刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#147

被害者の関与①心情等の意見陳述と情報提供

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第6章 公判の応用 ⑤/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

導入

今日の問い。被害者が法廷で「犯人はこの人です。私はこう見ました」と述べたら、それは有罪の証拠になるか。今日の範囲=知る(被害者等通知制度)・見る(優先傍聴)・読む(記録の閲覧・謄写)・気持ちを述べる(心情等の意見陳述=292条の2)。裁判への参加は次の回 図:今日の問い

  • 被害者が法廷で「犯人はこの人です。私はこう見ました」と述べたら、それは有罪の証拠になるか
  • 今日の範囲=知る(被害者等通知制度)・見る(優先傍聴)・読む(記録の閲覧・謄写)・気持ちを述べる(心情等の意見陳述=292条の2)
  • 裁判への参加は次の回

被害に遭った人が、法廷に立ちます。そして、犯人はこの人です、私はこう見ました、と話します。この言葉は、被告人を有罪にする証拠になるでしょうか。実は、証拠にはなりません。それなのに、刑の重さを決めるときには、考えに入れてよいのです。矛盾して聞こえますが、これが今日の山場です。前回の終わりに、予告しました。次は、被害に遭った人が、裁判に自分から関わる仕組みです。ここまでの3回は、被害者を守る仕組みでした。証人としての負担を軽くすること。名前を隠すこと。今日からは、被害者が自分から裁判に関わる入口に入ります。今日は、その前半です。知ること、見ること、読むこと、そして気持ちを述べることを扱います。裁判に参加して、自分で質問をする仕組みは、次の回です。問いは1つです。被害者が、法廷で、犯人はこの人です、と述べたら、有罪の証拠になるのか。なぜそうなるのかは、気持ちを述べる制度のところで確かめます。設例は、これまでの続きです。飲食店を営むSさんが、被告人のRから、みかじめ料を払うよう迫られました。恐喝の事件です。Sさんは、裁判がいまどうなっているのかを知りたいと思っています。そして、できれば法廷で、自分の気持ちを話したいと思っています。

配慮の4本柱と今日の位置

配慮の4本柱の地図。手続の流れに沿って、保護(済)/情報提供(今日)/関与・参加(意見陳述=今日・被害者参加=次回)/損害回復(次回)。保護=証人の負担軽減(付添い・遮へい・ビデオリンク)・名前を隠す仕組み=終了 図:配慮の4本柱の地図

  • 手続の流れに沿って、保護(済)/情報提供(今日)/関与・参加(意見陳述=今日・被害者参加=次回)/損害回復(次回)
  • 保護=証人の負担軽減(付添い・遮へい・ビデオリンク)・名前を隠す仕組み=終了

最初に、地図を出します。被害者への配慮には、4本の柱がありました。保護、情報提供、関与や参加、損害回復です。証人としての負担を軽くする付添い、遮へい、ビデオリンク。そして、被害者の名前を隠す仕組み。ここまでが保護でした。今日は、2本目の情報提供と、その次の3本目、関与や参加の最初の1つ、意見陳述を扱います。被害者参加と損害回復は、次の回です。ここで、物差しを1つ用意します。被害者への配慮は、いつも、2つの利益のぶつかり合いです。被害者の知りたい気持ち、話したい気持ちと、被告人の防御、そして捜査や公判への影響です。関わり方が深くなるほど、このぶつかりは大きくなります。だから、深い関わりほど、歯止めが増えます。今日の4つは、この深さの順に並びます。

被害者等通知制度

被害者等通知制度。根拠=刑訴法に明文なし(検察庁の運用)。対象事件=限定なし。対象者=被害者・親族等・その代理人(目撃者など参考人にも、一部の通知を除いて行う)。通知事項=事件の処理結果(公判請求・略式請求・不起訴・家裁送致)/起訴後の裁判所と期日/裁判結果(主文・上訴・確定)/身柄の状況(勾留・保釈)/不起訴の場合の理由の骨子/有罪確定後の刑の執行終了予定時期・刑事施設での処遇状況・釈放(仮釈放または刑の執行終了による釈放)。仮釈放の審理(開始・結果)や保護観察中の状況は、更生保護の側(地方更生保護委員会・保護観察所)から別に通知 図:被害者等通知制度

