抗告と特別抗告
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第8章 上訴と救済手続 ④/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入
図:今日の問い
- 被告人Zは、勤め先の売上金を着服したとして業務上横領で起訴され、争っている
- 公判が始まり、弁護人が保釈を請求したが、審理を担当している裁判所は「罪証隠滅のおそれがある」として請求を却下した
- 判決ではないこの裁判に不服がある
- ①どんな名前の不服申立てができ、行き先はどこか
- ②それが退けられたら、さらに上へ行けるか
- ③不服を受けた上の裁判所は、原決定にとらわれず保釈の可否を自由にやり直せるか
前回の最後に、判決以外の裁判にも不服申立てがある、と言いました。判決に対する上訴が控訴と上告で、決定に対する上訴が、今日の抗告です。今日の被告人Zは、前回までとは別の事件の人です。Zは、勤め先の売上金を着服したとして、業務上横領で起訴されました。Zは争っています。公判が始まり、弁護人が保釈を請求しました。ところが、審理を担当している裁判所は、罪証隠滅のおそれがあるとして、請求を却下したのです。判決ではない裁判に、不服があります。問いは3つです。1つ目。この裁判には、どんな名前の不服申立てができて、行き先はどこか。2つ目。それが退けられたら、さらに上へ行けるのか。3つ目。不服を受けた上の裁判所は、不服を申し立てられたもとの決定、つまり原決定にとらわれず、記録を見て保釈の可否を自由にやり直せるのか。
先に、答えの形だけ言います。名前は、裁判の形で決まります。決定なら抗告で、行き先は高等裁判所です。上の裁判所は、やり直すのではなく、保釈のような裁量の判断については、原決定が不合理でないかを見ます。その先は特別抗告で、理由は憲法違反と判例違反などに絞られます。中身は、順に見ていきます。
図:不服申立ての地図
- 判決=控訴・上告/決定=抗告(一般抗告は高等裁判所、特別抗告は最高裁判所)/命令・処分=準抗告(別の体系)
- 上訴の名前は、不服の対象になる裁判の形で決まる
- 今日は決定の側を通す
地図です。上訴の名前は、不服の対象になる裁判の形で決まります。判決には控訴と上告、決定には抗告でした。抗告には行き先が2つあり、ふつうの抗告は高等裁判所へ、最後の特別な抗告は最高裁判所へ向かいます。裁判官の命令には、前回の最後に名前を出した準抗告という、別の体系がありますが、今日は決定の側だけを通ります。決定とは、裁判所がする裁判のうち、公判廷での審理を経なくてもできるものでした。命令は、裁判体としてではなく、個々の裁判官がする裁判です。保釈の許否は、裁判所のする決定です。まず、抗告にどんな種類があるのかから見ます。
抗告の種類と行き先
図:抗告の3分類
- 一般抗告(行き先=高等裁判所・裁判所法16条2号)=通常抗告(明文の特則がなくてもできる原則形・419条)/即時抗告(明文の規定がある場合だけ・期間が短い)
- 特別抗告(行き先=最高裁判所・裁判所法7条2号・433条)=別枠の最後の道
- 抗告権者=検察官・被告人(351条)・決定を受けた人(352条)
抗告の出発点は、第419条です。
条文刑事訴訟法第419条
刑事訴訟法第419条 抗告は、特に即時抗告をすることができる旨の規定がある場合の外、裁判所のした決定に対してこれをすることができる。但し、この法律に特別の定のある場合は、この限りでない。
抗告は、裁判所のした決定に対してできます。出発点は、決定ならまず抗告できる、という原則です。ただし書は、この法律に特別の定めがあれば別、という意味で、あとで見る特別抗告などが入ります。抗告は、3つに分けて整理します。まず、一般抗告です。通常抗告と即時抗告の総称で、行き先は高等裁判所です。裁判所法の第16条第2号が、地方裁判所や家庭裁判所の決定への抗告を、高等裁判所の仕事と定めています。通常抗告は、明文の特則がなくてもできる、原則の形です。即時抗告は、特に即時抗告ができると書かれている決定だけに認められ、そのかわり期間が短い。この違いは、あとで比べ表にします。そして3つ目が、特別抗告です。行き先は最高裁判所で、裁判所法第7条第2号が根拠です。上の裁判所ではありますが、高等裁判所の判断を、もう一度ふつうに見直してもらう場ではありません。ほかに不服を申し立てる道がないときの、別枠の最後の道です。
