民法ゼロから民法#106

占有の訴えと本権の訴え

印刷用PDFを開く

第2章 物権 #106/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

盗んだ自転車を取り返されたAが、逆に裁判所に訴え出た

冒頭の場面。Aは、Bの自転車を盗んだ。数日後、Bは駅前の駐輪場で自分の自転車を見つけ、そのまま乗って帰った。ところがAは、Bに対して「自転車を返せ」と裁判所に訴えを起こした。 図:冒頭の場面

  • Aは、Bの自転車を盗んだ
  • 数日後、Bは駅前の駐輪場で自分の自転車を見つけ、そのまま乗って帰った
  • ところがAは、Bに対して「自転車を返せ」と裁判所に訴えを起こした

Aが、Bの自転車を盗みました。数日後、Bは駅前の駐輪場で自分の自転車を見つけて、そのまま乗って帰りました。ところがAは、Bに対して「自転車を返せ」と裁判所に訴えを起こしたんです。先に答えを言います。Aの訴えは認められます。裁判所は、Aが窃盗犯人であることを理由に、この訴えを退けることはできないんです。いえ、Bにも打つ手が残っています。同じ場面なのに、なぜ泥棒の訴えが通り、それでも被害者が最終的に自転車を取り戻せるのか。今日は、占有権の最後のテーマ、占有の訴えと本権の訴えの関係を見ていきます。

197条——占有者は誰でも訴えられる

197条全文カードの背景。占有者は198条から202条までの規定に従い占有の訴えを提起できる。他人のために占有する者も同様。占有の種類・善意悪意・本権の有無を問わない。占有補助者だけは除く。 図:197条全文カードの背景

  • 占有者は198条から202条までの規定に従い占有の訴えを提起できる
  • 他人のために占有する者も同様
  • 占有の種類・善意悪意・本権の有無を問わない
  • 占有補助者だけは除く

まず条文を見ましょう。

条文民法197条

民法第百九十七条 占有者は、次条から第二百二条までの規定に従い、占有の訴えを提起することができる。他人のために占有をする者も、同様とする。

占有の種類、つまり自主占有か他主占有か、自己占有か代理占有か、善意占有か悪意占有かは問いません。どれも#79・#103・#104で見た区別です。本権、つまり#103で見た、所有権や賃借権のように物を持つことを正当化する権利があるかどうかも問いません。後段にあるとおり、他人のために占有する者も同じように訴えられます。例えば、友人からカメラを借りている人がそのカメラを奪われたら、借りている本人も訴えられるわけです。占有補助者は、そもそも197条の「占有者」にあたらないので、占有の訴えを起こせません。

なぜ泥棒にまで訴える権利があるのか

自力救済の禁止のフロー板。Aが自転車を占有→Bが自力で取り返す→Aが占有回収の訴えを提起できる→Bの自力救済は無意味になる→実力行使のモチベーションが下がる。 図:自力救済の禁止のフロー板

#103で見た、占有権全体の趣旨を思い出してください。自力救済の禁止でしたね。今日はその趣旨が、具体的にどういう訴権として実現されているかを見ていきます。もしAに占有の訴えが認められなければ、Bは実力で取り返しさえすれば、それで決着がついてしまいます。そこで法は、窃盗犯人のAにも占有の訴えを認めます。そうすると、Bが自力で取り返しても、Aが訴えを起こせば自転車はいったんAの元に戻ることになる。Bの自力救済を無意味にすることで、実力行使に出ようとするモチベーションそのものを下げる。これが、自力救済の禁止を確保するという趣旨の具体的な中身です。取り戻しとあわせて、損害の賠償も求められる場合があります。その賠償請求権は不法行為に基づくもので、相手方に故意・過失が必要です。#105で見た191条とは向きが逆です。あちらは占有者が回復者に払う賠償でした。

占有訴権の3類型を一枚に

占有訴権の3類型と物権的請求権3類型の対比板。占有回収の訴え(200条)=奪われたとき⇔返還請求権、占有保持の訴え(198条)=妨害されたとき⇔妨害排除請求権、占有保全の訴え(199条)=妨害されるおそれがあるとき⇔妨害予防請求権として、両者の対応を対比で示す。 図:占有訴権の3類型と物権的請求権3類型の対比板

