証拠の関連性
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第5章 証拠法 ⑤/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入

具体的な場面で考えます。夜の路上で、Cが殴られて怪我をしました。犯人がAかどうかが争われています。検察官が、近所の人を証人に呼んで、こう証言させようとします。Aは昔から乱暴者だし、すぐ手が出る人だ、と。ところが、裁判所は、この証言を法廷で取り調べること自体を認めないのが原則です。役に立ちそうなのに、見ることさえ許されない。今日は、その理由を作ります。証拠を事実の認定に使うための、最初の関門、関連性です。今日は関連性そのものを扱います。次の2回で、先ほどの乱暴者だという証言のような、悪性格の証拠を扱います。
証拠能力を決める観点のなかの関連性

証拠能力とは、証拠が法廷で取り調べられるために、法律上必要とされる資格でした。その有無を考える観点には、大きく分けて、関連性と証拠禁止があります。今日の主題は、関連性のほうです。手続の違反など、事実の認定とは別の利益を守るために、その証拠を使わせない、という観点です。違法な捜索で集めた証拠を排除する、違法収集証拠の排除が代表です。これは別の回で扱います。2つの観点は、どちらかを満たせばいいのでしょうか。違います。排斥し合いません。関連性が認められても、証拠禁止で排除されることがあります。逆もあります。どちらか一方でも欠けば、証拠能力は否定される可能性があります。なお、伝聞法則は、この2つとは別の、個別の規定に基づく関門です。これも、別の回で扱います。
関連性とは何か——要証事実を推認できるか

まず、証拠裁判主義の回で見た条文を、もう1度確認します。
条文刑事訴訟法第317条
刑事訴訟法第317条 事実の認定は、証拠による。
事実の認定は、証拠によらなければなりません。では、どんなものが、ここでいう証拠になれるのか。その最初の条件が、関連性です。関連性とは、その証拠が、要証事実を推認させるだけの証明力を持つか、という問題です。ここでいう証明力は、証拠裁判主義の回で見た、法廷に出た後の信用性の程度の評価とは、段階が違います。法廷に入れる前に、要証事実へのつながりが最低限あるかを見る、入口の問いです。要証事実とは、その証拠で証明しようとしている事実のことです。判決のために証明が必要な事実、と言ってもかまいません。傷害の事件なら、Aが殴ったこと、つまり犯人性が、その代表です。犯罪事実そのものだけでなく、そこへつながる間接事実も、要証事実になりえます。
間接証拠は、間接事実を証明し、経験則を介して、犯罪事実を推認するのでした。経験則とは、世の中の経験から導かれる、ものごとのつながりの法則です。論理則は、自由心証の回で見た、筋道の通った推論のルールです。互いに矛盾する2つの事実を、両方とも認めてはいけない、といった決まりです。関連性は、この道が、証拠から要証事実まで、つながっているかを問います。この道で、どれだけ強く要証事実を推せるか、その強さを、推認力と呼びます。道が途切れていれば、その証拠からは、要証事実を推認できません。判断に役立たないので、証拠能力がありません。317条にいう証拠とは言えない、という文脈で検討されます。
自然的関連性——そもそも役に立たない

道が、まったくつながらない場合を、自然的関連性がない、と言います。必要最小限の証明力さえないので、証拠能力を否定します。必要最小限の証明力とは、要証事実の可能性が、少しでも上がること、と考えてください。例を2つ出します。1つ目。傷害事件で、被告人が占いをしたところ、火の相が出た、という結果を、犯人性の証拠として請求します。占いの結果は、被告人が殴ったかどうかの可能性を、少しも上げません。2つ目は、傷の形から、細い棒状の凶器が使われたと分かっているのに、全く形の合わない大きな工具を、被告人の持ち物として請求する場合です。その工具が被告人のものでも、この傷とは結びつきません。もう1つ、単なる噂や個人的な意見も、要証事実を推認させる力がなく、この場面に入ります。
法律的関連性——役に立つのに排除される

ここで、1度立ち止まってください。冒頭の、Aは乱暴者だという証言は、一見すると、Aが犯人だと考える手がかりになりそうです。それでも、裁判所が受け付けないのはなぜか。少し考えてから、続きを聞いてください。乱暴な性格の人は、やりかねない。この推論には、多少の力があります。証明力は、ゼロではありません。ただし、裁判官が、この人ならやる、と過大に評価して、結論を先取りしてしまう危険が大きいのです。一度耳に入った印象は、あとから割り引こうとしても、消しきれないからです。これが、法律的関連性がない場合です。必要最小限度の証明力はあるけれど、その評価を誤らせる、事実を誤って認定させるおそれがあるとき、証拠能力を否定します。
証明力があるのに排除するのは、一見すると矛盾に見えます。しかし、役に立つ分より、判断を誤らせるコストのほうが大きいから、と考えます。料理にたとえます。濃い味付けをすると、素材の味が分からなくなりますよね。少し役に立つ情報が、強い印象で、他の証拠の見え方を塗りつぶしてしまうのです。自然的関連性は、役に立たない。法律的関連性は、役に立つ気がするが、判断を誤らせる。この違いです。
2つの区別の意味

