共有者間の明渡請求と共有物分割
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第2章 物権 ㉘/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
実家に住み着いた弟
図:冒頭の場面
- 3人姉弟A・B・Cが、遺産分割の話し合いを終えて実家を3分の1ずつの共有にした
- Bが1人でその家に住み着いてしまった
- AとCの持分を合わせれば3分の2になる
前回に続いて、3人きょうだいのA・B・Cの実家です。前回は遺産分割が終わっていない状態でしたが、今回は話し合いが終わって、3人が3分の1ずつの共有ということになりました。持分は、3人とも3分の1ずつです。今回は、Bが1人でその実家に住み着いてしまいました。AとCの持分を足すと、3分の2になります。3分の2は過半数です。AとCは、過半数を持っているのだから、Bに出て行けと言えるでしょうか。先に答えを言います。AやCが、何も決めないまま「出て行け」と言うことはできません。Bにも、実家を使う権利があるからです。でも、AとCは2人で過半数です。2人で使い方を決めれば、話が変わります。今日は、共有者どうしで何を求め合えるのか、外部に対しては何ができるのか、そして共有をやめたいときにどう分けるのかを見ていきます。
使い方の決定と、使う権利は別
図:前回のおさらいの板
- 249条1項は各共有者に使用権原を与える
- 252条1項後段は、共有物を使用する共有者がいても、使い方そのものを過半数で決定できることを確認する
前回見た保存・管理・変更の3段階、覚えていますか?保存は単独、管理は過半数、変更は全員の同意でしたね。そして249条1項では、各共有者は持分に応じて共有物の全部を使用できる、と習いました。ここが今日の出発点です。前回見たとおり、Bが住んでいても、使い方そのものは過半数で決められました。252条1項の過半数は、共有物をどう使うかという、使い方のルールを決める権限です。たとえば、実家を人に貸すかどうか、実家をAとCが使う、というような決定です。249条1項の使用権原は、それとは別に、各共有者に与えられているものです。
過半数を持っている、というだけで、Bの使う権利が消えるわけではありません。使い方を変えるには、きちんと決める手続が要ります。ここを混同すると、今日の話全体が分からなくなります。
何も決めていなければ、明渡しは求められない
図:共有者の1人が単独で共有物を占有・使用している場面
- まだ使い方について何も決めていない状態では、他の共有者が過半数を持っていても、当然には明渡しを請求できない
- 占有する共有者にも自己の持分による使用権原がある
Bが実家に1人で住んでいる状態を、法律的に見てみましょう。まだ、AもCも、使い方について何も決めていません。判例は、少数持分権者であっても、当然には明渡しを請求されないとしました。
判例最高裁判所第一小法廷判決 昭和41年5月19日(民集20巻5号947頁)
明渡請求には理由の主張立証がいる 思うに、共同相続に基づく共有者の一人であつて、その持分の価格が共有物の価格の過半数に満たない者(以下単に少数持分権者という)は、他の共有者の協議を経ないで当然に共有物(本件建物)を単独で占有する権原を有するものでないことは、原判決の説示するとおりであるが、他方、他のすべての相続人らがその共有持分を合計すると、その価格が共有物の価格の過半数をこえるからといつて(以下このような共有持分権者を多数持分権者という)、共有物を現に占有する前記少数持分権者に対し、当然にその明渡を請求することができるものではない。けだし、このような場合、右の少数持分権者は自己の持分によつて、共有物を使用収益する権原を有し、これに基づいて共有物を占有するものと認められるからである。従つて、この場合、多数持分権者が少数持分権者に対して共有物の明渡を求めることができるためには、その明渡を求める理由を主張し立証しなければならないのである。
判例の答えは、2段になっています。1つ目、Bのほうも、ほかの共有者と相談せずに独り占めしてよいわけではありません。2つ目、それでもAとCは、当然にはBを追い出せません。少数持分権者にも、自己の持分による使用権原があります。だから、多数持分権者が明渡しを求めるには、その理由を主張し立証しなければなりません。実家の例なら、AとCは、なぜBを住まわせておけないのか、その理由を示す必要があります。なお「当然には請求できない」という言い方に注目してください。理由さえ示せれば、明渡しが認められる余地は残されています。
