったのでもありません。どれも、令状主義の精神を没却するほどではない、と見る事情です。ただし、注意があります。判決が挙げたのは、この4つの事情を総合した評価です。有形力がなければ、重大とは認めない、といった一般的な基準を、述べたわけではありません。前に見た、自動車の中を調べた事件、つまり、承諾のないまま車の中を調べて、覚せい剤らしい粉末を見つけ、そこから逮捕と採尿へ進んだ事件でも、採尿は強制なく、自分の意思で応じたので、重大とはいえない、という型が出ました。同じ型です。採尿のための連行の回の、6時間半の留め置きの事件も、違法だが重大ではない、とされました。ただ、あの事件で重さを量ったのは、留め置きそのものです。今日、重さを量っているのは、引き継がれた採尿の違法です。判決は、排除相当性にも、一文触れるだけでした。

1人、反対意見がありました。立入りは憲法35条に違反することが明白で、同行は任意同行とは言えず、留め置きも退去の自由に反する。採尿だけを切り離さず、一連の手続を全体として見れば、令状主義の精神を没却する重大な違法があり、鑑定書は排除すべきだ、という意見です。多数の意見は、立入りから留め置きまでの一連の手続の違法を考慮に入れたうえで、採尿手続が帯びた違法の重大性を測っています。この対比は、次で効いてきます。

違法承継論の2つの特色

違法承継論。判決の枠組みを学説が整理した呼び名。特色(i)=先行の手続と後の手続がどれだけ強くつながっているかを、同一目的と直接利用があるかどうかで確かめる。特色(ii)=先行手続の違法が後の手続に順次引き継がれるかを手続ごとに確かめ(立入り→同行→留め置き→採尿)、最後に証拠を得た手続の違法の重大性を見て排除相当性を判断。違法性の承継と呼ぶこともある 図:違法承継論

  • 判決の枠組みを学説が整理した呼び名
  • 特色(i)=先行の手続と後の手続がどれだけ強くつながっているかを、同一目的と直接利用があるかどうかで確かめる
  • 特色(ii)=先行手続の違法が後の手続に順次引き継がれるかを手続ごとに確かめ(立入り→同行→留め置き→採尿)、最後に証拠を得た手続の違法の重大性を見て排除相当性を判断
  • 違法性の承継と呼ぶこともある

判決の枠組みを、学説が整理して、違法承継論と呼んでいます。違法性の承継と呼ぶこともありますが、同じものです。最高裁が、この名前で判示したわけではありません。判決の言葉は、同一目的と直接利用でした。特色は2つです。1つ目。先行の手続と後の手続が、どれだけ強くつながっているかを、同一目的と直接利用があるかどうかで確かめます。2つ目。先行手続の違法が、後の手続に順に引き継がれるかを、手続ごとに確かめます。立入り、同行、留め置き、採尿、と順に見ていく、という整理です。最後に、証拠を得た手続、つまり採尿に引き継がれた違法が、重大かどうかを見ます。そのうえで、2つ目の要件の、排除相当性を判断します。生駒の事件にあてはめます。立入り、同行、留め置きが違法。同一目的、直接利用があるので、採尿に引き継がれて、違法性を帯びる。そこで、採尿手続の違法の重大性を見ると、重大とはいえない。だから、証拠能力は肯定されます。流れが、一本の線になります。

違法承継論と毒樹の果実論は何が違うか

比較表。違法の重大性を見る対象=毒樹の果実論は先行行為(毒樹=違法な捜査行為そのもの)/違法承継論は後の証拠収集手続(先行の違法が引き継がれた結果としての違法)。つながり(因果性)の置き場=毒樹の果実論は排除するかどうかの判断の中(つながり→排除相当性)/違法承継論は違法が引き継がれるかの前提。手順=毒樹の果実論は先行行為の違法の重大性→つながり→証拠能力/違法承継論は先行の違法→各手続への承継を順に確認→証拠収集手続の違法の重大性→証拠能力 図:比較表

  • 違法の重大性を見る対象=毒樹の果実論は先行行為(毒樹=違法な捜査行為そのもの)/違法承継論は後の証拠収集手続(先行の違法が引き継がれた結果としての違法)
  • つながり(因果性)の置き場=毒樹の果実論は排除するかどうかの判断の中(つながり→排除相当性)/違法承継論は違法が引き継がれるかの前提
  • 手順=毒樹の果実論は先行行為の違法の重大性→つながり→証拠能力/違法承継論は先行の違法→各手続への承継を順に確認→証拠収集手続の違法の重大性→証拠能力

