犯罪被害者の保護①証人の負担軽減(付添い・遮へい・ビデオリンク)
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第6章 公判の応用 ④/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入
図:法廷の見取り図
- 裁判所C・検察官A・弁護人B・証人席の被害者Y・被告人席のX・傍聴席
- Yにかかる負担は3つ(一人で立つ不安と緊張/Xの視線と傍聴席の視線/法廷に入ること自体)
証人席と被告人席の間に、ついたてが置かれました。被告人からは、証人の姿が見えません。憲法は、被告人に、証人を審問する権利を保障しています。この証言は、許されるのでしょうか。被告人の権利を守ることと、被害者の負担を軽くすること。この2つの板挟みが、今日の問いです。答えは、最高裁の判断のところで出します。それまでに、条文の言葉で、何がどこまで許されるのかを順に確かめます。今日は、これまでの回で預かってきた話に、まとめて答えます。証人を守る措置と憲法37条2項の関係、そして、付添い、遮へい、ビデオリンクの詳細です。設例を置きます。会社員のYさんは、元交際相手のXに付きまとわれたあげく、けがをさせられました。Xは傷害罪で起訴され、Yさんは公判で証人として呼ばれます。法廷では、Yさんの少し先にXが座り、後ろの傍聴席には、知っている顔が混じっているかもしれません。
負担は、次の3つに分けられます。1つ目は、一人で証言台に立つ不安と緊張です。2つ目は、Xの視線と、傍聴席の視線です。3つ目は、法廷に入ること、その建物に行くことそのものです。この3つは、今日の3つの措置に、1つずつ対応します。不安と緊張には付添い、視線には遮へい、法廷に入ること自体にはビデオリンクです。どう対応するのかは、条文を読みながら確かめます。今日の道筋です。まず、被害者は刑事訴訟でどういう立場なのか。次に、配慮が広がってきた流れと、その限界。そのうえで3つの措置を条文で読み、最後に、最高裁が冒頭のような証言をどう判断したかを見ます。
被害者は「当事者」ではない
図:当事者と被害者の位置
- 当事者=検察官と被告人・弁護人(主張と立証をする)
- 被害者=当事者ではない(証人として尋問を受ける立場)
- 被害者等=被害者/被害者が死亡した場合・心身に重大な故障がある場合の配偶者・直系の親族・兄弟姉妹
出発点は、被害者の立場です。刑事訴訟は、当事者主義で進みます。主張し、立証する主体は、検察官と、被告人・弁護人です。被害者は、当事者ではありません。刑事訴訟が目指すのは、事案の真相を明らかにして、刑罰法令を適正かつ迅速に適用することです。被害者の救済は、刑事訴訟の直接の目的ではありません。裁判を試合に例えます。グラウンドに立つのは、検察官側と被告人側の2チームです。被害者は、事件を最もよく知る人として、ベンチから呼び出されて質問に答える立場、つまり証人です。かつては、この立場が文字どおりでした。被害者は、いわば証拠の1つのように扱われ、公開の法廷で、被告人のすぐ前に立って、被害を語るほかありませんでした。先ほどのYさんの3つの負担は、この構造から生まれています。
そこで出てくるのが、被害者等という言葉です。条文の括弧書きで、定義を見ます。
条文刑事訴訟法第201条の2第1項
刑事訴訟法第201条の2第1項(抜粋) …被害者等(被害者又は被害者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹をいう。以下同じ。)…
被害者等は、被害者本人と、被害者が亡くなった場合や、心身に重大な故障がある場合の、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹です。たとえば、被害者が亡くなった事件で、その親や配偶者が、これに当たります。この定義は、201条の2の括弧書きに置かれていて、被害者に関する他の条文も、同じ言葉を使います。今日の中心の、付添い、遮へい、ビデオリンクは、被害者等ではなく、証人への措置です。被害者でない証人にも使えます。この点は、あとで設例で確かめます。整理します。被害者は当事者ではなく、証人として法廷に立つ。そのとき、公開の法廷で、被告人の前で被害を語る。この構造そのものが負担になる。配慮は、ここから始まります。
配慮が広がった流れ
図:配慮の年表
被害者への配慮は、一度に整ったわけではありません。足りないところが見つかるたびに、1つずつ埋められてきました。年表は板に出しました。語るのは、3つの転換点が、それぞれ何を埋めたのかです。出発点は、先ほどの構造です。被害者は、被告人のすぐ前で、被害を語るほかありませんでした。最初に埋められたのは、この、証言する場面の負担です。これが1つ目の転換点、平成12年の、いわゆる犯罪被害者保護二法です。刑訴法などの改正と、犯罪被害者保護法の新設です。このとき、刑訴法に、証人の付添い、遮へい、ビデオリンクが入りました。今日の主役です。被害者が心情などを述べる意見陳述の制度も、このときです。ただ、これは、法廷の中の場面ごとの手当てでした。国が被害者をどう支えるのか、という全体の方針を定めた法律は、まだありません。それを埋めたのが、2つ目の転換点、平成16年の犯罪被害者等基本法です。被害者のための施策の基本を定め、政府が基本計画をつくることを求める法律です。しかし、基本法は、方針を定める法律です。それだけでは、被害者が刑事の手続の中でできることは、増えません。この方針と、それを受けた基本計画を踏まえて、手続の中の具体的な制度にしたのが、3つ目の転換点、平成19年の改正です。被害者が手続に参加する制度、損害賠償を刑事の手続の中で命じる制度、被害者の氏名などを法廷で明らかにしない仕組みが加わりました。証人として守られるだけだった被害者が、自分から手続に関わり、損害を取り戻す道を持ったわけです。
3つの転換点をまとめると、こうなります。忘れられた存在から、守られる証人へ。そして、手続に関わる人へ。証言の負担、全体の方針、手続への関わり。足りないものが、この順に埋まってきました。その後も、平成28年の改正で、同じ建物まで来ること自体が負担や危険になる証人のために、構外ビデオリンクが新設され、氏名などの秘匿の対象も広がりました。構外ビデオリンクについては、あとで条文を読みます。ただし、配慮が広がっても、被害者の望みがすべて通るわけではありません。なぜ通らないのか。次の節で見ます。
配慮の限界

- 配慮の限界=3つの物差し
- 1 犯罪の有無を適正かつ迅速に明らかにすること
- 2 被告人の権利=公平な裁判所の迅速な公開裁判(憲法37条1項)・対審の公開(憲法82条1項)・証人に対する審問権(憲法37条2項前段)