検察官と被告人が中心です。弁護人は、被告人のために申し立てられます。加えて、決定を受けた人も抗告できます。第352条です。たとえば、証人として呼ばれたのに出頭せず、過料の決定を受けた証人は、当事者ではなくても、その決定に抗告できます。Zの場面なら、保釈を却下されたZ側が抗告でき、保釈が許可された場合は、検察官が抗告しうる、ということです。注意点が1つあります。抗告の対象は、裁判所のした決定です。裁判官のした一定の命令への不服は、抗告ではなく、準抗告という別の制度になります。
判決前の決定は抗告できない・第420条
図:420条の原則と例外
- 1項=裁判所の管轄又は訴訟手続に関し判決前にした決定は、抗告できない(要件は2つ=判決前/管轄又は訴訟手続に関する)
- 例外(a)=即時抗告の規定がある決定(例=忌避申立ての却下〔25条〕)
- 例外(b)=2項の勾留・保釈・押収・押収物の還付・鑑定のためにする留置
- 3項=勾留は犯罪の嫌疑がないことを理由にできない
- 理由=途中の決定ごとに抗告を許すと訴訟が止まる/最後の判決の上訴でまとめて争える/勾留・保釈等は身体や財産に直接かかわる
ここで、立ち止まって考えてください。審理の途中で、裁判所が、弁護人の証拠調べ請求を却下しました。この決定に、すぐ高等裁判所へ抗告できるでしょうか?決定である以上、第419条で抗告できそうに見える、というのは自然な考え方です。でも、答えは、できません。裁判の意義の回で、判決前の訴訟手続に関する決定は原則として抗告できない、と結論だけ見ました。その条文と理由が、第420条です。
条文刑事訴訟法第420条
刑事訴訟法第420条 裁判所の管轄又は訴訟手続に関し判決前にした決定に対しては、この法律に特に即時抗告をすることができる旨の規定がある場合を除いては、抗告をすることはできない。 2 前項の規定は、勾留、保釈、押収(電磁的記録提供命令(第百二条の二第一項第一号イに掲げる方法による提供を命ずるものに限る。)を含む。)、押収物の還付、電磁的記録提供命令(同号ロに掲げる方法による提供を命ずるものに限る。)又は第百二十三条の二第一項(第五百十三条第十項において読み替えて準用する場合を含む。)の規定による複写に関する決定及び鑑定のためにする留置に関する決定については、これを適用しない。 3 勾留に対しては、前項の規定にかかわらず、犯罪の嫌疑がないことを理由として抗告をすることはできない。
第1項は、原則を定めています。抗告できない決定の条件は、2つです。1つ目は、判決前にした決定であること。2つ目は、管轄または訴訟手続に関する決定であること。この2つを満たす決定には、原則として抗告できません。証拠調べ請求の却下や、審理の進め方の決定が、この典型です。たとえて言えば、建物を建てている最中に、現場の指示のたびに、別の部署へ差し止めを持ち込める仕組みにしたらどうなるか、です。工事は止まってばかりで、いつまでも完成しません。審理の途中の決定ごとに上級審へ抗告を許せば、そのたびに公判が止まります。途中の判断の誤りは、最後の判決に対する控訴や上告の中で、まとめて争えば足ります。一方で、完成まで待てない指示もあります。現場への立入禁止のように、人の動きそのものを縛る指示です。裁判でいえば、勾留や保釈は、身体の自由に直接かかわります。押収は、財産に直接かかわります。判決まで待っていたら、取り返しがつきません。だから、これらは例外として、すぐ争えます。条文で確かめると、例外は2種類あります。1つ目は、第1項の中にあります。この法律に特に即時抗告ができるという規定がある決定は、抗告できます。たとえば、裁判官を替えてほしいという忌避の申立てを却下する決定には、第25条で即時抗告ができます。2つ目が、第2項です。勾留、保釈、押収、押収物の還付、鑑定のための留置に関する決定には、第1項の制限が及びません。括弧の中の細かい言葉は、気にしなくて大丈夫です。
Zの保釈の却下は、判決前で、訴訟手続に関する決定の形をしています。ですが、保釈は第2項に載っているので、例外として抗告できます。これが、冒頭の1つ目の問いの答えです。第3項は、勾留の裁判だけに付いた歯止めです。勾留に対して、犯罪の嫌疑がないことを理由に、抗告はできません。嫌疑があるかどうか、つまり、やったのかやっていないのかは、本案、つまり有罪か無罪かの審理で決める事柄です。逃亡や罪証隠滅のおそれがないとか、勾留する必要がないとか、そういう勾留の中身を理由にするなら、争えます。「そもそもやっていない」だけでは、理由にできない。これが、答案での使いどころです。
