再審請求の手続と令和8年の改正
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第8章 上訴と救済手続 ⑤/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入
図:今日の問い
- Zは、強盗の罪で有罪判決を受け、控訴も上告も退けられて確定した
- 一貫して「やっていない」と言っている
- 確定から数年後、有罪の決め手とされた物証とZの結びつきに疑問を投げかける鑑定結果が見つかった
- Zは、この鑑定結果を手に再審を請求する
- ①誰が、どこに請求するのか
- 期限はあるのか
- ②請求したら、刑の執行は止まるのか
- ③裁判所が再審を開くと決めたら、検察官は争えるのか
再審を開く理由があることは、分かりました。では、その理由を手にした人は、実際に何をするのでしょうか。今日は、再審の入口から、開くか開かないかが決まるところまでを、通します。設例は、同じZさんです。強盗の罪で有罪判決を受け、控訴も上告も退けられて、確定しました。Zさんは、ずっと「やっていない」と言っています。確定から数年後、有罪の決め手とされた物証とZさんの結びつきに疑問を投げかける、新しい鑑定結果が見つかりました。Zさんは、この鑑定結果を手に、再審を請求します。問いは3つあります。1つ目。誰が、どこに請求するのか。期限はあるのか。2つ目。請求したら、刑の執行は止まるのか。3つ目。裁判所が再審を開くと決めたら、検察官はそれを争えるのか。
先に、答えの形だけ言います。再審は、開くかどうかを決める裁判と、やり直しの裁判の、2段階です。今日は前半を通します。請求しても、刑の執行は止まりません。そして、開くという決定を検察官が争えるのは、限られた場合だけになりました。この分野は、令和8年に法律が変わっています。今日は、いまの条文で教えます。まず、全体の地図から見ます。
再審は2つの裁判に分かれる
図:再審の2段階
- 有罪の確定判決→〔再審請求〕→請求審(再審を開くかどうかの裁判=決定)→棄却の決定=ここで終わり/再審開始の決定→不服申立て→確定→再審公判(やり直しの審判=次の回)
- 開始決定は「やり直す理由があるか」の判断であって、有罪・無罪の判断ではない
再審は、2つの裁判でできています。1つ目は、再審を開くかどうかを決める裁判です。これを再審請求手続といい、請求を受けた裁判所が、請求審として行います。2つ目は、再審を開くと決まったあとの、やり直しの裁判で、再審公判といいます。流れは、こうです。有罪の確定判決に対して、再審が請求されます。請求審は、決定という形で結論を出します。請求が認められなければ、棄却の決定で終わりです。認められれば、再審開始の決定が出ます。その決定に不服申立てがなければ、あるいは不服が退けられれば、開始決定は確定し、再審公判に進みます。再審公判の中身は、次の回で通します。今日の範囲は、この図の前半です。
開始決定が出たら、もう無罪になるということではないんですか。なりません。開始決定が答えているのは、やり直す理由があるか、という問いだけだからです。Zさんが無罪か有罪かは、再審公判で、改めて審理して決めます。たとえば、新築の工事を始める前に、役所が着工を許可する手続があります。許可が出ても、建物はまだ建っていません。開始決定は、この着工許可にあたります。工事そのもの、つまりやり直しの裁判が、あとに控えているのです。もう1つ。開始決定が出ても、元の有罪判決は、まだ効力を持ったままです。効力を失うのは、再審公判で新しい判決が確定したときです。だから、あとで見る、刑の執行の問題が出てきます。
請求の入口・どこへ・誰が・いつ
図:請求の入口・どこへ
- 438条 原判決をした裁判所(Zは第一審の裁判所)
- 控訴棄却・上告棄却の判決への再審は理由が1号・2号と裁判官の7号に限られる=436条
- 同じ事件で両方に請求があったときの調整は449条