  • 根拠=刑訴法に明文なし(検察庁の運用)
  • 対象事件=限定なし
  • 対象者=被害者・親族等・その代理人(目撃者など参考人にも、一部の通知を除いて行う)
  • 通知事項=事件の処理結果(公判請求・略式請求・不起訴・家裁送致)/起訴後の裁判所と期日/裁判結果(主文・上訴・確定)/身柄の状況(勾留・保釈)/不起訴の場合の理由の骨子/有罪確定後の刑の執行終了予定時期・刑事施設での処遇状況・釈放(仮釈放または刑の執行終了による釈放)
  • 仮釈放の審理(開始・結果)や保護観察中の状況は、更生保護の側(地方更生保護委員会・保護観察所)から別に通知

1つ目は、知ることです。被害者等通知制度といいます。被害者等とは、被害者本人と、被害者が亡くなったり、心身に重大な故障があったりする場合の、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹です。今日もこの言葉で通します。この制度の最大の特徴は、刑訴法に条文がないことです。検察庁が、運用として行っています。短答で、被害者等通知制度は刑訴法の何条に定められているか、と聞かれたら、明文はない、が答えです。喩えるなら、宅配の不在票です。届くかどうかは、配達する側の運用で、受け取る側が、法律上の権利として請求できるものではありません。ただ、実際の運用は手厚く、事件の種類で限られることもありません。対象になる人は、さきほどの被害者等とは別の決め方で、被害者や、その親族、代理人です。そのほか、目撃者などの参考人にも行われます。一部の通知は除かれます。

設例のSさんで見ます。まず、事件の処理結果です。公判請求、略式請求、不起訴、家庭裁判所への送致のどれになったか。起訴されたら、裁判所と期日。判決が出たら、主文と、上訴されたか、確定したか。身柄については、勾留されているか、保釈されたか。不起訴なら、理由の骨子も伝えられます。さらに、有罪が確定したあとの情報があります。刑の執行が終わる予定の時期、刑事施設での処遇の状況、釈放です。釈放には、刑期を終えての釈放のほか、仮釈放による釈放も含まれます。ただし、仮釈放を認めるかどうかの審理が始まったことや、その結果、そして保護観察中の様子は、更生保護の側から、別に知らされます。地方更生保護委員会や保護観察所です。ここは、検察庁の通知とは別系統です。

担当の検察官や、被害者支援の担当者に伝えます。短答の核は3つです。明文がない。運用である。事件の種類で限定されない。この3点です。

優先傍聴

優先傍聴(犯罪被害者保護法2条)。裁判長は、被害者等・法定代理人から傍聴の申出があるとき、傍聴席の数や傍聴を希望する者の数などを考慮しつつ、傍聴できるよう配慮しなければならない=配慮義務。傍聴する権利を認めたものではない。希望者が多ければ全員は入れない 図:優先傍聴

  • 犯罪被害者保護法2条
  • 裁判長は、被害者等・法定代理人から傍聴の申出があるとき、傍聴席の数や傍聴を希望する者の数などを考慮しつつ、傍聴できるよう配慮しなければならない=配慮義務。傍聴する権利を認めたものではない。希望者が多ければ全員は入れない

2つ目は、見ることです。法廷を傍聴することです。犯罪被害者保護法の2条が、優先傍聴を定めています。

条文犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律第2条

犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律第2条 刑事被告事件の係属する裁判所の裁判長は、当該被告事件の被害者等(被害者又は被害者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹をいう。以下同じ。)又は当該被害者の法定代理人から、当該被告事件の公判手続の傍聴の申出があるときは、傍聴席及び傍聴を希望する者の数その他の事情を考慮しつつ、申出をした者が傍聴できるよう配慮しなければならない。

内容は、こうです。被害者等や、被害者の法定代理人から、公判の傍聴の申出があるとき、裁判長は、傍聴席の数や、傍聴を希望する人の数などを考えながら、申出をした人が傍聴できるよう配慮しなければなりません。配慮しなければならない、のですね。では、必ず傍聴できるのですか。そこが落とし穴です。義務なのは、配慮です。傍聴する権利を認めたものではありません。傍聴席は限られています。世間が注目する事件で、傍聴希望が殺到すれば、被害者等でも、全員は入れないことがあります。喩えるなら、劇場の、関係者席への配慮です。できるだけ席を用意するが、席数には限りがある。だから、配慮義務であって、傍聴権ではない。暗記は、この対比です。

傍聴は、公開された法廷で、誰でも自由にできるのが原則です。ただ、事件によっては、抽選で席を取り合うことになります。この条文は、被害者等が、その席に入れるよう、裁判長に配慮を義務づけたものです。席の取り合いの中での、優先扱いと考えてください。

