民法ゼロから民法#107

所有権の内容と相隣関係

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第2章 物権 #107/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

空き家の庭木の枝、Aさんは自分で切ってよいか

冒頭の場面。Aさんの庭に、隣の空き家の庭木の枝が大きく伸びてきて、雨どいを詰まらせている。空き家の持ち主が誰なのか、どこに住んでいるのかも分からない。 図:冒頭の場面

  • Aさんの庭に、隣の空き家の庭木の枝が大きく伸びてきて、雨どいを詰まらせている
  • 空き家の持ち主が誰なのか、どこに住んでいるのかも分からない

Aさんの庭に、隣の空き家の庭木の枝が伸びてきました。雨どいに枝が詰まって、水があふれています。持ち主に頼むのが筋ですが、その持ち主が誰なのか、どこにいるのかも分からないんです。先に答えを言います。今の民法なら、Aさんは自分でこの枝を切れます。持ち主が分からないときは、自分で切り取ってよいと条文に書いてあるんです。でも、土地の所有権はいちばん強い権利のはずですよね。なぜ、隣の人の所有物に手を出せるのか。逆に、持ち主が分かっているときは、なぜお願いから始めないといけないのか。今日は、所有権の中身と、隣り合う所有権どうしを調整するルールを見ていきます。

206条・207条——所有権の中身

206条・207条全文カードの背景。所有者は法令の制限内において自由に所有物の使用・収益・処分をする権利を有する。土地の所有権は法令の制限内において土地の上下に及ぶ。 図:206条・207条全文カードの背景

  • 所有者は法令の制限内において自由に所有物の使用・収益・処分をする権利を有する
  • 土地の所有権は法令の制限内において土地の上下に及ぶ

まず、所有権そのものを定めた条文です。

条文民法206条

民法第二百六条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。

#7で、所有権の中身を3つに分解しましたね。何と何と何だったか、思い出せますか?使う・利益を得る・手放す、この3つでした。そのときも見た206条を、今日は正面から読み直します。「法令の制限内において」、ここが今日いちばんの急所です。所有権は、物に対するいちばん強い権利ですが、最初から限界付きの権利なんです。建築基準法のような公法上の制限もそうですし、今日これから見る相隣関係の規定も、この限界の一種です。土地についてはもう一条あります。

条文民法207条

民法第二百七条 土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。

土地の所有権は、地面の表面だけでなく、上空や地下にも及ぶということです。ただし、ここでも「法令の制限内において」です。大深度地下の利用を認める特別な法律などが、その制限にあたります。

所有権の性質——強いのに、消えない

所有権の性質の板。絶対性(誰に対しても主張できる)と、時効で消えないこと(物権的請求権も時効で消えない)。 図:所有権の性質の板

所有権の性質を、もう1つだけ押さえます。まず、以前確認した絶対性、つまり誰に対しても主張できるという性質は、所有権にもそのまま当てはまります。もう1つの性質は、所有権は時効で消えることがない、という点です。#83で見た166条2項を思い出してください。20年で消えるのは、所有権以外の財産権でした。条文が、所有権をわざわざ外しているんです。所有権から出てくる物権的請求権のほうも、時効では消えません。

相隣関係とは何か——所有権どうしの通用口

城壁の比喩の板。所有権を壁で囲まれた自分の城に例える。隣の城とぴったり接している以上、通行のための門、設備のための配管口、越境した枝を切るための小窓など、あらかじめ小さな通用口が壁に開けられている。 図:城壁の比喩の板

  • 所有権を壁で囲まれた自分の城に例える
  • 隣の城とぴったり接している以上、通行のための門、設備のための配管口、越境した枝を切るための小窓など、あらかじめ小さな通用口が壁に開けられている

今日の中心テーマである相隣関係を、たとえ話にして見ましょう。所有権を、壁でぐるりと囲まれた自分の城だと考えてください。自分の土地は自分の城です。でも、隣の土地もまた誰かの城で、境界線でぴったり接しています。もし両方が「ここは自分の城だから、何をしても自由だ」と言い張ったら、境界のところで必ずぶつかってしまいます。そこで民法は、隣り合う城どうしのために、壁にあらかじめ小さな通用口を用意しています。道路に出られない城のための通行の門、電気や水道を通すための配管口、越境した枝を切るための小窓、こういったものです。これが、相隣関係と呼ばれる規定のグループです。互いに一定の我慢を課すことで、両方の城の利用を成り立たせる仕組みです。今日は、この中でも試験でよく問われる、隣地の使用・囲繞地通行権・ライフライン設備・竹木の枝と根を中心に見ていきます。