入口の問いは、どこへ、誰が、いつ、の3つです。まず、どこへ。第438条は、再審の請求を、原判決をした裁判所にさせます。Zさんは、Zさんを有罪にした第一審の判決に対して、再審を請求します。だから、行き先は第一審の裁判所です。前の回で見たとおり、控訴や上告を棄却した判決に対しても、再審を請求できる場合がありました。ただし、その理由は、第435条の第1号と第2号、それに裁判官についての第7号に限られます。第1号は証拠書類や証拠物の偽造や変造、第2号は証言などの虚偽、第7号は職務に関する罪でした。新しい証拠の第6号が入らないのは、事実を認定して有罪を言い渡したのが、元の判決だからです。上訴を棄却した判決は、元の判決への不服を退けただけでした。同じ事件で、第一審の判決と、控訴を棄却した判決の両方に請求があったときは、第449条が調整します。第一審の裁判所が再審の判決をしたときは、控訴を棄却した判決に対する請求のほうを、決定で棄却します。元の有罪判決がやり直されたなら、控訴を棄却した判決を別に見直す意味がなくなるからです。次に、誰が。条文を、全文で読みます。
条文刑事訴訟法第439条
刑事訴訟法第439条 再審の請求は、左の者がこれをすることができる。 一 検察官 二 有罪の言渡を受けた者 三 有罪の言渡を受けた者の法定代理人及び保佐人 四 有罪の言渡を受けた者が死亡し、又は心神喪失の状態に在る場合には、その配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹 2 第四百三十五条第七号又は第四百三十六条第一項第二号に規定する事由による再審の請求は、有罪の言渡を受けた者がその罪を犯させた場合には、検察官でなければこれをすることができない。
図:請求の入口・誰が
- 439条1項の4者=①検察官
- ②有罪の言渡しを受けた者
- ③その法定代理人及び保佐人
- ④死亡・心神喪失のときの配偶者・直系の親族・兄弟姉妹
- 弁護人は請求権者ではなく選任されるだけ(440条)
- 検察官も、有罪の言渡しを受けた者の利益のためにだけ請求できる
- 2項=有罪の言渡しを受けた者が罪を犯させた場合は検察官だけ
第1項は、4者です。検察官、有罪の言渡しを受けた者、その法定代理人及び保佐人、そして、有罪の言渡しを受けた者が死亡したか、心神喪失の状態にある場合の、配偶者と直系の親族と兄弟姉妹です。保佐人とは、判断能力が不十分な人を助ける人のことです。心神喪失とは、物事を判断する能力を失った状態のことです。ここで、注意が1つあります。弁護人は、請求権者に入っていません。弁護人は、請求する人に選任されて、手伝う立場です。Zさんの弁護人が、Zさんに代わって、自分の名前で請求することはできません。請求するのは、Zさん本人です。検察官が入っているのも、不思議に見えます。検察官は、有罪にする側のはずだからです。ただ、前の回に第435条の柱書で見たとおり、再審は、有罪の言渡しを受けた者の利益のためにだけ請求できます。検察官も、同じです。検察官は公益の代表者として、誤った有罪を正す側に回る、と説明されます。
本人が亡くなっているのに、親族が請求できるのはどうしてですか。再審には、有罪とされた人の名誉を回復する働きがあるからです。亡くなった人にも、誤った有罪が残り続けると、名誉は傷ついたままです。だから、近い親族に請求を認めています。第2項は、ごく狭い例外です。裁判官などが職務に関する罪を犯したことを理由にする請求で、その罪を、有罪の言渡しを受けた者が犯させていた場合です。自分で不正を仕組んだ者が、その不正を理由に請求することは認めません。請求できるのは、検察官だけです。
図:請求の入口・いつ・方式
- いつ=期間の制限なし
- 刑の執行が終わっても、執行を受けることがなくなっても請求できる(441条)/弁護人の選任=検察官以外の者が選任できる
- 効力は再審の判決があるまで(440条)/方式=趣意書に原判決の謄本・証拠書類・証拠物を添える(規則283条)/取下げ=できるが、取り下げた者は同一の理由で再請求できない(443条)
