刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#109

非伝聞の見分け方(伝聞法則)

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第5章 証拠法 ⑧/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

導入

売り手Yが被告人Xに店から抜いてきた品だと言って品物を売った設例で同じ言葉を品が盗品である事実の証明に使えば中身の真実性が問題になり伝聞で被告人Xが盗品と知っていた事実の証明に使えば中身が嘘でも本当でも値打ちが残り伝聞でないことを左右に対比した導入板

分かれ目は、言葉ではなく、その言葉で何を証明するか、です。設例を置きます。売り手のYが、被告人のXに「店から抜いてきた品だ」と言って、品物を売りました。証人のWは、それを隣で聞いていました。この言葉を、その品が本当に店から持ち出された盗品だ、という事実の証明に使うなら、Yが本当のことを言ったのかを確かめないと使えません。ところが、Xは盗品だと知っていた、という事実の証明に使うなら、Yの言葉が嘘でも本当でも、Xの耳に届いたことに値打ちがあります。前回の終わりに、要証事実で決まる非伝聞の典型を事例で回す、と予告しました。発言があったこと自体を証明する場合、行為の一部として発した言葉、心理状態の供述、文書の存在、情況証拠。今日は、この予告を、5つの型に整理し直して、事例で1つずつ判定します。発言があったこと自体を証明する場合は型2に、発言があったことから別の事実を推し量る、情況証拠としての使い方は型3と型4に振り分けます。心理状態の供述は、前回は非伝聞の典型に並べましたが、中身の真実性が問題になる点で性質が違うので、5つの型の外として最後に見ます。そのために、判定の道具を1つ渡します。「その言葉の中身が、仮に偽だったとしても、この証拠の値打ちは残るか」。今日の1問は、これです。この一問で、非伝聞の型がほとんど見分けられるようになります。

判定の問い——仮に偽でも値打ちが残るか

判定の問いとして言葉の中身が仮に偽でも証拠の値打ちが残るかを置き残るなら内容の真実性は問題にならず4つの関所の誤りが結論に入らず伝聞法則の出番がなく残らないなら内容の真実性が問題で伝聞の側になるという分岐を前回の手紙の2つの使い方で示した板

「仮に偽でも」という考え方は、前回の手紙のときも使えましたか。使えます。前回の手紙で試します。XがPに宛てた手紙に「先週Yと会って、あの店をやる段取りを決めた」と書いてありました。この記載を、段取りを決めた事実の証明に使うなら、手紙の中身が嘘だったとき、手紙は何も証明しません。値打ちが残らないので、内容の真実性が問題になり、伝聞です。一方、XがPと連絡を取っていた事実の証明に使うなら、手紙の中身が嘘でも、Xが手紙を書いて出したことは変わりません。値打ちが残ります。だから内容の真実性が問題にならず、非伝聞でした。

伝聞法則が心配しているのは、供述の中身を信じて事実を認定するときに入り込む誤りです。話す人が、見て、覚えて、言葉にして、伝える。この4つの関所のどこかで誤りが入るかもしれません。だから、法廷で宣誓させ、反対尋問で確かめます。ところが、中身が偽でも値打ちが残る使い方は、そもそも中身を信じて認定していません。4つの関所の誤りが結論に入り込まないので、反対尋問で確かめる必要がありません。これが、供述の形をしていても伝聞にならない理由です。値打ちが残らない使い方は、原則として伝聞になります。ただし例外的に、誤りの入る危険が類型的に低い供述は、非伝聞とする余地があります。前回の3つの問いで整理します。問い1は、体験事実、つまり自分で見聞きした出来事を含む供述か。問い2は、内容の真実性が問題になるか。問い3は、誤りの入る危険が低い類型か、でした。今日の一問は、問い2を、答えやすい形に言い換えたものです。今の例外が問い3で、今日の最後に見ます。なお、この一問は、見分けるための道具です。条文や学説の用語ではないので、答案には「要証事実との関係で内容の真実性が問題とならない」と書きます。

今日の流れとして言葉が行為の一部になる場合と発言そのものが犯罪事実の場合と発言の存在から話者の状態を推認する場合と発言の存在から聞き手の認識を推認する場合と文書の存在を使う場合の5つの型を判定し書き換えの落とし穴と現在の精神状態の供述を経て判定表にまとめる流れを示した今日の流れの板