訴訟記録の閲覧・謄写

記録の閲覧・謄写の対比。確定後=何人でも閲覧できる(刑訴53条1項)。確定前=(以前は被害者に認める規定なし)犯罪被害者保護法3条=第1回公判期日後から終結まで、被害者等・法定代理人・その委託を受けた弁護士の申出→裁判所は検察官・被告人側の意見を聴いて、原則として閲覧・謄写させる。例外=理由が正当でない/犯罪の性質・審理の状況等を考慮して相当でない。謄写には使用目的の制限等の条件を付せる。知り得た事項の使用は、関係人の名誉・生活の平穏を害さず、捜査・公判に支障を生じさせないよう注意。第1回公判期日前は対象外 図:記録の閲覧・謄写の対比

  • 確定後=何人でも閲覧できる(刑訴53条1項)
  • 確定前=(以前は被害者に認める規定なし)犯罪被害者保護法3条=第1回公判期日後から終結まで、被害者等・法定代理人・その委託を受けた弁護士の申出→裁判所は検察官・被告人側の意見を聴いて、原則として閲覧・謄写させる
  • 例外=理由が正当でない/犯罪の性質・審理の状況等を考慮して相当でない
  • 謄写には使用目的の制限等の条件を付せる
  • 知り得た事項の使用は、関係人の名誉・生活の平穏を害さず、捜査・公判に支障を生じさせないよう注意
  • 第1回公判期日前は対象外

3つ目は、読むことです。裁判の記録を、読むことです。比べるために、まず、確定したあとの扱いを条文で見ます。

条文刑事訴訟法第53条第1項

刑事訴訟法第53条第1項 何人も、被告事件の終結後、訴訟記録を閲覧することができる。但し、訴訟記録の保存又は裁判所若しくは検察庁の事務に支障のあるときは、この限りでない。

事件が終結したあとは、何人でも、訴訟記録を閲覧できます。被害者である必要はありません。ただし、記録の保存や、裁判所や検察庁の事務に支障があるときは別です。

条文犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律第3条第1項〜第3項

犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律第3条第1項〜第3項 刑事被告事件の係属する裁判所は、第一回の公判期日後当該被告事件の終結までの間において、当該被告事件の被害者等若しくは当該被害者の法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士から、当該被告事件の訴訟記録の閲覧又は謄写の申出があるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、閲覧又は謄写を求める理由が正当でないと認める場合及び犯罪の性質、審理の状況その他の事情を考慮して閲覧又は謄写をさせることが相当でないと認める場合を除き、申出をした者にその閲覧又は謄写をさせるものとする。 2 裁判所は、前項の規定により謄写をさせる場合において、謄写した訴訟記録の使用目的を制限し、その他適当と認める条件を付することができる。 3 第一項の規定により訴訟記録を閲覧し又は謄写した者は、閲覧又は謄写により知り得た事項を用いるに当たり、不当に関係人の名誉若しくは生活の平穏を害し、又は捜査若しくは公判に支障を生じさせることのないよう注意しなければならない。

裁判の途中で、被害者が記録を読むことはできないのですか。そこを埋めたのが、犯罪被害者保護法の3条です。以前は、被害者に、記録を見せる規定がありませんでした。3条は、第1回の公判期日の後、事件が終わるまでの間に、被害者等、被害者の法定代理人、またはその委託を受けた弁護士から申出があれば、裁判所が、検察官と被告人側の意見を聴いたうえで、原則として、閲覧と謄写をさせるものとしています。謄写はコピーのことです。あります。例外が、2つあります。1つ目は、閲覧や謄写を求める理由が、正当でないとき。2つ目は、犯罪の性質、審理の状況などを考えて、相当でないときです。たとえば、記録を見せることで、証人の安全が脅かされたり、審理に支障が出たりするおそれがあるときです。謄写については、使い方に条件を付けられます。使う目的を限るなどです。そして、記録から知った内容を使うときは、関係している人の名誉や生活の平穏を、不当に害さないこと、捜査や公判に支障を生じさせないことに、注意しなければなりません。注意点が2つあります。1つ目は、第1回の公判期日の前は、この制度の対象ではないことです。2つ目は、前回扱った、被告人側の記録の閲覧とは、別の制度であることです。前回のそれは、被告人側が記録を見るときに、被害者の氏名などを隠す仕組みでした。今日の閲覧は、被害者の側が、記録を見る仕組みです。向きが逆です。物差しで見直します。通知は運用で、歯止めは要りません。傍聴は、席の限りがあるだけです。記録を読むところで、捜査や公判への影響が出てくるので、例外2つと使い方の条件という歯止めが付きます。ここまでが、知る、見る、読むです。