占有の訴えには、3つの種類があります。占有を奪われたときの占有回収の訴え、妨害されたときの占有保持の訴え、妨害されるおそれがあるときの占有保全の訴えです。完全に所持を失ったか、所持は残っているけど邪魔されているか、まだ何も起きていないか、この3段階です。なぜ3つに分けるんですか。侵害の程度が違えば、求めることも違うからです。奪われたなら物を返してもらう、邪魔されているならやめてもらう、まだなら前もって防いでもらう。求める中身に応じて、訴えが3つに分かれているんです。#85で見た返還請求権・妨害排除請求権・妨害予防請求権に、そのままそれぞれ対応します。占有回収は返還請求権、占有保持は妨害排除請求権、占有保全は妨害予防請求権にあたる形です。今日は、この3つが占有の世界にもそのまま現れる、とだけ押さえてください。

200条——占有回収の訴え

200条全文カードの背景。占有者が占有を奪われたときは占有回収の訴えにより物の返還及び損害賠償を請求できる。2項は侵奪者の特定承継人には提起できないが、承継人が侵奪の事実を知っていたときは提起できる。 図:200条全文カードの背景

  • 占有者が占有を奪われたときは占有回収の訴えにより物の返還及び損害賠償を請求できる
  • 2項は侵奪者の特定承継人には提起できないが、承継人が侵奪の事実を知っていたときは提起できる

まず、占有回収の訴えです。

条文民法200条

民法第二百条 占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。 2 占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。

占有侵奪、つまり占有者の意思に反して所持を奪われたことが要件です。ここが急所で、詐取された物や、うっかり落とした遺失物は対象になりません。あくまで意思に反して奪われた場合だけが対象です。2項も見ておきましょう。占有を奪った本人だけでなく、その後、物を譲り受けた特定承継人にも訴えを起こせる場合があります。承継人が、侵奪の事実を知っていた場合、つまり悪意の特定承継人にだけ、この訴えを起こせます。裏を返すと、善意の特定承継人にはもう提起できません。例えば、Bが取り返した自転車を、事情を知らないCに売ってしまったとします。Cは、奪い返された物だとは知らずに手に入れて、落ち着いて持っています。条文は、事情を知っている承継人にしか訴えを向けていません。事情を知らずに手に入れたCの取引までは、覆さないという線引きです。

冒頭のAとBの場面も、1項の「奪われた」にまさに当てはまります。Aが占有していた自転車を、Bが自力で奪い返しました。Aの意思に反して所持が奪われた以上、占有侵奪の要件を満たします。だからAは、Bに対して占有回収の訴えを起こせるんです。この訴えには、期間の制限もあります。占有を奪われた時から1年以内に起こさなければなりません。

198条——占有保持の訴え

198条全文カードの背景。占有者が占有を妨害されたときは占有保持の訴えにより妨害の停止及び損害賠償を請求できる。妨害は騒音や振動のような無形の侵害も含む。 図:198条全文カードの背景

  • 占有者が占有を妨害されたときは占有保持の訴えにより妨害の停止及び損害賠償を請求できる
  • 妨害は騒音や振動のような無形の侵害も含む

次は、占有保持の訴えです。

条文民法198条

民法第百九十八条 占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。

所持そのものは失っていないけれど、邪魔をされている状態です。ゴミの不法投棄のような目に見える侵害だけでなく、騒音や振動が敷地に入り込んでくるような、無形の侵害も含まれます。妨害が続いている間、または妨害がやんでから1年以内です。工事によって損害が生じた場合には特則もありますが、これは後で条文をまとめて確認します。

199条——占有保全の訴え

199条全文カードの背景。占有者が占有を妨害されるおそれがあるときは占有保全の訴えにより妨害の予防又は損害賠償の担保を請求できる。まだ損害が発生していないため賠償ではなく担保を求める。 図:199条全文カードの背景

  • 占有者が占有を妨害されるおそれがあるときは占有保全の訴えにより妨害の予防又は損害賠償の担保を請求できる
  • まだ損害が発生していないため賠償ではなく担保を求める

最後に、占有保全の訴えです。

条文民法199条

民法第百九十九条 占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。

効果にも注目してください。妨害の予防、または損害賠償の担保です。まだ損害が発生していないので、実際に払うお金を請求するのではなく、将来に備えた担保を求める形になります。この言葉の違いに注意してください。隣の家のブロック塀がひび割れて、こちらの庭に傾いてきているとします。まだ倒れてはいませんが、倒れれば庭が壊されます。この段階で、塀を直すよう求めたり、倒れたときの賠償に備えて担保を出させたりできるわけです。