今日の順番を示します。非伝聞の5つの型を順に見ます。1つ目は、言葉が行為の一部になっている場合。2つ目は、発言そのものが犯罪事実の場合。3つ目は、発言の存在から話した本人の状態を推認する場合。4つ目は、発言の存在から聞いた人の認識を推認する場合。5つ目は、文書の存在を使う場合です。そのあと、存在の証明と書き換えても伝聞になってしまう落とし穴を見ます。次に、5つの型の外にある、現在の精神状態の供述を見ます。最後に、全部を1枚の判定表にまとめます。

型1 言葉が行為の一部になっている場合

封筒を渡す動作だけでは借金の返済か贈り物か見張りの前金か分からず前金だ今夜店の裏で見張りを頼むという言葉が加わって初めて見張り依頼の前金の授受という行為の意味が決まる設例Aの板

動作と一体になって、その動作の意味を決めている言葉です。設例Aです。窃盗の共謀が争点で、Xが被告人です。目撃者のWが、法廷で証言します。「XがYに封筒を手渡して、『前金だ。今夜、店の裏で見張りを頼む』と言っていました」。検察官の要証事実は、この封筒の授受が、見張りの依頼と前金の趣旨でなされたこと、つまりXとYの間の共謀の一場面です。封筒を渡す動作だけを見ても、借金の返済なのか、誕生日の贈り物なのか、見張りの前金なのか、分かりません。言葉が加わって初めて、動作の意味が決まります。ここで立ち止まります。Xの「前金だ。今夜、店の裏で見張りを頼む」は、Xが過去の出来事を報告している言葉でしょうか?

違います。今この場での依頼と、お金の趣旨を伝えている言葉です。過去に何があったかは語っていません。過去の体験を語っていないので、見る、覚える、という関所をそもそも通っていません。前回の問い1、体験事実を含む供述か、に当たらないので、供述証拠として使っておらず、伝聞ではありません。Wは、Xの言葉を聞いたことを、法廷で宣誓して証言しています。W自身の見る、覚える、言葉にする、伝える、は、法廷で反対尋問によって確かめられます。伝聞法則が問題にするのは、法廷の外でされた供述のほうです。ここでは、Xの言葉が行為の一部なので、その問題が生じません。

境界のペアで見ます。同じXが、翌日Wに「昨夜、Yに前金を渡して、見張りを頼んでおいた」と話したとします。これを、前金を渡して依頼した事実の証明に使うなら、動作が終わったあとで過去を振り返って報告する言葉です。過去の体験の報告なので、内容の真実性が問題になり、伝聞です。決め手は、その言葉が動作と一体になって意味を決めているか、動作が終わった後に振り返って語っているか、です。

型2 発言そのものが犯罪事実の場合

詐欺の設例で説明会でXが毎月1割ずつ必ず増える元本も保証すると述べて被害者Vから出資金を集め証人Wがそれを聞いており要証事実は中身の真偽ではなくXがそのような説明をして人を欺いたことであるという設例Bの板

前回、脅迫の「俺の仲間は刃物を持っている」と、チラシの名誉毀損の場面2を見ました。あの2つが、この型です。言葉を発したこと自体が、犯罪の行為になっています。詐欺で確かめましょう。条文を出します。

条文刑法第246条第1項

刑法第246条第1項 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の拘禁刑に処する。

設例Bです。Xが、説明会で「預けた金は毎月1割ずつ必ず増える。元本も保証する」と説明して、被害者のVから出資金を集め、詐欺罪で起訴されました。証人のWは、説明会でXがそう話すのを聞いていました。要証事実は、Xがそのような説明をして、人を欺いたことです。ここで、判定の問いを当てます。Xの説明の中身が、仮に偽だったとして、この証拠の値打ちは残りますか?残ると思います。詐欺は、欺く行為をしたことが犯罪ですから、そう説明した事実そのものが必要で、中身が本当かどうかで値打ちが変わる話ではありません。Xがそう説明したことが、人を欺く行為にあたります。そう言った事実が証明できればよく、説明の中身が真実かどうかを、Wの証言で証明する使い方ではありません。だから内容の真実性は問題にならず、非伝聞です。