心情等の意見陳述の背景と陳述できる者

心情等の意見陳述(292条の2)の背景と主体。背景=被害の影響(PTSD等)を法廷で直接訴えたくても、かつては証人尋問しか方法がなかった/被害者は当事者でないので自分で証人請求できない/検察官が請求しても裁判所が必要性なしとすれば証言できない。→平成12年の改正で導入。陳述できる者=被害者等・被害者の法定代理人(罪名の制限なし)。申出があれば公判期日に陳述させるのが原則(1項「させるものとする」)

ここから、山場の、心情等の意見陳述です。292条の2です。まず、なぜ、この制度が作られたのかを見ます。Sさんが、恐喝の被害で、夜も眠れなくなり、店も開けられなくなったとします。その苦しみを、裁判所に直接伝えたい。でも、かつては、証人尋問を受ける以外に、方法がありませんでした。被害者は、事件の当事者ではありません。当事者は、検察官と被告人です。ですから、被害者が、自分から証人として請求することはできません。検察官が請求しても、裁判所が、必要性がないと判断すれば、証言の機会はありません。被害者の声が、裁判に届かないという批判がありました。それに応えて、平成12年の改正で、導入されたのが、この意見陳述です。では、条文を、全文で見ます。3枚に分けて読みます。1枚目は、1項と2項です。

条文刑事訴訟法第292条の2第1項・第2項

刑事訴訟法第292条の2第1項・第2項 裁判所は、被害者等又は当該被害者の法定代理人から、被害に関する心情その他の被告事件に関する意見の陳述の申出があるときは、公判期日において、その意見を陳述させるものとする。 2 前項の規定による意見の陳述の申出は、あらかじめ、検察官にしなければならない。この場合において、検察官は、意見を付して、これを裁判所に通知するものとする。

部品に分けます。誰が陳述できるか。被害者等と、被害者の法定代理人です。何を述べるか。被害に関する心情と、その他の被告事件に関する意見です。裁判所は、申出があれば、公判期日で陳述させるものとされています。原則として認める、という意味です。例外は、このあと見ます。それから、罪名に制限がないことに注意してください。殺人でも、窃盗でも、被害者等であれば、申し出られます。その対照です。設例で整理します。Sさんが亡くなっていれば、その妻や子が、被害者等として申し出られます。生きていれば、Sさん本人です。Sさんが未成年なら、法定代理人の親も申し出られます。

申出の手続と検察官の役割

申出の流れ。A(被害者等)→あらかじめ B(検察官)に申出(2項)→B が意見を付して C(裁判所)に通知→公判期日に A が陳述。検察官の役割=事件全体の立証責任を負う立場から、陳述の限界(犯罪事実の証拠にならない)を説明し、十分に意思疎通して心情が伝わるよう助言・援助する 図:申出の流れ

  • A(被害者等)→あらかじめ B(検察官)に申出(2項)→B が意見を付して C(裁判所)に通知→公判期日に A が陳述
  • 検察官の役割=事件全体の立証責任を負う立場から、陳述の限界(犯罪事実の証拠にならない)を説明し、十分に意思疎通して心情が伝わるよう助言・援助する

2項に戻ります。申出は、あらかじめ、検察官にします。裁判所に直接ではありません。検察官は、意見を付けて、裁判所に通知します。短答では、申出先は検察官、が問われます。なぜ、裁判所ではなく、検察官なのですか。検察官は、事件全体の立証に責任を負う立場だからです。ですから、被害者等に、陳述にはこういう限界がある、と説明できます。陳述は、犯罪事実を証明する証拠にはならない。この説明を受けたうえで、伝えたいことが、きちんと心情として届くように、助言や援助もできます。流れは、板のとおりです。Sさんが、まず、検察官に申し出る。検察官が、意見を付けて、裁判所に通知する。そして、公判期日に、Sさんが陳述する。窓口は、検察官です。

制限と書面による代替

陳述の制限と代替。制限(5項)=裁判長が、陳述・質問が既にしたものと重複するとき/事件に関係のない事項にわたるときその他相当でないとき。代替(7項)=裁判所が、審理の状況その他の事情を考慮して相当でないと認めるとき、陳述に代えて書面を提出させ、または陳述自体をさせない。8項=書面が提出されたら、裁判長は公判期日でその旨を明らかにし、相当と認めるときは朗読または要旨告知。制限=裁判長/代替・不実施=裁判所 図:陳述の制限と代替

  • 制限(5項)=裁判長が、陳述・質問が既にしたものと重複するとき/事件に関係のない事項にわたるときその他相当でないとき
  • 代替(7項)=裁判所が、審理の状況その他の事情を考慮して相当でないと認めるとき、陳述に代えて書面を提出させ、または陳述自体をさせない
  • 8項=書面が提出されたら、裁判長は公判期日でその旨を明らかにし、相当と認めるときは朗読または要旨告知
  • 制限=裁判長/代替・不実施=裁判所

