原始取得と不動産の付合
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第2章 物権 #108/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
増築した部屋は誰のものか
図:冒頭の場面
Aさんが借りているアパートの部屋は、少し変わった作りをしています。もともと平屋だった建物の屋上に、前の借主が建て増した一室なんです。しかも、建て増すときには、大家の承諾もちゃんと取っていました。では、この部屋の持ち主は誰でしょうか。大家でしょうか、それとも建て増した人でしょうか。先に答えを言います。承諾があっても、大家の物になることがあります。土地や建物という「不動産」にくっついた物は、原則としてその不動産の持ち主の物になるんです。承諾があってもです。ただし、たった一つ、これを覆せる場合があります。今日は、持ち主のいない物を拾ったときのルールから始めて、不動産にくっついた物は誰の物かという、このルールの原則と例外を見ていきます。
所有権を手に入れる2つの道
図:所有権の取得原因の地図
- 承継取得(売買・相続などの引き継ぎ)と原始取得(新しく所有権が発生する)の対比
- 原始取得には時効取得・即時取得・添付・そのほか(無主物先占・遺失物拾得・埋蔵物発見)がある
所有権を手に入れる道は、大きく2つに分かれます。売買や相続のように、前の持ち主から引き継ぐのが、1つ目の承継取得です。誰かが持っていた所有権を、そのまま受け継ぎます。もう1つが、原始取得です。誰からも引き継がず、新しく所有権が発生する場面です。以前見た時効取得や即時取得も、原始取得の仲間でした。今日は、そのほかの原始取得を見ていきます。持ち主のいない物を拾う場面と、物どうしがくっついてしまう場面です。
持ち主のいない物は誰の物か
図:239条全文カードの背景
条文民法239条1項・2項
民法第二百三十九条 1 所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。 2 所有者のない不動産は、国庫に帰属する。
例えば、誰も飼い主のいない野生の魚や、捨てられた空き缶のような物です。1項では、そういう動産を、所有の意思を持って占有した人が取得します。これを先占と呼びます。ただし、2項を見てください。不動産のほうは、少し違います。持ち主のいない土地は、早い者勝ちにならないんですか。なりません。所有者のいない不動産は、国のものになります。動産と不動産で、扱いが分かれているところが急所です。
落とし物のルール
図:240条全文カードの背景
次は、落とし物を拾ったときのルールです。
条文民法240条
民法第二百四十条 遺失物は、遺失物法(平成十八年法律第七十三号)の定めるところに従い公告をした後三箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを拾得した者がその所有権を取得する。
まず、遺失物法という別の法律に従って、公告をします。落とし物があったことを、届け出て知らせる手続です。公告のあと、3か月です。この3か月の間に、持ち主が名乗り出なければ、拾った人が所有権を取得します。
埋まっていた物のルール
図:241条全文カードの背景
- 埋蔵物は公告後6か月以内に所有者が判明しなければ発見者が取得する
- 他人の物の中から発見された場合は発見者とその他人が等しい割合で取得する
似た条文が、埋蔵物にもあります。
条文民法241条
民法第二百四十一条 埋蔵物は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後六箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを発見した者がその所有権を取得する。 ただし、他人の所有する物の中から発見された埋蔵物については、これを発見した者及びその他人が等しい割合でその所有権を取得する。
土の中や、古い建物の中から出てくる物です。こちらも公告をしますが、待つ期間は6か月です。この6か月の間に持ち主が分からなければ、発見者が取得します。ただし書も見てください。例えば、Aさんが、Bさんの倉庫の中で埋蔵物を見つけたとします。その場合は、発見者のAさんと、物が入っていた側のBさんが、半分ずつ取得します。発見しただけの人と、場所を提供していた人、両方に取り分がある、という発想です。