たとえば、実家がひどく老朽化して倒壊の危険があり、住み続けることがB自身や周囲の安全を脅かすような場合です。そのような具体的な理由があれば、明渡しが認められる余地が出てきます。ただ、単にAとCが「自分たちも住みたい」というだけでは、その理由には足りません。前回見た249条2項で、持分を超えて使っている分の使用料をBに求められます。共有そのものをやめたいなら、このあと見る分割請求です。
決めないまま使っている第三者にも、同じ理屈が及ぶ

次は、第三者が絡む場面です。判例の事件では、土地を4分の1ずつ持つ4人のうち3人が、残る1人と話し合わないまま、第三者に土地を売って使わせていました。持分の少ない共有者は、その第三者に、出て行けと言えるでしょうか。今の判例と同じ考え方だと、言えない気がします。判例は、多数持分権者から占有を認められた第三者にも、同じ理屈が及ぶとしました。
判例最高裁判所第一小法廷判決 昭和57年6月17日
協議なしに承認された第三者にも当然には明渡請求できない 共有地の多数持分権者が共有者の協議を経ないで共有地を占有使用している場合であつても、少数持分権者は当然には多数持分権者に対して共有地の明渡を請求することはできないところ……、この理は、多数持分権者から共有者の協議を経ないで共有地を占有使用することを承認された第三者と少数持分権者との関係にも妥当すると解されるのであり……
その第三者は、承認した共有者たちが持分に基づいて持っている、使う権利の上で使っています。第三者を追い出せば、承認した共有者たちの使う権利まで否定することになるんです。ただし、2つの判例はどちらも「協議を経ないで」使っている場面の話です。過半数できちんと使い方を決めた場合は、次に見るとおり話が変わります。
過半数で使い方を決めれば、話が変わる
図:過半数の共有者が「この家はAとCが使う」と決定した場面
- 決定に基づけば、明渡しを求める道が開ける
- 決定に基づいて住んでいた共有者には、252条3項の承諾が必要になることもある
では、AとCが、過半数で「この家は今後、AとCが使う」と決めたら、どうなるでしょうか。これは、252条1項後段で認められている、使い方についての決定です。ここまでの2つの判例は、どちらも「まだ何も決めていない」場面の話でした。決定なしにただ住んでいるだけのBに対しては、この決定に基づいて明渡しを求める道が開けます。ただし、Bが以前から、共有者どうしの決定に基づいて実家を使っていた場合は別です。その決定を変えることがBに特別の影響を及ぼすなら、Bの承諾が要ります。前回見た252条3項です。決定の必要性と、Bが受ける不利益を比べて、我慢すべき限度を超えるときです。
冒頭の問いに戻りましょう。AとCは、何も決めないままでは、Bにいますぐ出て行けとは言えません。でも、過半数で使い方を決めれば、明渡しを求める道が開けます。
外部への請求は3つに分かれる
図:対外的請求の3類型の板
- 妨害排除・返還請求は各共有者が単独でできる
- 共有関係の確認は共有者全員で行う
- 損害賠償は各自の持分の割合の限度でのみ請求できる
⭐ 論文で書く規範:対外的請求の3類型 妨害排除・返還請求=単独でできる/共有関係の確認=共有者全員で/損害賠償=持分割合の限度でのみ (民法252条5項・最判昭51年9月7日)
ここからは、共有者どうしではなく、外部の第三者に対する請求です。実家が、無関係の第三者に不法に占拠されたとします。この場合、A・B・Cの誰か1人でも、単独で明渡しを求められます。前回見た、保存行為にあたるからです。物を元の状態に戻すだけで、他の共有者を害さない行為でしたね。一方で「この実家はA・B・Cの共有物だ」という共有関係そのものの主張は、A・B・Cの全員でなければできません。たとえば、隣の人が「庭の半分はうちの土地だ」と言い出し、「ここは3人の共有地だ」と裁判で確かめる場面です。共有関係は、A・B・C全員の権利関係が組み合わさった1つの状態です。1人だけの主張では、残りの持分がどうなっているかまで確定できないからです。訴訟の細かい手続の話は、また別の回で扱います。最後に、第三者の不法占拠によって損害が出た場合の賠償請求です。
判例最高裁判所第三小法廷判決 昭和51年9月7日
損害賠償は持分割合の限度でのみ 共有にかかる土地が不法に占有されたことを理由として、共有者の全員又はその一部の者から右不法占有者に対してその損害賠償を求める場合には、右共有者は、それぞれその共有持分の割合に応じて請求をすべきものであり、その割合を超えて請求をすることは許されないものといわなければならない。
たとえば、占拠されていた間の賃料相当額が90万円なら、Aが請求できるのは30万円までです。自分の持分に応じた分しか、損害は生じていないからです。共有者どうしでは求め合えなかった明渡しが、外部に対しては単独で求められる。逆に、賠償は持分割合に縛られる。相手が誰かで、請求の形が変わることを、まとめて押さえておきましょう。