ここで、復習を1問です。前回までの話です。証人尋問のとき、付添い、遮へい、ビデオリンクは、それぞれ何条で、どんな場合に使えましたか?付添いは157条の4、遮へいは157条の5、ビデオリンクは157条の6でした。付添いは不安や緊張のおそれ、遮へいやビデオリンクは、圧迫や負担のおそれがあって、相当と認めるときでした。この3つが、あとで、また出てきます。まず、陳述の制限です。2枚目のカードで、質問の条文も一緒に読みます。3項から5項です。

条文刑事訴訟法第292条の2第3項〜第5項

刑事訴訟法第292条の2第3項〜第5項 3 裁判長又は陪席の裁判官は、被害者等又は当該被害者の法定代理人が意見を陳述した後、その趣旨を明確にするため、これらの者に質問することができる。 4 訴訟関係人は、被害者等又は当該被害者の法定代理人が意見を陳述した後、その趣旨を明確にするため、裁判長に告げて、これらの者に質問することができる。 5 裁判長は、被害者等若しくは当該被害者の法定代理人の意見の陳述又は訴訟関係人の被害者等若しくは当該被害者の法定代理人に対する質問が既にした陳述若しくは質問と重複するとき、又は事件に関係のない事項にわたるときその他相当でないときは、これを制限することができる。

5項から見ます。裁判長は、陳述や質問が、すでにしたものと重複するとき、事件に関係のない事項にわたるとき、その他相当でないときは、制限できます。たとえば、同じ話を何度も繰り返す、事件と関係のない第三者への非難に広がる、などです。3項と4項は質問です。陳述のあとに、裁判官や訴訟関係人が質問できます。ただし、目的は、趣旨を明確にするためだけです。ここは、あとで、証人尋問と比べます。制限は、重複や、事件に関係ない部分などを、止める、または絞る、ということです。もう1つ、別の道があります。これが7項と8項です。7項は、裁判所が、審理の状況などを考えて、陳述させることが相当でないと認めるときの話です。そのときは、陳述に代えて、意見を書いた書面を出させる。または、陳述そのものをさせない、という選択肢があります。感情的な混乱が心配されるような場面に備えた、例外です。8項は、書面が出された場合です。裁判長は、公判期日で、書面が出されたことを明らかにします。そして、相当と認めるときは、その書面を朗読するか、要旨を告げます。

違いは、主体と中身です。5項の制限は、裁判長が、陳述や質問の一部を絞るものです。7項は、裁判所が、陳述そのものを書面に変えたり、させなかったりするものです。主体が違う理由はこうです。陳述の途中で一部を絞るのは、その場の進行の整理です。以前の回の訴訟指揮権と同じで、法廷を仕切る裁判長に任されます。陳述そのものを書面に変えたり、させなかったりするのは、被害者の申出を受け入れるかどうかの判断なので、裁判所が決めます。趣旨は、被害者の参加を最大限認めつつ、混乱などの例外に備えることです。

保護措置と証人尋問との異同

意見陳述と証人尋問の異同。保護措置=付添い・遮へい・ビデオリンクが証人尋問と同様に使える(6項が157条の4・157条の5・157条の6を準用)。質問=陳述の後に趣旨を明確にするためだけ(3項・4項)。宣誓=意見陳述なし/証人あり。反対尋問=意見陳述なし/証人あり。申出先=意見陳述は検察官/証人は当事者の請求・職権 図:意見陳述と証人尋問の異同

  • 保護措置=付添い・遮へい・ビデオリンクが証人尋問と同様に使える(6項が157条の4・157条の5・157条の6を準用)
  • 質問=陳述の後に趣旨を明確にするためだけ(3項・4項)
  • 宣誓=意見陳述なし/証人あり
  • 反対尋問=意見陳述なし/証人あり
  • 申出先=意見陳述は検察官/証人は当事者の請求・職権

3枚目のカードです。6項から9項まで、全文で読みます。

条文刑事訴訟法第292条の2第6項〜第9項

刑事訴訟法第292条の2第6項〜第9項 6 第百五十七条の四、第百五十七条の五並びに第百五十七条の六第一項、第二項(第八号に係る部分を除く。)及び第三項の規定は、第一項の規定による意見の陳述について準用する。 7 裁判所は、審理の状況その他の事情を考慮して、相当でないと認めるときは、意見の陳述に代え意見を記載した書面を提出させ、又は意見の陳述をさせないことができる。 8 前項の規定により書面が提出された場合には、裁判長は、公判期日において、その旨を明らかにしなければならない。この場合において、裁判長は、相当と認めるときは、その書面を朗読し、又はその要旨を告げることができる。 9 第一項の規定による陳述又は第七項の規定による書面は、犯罪事実の認定のための証拠とすることができない。