3つ目は、いつ。第441条は、期間の制限を置いていません。刑の執行が終わっても、執行を受けることがなくなっても、請求できます。刑を受け終えたから、もう意味がない、とはならないのです。名誉の回復が、残っているからです。弁護人については、第440条です。検察官以外の者は、再審の請求をするときに、弁護人を選任できます。その選任の効力は、再審の判決があるまで続きます。請求の仕方は、規則が定めていて、趣意書に、原判決の謄本と、証拠書類、証拠物を添えて出します。請求は、取り下げることもできますが、取り下げた者は、同一の理由では、もう一度請求できません。これは第443条です。この部分は、条文のとおりに読めば出てくる事柄です。覚える規範ではなく、成立要件です。
請求しても刑の執行は止まらない
図:刑の執行を止められるのは誰か
- 請求そのもの=止まらない(442条1項本文)
- 検察官=再審の判決が確定するまで、刑の執行を停止することができる(442条1項ただし書)
- 死刑の執行を停止したときは刑法11条2項の拘置も停止できる(442条2項)
- 裁判所=再審開始の決定をしたとき、決定で刑の執行を停止することができる(448条2項)
- 死刑なら拘置の停止も(3項)
- どちらも「できる」規定=停止は義務ではない
- 2026年8月13日からの条文
2つ目の問いです。Zさんが請求したら、服役は止まるのでしょうか。前の回で見た、確定した裁判は動かさないという要請と、無実の人を罰したままにしないという要請が、ここでもぶつかります。条文を、全文で読みます。
条文刑事訴訟法第442条
刑事訴訟法第442条 再審の請求は、刑の執行を停止する効力を有しない。ただし、管轄裁判所に対応する検察庁の検察官は、再審の判決が確定するまで刑の執行を停止することができる。 2 管轄裁判所に対応する検察庁の検察官は、前項ただし書の規定により死刑の執行を停止したときは、刑法第十一条第二項の規定による拘置を停止することができる。
原則は、第1項の前半です。再審の請求は、刑の執行を停止する効力を有しません。Zさんが請求しても、そのままでは、服役は続きます。確定した判決は、それだけ重い、という扱いです。蒸し返しの請求が出るたびに執行が止まるなら、確定した裁判の意味がなくなるからです。例外は、2つあります。1つ目が、検察官です。管轄裁判所に対応する検察庁の検察官は、再審の判決が確定するまで、刑の執行を停止できます。この検察官とは、再審の請求を受ける裁判所に対応して置かれた検察庁の検察官のことです。Zさんの請求先が地方裁判所なら、その地方検察庁の検察官です。改正の前は、再審の請求についての裁判があるまで、でした。いまは、開始決定のあとの再審公判の間も、検察官が止められます。死刑の執行を停止したときは、拘置も停止できると、第2項で明らかにされています。拘置とは、死刑の執行まで、刑事施設に置いておくことです。2つ目が、裁判所です。再審開始の決定をしたときは、その決定で刑の執行を停止できます。これは第448条第2項で、死刑のときの拘置の停止は、第3項です。第448条は、あとで全文を読みます。
検察官や裁判所が止めるとは、限りません。どちらの条文も、停止することができる、という書き方です。停止は義務ではなく、判断に任されています。だから、開始決定が出ても、服役が続くことがあります。
審理と結論・3つの決定
図:結論は決定で3つ
- 入口の不備=446条 請求が法令上の方式に違反し、又は請求権の消滅後にされた→棄却/理由なし=447条1項→棄却
- 2項=同一理由での再請求禁止/理由あり=448条1項→再審開始の決定(しなければならない)
- 事実の取調べ=445条(必要があるとき)
- 決定の前に請求をした者と相手方の意見を聴く(規則286条)
- 蒸し返しの禁止がかかるのは447条の棄却だけ(取下げにも同じ禁止=443条)
請求を受けた裁判所は、まず審理をします。必要があるときは、事実の取調べができます。第445条です。決定の前には、請求をした者と、その相手方の意見を聴きます。これは規則に定めがあります。そのうえで、結論が出ます。結論は、すべて決定という形で、全部で3つです。1つ目。請求が、法令上の方式に違反しているか、請求する権利が消えたあとにされたときは、第446条で、棄却です。入口で、門前払いする型です。2つ目。請求に、理由がないときは、第447条第1項で、棄却です。中身を見て、理由がないと判断する型です。最後に、請求に理由があるときは、第448条第1項で、再審開始の決定をしなければなりません。