- 3 処分の公平(被害者の意向で処分が極端に変わらないこと)
ここが、この回の山場の1つ目です。被害者の望みを、すべて通せない理由を、3つの物差しで整理します。つらい思いをさせないことは、大事です。ただ、刑事裁判には、動かせない前提があります。物差しの1つ目は、犯罪があったのかを、誤りなく、遅れずに確かめることです。たとえば、被害者が、被告人の顔も見たくないから被告人を法廷から外してほしい、と望んだとします。被告人のいない場所で、犯罪の有無を適正に明らかにすることはできません。2つ目は、被告人の権利です。憲法37条1項は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を保障します。82条1項は、裁判の対審、つまり当事者が法廷で向き合って主張し、立証する審理の場面を、公開法廷で行うと定めます。そして37条2項前段は、被告人がすべての証人に対して審問する機会を、充分に与えられる、と定めます。審問する機会とは、証人に尋問して、その供述の信用性を確かめる機会のことです。3つ目は、処分の公平です。同じような行為をしても、被害者が許したかどうかで、処分が極端に変わるとしたら、不公平です。被害者の意向を考慮することと、意向で決めることは、別です。
あとで措置ごとの要件の差を読む物差しは、主に2つ目の、被告人の権利です。被告人の権利に触れない措置は、要件が軽い。審問権に触れる措置は、要件が重くなる。今日は、毎回、この2つ目の物差しに戻ります。3つ目の処分の公平は、被害者の意向で結論が大きく変わらないようにする、手続全体の限界です。証言の場面の措置を読む物差しではありません。Yさんが、Xの顔が見えない場所でしか証言できない、と望んだとします。望みは、尊重されます。しかし、Xにも、証人の態度を見て尋問する権利があります。どこまで応えられるのか。この両方を満たす線を、条文が引いています。
配慮の4本柱
図:配慮の4本柱の地図
- 手続の流れ(捜査→公訴の提起→公判→判決→上訴)に沿って、保護/情報提供/関与・参加/損害回復
- 今日は「保護」のうち、公判での証人尋問の場面
被害者への配慮は、4本の柱で整理できます。保護、情報提供、関与・参加、損害回復です。なぜ4本なのか。被害者が刑事の手続で困ることが、4つあるからです。Yさんで考えます。1つ目。証言台でXの前に立つのが怖い。仕返しも心配です。傷つけられたり、危害を加えられたりしないようにするのが、保護です。2つ目。Xの事件がいまどうなっているのかが、分からない。手続がどう進んでいるかを被害者に知らせるのが、情報提供です。3つ目。どれだけ怖かったかを、自分の口で裁判所に伝えたい。被害者が意見を述べたり、手続に参加したりするのが、関与・参加です。4つ目。治療費を払ってほしい。被害の賠償を受けやすくするのが、損害回復です。困ることが4つあるので、柱も4本です。
捜査から上訴までの全体にまたがります。告訴は、捜査のところで先に見ました。検察審査会への申立てなどは、公訴のところで見ました。今日は、4本の柱のうち、保護の中の、公判で証人として尋問を受ける場面だけです。保護には、もう1つ、氏名や住所を知られないようにする仕組みがありますが、それは別の回で扱います。
すでに知っている保護の受け直し
図:保護の位置関係
- 被告人の側を動かす手段=権利保釈の除外事由(89条5号)・被告人の退席と退廷(281条の2・304条の2)
- 証人の環境を整える手段=付添い・遮へい・ビデオリンク(並べて使える)
- これらを講じてもなお十分に供述できないとき最後に退廷
復習を1問です。保釈の回で、権利保釈を見ました。請求があれば、原則として許さなければならない保釈のことです。その除外事由は6つありました。そのうち、被害者や証人を守るための事由は、どれでしたか?89条5号です。被害者や証人などに、害を加えたり、畏怖させたりするおそれがある場合、でした。証人を守る仕組みの中には、すでに知っているものが2つあります。権利保釈の除外事由と、被告人の退廷です。ここに、今回初めて出てくる退席を、1つ足します。1つ目は、権利保釈の除外事由です。89条5号は、被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者、またはその親族に、害を加えたり、畏怖させたりする行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき、保釈を許さなくてよい、と定めます。2つ目は、被告人の退廷です。304条の2は、証人が被告人の面前では圧迫を受けて、充分な供述をすることができないと認めるとき、弁護人が出頭している場合に限って、供述の間だけ被告人を退廷させることができる、と定めます。この、弁護人が出頭している場合に限る、という条件を、ここで改めて押さえてください。
条文刑事訴訟法第281条の2
刑事訴訟法第281条の2 裁判所は、公判期日外における証人尋問に被告人が立ち会つた場合において、証人が被告人の面前(第百五十七条の五第一項に規定する措置を採る場合並びに第百五十七条の六第一項及び第二項に規定する方法による場合を含む。)においては圧迫を受け充分な供述をすることができないと認めるときは、弁護人が立ち会つている場合に限り、検察官及び弁護人の意見を聴き、その証人の供述中被告人を退席させることができる。この場合には、供述終了後被告人に証言の要旨を告知し、その証人を尋問する機会を与えなければならない。
初めて出てくる規定が、退席です。281条の2は、公判期日の外で証人を尋問するときに、被告人が立ち会った場合を定めます。証人が被告人の面前では圧迫を受けて、充分な供述をすることができないと認めるとき、弁護人が立ち会っている場合に限って、供述の間、被告人に席を外させることができます。こちらは退席と呼びます。どれも、被告人の側を動かす仕組みですね。それでは足りなかったのですか。足りませんでした。これらに共通するのは、動かされるのが被告人の側だという点です。身柄か、法廷にいることか。ところが、証人が証言するその場面で、証人自身の環境を整える手段が、欠けていました。そこで生まれたのが、今日の3つの措置です。位置関係を、板で確かめます。304条の2には、括弧書きがあります。遮へい措置を採る場合と、ビデオリンクによる場合も、被告人の面前に含めて、退廷の要件を判断する、という書き方です。つまり、遮へいやビデオリンクを講じても、なお十分に供述できないときの、最後の手段が退廷です。一方、付添い、遮へい、ビデオリンクは、並べて使えます。こちらの根拠は、これとは別の、遮へいの条文にある括弧書きです。あとで読みます。具体例です。Yさんについたてを置き、さらにビデオリンクにしても、Xの存在が気になって話せないとします。ここで初めて、Xを退廷させる、という手段が候補に上がります。
