登記請求権と中間省略登記
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第2章 物権 #98/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
判を押してくれない売主に、どう言うか
図:冒頭の場面
- AとBが土地の売買契約を結び、Bは代金も払った
- しかしAは登記の書類に判を押してくれない
- さらにBがCに土地を転売したのに、登記はまだAのままである
- CはAに「間を飛ばして、直接わたしに登記を移して」と言えるかを示す
Aから土地を買ったBは、代金も払いました。ところがAは、登記の書類に判を押してくれません。登記は、売主と買主がそろって申請するのが原則でした。前に確認しました。では、売主が協力しないとき、買主はどうすればいいのか。今日は、ここから始めます。さらに話を進めて、Bがその土地をCに転売したのに、登記はまだAのままだった場合も見ます。Cは、Aに「間を飛ばして、直接わたしに登記を移してください」と言えるでしょうか。先に答えを、少しだけ教えてもらえますか。分かりました。Bは、登記請求権という権利で、Aに協力を求められます。ただ、CがAに「間を飛ばして」と言うことは、原則できません。その代わり、Cには、Bの権利を代わりに使うという道が残っています。この二つの答えが、なぜそうなるのかを、順番に確かめていきます。
登記請求権の意義——協力しない相手に、どう求めるか
図:登記請求権の板
- 当事者共同申請主義の下では、登記義務者が協力しないと登記権利者は単独で申請できない
- そこで、登記の移転・抹消の手続を求める登記請求権が解釈上認められる
- それでも協力が得られなければ、確定判決を得て単独で申請できる(判決による登記)
登記は、登記権利者と登記義務者が共同で申請するのが原則でした。買主が典型の登記権利者、売主が典型の登記義務者、というあの整理です。登記義務者が協力しないと、登記権利者は一人では申請できない、というのが原則でした。では、協力しない売主に対して、買主は何もできないのでしょうか。そんなことはありません。登記の移転や抹消の手続をするよう、相手に求める権利が認められます。これを登記請求権と呼びます。条文は見当たりません。登記請求権は、条文に直接の定めが無く、共同申請主義という仕組みの裏返しとして、解釈上当然に認められている権利です。共同申請が原則である以上、協力しない相手に協力を求める権利が無ければ、登記権利者はいつまでも登記を得られません。
相手が最後まで協力しないときは、訴訟を起こします。登記手続をせよ、という確定判決を得れば、登記義務者の協力が無くても、登記権利者だけで申請できます。
条文不動産登記法63条1項
不動産登記法 第63条第1項 第六十条、第六十五条又は第八十九条第一項(同条第二項(第九十五条第二項において準用する場合を含む。)及び第九十五条第二項において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、これらの規定により申請を共同してしなければならない者の一方に登記手続をすべきことを命ずる確定判決による登記は、当該申請を共同してしなければならない者の他方が単独で申請することができる。
共同で申請すべき者の一方に登記手続を命じる確定判決があれば、他方が単独で申請できる、と定められています。これを判決による登記と呼びます。
同じBから生まれる3つの登記請求権
図:3類型の比較板
- ①債権的登記請求権=売買契約(555条)から発生・消滅時効にかかる(166条1項)・所有権を失っても持てる
- ②物権的登記請求権=今の所有権(176条)から発生する妨害排除請求権の一場面・消滅時効にかからない・所有権を失うと持てない
- Bは①と②を同時に持つ
ここからが、今日の中心です。Aから土地を買ったBという、たった一つの事実関係から、性質の違う三つの登記請求権が生まれます。一つの売買から、三つも出てくるんですか。出てきます。一つずつ確かめましょう。一つ目は、債権的登記請求権です。BとAの間には、売買契約という約束があります。この約束そのものから、登記を移せという請求権が生まれます。契約という債権から生まれる以上、他の債権と同じく、消滅時効にかかります。消滅時効の回で見た166条1項のとおり、知った時から五年、行使できる時から十年です。二つ目は、物権的登記請求権です。Bは、売買によって、すでに所有権を取得しています。