今日の山場です。2つの考え方を、1枚の表で比べます。違いは、手順です。1行目、違法の重大性を、どこで見るか。毒樹の果実論は、先行行為、つまり毒樹そのものの違法の重大性を見ます。違法承継論は、後の証拠収集手続の違法の重大性を見ます。先行の違法が、引き継がれた結果としての違法です。2行目、つながりを、どこで見るか。毒樹の果実論は、先行行為と証拠のつながりを、証拠を排除するかどうかの判断の中で見ます。2本前に見た答案の順序でいえば、先行行為の違法の重大性を見たあとの、つながりは密接か、つながりを薄める事情はあるか、そして排除相当性、という後半の段です。後の手続が違法かどうかには、使いません。違法承継論は、違法が引き継がれるかどうかの前提として、つながりを見ます。この前提のつながりを測る物差しが、同一目的と直接利用です。3行目、手順です。毒樹の果実論は、先行行為の違法の重大性を見て、つながりを見て、証拠能力を決めます。違法承継論は、先行の違法を確認して、各手続への承継を順に確かめ、証拠収集手続の違法の重大性を見て、証拠能力を決めます。1文で言うと、行為の連鎖を見るか、証拠とのつながりを見るか、の違いです。生駒の事件を、毒樹の果実論で考えるとどうなるか。毒樹は、立入り、同行、留め置きです。その違法が重大かを見て、採尿はその留め置きの最中だった、というつながりを、排除するかどうかの判断の中で見ます。さっきの違法承継論の当てはめでは、重大性を見たのは、採尿手続のほうでした。

どちらで考えても、結論が分かれる場面は、考えにくいとされています。どちらも、先行の違法の程度と、証拠とのつながりの強さという、同じ事実を見ていて、違うのは、それを手順のどこに置くかだけ、と整理できるからです。結論が分かれにくいなら、どちらで書くほうが手順が少ないでしょうか?先行行為の違法の重大性と、つながりを見れば足りる、毒樹の果実論です。毒樹の果実論は、手順が少なくて済みます。違法承継論で書くと、立入り、同行、留め置きと、手続ごとに引き継ぎを確かめる段が増えます。結論が変わりにくいなら、その段は答案の得になりません。違法承継論は、判例が使う、同一目的と直接利用という言葉の意味を、知っておく位置づけです。最高裁は、どちらの名前でも判示していません。ここは、論文で論点になりうる部分です。

自前の設例でつながりを動かす

設例の流れ。警察官Q、配送員P(薬物使用の疑い)。夜勤明けのPのアパートでドアが開いていたため勝手に入り台所まで進んでPを起こす→交番での話を求めあいまいに応じる→集荷の時間だと帰ろうとするが取り合わず3時間留め置き→尿を出してもらえるかと求め提出→鑑定で陽性。変形A=翌日、弁護人に相談し自分で病院に行き提出。変形B=違法が証拠をとった後に起きていたら 図:設例の流れ

  • 警察官Q、配送員P(薬物使用の疑い)
  • 夜勤明けのPのアパートでドアが開いていたため勝手に入り台所まで進んでPを起こす→交番での話を求めあいまいに応じる→集荷の時間だと帰ろうとするが取り合わず3時間留め置き→尿を出してもらえるかと求め提出→鑑定で陽性
  • 変形A=翌日、弁護人に相談し自分で病院に行き提出
  • 変形B=違法が証拠をとった後に起きていたら

自前の設例で、つながりの強さを動かします。薬物の使用が疑われる、夜勤明けの配送員Pの、アパートです。警察官のQらは、呼び鈴に応答がないのに、玄関のドアが開いていたからと、勝手に入って、台所まで進み、Pを起こしました。そして、ちょっと近くの交番で話を、と同行を求めます。Pは、あいまいに応じました。交番で、Pは、荷物の集荷に行く時間だ、と何度も言って帰ろうとしましたが、Qらは取り合わず、3時間、留め置きました。その間に、Qが、尿を出してもらえるか、と求めます。Pは、出せばいいんでしょう、と応じて、提出しました。鑑定で、陽性でした。判決の物差しで確かめます。立入り、同行、留め置きと採尿は、覚せい剤使用の捜査という、同一目的に向けられていますか?