くっついた物をどう扱うか——添付という制度
図:添付の板
- 添付は付合・混和・加工の総称
- 物理的にくっついてしまった以上、無理に分離すると社会経済上の損失になるため、1個の物として1人の所有物にし、損をした側には償金で調整する
ここから、今日の本題である添付に入ります。添付とは、付合・混和・加工をまとめた呼び方です。物と物とが、くっついたり、混ざったり、作り変えられたりして、切り離せなくなる場面のことです。混和は、持ち主の違うおこめどうしが混ざって、分けられなくなるような場面です。工作で使う木の板を思い浮かべてください。その板に、強い接着剤でタイルを貼り付けると、剥がした瞬間に板まで割れてしまいます。無理に引き剥がせば、社会全体で見ても損になります。だから法律は、最初から分離しないという前提に立ちます。1個の物として扱います。そして所有権は、1人に決めてしまうんです。
損をした側には、あとで償金、つまり埋め合わせのお金を請求する道が用意されています。
条文民法248条
民法第二百四十八条 第二百四十二条から前条までの規定の適用によって損失を受けた者は、第七百三条及び第七百四条の規定に従い、その償金を請求することができる。
償金の中身は不当利得のルールに従いますが、それは別の回で扱います。今日は、償金という調整の道があることまで押さえておいてください。
不動産にくっついた物は誰の物か
図:242条本文の全文カードの背景
添付のうち、今日の中心が不動産の付合です。
条文民法242条本文
民法第二百四十二条 不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。
不動産にくっついて、その一部のようになった物のことです。例えば、土地に植えた木や、建物に取り付けた設備がそうです。冒頭のAさんの部屋も、建物にくっついた増築部分です。原則は、不動産の所有者が取得します。ここに、大事な例外が続きます。
承諾だけでは足りない
図:242条ただし書の全文カードの背景
条文民法242条ただし書
民法第二百四十二条 ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。
権原があれば、原則が覆ります。賃借権や地上権のような、適法に物をくっつけてよいという法律上の理由です。適法にくっつけた人の権利まで奪う理由は無い、というのが例外の理由です。冒頭のAさんの部屋にあてはめると、大家の承諾は、この権原にあたります。ここで、もう1つ条件があります。木の板とタイルの話を、思い出してください。接着剤で貼ったタイルは、板の一部になってしまうんでしたね。でも、板の上にただ置いただけの積み木は、いつでもそのまま持ち上げられます。では、屋上に建て増した部屋はどうでしょう。部屋は、積み木のように持ち上げては外せません。ですから建物では、持ち上げられるかでは決めません。それだけで1つの建物として使えるか、で決めます。前回、区分所有という制度を名前だけ見ましたね。建物の中でも、構造上区切られて住める部分は、別々に持てるんでした。
それだけで独立した建物として使え、取引できる形かどうか、これを独立性と呼びます。ここが今日いちばんの急所です。権原があっても、独立性が無ければ、なお付合してしまいます。承諾という条件だけでは、足りないんです。独立性の無い部分は、それだけでは売ることも、別に使うこともできません。そこに別の持ち主を認めても、接着剤で貼ったタイルと同じで、切り離しようがないんです。
大家の承諾があっても大家の物になった判例
図:増築部分の関係図
- 既存建物の賃貸人Eが、建物の一部を賃借人Dに貸していた
- Dは大家Eの承諾を得て建物の屋上に4畳半の部屋を増築したが、その部屋は独自の出入口を持たず、既存建物内の梯子段からしか出入りできない
この2つの条件を、実際にあてはめた判例があります。賃借人Dが、借りていた建物の屋上に、四畳半の部屋を増築しました。増築には、大家Eの承諾がありました。ところが、この増築部分には、独自の出入口がありませんでした。既存の建物の中にある、梯子段を使うしかなかったんです。