通常抗告と即時抗告
図:通常抗告と即時抗告の比較
- 通常抗告=根拠は419条/期間はいつでも(421条・ただし原決定を取り消しても実益がなくなったときは不可)/効力は裁判の執行を停止しない(424条1項本文)・原裁判所は決定で抗告の裁判があるまで停止できる(同但書)・抗告裁判所も決定で停止できる(同2項)
- 即時抗告=根拠は明文の規定がある場合だけ(例=25条の忌避申立ての却下・339条2項の公訴棄却の決定)/期間は3日(422条)/効力は提起期間内と申立てがあったとき、執行は停止される(425条)
- 覚え方=期間が短い代わりに、止まる
次は、通常抗告と即時抗告の違いです。その前に、復習を1問。前回見た、上告棄却の決定に対する異議は、何日以内にするのでしたか?3日以内です。あの3日は、即時抗告の期間を借りたものです。その即時抗告を、今日見ます。
条文刑事訴訟法第421条・第422条・第424条・第425条
刑事訴訟法第421条・第422条・第424条・第425条 第421条 抗告は、即時抗告を除いては、何時でもこれをすることができる。但し、原決定を取り消しても実益がないようになつたときは、この限りでない。 第422条 即時抗告の提起期間は、三日とする。 第424条 抗告は、即時抗告を除いては、裁判の執行を停止する効力を有しない。但し、原裁判所は、決定で、抗告の裁判があるまで執行を停止することができる。 2 抗告裁判所は、決定で裁判の執行を停止することができる。 第425条 即時抗告の提起期間内及びその申立があつたときは、裁判の執行は、停止される。
比べるところは、期間と、止まるかどうかの2つです。通常抗告には、期限がありません。ただし、取り消しても意味がなくなったあとは、できません。たとえば、勾留の決定に抗告している間に、その勾留が取り消されて、被告人が釈放された場合です。そして、通常抗告をしても、裁判の執行は止まりません。止めたいときは、原裁判所か抗告裁判所に、停止の決定をしてもらう必要があります。即時抗告は、期間が3日です。そのかわり、提起期間内と、申立てがあったときは、裁判の執行が停止されます。即時抗告ができる決定は、明文の規定があるものだけです。先ほどの、忌避の申立てを却下する決定もそうですし、訴訟条件の回で条文を読んだ、公訴棄却の決定も、第339条第2項で即時抗告ができます。
手がかりは、期間です。即時抗告は、3日と短く区切ってあります。だから、その間と申立てのあとだけ執行を止めても、待たせる時間は限られます。たとえば、検察官が、公訴棄却の決定に即時抗告したとします。3日の間は決定の効果が確定せず、抗告の結論を待つ、という形です。通常抗告は逆に、いつでもできます。もし申し立てるだけで執行が止まるなら、抗告さえすれば、いつまでも執行を先送りにできてしまいます。だから、通常抗告は自動では止まらず、止めたいときだけ、別に停止の決定を求める形になっている。そう整理できます。期間が短い代わりに、止まる。この対応で覚えてください。Zの場面に当てはめます。保釈の許否の決定への抗告は、通常抗告です。第420条第2項は、抗告できる、というだけで、即時抗告ができるとは書いていません。だから、期間の定めはありません。そして、抗告しても、保釈を許可した効力は、自動では止まりません。たとえば、検察官が、保釈の許可に抗告した場合でも、止めたいなら、原裁判所か抗告裁判所の停止の決定が要ります。
抗告の手続と再度の考案
図:抗告の流れ
条文刑事訴訟法第423条
刑事訴訟法第423条 第423条 抗告をするには、申立書を原裁判所に差し出さなければならない。 2 原裁判所は、抗告を理由があるものと認めるときは、決定を更正しなければならない。抗告の全部又は一部を理由がないと認めるときは、申立書を受け取つた日から三日以内に意見書を添えて、これを抗告裁判所に送付しなければならない。