どの手続も同じ捜査に向けられているので、同一目的は認められます。次に、留め置きの状態を、直接利用して採尿していますか?帰れない状態のまま、尿を求めているので、直接利用していると思います。ですから、採尿手続は、違法性を帯びます。ここまでは、生駒の事件と同じです。では、重大な違法か。4つの事情を当てはめます。無断で入る意図はあったか。有形力はあったか。留まることを強要していないか。採尿は任意だったか。この設例は、生駒の事件より悪い事情を、わざと混ぜています。帰ろうとするのに取り合わず3時間。ドアが開いていたから勝手に入った。重大性は、事実しだいで動きます。

たとえば、帰ろうとするのを、実際に押しとどめた。ドアを開けさせるために、だました。それらがあれば、強制や意図の事情が増えて、重大のほうに傾きます。反対に、立入りの際に、声をかけて承諾を求める行為があれば、軽いほうに傾きます。短答や論文では、事実を拾って、評価します。結論を1つに決め打ちしないことです。変形Aです。Pは、留め置きの翌日、弁護人に相談して、協力します、と言い、自分で病院に行って、尿を提出しました。違法な状態を、直接利用して、とったとは言えません。同一目的はあっても、結びつきが薄い。違法のあとに、弁護人への相談と、本人の意思での提出がはさまって、つながりが薄まった、2本前の回の、希釈と同じ型です。ですから、留め置きの違法は採尿に引き継がれにくく、尿の鑑定書は使える方向です。これが、バトンでいえば、別の日の別のレースで走る、という場面です。変形Bです。違法が、証拠をとった後に起きていたら、どうなるでしょうか。それを、次の事件で見ます。

和歌山の事件:違法が証拠の獲得の後に起きた型

和歌山の事件の時間軸。捜査員8名が別件の覚せい剤所持の捜索差押許可状で被告人方を捜索→午前11時33分ころ寝室のテレビ台上から覚せい剤様の粉末を発見→被告人がそんなあほなと発言→警察官が襟首をつかみ脇腹を蹴る暴行→予試験で反応、現行犯逮捕・差押え。暴行の位置=発見の後・発見のためでも捜索に利用するためでもない 図:和歌山の事件の時間軸

  • 捜査員8名が別件の覚せい剤所持の捜索差押許可状で被告人方を捜索→午前11時33分ころ寝室のテレビ台上から覚せい剤様の粉末を発見→被告人がそんなあほなと発言→警察官が襟首をつかみ脇腹を蹴る暴行→予試験で反応、現行犯逮捕・差押え
  • 暴行の位置=発見の後・発見のためでも捜索に利用するためでもない

事件に入る前に、1問だけ、思い出してください。毒樹の果実で、違法と証拠の間に見る、もう1つの軸は、何でしたか?違法と証拠のつながり、つまり、因果性です。そのつながりが、きれいに切れている型を見ます。和歌山の事件です。和歌山西署の警察官ら、捜査員8名が、被告人の別の事件、覚せい剤の所持を被疑事実とする、捜索差押許可状で、被告人の家の捜索を始めました。午前11時33分ころ、寝室のテレビ台の上の、ポケットベルのケースと本体の間から、銀紙包みの、覚せい剤らしい粉末を発見します。これを見せられた被告人が、そんなあほな、などと言ったところ、そばにいた警察官が、被告人の襟首をつかんで、後ろに引っ張り、左の脇腹を蹴りました。倒れた被告人を、さらに数名が、脇腹や背中などを蹴りました。その後、その場の簡易な検査、予試験で、覚せい剤の反応が出て、11時36分ころ、現行犯逮捕と差押えが行われました。被告人は、署では所持を否認しましたが、午後3時ころ、警察官の説得に応じて、尿を提出しています。最高裁は、上告を棄却しました。判断は3つに分かれます。暴行は違法か。見つけた覚せい剤を使えるか。そして、署で出した尿を使えるか、です。まず、暴力は許されず、警察官らの行為は違法だ、と認めています。つまり、違法は認めました。