まず、6項です。付添い、遮へい、ビデオリンクの条文を、意見陳述にも準用しています。つまり、証人尋問と同じ道具が使えます。Sさんが、Rの前では話せないなら、遮へいを付ける、あるいは、別室からビデオリンクで陳述する。前回までの道具の、受け直しです。違いを、1つずつ比べていきます。1つ目、宣誓です。証人は、宣誓をします。意見陳述は、宣誓がありません。2つ目、反対尋問です。証人には、反対側の当事者が、反対尋問をします。意見陳述に反対尋問はありません。質問は、陳述のあとに、趣旨を明確にするための質問だけです。3つ目、申出先です。意見陳述は、検察官にあらかじめ申し出ます。証人は、当事者の請求、または職権で、調べられます。同じなのは、付添い、遮へい、ビデオリンクが使えることです。保護の道具は、どちらにも使えます。

証人と違って、意見陳述に反対尋問がないのは、なぜですか?短く言えば、この制度が、事実の証拠を集める場ではなく、気持ちを聴く場として作られたからです。それが9項に書いてあります。次の節で、冒頭の問いと一緒に確かめます。

証拠にならないが量刑では考慮される

冒頭の問いの答え。被害者が「犯人はこの人です」と述べたら有罪の証拠になるか=ならない(9項)。陳述(と7項の書面)は犯罪事実の認定のための証拠とすることができない。使えない=有罪か無罪か・どんな事実があったか(誰が・何を言った・金額)。理由=宣誓も反対尋問も経ていない供述で事実を認めると、被告人の証人審問権(反対尋問で確かめる機会)を害する。事実を語りたいなら証人尋問 図:冒頭の問いの答え

  • 被害者が「犯人はこの人です」と述べたら有罪の証拠になるか=ならない(9項)
  • 陳述(と7項の書面)は犯罪事実の認定のための証拠とすることができない
  • 使えない=有罪か無罪か・どんな事実があったか(誰が・何を言った・金額)
  • 理由=宣誓も反対尋問も経ていない供述で事実を認めると、被告人の証人審問権(反対尋問で確かめる機会)を害する
  • 事実を語りたいなら証人尋問

ここが、山場です。冒頭の問いに答えます。その前に、1つ、立ち止まってください。事実を認定するときに、証拠に求められる条件は何でしょうか?証拠として調べる手続を経ていて、被告人側が反対尋問などで確かめられることだと思います。ここから、答えを導きます。9項は、陳述と、7項の書面を、犯罪事実の認定のための証拠とすることができない、としています。つまり、被害者が法廷で、犯人はこの人です、と述べても、それで有罪とは認定できません。理由は、先ほどの2つの違いです。意見陳述は、宣誓もなく、反対尋問もありません。そういう供述で、被告人を有罪とする事実を認めてしまうと、被告人の証人審問権とぶつかります。以前の回で見た、不利な話をする人を、反対尋問で確かめる機会のことです。確かめられない言葉で有罪が決まれば、被告人は、その言葉の誤りを突く場面を持てません。証人尋問と伝聞の考え方は、この確かめる機会を守るためにあります。裏から言えば、事実を語りたいのなら、証人として尋問を受ける道があります。検察官が請求して、宣誓をして、反対尋問を経る。そうすれば、証拠になります。さきほどの、なぜ反対尋問が無いのか、の答えもここにあります。気持ちを聴く場として作り、事実の証拠には使わないと決めた。だから、確かめる手続を付けなくてよいのです。喩えるなら、感想文と証言台です。感想文は、読んでもらえます。しかし、事実の証拠としては採用されません。証言台に立てば、確かめられる代わりに、証拠になります。

量刑ではどこまで使えるか。9項が禁じるのは犯罪事実の認定への使用だけ。量刑の事情=犯情(被害の額・脅し方など=犯罪事実と重なる・厳格な証明が要る)→意見陳述からは認められない(×)/一般情状(犯情以外=心の傷・処罰への気持ち)→量刑の資料になる(○)。境界ペア=×「あの男が犯人だ」「取られた金額が大きい」/○「夜も眠れず、今も店に立つのが怖い」「厳しく処罰してほしい」 図:量刑ではどこまで使えるか