抗告をするときの手続を見ます。申立書は、上訴裁判所、つまり抗告裁判所に宛てて書きますが、差し出す先は、原裁判所です。原裁判所とは、問題の決定をした裁判所のことです。第423条第1項で、これは、前に見た控訴の手続と同じ型です。特徴は、そのあとです。申立書を受け取った原裁判所は、すぐに上へ送るのではなく、もう一度、自分で考えます。これを、再度の考案といいます。抗告に理由があると認めれば、自分で決定を更正します。Zの場面なら、保釈を却下した地方裁判所が、申立書を読んで考え直し、自分で保釈を許す決定に改める、ということです。理由がないと認めれば、申立書を受け取った日から3日以内に、意見書を添えて、抗告裁判所に送ります。第423条第2項です。3日と聞くと、即時抗告の提起期間の3日と混ざりやすいので、区別してください。即時抗告のほうの3日は、抗告する側が申し立てる期間です。再度の考案の3日は、原裁判所が、意見書を添えて送る期限です。送られた抗告裁判所は、記録などを見て審査します。必要があれば、原裁判所が、訴訟記録や証拠物を抗告裁判所に送ります。抗告裁判所は、決定で裁判をして、その結果が原裁判所に通知されます。
原裁判所がまず自分で考え直すのは、決定をした裁判所自身が、誤りに気づくことがあるからです。上級審に行く前に自分で直せるなら、そのほうが早くて確実です。そして、この意見書は、あとで見る判例で、重要な役割を果たします。
抗告審の裁判と行き止まり
図:抗告審の裁判と行き止まり
- 抗告裁判所の裁判(426条)=手続違反・理由なし→決定で棄却/理由あり→決定で原決定を取り消し、必要がある場合は更に裁判
- 抗告裁判所の決定に再抗告はできない(427条)→残る道=特別抗告(最高裁・433条)
- 高等裁判所が最初にした決定=抗告不可(428条1項)/異議(428条2項・同じ高等裁判所へ)
- Zの道=地方裁判所の保釈却下→高等裁判所(抗告審)→再抗告なし→特別抗告
抗告裁判所は、審査の結果をどう裁判するのか。第426条と、第427条です。
条文刑事訴訟法第426条・第427条
刑事訴訟法第426条・第427条 第426条 抗告の手続がその規定に違反したとき、又は抗告が理由のないときは、決定で抗告を棄却しなければならない。 2 抗告が理由のあるときは、決定で原決定を取り消し、必要がある場合には、更に裁判をしなければならない。 第427条 抗告裁判所の決定に対しては、抗告をすることはできない。
抗告に理由がなければ、決定で棄却します。理由があれば、原決定を取り消して、必要がある場合は、更に裁判をします。更に裁判をする、というのは、抗告裁判所が自分で結論を出すことです。たとえば、保釈の却下を取り消したあと、自分で保釈を許可する、というように。そして、第427条です。抗告裁判所の決定に対しては、抗告できません。再抗告はない、ということです。抗告は、一回きりです。ここで、冒頭に出した2つ目の問いの入口に来ました。Zの保釈却下について、高等裁判所が抗告を棄却したら、さらに抗告はできません。抗告は、決定という、簡易で迅速な手続のための不服申立てです。繰り返しを許すと、その迅速さが失われます。一方で、完全に道が閉ざされるわけではありません。ほかに道がないときのために、特別抗告が残っています。
条文刑事訴訟法第428条
刑事訴訟法第428条 高等裁判所の決定に対しては、抗告をすることはできない。 2 即時抗告をすることができる旨の規定がある決定並びに第四百十九条及び第四百二十条の規定により抗告をすることができる決定で高等裁判所がしたものに対しては、その高等裁判所に異議の申立をすることができる。 3 前項の異議の申立に関しては、抗告に関する規定を準用する。即時抗告をすることができる旨の規定がある決定に対する異議の申立に関しては、即時抗告に関する規定をも準用する。
もう1つ、似た条文を並べます。第428条です。高等裁判所の決定には、抗告できません。高等裁判所の上は最高裁判所で、最高裁は、ふつうの抗告を受ける裁判所ではないからです。とはいえ、地方裁判所がした保釈の却下なら高等裁判所に見てもらえるのに、高等裁判所がしたというだけで、一度も見直してもらえないのでは、釣り合いません。そこで、即時抗告ができる決定や、第419条と第420条で抗告できる決定で、高等裁判所がしたものには、抗告の代わりに、その高等裁判所への異議があります。控訴審の回で見た、同じ高等裁判所への異議です。期間は、第3項で決まります。この異議には、抗告の規定が準用されます。即時抗告ができる決定への異議なら、即時抗告の規定も準用されるので、3日以内です。前回の、上告棄却の決定への異議の3日も、即時抗告の規定を借りたものでした。そうでない決定への異議は、通常抗告と同じで、期間の定めはありません。ここを混ぜないでください。分かれ目は、その決定が、すでに一度、見直しを経た結果かどうかです。高等裁判所が、抗告審としてした決定は、地方裁判所の決定を見直した結果です。見直しは一度済んでいるので、第427条の筋で、抗告も異議もできません。これに対して、高等裁判所が、最初にした決定は、まだ一度も見直しを受けていません。だから、第428条の筋で、対象になる決定なら、異議があります。たとえば、控訴審の途中で、高等裁判所が保釈を却下したとします。これは高等裁判所の最初の決定なので、抗告ではなく、同じ高等裁判所への異議です。保釈の決定は即時抗告ができる型ではないので、この異議に期間の定めはありません。Zの道は、地方裁判所の保釈却下に対する抗告で、高等裁判所が抗告審として判断しますから、第427条の筋です。