3つの訴えの期間制限をまとめて

201条全文カードの背景。占有保持の訴えは妨害の存する間または消滅後1年以内、工事による損害は着手から1年経過または完成後は提起できない。占有保全の訴えは妨害の危険の存する間、工事の場合は前項ただし書を準用。占有回収の訴えは奪われた時から1年以内。 図:201条全文カードの背景

  • 占有保持の訴えは妨害の存する間または消滅後1年以内、工事による損害は着手から1年経過または完成後は提起できない
  • 占有保全の訴えは妨害の危険の存する間、工事の場合は前項ただし書を準用
  • 占有回収の訴えは奪われた時から1年以内

3つの訴えの期間制限を、条文でまとめて確認しておきます。

条文民法201条

民法第二百一条 占有保持の訴えは、妨害の存する間又はその消滅した後一年以内に提起しなければならない。ただし、工事により占有物に損害を生じた場合において、その工事に着手した時から一年を経過し、又はその工事が完成したときは、これを提起することができない。 2 占有保全の訴えは、妨害の危険の存する間は、提起することができる。この場合において、工事により占有物に損害を生ずるおそれがあるときは、前項ただし書の規定を準用する。 3 占有回収の訴えは、占有を奪われた時から一年以内に提起しなければならない。

これは、工事によって占有物に損害が生じた場合の特則です。工事の着手から1年経過するか、工事が完成すると、それ以降はもう提起できなくなる、というルールです。条文の存在だけ押さえておいてください。整理すると、占有回収は奪われた時から1年、占有保持は妨害の存する間か消滅後1年、占有保全は妨害の危険がある間、ということですね。期間が短いのは、占有権が仮の権利だからです。本当の権利関係は、本権の訴えで決めます。だから、占有の訴えでは、長い間の救済までは認めない、という発想です。

窃盗犯人の訴えを、被害者は永遠に止められないのか

問いかけの板。窃盗犯人にも占有回収の訴えが認められるなら、被害者は永遠に取り返せないのだろうか。 図:問いかけの板

ここで一度、立ち止まって考えてみましょう。窃盗犯人のAにも占有回収の訴えが認められるとしたら、被害者のBは、永遠に取り返せないのでしょうか。さっきの趣旨からすると、Aの訴えは通ってしまいますよね。だとしたら、Bはずっと不利なままじゃないですか。そこを整理するのが、今日の急所です。占有の訴えは、権利関係の正しさを決める場ではありません。今の事実状態をいったん元に戻すための、いわば応急処置です。最終的にどちらが正しいかを決める本裁判は、また別にあります。

202条——占有の訴えと本権の訴えの関係

202条全文カードの背景。1項は占有の訴えと本権の訴えは互いに妨げない。2項は占有の訴えについて本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。 図:202条全文カードの背景

  • 1項は占有の訴えと本権の訴えは互いに妨げない
  • 2項は占有の訴えについて本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない

条文を見ましょう。

条文民法202条

民法第二百二条 占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。 2 占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。

202条は、#85でも、物権的請求権があることの手がかりとして一度見ました。今日はその本題です。占有の訴えと本権の訴えは、まったく別個の請求です。別々に存在できるのは、いわば当然のことです。占有の訴えについては、本権に関する理由で裁判をすることができません。冒頭のAとBの場面に当てはめましょう。Aが占有回収の訴えを起こしたのに対して、Bが「自分が本当の持ち主だ」と主張しても、裁判所は、Bの本権を理由にAの訴えを退けることはできません。自転車は、いったんAのもとに戻る判決が出ます。

なぜ本権を理由にできないのか

会社の座席のたとえ図。フリーアドレスの職場で、Aの作業スペースにBが無断で荷物を置いて居座った。総務窓口は、今実際に使っていたのは誰かだけを見て、Bに退去を求める。Bが座席予約の権利を主張しても、窓口はその理由で申し出を却下できない。 図:会社の座席のたとえ図

  • フリーアドレスの職場で、Aの作業スペースにBが無断で荷物を置いて居座った
  • 総務窓口は、今実際に使っていたのは誰かだけを見て、Bに退去を求める
  • Bが座席予約の権利を主張しても、窓口はその理由で申し出を却下できない

会社のオフィスに例えてみましょう。フリーアドレス制の職場で、Aがいつも使っている作業スペースに、ある日Bが無断で自分の荷物を置いて居座ったとします。Aが総務窓口に「元の状態に戻してほしい」と申し出ると、窓口は、今実際に使っていたのはAだと見て、Bに退去を求めます。Bが「本当は自分の方が座席予約システム上の権利者だ」と言い出しても、その言い分を理由に、窓口はAの申し出を却下できません。もしそれを認めてしまったら、無断で居座った者が「自分の方が正しい」と言い張るだけで居座り続けられることになり、まず今の状態を戻す、という窓口対応そのものが意味をなさなくなってしまいます。