条文刑事訴訟法第446条
刑事訴訟法第446条 再審の請求が法令上の方式に違反し、又は請求権の消滅後にされたものであるときは、決定でこれを棄却しなければならない。
ここで、問いを1つ出します。棄却された再審請求は、同じ理由で、またもう一度出せるでしょうか? 自分の答えを言葉にしてから、第447条を読んでください。
条文刑事訴訟法第447条
刑事訴訟法第447条 再審の請求が理由のないときは、決定でこれを棄却しなければならない。 2 前項の決定があつたときは、何人も、同一の理由によつては、更に再審の請求をすることはできない。
棄却の種類によって、答えが変わります。第2項が止めているのは、前項の決定、つまり、理由がないという棄却のあとの請求だけだからです。中身を見て、理由がないと判断されたのに、同じ理由で何度も出させると、再審が蒸し返しの道具になってしまいます。そこで、同一の理由での再請求を禁止しています。これに対して、第446条の棄却は、方式の不備か、請求権が消えたあとの請求を、はねたものです。中身を判断していないので、第2項の禁止はかかりません。方式の不備ではねられたのなら、請求書を整え直せば、同じ理由でも、出し直せます。申請書の書き方に不備があって受付で断られた人は、書き直して出せますが、審査で不許可になった人が、同じ理由で出し直せないのと、同じ形です。取下げにも同じ禁止があることは、さきほどの第443条で見たとおりです。
条文刑事訴訟法第448条
刑事訴訟法第448条 再審の請求が理由のあるときは、再審開始の決定をしなければならない。 2 再審開始の決定をしたときは、決定で刑の執行を停止することができる。 3 前項の規定により死刑の執行を停止したときは、決定で刑法第十一条第二項の規定による拘置を停止することができる。
第448条です。第1項は、理由があるときは、再審開始の決定をしなければならない、と書いています。裁量ではありません。理由がある、つまり第435条のどれかにあたると判断したなら、開始する義務があります。第2項と第3項は、さきほどの執行停止の、裁判所の分です。理由があるかどうかの中身は、第435条の各号で、前の回に通した内容です。入口の不備なら第446条、理由なしなら第447条、理由ありなら第448条、と区別してください。
不服申立て・開始決定は争いにくくなった
図:決定への不服
- 通常の物差し=即時抗告=3日(422条)。行き先は高等裁判所など
- →特別抗告=5日(433条2項)。最高裁判所へ。理由は憲法違反・判例違反(同条1項)
- 再審の決定への不服
- 446条の棄却=即時抗告できる(450条)/447条1項の棄却=即時抗告できる(450条)/449条1項の棄却=即時抗告できる(450条)
- 448条1項の開始=450条には入っていない
3つ目の問いです。この3つの決定に不服がある人は、どう争うのでしょうか。ここが、今日の山場です。まず、抗告の回を思い出してください。決定に対する即時抗告の提起期間は、何日でしたか? そして、特別抗告は、何日でしたか?即時抗告が3日で、特別抗告が5日でした。その2つの期間が、通常の物差しです。即時抗告は、決定に不服がある者が高等裁判所などに申し立てる道で、特別抗告は、最高裁判所に、憲法違反や判例違反を理由に申し立てる道でした。再審の決定は、この物差しのままだったでしょうか。条文を、順に読みます。
条文刑事訴訟法第450条
刑事訴訟法第450条 第四百四十六条、第四百四十七条第一項又は前条第一項の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる。
第450条です。即時抗告ができるのは、第446条の棄却、第447条第1項の棄却、そして前条、つまり第449条第1項の棄却です。第449条第1項の棄却とは、入口で見た、第一審の裁判所が再審の判決をしたために、控訴を棄却した判決への請求を退ける決定のことです。この3つは、どれも請求を棄却する決定です。棄却された側は、不服を申し立てられます。気づいてほしいのは、第448条第1項、つまり開始決定が、ここに入っていないことです。開始決定への不服は、別の条文、第450条の2が定めています。思い出してください。開始決定は、やり直す理由があるかだけを決める、着工許可でした。有罪か無罪かは、このあとの再審公判で争えます。では、問いを1つ。再審を開くと決めた裁判所の判断に、検察官は、自由に即時抗告できるでしょうか? 自分の答えを言葉にしてから、条文を読んでください。
