民法ゼロから民法#100

即時取得の要件①動産と取引行為

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第2章 物権 #100/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

借りていたカメラを売ってしまった

冒頭の場面。AはカメラをBに1週間だけ貸していた。ところがBは、自分の物だと偽ってCに売ってしまった。Cは、Bが持ち主だと信じて疑う理由もなく、代金を払って受け取った。本当の持ち主Aは、Cにカメラを返せと言えるか。 図:冒頭の場面

  • AはカメラをBに1週間だけ貸していた
  • ところがBは、自分の物だと偽ってCに売ってしまった
  • Cは、Bが持ち主だと信じて疑う理由もなく、代金を払って受け取った
  • 本当の持ち主Aは、Cにカメラを返せと言えるか

Aは、大切にしているカメラを、Bに1週間だけ貸していました。ところがBは、そのカメラを自分の物だと言って、Cに売ってしまいました。Cは、Bが持ち主だと信じて疑う理由もなく、代金を払って受け取りました。本当の持ち主Aは、Cに「私のカメラだから返して」と言えるでしょうか。先に答えを言うと、Cが一定の条件を満たしていれば、Aは取り返せません。Cが、持ち主でない人から買ったのに、所有者になるからです。買った側が勝ちます。これが即時取得、192条です。今日は、その条件のうち、何を買ったのか=動産であること、どうやって手に入れたのか=取引であること、この2つを掘ります。

なぜ動産だけ、買った人が守られるのか

比較板。行=動産/不動産。列=①持ち主を確かめる手がかり(占有だけ/登記)②取引の多さ(毎日・大量/動産ほど頻繁でない)③信じた人の守り方(192条=制度として守る・持ち主の帰責性を問わない/登記に公信力なし・94条2項類推=持ち主の帰責性が必要)。 図:比較板。行=動産/不動産。列=①持ち主を確かめる手がかり(占有だけ/登記)②取引の多さ(毎日・大量/動産ほど頻繁でない)③信じた人の守り方(192条=制度として守る・持ち主の帰責性を問わない/登記に公信力なし・94条2項類推=持ち主の帰責性が必要)。

以前の回で、公信の原則を見ました。見えている形を信じて取引した人を、その形どおりに守る考え方です。日本では、これが動産にだけ認められています。不動産の登記に公信力が無い理由は、その回で見たとおり2つでした。真実と違う登記が少なくないこと。そして、不動産の取引は動産ほど頻繁ではないので、買う側に慎重さを求めても酷ではないこと。不動産で買った人が救われるのは、本当の持ち主に帰責性がある場合の、94条2項類推だけでした。理由は、ちょうど裏返しです。動産の取引は、毎日、数えきれないほど行われます。しかも動産には、登記のような帳簿がありません。手がかりは、今その物を持っている、という占有だけです。

占有は、持ち主を示す手がかりとしては弱い。それでも、占有を信じて買った人が後から取り上げられるなら、誰も安心して動産を買えません。だから192条は、本当の持ち主の帰責性を問わずに、占有を信じた人を守ります。これが192条の趣旨、取引の安全です。

192条の全文と4つの入口

4要件の地図。①動産②取引行為③平穏・公然・善意・無過失④占有を始めた、の4つを満たす者は所有権等を取得する。本回は①②を掘る、③④は次回。 図:4要件の地図

  • ①動産②取引行為③平穏・公然・善意・無過失④占有を始めた、の4つを満たす者は所有権等を取得する
  • 本回は①②を掘る、③④は次回

192条の全文を確認します。

条文民法192条

民法 第192条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

条文の中には、4つの要件が並んでいます。取引行為によって、動産の占有を、平穏に、かつ公然と始め、善意であり、かつ過失がないこと。整理すると、①動産、②取引行為、③平穏・公然・善意・無過失、④占有を始めたこと、の4つです。冒頭のカメラで確かめます。カメラは動産です。BからCへの売買は取引行為です。問題は、売ったBが持ち主ではなかった、という一点だけです。Cが平穏・公然・善意・無過失で占有を始めていれば、Cは所有者になり、AはCに返せと言えません。今日は1つめと2つめを掘ります。3つめと4つめは、名前だけ頭に置いておいてください。