付添い
図:付添い
- 157条の4
- 誰に=年齢・心身の状態その他の事情を考慮し、証人が著しく不安又は緊張を覚えるおそれがあると認めるとき。誰を=不安・緊張を緩和するのに適当で、尋問や供述を妨げず、供述の内容に不当な影響を与えるおそれがない者。2項=付添人は尋問や供述を妨げ、供述の内容に不当な影響を与える言動をしてはならない。意見を聴く=検察官及び被告人又は弁護人
1つ目の措置、付添いです。Yさんの、一人で立つ不安と緊張に対応します。条文を、全文で見ます。
条文刑事訴訟法第157条の4
刑事訴訟法第157条の4 1 裁判所は、証人を尋問する場合において、証人の年齢、心身の状態その他の事情を考慮し、証人が著しく不安又は緊張を覚えるおそれがあると認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、その不安又は緊張を緩和するのに適当であり、かつ、裁判官若しくは訴訟関係人の尋問若しくは証人の供述を妨げ、又はその供述の内容に不当な影響を与えるおそれがないと認める者を、その証人の供述中、証人に付き添わせることができる。 2 前項の規定により証人に付き添うこととされた者は、その証人の供述中、裁判官若しくは訴訟関係人の尋問若しくは証人の供述を妨げ、又はその供述の内容に不当な影響を与えるような言動をしてはならない。
部品に分けます。誰に付き添わせるのか。証人が、著しく不安又は緊張を覚えるおそれがあると認められるときです。年齢や心身の状態などを考慮します。手続として、検察官と、被告人又は弁護人の意見を聴きます。注目してほしいのは、要件の軽さです。このあと読む遮へいやビデオリンクの条文には、相当と認めるとき、という要件があります。付添いの条文には、それがありません。なぜ、付添いだけ要件が軽いのですか。付添いは、証人の姿も声も、被告人と傍聴人に、そのまま届くからです。被告人の審問権にも、公開原則にも、触れません。物差しの2つ目に、ぶつからない措置だから、要件が軽いのです。
付き添う人は、誰でもいいのですか。よくありません。条文は、2つの条件を重ねています。1つは、不安や緊張を緩和するのに適当であること。もう1つは、尋問や供述を妨げたり、供述の内容に不当な影響を与えたりするおそれがないこと。裁判所が、この両方を認めた人だけが、付き添えます。設例です。9歳のZさんが、事件の目撃者として証言します。付添人の候補は2人です。1人は、事件に関係のないZさんの母。もう1人は、子どもの心理に詳しい支援員です。2人とも、付き添える可能性があります。ただし、母が事件の関係者で、Zさんの供述に影響を与えうる立場だとします。たとえば、被告人の配偶者でもある場合です。この場合、母は、供述の内容に不当な影響を与えるおそれがあるので、適当ではありません。2項も見ます。付添人は、見守る人であって、代わりに答える人ではありません。付添人が、Zさんの言い淀んだ様子を見て、こう言えばいいのよ、と口を挟んだとします。これは、供述の内容に不当な影響を与える言動で、2項に反します。
短答では、付添人は証人に代わって答えることができる、と出れば、×です。
遮へい
図:遮へいの3つのパターン
- 1 証人から被告人が見えない
- 2 被告人から証人が見えない
- 3 相互に見えない(ついたて)
- 弁護人が出頭している場合に限る=2と3(被告人から証人の状態を認識できなくする措置)
- 1は要件の外
2つ目の措置、遮へいです。ここで1問です。ついたてを置いて、被告人から証人が見えなくなるようにする。弁護人が欠席の日でも、できるでしょうか。弁護人の出頭が絡む、という見当は合っています。ただ、細かい線があります。条文で確かめます。
条文刑事訴訟法第157条の5第1項
刑事訴訟法第157条の5第1項 裁判所は、証人を尋問する場合において、犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、証人が被告人の面前(次条第一項及び第二項に規定する方法による場合を含む。)において供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合であつて、相当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、被告人とその証人との間で、一方から又は相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置を採ることができる。ただし、被告人から証人の状態を認識することができないようにするための措置については、弁護人が出頭している場合に限り、採ることができる。
まず、要件です。犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、被告人との関係などの事情により、証人が被告人の面前で供述するときは、圧迫を受けて精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合で、しかも、相当と認めるとき。付添いより、要件が重くなりました。次に、措置の中身です。一方から又は相互に、相手の状態を認識することができないようにする。ここに、次の3つのパターンがあります。1つ目は、証人から被告人が見えない措置。証人の前に、被告人席を隠すパネルを置く形です。2つ目は、被告人から証人が見えない措置。3つ目は、相互に見えない措置。ついたては、これです。そして、そのただし書です。弁護人の出頭が要るのは、被告人から証人の状態を認識することができないようにするための措置だけです。当たるのは、2つ目と3つ目です。1つ目の、証人から被告人が見えないだけの措置は、条文のこの要件の外です。
被告人から見えなくなる措置にだけ、弁護人が要るのは、なぜですか。見えなくなるのが、被告人だからです。被告人は、証人の姿や態度を見られなくなります。その代わりに、弁護人が出頭して、証人の様子を見て、尋問に生かす。この体制を、条文が担保しています。逆に、証人から被告人が見えないだけなら、被告人は証人の姿も態度も見られるので、この担保は要りません。冒頭の1問に、答えます。弁護人が欠席の日は、被告人から証人が見えなくなる措置は、できません。ついたてのような、相互に見えない措置も、被告人から見えなくなる措置を含むので、できません。ただし、証人から被告人が見えないだけの措置なら、弁護人の出頭は、この条文の要件ではありません。設例で当てはめます。Yさんの証言の日です。ついたてを置いて、XからYさんが見えない形にしたい。ところが、弁護人が急病で欠席しました。この日は、ついたてはできません。
