即時取得の効果と盗品・遺失物の特則
印刷のコツ
プリンターでは次の設定がおすすめです。
- 用紙:A4 / 向き:縦
- 拡大縮小:「実際のサイズ」(フィット縮小しない)
- 両面印刷:オン、とじ方は「長辺をとじる」(左綴じ)
- モノクロ印刷OK(強調は色でなく太字なので白黒でも読めます)
第2章 物権 #102/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
盗まれたカメラの行方
図:冒頭の場面
- Aは自分のカメラを盗まれた
- 盗んだ犯人はそのカメラを中古カメラ店Dに売った
- 客Cは、そのカメラが盗品だとは知らず、Dの店頭で相場どおりの代金を払って買い受けた
- Cは即時取得の要件をすべて満たしている
Aは、自分のカメラを盗まれました。盗んだ犯人は、そのカメラを、中古カメラ店Dに売りました。そして、その店の客であるCが、Dの店頭で、そのカメラを買いました。Cは、盗品だとは知らず、相場どおりの代金を払って買い受けました。前回までに見た4つの条件を、Cはすべて満たしています。先に答えを言うと、Aは取り返せます。ただし条件があります。盗まれたときから2年以内であること、そしてCが払った代金を弁償すること、この2つです。今日は、即時取得が成立したあとに何が起きるのか、そしてそれを2年間だけひっくり返せる特別なルールを見ていきます。
効果は原始取得——まっさらな権利を手に入れる
図:効果総論の板
- 192条は「行使する権利」を取得すると定める
- ①所有権として取得する場合と②質権として取得する場合の2通りがある
- 取得は原始取得=前主に付いていた担保・制限を引き継がない
まず、192条をもう一度確認します。
条文民法192条
民法 第192条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
条文は、「行使する権利を取得する」と書いています。多くの場合、取得するのは所有権です。ただ、192条の文言が「行使する権利」となっているのには理由があって、取得するのは所有権だけとは限りません。質権を即時取得する場合もあるんです。質権も、取引の安全を守る対象になるんですか。なります。例えば、XがAに時計を預けていたとします。Aは、その時計を自分の物であるかのように装って、Bからお金を借りる際、時計に質権を設定してBに引き渡しました。Bが、Aを持ち主だと信じて疑う理由もなく、無過失だったとします。この場合、Bは時計の質権を即時取得します。
Aは無権利者ですが、Bは占有という外観を信じて取引したので、192条によって保護されます。そして、こうして得る権利は、原始取得です。前の人が持っていた権利を、そのまま引き継ぐのではなく、前の人に付いていた担保や制限を切り離した、まっさらな権利を新しく手に入れる、という意味です。前の持ち主に借金の担保が付いていても、関係ないんですか。関係ありません。取得時効の回で、時効で土地を手に入れた人のところでは、前の持ち主が付けていた銀行の抵当権が消える、という話をしました。それと同じ原始取得です。即時取得者も、そうした負担を引き継がない、新しい権利を取得します。ここまでが、即時取得が成立したときの効果です。
193条——盗品・遺失物は2年間だけ取り返せる
図:193条の構造図
あれ、でも前回までの話だと、Cさんは要件を全部満たしてるから即時取得が成立するはずですよね。それなのに、Aさんは取り返せるんですか。ここが今日いちばんの山場です。即時取得は、確かに成立しています。ただ、盗まれた物や落とし物は、持ち主が自分の意思とは無関係に手放した物です。そういう持ち主を守るために、成立した即時取得を、2年間だけひっくり返せる特別なルールがあるんです。それが193条です。
条文民法193条
民法 第193条 前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。
192条の要件をすべて満たしていても、占有物が盗品か遺失物であれば、被害者や遺失者は、盗難または遺失のときから2年間、占有者に対して回復を請求できます。「盗品」は、窃盗や強盗によって、持ち主の意思に反して奪われた物です。「遺失物」は、窃盗や強盗以外の方法で、持ち主の意思によらずに占有を離れた物、落とし物のことです。騙されて渡してしまった物や、預けていた物を持ち逃げされた場合も、盗品にあたるんですか。あたりません。詐取された物、つまり騙し取られた物、横領された物、そして喝取された物、つまり脅し取られた物は、盗品にも遺失物にも含まれません。