特別抗告・第433条
図:特別抗告
- 対象=この法律により不服を申し立てることができない決定・命令(例=抗告審の決定・異議もできない高等裁判所の決定)
- 理由=405条の事由(憲法違反・憲法解釈の誤り・判例違反)に限る=上告理由と同じ
- 行き先=最高裁判所
- 期間=5日
- 434条=423条・424条・426条を準用
- 規則275条=趣意についてのみ調査・405条の事由は職権でも調査できる
- 名前だけの憲法違反は不可(実質が法令違反・事実誤認なら門は開かない)
最後の道、特別抗告です。第433条と第434条です。
条文刑事訴訟法第433条
刑事訴訟法第433条 この法律により不服を申し立てることができない決定又は命令に対しては、第四百五条に規定する事由があることを理由とする場合に限り、最高裁判所に特に抗告をすることができる。 2 前項の抗告の提起期間は、五日とする。
対象は、この法律により不服を申し立てることができない決定や命令です。典型は、抗告審の決定と、異議の申立てもできない高等裁判所の決定です。抗告も異議もできず、ほかに道がないときの、最後の道ということです。行き先は最高裁判所、期間は5日です。即時抗告の3日と違うので、注意してください。そして、理由が限られます。第405条に規定する事由があることを理由とする場合に限る。つまり、上告理由と同じです。憲法違反、憲法解釈の誤り、判例違反です。
条文刑事訴訟法第434条
刑事訴訟法第434条 第四百二十三条、第四百二十四条及び第四百二十六条の規定は、この法律に特別の定のある場合を除いては、前条第一項の抗告についてこれを準用する。
第434条により、申立書は原裁判所に差し出し、再度の考案があり、棄却や取消しの裁判のしかたも、抗告と同じ型です。たとえて言えば、最上階の窓口には、受け付ける用件が、看板に3つだけ書いてあるようなものです。最高裁の役目は、憲法を守ることと、法令の解釈をそろえることでした。前回の上告の門と、同じ型です。だから、事実誤認だ、法令違反だ、刑が重い、という主張だけでは、特別抗告の理由になりません。Zなら、保釈を認めない判断の考え方に納得できない、というだけでは、足りないということです。さらに、名前だけの憲法違反では足りません。憲法違反と書いてあっても、実質が法令違反や事実誤認なら、門は開かないのです。看板の用件に合わせて、表紙だけ書き換えた苦情は、受け付けてもらえません。これも上告と同じで、あとの判例でその実例を見ます。
条文刑事訴訟規則第275条
刑事訴訟規則第275条 最高裁判所は、法第四百三十三条の抗告については、申立書に記載された抗告の趣意についてのみ調査をするものとする。但し、法第四百五条に規定する事由については、職権で調査をすることができる。
最高裁が調べるのは、原則として、申立書に書かれた趣意だけです。ただし、第405条の事由だけは、書かれていなくても、最高裁が自分から調べられます。これを職権といいます。当事者の申立てを待たず、裁判所が自分の判断で動くことです。門は狭いけれど、閉ざされてはいない。この感覚を持って、次の判例を読みます。
抗告審のものさし
図:事案と経過
- 詐欺の被告人
- 公判が進み最重要証人の主尋問が終わった段階で、受訴裁判所が保釈を許可(裁量保釈・90条)→受訴裁判所が423条2項後段の意見書を高等裁判所へ送付→高等裁判所(抗告審)は許可を取り消して保釈請求を却下→特別抗告
- 最一小決平26・11・18
ここが、今日の山場です。冒頭の3つ目の問いに戻ります。抗告を受けた高等裁判所は、原決定にとらわれず、記録を見て保釈の可否を自由にやり直せるでしょうか。それとも、見るべきものさしが、決まっているのでしょうか?抗告審なら一から決め直せる、という見方は、今日の判例で退けられます。まず、保釈の裁量の条文を見ます。
条文刑事訴訟法第90条
刑事訴訟法第90条 裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。