条文刑事訴訟法第450条の2
刑事訴訟法第450条の2 第四百四十八条第一項の規定による決定に対しては、当該決定が取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠がある場合に限り、即時抗告をすることができる。 2 前項の即時抗告を棄却する決定又は前条の即時抗告(第四百四十六条又は第四百四十七条第一項の規定による決定に対するものに限る。)が係属する抗告裁判所の第四百四十八条第一項の規定による決定に対する第四百三十三条第一項の抗告は、当該決定が取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠がある場合に限り、これをすることができる。
図:開始決定への不服は限られる
- 450条の2
- 1項=開始決定への即時抗告は、取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠がある場合に限る。2項=特別抗告も同じ制限(2つの場面=開始決定への即時抗告を棄却する決定に対する特別抗告/棄却への即時抗告を審理する抗告裁判所が自分でした開始決定に対する特別抗告)。3項=政府の公表
検察官が即時抗告できるのは、開始決定が取り消されるべきものと認めるに足りる、十分な根拠がある場合だけです。検察官は、このあとの再審公判で、有罪を主張できます。一方、開始決定を争っている間、Zさんのやり直しの裁判は始まりません。第2項は、特別抗告の制限です。開始決定への即時抗告を棄却する決定に対する特別抗告にも、同じ制限がかかります。もう1つの場面もあります。棄却に対する即時抗告を審理している抗告裁判所が、自分で再審開始の決定をした場合です。抗告裁判所の決定には、もう抗告ができず、残る道は特別抗告だけでした。だから、この開始決定を争う制限は、特別抗告に掛けてあります。請求審の開始決定でも、抗告審が自分でした開始決定でも、争うには同じ根拠が要る、という形です。十分な根拠とは具体的に何かは、条文に書かれていません。どんな場合があたるかは、今後の解釈で決まっていく部分で、いまは例を挙げられません。いま言えるのは、棄却への即時抗告との違いです。第450条には、この限定がありません。請求を棄却されたZさんの側は、決定に不服があれば、即時抗告を申し立てられます。開始決定を争う側だけが、申し立てるための条件として、取り消されるべきだと言える根拠を問われます。第3項は、公表です。続きの板で読みます。
条文刑事訴訟法第450条の2(続き)
刑事訴訟法第450条の2(続き) 3 政府は、次の各号のいずれかに該当するときは、遅滞なく、当該各号に定める事項を公表するものとする。 一 第四百四十八条第一項の規定による決定(最高裁判所がしたものを除く。)があつたとき その旨並びに検察官が当該決定に対する即時抗告又は第四百三十三条第一項の抗告をしたかどうか及び当該即時抗告又は抗告をした場合におけるその理由 二 第一項の即時抗告を棄却する決定があつたとき その旨並びに検察官が当該決定に対する第四百三十三条第一項の抗告をしたかどうか及び当該抗告をした場合におけるその理由
開始決定があったとき、検察官が不服を申し立てたかどうか、申し立てたなら、その理由を、政府が遅滞なく公表します。
条文刑事訴訟法第450条の3
刑事訴訟法第450条の3 第四百四十七条第一項又は第四百四十八条第一項の規定による決定に対する即時抗告の提起期間は、第四百二十二条の規定にかかわらず、十四日とする。 2 前項の即時抗告に係る抗告裁判所の決定に対する第四百三十三条第一項の抗告の提起期間は、同条第二項の規定にかかわらず、十四日とする。
図:再審の決定の対比表
- 446条の棄却=即時抗告できる(450条)/3日/特別抗告5日
- 447条1項の棄却=即時抗告できる(450条)/14日(450条の3)/特別抗告14日