隣地を使う通用口

209条全文カードの背景。工作物の築造・収去・修繕、境界標の調査・測量、枝の切取り、の3つの目的に限って隣地を使用できる。損害最小・事前通知・償金。 図:209条全文カードの背景

  • 工作物の築造・収去・修繕、境界標の調査・測量、枝の切取り、の3つの目的に限って隣地を使用できる
  • 損害最小・事前通知・償金

まず、隣地使用権です。隣の土地に立ち入るための通用口です。

条文民法209条1項

民法第二百九条 1 土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。 一 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕 二 境界標の調査又は境界に関する測量 三 第二百三十三条第三項の規定による枝の切取り

目的はこの3つに限られています。塀や建物の工事、境界標の調査や測量、そして後で見る、越境した枝の切取りです。境界標は、土地の境目を示すために埋める杭や石のことです。例えば、Aさんが自宅の外壁を修理するのに、脚立をどうしても隣のBさんの庭に置かないといけない場面が、1号にあたります。旧条文は、「隣地の使用を請求することができる」という文言でした。今は「使用することができる」に変わっています。使用する権利そのものが明文化されたんです。ただし、隣の人が拒めば、実力で押し入るのではなく、裁判所の手続で解決することになります。続きの項も見ましょう。

条文民法209条2項〜4項

民法第二百九条 2 前項の場合には、使用の日時、場所及び方法は、隣地の所有者及び隣地を現に使用している者(以下この条において「隣地使用者」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。 3 第一項の規定により隣地を使用する者は、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。 4 第一項の場合において、隣地の所有者又は隣地使用者が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。

損害が最も少ない方法を選ぶこと、あらかじめ通知すること、この2つが原則です。通知が難しい場面は、3項のただし書です。あらかじめ通知するのが困難なときは、使用を始めたあと、遅滞なく通知すればよいとされています。そして、隣の人が損害を受けたときは、償金を請求できます。償金は、受けた損害を埋め合わせるお金です。

道に出るための通行権

袋地・囲繞地の関係図。Aの土地は周りをBの土地に囲まれて公道に出られない(袋地)。Aは公道に至るため、必要かつ損害が最も少ない場所・方法で、Bの土地を通行できる(囲繞地通行権)。 図:袋地・囲繞地の関係図

  • Aの土地は周りをBの土地に囲まれて公道に出られない(袋地)
  • Aは公道に至るため、必要かつ損害が最も少ない場所・方法で、Bの土地を通行できる(囲繞地通行権)

次の通用口は、道路に出るための通行権です。

条文民法210条

民法第二百十条 他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。 2 池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖があって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。

周りを囲んでいる他の土地のことを囲繞地、この通行権を囲繞地通行権と呼びます。2項は準袋地と呼ばれる場面です。池や川、崖のせいで実質的に道に出られない土地も、同じように扱われます。通行できるとして、では、どこをどう通れるのか。次の条文です。

条文民法211条

民法第二百十一条 前条の場合には、通行の場所及び方法は、同条の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。 2 前条の規定による通行権を有する者は、必要があるときは、通路を開設することができる。

自分にとって最短でも、相手の土地に大きな被害を与える経路は選べません。逆に、被害が小さくても、実際に道に出るのに足りない経路も認められません。この2つを満たす場所・方法だけが認められる、必要最小限の通行権です。#7で見た通行地役権とは、違うんですか。あちらは、隣の人との約束で設定する権利です。こちらは、袋地なら約束がなくても通れます。もっと広く通りたいなら、通行地役権を設定する道があります。償金についても条文があります。

条文民法212条

民法第二百十二条 第二百十条の規定による通行権を有する者は、その通行する他の土地の損害に対して償金を支払わなければならない。ただし、通路の開設のために生じた損害に対するものを除き、一年ごとにその償金を支払うことができる。

通路を開ける工事の損害は一回きりなので、一括で払います。通行の損害は、通るかぎり続きます。だから、1年ごとに払えばよいんです。

囲繞地通行権は登記が無くても主張できる

Bの登記の関係図。Bは周りを他人の土地に囲まれた土地を買ったが、登記はまだ済ませていない。Bは、囲繞地の所有者Cに対して、登記が無くても囲繞地通行権を主張できる。 図:Bの登記の関係図