ついたてを置く、つまり相互に見えない措置は、弁護人の出頭が要る。証人の側にパネルを置いて、被告人席だけが見えない措置は、弁護人の出頭は、要件ではありません。短答では、被告人との間の遮へいは、常に弁護人の出頭が要る、と出れば、×です。証人から被告人が見えないだけの措置は、ただし書の外だからです。被告人から証人の状態を認識できなくする措置は、弁護人が出頭している場合に限る、と書いてあれば、○です。
図:遮へいの被告人との間と傍聴人との間の違い
- 被告人との間(1項)=圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれ+相当と認めるとき・一方から又は相互に・被告人から見えない措置は弁護人の出頭が要る・審問権の問題
- 傍聴人との間(2項)=名誉に対する影響など+相当と認めるとき・相互に・弁護人の出頭は不要・公開原則の問題
次に、2項です。傍聴人との間の遮へいです。Yさんの、傍聴席の視線に対応します。
条文刑事訴訟法第157条の5第2項
刑事訴訟法第157条の5第2項 裁判所は、証人を尋問する場合において、犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、名誉に対する影響その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、傍聴人とその証人との間で、相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置を採ることができる。
1項との違いを、表で整理しました。傍聴人との間では、圧迫や、精神の平穏を著しく害されるおそれは、要件にありません。考慮する事情に、名誉に対する影響が入り、相当と認めるときに採れます。措置は、相互に見えなくするものです。そして、弁護人の出頭の要件は、ありません。物差しに戻ります。傍聴人は、証人を審問する立場にありません。傍聴人との間を遮へいしても、被告人の審問権には触れません。公開原則との関係は残りますが、これは、あとで最高裁が、審理が公開されていることに変わりはない、と判断します。一方で、被告人は、審問権の主体です。被告人から証人が見えなくなる措置は、審問権を制約しうるので、圧迫という実質的な要件と、弁護人の出頭で、絞りをかけています。権利に触れる度合いが大きいほど、要件が重くなる。これが、要件の差の理由です。設例です。傍聴席に、Yさんの知り合いが座っているとします。傍聴人との間だけについたてを置くなら、弁護人の出頭は関係ありません。名誉に対する影響などを考えて、相当と認められれば、できます。
傍聴人から証人が見えないだけではだめなのですか。だめです。2項は、相互に、と書いています。傍聴人からだけ見えない、あるいは、証人からだけ見えない、という措置は、2項では予定されていません。1項が、一方から又は相互に、と書いているのとの違いです。確かめます。弁護人が欠席の日に、次の3つのうち、できるのはどれでしょう。1つ目は、傍聴人との間だけにつくるついたて。2つ目は、Yさんの側から被告人席だけが見えないパネル。3つ目は、Yさんが別室から映像と音声で証言する場合に、被告人のモニターにYさんの映像を映さない措置です。
1つ目と2つ目は、ただし書の、被告人から証人の状態を認識できなくする措置にあたらないので、できます。3つ目は、被告人からYさんの状態を認識できなくする措置なので、弁護人の出頭が要り、この日はできません。
ビデオリンク
図:ビデオリンク構内
- 157条の6第1項
- 方法=裁判官・訴訟関係人の在席場所以外の同一構内の場所に証人を在席させ、映像と音声で相互に認識しながら通話。対象=1号 刑法の性犯罪等の被害者
- 2号 児童福祉法・児童買春・児童ポルノ処罰法・性的姿態撮影等処罰法の一定の罪の被害者
- 3号 前二号のほか、圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれが認められる者。傷害の被害者は3号
3つ目の措置、ビデオリンクです。証人が、法廷の外の別の場所で、映像と音声をつないで証言する方法です。Yさんの、法廷に入ること自体に対応します。まず、同じ構内の別の部屋で行う、構内ビデオリンクです。
条文刑事訴訟法第157条の6第1項
刑事訴訟法第157条の6第1項(柱書) 裁判所は、次に掲げる者を証人として尋問する場合において、相当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、裁判官及び訴訟関係人が証人を尋問するために在席する場所以外の場所であつて、同一構内(これらの者が在席する場所と同一の構内をいう。次項において同じ。)にあるものにその証人を在席させ、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によつて、尋問することができる。
柱書には、方法と、相当と認めるときという要件が入っています。対象は、次に掲げる者で、1号から3号に並びます。まず、1号と2号です。
条文刑事訴訟法第157条の6第1項
刑事訴訟法第157条の6第1項(1号・2号) 一 刑法第百七十六条、第百七十七条、第百七十九条、第百八十一条若しくは第百八十二条の罪、同法第二百二十五条若しくは第二百二十六条の二第三項の罪(わいせつ又は結婚の目的に係る部分に限る。以下この号において同じ。)、同法第二百二十七条第一項(同法第二百二十五条又は第二百二十六条の二第三項の罪を犯した者を幇助する目的に係る部分に限る。)若しくは第三項(わいせつの目的に係る部分に限る。)の罪若しくは同法第二百四十一条第一項若しくは第三項の罪又はこれらの罪の未遂罪の被害者 二 児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)第六十条第一項の罪若しくは同法第三十四条第一項第九号に係る同法第六十条第二項の罪、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成十一年法律第五十二号)第四条から第八条までの罪又は性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律(令和五年法律第六十七号)第二条から第六条までの罪の被害者
1号は、刑法の性犯罪などの被害者です。2号は、児童に関する罪などの被害者です。もう1つ、3号があります。
条文刑事訴訟法第157条の6第1項
刑事訴訟法第157条の6第1項(3号) 三 前二号に掲げる者のほか、犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、裁判官及び訴訟関係人が証人を尋問するために在席する場所において供述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者