- 448条1項の開始=取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠がある場合に限り即時抗告できる(450条の2)/14日(450条の3)/特別抗告14日・同じ制限
- 449条の棄却は3日のまま
- 14日の規定は2026年8月13日以後にされた決定に適用
期間です。第447条第1項の棄却と、第448条第1項の開始、この2つの決定に対する即時抗告の提起期間は、第422条の3日ではなく、14日です。その即時抗告に係る抗告裁判所の決定に対する特別抗告も、第433条第2項の5日ではなく、14日です。注意してほしいのは、範囲です。14日になるのは、第447条第1項と第448条第1項の決定だけです。第446条や第449条の棄却への即時抗告は、原則どおりの3日のままです。再審の請求を中身から判断した決定について、期間を延ばしました。開始決定への即時抗告には十分な根拠を求める一方で、期間は、理由なしの棄却を受けた側も含めて、14日に延びています。14日あれば、決定の中身を検討してから、申し立てるかどうかを決められます。棄却されたZさんの側も、同じ14日を使えます。整理します。棄却の決定には、即時抗告ができ、理由なしの棄却なら14日、方式違反の棄却なら3日です。開始の決定には、取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠がある場合に限って、14日以内に即時抗告ができます。14日の規定が適用されるのは、2026年8月13日以後の決定に対する即時抗告、そして、8月13日以後にされた抗告審の決定に対する特別抗告です。
令和8年の改正の全体像
図:令和8年法律第67号
- 2026年10月時点の法律
- 改正規定の施行は3段階。①2026年8月13日=今日読んだ条文(442条・448条3項・450条・450条の2・450条の3)。②2026年10月20日=費用補償(188条の2・188条の3・188条の6・188条の7)。③公布から1年以内に施行(日は政令で決まる)=次の板の新しい手続。まだ施行されていない部分(公布から1年以内に施行)は概観であり、条文の逐語ではない
ここまでは、いまの条文でした。最後に、これから変わる部分を、地図として見ておきます。この分野を変えた法律は、令和8年法律第67号です。ここからは、2026年10月時点の法律の話で、条文を読むのではなく、全体像をつかみます。改正規定の施行は、3段階に分かれています。1段階目は、2026年8月13日からで、今日読んだ第442条と第448条第3項、第450条、第450条の2、第450条の3が、これです。2段階目は、2026年10月20日からで、費用補償、つまり、無罪になった人に裁判の費用を補う制度に、再審の請求の手続にかかった費用が加わります。その条文です。3段階目が、公布から1年以内に施行される部分で、施行日は政令で決まります。この3段階目に、再審の手続を大きく変える内容が入っています。
図:新しい手続の流れ
- 予定
- 請求書面を出す(441条の2)→調査(444条の2)で3つに振り分け=棄却(方式違反・請求権の消滅後・理由が明らかに435条・436条に当たらない)
- 再審開始(理由があることが明らか)
- 審判を開始する旨の決定(それ以外)→審判開始後に事実の取調べ(445条。請求をした人(検察官を除く)・弁護人・検察官が請求できる)→検察官への証拠の提出命令(445条の2。請求又は職権)・提出を命じるか判断するための証拠・一覧表の提示命令(445条の3)→意見聴取・審理終結日(445条の7)・決定日(445条の8)→棄却・開始(446条〜448条)。ほかの柱=証拠の適正管理(445条の4)・目的外使用の禁止(445条の5)・罰則(445条の6)