自力救済の禁止を確保するために、占有の訴えの場では、本権という材料を持ち込ませない。これが202条2項の意味です。

それでも被害者に打つ手が残るのはなぜか

循環のフロー板。Bが自力で自転車を取り返す→Aが占有回収の訴えを提起→裁判所は本権を理由に退けられない→自転車はいったんAに戻る→Bが所有権に基づく返還請求権を行使→最終的にBが自転車を取り戻す。 図:循環のフロー板

いえ、そこで先ほどの1項が効いてきます。占有の訴えと本権の訴えは、互いに妨げない別個の請求でしたね。Bは、所有権に基づく返還請求権を行使すれば、今度は本権に関する理由がまさに争点になりますから、最終的には自転車を取り戻せます。無駄な手間ではありません。Bは自力救済の禁止に反した以上、占有の訴えでいったんそれを無力化される。そのうえで、法が認めた正規の手続、つまり本権に基づく返還請求権で、あらためて権利の正常な回復を図る。これが、この制度全体の構造です。

本権が抗弁にならないのに、反訴はできる理由

反訴の位置づけ図。占有回収の訴え(A→B)に対し、Bが本権に基づく反訴(B→A・所有権に基づく返還請求)を同一手続内で提起する。根拠は、202条2項が禁じるのは本権を理由に占有の訴えを裁判することだけで、反訴までは禁じていないこと。 図:反訴の位置づけ図

  • 占有回収の訴え(A→B)に対し、Bが本権に基づく反訴(B→A・所有権に基づく返還請求)を同一手続内で提起する
  • 根拠は、202条2項が禁じるのは本権を理由に占有の訴えを裁判することだけで、反訴までは禁じていないこと

ただ、Bにはもう1つ、道が残っています。占有回収の訴えに対して、Bが本権に基づいて反訴を起こすことは認められています。さっき、本権は理由にできないと言ったばかりですよね。反訴なら、なぜ本権を使えるんですか。ここが大事な区別です。さっき使えないと言ったのは、本権をAの訴えを退けるための言い分、つまり抗弁として持ち出す場合でした。反訴は違います。反訴は、Aの訴えとは別に、Bが新しく自分の請求を立てるものです。占有の訴えの結論、つまりいったんAに戻すという結論はそのまま維持しつつ、同じ裁判手続の中で、本権に基づく決着も同時につけられる。占有の訴えに対して本権に基づく反訴を起こせることは、判例も認めています。

判例最判昭40・3・4

占有の訴えに対する反訴の可否 民法二〇二条二項は、占有の訴において本権に関する理由に基づいて裁判することを禁ずるものであり、従つて、占有の訴に対し防禦方法として本権の主張をなすことは許されないけれども、これに対し本権に基づく反訴を提起することは、右法条の禁ずるところではない。

202条2項が禁じているのは、あくまで本権に関する理由に基づいて占有の訴えそのものについて裁判をすることです。反訴という別の請求を立てることまでは禁じていない、というのがこの判決の考え方です。抗弁としては使えないが、反訴なら同時に持ち込める。この場所の違いが、今日いちばんの急所です。

占有権の消滅——203条

203条全文カードの背景。占有権は占有意思の放棄または占有物の所持の喪失によって消滅する。ただし書は占有回収の訴えの提起に触れるが、判例はこれを、提起して勝訴し現実に占有を回復したときに占有の継続を擬制する規定と読む。 図:203条全文カードの背景

  • 占有権は占有意思の放棄または占有物の所持の喪失によって消滅する
  • ただし書は占有回収の訴えの提起に触れるが、判例はこれを、提起して勝訴し現実に占有を回復したときに占有の継続を擬制する規定と読む

最後に、占有権がどうやって消えるかを見ておきます。

条文民法203条

民法第二百三条 占有権は、占有者が占有の意思を放棄し、又は占有物の所持を失うことによって消滅する。ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、この限りでない。

203条の「占有の意思」は、この自己のためにする意思のことです。だから、どちらかが欠ければ、占有権は消滅します。ここで、ただし書に注目してください。「占有回収の訴えを提起したときは、この限りでない」とありますね。訴えを起こしさえすれば、それで消滅しないんですか。そこは条文の文言だけだと誤解しやすいところです。判例は、もう一段厳しく読んでいます。