言ったことの証明と言ったことが虚偽だったことの証明は別であり説明会で説明したことはWの証言で虚偽であることは口座の記録など物や記録で立証しVが後から友人に話した運用はしていないらしいという話を虚偽性の証明に使えば伝聞になることを2列で示した板

詐欺は、説明が嘘であることも必要ですよね。嘘だったことは、どうやって証明するのですか。大事な点です。「そう言った」ことの証明と、「言ったことが虚偽だった」ことの証明は、別の証拠で行います。虚偽だったことは、たとえば口座の入出金の記録で、集めた金が運用されていなかったことを示します。記録は、供述ではなく、物や記録として使われます。1つの証拠に、全部を背負わせません。境界のペアです。Vが、説明会のあとで友人のFに「Xは運用なんて、していないらしい」と話したとします。この話を、運用されていなかった事実の証明に使うなら、中身が本当かどうかが問題になります。伝聞です。説明会での言葉は行為として非伝聞、Vの後日の話は虚偽性の証明に使えば伝聞、と分かれます。

要件ごとに、どの証拠で何を証明するかを割り振るのです。その割り振りを決めるのが、要証事実です。

型3 発言の存在から、話した本人の状態を推認する場合

放火事件でXの責任能力が争点になり犯行前日にXが隣人Wへ天井の裏から声がして今夜火をつけろと命じてくると話していたことについて実際に声がしたかは問題でなく話したこと自体からその時点のXの精神状態を推論することを示した設例Cの板

発言の存在から状態を推認するというのは、どんな推論ですか。身近な例から入ります。ある人が泥酔していたことを証明したいとします。証人が「Xは、ろれつが回らず、同じ話を何度も繰り返していた」と証言するとき、その話の中身が本当かどうかは、誰も気にしていません。話し方から、酔っていたと推論しています。言葉の中身ではなく、そういう言葉が出てきたこと自体が、証拠になっています。責任能力で見ます。まず条文です。

条文刑法第39条第1項

刑法第39条第1項 心神喪失者の行為は、罰しない。

設例Cです。放火事件で、Xの責任能力が争点です。弁護人は、Xは心神喪失だったと主張します。犯行の前日に、Xが隣人のWに「天井の裏から声がして、今夜火をつけろと命じてくる」と話していました。Wが、それを法廷で証言します。要証事実は、Xの精神状態の異常、つまり責任能力の欠如につながる事実です。ここで判定の問いです。Xの言葉の中身が、仮に偽だったとして、証拠の値打ちは残りますか?中身が偽であること、つまり実際には声がしていないのにそう話したことが、異常な精神状態を推論させます。中身が偽でも、むしろ偽だからこそ、値打ちがあります。供述の中身を信じて認定していないので、非伝聞です。境界のペアです。同じWの証言を、実際に天井の裏に誰かがいて、命令していた事実の証明に使うなら、話の中身が真実かどうかが問題になり、伝聞です。使い道で分かれます。

いつでも成り立つわけではありません。この推論は、その発言が、本心から出た異常な言動であることが前提です。詐病を疑われるなど、叙述に真摯性が認められない場合は、発言があったことから精神状態を推論できません。真摯性というのは、本心からそう述べたか、ということです。もう1つ、似た使い方を名前だけ挙げます。証人の自己矛盾供述です。公判の証言と食い違う、捜査段階の供述があったこと自体から、その証言の信用性を疑う使い方です。どちらの供述が本当かは問わず、食い違ったこと自体に値打ちがあります。型3と同じく発言の存在を使いますが、推し量る先は、本人の精神状態ではなく、証言の信用性です。前回の補助事実、つまり証拠の証明力にかかわる事実の証明にあたります。詳しくは別の回で扱います。

型4 発言の存在から、聞いた人の認識を推認する場合

冒頭の設例で売り手Yが被告人Xの目の前で店から抜いてきた品だと言い証人Wがそれを聞いていた関係を示し左にケース1として盗品である事実の証明に使えば中身の真実性が問題で伝聞右にケース2としてXが盗品と認識した事実の証明に使えば中身の真実性は問題にならず非伝聞と並べた設例Dの板