保釈の回で見た、裁量保釈です。請求があれば原則として許す権利保釈が使えない場合でも、裁判所が適当と認めるときは、保釈を許せる。この判断は、裁判所の裁量に委ねられています。事案です。詐欺の事件の被告人について、公判が進み、最も重要な証人の主尋問が終わった段階で、審理を担当する受訴裁判所が、保釈を許可しました。共犯者などの関係者と接触しない、という条件つきです。受訴裁判所とは、現に事件の審理を担当している裁判所のことです。この許可に対して抗告がされ、受訴裁判所は、先ほどの再度の考案の手続で、意見書を、高等裁判所に送りました。最高裁は、その意見書から、罪証隠滅に及ぶ現実的な可能性は高いとはいえず、勾留もすでに相当な期間に及んでいる、といった事情を考慮して許可したと読み取れる、としています。ところが、抗告審の高等裁判所は、罪証隠滅のおそれは相当に強度で、いま保釈するのは裁量の範囲を超えている、として、許可を取り消し、保釈請求を却下しました。その結果に対して、特別抗告がされた、という経過です。
図:最高裁の判断の骨組み
- 最高裁は、433条の抗告理由に当たらないとしつつ、職権で調査して高等裁判所の決定を取り消し、許可に対する抗告を棄却
- ものさし=抗告審は原決定の当否を事後的に審査する/受訴裁判所の裁量の範囲を逸脱していないか、すなわち不合理でないか/覆すなら不合理であることを具体的に示す
- 最一小決平26・11・18
先に結論の形から言います。最高裁は、特別抗告の理由には当たらないとしつつ、職権で調べて、高等裁判所の決定を取り消しました。判旨は、3つに分けて聞いてください。入口、ものさし、当てはめの順です。決定のうち、つながりのある部分を読みます。判旨に出てくる言葉を、先に対応させておきます。最高裁から見るので、原決定は、高等裁判所が保釈の許可を取り消した決定です。原々決定は、そのもう1つ前、受訴裁判所が保釈を許可した決定で、原々審は、その受訴裁判所のことです。
判例最一小決平26・11・18 刑集68巻9号1020頁
特別抗告の理由には当たらないが、職権で取り消した 本件抗告の趣意は,憲法違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法433条の抗告理由に当たらない。 …… しかし,所論に鑑み,職権により調査すると,被告人の保釈を許可した原々決定を取り消して保釈請求を却下した原決定には,刑訴法90条,426条の解釈適用を誤った違法があり,取消しを免れない。
ここまでが入口です。理由には当たらない。それでも最高裁は、職権で中身を調べました。その根拠は、当てはめのところで言います。次が、抗告審のものさしです。
判例最一小決平26・11・18 刑集68巻9号1020頁
抗告審の審査のしかた 抗告審は,原決定の当否を事後的に審査するものであり,被告人を保釈するかどうかの判断が現に審理を担当している裁判所の裁量に委ねられていること(刑訴法90条)に鑑みれば,抗告審としては,受訴裁判所の判断が,委ねられた裁量の範囲を逸脱していないかどうか,すなわち,不合理でないかどうかを審査すべきであり,受訴裁判所の判断を覆す場合には,その判断が不合理であることを具体的に示す必要があるというべきである。 …… しかるに,原決定は,これまでの公判審理の経過及び罪証隠滅のおそれの程度を勘案してなされたとみられる原々審の判断が不合理であることを具体的に示していない。
前半が、ものさしの文言です。最初に出てくる原決定だけは、抗告審一般の話なので、抗告審が審査するもとの決定、この事件でいえば受訴裁判所の許可を指します。覆す側が、不合理だと具体的に示さなければならない、という内容です。後半は、高等裁判所の決定がその示し方を欠いていた、という指摘です。続いて、3つ目の当てはめと結論です。
判例最一小決平26・11・18 刑集68巻9号1020頁
原決定の取消しと、更に裁判 …… このように不合理とはいえない原々決定を,裁量の範囲を超えたものとして取り消し,保釈請求を却下した原決定には,刑訴法90条,426条の解釈適用を誤った違法があり,これが決定に影響を及ぼし,原決定を取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。 …… よって,刑訴法411条1号を準用して原決定を取り消し,同法434条,426条2項により更に裁判すると,上記のとおり,本件については保釈を許可した原々決定に誤りがあるとはいえないから,それに対する抗告は,同条1項により棄却を免れず,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
