民法ゼロから民法#105

果実・費用償還請求権

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第2章 物権 #105/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

隣の畑で10年、野菜を売って暮らしていたら

冒頭の場面。Aは、ずっと放置されていた隣の畑を自分の土地だと思い込み、10年間、そこで採れた野菜を売って生活していた。ある日、本当の持ち主Bが現れる。 図:冒頭の場面

  • Aは、ずっと放置されていた隣の畑を自分の土地だと思い込み、10年間、そこで採れた野菜を売って生活していた
  • ある日、本当の持ち主Bが現れる

Aは、隣の畑がずっと放置されているのを見て、自分の土地だと思い込みました。そこで10年間、採れた野菜を売って生活していました。ある日、本当の持ち主Bが現れます。先に答えを言います。Aが「自分の土地だ」と信じていたなら、これまで売ったお金は返さなくてよいんです。話はまったく変わります。同じ10年間なのに、なぜ結論がここまで分かれるのか。今日は、占有をめぐる果実・損害賠償・費用の清算ルールを、善意・悪意という1本の軸で見ていきます。

まず果実とは何か

果実の定義の一言板。天然果実は物の用法に従い収取する産出物。法定果実は物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物。畑の野菜は天然果実。 図:果実の定義の一言板

  • 天然果実は物の用法に従い収取する産出物
  • 法定果実は物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物
  • 畑の野菜は天然果実

189条に入る前に、物の分類の回で見た果実を一言だけ確認します。果実には2種類あります。畑の野菜のように、物の用法に従って収穫される産出物が天然果実。家賃のように、貸したことの対価として受け取るお金が法定果実です。今日のAの野菜は天然果実です。野菜を売った代金そのものは果実ではありませんが、野菜がAのものになれば、売った代金もAのものとして手元に残ります。

189条——善意の占有者は果実を取得する

189条全文カードの背景。1項は善意の占有者による果実の取得。2項は本権の訴えで敗訴したときは訴え提起の時から悪意の占有者とみなす。 図:189条全文カードの背景

  • 1項は善意の占有者による果実の取得
  • 2項は本権の訴えで敗訴したときは訴え提起の時から悪意の占有者とみなす

ここで条文を見てみましょう。

条文民法189条

民法第百八十九条 善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。 2 善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす。

Aは「自分の土地だ」と信じて畑を占有していました。これは善意占有です。1項がそのまま当てはまります。2項も見ておきましょう。仮にBがAを訴えて、Aが裁判で負けたとします。負けが確定した時から、悪意になるんですか。そこが急所です。判決が確定した時ではなく、訴えを起こされた時から悪意の占有者とみなされます。訴えられた時点で、Aは「本当は他人の土地かもしれない」と気づく機会を持ったから、という理屈です。この時点から、このあと見る190条の世界に切り替わります。

なぜ189条は不当利得より占有者に有利なのか

189条と703条の対比板。703条は法律上の原因なく利益を受けた者は利益の存する限度で返還。189条の善意占有者は現存利益を問わず果実を全部取得できる。189条は703条の特則。 図:189条と703条の対比板

  • 703条は法律上の原因なく利益を受けた者は利益の存する限度で返還
  • 189条の善意占有者は現存利益を問わず果実を全部取得できる
  • 189条は703条の特則

ここで、少し立ち止まります。実は、他人のものから利益を得た場合の一般ルールとして、703条という条文があります。法律上の原因なく利益を受けた者は、利益の存する限度で返還する義務を負う、というルールです。今も手元に残っている分だけ返せばよい、という考え方ですね。実は189条は、703条よりもさらに占有者に有利です。703条なら「今も残っている分だけ」ですが、189条の善意占有者は、残っているかどうかすら問われず、全部取得してよいんです。なぜそこまで有利にするんですか。果実は、日常的に消費されてしまうのが普通だからです。野菜を売ったお金は、生活費に消えているのが通常ですよね。何年も前の分まで「返せ」と言われたら、善意で暮らしていたAには酷です。だから189条は、善意占有者の生活の安定を守るために、703条よりも手厚い特別ルールを置いています。

この「善意占有者の生活を守る」という理由が、あとで191条を理解するときの鍵になります。

190条——悪意の占有者は代価まで償還する

190条全文カードの背景。悪意の占有者は果実を返還し、既に消費・過失で損傷・収取を怠った果実の代価を償還する。2項は暴行・強迫・隠匿によって占有する者にも準用。 図:190条全文カードの背景

  • 悪意の占有者は果実を返還し、既に消費・過失で損傷・収取を怠った果実の代価を償還する
  • 2項は暴行・強迫・隠匿によって占有する者にも準用

今度は、Aが「実は他人の土地かもしれない」と薄々気づきながら野菜を売っていた場合を考えます。

条文民法190条

民法第百九十条 悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。 2 前項の規定は、暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者について準用する。