設例Dを整えます。Xは盗品等有償譲受けで起訴され、「盗品とは知らなかった」と主張しています。品物が盗品であること自体は、ほかの証拠で立証済みです。証人のWは、売り手のYが、Xの目の前で「店から抜いてきた品だ」と言うのを聞いていました。ケース1。この言葉を、その品が実際に店から持ち出された物だ、つまり盗品性の証明に使う場合です。判定の問いを当てます。Yの言葉の中身が、仮に偽だったとして、値打ちは残りますか?残りません。本当に店から持ち出された物だと証明したいのに、中身が嘘なら何も証明できません。だから、内容の真実性が問題になって、伝聞です。Yが見たのか、覚えていたのか。Yを呼んで確かめないと使えません。ケース2。同じ言葉を、Xが盗品だと知っていた、という事実の証明に使う場合です。同じ問いを当てます。

Yの言葉があったことが証明できれば、中身が真実かどうかにかかわらず、聞いたXの認識を証明できます。盗品かどうかは、ほかの証拠で立証済みですから、ここでは問題になりません。内容の真実性が問題にならないので、非伝聞です。ケース1とケース2の対比が、この型のいちばん分かりやすい形です。ただし、この推論には条件があります。聞いた人が、現にその場で、その発言を聞いていたことです。Xが席を外していたなら、発言があっても、Xの認識には結びつきません。もう1つ、薄く触れます。同じYの言葉を、Y本人が、その品が盗品だと知っていた事実の証明に使う場合です。盗品であること自体は、ほかの証拠で立証済みでした。たとえば、Yが、どの店から、いつ抜いたかまで口にしていて、それが、ほかの証拠で分かった被害の日時や場所と合っていたとします。知らない人が、そこまで言い当てることは、まずありません。このように、Yの言葉が客観的な事実と一致していて、偶然の一致とはいえない場合は、Yは知っていたはずだと推論できます。中身が本当かどうかは、Yの言葉に頼らず、ほかの証拠で決まっています。Yの言葉は、そう言ったこと自体として使うので、Yの見る、覚える、言葉にする、伝える、の正確性は問題にならず、非伝聞です。

この推論で証明するのは、認識だけです。次に見る心理状態の供述は、本人が自分の気持ちを述べた、その中身の真実性を使います。推論の構造が違います。

型5 文書の存在を使う場合

偽造私文書行使の設例でXが偽造した領収書をYの経理担当者に提出し検察官が立証趣旨を領収書が存在し提出された事実として請求しており記載の金額や名義が本当かどうかではなく偽の領収書が作られて使われたこと自体が犯罪事実であることを示した設例Eの板

5つ目は、文書の存在です。文書は、物としての面と、供述を記した面の2つを持ちます。前回の手紙は、Xが手紙を書いて出したという物としての面だけを使う型でした。今日は、犯罪そのものに文書が使われた設例で確かめます。設例Eです。Xが偽造した領収書を、Yの経理担当者に提出した、という偽造私文書行使の事件です。検察官が領収書を請求し、立証趣旨を「その領収書が存在し、提出された事実」とします。偽の領収書が作られて使われたこと自体が、犯罪事実そのものです。記載の内容が真実かどうかは、問題になりません。型2の、発言そのものが犯罪事実、という考え方の書面版です。領収書は、供述としてではなく、物として使われています。非伝聞です。境界のペアです。同じ領収書を、Xが実際にその金額を支払った事実の証明に使うなら、記載の中身が本当かどうかが問題になります。書面の形をした供述ですから、伝聞です。この型に関わる、最高裁の決定が1つあります。駅構内で起きた集団暴力の事件で、ビラ等が証拠に採用されたことが争われました。上告では、この採用が憲法37条2項、つまり証人審問権に反するという主張がされました。その前提となる、刑訴法320条1項の条文を、もう一度出します。

条文刑事訴訟法第320条第1項

刑事訴訟法第320条第1項 第三百二十一条乃至第三百二十八条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。

決定は、この320条1項の違反を否定しています。カードで出します。

判例最高裁判所第二小法廷決定・昭和59年12月21日(刑集38巻12号3071頁)

ビラ等の存在を立証趣旨とし非供述証拠として採用したことと320条1項 記録によれば、第一審が「右ビラ等の存在」を立証趣旨としてこれを非供述証拠として採用したことに刑訴法三二〇条一項違反を容れる余地はないとした原判断は正当であるから、所論違憲の主張は前提を欠き