Bはもう所有者なのに、登記の名義はまだAのままです。実際の権利と登記の記載がずれている。このずれを正せという請求権が、Bの持つ所有権そのものの効力として生まれます。これは、以前確認した妨害排除請求権の一つの現れです。自分名義のはずの土地に、違う名義の登記が付いている状態も、その一場面にあたります。所有権に基づく請求権なので、消滅時効にはかかりません。たとえば、Bが代金を払って土地の引渡しも受けたのに、登記を移さないまま何年も放っておき、①の時効期間が過ぎてしまったとします。契約から生まれた①は、もう使えないかもしれません。それでも、Bが所有者である限り、②で登記を求められます。①と②の違いが効いてくるのは、こういう場面です。
契約という約束から①が、所有権の取得から②が、それぞれ独立に発生します。同じBの中に、性質の違う二つの登記請求権が同時に存在するんです。
図:3類型の比較板、三つ目を加えた形
- ①債権的登記請求権=売買契約(555条)から発生・消滅時効にかかる(166条1項)
- ②物権的登記請求権=今の所有権(176条)から発生する妨害排除請求権の一場面・消滅時効にかからない
- ③物権変動的登記請求権=物権変動の過程を登記に映す要請から発生・所有権を失った中間者Bにも認められる
三つ目は、物権変動的登記請求権です。ここで、話を先に進めます。Bがさらに土地をCに転売したとしましょう。所有権を失えば、所有権に基づく②は消えます。ところが、こういう場合でも、Bにはなお別の登記請求権が認められます。登記簿の甲区には、所有権が誰から誰へ移ってきたかが順に記録され、誰でも法務局で確かめられるのでした。登記の公示という役割です。その記録が本当の移り変わりとずれていては、公示の意味が薄れます。だから、AからBへ、BからCへという本物の移転が現実にあった以上、登記もその筋道どおりに動くべきだ、というのが不動産登記法の建前です。この要請から生まれるのが③で、所有権を失った中間者Bにも認められるという点が、①や②と決定的に違います。
同じBという一人の人物のなかで、時間の経過とともに、持っている登記請求権の中身が入れ替わっていくと考えてください。①が残っているなら、③は要らないのではないですか。そこが③の出番です。①は、さっき見たとおり、時効で使えなくなることがあります。そうなった後で、BがCに登記を渡すために、まずAから自分へ登記を移そうとしても、①は使えません。所有権を手放したので、②もありません。それでも、A→B→Cという本物の移転があった以上、Bに登記を求める道を残しておく。それが③です。
中間省略登記——2つの場面の切り分け
図:場面の切り分け板
- A→B→Cと順次譲渡されたのに、登記をBを経由させずA→Cと直接移転することを中間省略登記と呼ぶ
- 場面(1)=すでに中間省略登記がされた場合、その登記は有効か(効力の話)
- 場面(2)=これからCがA→Cの中間省略登記を請求できるか(請求の可否の話)
ここまでの話を踏まえて、③の登記請求権が意味を持つ場面を見ていきます。AからBへ、BからCへと、土地が順番に譲渡されたのに、登記だけはBを経由させず、A名義から直接Cへ移すことがあります。これを中間省略登記と呼びます。登記を二回に分けると、その都度、登録免許税などの費用がかかります。Bを飛ばして一回で済ませれば、その分の費用が浮くからです。もう登記された場合と、これから登記したい場合は、別問題として切り分ける必要があります。一つは、すでにA名義から直接Cへの登記がされてしまった場合、その登記は有効か、という効力の問題です。もう一つは、これからCが、Aに対して直接の登記を請求できるか、という請求の可否の問題です。この二つは時制が違います。先に結論だけ言うと、前者は原則として有効、後者は原則としてできません。
結論は逆に見えますが、矛盾はしていません。この先で、それぞれの理由を確かめていきます。
もう登記された場合——効力
図:効力の図
- A→B→Cの順に土地が移転し、登記だけがA名義からC名義へ直接付けられている