方法は、柱書にあります。裁判官と訴訟関係人が在席する場所以外の、同一構内にある場所に証人を在席させる。映像と音声の送受信で、相手の状態を相互に認識しながら、通話する。相当と認めるときで、意見を聴くのは、これまでと同じです。構内とは、裁判所の庁舎や敷地のように、同じひとまとまりの場所のことです。対象は、3つの類型です。1号には、不同意わいせつ、不同意性交等、監護者わいせつ及び監護者性交等、それらの致死傷、わいせつ又は結婚の目的の略取誘拐等、強盗・不同意性交等などが並んでいます。2号は、児童福祉法、児童買春・児童ポルノ処罰法、性的姿態撮影等処罰法の、一定の罪の被害者です。
児童に対する罪だけではありません。性的姿態撮影等処罰法の罪は、被害者の年齢を問いません。2号は、児童に関する罪の被害者と、撮影罪の被害者を含みます。1号と2号は、罪の種類で、類型的に対象が決まります。個別に、圧迫のおそれがあるかを認定する必要は、条文上ありません。これらの罪では、性的な被害などの中身を、被告人や傍聴人のいる法廷で、自分の口で詳しく語る。この負担は、被害者が誰であっても重い、と考えられているからです。証人ごとに確かめるまでもない、ということです。ただし、1号と2号でも、相当と認めるとき、という要件は要ります。3号は違います。前の2つの号に当たらなくても、犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、被告人との関係などから、法廷で供述するときは、圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者を、個別に認定して対象にします。
Yさんは、傷害の被害者です。1号か2号に当たりますか。当たりません。傷害罪は、1号にも2号にも載っていません。Yさんがビデオリンクの対象になるのは、3号の個別の認定が通ったときです。元交際相手のXに付きまとわれたという、被告人との関係が、圧迫のおそれを基礎づける事情になります。対比で確かめます。不同意わいせつの被害者は、1号なので、個別の圧迫の認定なしに、構内ビデオリンクの対象になります。ただし、相当と認めるときは必要です。傷害の被害者は、3号の個別の認定が要ります。もう1つ、記録の話です。この方法で尋問した場合、一定の場合に、尋問と供述と状況を記録媒体に記録して、調書の一部にできます。その調書が証拠になる条件は、321条の2で、以前の回で見ました。
図:ビデオリンク構外
- 157条の6第2項
- 同一構内以外の場所(他の裁判所の構内など)に在席。国内にいる証人に限る。類型=(精神・安全)1 出頭すると精神の平穏を著しく害されるおそれ
- 2 出頭に伴う移動中の加害・畏怖・困惑
- 3 出頭後の移動で尾行等により住居・勤務先が特定される。(出頭が困難)4 傷病・心身の障害
- 5 遠隔地に居住
次に、同一構内の外から尋問する、構外ビデオリンクです。2項です。柱書と、1号と2号を見ます。
条文刑事訴訟法第157条の6第2項
刑事訴訟法第157条の6第2項(柱書と1号・2号) 裁判所は、証人(国内にいる者に限る。以下この項及び次項において同じ。)を尋問する場合において、次に掲げる場合であつて、相当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、他の裁判所の構内にある場所その他の同一構内以外にある場所であつて、適当と認めるものに証人を在席させ、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によつて、尋問することができる。 一 犯罪の性質、証人の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、証人が同一構内に出頭するときは精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認めるとき。 二 同一構内への出頭に伴う移動に際し、証人の身体若しくは財産に害を加え又は証人を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認めるとき。
構内との違いを、整理します。場所は、他の裁判所の構内にある場所その他の、同一構内以外にある場所で、裁判所が適当と認めるものです。証人は、国内にいる者に限ります。そして、構内のように、被害者の類型で決まるのではなく、各号の場合に当たることが要ります。各号に共通するのは、同一構内まで来ること、または、その行き帰りの移動そのものに、問題がある場合だという点です。構内ビデオリンクは、法廷には入らなくても、同じ構内までは来ます。そこまで来ること自体が、負担か、危険か、困難なときのための方法が、構外です。続けて、3号から5号です。
条文刑事訴訟法第157条の6第2項
刑事訴訟法第157条の6第2項(3号から5号) 三 同一構内への出頭後の移動に際し尾行その他の方法で証人の住居、勤務先その他その通常所在する場所が特定されることにより、証人若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認めるとき。 四 証人がその傷病又は心身の障害により同一構内に出頭することが著しく困難であると認めるとき。 五 証人が遠隔地に居住し、その年齢、職業、健康状態その他の事情により、同一構内に出頭することが著しく困難であると認めるとき。
1号は、同一構内に出頭すること自体で、精神の平穏を著しく害されるおそれがある場合です。2号は、出頭に伴う移動の最中に、加害や畏怖、困惑の行為がなされるおそれがある場合です。3号は、出頭後の移動で、尾行などによって住居や勤務先が特定され、加害などがなされるおそれがある場合です。精神と安全に関わる、3つです。建物に行くこと自体が耐えられない場合は、構外の1号です。同一構内に出頭するだけで、精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められれば、別の裁判所などの場所から、証言できます。構内ビデオリンクでは足りない場合の、受け皿です。法廷に入ること自体の負担の、いちばん深いところに対応します。
図:ビデオリンク構外のまとめ
- (身体拘束)6 移動で精神の平穏が害され処遇に支障/7 移動の際に奪取・解放のおそれ
- (出頭が困難)8 鑑定に属する供述で職業・健康状態等により困難かつ当該日時に尋問が特に必要
- 覚え方=3グループ(精神と安全=1〜3号/出頭が困難=4・5・8号/身体拘束=6・7号)
- 3項=検察官及び被告人に異議がなく相当と認めるときも可