前々回に見たとおり、憲法37条2項の証人審問権は、被告人が証人に問いただす機会を保障します。320条1項は、法廷の外の供述を、問いただす機会のないまま使うことを禁じているので、その違反があるなら、証人審問権の主張も成り立ちえます。最高裁は、ビラ等の存在を立証趣旨として、非供述証拠として採用した以上、320条1項違反の余地がなく、違憲の主張は前提を欠く、としました。一般に、ビラに何が書いてあっても、ビラがあったこと自体を証明するだけなら、書いた人の見る、覚える、言葉にする、伝える、を確かめる必要はありません。記載の中身が仮に偽でも、ビラがあったという値打ちは残ります。存在を証明する物として使う、型5の例です。

それなら、ビラを使うときは、存在を立証趣旨と書けばいつでも大丈夫なのですか。そこは、射程を限って読みます。この決定は、上告理由の適否を短く判断したもので、ビラの内容の何を要証事実にしたのかまでは述べていません。判断したのは、存在を立証趣旨とし、非供述証拠として採用したこと自体に、320条1項違反の余地はない、という事例判断です。記載の内容の真実性の証明に使うなら別で、伝聞になります。この点は、次の節で、もう少し掘り下げます。

「存在の証明」と書き換えても、実質が真実性なら伝聞

傷害事件で犯人性が争点であり被害者Vが事件直後に友人Fへ送ったXに殴られたというメッセージについて立証趣旨を送信した事実と書き換えても送信自体に争いはなく争点の解決に役立たないため実質的な要証事実はXが殴ったことになり内容の真実性が問題で伝聞になることを示した設例Fの板

ここで、前回を思い出してください。日記の設例では、立証趣旨が「日記をつけていた事実」でした。裁判所が置いた実質的な要証事実は、何でしたか?記載どおりの脅迫があったこと、でした。立証趣旨は日記をつけていた事実でも、それでは争点の解決に役立たなかったからです。その考え方を、今日の5つの型に当てます。設例Fです。傷害事件で、Xが犯人かどうかが争点です。被害者のVが、事件の直後に友人のFへ送ったメッセージがあり、「Xに殴られた」と書かれています。検察官が、これを請求し、立証趣旨を「Vが事件直後にメッセージを送信した事実」としました。まず、前回の物差しを当てます。Vが事件直後にメッセージを送信した事実が証明できたとして、Xが殴ったかどうかという争点は、解決しますか?

しません。送ったことに争いはなくて、それだけでは、誰が殴ったかは分かりません。検察官の本当の狙いは、メッセージの記載どおり、Xに殴られたことの証明です。実質的な要証事実は、Xが殴ったことになります。すると、記載の中身が偽なら値打ちが消えるので、内容の真実性が問題になり、伝聞です。「存在」と書き換えるだけでは、非伝聞になりません。チラシや詐欺の説明は、存在そのものが犯罪行為でした。だから、書き換えなしに、存在の証明で争点の解決に必要な推論が終わります。メッセージは、送信したという存在が争点に関わらないので、存在を証明しても推論が終わりません。終わらない先で使われるのは、記載の真実性です。判定の型にします。「存在の証明で、争点の解決に必要な推論が本当に終わるか」。終わらないなら、実質的な要証事実を置き直して、伝聞かどうかを判断します。もう1つ、確認する点があります。存在から推論する型には、推論を支える条件がありました。型3は、叙述に真摯性があること。型4は、聞いた人が現にその場で聞いていたこと、そして、話した本人の認識を推論するときは、内容が客観的な事実と一致し、偶然の一致とはいえないこと。存在を証明しても、この条件が欠けるなら、推論の橋が架からず、その型は使えません。

5つの型の外——現在の精神状態に関する供述

放火事件でXの動機が争点であり忘年会の帰り道にXがB社の連中は絶対に許さないと漏らしていたと証人Wが証言する設例Gで発言時の恨みという現在の精神状態を述べた供述の意義と過去の感情との違いを示した板

心理状態の供述は、ここまでに見た5つの型とは、性質が違います。まず意義です。現在の精神状態に関する供述とは、供述者が、発言したその時に抱いている感情、認識、意図などについて述べた供述です。現在とは、発言時のことです。設例Gです。放火事件で、Xの動機が争点です。証人のWが証言します。「忘年会の帰り道に、Xが『B社の連中は、絶対に許さない』と漏らしていました」。要証事実は、XがB社に恨みを持っていたことです。ここで立ち止まります。Wの証言する「絶対に許さない」は、仮に偽だったら、動機の証拠として値打ちは残りますか?