判例最判昭44・7・25 民集23巻8号1627頁(最高裁判所第三小法廷)
賃借人が増築した部分の独立性 第三建物は、既存の第二建物の上に増築された二階部分であり、その構造の一部を成すもので、それ自体では取引上の独立性を有せず、建物の区分所有権の対象たる部分にはあたらないといわなければならず、たとえDが第三建物を構築するについて右第二建物の一部の賃貸人Eの承諾を受けたとしても、民法二四二条但書の適用はないものと解するのが相当であり、その所有権は構築当初から第二建物の所有者Eに属したものといわなければならない。
決め手はどこだと思いますか。梯子段からしか出入りできない以上、それ自体で独立した建物とは言えない、という判断です。判決は、承諾があったかどうかを判断するまでもなく、ただし書の適用を否定しました。増築した当初から、Eさんの物だった、という結論です。冒頭のAさんの部屋はどうでしょう。出入りが下の建物の中からしかできないなら、判例と同じ結論です。外階段と自分の玄関があって、それだけで住める部屋なら、独立性があります。承諾という権原もあるので、建て増した人の物のままです。大家の承諾があっても、独立性が無い以上、なお大家の物になるんです。
建物は土地とは別の不動産
図:土地と建物の関係の板
- 86条1項により、土地及びその定着物が不動産
- 日本法では、建物は土地の定着物であっても、土地とは別個独立の不動産として扱われる
- だから建物が土地に付合することはない
もう1つ、不動産の付合について、日本法ならではの特徴があります。
条文民法86条1項
民法第八十六条 1 土地及びその定着物は、不動産とする。
建物は、土地に固定された定着物の1つです。ところが、日本法では、建物は土地とは別個独立の不動産として扱われます。定着物なのに、土地と別扱いなんですか。これは、日本の民法が選んだ決まりです。民法自身も、土地と建物を分けて書いています。土地を借金の担保にする、抵当権という権利があります。その370条は、「抵当地の上に存する建物を除き」と定めています。土地と建物を分けるこの決まりの結果として、建物には土地と別の登記があり、建物だけを売ることもできます。242条は、不動産の一部になってしまう物の話でした。建物は、それ自体が1つの不動産なので、土地の一部にはなりません。だから、建物が土地に付合するということは起きません。例えば、他人の土地に家を建てても、家は建てた人の物のままです。
この点は、ぜひ覚えておいてください。
建築途中の家を完成させたら誰の物か
図:建前の完成の時系列図
- 元請けから下請けした請負人Aが建前(棟上げと屋根下地板張りまで)を築造して放置
- 注文者Bが元請けとの契約を解除し、別業者Cに工事を引き継がせる
- Cが自己の材料で工事を続け、工事差止め時点までに未完成ながら独立の不動産である建物に仕上げた
最後に、もう1つ別の場面を見ましょう。Bの家の建築を請け負った会社から、さらに下請けをした請負人Aが、建築を始めました。棟上げを終え、屋根の下地板まで張りましたが、元請けの会社から報酬をもらえず、そこで工事を放り出しました。この、まだ独立の不動産に至っていない状態を、建前と呼びます。注文者Bは元請けの会社との契約を解除し、別の業者Cに工事を引き継がせました。Cは、自分の材料で工事を続け、屋根を葺き、壁を塗り、未完成ながら独立の不動産である建物に仕上げました。ここで問題になるのが、どの条文を使うかです。動産の付合のルールでは、くっついた物の持ち主どうしで決めます。Cが工事に注いだ技術の価値は、考えに入りません。判例は、そうではないと判断しました。
判例最判昭54・1・25 民集33巻1号26頁(最高裁判所第一小法廷)
建前の完成と加工の適用 建物の建築工事請負人が建築途上において未だ独立の不動産に至らない建前を築造したままの状態で放置していたのに、第三者がこれに材料を供して工事を施し、独立の不動産である建物に仕上げた場合においての右建物の所有権が何びとに帰属するかは、民法二四三条の規定によるのではなく、むしろ、同法二四六条二項の規定に基づいて決定すべきものと解する。けだし、このような場合には、動産に動産を単純に附合させるだけでそこに施される工作の価値を無視してもよい場合とは異なり、右建物の建築のように、材料に対して施される工作が特段の価値を有し、仕上げられた建物の価格が原材料のそれよりも相当程度増加するような場合には、むしろ民法の加工の規定に基づいて所有権の帰属を決定するのが相当であるからである。