  • Bは周りを他人の土地に囲まれた土地を買ったが、登記はまだ済ませていない
  • Bは、囲繞地の所有者Cに対して、登記が無くても囲繞地通行権を主張できる

もう1つ、通行権について大事な判例があります。Bさんが、周りをぐるりと他人の土地に囲まれ、道路に出られない土地を買ったとします。売買代金は払いましたが、登記はまだ済ませていません。登記が無いと、第三者に主張できない。#90で見た177条ですね。それなら、Bさんは囲繞地の所有者Cさんに、通行権を主張できないんじゃないか、と思いますよね。結論から言うと、Bさんは登記が無くても通行権を主張できます

判例最判昭47・4・14

囲繞地通行権は登記なくして主張できるか このような趣旨に照らすと、袋地の所有者が囲繞地の所有者らに対して囲繞地通行権を主張する場合は、不動産取引の安全保護をはかるための公示制度とは関係がないと解するのが相当であり、したがつて、実体上袋地の所有権を取得した者は、対抗要件を具備することなく、囲繞地所有者らに対し囲繞地通行権を主張しうるものというべきである。

登記という制度は、取引の安全を守るためのものです。ところが、囲繞地通行権は、隣り合う土地どうしの利用を調整するための制度で、取引の安全とは関係がありません。だから、袋地の所有権を実体として取得していれば、登記が無くても通行権を主張できる、という理由づけです。

自動車で通れるとは限らない

自動車通行の判断枠組みの板。自動車による通行を前提とする通行権の成否は、必要性・周辺の土地の状況・他の土地の所有者が被る不利益、を総合考慮して判断する。 図:自動車通行の判断枠組みの板

通行権について、もう1つ注意することがあります。自動車での通行は、当然には認められません

判例最判平18・3・16

自動車による通行を前提とする通行権 自動車による通行を前提とする210条通行権の成否及びその具体的内容は,他の土地について自動車による通行を認める必要性,周辺の土地の状況,自動車による通行を前提とする210条通行権が認められることにより他の土地の所有者が被る不利益等の諸事情を総合考慮して判断すべきである。

必要性・周辺の土地の状況・相手の不利益、この3つを総合的に考慮して判断するという枠組みです。自動車が通れるかどうかは、一律には決まりません。この判決は、自動車で通れると決めた判決ではありません。周辺の事情をあらためて検討させるために、判断を差し戻しています。自動車を通すには、より広い土地を割く必要がありますし、事故の危険も生まれます。そのぶん、慎重に判断されるわけです。

土地を分けたときは、償金なしで隣の分割地だけ

213条の関係図。Dが道路沿いの土地の奥半分をEに売った。奥の土地は袋地になり、EはDの手前の土地だけを償金なしで通行できる。売買と無関係な裏手の隣人の土地は通れない。 図:213条の関係図

  • Dが道路沿いの土地の奥半分をEに売った
  • 奥の土地は袋地になり、EはDの手前の土地だけを償金なしで通行できる
  • 売買と無関係な裏手の隣人の土地は通れない

通行権には、もう1つ特別な条文があります。

条文民法213条

民法第二百十三条 分割によって公道に通じない土地が生じたときは、その土地の所有者は、公道に至るため、他の分割者の所有地のみを通行することができる。この場合においては、償金を支払うことを要しない。 2 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。

急所は2つです。通れるのは他の分割者の土地だけで、しかも償金が要りません。1項の分割は、共有の土地を分ける場面です。例えば、Dさんが道路沿いの土地の奥半分を、Eさんに売ったとします。これは、2項の一部譲渡の場面です。奥の土地は、道路に出られなくなりました。それでもEさんが通れるのは、Dさんの手前の土地だけです。裏手の別の隣人の土地は、通れません。売る前は、もともと1つの土地でした。袋地が生まれたのは、DさんとEさんの間の事情です。売買に関係のない隣人に迷惑をかけない、という発想がここに表れています。この条文をめぐる、大事な判例があります。元は一筆の土地を分筆したうえで、その全部を、同時に複数人へ譲渡した場合です。一筆は、登記簿で1つと数える土地です。分筆は、それを登記の上で分けることです。