判例最決平8・10・29 刑集50巻9号683頁

和歌山の事件——暴行と覚せい剤の証拠能力 警察官が捜索の過程において関係者に暴力を振るうことは許されないことであって、本件における右警察官らの行為は違法なものというほかはない。しかしながら、……右警察官の違法行為は捜索の現場においてなされているが、その暴行の時点は証拠物発見の後であり、被告人の発言に触発されて行われたものであって、証拠物の発見を目的とし捜索に利用するために行われたものとは認められないから、右証拠物を警察官の違法行為の結果収集された証拠として、証拠能力を否定することはできない。

決め手は2つです。暴行の時点が、発見の後だったこと。そして、被告人の発言に触発されて起きたもので、発見を目的とし、捜索に利用するために行われたものではないこと。ですから、暴行のおかげで、覚せい剤を得たわけではありません。そう整理する説明があります。暴行は、発見のためのものではないので、同一目的が無い。発見はもう済んでいたので、暴行が作った状態を使って見つけたのでもない、つまり直接利用も無い、という整理です。ただし、決定は、同一目的、直接利用という言葉を、使っていません。書いてあるのは、発見を目的とし捜索に利用するために行われたものとは認められない、です。生駒の事件の物差しを当てはめると、そう説明できる、ということです。説明は2通りあります。1つは、暴行と証拠の獲得の間に因果性が無い、という説明。もう1つは、そこまで厳密な因果性を問題にしたのではなく、暴行が、捜索差押えの手続の一部ではなかったから、考えに入れなかった、という説明です。尿の鑑定書も、判断されています。被告人は、公判で、尿を任意に提出した、と供述していました。暴行は、尿の提出の意思決定に、実質的な影響を及ぼさなかったので、任意提出の手続に違法はない、とされました。間違えやすい点を、3つ挙げます。1つ目。暴行は、違法と認められています。違法を認めたうえで、排除しなかったのです。2つ目。暴行が先に起きて、覚せい剤が出たのではありません。発見が先です。3つ目。この決定が判断したのは、発見の後の暴行です。暴行で見つけた場合、つまり暴行が発見の前だった場合の結論は、判断していません。

3つの考え方の関係と、自動車の中を調べた事件との接続

3つの考え方の関係。上位の枠=排除法則(重大な違法と排除相当性の2要件)。先行手続の違法が後の証拠に及ぶ場面の2つの手順=毒樹の果実論(先行行為の違法の重大性+つながり)/違法承継論(承継を順に見て後の手続の違法の重大性)。最後に見るのは、証拠として許容することが相当でないほどの重大な違法があるか。「直接利用」の語を先に用いたのは生駒の事件(同一目的と直接利用の2つを挙げた判決) 図:3つの考え方の関係

  • 上位の枠=排除法則(重大な違法と排除相当性の2要件)
  • 先行手続の違法が後の証拠に及ぶ場面の2つの手順=毒樹の果実論(先行行為の違法の重大性+つながり)/違法承継論(承継を順に見て後の手続の違法の重大性)
  • 最後に見るのは、証拠として許容することが相当でないほどの重大な違法があるか
  • 「直接利用」の語を先に用いたのは生駒の事件(同一目的と直接利用の2つを挙げた判決)

関係を整理します。上位の枠が、排除法則です。2要件、重大な違法と排除相当性です。先行手続の違法が、後の証拠に及ぶ場面を、毒樹の果実論と、違法承継論という、2つの手順で扱います。どちらを通っても、最後に見るのは同じです。証拠として許容することが相当でないほどの、重大な違法があるか、です。前に見た判例との接続です。前に見た、自動車の中を調べた事件、承諾なしの車内の検査から、逮捕と採尿へ進んだ事件で、最初の違法が作った状態を、直接利用して行われた採尿は、違法性を帯びる、という考え方を、すでに一度、使いました。今日の生駒の事件が、その考え方を先に示した判決です。自動車の事件の判示は、直接利用を使っていて、同一目的という言葉は使っていません。生駒の事件が、同一目的と直接利用の2つを挙げています。

短答の落とし穴

短答の落とし穴。昭和61年判決は採尿手続に違法は無いとした×(違法性を帯びると評価したうえで重大とはいえないとした)。採尿が任意なら先行手続の違法は考慮されないとした×。警察官が身分を名乗らず同行したことを違法とした×。決定である×(破棄差戻し=判決)。留め置いて自白を引き出したので重大な違法×。和歌山の決定は暴行を違法でないとした×。暴行の時点が発見の後であることを理由の1つに挙げた○。暴行を受けた被告人の尿の提出も違法収集×。2つの理論は結論も必ず分かれる×。判決が違法の承継という語を用いて判示した× 図:短答の落とし穴