「動産」の外側にあるもの

「動産」の外側に3つある。①登録済み自動車②金銭③伐採前の立木。いずれも即時取得の対象になる「動産」にあたらない。 図:「動産」の外側に3つある

  • ①登録済み自動車②金銭③伐採前の立木
  • いずれも即時取得の対象になる「動産」にあたらない

まず①の動産です。即時取得の対象は動産に限られます。不動産や債権には、192条は使えません。ここからは、動産に見えて、実は対象にならない3つの場面を見ていきます。前回、登録を受けている自動車は178条の枠外で、登録が対抗要件になる、という話をしました。実は、192条でも同じ理屈が働きます。

自動車の結論表。登録済み自動車=「動産」にあたらない(最判)。未登録自動車=「動産」にあたる(最判)。抹消登録車も未登録と同様。 図:自動車の結論表

  • 登録済み自動車=「動産」にあたらない(最判)
  • 未登録自動車=「動産」にあたる(最判)
  • 抹消登録車も未登録と同様

判例最高裁判決

登録済み自動車は「動産」にあたらない 道路運送車両法による登録を受けている自動車については、登録が所有権の得喪並びに抵当権の得喪及び変更の公示方法とされているのであるから(同法五条一項、自動車抵当法五条一項)、民法一九二条の適用はないものと解するのが相当であり、また、商法五二一条所定の留置権は、法律上当然に発生し、当事者間の取引により取得される権利ではないから、民法一九二条にいう動産の上に行使する権利には当たらないものと解するのが相当である。

判例は、登録を受けている自動車について、登録が所有権の得喪の公示方法になっているから、192条の適用は無い、としています。判決の後半にある商事留置権の話は、この事件特有の争点なので、深入りしません。今日押さえるのは、登録済み自動車は192条の「動産」にあたらないという部分です。

判例最高裁判決

未登録自動車は「動産」にあたる 道路運送車両法による登録を受けていない自動車は、同法五条一項および自動車抵当法五条(昭和四四年法律第六八号による改正前のもの)の規定により所有権の得喪ならびに抵当権の得喪および変更につき登録を対抗要件とするものではなく、また同法二〇条により質権の設定を禁じられるものではないのであるから、取引保護の要請により、一般の動産として民法一九二条の規定の適用を受けるべきものと解するのを相当とする。そして、この理は、道路運送車両法により登録を受けた自動車が、同法一六条(昭和四四年法律第六八号による改正前のもの)の規定により抹消登録を受けた場合においても同様である。

反対に、まだ登録されていない自動車は、普通の動産として192条が使えます。判例は、一度登録された自動車が、抹消登録を受けた場合も同じだとしています。前回見た理屈が、そのまま繰り返されています。たとえば登録済みの中古車を買うなら、登録を見れば、持ち主が誰かを確かめられます。確かめる手段があるのに、占有だけを信じた人まで守る必要はありません。帳簿がある物は帳簿で、帳簿の無い物は占有で確認する、という分け方です。

金銭は192条の問題にならない

金銭の結論。金銭は物としての個性を持たず価値そのもの。占有者=所有者が常に一致する(最判)。盗んだ金で弁済を受けても受領者が所有者となり、被害者は盗んだ者に不当利得返還・損害賠償を求める。 図:金銭の結論

  • 金銭は物としての個性を持たず価値そのもの
  • 占有者=所有者が常に一致する(最判)
  • 盗んだ金で弁済を受けても受領者が所有者となり、被害者は盗んだ者に不当利得返還・損害賠償を求める

動産の外側にある2つ目が、金銭です。金銭は、物としての個性を持たない、価値そのものだと考えられています。

判例最高裁判決

金銭の所有者は占有者と一致する 金銭は、特別の場合を除いては、物としての個性を有せず、単なる価値そのものと考えるべきであり、価値は金銭の所在に随伴するものであるから、金銭の所有権者は、特段の事情のないかぎり、その占有者と一致すると解すべきであり、また金銭を現実に支配して占有する者は、それをいかなる理由によつて取得したか、またその占有を正当づける権利を有するか否かに拘わりなく、価値の帰属者即ち金銭の所有者とみるべきものである

判例は、金銭の所有者は、特段の事情がない限り、占有者と一致する、としています。今、持っている人が、そのまま所有者になる、という考え方です。Aが、債務者Bから受け取った1万円札が、実はBがCから盗んできたものだったとしても、Aは、その1万円札の所有権をそのまま取得します。占有と所有がいつも一致するので、192条の出番がありません。盗まれたCは、1万円札そのものを取り戻すのではなく、盗んだBに対して、不当利得の返還や損害賠償を求めることになります。