3つを順に言い直します。1つ目は、特別抗告の入口です。最高裁は、特別抗告の趣意は、憲法違反をいう点を含めても、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張で、第433条の理由に当たらない、と言いました。名前だけの憲法違反は、門を通らない。先ほどの感覚と同じです。2つ目は、抗告審のものさしです。平たく言うと、抗告審は、保釈の可否を一から決め直す場所ではありません。現に審理を担当する受訴裁判所の判断が、任された裁量の枠からはみ出していないかを、あとから点検する場所です。そして、覆すなら、どこがはみ出しているのかを、具体的に言わなければなりません。3つ目は、当てはめです。高等裁判所の決定は、受訴裁判所の判断のどこが不合理なのかを、具体的に言っていない。そこで、不合理とはいえない許可を取り消した高等裁判所の決定は、第90条と第426条の解釈適用を誤った違法がある、と判断しました。最高裁は、特別抗告の理由には当たらなくても、職権で高等裁判所の決定を取り消し、許可に対する抗告を棄却したのです。つまり、受訴裁判所の保釈の許可が、そのまま生きることになりました。理由に当たらないのに取り消せた根拠は、前回見た第411条です。上告の理由が無くても、著しく正義に反するなら、最高裁が職権で破棄できる。その規定を、特別抗告にも借りています。
図:なぜ自由にやり直せないのか
- 受訴裁判所=現に審理を担当・証人尋問の進み具合や今後の公判を現場で見ている/抗告審=記録で見る
- だから覆すには、不合理であることを具体的に示す(「自分ならこう判断する」では足りない)
- 抗告審が見る材料=423条2項の意見書
- 射程=直接は保釈許可への抗告の事案/保釈請求を却下した判断への抗告も同じ考え方で見ると理解される
- 最一小決平26・11・18
決め手は、保釈の判断が裁量に委ねられているのは、現に審理を担当する受訴裁判所だからです。証人尋問がどこまで進み、証人がどんな様子で、今後の公判がどう進むのか。受訴裁判所は、現場で見ています。これに対して抗告審は、記録で見るしかありません。たとえば、現場で取材した担当者の判断を、書類だけを見た上司が覆すには、担当者の判断が筋として通らない点を、具体的に指摘できなければならない。「自分ならこう判断する」だけでは、足りません。控訴審の回で見た事後審、つまり、やり直すのではなく、判断に誤りがないかをあとから点検する見方と、同じ型です。ここで、前に見た2つのことが結びつきます。事案に出てきた意見書は、受訴裁判所が、第423条第2項後段に基づいて高等裁判所に送った、再度の考案の意見書です。許可の考慮が読み取れて、これが、抗告審が見るべき材料になります。それから、特別抗告の理由には当たらないとしつつ、職権で取り消した点です。規則第275条が認めている職権調査は、第405条の事由についてです。この決定は、それとは別に、第411条を準用して取り消しました。入口は狭くても、閉ざされてはいない。その実例です。言い過ぎないために、射程も確認します。この判例が直接述べたのは、保釈を許可した決定に対する抗告の事案です。ただ、Zのように、保釈の請求を却下した受訴裁判所の判断に抗告がされた場合も、抗告審は同じ考え方で見ることになる、と理解されます。ここは、論文で論点になりうるところです。保釈のような裁量の判断について、抗告審は、やり直すのではなく、原決定が不合理でないかを見る。冒頭の3つ目の問いの答えは、これです。
節目のミニ事例
図:節目のミニ事例
- 設定を入れ替えて結論を確かめる
- 問1=証拠調べ請求の却下に抗告?→不可(420条1項)/設定を替え、勾留を続ける決定・保釈を却下する決定→可(420条2項)
- 問2=勾留に「そもそも横領していない」だけで抗告→不可(420条3項)/必要性や罪証隠滅のおそれなら可
- 問3=検察官が保釈許可に通常抗告→執行は止まらない(424条1項)/設定を替え、忌避申立ての却下に即時抗告→3日・提起期間内と申立てで停止(425条)