新しい流れを、図で示します。いまの手続には、請求を受けた裁判所がどんな順序で審理を進めるかの定めが、ほとんどありません。新しい手続は、そこに段取りを入れます。請求者が請求書面を出すと、裁判所は、まず調査をします。第444条の2です。この調査で、結論を3つに振り分けます。方式違反などで、あるいは理由が明らかに第435条や第436条にあたらないなら、棄却。理由があることが明らかなら、再審開始。それ以外は、審判を開始する旨の決定をします。答えが明らかな請求は早く片づけ、残りを本格的な審理に回す、という振り分けです。審判開始の決定とは、請求審で調査したうえで、実質審理に進む、という決定のことです。審判が開始されると、事実の取調べに進みます。検察官以外の請求をした人、弁護人、そして検察官が、取調べを請求できます。ここで目を引くのが、検察官への証拠の提出命令です。捜査で集めた証拠は、検察官が保管しています。ところが、いまの条文には、再審の請求審で、その証拠を出させる定めがありません。Zさんが、ほかに有利な証拠がないか確かめたくても、手が届くかどうかは、検察官が任意に出すかどうかに左右されます。そこで、新しい手続では、裁判所は、関連性の程度などと弊害を考慮して相当と認めるときは、請求又は職権で、検察官に、請求の理由に関連する証拠の提出を命じなければなりません。命じるかを判断するために、証拠や一覧表の提示を求める命令もあります。そのあと、意見聴取と審理終結日、決定日を経て、棄却か開始かの決定に進みます。
検察官への証拠の提出命令は、証拠開示とは、向きが違います。公判の前に争点と証拠を整理する公判前整理手続では、検察官が被告人側に証拠を開示する仕組みでした。こちらは、裁判所が検察官に、証拠の提出を命じる仕組みで、証拠は裁判所に提出されます。その証拠を弁護人が謄写、つまり写し取ったときは、複製などを適正に管理しなければならず、目的外の使用は禁止されます。一定の場合には罰則があります。この型は、証拠開示の回で見た、目的外使用の禁止と同じです。開示された証拠のコピーを、その事件の裁判やその準備以外の目的で、人に渡してはならない、という規律でした。
図:新しい手続のほかの規定
- 予定
- 元の裁判に関与した裁判官の除斥(438条の2)
- 審判開始の決定のあとに請求した人が死亡したときの手続の受継(445条の10)
- 調査段階の決定(棄却・開始)への即時抗告=抗告審は事実の取調べをせず調査し、理由があれば原裁判所に差し戻す
- 適用関係=主な規定は、施行日以後に再審の請求があった事件に適用、それ以前の請求事件はこれまでの手続のまま(受継・複製の管理などは例外)
ほかに、3つあります。元の裁判に関与した裁判官は、再審の請求審から除斥されます。除斥とは、決まった類型にあたる裁判官が、当然にその事件から外れることでした。自分が関わった有罪の判断を、自分で見直すことになるからです。審判開始の決定のあとに、請求した人が死亡したときは、手続を受け継ぐ制度があります。請求の途中で本人が亡くなっても、手続をそこで終わらせないためです。そして、調査の段階でされた棄却や開始の決定に対する即時抗告では、抗告審は事実の取調べをせず、調査し、理由があれば原裁判所に差し戻します。差し戻すとは、事件を元の裁判所に返して、そこで審理させることです。新しい手続の主な規定は、施行日以後に再審の請求があった事件に適用され、それ以前の請求事件は、これまでの手続のまま進みます。再審の迅速化の規定と、5年ごとの検討規定も置かれています。
節目のミニ事例
図:節目のミニ事例
- 再審請求の手続
- 設定を入れ替えて結論を確かめる。問1=Zの弁護人がZに代わって再審を請求できるか→できない(弁護人は請求権者でない=439条・440条)
- 設定替え=Zが死亡→配偶者・直系の親族・兄弟姉妹が請求できる(439条1項4号)。問2=Zが請求したら服役は止まるか→止まらない(442条1項本文)
- 設定替え=死刑→検察官は拘置も停止できる(442条2項)。問3=理由がないと棄却→同じ理由で出し直せるか→できない(447条2項)
- 設定替え=方式違反で棄却(446条)→整えて出し直せる。問4=再審開始決定に検察官は即時抗告できるか→十分な根拠がある場合に限り(450条の2)・14日(450条の3)
- 設定替え=棄却されたZ側→制限はない(450条)。理由なし棄却なら14日・方式違反の棄却なら3日