一部譲渡の条文を、全部同時の譲渡に使えるか。そこがこの判決の急所です。

判例最判昭37・10・30

分筆して全部を同時に譲渡した場合の213条 民法二一三条二項は、土地の所有者がその土地の一部を譲渡し残存部分をなお保留する場合に生ずる袋地についてのみ適用ありと解すべきではなく、本件の如く、土地の所有者が一筆の土地を分筆のうえ、そのそれぞれを全部同時に数人に譲渡しよつて袋地を生じた場合においても、同条項の趣旨に徴し、袋地の取得者は、右分筆前一筆であつた残余の土地についてのみ囲繞地通行権を有するに過ぎないと解すべきであるとした原審の判断は首肯できる。

決め手は、この条文の趣旨です。213条の趣旨は、さっき見た発想でしたね。関係のない隣人に、迷惑をかけないことです。判決は、条文の趣旨を理由に、残りの土地だけを通れるとした原審の判断を認めました。文言どおりの直接適用ではなく、趣旨からの拡張です。

電気・ガス・水道を通す通用口

通行権と設備権の対比板。囲繞地通行権(210〜212条)とライフライン設備の設置・使用権(213条の2)は損害最小・通知・償金という同じ発想。分割・一部譲渡で生じた場合(213条・213条の3)だけ他の分割者の土地のみで償金不要という違い。 図:通行権と設備権の対比板

  • 囲繞地通行権(210〜212条)とライフライン設備の設置・使用権(213条の2)は損害最小・通知・償金という同じ発想
  • 分割・一部譲渡で生じた場合(213条・213条の3)だけ他の分割者の土地のみで償金不要という違い

もう1つ、新しい通用口が明文化されました。

条文民法213条の2第1項〜第3項

民法第二百十三条の二 第一項から第三項 1 土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付(以下この項及び次条第一項において「継続的給付」という。)を受けることができないときは、継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる。 2 前項の場合には、設備の設置又は使用の場所及び方法は、他の土地又は他人が所有する設備(次項において「他の土地等」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。 3 第一項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用する者は、あらかじめ、その目的、場所及び方法を他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者に通知しなければならない。

以前は、こういう明文の規定がありませんでした。209条や210条を類推して対応していたんです。明文が無いと、相手が応じてくれないときの対応が難しかったり、通知や償金が要るのかどうかもはっきりしませんでした。そこで、設備を設置する権利と使用する権利を、明文で定めたんです。中身は、隣地使用権と同じ発想です。損害が最も少ない場所・方法、そしてあらかじめの通知です。残りの項も見ましょう。

条文民法213条の2第4項〜第7項

民法第二百十三条の二 第四項から第七項 4 第一項の規定による権利を有する者は、同項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用するために当該他の土地又は当該他人が所有する設備がある土地を使用することができる。この場合においては、第二百九条第一項ただし書及び第二項から第四項までの規定を準用する。 5 第一項の規定により他の土地に設備を設置する者は、その土地の損害(前項において準用する第二百九条第四項に規定する損害を除く。)に対して償金を支払わなければならない。ただし、一年ごとにその償金を支払うことができる。 6 第一項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その設備の使用を開始するために生じた損害に対して償金を支払わなければならない。 7 第一項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、その設置、改築、修繕及び維持に要する費用を負担しなければならない。

工事のための一時的な損害は一括払いです。継続的な損害は、1年ごとでもよい構造です。費用の負担についても定めがあって、利益を受ける割合に応じて分担します。この条文にも、土地の分割・一部譲渡の場合の特則があります。

条文民法213条の3

民法第二百十三条の三 分割によって他の土地に設備を設置しなければ継続的給付を受けることができない土地が生じたときは、その土地の所有者は、継続的給付を受けるため、他の分割者の所有地のみに設備を設置することができる。この場合においては、前条第五項の規定は、適用しない。 2 前項の規定は、土地の所有者がその土地の一部を譲り渡した場合について準用する。

分割で生じた場合は、他の分割者の土地にだけ設備を設置でき、償金も要りません。

越境した枝と根——冒頭の空き家に戻る

枝と根の対比板。枝(233条1項・3項)は原則竹木の所有者に切除させ、催告に応じない・所有者不明・急迫のいずれかで自ら切り取れる。根(233条4項)は原則例外の区別なく最初から自ら切り取れる。 図:枝と根の対比板

  • 枝(233条1項・3項)は原則竹木の所有者に切除させ、催告に応じない・所有者不明・急迫のいずれかで自ら切り取れる
  • 根(233条4項)は原則例外の区別なく最初から自ら切り取れる

ここで、冒頭の空き家に戻りましょう。もう一度問います。この枝、Aさんは自分で切ってよいでしょうか。

条文民法233条1項・2項

民法第二百三十三条 1 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。 2 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。