節目のミニ事例です。設定を入れ替えて、結論がどう変わるかを確かめます。1つ目。Zの公判の途中で、裁判所が、弁護人の証拠調べ請求を却下しました。Zの側は、抗告できるでしょうか。できません。判決前の、訴訟手続に関する決定で、即時抗告の規定もないので、第420条第1項です。では、同じ公判で、裁判所が、Zの勾留を続ける決定をした場合は、どうでしょう。2つ目。Zの弁護人が、勾留に対して、そもそも横領はしていない、という理由だけで抗告しました。これは通るでしょうか。通りません。第420条第3項で、嫌疑がないことは理由にできません。勾留の必要性や、逃亡や罪証隠滅のおそれなら、争えます。3つ目。検察官が、受訴裁判所の保釈許可に、通常抗告をしました。Zは、すぐに釈放されないのでしょうか。
通常抗告は、執行を止めません。第424条第1項です。止めたければ、原裁判所か抗告裁判所の、停止の決定が要ります。設定を替えます。忌避の申立てを却下した決定に、即時抗告をした場合は、どうなりますか。
図:節目のミニ事例
- 続き
- 問4=高等裁判所が抗告を棄却、さらに抗告?→不可(427条)・特別抗告(5日・405条の事由)
- 「証言は信用できない」だけでは理由にならない。問5=高等裁判所が「自分なら許可しない」として許可を取り消し→不合理を具体的に示す必要(平26)。分かれ目=何の決定か
- 3項
- 止まるか
- その先
- 抗告審のやり方
期間は3日で、提起期間内と申立てがあったとき、執行は停止されます。第425条です。4つ目。高等裁判所が、Zの抗告を棄却しました。さらに抗告できますか。できません。第427条です。残るのは特別抗告で、5日以内、理由は第405条の事由だけです。では、特別抗告の理由に、目撃者の証言は信用できない、とだけ書いたら、どうでしょう。理由に当たりません。ただ、最高裁が職権で動く余地は、判例のとおり残っています。5つ目。地方裁判所が保釈を許可し、その許可への抗告を受けた高等裁判所が、自分なら許可しない、として許可を取り消しました。抗告審のやり方として、正しいでしょうか。正しくありません。受訴裁判所の判断が不合理であることを、具体的に示す必要があります。自分ならこうする、だけでは足りません。1つ目は、何の決定か。2つ目は、第3項の歯止め。3つ目は、通常抗告と即時抗告の違い、止まるかどうか。4つ目は、行き止まりと、特別抗告の理由。5つ目は、抗告審のものさし。それぞれが、結論の分かれ目でした。
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図:まとめ
- Zの答え=①保釈却下の決定への不服は抗告(420条2項の例外・通常抗告・高等裁判所へ)②抗告審の決定に再抗告はできず、特別抗告(5日・405条の事由)だけ③抗告審は、受訴裁判所の裁量判断が不合理でないかを審査する
- 一覧=決定→抗告(原則可・判決前の訴訟手続の決定は不可・例外は勾留・保釈・押収・還付・鑑定留置・即時抗告の規定)/通常抗告(いつでも・止まらない)と即時抗告(3日・止まる)/抗告審の裁判(棄却/取消し+更に裁判)/再抗告なし→特別抗告(最高裁・5日・405条)
Zの3つの問いに、順に答えます。1つ目。保釈を却下する決定への不服は、抗告です。判決前の訴訟手続の決定ですが、第420条第2項の例外で、抗告できます。通常抗告で、行き先は高等裁判所です。2つ目。抗告審の決定に対して、再抗告はできません。残る道は、特別抗告だけで、期間は5日、理由は第405条の事由に限られます。3つ目。抗告審は、自由にやり直すのではなく、受訴裁判所の裁量の判断が、不合理でないかを審査します。覆すなら、不合理であることを具体的に示さなければなりません。抗告の全体を、もう一度まとめます。決定なら、まず抗告できるのが原則です。ただし、判決前の訴訟手続の決定は抗告できず、例外は、勾留、保釈、押収、押収物の還付、鑑定のための留置、そして即時抗告の規定がある決定です。抗告は、通常抗告と即時抗告に分かれ、通常抗告は、いつでもできるが執行は止まらず、即時抗告は、3日と短いかわりに執行が止まります。抗告審は、棄却するか、原決定を取り消して必要なら更に裁判をします。その決定に再抗告はなく、最後の道が、最高裁への特別抗告です。なお、裁判官のした一定の命令や捜査機関の処分には、準抗告という、別の不服申立てがあります。
参照条文
- 刑事訴訟法第419条
- 刑事訴訟法第420条
- 刑事訴訟法第421条・第422条・第424条・第425条
- 刑事訴訟法第423条
- 刑事訴訟法第426条・第427条
- 刑事訴訟法第428条
- 刑事訴訟法第433条
- 刑事訴訟法第434条
- 刑事訴訟規則第275条
- 刑事訴訟法第90条