共有をやめる自由は保障されている
図:256条全文カードの背景
- 各共有者はいつでも共有物の分割を請求できる
- 5年を超えない不分割特約は可能で、更新もできるが期間は更新の時から5年を超えられない
ここからは、共有をやめたいときの話です。共有は、単独所有に対する例外的な制約です。256条が、それを保障しています。
条文民法256条
民法第二百五十六条 1 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。 2 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。
各共有者は、いつでも分割を請求できます。ただし、5年を超えない期間なら、分割をしない特約を結ぶこともできます。特約は更新できますが、更新の時から5年を超える期間にはできません。できます。ただ、その特約がなければ、誰でもいつでも分割を求められます。共有は、複数人の意見が対立しやすく、物の管理や利用が滞りがちです。だから、いつでも単独所有に戻れる道を、民法は保障しているんです。
協議が整わなければ裁判所に
図:258条の板
- 協議が調わないときは裁判所に分割を請求できる
- 分割の方法は現物分割・賠償分割(1人が持分を取得し、ほかの共有者にお金を払う方法)・競売の順で検討され、裁判所は給付を命じることもできる
A・B・Cの協議で分割の方法が決まればよいのですが、決まらないこともあります。258条が、裁判による分割の手続を定めています。
条文民法258条
民法第二百五十八条 1 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。 2 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。 一 共有物の現物を分割する方法 二 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法 3 前項に規定する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。 4 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
協議が調わない、あるいは協議自体ができないときは、裁判所に分割を請求できます。裁判所が命じられる方法は、2つあります。1つは、共有物の現物をそのまま分割する方法です。もう1つは、共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分を取得させる方法です。この2つのどちらもできない、あるいは価格を著しく減らしてしまうときに限って、競売が命じられます。なぜ、競売はいちばん最後なんですか。競売にかけると、実際の価値より安く売れてしまうことが多いからです。できるだけ、現物のまま分けるか、お金で調整するかを先に考えて、それでも無理なときだけ競売に進む、という順番です。そして裁判所は、金銭の支払や、登記の履行なども、あわせて命じることができます。
現物を切らずに、お金で調整する方法です。この方法を、賠償分割と呼びます。実は、この賠償分割が、今の形で条文に書かれたのは、令和3年の改正からです。それまでは、明文がなく、判例が積み重ねてきた方法でした。判例は、お金で調整する分け方を、2段階で認めてきました。まずは、切り分けたうえでの差額の調整です。
現物分割でも過不足はお金で調整できる
図:現物分割の場面
- 持分の価格に応じて分割しても、取得する現物の価格に過不足が出ることがある
- 超過分を取得した共有者が、その分の対価を他の共有者に支払うことも、現物分割の一態様として許される
実家を面積で厳密に3等分できるとは限りません。持分の価格どおりに分けようとしても、取得する現物の価値に差が出ることは、避けられません。この場合、最高裁は、超過分をお金で調整することも認めています。
判例最高裁判所大法廷判決 昭和62年4月22日(民集41巻3号408頁)
過不足はお金で調整できる 現物分割をするに当たつては、当該共有物の性質・形状・位置又は分割後の管理・利用の便等を考慮すべきであるから、持分の価格に応じた分割をするとしても、なお共有者の取得する現物の価格に過不足を来す事態の生じることは避け難いところであり、このような場合には、持分の価格以上の現物を取得する共有者に当該超過分の対価を支払わせ、過不足の調整をすることも現物分割の一態様として許されるものというべきであり……