  • 昭和61年判決は採尿手続に違法は無いとした×(違法性を帯びると評価したうえで重大とはいえないとした)
  • 採尿が任意なら先行手続の違法は考慮されないとした×
  • 警察官が身分を名乗らず同行したことを違法とした×
  • 決定である×(破棄差戻し=判決)
  • 留め置いて自白を引き出したので重大な違法×
  • 和歌山の決定は暴行を違法でないとした×
  • 暴行の時点が発見の後であることを理由の1つに挙げた○
  • 暴行を受けた被告人の尿の提出も違法収集×
  • 2つの理論は結論も必ず分かれる×
  • 判決が違法の承継という語を用いて判示した×

短答の確認です。生駒の事件の最高裁は、採尿手続に違法は無いとして、鑑定書の証拠能力を認めた。×です。採尿手続も、違法性を帯びると評価したうえで、重大とはいえないとして、認めました。採尿は被疑者の任意の提出なので、先行する手続の違法は考慮されない、とした。×です。同一目的、直接利用がある場合には、先行する手続の違法の有無と程度も、十分に考慮して判断します。警察官が、身分を名乗らずに、被疑者を同行したことを、違法とした。×です。玄関先で、警察の者です、と声をかけています。問題は、明確な承諾のない立入りと同行、そして、退去の申し出に応じない留め置きです。生駒の事件は決定である。×です。原判決を破棄して差し戻しているので、判決です。留め置いて、自白を引き出したので、重大な違法が認められた。×です。それ以上に、留まることを強要する言動はしていない、とされて、違法は重大とはいえない、とされました。和歌山の決定は、警察官の暴行は違法ではない、とした。×です。違法と認めたうえで、証拠能力を肯定しました。暴行の時点が、発見の後だったことを、証拠能力を否定しない理由の1つに挙げた。○です。暴行が発見の前だった場合の結論は、決定は判断していません。暴行を受けた被告人の、尿の提出も、違法な収集と評価した。×です。暴行は、提出の意思決定に、実質的な影響を及ぼしていません。毒樹の果実論と違法承継論は、手順が違うので、結論も必ず分かれる。×です。分かれる場面は、考えにくいとされます。生駒の事件の判決は、違法の承継、という言葉を用いて判示した。×です。判決の言葉は、同一目的、直接利用、違法性を帯びる、です。承継は、学説の整理です。

今日の地図(保存版)

今日の地図、保存版。つながりの物差し=同一目的・直接利用(生駒の事件)。違法承継論と毒樹の果実論=手順の違い(結論は分かれにくい、最高裁はどちらの名前でも判示していない)。違法が証拠の獲得の後に起きた型=違法と証拠の獲得の間に因果性が無く、証拠能力は否定されない(和歌山の事件)。最後に見るのは常に、重大な違法と排除相当性 図:今日の地図、保存版

  • つながりの物差し=同一目的・直接利用(生駒の事件)
  • 違法承継論と毒樹の果実論=手順の違い(結論は分かれにくい、最高裁はどちらの名前でも判示していない)
  • 違法が証拠の獲得の後に起きた型=違法と証拠の獲得の間に因果性が無く、証拠能力は否定されない(和歌山の事件)
  • 最後に見るのは常に、重大な違法と排除相当性

まとめます。1つ目。つながりの物差しは、同一目的と直接利用です。生駒の事件では、先行手続の違法が、採尿に及んで、違法性を帯びました。ただし、違法は重大とはいえず、鑑定書は排除されませんでした。2つ目。違法承継論と毒樹の果実論は、手順の違いです。結論は、分かれにくく、最高裁は、どちらの名前でも判示していません。3つ目。違法が、証拠の獲得の後に起きた型では、違法と証拠の獲得の間に因果性が無いので、証拠能力は否定されません。和歌山の事件が、その型でした。どの場合も、最後に見るのは、重大な違法と排除相当性です。次は、違法な逮捕で直接得た証拠と、その証拠をもとに令状で得た証拠を、分けて考える話です。

参照条文

  • 刑事訴訟法第198条第1項

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