動産の付合・混和・加工と償金
印刷のコツ
プリンターでは次の設定がおすすめです。
- 用紙:A4 / 向き:縦
- 拡大縮小:「実際のサイズ」(フィット縮小しない)
- 両面印刷:オン、とじ方は「長辺をとじる」(左綴じ)
- モノクロ印刷OK(強調は色でなく太字なので白黒でも読めます)
第2章 物権 #109/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
革のかばんは誰の物か
図:冒頭の場面
- 革細工が趣味のBが、友人Aが工房に置き忘れていった一枚の革を自分の物と思い込んで使い、夜なべしてかばんに仕立てた
- 材料の革はAの物、手間をかけて形にしたのはB
革細工が趣味のBさんの話です。ある日、友人のAさんが、工房に革を一枚、置き忘れていきました。Bさんは、それを自分の革だと思い込みました。そして夜なべして、かばんに仕立ててしまったんです。このかばんは、いったい誰の物になるでしょうか。先に答えを言います。原則は、材料を持っていたAさんの物です。ただし、Bさんの手間が生んだ値打ちが、材料の値打ちを大きく上回るときは、逆になります。その場合は、Bさんの物になります。そして、どちらの物になっても、損をした側にはお金で埋め合わせをする道があります。今日は、動産どうしがくっついた・混ざった・作り変えられたときの、行き先のルールを見ていきます。
添付のおさらい
図:添付の板
- 添付は付合・混和・加工の総称
- 前回は不動産(242条)、今回は動産どうし(243〜246条)を扱う
前回、物どうしがくっついてしまう制度を見ました。何という名前でしたか?添付、でした。添付は、付合・混和・加工をまとめた呼び方でした。分離すると社会経済上の損失になるから、1個の物として1人の所有物にし、損をした側は償金で調整する。この発想は、今日も変わりません。前回は、不動産にくっついた場合を見ました。今日は、動産どうしがくっつく場合に入ります。
動産どうしがくっつく
図:243条全文カードの背景
条文民法243条
民法第二百四十三条 所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することができなくなったときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属する。 分離するのに過分の費用を要するときも、同様とする。
持ち主の違う動産どうしが、くっついてしまう場面です。くっついた、と言える状態は、2通りあります。1つ、傷つけないと分離できなくなったこと。もう1つ、分離に費用がかかりすぎること。どちらかを満たせば、合成物、つまりくっついてできた物の所有権は、主たる動産の所有者に決まります。どちらも、無理に分ければ、社会全体で損になる場面です。前回見た添付の発想そのままですね。「主たる」は、くっついてできた物の、中心になっている側という意味です。決め方の物差しまでは、条文に書かれていません。例えば、腕時計の本体に、他人のベルトを接着してしまい、外せなくなったとします。
誰が見ても、中心は時計本体のほうですね。だから、この場合の主たる動産は、時計本体です。ベルトの持ち主は、所有権を失いますが、あとで償金を請求できます。例えば、自転車のフレームに、他人が特殊な塗装を吹き付けたとします。塗装だけを剥がすには、全体を塗り直すほどの費用がかかるとします。この場合も、傷つけずには分離できないのと同じ扱いになります。主たる動産はフレームなので、塗装ごと、自転車の持ち主の物になります。
主従が分からないとき
図:244条全文カードの背景
条文民法244条
民法第二百四十四条 付合した動産について主従の区別をすることができないときは、各動産の所有者は、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する。
例えば、同じくらいの価値の金属板を2枚、溶接して1枚にしてしまったとします。その場合は、付合した時の価格の割合で、共有になります。例えば、付合した時に、どちらも1万円の値打ちだったなら、持分は半分ずつです。どちらかの単独の物にはなりません。持分に応じて、みんなで持つ形です。今日は、244条で共有になる場面がある、というところまで押さえてください。
混ざって区別できないとき
図:245条全文カードの背景
- 前二条の規定は所有者を異にする物が混和して識別できなくなった場合について準用する
- 固形物どうしの混合も液体どうしの融和も含む
条文民法245条
民法第二百四十五条 前二条の規定は、所有者を異にする物が混和して識別することができなくなった場合について準用する。