- 全員が同意している場合と、中間者Bが同意していない場合の両方で、現在の所有者がCであることを示す
まず、すでに中間省略登記がされてしまった場面です。A・B・C全員が同意していれば、その登記は有効です。今の所有者はCで、登記の記載もCなので、一致しています。中間者Bが同意していなくても、原則として有効と考えられています。理由は同じで、今の所有者がCであるという事実と、登記の記載が一致しているからです。仮にこの登記を消しても、やり直せばA→B→Cと移って、最後にはやはりC名義になります。結果が同じなら、今の権利関係と合っている登記を、わざわざ覆す意味は薄いんです。
判例最判昭35・4・21民集14巻6号946頁
中間省略登記の抹消——正当な利益の有無 家屋が、甲から乙、丙を経て丁に転々譲渡された後、乙の同意なしに丁のため右家屋について中間省略登記がなされたときであつても、原審認定のような事情(原判決参照)があつて乙が、右中間省略登記の抹消登記を求める正当な利益を欠くときは、右抹消請求は許されない。
判例は、中間者Bが抹消を求められるのは、抹消を求める正当な利益があるときに限られる、という線を引きました。そのうえで、この事案のBにはその利益が無いとして、抹消請求を退けています。分かれ目は、Bに正当な利益があるかどうかです。これは判例の事案そのものではなく、理解のための一つの例ですが、たとえば、BがCから、まだ代金を受け取っていない場合を考えてみてください。この場合Bは、代金を払ってもらうまで、登記を渡さなくてよいと言える権利を持っています。この抗弁権を持っている間に、間を飛ばしてA名義からC名義への登記が済んでしまうと、Bは、自分の手元に登記があるという状態を使って代金の支払いを迫る、という切り札を失います。だから、Bには抹消を求める正当な利益がある、と考えられます。
Cから代金をすでに受け取っていた場合は、Bの利益はもう害されていないので、抹消を求める正当な利益は認められません。今見た判例の事案も、代金の話ではありませんが、中間者Bが自分の名義を登記しておく利益を何も持っていなかった、利益が無い側の場面です。
これから請求する場合——原則できない
図:対比の図
- 以前見た真正な登記名義の回復では、無権利のBが絡んでおり、CからAへの直接移転登記が認められる
- 今回のA→B→Cは全員に本物の所有権移転があり、Cが直接Aに登記を請求することは原則できない
結論から言うと、Bがいったん本当に所有権を持っていた今回は、CがAに直接請求することは、原則としてできません。ここが、今日いちばん注意が要るところです。
判例最判昭40・9・21民集19巻6号1560頁
中間省略登記の請求——原則できない 実体的な権利変動の過程と異なる移転登記を請求する権利は、当然には発生しないと解すべきであるから、甲乙丙と順次に所有権が移転したのに登記名義は依然として甲にあるような場合に、現に所有権を有する丙は、甲に対し直接自己に移転登記すべき旨を請求することは許されないというべきである。ただし、中間省略登記をするについて登記名義人および中間者の同意ある場合は別である。
これから中間省略登記を請求する権利は、原則として発生しません。認められるのは、登記名義人であるAと、中間者であるBの、両方の同意がある場合に限られます。さっきの③で見た、不動産登記法の建前です。登記簿は、所有権が誰から誰へ移ってきたかを、そのまま記録して見せるためのものでした。だから、これから作る登記は、今の所有者が誰かだけでなく、どういう経路でそこに至ったかという筋道も映すべきだとされます。A→B→Cという本物の経路があった以上、これから作る登記も、その経路をたどるのが原則です。いきなりA→Cという登記を新しく請求することは、この原則に反します。すでにされた登記は、消してもやり直せばC名義に戻るだけでした。これから作る登記は違います。まだ何も作っていないので、はじめから筋道どおりに作れます。だから、できてしまった登記は覆さず、これから作る登記は筋道どおりに、と結論が分かれるんです。
決定的な違いは、途中に本物の権利変動があったかどうかです。真正な登記名義の回復の場面では、Bはそもそも無権利で、AからBへの本物の移転は無かった場面でした。だから、CからAへ直接つないでも、経路を飛ばしたことにはなりません。今回は逆で、AからB、BからCへと、本物の移転がすべて実在します。本物の経路がある以上、それを飛ばす直接請求は認められないんです。「真正な登記名義の回復」という名目に変えても、認められません。