立木を伐って手に入れた場合

立木の結論。非所有者から伐採前の立木を買い自分で伐採しても即時取得しない。理由は二重=伐採前の立木は動産でない(土地の一部)、かつ伐採は取引行為でない。 図:立木の結論

  • 非所有者から伐採前の立木を買い自分で伐採しても即時取得しない
  • 理由は二重=伐採前の立木は動産でない(土地の一部)、かつ伐採は取引行為でない

動産の外側にある3つ目が、伐採前の立木です。Bが、無権利者Aから、まだ立っている木のまま譲り受けて、自分で伐採したとします。この場合、即時取得は成立しません。理由は2つあります。1つ目は、前回見たとおり、伐採前の立木は土地の一部として扱われ、動産ではないこと。2つ目は、伐採という行為そのものが、取引行為ではないこと。動産でもなく、取引でもない、二重に外側にあたります。

「取引行為」にあたるもの・あたらないもの

取引行為の範囲。あたる=売買・贈与・弁済・代物弁済・質権設定・競売(最判)。あたらない=相続・伐採。 図:取引行為の範囲

  • あたる=売買・贈与・弁済・代物弁済・質権設定・競売(最判)
  • あたらない=相続・伐採

次は②の取引行為です。192条は取引の安全を守る制度なので、取引行為によって占有を得たことが必要です。売買、贈与、弁済、お金の代わりに物で払う代物弁済、借金の担保として物を預ける質権の設定は、いずれも取引行為にあたります。

判例最高裁判決

競売も取引行為にあたる 執行債務者の所有に属さない動産が強制競売に付された場合であつても、競落人は、民法一九二条の要件を具備するときは、同条によつて右動産の所有権を取得できるものと解すべきである。

判例は、差し押さえられて競売にかけられた動産が、実は債務者の物でなかった場合でも、192条の要件を満たせば、買い受けた人は所有権を取得できるとしています。競売も、代金を払って物を買い受ける点では、売買と変わりません。債務者の物だと信じて買った人を守る必要は、普通の売買と同じだからです。取引行為にあたらない代表は、相続です。たとえば、亡くなった父の部屋にあったカメラを、息子が受け継いだとします。実はそのカメラは、父が友人から借りていた物でした。息子が父の物だと信じていても、192条で所有者にはなれません。人が代わっただけで、取引によって占有を得たわけではないからです。さきほどの伐採も同じです。

192条が埋めるのは、たった1つの欠陥だけ

192条の守備範囲。①動産②取引行為をクリアしても、取引そのものが無効・取消し・本人に届かない(無権代理)なら192条は使えない。192条が埋めるのは「前主が無権利だった」ことだけ。 図:192条の守備範囲

  • ①動産②取引行為をクリアしても、取引そのものが無効・取消し・本人に届かない(無権代理)なら192条は使えない
  • 192条が埋めるのは「前主が無権利だった」ことだけ

どんな取引でも192条で守られるのか。そこが、今日いちばんの山場です。①動産と②取引行為をクリアしても、その取引そのものに欠陥があれば、192条は使えません。未成年者が一人でした売買や、騙されてした売買のように、取り消される取引。見せかけだけの売買のように、初めから無効な取引。代理権の無い人が結んだせいで、本人に効果が届かない取引。こうした取引の直接の相手方は、192条では保護されません。192条が埋めるのは、「前の人が権利を持っていなかった」ということ、ただ一点だけです。取引そのものに欠陥がある場合は、そもそも「取引行為によって」占有を始めたとは言えません。無効・取消しの欠陥までは、192条は埋めてくれないんです。

たとえば、未成年者が親に黙って、自分のゲーム機を売ったとします。未成年者は、この売買を取り消せます。ところが、買った人が相手を大人だと信じていたからといって192条で守られるなら、取り消してもゲーム機は戻りません。取消しも、無効も、本人に届かないという扱いも、それぞれの制度が、守るべき人を守るために用意したものです。192条は、その判断を上書きしません。代理権があると信じた相手を守るかどうかは、以前見た表見代理の問題です。192条が埋めるのは、前の人が持ち主でなかった、という欠陥だけです。

一段先の取得者は救われる

無権代理の事案。Dが所有するカメラについて、無権代理人Aが代理権を装いBに売却(本人Dに効果が届かない)。BはAから直接192条で保護されない。 図:無権代理の事案