246条2項という、加工の規定を使うというのが結論です。
条文民法246条1項・2項
民法第二百四十六条 1 他人の動産に工作を加えた者(以下この条において「加工者」という。)があるときは、その加工物の所有権は、材料の所有者に帰属する。ただし、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは、加工者がその加工物の所有権を取得する。 2 前項に規定する場合において、加工者が材料の一部を供したときは、その価格に工作によって生じた価格を加えたものが他人の材料の価格を超えるときに限り、加工者がその加工物の所有権を取得する。
1項は、他人の材料に手を加えた場合の原則です。2項は、手を加えた人が、材料の一部も自分で出した場合です。だから2項の場面になります。焼き物にたとえると分かりやすいかもしれません。ろくろで途中まで形を作った粘土を、職人が放置してしまい、別の職人がそれに手を入れて仕上げ、焼き上げたとします。仕上げに加えられた工作の価値が、もとの材料をはるかに超えているからこそ、加工の規定で決めるのが妥当だ、という理由づけです。反対に、材料をただくっつけただけの場面もあります。工事の値打ちが小さいなら、動産の付合のルールで決まります。加工の規定では、Cの材料と工事の値打ちが、もとの建前を超えるかを比べます。建前は、高く見積もっても90万円ほどでした。工事が止められた時点で、建物は少なくとも418万円でした。だから、加工者であるCに、いったん所有権が帰属します。
CとBの間には、工事が進むにつれて、建築途中の建物の所有権をBのものにするという特約がありました。この特約によって、結局、注文者Bの物になったんです。
承諾があっても、対抗するには公示が要る
図:明認方法の板
- 242条ただし書で所有権が留保されても、その留保を第三者に対抗するには明認方法などの公示が必要
- 土地の一部にしか見えない付合物について、外から見た第三者を守るための取引の安全という理由
最後にもう1つだけ、注意点を確認します。権原があり、独立性もあって、ただし書で所有権が留保されたとします。ただし、その留保を第三者に対抗するには、公示が要ります。権原で留保された物は、見た目では不動産の一部にしか見えません。例えば、土地を借りた人が、権原に基づいて木を植えたとします。この土地を、事情を知らない人が買ったとします。取引の安全のために、留保を外から分かる形で示す必要があるんです。以前、動産の対抗要件のところで、立木の所有権を示す方法を見ましたね。何という方法だったでしょうか。
明認方法でした。木の皮を削って、持ち主の名前を書く方法ですね。権原に基づいて土地に木を植えても、その木の所有権を留保していることを第三者に示すには、明認方法のような公示が必要になります。
承諾だけでは決まらない、というルール
図:まとめ板
- 所有権の取得原因は承継取得と原始取得
- 原始取得のうち無主物先占・遺失物拾得・埋蔵物発見・添付を確認
- 不動産の付合は原則不動産の所有者が取得し、権原と独立性が揃えば留保される
- 建物は土地と別個の不動産
- 建前の完成は加工の規定で決める
今日の話をまとめます。所有権には、承継取得と原始取得がありました。原始取得のうち、持ち主のいない物を拾う場面では、動産は先占、不動産は国庫、遺失物は3か月、埋蔵物は6か月という期間がありましたね。添付は、分離による損失を避けるための制度でした。ただし、権原があり、なおかつ独立性を保っていれば、所有権は留保されます。冒頭のAさんの部屋のように、承諾だけでは足りません。建物は土地とは別個の不動産なので、建物が土地に付合することもありませんでしたね。仕上げに加えられた工作の価値が、材料の価値をはるかに超えるときは、加工者に所有権が帰属します。
参照条文
- 民法239条1項・2項
- 民法240条
- 民法241条
- 民法248条
- 民法242条本文
- 民法242条ただし書
- 民法86条1項
- 民法246条1項・2項