1項を見ると、切るのは持ち主で、Aさんは切除させるだけなんですね。原則は、竹木の所有者に切除させるのであって、土地の所有者が自分で切ることはできません。1項だけなら、Aさんは切れないのが原則です。でも、例外があります。

条文民法233条3項

民法第二百三十三条 3 第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。 一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。 二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。 三 急迫の事情があるとき。

3項の例外は、催告しても切ってくれないとき、持ち主が分からないとき、そして急を要するとき、の3つです。空き家の持ち主が誰なのか、どこにいるのかも分からないんでしたね。これは2号にあたります。竹木の所有者を知ることができず、所在も分からないときです。だから、Aさんは自分でこの枝を切り取ってよいんです。持ち主が分かるなら、まず1項どおり、持ち主にお願いして切除させるのが原則です。枝も、隣の人の所有物だからです。自分の物をどうするかは、まず持ち主が決めます。それでも、催告したのに相当な期間切ってくれないなら、1号に当たって自分で切れます。逆に、まだ何も催告していない段階では、勝手には切れません。3項の3つは、どれもお願いでは片づかない場面です。応じない、相手が分からない、待つ暇がない、です。もう1つ、根についての条文もあります。

条文民法233条4項

民法第二百三十三条 4 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。

条文の書き方として、枝と根とでは扱いが異なります。根の規定は、今回の改正より前からある部分です。枝は原則として持ち主に切らせ、根は最初から自分で切れる。この対比を押さえておいてください。今回の改正では、3項の例外と、2項の共有者による単独での切取りが新しく加わりました。改正の前は、持ち主が応じないたびに訴えを起こし、判決を得るしかなく、手続として重すぎたんです。また、竹木が共有のときは、共有者全員の同意が要ると考えられていて、対応が進みにくいという問題もありました。この2つの不便を解消するために、隣地使用権と同じ2023年4月から改正されました。

建物の区分所有——名前だけ

建物の区分所有の板。一棟の建物のうち構造上区分された各部分(専有部分)を、それぞれ独立して所有できる。区分所有法という特別法が定める。 図:建物の区分所有の板

  • 一棟の建物のうち構造上区分された各部分(専有部分)を、それぞれ独立して所有できる
  • 区分所有法という特別法が定める

最後に、#84で名前だけ出した制度に戻ります。マンションやビルのように、1つの建物を複数人で所有する場面には、特別な法律があります。

条文建物の区分所有等に関する法律1条

建物の区分所有等に関する法律第一条 一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。

この専有部分ごとの所有権を扱うのが、区分所有法という特別な法律です。試験での重要性は高くないので、今日は名前だけ押さえておいてください。

所有権は強いが、隣と共存するための我慢が組み込まれている

まとめ板。206・207条は所有権の中身と「法令の制限内」という限界。相隣関係は隣り合う所有権どうしの通用口。隣地使用権・囲繞地通行権・ライフライン設備・枝と根の切取りを1本の軸で振り返る。 図:まとめ板

  • 206・207条は所有権の中身と「法令の制限内」という限界
  • 相隣関係は隣り合う所有権どうしの通用口
  • 隣地使用権・囲繞地通行権・ライフライン設備・枝と根の切取りを1本の軸で振り返る

今日の話をまとめます。所有権は、使用・収益・処分を丸ごと持つ、いちばん強い権利でした。ただし、「法令の制限内において」という限界が、最初から組み込まれていましたね。道に出られない土地には囲繞地通行権、電気やガスには設備の設置権、越境した枝には切取りの規定、それぞれ隣り合う土地どうしの利用を調整する規定でした。そして冒頭のAさんも、これで説明がつきます。空き家の持ち主が分からない以上、233条3項2号にあたるからです。だから、Aさんは自分で枝を切り取ってよいんです。所有権は強い権利ですが、隣と共存するための我慢が、あらかじめルールとして組み込まれている。これが今日の1本の軸です。

参照条文

  • 民法206条
  • 民法207条
  • 民法209条1項
  • 民法209条2項〜4項
  • 民法210条
  • 民法211条
  • 民法212条
  • 民法213条
  • 民法213条の2第1項〜第3項
  • 民法213条の2第4項〜第7項
  • 民法213条の3
  • 民法233条1項・2項
  • 民法233条3項
  • 民法233条4項
  • 建物の区分所有等に関する法律1条

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