判例最判昭44・12・2

占有回収の訴えと占有の継続の擬制 民法二〇三条本文によれば、占有権は占有者が占有物の所持を失うことによつて消滅するのであり、ただ、占有者は、同条但書により、占有回収の訴を提起して勝訴し、現実にその物の占有を回復したときは、右現実に占有しなかつた間も占有を失わず占有が継続していたものと擬制されると解するのが相当である。

訴えを起こした時点ではまだ占有権は失われたままで、後になって勝訴し、現実にその物を取り戻したときに、失っていた間も占有が続いていたことにする、という扱いです。冒頭のAでいえば、Bに取り返されたあと、Aが占有回収の訴えを起こして勝ち、自転車を実際に取り戻して初めて、その間も占有が続いていたと扱われるわけです。

占有権の消滅——204条

204条全文カードの背景。代理占有は、本人が代理させる意思を放棄したとき、代理人が本人以外のために所持する意思を表示したとき、代理人が所持を失ったときに消滅する。代理権の消滅だけでは占有権は消滅しない。 図:204条全文カードの背景

  • 代理占有は、本人が代理させる意思を放棄したとき、代理人が本人以外のために所持する意思を表示したとき、代理人が所持を失ったときに消滅する
  • 代理権の消滅だけでは占有権は消滅しない

代理占有の場合には、別の条文があります。

条文民法204条

民法第二百四条 代理人によって占有をする場合には、占有権は、次に掲げる事由によって消滅する。 一 本人が代理人に占有をさせる意思を放棄したこと。 二 代理人が本人に対して以後自己又は第三者のために占有物を所持する意思を表示したこと。 三 代理人が占有物の所持を失ったこと。 2 占有権は、代理権の消滅のみによっては、消滅しない。

本人が代理させる意思を放棄したとき、代理人が本人以外のために持つという意思を示したとき、代理人が所持を失ったとき、この3つのいずれかで消滅します。2項が急所です。代理権が消滅しただけでは、代理占有は消滅しません。例えば、Aが所有する土地をBに賃貸して引き渡していたとします。AB間の賃貸借契約が終了して、Bの占有代理権が消滅したとしても、それだけではAの占有権は消滅しません。例えば、Bが実際に土地から退去して所持を失えば、1項3号にあたり、そこで初めてAの占有権が消滅します。

占有権ブロックのまとめ

まとめ板。197条は占有者なら誰でも訴えられる→3類型は占有回収・占有保持・占有保全で侵害の程度が対応→202条2項は本権を抗弁にできないが反訴は可能→203条は占有回収の訴えに勝訴し現実に占有を回復すれば占有の継続が擬制される→204条2項は代理権消滅だけでは消滅しない。占有権ブロック全体は、本権が無くても事実状態を守るという1本の軸で貫かれている。 図:まとめ板

  • 197条は占有者なら誰でも訴えられる→3類型は占有回収・占有保持・占有保全で侵害の程度が対応→202条2項は本権を抗弁にできないが反訴は可能→203条は占有回収の訴えに勝訴し現実に占有を回復すれば占有の継続が擬制される→204条2項は代理権消滅だけでは消滅しない
  • 占有権ブロック全体は、本権が無くても事実状態を守るという1本の軸で貫かれている

今日の話をまとめます。占有者であれば、占有の種類や本権の有無を問わず、占有の訴えを起こせました。侵害の程度に応じて、占有回収・占有保持・占有保全の3つの訴えがありましたね。202条2項では、占有の訴えの中で本権を理由に裁判することはできませんでしたが、それとは別に、本権に基づく反訴を起こすことは認められていました。そして、占有回収の訴えに勝訴して現実に占有を取り戻せば占有の継続が擬制され、代理占有では、代理権が消滅しただけでは占有権は消滅しませんでした。冒頭のAとBも、これで説明がつきますね。Aの訴えはいったん認められるけれど、Bは本権に基づく反訴で、最終的に自転車を取り戻せる。占有の成立から始まって、種類と推定、果実と費用の清算、そして今日の占有の訴え。占有権という制度を貫いているのは、本権が無くても、今持っているという事実そのものを法が守るという1本の軸でした。ただし、その保護はあくまで仮のもので、最終的な決着は本権の訴えでつけられる、という構造です。

参照条文

  • 民法197条
  • 民法200条
  • 民法198条
  • 民法199条
  • 民法201条
  • 民法202条
  • 民法203条
  • 民法204条

民法 全体ロードマップへ →