多く現物を取った共有者が、その差額を他の共有者に払う。これも、現物分割の1つのやり方として認められます。これを、一部価格賠償と呼びます。あくまで現物分割の一種で、切り分けたうえでの金額の調整です。だから、258条2項1号の現物分割に含まれる方法として位置づけられます。
現物を切らずに1人が丸ごと取得する方法
図:現物分割ができない、あるいはできても価格を著しく損なう場合の板
実家に長年、Cだけが住み続けているとします。建物なので、そもそも物理的に切り分けることが難しい場合もあります。最高裁は、一定の要件のもとで、Cが丸ごと取得し、AとBに代金を払う方法も認めました。
判例最高裁判所第一小法廷判決 平成8年10月31日
全面的価格賠償が許される要件 当該共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法、すなわち全面的価格賠償の方法による分割をすることも許されるものというべきである。
この方法は、全面的価格賠償と呼ばれます。さっきの一部価格賠償とは違います。現物を切るのをやめて、1人が丸ごと取得します。競売にすると安く売れてしまい、住み続けてきたCは家を失います。Cが適正な値段で買い取れば、AとBも持分の価値をきちんと受け取れます。取得させるのが相当だと言える事情、価格が適正に評価されていること、そして取得する側に支払う能力があることが必要です。他の共有者にとっても、実質的に公平だと言えることも欠かせません。Cに支払う能力がなければ、AとBは代金を受け取れないままになってしまいます。だから、支払能力は特に重要な要件です。
だからこそ、要件が細かく決められているんです。この全面的価格賠償の考え方が、改正で258条2項2号の賠償分割として条文になりました。
遺産共有には特別な扱いがある
図:258条の2の板
- 共有物の全部または持分が相続財産に属し、遺産分割をすべきときは、通常の共有物分割はできない
- 相続開始から10年経過すれば通常の分割ができるが、遺産分割の請求があり異議の申出があれば10年経過後も通常の分割はできない
ここからは、令和3年改正で新しくできた制度を見ていきます。まず、共有物の持分が、相続財産に属している場合です。冒頭のA・B・Cの実家も、もし遺産分割の話し合いがまだ済んでいなければ、この状態でした。この場合、今日見てきた258条の分割は、そのままでは使えません。遺産分割は、生前にもらった分なども考えて、相続人の間で公平に分ける手続です。
条文民法258条の2
民法第二百五十八条の二(第一項・第二項) 1 共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について前条の規定による分割をすることができない。 2 共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から十年を経過したときは、前項の規定にかかわらず、相続財産に属する共有物の持分について前条の規定による分割をすることができる。ただし、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が当該共有物の持分について同条の規定による分割をすることに異議の申出をしたときは、この限りでない。
だから、遺産分割をすべきときは、通常の共有物分割ではなく、遺産分割の手続によります。遺産分割そのものの中身は、また別の回で扱います。ここで押さえてほしいのは、相続開始から10年が経つと、通常の分割ができるようになるという点です。遺産分割の手続をいつまでも優先させると、遺産共有が半永久的に固定されてしまいます。そこで、一定の期間が過ぎたら、通常の共有物分割に切り替えられるようにしたんです。ただし、10年が経っていても、例外があります。遺産分割の請求があって、相続人が異議を申し出たときは、通常の分割には切り替わりません。
10年という区切りだけで、機械的に扱いが変わるわけではないんです。
連絡が取れない共有者の持分を動かす
図:262条の2・262条の3の板
- 所在等不明共有者の持分を、裁判所の裁判で他の共有者に取得させる制度と、特定の者への譲渡を可能にする制度
- 持分そのものが動き、共有関係が解消される
実家の共有者の1人、Cの所在が長年わからないとします。そこで使えるのが、262条の2です。
条文民法262条の2第1項
民法第二百六十二条の二(第一項) 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させる。
裁判所の裁判で、AとBが、Cの持分を取得できます。ただし、タダで取るわけではありません。
条文民法262条の2第4項
民法第二百六十二条の二(第四項) 第一項の規定により共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。