節目のミニ事例です。Zさんの設定を入れ替えて、結論がどう変わるかを確かめます。1つ目。Zさんの弁護人が、Zさんに代わって、再審を請求できるでしょうか。できません。第439条の請求権者に、弁護人は入っていないからです。弁護人は、請求する人に選任されて手伝う立場で、請求するのは、Zさん本人です。設定を替えて、Zさんがすでに死亡しているなら、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹が、第439条第1項第4号で、請求できます。2つ目。Zさんが請求しました。服役は止まるでしょうか。第442条第1項の本文が、再審の請求に、刑の執行を停止する効力はない、と定めています。だから、請求しただけでは服役は続きます。止められるのは、検察官と、開始決定をした裁判所です。設定を替えて、Zさんが死刑の言渡しを受けていたなら、検察官は、執行の停止に加えて、拘置の停止もできます。第442条第2項です。3つ目。裁判所が、理由がないとして、Zさんの請求を棄却しました。同じ理由で、請求を出し直せるでしょうか。
第447条第2項が、理由がないという棄却のあとの、同一の理由による再請求を禁じています。だから、この場合は出し直せません。設定を替えて、棄却の原因が、請求書の方式違反だったなら、第446条の棄却です。中身を判断していないので、禁止はかからず、方式を整えて出し直せます。4つ目。裁判所が、再審の開始を決めました。検察官は、即時抗告できるでしょうか。自由には出せません。決定が取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠がある場合に限る、と第450条の2第1項が定めています。期間は、第450条の3で14日です。設定を替えて、請求を棄却されたZさんの側が即時抗告するときは、この制限はかかりません。第450条の即時抗告で、期間は、理由なし棄却なら14日、方式違反の棄却なら3日です。結論の分かれ目を言い直します。1つ目と2つ目は、請求の入口、つまり、誰が請求でき、執行は止まるか、でした。3つ目と4つ目は、棄却と開始の分かれ目で、第447条第2項の蒸し返しの禁止と、第450条の2の十分な根拠、でした。
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図:まとめ
- Zの答え=①請求先は原判決をした裁判所
- 請求できるのは本人・法定代理人及び保佐人・(死亡等のとき)親族・検察官
- 期間の制限はない
- ②請求しても執行は止まらない(検察官・裁判所は停止できる)
- ③開始決定を検察官が争えるのは、取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠がある場合に限る
- 一覧=誰が・どこへ(439条・438条)→請求は執行を止めない(442条)→3つの結論(446・447・448)→不服申立て(450・450条の2・450条の3)
- 2026年10月時点で、公布から1年以内に施行される部分はまだ施行されていない
Zさんの3つの問いに、順に答えます。1つ目。請求先は、原判決をした裁判所です。請求できるのは、本人、法定代理人及び保佐人、死亡等の場合の親族、そして検察官で、期間の制限はありません。2つ目。請求しても、刑の執行は止まりません。ただし、検察官と、開始決定をした裁判所は、停止できます。3つ目。開始決定を検察官が争えるのは、取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠がある場合に限ります。期間は14日です。一覧にして終えます。誰が、どこへは、第439条と第438条。請求は執行を止めないのが、第442条。結論は3つで、第446条と第447条と第448条。不服申立ては、第450条と第450条の2と第450条の3。そして、公布から1年以内に施行される部分は、まだ施行されていません。では、再審を開くと決まったあと、やり直しの裁判は、どう進むのでしょうか。
参照条文
- 刑事訴訟法第439条
- 刑事訴訟法第442条
- 刑事訴訟法第446条
- 刑事訴訟法第447条
- 刑事訴訟法第448条
- 刑事訴訟法第450条
- 刑事訴訟法第450条の2
- 刑事訴訟法第450条の2(続き)
- 刑事訴訟法第450条の3