次は、混和です。おこめの例が、まさに混和です。245条は、混和にも、243条と、244条を準用する、という条文です。主従があれば、主たる物の所有者の物になります。主従が分からないときは、共有です。持分は、価格の割合で決まります。おこめのような固形物だけでなく、液体どうしにも当てはまります。例えば、持ち主の違う醤油どうしが、同じ容器に注がれて混ざり、分けられなくなったとします。主従が決められなければ、混ざった時の価格の割合で、共有になります。固形物でも液体でも、考え方は同じです。
くっつくのと、作り変えるのとの違い
図:付合・混和と加工の対比の板
- 付合・混和は、どちらが主たる物かで決まり、手間の値打ちは数えない
- 加工だけは、材料の値打ちと工作で生まれた値打ちのどちらが上回るかで決まる
ここまでの3つの条文には、共通点があります。付合も混和も、どちらが主たる物かで決まっていました。単に物どうしがくっついた・混ざった場面を想定した規定なので、誰かの手間の値打ちは数えないんです。時計にベルトを接着するのに、腕前はほとんど要りませんね。ここから見る加工は、事情が違います。材料に、新しい価値を加える工程が入るからです。一枚の革をかばんに仕立てるには、Bさんの技術が要ります。だから、比べるものも変わります。材料の値打ちと、工作で生まれた値打ちの、どちらが上回るかで決まるんです。
作り変えたら誰の物か
図:246条全文カードの背景
- 他人の動産に工作を加えた加工者があるときは加工物の所有権は材料の所有者に帰属する
- ただし工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは加工者が取得する
ここから、今日の中心である加工に入ります。
条文民法246条1項・2項
民法第二百四十六条 1 他人の動産に工作を加えた者(以下この条において「加工者」という。)があるときは、その加工物の所有権は、材料の所有者に帰属する。ただし、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは、加工者がその加工物の所有権を取得する。 2 前項に規定する場合において、加工者が材料の一部を供したときは、その価格に工作によって生じた価格を加えたものが他人の材料の価格を超えるときに限り、加工者がその加工物の所有権を取得する。
革という他人の動産に、Bさんが工作を加えました。1項の本文を見てください。原則は、材料の所有者に帰属します。これを材料主義と呼びます。ただ、Bさんの手間が、無駄になるわけではありません。Aさんの物になっても、Bさんは、Aさんに償金を請求できます。さらに、ただし書があります。それでも原則どおり、Aさんの物になるでしょうか。ここが今日いちばんの急所です。工作によって生じた価格が、材料の価格を著しく超えるときは、加工者の物になります。工作で生まれた値打ちが材料をそこまで上回るなら、その物の値打ちを作ったのは、材料よりBさんの工作のほうです。だから、材料主義の原則を外して、Bさんの工作の値打ちを重く見るんです。
条文に、具体的な数字の基準はありません。事案ごとに、材料と完成品の価格を見て判断されます。冒頭のかばんで、数字を入れてみましょう。革の値打ちは、3,000円だったとします。かばんの完成品の値打ちは、なんと、50,000円だったとします。工作によって生じた価格は、完成品から材料を引いた金額です。50,000円から3,000円を引くと、47,000円になります。材料の価格を、大きく上回っていますね。だから、このかばんはBさんの物になります。代金の埋め合わせは、もらえます。Aさんは、あとで償金を請求できます。反対の場合も見ておきましょう。もし完成品が、3,500円程度の値打ちにとどまったとします。工作によって生じた価格は、わずか500円です。
その場合は、原則どおりAさんの物にとどまります。
加工者も材料を出した場合
図:246条2項の計算板
次は、Bさんが革だけでなく、自分の金具や糸も使った場合です。これが2項の場面です。比べる相手が、少し変わります。加工者が出した材料の価格に、工作によって生じた価格を足します。それが、他人の材料の価格を超えるかどうかで決まります。まず、加工者が勝つ例を見ましょう。Aさんの革が、6,000円だったとします。Bさんが出した金具と糸は、合わせて3,000円だったとします。かばんの完成品は、13,000円だったとします。工作で生じた価格は、完成品の値段から、全部の材料費を引いて出します。13,000円から9,000円を引くと、4,000円です。
1項ただし書だけでは、Bさんの物になりません。ですが、Bさんは材料の一部を出しています。だから、2項の物差しで比べ直します。Bさんの取り分を出します。自分の材料の3,000円に、工作の4,000円を足します。合わせて、7,000円になります。6,000円を超えています。だから、かばんはBさんの物になります。念のため、検算しておきましょう。6,000円と3,000円と4,000円を足すと、13,000円です。完成品の価格と、ぴったり一致しますね。次に、材料の所有者が勝つ例です。Aさんの革が、8,000円だったとします。Bさんが出した金具と糸は、合わせて1,000円だったとします。かばんの完成品は、11,000円だったとします。