この場合、Aは果実を返還するだけでなく、もう食べてしまった分や、過失で腐らせてしまった分、収穫を怠った分についても、お金で償還する義務を負います。189条は全部取得、190条は代価まで償還。この落差が、善意・悪意の分かれ目です。189条の理由を裏返すと分かります。薄々気づいていたAは、いつか返すことになると分かっていました。それなのに使ってしまったのなら、守る理由がありません。2項も見ておきましょう。暴行や強迫、こっそり隠れて占有している者にも、同じ義務が準用されます。暴力やこっそり隠すやり方で占有を始めた人に、「自分の物だと信じていた」という言い分を持ち出させない、という趣旨です。

191条——滅失・損傷の損害賠償

191条全文カードの背景。占有物が占有者の責めに帰すべき事由で滅失・損傷したとき、悪意の占有者は全部賠償、善意の占有者は現に利益を受けている限度で賠償。ただし所有の意思のない占有者は善意でも全部賠償。 図:191条全文カードの背景

  • 占有物が占有者の責めに帰すべき事由で滅失・損傷したとき、悪意の占有者は全部賠償、善意の占有者は現に利益を受けている限度で賠償
  • ただし所有の意思のない占有者は善意でも全部賠償

次は、占有している物そのものを、占有者が壊してしまった場合です。

条文民法191条

民法第百九十一条 占有物が占有者の責めに帰すべき事由によって滅失し、又は損傷したときは、その回復者に対し、悪意の占有者はその損害の全部の賠償をする義務を負い、善意の占有者はその滅失又は損傷によって現に利益を受けている限度において賠償をする義務を負う。ただし、所有の意思のない占有者は、善意であるときであっても、全部の賠償をしなければならない。

基本の構図は、これまでと同じです。悪意の占有者は全部賠償。善意の占有者は、現に利益を受けている限度でよい。例えば、壊れた家の材料がまだ手元にあるなら、その材料を返せば足ります。もう売ってしまったなら、売った代金が残っている限度で償還すれば足ります。ここで、ただし書に注目してください。所有の意思のない占有者は、善意であっても全部賠償しなければなりません。前回までに見た、自主占有と他主占有の区別を覚えていますか。所有権を移す契約なら自主占有、借りているだけなら他主占有、でしたね。ここで、その区別が初めて損害賠償の場面で効いてきます。

なぜ他主占有者だけ善意でも全部賠償なのか

事案図。Aは、自分の畑だと信じて、畑の隅の小屋をCに貸していた。Cは、Aが持ち主だと信じて借りていた(善意の他主占有)。Cは不注意で小屋を壊した。本当の持ち主はB。 図:事案図

  • Aは、自分の畑だと信じて、畑の隅の小屋をCに貸していた
  • Cは、Aが持ち主だと信じて借りていた(善意の他主占有)
  • Cは不注意で小屋を壊した
  • 本当の持ち主はB

具体例で見てみましょう。冒頭のAが、自分の畑だと信じて、畑の隅の小屋をCに貸していたとします。ある日、Cは不注意で、その小屋を壊してしまいました。そこへ本当の持ち主Bが現れて、賠償を求めます。ところが、Cは他主占有者です。191条ただし書により、Cは全部賠償しなければなりません。さっき189条のところで見た理由を思い出してください。善意占有者を手厚く守るのは、なぜでしたか。自分の物だと信じて生活していたから、でした。でも、他主占有者は最初から「自分の物ではない」と分かって持っています。Cは最初から、小屋はいつか返す借り物だと分かって預かっていました。壊せば全部弁償するのが当然の立場です。善意占有者を守る理由は、Cには及びません。比べてみましょう。もしA自身が、自分の小屋だと信じたまま、不注意で壊していたらどうでしょう。

同じ善意でも、自分の物として持っていたAは限度で済み、借り物として持っていたCは全部賠償です。まとめると、結論は3つです。悪意の占有者は全部賠償。善意の他主占有者も全部賠償。善意の自主占有者だけが、現存利益の限度で済みます。

196条——費用を払った分は取り返せるか

196条全文カードの背景。1項は必要費を回復者から償還させることができる。ただし果実を取得したときは通常の必要費は占有者の負担。2項は有益費、値上がり分が今も残っていれば、Bが選んだ額を償還。悪意の占有者には裁判所が期限を許与できる。 図:196条全文カードの背景

  • 1項は必要費を回復者から償還させることができる
  • ただし果実を取得したときは通常の必要費は占有者の負担
  • 2項は有益費、値上がり分が今も残っていれば、Bが選んだ額を償還
  • 悪意の占有者には裁判所が期限を許与できる

最後に、占有者が物のために支出したお金の話です。

条文民法196条

民法第百九十六条 占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。 2 占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

まず1項。物を保存するために支払ったお金、つまり必要費は、善意でも悪意でも、原則として全額請求できます。必要費は、そもそも物の持ち主であるBが本来払うべきお金だからです。占有者が善意か悪意かとは、関係がありません。ただし、ただし書があります。占有者が果実を取得していたときは、通常の必要費は占有者の負担になります。畑の通常の手入れ費用くらいは、野菜を売った利益でまかなえるはずだから、二重取りにならないよう占有者の負担にする、という発想です。通常ではない必要費もあるんですか。あります。草取りや毎年の小さな補修のように、ふだんから繰り返しかかるのが通常の必要費。台風で急に壊れた所を直すような、臨時で大きな修繕費は特別の必要費といい、果実でまかなえる範囲を超えるので、ただし書の対象外。占有者は請求できます。次に2項。物の価値を高めるために支払ったお金、有益費です。こちらは、その価値の増加が今も残っている場合に限って、支払った金額か増えた価値のどちらかを、回復者Bが選んで償還します。