2つの関連性は、全く別のものですか。違います。どちらも、要証事実に対する推認力の強弱を問う点で共通しています。事実誤認をもたらすおそれがある、というのは、推認力が弱い、と評価することもできます。乱暴者の証言で言えば、この人ならやる、という印象の強さほどには、今回殴ったことを推す力はありません。見かけの力と実際の推認力との差が、誤りのもとなのです。そこで、2つを区別せず、関連性に一元化する見解も有力です。推せる力があるか、あるならどれほどか。誤認を招く危険があるか、あるならどれほどか。この2つを比べて、証拠能力を判断します。
答案では、自然的と法律的という2つの言葉で書けば足ります。一元化の見解で書いても、誤りではありません。どちらで書いても、推認力と弊害を比べるという中身は同じで、違うのは呼び名だけです。
関連性の判断の視点——要証事実で結論が変わる

ここで、1問です。証拠の分類の回で、間接事実から犯罪事実を認めるとき、その間をつなぐものは何でしたか?経験則でした。それが、推論構造の話につながります。関連性の有無は、3つの視点で判断します。1つ目は、この証拠から要証事実までを、どんな経験則や論理則でつなぐのか、という推論構造です。2つ目は、そのつなぎ方で、どれくらい強く推せるのか、という推認力の程度です。3つ目は、そのつなぎ方が、裁判官に偏見や誤導を生まないか、です。そして、1つ目と2つ目を、3つ目と衡量します。ここは、論文でも論点になりうるところです。
Cを殴った犯人は、長い髪だったと目撃されています。被告人Aが、事件の翌日に、髪を短く切った、という事実があります。これを、犯人性の要証事実に使うとします。1つ目の推論構造は、外見の特徴を隠そうとした、だから犯人ではないか、という道です。2つ目の推認力は、髪を切る理由はほかにもあるので決定的ではありませんが、ゼロでもない程度です。3つ目の偏見の危険は、乱暴者だという証言と違って、人柄の印象で判断を塗りつぶすものではありません。力が危険を上回るので、関連性があります。同じ事実でも、結論が変わることはあります。同じ髪を切った事実を、たとえば、事件と関係のない事実、被告人が店で口論した事実の証明に使ったらどうか。つながる道がありません。関連性がありません。要証事実が変われば、関連性の答えも変わるのです。
立証趣旨で示す、証拠と要証事実との関係は、まさに関連性のつながりを指しています。条文を、もう1度確認します。
条文刑事訴訟規則第189条第1項
刑事訴訟規則第189条第1項 証拠調の請求は、証拠と証明すべき事実との関係を具体的に明示して、これをしなければならない。
要証事実によって関連性が決まるから、請求する側は、証拠と証明すべき事実との関係を、はっきり示さなければなりません。
関連性と証拠調べの必要性の違い

違いを整理します。実務で言う証拠調べの必要性は、たとえば、重複立証かどうか、最良の証拠かどうかで、証拠を選ぶ話です。同じことを立証する証拠が、すでに十分にあるなら、重ねて調べる必要はありません。たとえば、同じ現場の写真が、すでに10枚取り調べられているのに、同じ角度の11枚目を請求するような場合です。最良の証拠とは、立証に必要な証拠を厳選する、という意味で、より直接的に立証できる証拠のことです。これは、証拠能力の問題ではなく、裁判所が証拠を採用するかどうかの、裁量の問題です。写真そのものに資格が無いのではなく、ほかにどれだけ証拠がそろっているかで、調べる意味が変わるからです。
法律的関連性がない証拠を、必要性なしとして却下することも、あります。法律的関連性は、推認力と弊害を比べる判断でした。必要性も、調べる意味と負担を比べる判断なので、実務では、まとめて必要性なし、として却下することがあるのです。実質は、裁量の問題として扱う、という意味です。さらに、証明する事実そのものが、判決に影響しないときも、採用されません。窃盗の犯人性の立証に、被告人の趣味は釣りだ、という事実を出しても、判決の結論を左右しません。この重要性を、関連性の中に組み込む考え方と、必要性の問題とする考え方があります。関連性に入れれば、資格が無いという話になり、必要性に入れれば、資格はあるが調べない、という裁量の話になります。どちらでも、採用されない結論は同じです。立証趣旨の回で見た、却下の3つのパターンは、そもそも証拠にできない、事件との関わりが薄い、重ねて調べようとする、の3つでした。このうち、事件との関わりが薄い、が今日の関連性、重ねて調べようとする、が必要性にあたります。関連性がなければ証拠能力も無いので、1つ目の、証拠にできない、とも重なります。
法律的関連性の代表例——悪性格証拠の地図

冒頭の乱暴者だという証言は、法律的関連性の代表例、悪性格証拠の1つでした。前にも似たことをした人だから、今回もやっただろう、という型です。過去の行為から、悪い性格を推し、その性格から、今回の行為を推す、という二段の推認になります。途中の、あの人は悪い人だ、という印象が、裁判官の判断に、偏見や予断を生みやすいのです。だから、原則として、証拠能力を否定すべきだと理解されています。泥棒をした前歴のある人だから、今回の盗みも、この人だろう、というのは、その典型です。判断の枠組みや、判例の中身には、今日は踏み込みません。
今日の地図(保存版)

今日のまとめです。関連性とは、証拠が、要証事実を推認させるだけの証明力を持つか、という問題で、証拠能力の最初の関門です。役に立たない場合は自然的関連性がなく、証明力はあっても評価を誤らせるおそれがある場合は法律的関連性がありません。推論構造と、その推認力、そして偏見や誤導の危険を衡量します。要証事実が変われば、結論も変わります。証拠調べの必要性は、それとは別の、裁判所の裁量の問題です。悪性格証拠は、法律的関連性の代表例でした。
参照条文
- 刑事訴訟法第317条
- 刑事訴訟規則第189条第1項