11,000円から9,000円を引くと、2,000円になります。1,000円に、2,000円を足します。Bさんの取り分は、3,000円です。8,000円を超えていません。だから、このかばんは原則どおりAさんの物です。こちらも検算します。8,000円と1,000円と2,000円を足すと、11,000円です。やはり完成品の価格と一致します。2つの例とも、比べる順番は同じです。完成品から全材料費を引いて工作の価格を出し、加工者の取り分に足して比べる。この順番さえ押さえれば、数字が変わっても解けます。
くっつけただけか、作り変えたか
図:付合と加工の分かれ目の板
前半で見たとおり、付合は、単に動産どうしがくっついた場面を想定した規定です。だから、材料に工作を加えて、新しい物を作り出したなら、付合ではなく加工で評価します。例えば、Bさんが、Aさんの革の切れ端を、自分のかばんの破れ目に強く貼り付けて、剥がせなくなっただけなら、付合です。かばんはBさんの物のままで、Aさんは償金を請求できます。一方、一枚の革を裁って縫い、かばんに仕立てたなら、革から新しい物を作り出しています。だから加工です。前回、建前を第三者が完成させた事件を見ましたね。あの事件も、単純にくっついた話ではありませんでした。工作の値打ちを重く見て、裁判所は246条2項で判断したんです。詳しい事案は、前回のとおりです。
誰が誰に償金を請求するか
図:248条当てはめの板
- 243条の場面は従たる動産を失った者が主たる動産の所有者に、246条の場面は材料を失った者が加工者に請求する
- 原則どおり材料の所有者の物になれば、加工者が材料の所有者に請求する
- 244条の場面は各自が持分を得るので償金は問題にならない
前回見た248条を、今日の場面に当てはめてみましょう。243条の場面では、従たる動産の所有権を失った人が、主たる動産の所有者に請求します。246条の場面では、材料の所有権を失った人が、加工物の所有者に請求します。ただし書や2項でBさんが所有権を取ったときは、Aさんが償金を請求できます。反対に、原則どおりAさんの物になったときは、Bさんが、Aさんに償金を請求できます。244条は、みんなが価格の割合で持分を得るだけです。誰かが所有権を丸ごと失うわけではないので、そのままでは償金は問題になりません。償金の中身、つまり、703条と、704条の要件は、別の回で扱います。今日は、誰が誰に請求するかの当てはめまで押さえてください。
どこまで動かせないルールか
図:強行規定と任意規定の板
- 物を1個として扱い分離を許さない部分は強行規定
- 所有権の帰属と償金請求の可否は任意規定
最後に、添付の規定のどこまでが動かせないルールか、整理します。#34で見た言葉を使います。当事者の合意で上書きできない規定を強行規定、上書きできる規定を任意規定と呼びました。まず、「物を1個として扱い、分離を許さない」という部分は、強行規定です。分離による社会経済上の損失を避けるという趣旨は、当事者の合意では動かせません。一方、「所有権を誰の物にするか」「償金を請求できるか」は、任意規定です。任意規定の部分は、合意で変えられます。誰の物にするか、償金をどうするかを合意で決めても、分離による損失そのものは生じないからです。例えば、かばんができた後で、AさんとBさんが話し合い、「かばんはAさんの物にして、償金は無しにする」と決めることもできます。
くっついた・混ざった・作り変えられた、という事実は動かせません。でも、その後の所有権や償金の扱いは、当事者どうしで調整できるんです。
今日のルールを振り返る
図:まとめ板
- 動産の付合は主たる動産の所有者、主従不明なら価格割合で共有、混和は準用、加工は原則材料の所有者だが工作の価格が著しく超えれば加工者
- 損をした側は償金で調整
- 物を1個として扱う部分は強行規定、帰属と償金は任意規定
今日の話をまとめます。動産どうしがくっついたときは、主たる動産の所有者の物になりました。混和も、同じ考え方が準用されました。ここまでは、どちらが主たる物かで決まる話でしたね。作り変えられたときは、原則は材料の所有者でした。材料の一部を加工者が出した場合も、同じ順番で計算できましたね。どちらの場合も、損をした側には償金という埋め合わせの道がありました。そして、「物を1個として扱う」部分は強行規定でしたが、誰の物になるか、償金を請求できるかは、任意規定でした。冒頭のBさんのかばんは、どうなったでしょうか。
工作の値打ちが材料を著しく超えるので、かばんはBさんの物になります。ただし、Aさんは償金を請求できます。今日、244条と245条で「共有」になる場面を見ましたね。
参照条文
- 民法243条
- 民法244条
- 民法245条
- 民法246条1項・2項