持ち主が損をしている点は同じでも、騙し取られた物や横領された物は、193条の外に置かれます。さっき言ったとおり、193条が守るのは、自分の意思とは無関係に占有を失った持ち主です。騙されて渡した場合も、預けた相手に持ち逃げされた場合も、持ち主は、いったんは自分の意思でその人に物を渡しています。自分の意思で占有を手放している以上、193条が守る場面にはあたりません。冒頭のAのカメラは、盗まれたものですから、盗品にあたります。もう1つ、2年間には性質があります。この2年間は除斥期間と解されていて、途中で止まったり延びたりしません。そして起算点に注意してください。カメラが盗まれた時点から数えます。Cが買い受けた時点からではありません。
盗まれてから1年半後にCが買った場合も、起算点はあくまでカメラが盗まれた時点なので、Aが取り返せるのはあと半年だけです。Cが買ってから2年、ではありません。
2年間、所有権はどちらにあるか
図:所有権の所在の板
- 盗難の時点=原権利者
- 即時取得が成立してからも盗難の時から2年以内は、判例・通説は原権利者に残ると解する
- 盗難から2年が経過して初めて占有者に確定する
193条の条文は、「回復を請求できる」としか書いていません。この2年間、所有権が誰にあるかは、条文に直接書かれていないんです。いったんCに所有権が移り、Aが回復請求すると所有権がAに戻る、という見方もできます。ただ、判例・通説は、もっと単純に考えます。この2年間、所有権は最初から原権利者、つまりAに残ったままだと解するんです。さっきの見方だと、Aが取り返す場面では、カメラの所有権は、AからCへ移って、またAへ戻る。A、C、Aと一回りして、元の場所に帰ってくるだけです。わざわざ一回りさせる意味は乏しいので、2年間はずっとAのところにある、と考えるほうが話がすっきりします。そして、2年たっても取り返されなければ、そこで初めて、Cの所有権が確定します。回復請求の相手方にも触れておきます。回復請求できる相手は占有者です。カメラを今持っている人だけでなく、その人から相続などで受け継いだ人や、さらに買い受けた人も含みます。
ここは、時効の回で名前が出てきた占有回収の訴え——占有を奪われた人が、奪った相手に返してくれと求める訴え——と対照的です。あちらは、奪った人から、奪われた事情を知らずに買い受けた人には、請求できません。193条の回復請求は、そこまで及びます。占有回収の訴えの中身は別の回で扱いますので、今日はこの違いだけ押さえておいてください。
194条——代価を弁償しないと取り返せない
図:194条要件板
- 占有者が、競売・公の市場・同種の物を販売する商人から、善意(無過失込み)で買い受けたときは、被害者・遺失者は代価を弁償しなければ回復できない
- 冒頭のCは中古カメラ店Dの店頭(公の市場に含まれる普通の店舗)で買っている
ところが、193条にも、さらに例外があります。今度は、買った人の側を守るための例外です。それが194条です。
条文民法194条
民法 第194条 占有者が、盗品又は遺失物を、競売若しくは公の市場において、又はその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者又は遺失者は、占有者が支払った代価を弁償しなければ、その物を回復することができない。
占有者が、盗品や遺失物を、競売、公の市場、またはその物と同種の物を販売する商人から、善意で買い受けたときは、被害者・遺失者は、占有者が払った代金を弁償しなければ、取り返せません。市場そのものに加えて、広く一般の人を相手にする普通の店舗も含みます。冒頭のCも、中古カメラ店Dの店頭で買っていますから、この「公の市場」にあたります。もう一つ、「同種の物を販売する商人」という類型もあります。こちらは、店舗を持たずに同じ種類の物を売る商人のことで、行商人が典型です。店舗があるかどうかで、条文上は言葉が分かれていますが、どちらに入っても、194条が適用される場面に変わりはありません。