  • 9項が禁じるのは犯罪事実の認定への使用だけ
  • 量刑の事情=犯情(被害の額・脅し方など=犯罪事実と重なる・厳格な証明が要る)→意見陳述からは認められない(×)/一般情状(犯情以外=心の傷・処罰への気持ち)→量刑の資料になる(○)
  • 境界ペア=×「あの男が犯人だ」「取られた金額が大きい」/○「夜も眠れず、今も店に立つのが怖い」「厳しく処罰してほしい」

条文の書き方を見てください。9項が禁じているのは、犯罪事実の認定への使用だけです。有罪か無罪か、どんな事実があったか、には使えません。では、刑の重さの方はどうか。以前の回で、量刑の事情を、犯罪事実と重なる犯情と、それ以外の一般情状に分けました。犯情には、厳格な証明が要るのでした。被害の額や脅し方のような犯情を、宣誓も反対尋問もない陳述から認めれば、9項が禁じた事実認定を、量刑の名前でしてしまうことになります。だから、犯情は、意見陳述からは認められません。使えるのは、心の傷や、処罰についての気持ちといった、犯情以外の事情です。その範囲で、量刑の資料になると考えられます。趣旨を重ねます。心情を述べるだけなら、被告人の防御を害しません。被告人は、事実の有無を争う機会を奪われないからです。一方で、被害者の声を、裁判に反映させることができます。守りたいものを守り、反映させたいものを反映させる、折り合いの形です。冒頭の物差しでいえば、いちばん深い関わりに付いた歯止めが、この9項です。量刑での被害感情の扱いは、量刑の回で詳しく見ます。境界を、ペアで確かめます。使えない側です。Rに脅されてお金を取られた、あの男が犯人だ、という陳述。犯人は誰か、何があったか、という犯罪事実そのものです。使える側です。あの出来事のあと、夜も眠れず、今も店に立つのが怖い、厳しく処罰してほしい。心の傷と、処罰への気持ちです。同じSさんの話でも、取られた金額が大きい、という部分は犯情なので、ここからは認められません。量刑の事情として、聴かれます。

もう1つ、冒頭の問いに戻ります。犯人はこの人です、という言葉は、証拠にならない。それでも、刑の重さを決めるときには、考えに入れてよい。両方成り立つのは、9項が、犯罪事実の認定という使い道だけを禁じているからです。論文でも、この区別は論点になりえます。

比較表と節目のミニ事例

意見陳述と証人尋問の比較表。宣誓=意見陳述なし/証人あり。反対尋問=意見陳述なし(趣旨を明確にする質問のみ)/証人あり。申出先=意見陳述は検察官/証人は当事者の請求・職権。付添い等の保護措置=どちらも使える。犯罪事実の認定の証拠=意見陳述はできない(9項)/証人はなる。量刑で考慮=意見陳述は犯情以外の事情に限り考慮できる/証人の証言は証拠として量刑にも使える 図:意見陳述と証人尋問の比較表

  • 宣誓=意見陳述なし/証人あり
  • 反対尋問=意見陳述なし(趣旨を明確にする質問のみ)/証人あり
  • 申出先=意見陳述は検察官/証人は当事者の請求・職権
  • 付添い等の保護措置=どちらも使える
  • 犯罪事実の認定の証拠=意見陳述はできない(9項)/証人はなる
  • 量刑で考慮=意見陳述は犯情以外の事情に限り考慮できる/証人の証言は証拠として量刑にも使える

比較表で、整理します。縦に、宣誓、反対尋問、申出先、付添い等の保護措置、犯罪事実の認定の証拠、量刑での考慮。横に、意見陳述と証人尋問です。宣誓。意見陳述はなし、証人はあり。反対尋問。意見陳述はなし、質問は趣旨を明確にするためだけ。証人はあり。申出先。意見陳述は検察官、証人は当事者の請求か職権です。保護措置は、どちらも使えます。犯罪事実の認定の証拠。意見陳述はなりません。証人はなります。量刑での考慮。意見陳述は、犯情以外の事情に限って、考慮できます。証人の証言は、証拠ですから、量刑にも使えます。節目のミニ事例です。どちらの制度か、考えてください。

節目のミニ事例。1 被害者Sさんが、恐喝の場面を見たとおりに話し、被告人を犯人だと述べたい/2 Sさんが、夜眠れないこと・今も店に立つのが怖いこと・厳しい処罰を望むことを述べたい/3 意見陳述の申出をどこにするか/4 意見陳述で、被告人側の弁護人がSさんに反対尋問をしたい 図:節目のミニ事例