- 短答で問われる3点=同一構内以外の場所・国内にいる証人に限る・構内と取り違えない
続けて、6号から8号です。
条文刑事訴訟法第157条の6第2項
刑事訴訟法第157条の6第2項(6号から8号) 六 証人が身体の拘束を受けている場合であつて、その年齢、心身の状態、処遇の実施状況その他の事情により、同一構内への出頭に伴う移動により証人が精神の平穏を著しく害され、その処遇の適切な実施に著しい支障を生ずるおそれがあると認めるとき。 七 証人が身体の拘束を受けている場合であつて、同一構内への出頭に伴う移動に際し、証人を奪取し又は解放する行為がなされるおそれがあると認めるとき。 八 証人にさせる供述が鑑定に属するものである場合であつて、その職業、健康状態その他の事情により証人がその尋問の日時に同一構内に出頭することが著しく困難であり、かつ、証人の重要性、審理の状況その他の事情により当該日時に尋問することが特に必要であると認めるとき。
4号と5号と8号は、出頭が困難な場合です。4号は傷病や心身の障害で、5号は遠隔地に居住していて、8号は鑑定に属する供述で、職業や健康状態などにより出頭が著しく困難なうえ、その日時に尋問することが特に必要な場合です。6号と7号は、身体の拘束を受けている証人の場合です。6号は、移動で精神の平穏が害され、処遇の適切な実施に著しい支障が出るおそれがあるとき。7号は、移動の際に、奪取や解放の行為がなされるおそれがあるときです。覚えるときは、3グループに分けてください。精神と安全に関わる1号から3号。出頭が困難な4号と5号と8号。身体拘束の6号と7号です。短答で問われるのは、構外は同一構内以外の場所であることと、国内にいる証人に限ること、そして、構内と取り違えないことです。もう1つ、3項です。
条文刑事訴訟法第157条の6第3項
刑事訴訟法第157条の6第3項 前二項に規定する場合のほか、裁判所は、証人を尋問する場合において、前二項に規定する方法のいずれかによつて尋問することについて検察官及び被告人に異議がなく、証人の重要性、当該方法によつて尋問することの必要性その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、当該方法によつて、尋問することができる。
1項や2項の類型に当たらなくても、検察官と被告人の両方に異議がなく、証人の重要性や必要性などを考えて相当と認めるときは、構内でも構外でも、ビデオリンクで尋問できます。異議の主体は、検察官と被告人です。構外については、規則にも1つ、確認の規定があります。他の裁判所の構内以外の場所に証人を在席させるときは、尋問の前に、証人の陳述の内容に不当な影響を与えるおそれがある者がいる場所ではないことなど、その場所が適当であることを、裁判所が確認します。たとえば、証人が裁判所以外の場所から参加するなら、その場所に、証人の話に影響を与えそうな人がいないかを、確かめるわけです。沿革を1文だけ。構外は、平成28年の改正で新設され、現行の8類型と3項の異議なしの場合は、令和7年の改正で整いました。設例で確かめます。遠くの病院に入院していて、動けない目撃者は、4号の傷病です。山あいの遠隔地に暮らしていて、出頭が著しく困難な目撃者は、5号です。同じ構外ビデオリンクでも、号が違います。そして、外国にいる証人には、構外ビデオリンクは使えません。国内にいる者に限る、と柱書に書いてあります。
併用と3措置の比較
図:3措置の比較表
- 付添い=不安・緊張を軽くする/証人/弁護人の出頭は不要/被告人の権利には触れない
- 被告人との遮へい=被告人の視線/圧迫のおそれ+相当/被告人から見えなくする措置は弁護人の出頭が要る/審問権
- 傍聴人との遮へい=傍聴席の視線/名誉への影響等+相当/不要/公開原則
- ビデオリンク(構内)=法廷に入る負担/1号2号は類型・3号は個別/不要/審問権と公開
- ビデオリンク(構外)=構内に行く負担/8類型+国内/不要
- 意見聴取はどれも検察官及び被告人又は弁護人
- 対象=付添い・遮へいは証人一般(被害者に限らない)/ビデオリンクは1号・2号が罪の被害者・3号は被害者以外も(年少の目撃者・暴力団事件の被害者や目撃者)・構外(2項)の各号は証人一般
ここまでの3つの措置を、1枚の表に並べます。縦に、付添い、被告人との遮へい、傍聴人との遮へい、構内ビデオリンク、構外ビデオリンク。横に、何を軽くするか、対象と要件の骨、弁護人の出頭、被告人の権利との接点です。読み方のコツは、弁護人の出頭の列です。出頭が要るのは、被告人から証人が見えなくなる措置だけです。それ以外の措置では、弁護人の出頭は、要件ではありません。もう1つ、意見を聴く手続は、どれも共通で、検察官と、被告人又は弁護人です。付添い、遮へい、ビデオリンクは、重ねて使えますか。重ねられます。その根拠は、157条の5第1項の括弧書きです。証人が被告人の面前で供述するとき、その面前には、ビデオリンクの方法による場合を含む、と書いてあります。先ほどの304条の2の括弧書きは、退廷の要件を判断するときの話でした。こちらは、遮へいの条文にある括弧書きで、別の規定です。
条文は、含める、と書いています。モニター越しでも、被告人の目に証人の姿が映れば、被告人の面前に証人がいるのと同じ圧迫がありうる、と考えられるからです。だから、ビデオリンクに、遮へいを重ねられます。付添いは、証人の姿も声も、そのまま届く措置でした。ですから、どちらに重ねても、被告人の権利との関係は変わりません。例です。証人を別室に在席させ、付添人を付け、さらに、モニターに映る証人の映像が、被告人には見えないようにする。付添い、遮へい、ビデオリンクの3つの併用です。このとき、モニターの映像を被告人に見せない措置は、被告人から証人の状態を認識できなくする措置です。ですから、弁護人が出頭している場合に限られます。Yさんの3つの負担に、措置を当てます。一人の不安と緊張には、付添い。Xの視線には、被告人との遮へい。傍聴席の視線には、傍聴人との遮へい。法廷に入ること自体には、同一構内のビデオリンクで足りなければ、構外のビデオリンクです。被告人との遮へいだけを使う手もありますし、Yさんの事情に合わせて、組み合わせます。
付添いは、不安や緊張のおそれ。遮へいは、圧迫のおそれと相当性。ビデオリンクは、対象の類型と相当性です。重ねた措置の1つ1つが、それぞれの条文の要件を満たす必要があります。
最高裁の判断
図:最高裁の判断の整理
- 条番号の対応=旧157条の3は現157条の5(遮へい)/旧157条の4は現157条の6(ビデオリンク)
- 付添い(旧157条の2=現157条の4)は判断の対象外
- 判旨の対応=傍聴人との遮へい・ビデオリンク・併用は公開原則(憲法82条1項・37条1項)に反しない