いえ、ここでの「善意」は無過失も含む意味です。194条は192条・193条の特則ですから、192条で要求される無過失が、ここでも当然に求められます。条文には「善意」としか書いていないので、読み落とさないでください。「買い受けた」というのは、もらった場合も含みますか。含みません。贈与で受け取った場合には、194条は適用されません。買い受けた、つまり代金を払った場合に限られます。趣旨はこうです。競売や、ちゃんとした市場や、その道の商人から買った人は、普通、その物が盗品や遺失物だとは考えません。買った人にとって、いちばん疑いようのない買い方をしたのに、それでも無償で取り上げられるのでは、金銭的な損害を受けてしまいます。それを避けるために、被害者側に、代価の弁償という負担を分担させるんです。冒頭のCも、相場どおりの代金を払って、Dの店頭で買っています。だから、Aは、Cが払った代金を弁償しなければ、カメラを取り返せません。
もしCが、Dの店を通さずに犯人から直接買っていた場合は、194条は使えません。競売でも、公の市場でも、同種の物を販売する商人からでもないからです。そのときは193条だけが問題になり、Aは代価を払わずに、そのままカメラを取り返せます。買った場所や相手によって、代価の弁償が要るかどうかが変わるんです。
弁償があるまで、占有者は使ってよい
図:所有権と使用収益権の区別の板
- 2列の対比
- 左「所有権はどこにあるか」=A(原権利者)に残る(判例・通説)
- 右「今使ってよいのは誰か」=194条が効く場面では代価弁償の提供があるまでC(占有者)・使用利益も返さなくてよい(最判)
- 下に一言「2つは別のレーン」
代金を弁償するまでの間、Cさんはそのカメラ、使っていいんですか。ここは、ある判例で扱われた問題です。盗まれた土木機械を、無店舗で中古の機械を売る業者から、善意無過失で買い受けた人がいました。持ち主が、その機械の引き渡しと、それまでの使用利益の返還を求めて訴えました。
判例最高裁判決
代価弁償があるまで占有者は使用収益できる 盗品又は遺失物(以下「盗品等」という。)の被害者又は遺失主(以下「被害者等」という。)が盗品等の占有者に対してその物の回復を求めたのに対し、占有者が民法一九四条に基づき支払った代価の弁償があるまで盗品等の引渡しを拒むことができる場合には、占有者は、右弁償の提供があるまで盗品等の使用収益を行う権限を有すると解するのが相当である。
最高裁は、占有者は、代価の弁償の提供があるまで、その物を使ってよい権限を持つと判断しました。194条は、占有者と被害者側の、保護のバランスを取るための規定です。被害者側は、代価を払って取り返すか、取り返すのをあきらめるか、自分で選べる立場にあります。それなのに、占有者だけが、弁償があるまでの使用利益まで失うのでは、バランスが崩れてしまいます。だから、弁償があるまでは、占有者に使う権限を認めるんです。さっき、所有権はAさんに残ったまま、っていう話でしたよね。今度は使っていいのはCさん。これ、矛盾してないですか。矛盾していません。ここは、はっきり分けて整理してください。所有権が誰にあるかという話と、今この物を使ってよいかという話は、別の問題です。所有権は原権利者に残ったままでも、194条が効く場面では、代価弁償までの使用収益「権限」は、占有者に別に認められます。この2つを重ねずに、別のレーンとして見てください。
もしCさんが犯人から直接買っていたら、それでも弁償まではカメラを使っていいんですか。違います。判例が認めたのは、194条によって、代価の弁償があるまで引き渡しを拒める場合です。193条だけが問題になる場面では、弁償を待つ必要がないので、この使用収益権も出てきません。
今日の地図(保存版)
図:まとめ板
今日の話をまとめます。即時取得が成立すると、占有者は原始取得によって、所有権、あるいは質権を、まっさらな形で取得します。盗品・遺失物であれば、193条により、盗難・遺失のときから2年間、被害者・遺失者が回復請求できます。この2年間、所有権は原権利者に残ったままです。占有者が、競売、公の市場、あるいは同種の物を販売する商人から善意で買い受けていた場合は、194条により、被害者側は代価を弁償しないと取り返せません。そして、その弁償があるまでは、占有者はその物を使ってよく、使用利益を返す必要もありません。
これで、192条から194条までの即時取得の全体像がそろいました。要件を満たして成立し、原始取得という効果を持ち、それでも盗品・遺失物には2年間の特則がある。
参照条文
- 民法192条
- 民法193条
- 民法194条