残りません。本当は恨んでいないのに言っただけなら、動機の証拠になりません。型3の幻聴と違って、中身が本当であることを使っています。ここが大事です。判定の問いには、残らない、と答えが出ます。だから、これは型2から型5までの、値打ちが残る型ではありません。内容の真実性は問題になります。理由は次のとおりです。この発言は、事件を見て覚えたうえで語るものではなく、発言時の、自分の気持ちを述べたものです。見る、覚える、の関所を通りません。残る誤りは、本心から語ったか、つまり叙述の真摯性だけです。そして、真摯に叙述したと立証できれば、供述証拠に特有の誤りが入り込むおそれは小さい。決め手は、誤りの入る余地が、真摯性という1点にほとんど絞られることです。そこで、通説と実務は、伝聞法則の適用外として非伝聞とします。前回の問い3にあたります。

⭐ 論文で書く規範:現在の精神状態に関する供述の扱い 内容の真実性は問題となるが 知覚・記憶の過程を経ず叙述の真摯性が立証できれば誤りが介在するおそれは小さい | よって伝聞法則の適用外として非伝聞とする余地がある (規範(通説で立てる)——判例が一般論として示した文言ではない・有力説は伝聞証拠とする)

出どころを区別しておきます。今の規範は、通説と実務の理解です。判例が一般論としてこの文言を述べたわけではありません。有力説があります。現在の精神状態に関する供述も、内容の真実性は問題になります。そして、叙述の真摯性は、型3の場合以上に問題になりやすい。だから、伝聞証拠として評価すべきだ、という考えです。たとえば、気持ちの表明は、本心かどうかが外からは確かめにくいので、真摯性が問われやすい、と考えると分かりやすいでしょう。境界のペアで見ます。「去年、解雇されたときは悔しかった」。これは、過去の感情を語る供述です。過去の出来事を、見て、覚えて、言葉にしているので、知覚と記憶を経ます。争いなく伝聞です。「今、悔しい」と発言時の気持ちを述べるなら、現在の精神状態で、通説は非伝聞です。決め手は、知覚と記憶の関所を通るか通らないか、です。

型3は、中身が偽でも、そう言ったこと自体が証拠でした。設例Gは、中身の、気持ちの表明が、本当であることを使います。だから型3は判定の問いで非伝聞になり、設例Gは、問い3で判断します。なお、過去の体験と現在の気持ちが混ざる供述は、扱いが変わります。

5つの型の判定表と手順

判定表(型1言葉が行為の一部/型2発言が犯罪事実/型3話者の状態の推認/型4聞き手の認識の推認/型5文書の存在/5つの型の外の現在の精神状態+各型の設例と中身が仮に偽でも値打ちが残るかと判断する問い) 図:判定表

  • 型1言葉が行為の一部
  • 型2発言が犯罪事実
  • 型3話者の状態の推認
  • 型4聞き手の認識の推認
  • 型5文書の存在
  • 5つの型の外の現在の精神状態+各型の設例と中身が仮に偽でも値打ちが残るかと判断する問い

1枚の表にします。型1、言葉が行為の一部は、設例Aの前金の依頼。型1だけは、判定の問いの手前で決まります。そもそも過去の体験の報告ではないので、問い1で供述証拠から外れます。型2、発言が犯罪事実そのものは、設例Bの詐欺の説明。型3、話者の状態の推認は、設例Cの幻聴。型4、聞き手の認識の推認は、設例Dの盗品。型5、文書の存在は、設例Eの領収書。型2から型5は、どれも、中身が仮に偽でも値打ちが残ります。5つの型の外の、現在の精神状態は、設例Gの、B社への恨みです。中身が偽なら値打ちが残らない、つまり内容の真実性は問題になりますが、誤りの入る危険が類型的に低いとして、問い3で判断します。

非伝聞の判定手順として要証事実を決める次に証拠が要証事実を推認させる道筋を書く道筋が中身どおりの事実があったを通らなければ型1から型5のどれかに名前を付けて非伝聞通るなら誤りの入る危険が類型的に低いかを見て低ければ非伝聞低くなければ伝聞で例外の検討へ進む4段階の分岐板