- 被告人から証人が見えない遮へい・ビデオリンク・併用は証人審問権(憲法37条2項前段)を侵害しない
ここが、この回の山場の2つ目です。冒頭の問いに、答えます。その前に、1問です。伝聞法則の回で見ました。証人審問権は、何が確保されているかで見るのでしたか?反対尋問の機会が確保されているか、でした。その回では、最高裁が審問権の侵害はないとした、という結論だけを先に聞きました。今日は、その理由を、判決の言葉で読みます。先に言えば、反対尋問の機会が残っているか、という見方で整理できる判断です。最初に、条番号の対応です。この判決は、当時の条文で書かれています。判決が言う157条の3は、現在の157条の5、遮へい措置です。判決の157条の4は、現在の157条の6、ビデオリンクです。そして、付添いは、この判決の判断の対象ではありません。当時のビデオリンクは、同一構内だけでした。構外は、後の改正で加わっています。争われたのは、個別のあてはめではなく、条文そのものが憲法に反しないか、という点です。弁護人は、これらの規定が、憲法82条1項、37条1項、37条2項前段に違反する、と主張しました。最高裁の判断は、2つに分かれます。公開原則との関係と、証人審問権との関係です。まず、公開原則についての判示です。
判例最判平17・4・14 刑集59巻3号259頁
公開原則との関係 証人尋問が公判期日において行われる場合,傍聴人と証人との間で遮へい措置が採られ,あるいはビデオリンク方式によることとされ,さらには,ビデオリンク方式によった上で傍聴人と証人との間で遮へい措置が採られても,審理が公開されていることに変わりはないから,これらの規定は,憲法82条1項,37条1項に違反するものではない。
部品に分けます。傍聴人との間に遮へいがあっても、ビデオリンクでも、その併用でも、審理が公開されていることに変わりはない。だから、憲法82条1項と37条1項に違反しません。傍聴人から証人が見えなくても、公開なのですか。ここは判決の言葉ではなく、私たちの読みです。公開の核心は、審理を誰でも傍聴できることです。傍聴席から、証人の声が聞こえ、法廷での審理の進み方が分かるなら、公開されています。証人の姿が見えないことと、審理が公開されていないこととは、別の問題です。
図:遮へいの3つのパターン
- 1 証人から被告人が見えない
- 2 被告人から証人が見えない
- 3 相互に見えない(ついたて)
- 弁護人が出頭している場合に限る=2と3(被告人から証人の状態を認識できなくする措置)
- 1は要件の外
次に、審問権についての判示です。ここが、冒頭の問いに直接答える部分です。
判例最判平17・4・14 刑集59巻3号259頁
証人審問権との関係(遮へいとビデオリンク) 証人尋問の際,被告人から証人の状態を認識できなくする遮へい措置が採られた場合,被告人は,証人の姿を見ることはできないけれども,供述を聞くことはでき,自ら尋問することもでき,さらに,この措置は,弁護人が出頭している場合に限り採ることができるのであって,弁護人による証人の供述態度等の観察は妨げられないのであるから,前記のとおりの制度の趣旨にかんがみ,被告人の証人審問権は侵害されていないというべきである。ビデオリンク方式によることとされた場合には,被告人は,映像と音声の送受信を通じてであれ,証人の姿を見ながら供述を聞き,自ら尋問することができるのであるから,被告人の証人審問権は侵害されていないというべきである。
判旨の中の、前記のとおりの制度の趣旨、とは、判決が先に述べた部分を指します。証人が被告人から見られていることで、圧迫を受け、精神の平穏が著しく害される場合があるので、その負担を軽くする。これが、遮へい措置の趣旨です。
判例最判平17・4・14 刑集59巻3号259頁
証人審問権との関係(併用と結論) さらには,ビデオリンク方式によった上で被告人から証人の状態を認識できなくする遮へい措置が採られても,映像と音声の送受信を通じてであれ,被告人は,証人の供述を聞くことはでき,自ら尋問することもでき,弁護人による証人の供述態度等の観察は妨げられないのであるから,やはり被告人の証人審問権は侵害されていないというべきことは同様である。したがって,刑訴法157条の3,157条の4は,憲法37条2項前段に違反するものでもない。
3つの場面に分けて順に読みます。1つ目、被告人から証人が見えない遮へい。被告人は、姿を見ることはできないけれども、供述は聞けて、自ら尋問もできます。しかも、この措置は、弁護人が出頭している場合に限られるので、弁護人は供述態度を観察できます。だから、審問権の侵害はありません。2つ目は、ビデオリンクです。映像と音声を通じて、被告人は証人の姿を見ながら、供述を聞き、自ら尋問できます。侵害はありません。3つ目、ビデオリンクに、被告人から見えない遮へいを重ねた場合。映像は見えなくても、供述は聞け、自ら尋問でき、弁護人は観察できます。やはり侵害はありません。これら3つから、37条2項前段に違反しない、という結論です。
条文の要件を満たしたときは、憲法違反ではありません。冒頭の問いの答えです。ここからは、判決の整理を、私たちの言葉で言い直します。決め手は、審問権が確保しようとしているものです。審問権の核心は、証人の顔を見ることそのものではなく、尋問する機会と、供述の様子を観察して尋問に生かせることが、確保されているかです。見えなくても、聞ける。自ら尋問できる。弁護人が観察できる。この3つがそろえば、反対尋問の機会は確保されている、という筋です。ただし、判決自身は、審問権は対面の権利ではない、という一般論を述べてはいません。姿を見ることはできないけれども、と認めたうえで、聞く、尋問する、弁護人が観察する、で足りるとしたところまでです。言い切りすぎないでください。
判旨の理由に、弁護人が出頭している場合に限り採ることができる、という点が入っています。条文の出頭要件は、飾りではなく、合憲の支えの1つです。
図:最高裁の判断の整理
- 条番号の対応=旧157条の3は現157条の5(遮へい)/旧157条の4は現157条の6(ビデオリンク)
- 付添い(旧157条の2=現157条の4)は判断の対象外
- 判旨の対応=傍聴人との遮へい・ビデオリンク・併用は公開原則(憲法82条1項・37条1項)に反しない
- 被告人から証人が見えない遮へい・ビデオリンク・併用は証人審問権(憲法37条2項前段)を侵害しない
この判決が言っていないことも、確認します。付添いは、判断の対象ではありません。被告人の退廷を定める304条の2も、現在の構外ビデオリンクも、判断していません。短答では、最高裁は付添いの合憲性も判断した、と出れば、×です。判断したのは、遮へい措置とビデオリンク方式です。整理します。傍聴人との遮へいは、公開原則の問題で、審理が公開されていることに変わりはない。被告人から見えなくなる遮へいは、審問権の問題で、聞ける、尋問できる、弁護人が観察できる。ビデオリンクは、映像と音声で、姿を見て、供述を聞き、自ら尋問できる。どれも、憲法に反しません。