原則は関係ありません。ただし、悪意の占有者に対してだけ、もう1つ、ただし書があります。

悪意占有者の有益費と、支払いの先延ばし

具体例。薄々気づいていたAは、台風で崩れた畑の石垣を積み直し、さらに畑に水を引く用水路を新しく作った。石垣の修理は必要費、用水路は有益費。 図:具体例

  • 薄々気づいていたAは、台風で崩れた畑の石垣を積み直し、さらに畑に水を引く用水路を新しく作った
  • 石垣の修理は必要費、用水路は有益費

例えば、Aが「他人の土地かもしれない」と薄々気づきながら、台風で崩れた畑の石垣を積み直し、さらに畑に水を引く用水路を新しく作ったとします。石垣の修理は、台風で急に崩れた所を直す臨時の費用なので、さっきの特別の必要費です。Aが果実を取っていても、悪意でも、全額請求できます。一方、用水路は有益費なので、畑の価値の増加が残っていれば請求できます。ここでもう1つのただし書が効いてきます。裁判所は、回復者Bの請求により、この有益費の支払いに、相当な期限を許与できます。悪意の占有者が相手のときだけ、回復者Bを守るために認められた仕組みです。他人のものだと分かっていながら高いお金をかけて手を加え、その費用を一度に払えと迫るのは、Bに酷だからです。

支払いの先延ばしが、留置権を失わせる

留置権とのつながりのフロー板。Aが有益費を支出し、Bが期限の許与を裁判所に申し立てる。期限が許与されると弁済期が来ていない状態になり、Aは留置権を主張できなくなる。占有する権原がないと知っていた者や、知らなかったことに過失がある者が費用を支出した場合は、295条2項の類推適用により、期限の許与を待たずに留置権は認められない。 図:留置権とのつながりのフロー板

  • Aが有益費を支出し、Bが期限の許与を裁判所に申し立てる
  • 期限が許与されると弁済期が来ていない状態になり、Aは留置権を主張できなくなる
  • 占有する権原がないと知っていた者や、知らなかったことに過失がある者が費用を支出した場合は、295条2項の類推適用により、期限の許与を待たずに留置権は認められない

この支払いの先延ばしには、もう一つ意味があります。物についてお金を請求できる人がその物を占有していると、本来は、留置権という権利を使えます。お金を払ってもらうまで、物を渡さずに留めておける権利です。留置権には、条件があります。その債権が、まだ支払期限に達していないときは、留置権は成立しません。裁判所が有益費の支払いに期限を許与すると、Aの有益費の債権は、まだ支払期限に達していない状態になります。期限の許与は、単なる支払いの先延ばしではなく、悪意占有者から留置権という盾を奪う効果も持っています。期限の許与がなければ、悪意の占有者でも留置権を使えるんですか。そこは判例もはっきりしています。占有する権原がないと知っていた者だけでなく、知らなかったことに過失がある者についても、295条2項を類推して、期限の許与を待たずに、そもそも留置権を認めていません。ですから、薄々気づいていたAも留置権は使えません。短答では、この結論を押さえておいてください。

果実・損害賠償・費用償還のまとめ

まとめ板。果実収取(189・190条)は善意なら全部取得、悪意なら返還+代価償還。損害賠償(191条)は悪意と善意の他主占有が全部賠償、善意の自主占有だけ現存利益。費用償還(196条)は必要費が原則善意・悪意を問わず、有益費に悪意占有者への期限の許与がある。 図:まとめ板

  • 果実収取(189・190条)は善意なら全部取得、悪意なら返還+代価償還
  • 損害賠償(191条)は悪意と善意の他主占有が全部賠償、善意の自主占有だけ現存利益
  • 費用償還(196条)は必要費が原則善意・悪意を問わず、有益費に悪意占有者への期限の許与がある

今日の話をまとめます。果実は、善意なら全部取得、悪意なら返還したうえで代価まで償還する義務を負いました。189条は、703条よりも占有者に有利な特別ルールでしたね。損害賠償は、悪意の占有者と、善意でも他主占有者は全部賠償。善意の自主占有者だけが現存利益の限度で済みました。費用償還は、必要費が善意・悪意を問わず原則もらえる点が、これまでの「善意なら有利」という構図の例外でした。有益費だけ、悪意占有者に支払いの先延ばしという不利益があって、それが留置権を失わせる場面にもつながっていました。冒頭のAも、これで説明がつきますね。信じ込んで暮らしていたなら、10年分のお金は返さなくていい。でも薄々気づいていたなら、話は変わる。この続きでは、占有そのものを妨害されたときに使える、占有の訴えを見ていきます。

参照条文

  • 民法189条
  • 民法190条
  • 民法191条
  • 民法196条

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