判例最判平22・12・16民集64巻8号2050頁
真正な登記名義の回復と中間省略登記 不動産の所有権が、元の所有者から中間者に、次いで中間者から現在の所有者に、順次移転したにもかかわらず、登記名義がなお元の所有者の下に残っている場合において、現在の所有者が元の所有者に対し、元の所有者から現在の所有者に対する真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を請求することは、物権変動の過程を忠実に登記記録に反映させようとする不動産登記法の原則に照らし、許されないものというべきである。
名目をどう変えても、A→B→Cという本物の権利変動の過程があった以上、その過程を登記記録に忠実に反映させるべきだという原則は変わりません。だから、名目を変えても、CがAに直接請求することは認められないんです。
Cが使える迂回路——代位行使
図:代位行使の図
- Cは自分のBに対する登記請求権を守るため、BのAに対する登記請求権を代位行使する
- 結果としてA→B、B→Cの順に登記がそろう
- Bの無資力は要件でないことを示す
筋道どおりなら、まずBがAから登記を受け、次にCがBから登記を受ければよいのですが、Bが自分からAに登記を求めてくれるとは限りません。そこで使えるのが、代位行使です。Cは、自分がBに対して持っている登記請求権を守るために、Bが持っている、Aに対する登記請求権を、Bの代わりに行使できます。
条文民法423条の7
民法 第423条の7 登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記手続又は登録手続をすべきことを請求する権利を行使しないときは、その権利を行使することができる。この場合においては、前三条の規定を準用する。
この条文がその根拠です。通常の債権者代位権は、金銭債権を保全するための制度で、相手の無資力が要件になります。ですが、423条の7は違います。ここでCが守ろうとしているのは、お金の回収ではなく、Bに対する特定の登記請求権そのものです。だから、Bの無資力は要件に入りません。Cがこの代位行使を使ってA→Bの登記を実現し、続けてB→Cの登記も済ませれば、結果として、A→B、B→Cという順序で登記がそろいます。これなら、さっき見た「登記は変動の過程も映すべきだ」という原則とも矛盾しません。飛ばさずに、正しい順番で登記を積み上げる。これが、Cに残された迂回路です。債権者代位権そのものの本体は、別の回で扱います。
中間者の同意が無い中間省略登記の効力と、中間省略登記を請求できるかは、論文で論点になりうる骨格です。
今日の物差し、もう一度
図:まとめの板
- 登記請求権は共同申請主義の裏返しとして解釈上認められる
- ①債権的=契約から・時効消滅する
- ②物権的=所有権から・時効消滅しない
- ③物権変動的=変動の過程を映す要請から・所有権を失った中間者にも認められる
- 中間省略登記は、もう登記された場合は原則有効、これから請求する場合は原則できない
- 迂回路は423条の7の代位行使
今日の話を、一枚にまとめます。登記請求権は、共同申請主義の裏返しとして、解釈上当然に認められる権利でした。協力が得られなければ、判決による登記で実現できます。①債権的登記請求権は、契約から生まれ、消滅時効にかかります。②物権的登記請求権は、今の所有権から生まれ、消滅時効にかかりません。③物権変動的登記請求権は、物権変動の過程を映す要請から生まれ、所有権を失った中間者にも認められます。同じBの中で、時間とともにこの中身が入れ替わっていくんでしたね。すでに登記された場合は、現在の権利関係と一致している以上、原則有効。ただし、中間者に抹消を求める正当な利益があれば別です。これから請求する場合は、経路を飛ばすことになるので、原則できません。名目を変えても同じでした。
Cが登記をそろえたいときは、Bの登記請求権を代位行使すればよいのでした。無資力は要りません。これで、AからB、BからCへと、順番どおりに登記がそろいます。
参照条文
- 不動産登記法63条1項
- 民法423条の7