保護は被害者だけのものか
図:3措置の比較表
- 付添い=不安・緊張を軽くする/証人/弁護人の出頭は不要/被告人の権利には触れない
- 被告人との遮へい=被告人の視線/圧迫のおそれ+相当/被告人から見えなくする措置は弁護人の出頭が要る/審問権
- 傍聴人との遮へい=傍聴席の視線/名誉への影響等+相当/不要/公開原則
- ビデオリンク(構内)=法廷に入る負担/1号2号は類型・3号は個別/不要/審問権と公開
- ビデオリンク(構外)=構内に行く負担/8類型+国内/不要
- 意見聴取はどれも検察官及び被告人又は弁護人
- 対象=付添い・遮へいは証人一般(被害者に限らない)/ビデオリンクは1号・2号が罪の被害者・3号は被害者以外も(年少の目撃者・暴力団事件の被害者や目撃者)・構外(2項)の各号は証人一般
最後に、確認です。この3つの措置は、被害者のためだけの仕組みなのでしょうか。被害者を守る制度だと思っていました。被害者以外にも使えるのですか。使えます。付添いと遮へいは、条文の主語が、証人です。被害者に限られません。年少の目撃者などにも、使えます。設例です。9歳のZさんが、事件の目撃者として証言します。年齢を考慮して、著しく不安や緊張を覚えるおそれがあれば、付添いが使えます。被告人の面前で圧迫を受けるおそれがあれば、遮へいも使えます。ビデオリンクも、3号で、証人の年齢を考慮して、使える可能性があります。ビデオリンクは、少し細かいです。1号と2号は、罪の被害者です。ですから、被害者以外は入りません。しかし、3号は、前の2つの号のほか、犯罪の性質や証人の年齢、心身の状態、被告人との関係などにより、圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者です。被害者に限られません。もう1つの設例です。暴力団がかかわる事件で、目撃者のWさんが、証言します。被告人との関係や、犯罪の性質から、法廷で供述するときは、圧迫を受けるおそれがあると認められるなら、Wさんは、3号でビデオリンクの対象になりえます。Yさんは、傷害の被害者です。1号にも2号にも載っていないので、3号で入ります。構外ビデオリンクの各号は、証人一般が対象で、被害者に限られません。短答では、ビデオリンクは性犯罪の被害者に限られる、と出れば、×です。
短答の落とし穴
図:短答の○×一覧
短答で確認します。被害者は、刑事訴訟の当事者である。×です。主張と立証の主体は、検察官と、被告人・弁護人です。付添人は、証人に代わって答えを述べることができる。×です。157条の4の2項が禁止しています。付添いは、証人が著しく不安又は緊張を覚えるおそれがあると認めるときにできる。○です。傍聴人と証人との間の遮へいは、弁護人が出頭している場合に限る。×です。ただし書の対象は、被告人から証人の状態を認識できなくする措置だけです。被告人から証人が見えなくなる遮へいは、弁護人が出頭している場合に限る。○です。相互に見えなくする措置も含みます。証人の側から被告人が見えなくなるだけの措置は、弁護人が出頭していなくても採れる。○です。
傍聴人との遮へいは、傍聴人からだけ見えない措置でもいいのですか。いけません。×です。2項は、相互に、と書いています。遮へいは、被害者でない証人にも採れる。○です。ビデオリンクは、性犯罪の被害者に限られる。×です。3号があります。構外ビデオリンクは、裁判所と同じ建物の別室で行う方法である。×です。同一構内が1項、同一構内以外が2項です。刑法の不同意わいせつ罪の被害者は、1号により、個別の圧迫のおそれの認定なしに、ビデオリンクの対象になる。○です。ただし、相当と認めるときが要ります。構外ビデオリンクは、検察官及び被告人に異議がなくても、2項の各号に当たらなければ採れない。×です。3項があります。構外ビデオリンクは、外国にいる証人にもできる。×です。国内にいる者に限ります。付添い、遮へい、ビデオリンクは、併用できる。○です。根拠は、ビデオリンクの場合も被告人の面前に含める、という157条の5第1項の括弧書きです。最高裁です。ビデオリンク方式による証人尋問は、公開原則に反する。×です。被告人から証人の状態を認識できなくする遮へい措置は、憲法37条2項前段に反する。×です。最高裁は、付添いの合憲性についても判断した。×です。判断したのは、遮へい措置とビデオリンク方式です。
今日の地図(保存版)
図:まとめの地図
- 軸=証人の負担は軽くしたい・しかし被告人の権利にどこまで踏み込むかで措置ごとに要件が違う
- 付添い(不安・緊張/要件が軽い)→傍聴人との遮へい(傍聴席の視線/相当と認めるとき)→被告人との遮へい(Xの視線/圧迫のおそれ・弁護人の出頭)→ビデオリンク(法廷に入ること自体/類型的な対象と個別の対象)
- 最高裁=聞ける・自ら尋問できる・弁護人が観察できるので審問権を侵害しない
今日のまとめです。軸は1本でした。証人の負担は、軽くしたい。しかし、被告人の権利にどこまで踏み込むかで、措置ごとに要件が違う。被害者は、刑事訴訟の当事者ではなく、証人として法廷に立ちます。配慮は広がってきましたが、犯罪の有無を適正かつ迅速に明らかにすること、被告人の権利、処分の公平という3つの物差しで、限界があります。付添いは、被告人の権利に触れないので、要件が軽く、不安や緊張のおそれがあれば足ります。遮へいは、被告人との間では、圧迫のおそれと相当性が要り、被告人から証人が見えなくなる措置は、弁護人が出頭している場合に限ります。傍聴人との間は、相当と認めるときで足り、弁護人の出頭は要りません。ビデオリンクは、構内と構外があり、構内では、1号と2号が類型的に、3号が個別に、対象を定めます。冒頭の問いの答えです。ついたてで被告人から証人が見えなくても、被告人は供述を聞け、自ら尋問でき、弁護人が供述態度を観察できます。最高裁は、証人審問権は侵害されないとしました。ビデオリンクも同じです。傍聴人との遮へいも、審理が公開されていることに変わりはないので、公開原則に反しません。付添いと遮へいは証人への措置で、被害者に限りません。ビデオリンクも、3号で、被害者以外が入ります。次は、名前や住所を知られたくない、という声にどう応えるかです。法廷で名前を読み上げない仕組みを見ます。
参照条文
- 刑事訴訟法第201条の2第1項
- 刑事訴訟法第281条の2
- 刑事訴訟法第157条の4
- 刑事訴訟法第157条の5第1項
- 刑事訴訟法第157条の5第2項
- 刑事訴訟法第157条の6第1項
- 刑事訴訟法第157条の6第2項
- 刑事訴訟法第157条の6第3項