  • Dが所有するカメラについて、無権代理人Aが代理権を装いBに売却(本人Dに効果が届かない)
  • BはAから直接192条で保護されない

ところが、ここからもう一段先に進むと、話が変わります。事例で見ましょう。Dが所有するカメラについて、Dの代理人だと偽ったAが、Bに売却したとします。Dが追認しない限り、カメラはBの物にならず、Bは192条でも保護されません。ところが、Bが、そのカメラを、善意無過失のCに転売し、引き渡したとします。

無権代理の事案・二段目。BがさらにCに転売。BC間の売買は他人物売買として有効な取引行為。Cは192条で保護される。 図:無権代理の事案・二段目

  • BがさらにCに転売
  • BC間の売買は他人物売買として有効な取引行為
  • Cは192条で保護される

この場合、Cは192条によって保護されます。BC間の売買は、他人物売買として、それ自体は有効な取引行為だからです。Cから見れば、無権利者Bから、取引行為によって、占有を始めた、という192条本来の場面が、そのまま成立しています。

詐欺取消しの事案。Yの詐欺でXがYにカメラを売却。Xが取消し「前」に、Yが善意無過失のZに転売。 図:詐欺取消しの事案

  • Yの詐欺でXがYにカメラを売却
  • Xが取消し「前」に、Yが善意無過失のZに転売

もう1つ、事例を見ます。Yの詐欺によって、Xが、自分のカメラをYに売却しました。ただし、Xが取り消すに、Yが、善意無過失のZに転売していたとします。

詐欺取消しの事案・二段目。Xが取消し。取消しの遡及効でYZ間も遡って他人物売買になるが有効な取引行為。Zは96条3項に加え192条でも保護される。 図:詐欺取消しの事案・二段目

  • Xが取消し
  • 取消しの遡及効でYZ間も遡って他人物売買になるが有効な取引行為
  • Zは96条3項に加え192条でも保護される

この後でXが売買を取り消したとしても、Zは96条3項はもちろん、192条によっても保護されます。取消しには遡る効果があるので、結果的にYZ間の売買は、さかのぼって他人物売買になりますが、これもやはり有効な取引行為だからです。

転得者が救われる形の総括。一段目の取引に欠陥があっても、二段目の取引は他人物売買として別個に有効。転得者から見れば192条本来の場面がそのまま成立する。 図:転得者が救われる形の総括

  • 一段目の取引に欠陥があっても、二段目の取引は他人物売買として別個に有効
  • 転得者から見れば192条本来の場面がそのまま成立する

一段目の取引に欠陥があっても、二段目の取引は、それ自体は別物として有効という同じ形が、繰り返されています。取消しのあとに転売された場合は、話が変わります。取り消した時点で、カメラはYからXに戻ります。そのあとにYがZに売ると、Yから、XとZの二人に渡ったのと同じ形になります。そこで192条ではなく、どちらが先に引渡しを受けたかという、対抗要件の問題として扱われます。本体は、また別の回で扱います。

今日の地図(保存版)

まとめの板。192条=①動産②取引行為③平穏・公然・善意・無過失④占有を始めた(③④は次回)。動産の外側=登録済み自動車/金銭/伐採前の立木。取引行為の外側=相続/伐採。192条が埋めるのは前主の無権利だけ、直接の相手方は救えないが転得者は救われうる。 図:まとめの板

  • 192条=①動産②取引行為③平穏・公然・善意・無過失④占有を始めた(③④は次回)
  • 動産の外側=登録済み自動車/金銭/伐採前の立木
  • 取引行為の外側=相続/伐採
  • 192条が埋めるのは前主の無権利だけ、直接の相手方は救えないが転得者は救われうる

今日の話をまとめます。192条が守るのは、動産を、取引で手に入れ、平穏・公然・善意・無過失のまま占有を始めた人でした。動産の外側には、登録済み自動車、金銭、伐採前の立木があり、いずれも即時取得の対象になりません。そして今日いちばん大事なのは、192条が埋めるのは、前の人が権利を持っていなかったという一点だけで、取引そのものの欠陥までは埋めない、ということです。直接の相手方は救えなくても、その先の転得者は、有効な取引によって救われうる。Aは、Cが残りの条件を満たしていれば、Cに返せとは言えません。

参照条文

  • 民法192条

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