手順は、4段階です。前回の5段階のうち、立証趣旨の確認から要証事実の置き直しまでを、今日は1つ目にまとめます。そして、3つ目と4つ目で、前回の問い2と問い3を順に当てます。1つ目。要証事実を決めます。立証趣旨を土台にして、争点の解決に役立たなければ、実質的な要証事実に置き直します。2つ目。その証拠が、要証事実を推認させる道筋を書きます。3つ目。その道筋が、発言や記載の中身どおりの事実があった、を通るかを見ます。通らないなら、値打ちが残る使い方です。型1から型5のどれかに名前を付けて、非伝聞と書きます。通るなら、4つ目に進みます。4つ目。誤りの入る危険が、類型的に低いかを検討します。現在の精神状態なら、通説は非伝聞です。低くなければ伝聞証拠で、例外の要件の検討に進みます。ここは論文で論点になりうる場面です。設例Fで、4段階を通してみます。1つ目、立証趣旨は送信した事実ですが、それでは犯人が誰かという争点が解決しないので、Xが殴ったことに置き直します。2つ目、道筋は、メッセージに書かれたとおりXが殴った、だからXが犯人、です。3つ目、この道筋は中身どおりの事実を通ります。型1から型5のどれにも入りません。4つ目、Vが見て覚えた体験を語る言葉なので、誤りの入る危険が類型的に低いとはいえず、伝聞証拠です。比べて、設例Dのケース2です。道筋は、Yがそう言った、それをXが聞いた、だからXは盗品だと知っていた、です。中身どおりの事実を通らないので、型4と名前を付けて、非伝聞です。

⭐ 論文で書く規範:非伝聞の判定(要証事実との関係) 要証事実との関係で 供述の存在自体から要証事実を推認でき供述内容の真実性が問題とならない場合は 供述証拠として用いられていないので非伝聞であり320条1項は適用されない | 内容の真実性が問題となる場合でも 知覚・記憶・表現・叙述の過程に誤りが介在するおそれが小さい類型は 非伝聞とする余地がある (規範(通説で立てる)——判例の規範ではない。最高裁の決定は事例判断)

出どころは、通説です。前半の、存在から推認できて真実性が問題にならないなら非伝聞、という整理は、供述証拠かどうかの一般的な理解です。後半の、誤りが介在するおそれが小さい類型は非伝聞とする余地がある、は、通説的な理解で、有力説は伝聞と考えます。判例の規範ではないので、答案では通説と有力説を分けて書きます。

今日の地図(保存版)

非伝聞の判定の問いとして言葉の中身が仮に偽でも値打ちが残るかを置き5つの型の名前と存在の証明の書き換えの落とし穴と現在の精神状態の供述の通説と有力説を1枚に整理した保存版のまとめ板

まとめます。1つ目。非伝聞になる5つの型、つまり、行為の一部として発した言葉、発言そのものが犯罪事実、存在から話した本人の状態を推認、存在から聞いた人の認識を推認、文書の存在は、「言葉の中身が仮に偽でも、証拠の値打ちが残るか」で見分けます。残るなら、内容の真実性が問題にならず、伝聞法則の出番がありません。型1だけは、その手前、過去の体験の報告ではない、という点で外れます。2つ目。存在の証明と書いても、実質が内容の真実性の証明なら伝聞です。判断するのは立証趣旨の書き方ではなく、存在の証明で争点の解決に必要な推論が終わるかです。推論を支える条件、叙述の真摯性、聞いた人がその場で聞いていたこと、偶然の一致とはいえないことも、確認します。3つ目。現在の精神状態に関する供述は、内容の真実性が問題になります。ただ、知覚と記憶を経ず、残る誤りは叙述の真摯性だけなので、通説は非伝聞とします。有力説は、真摯性が型3より問題になりやすいとして、伝聞と考えます。過去の感情は、知覚と記憶を経るので、争いなく伝聞です。

あわせて、とっさに出た一言も見ます。今日の一問を、そのまま持って行きましょう。

参照条文

  • 刑法第246条第1項
  • 刑法第39条第1項
  • 刑事訴訟法第320条第1項

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