1つ目。Sさんが、恐喝された場面を、見たとおりに話し、被告人を犯人だと述べたい。事実の話なので、証人として確かめる手続が要ります。2つ目。Sさんが、夜眠れないこと、今も店に立つのが怖いこと、厳しい処罰を望むことを述べたい。気持ちの話は、犯情以外の事情として、量刑で聴かれます。3つ目。その意見陳述の申出は、誰にしますか。あらかじめ、検察官にします。窓口は、裁判所ではなく、検察官でした。4つ目。意見陳述で、弁護人が、Sさんに反対尋問をしたいと言いました。できますか。反対尋問はありません。質問は、趣旨を明確にするためだけです。弁護人ができるのは、陳述の中身をはっきりさせるための質問までです。

短答の○×一覧。通知制度・優先傍聴・閲覧謄写・意見陳述の落とし穴を並べる 図:短答の○×一覧。通知制度・優先傍聴・閲覧謄写・意見陳述の落とし穴を並べる

短答で確認します。被害者等通知制度は、刑訴法に明文がある。×です。検察庁の運用です。被害者等通知制度の対象は、一定の重大事件に限られる。×です。事件の種類で限定されません。優先傍聴は、被害者等に傍聴する権利を認めたものである。×です。裁判長に配慮を義務づけたもので、傍聴する権利ではありません。被害者等は、第1回公判期日の前でも、保護法3条で記録の閲覧と謄写を求められる。×です。第1回公判期日の後から、事件の終結までです。裁判所は、閲覧と謄写の申出があれば、いつでも拒める。×です。原則として認めるもので、例外は、理由が正当でないとき、相当でないときです。心情等の意見陳述の申出は、裁判所にする。×です。あらかじめ、検察官にします。意見陳述は、罪名が限られた事件でだけ認められる。×です。罪名の制限はありません。意見陳述では、宣誓をさせたうえで、反対尋問ができる。×です。宣誓も反対尋問もありません。意見陳述は、犯罪事実の認定のための証拠とすることができない。○です。意見陳述は、量刑の資料として考慮することができない。×です。9項が禁じているのは、犯罪事実の認定への使用だけです。裁判所が、審理の状況から相当でないと認めるとき、陳述に代えて書面を提出させることができる。○です。陳述の制限は、裁判長が、代替や不実施は、裁判所が行う。○です。

今日の地図(保存版)

まとめの地図。被害者の関与の深さの順=知る(通知=運用)/見る(優先傍聴=配慮義務)/読む(閲覧・謄写=原則許可+例外)/気持ちを述べる(意見陳述=申出は検察官・宣誓なし・反対尋問なし・犯罪事実の証拠にならない・量刑では考慮できる)。冒頭の問いの答え=犯人はこの人です、と述べても有罪の証拠にならない。事実を語るなら証人尋問 図:まとめの地図

  • 被害者の関与の深さの順=知る(通知=運用)/見る(優先傍聴=配慮義務)/読む(閲覧・謄写=原則許可+例外)/気持ちを述べる(意見陳述=申出は検察官・宣誓なし・反対尋問なし・犯罪事実の証拠にならない・量刑では考慮できる)
  • 冒頭の問いの答え=犯人はこの人です、と述べても有罪の証拠にならない
  • 事実を語るなら証人尋問

今日のまとめです。被害者が、自分から裁判に関わる、最初の入口を見ました。知ること。被害者等通知制度は、検察庁の運用で、条文がありません。事件の種類でも限られません。見ること。優先傍聴は、裁判長に配慮を義務づけるもので、傍聴する権利ではありません。読むこと。第1回公判期日の後から、原則として閲覧と謄写ができ、例外があります。確定後は、何人でも閲覧できます。そして、気持ちを述べること。292条の2の意見陳述です。申出は、あらかじめ、検察官にします。裁判長は制限でき、裁判所は書面に代えられます。保護の道具は、証人尋問と同じものが使えます。ただし、宣誓も反対尋問もありません。冒頭の問いの答えです。被害者が、法廷で、犯人はこの人です、と述べても、有罪の証拠にはなりません。9項が、犯罪事実の認定のための証拠とすることを禁じているからです。事実を語るなら、証人として尋問を受ける道があります。一方、心の傷や、処罰への気持ちといった心情は、量刑を考える材料になります。次は、被害者が、検察官の隣に座って、裁判に参加する仕組みです。証人や被告人に、自分で質問をすることもできます。

参照条文

  • 犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律第2条
  • 刑事訴訟法第53条第1項
  • 犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律第3条第1項〜第3項
  • 刑事訴訟法第292条の2第1項・第2項
  • 刑事訴訟法第292条の2第3項〜第5項
  • 刑事訴訟法第292条の2第6項〜第9項

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