Cは、後から現れれば、時価相当額の支払いを請求できます。実は、もう1つ別の制度もあります。
条文民法262条の3第1項
民法第二百六十二条の三(第一項) 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる。
262条の3という制度です。こちらは、実家を売却するときに使う制度です。AとBが実家を第三者に売ると決めたとき、Cの持分もあわせて売却できる権限を、裁判所がAかBに与えます。この場合も、Cは後から時価相当額を請求できます。AとBが自分たちで持ち続けたいときに使うのが、262条の2でした。第三者に売りたいときに使うのが、こちらの制度です。どちらも、相続開始から10年が経っていないと、遺産共有には使えない点は共通です。
決め方を変える制度と、持分を動かす制度は別
図:整理板
- 252条2項は、裁判所の決定を得て、所在等不明の共有者がいても残りの共有者の過半数で管理事項を決められるようにする制度で、共有関係そのものは変わらない
- 262条の2・262条の3は、持分そのものを取得・譲渡させる制度で、共有関係が解消される
⭐ 論文で書く規範:252条2項と262条の2と262条の3の違い 252条2項=共有のまま、決め方だけ融通する制度/262条の2と262条の3=共有そのものを解消する制度 (民法252条2項・262条の2・262条の3)
前回、252条2項という制度を見ました。あの制度は、共有関係そのものは変えません。一方、今日見た2つの制度は、持分そのものを取得したり、譲渡したりするものでした。たとえば、Cの行方が分からないまま実家を人に貸すと決めるだけなら、252条2項で足ります。Cの持分はCのままです。Cの持分そのものをAとBのものにしたいなら、262条の2です。この違いを混同しないようにしましょう。
管理人を置く4つの制度
図:所有者不明・管理不全の土地建物管理命令の板
- 所有者不明土地管理命令・所有者不明建物管理命令・管理不全土地管理命令・管理不全建物管理命令の4制度
- 利害関係人の請求により裁判所が管理人を選ぶ
⭐ 論文で書く規範:所有者不明・管理不全の管理命令 所有者不明土地管理命令/所有者不明建物管理命令/管理不全土地管理命令/管理不全建物管理命令 (民法264条の2〜264条の14)
最後に、もう1つだけ、令和3年改正の制度に触れます。264条の2以下に、管理人を置く4つの制度があります。名前だけ押さえておきましょう。所有者不明土地管理命令、所有者不明建物管理命令、管理不全土地管理命令、管理不全建物管理命令です。所有者や所在がわからない土地・建物が対象のものと、所有者はわかっていても管理が不適当なものが対象のものに分かれます。空き家が壊れかけて、隣の家に危険が及びそうな場合などです。所有者がはっきりしていても、放置されていれば対象になります。どちらも、利害関係人の請求で、裁判所が管理人を選びます。管理人は、保存行為や、性質を変えない範囲の利用・改良ならできますが、それを超える行為には裁判所の許可が要ります。
さっき見た、持分を取得したり譲渡したりする制度とは、別ですか。あちらは持分そのものを動かす制度でした。こちらは、管理人を置くだけで、持分の帰属は動きません。
今日のルールを振り返る
図:まとめ板
- 何も決めていなければ、共有者どうしの明渡請求は原則できない
- 過半数で使い方を決めれば道が開ける
- 外部への請求は保存行為なら単独、確認は全員、損害賠償は持分割合
- 分割は現物分割・賠償分割・競売の順で検討する
今日の話をまとめます。共有者どうしでは、何も決めていなければ、明渡しを当然には求められませんでした。使う共有者には、持分による使用権原がありました。でも、過半数で使い方を決めれば、明渡しを求める道が開けました。外部の第三者に対しては、妨害排除・返還請求は単独でできました。共有をやめたいときは、いつでも分割を請求でき、協議が調わなければ裁判所に請求できました。方法は、現物分割、賠償分割、そして最後に競売という順で検討されました。現物分割では、過不足をお金で調整することも認められ、場合によっては1人が丸ごと取得する全面的価格賠償も認められました。令和3年改正では、新しい制度もできました。遺産共有についての、10年のルール。所在等不明共有者の持分を、取得・譲渡する制度。そして、管理人を置く4つの制度です。冒頭のAとCは、どうだったでしょうか。
何も決めないままでは、Bにいますぐ出て行けとは言えませんでした。でも、過半数で決めれば、話は変わるんでしたね。これで、所有権のブロックが終わりました。
参照条文
- 民法256条
- 民法258条
- 民法258条の2
- 民法262条の2第1項
- 民法262条の2第4項
- 民法262条の3第1項