民法ゼロから民法#114

地役権の効力・消滅と入会権

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第2章 物権 ㉛/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

Bさんは何もしていないのに、地役権を取得できるのか

冒頭設例の関係図。甲土地はA・Bの2人の共有。Aは長年、隣の乙土地(C所有)を通路として使い続け、地役権の時効取得の要件をすでに満たしている。Bは乙土地をほとんど利用したことがなく、通行の事実に一切関わっていない。点線の問い「地役権を時効取得できるのはAだけで、Bは対象外になるのか」。 図:冒頭設例の関係図

  • 甲土地はA・Bの2人の共有
  • Aは長年、隣の乙土地(C所有)を通路として使い続け、地役権の時効取得の要件をすでに満たしている
  • Bは乙土地をほとんど利用したことがなく、通行の事実に一切関わっていない
  • 点線の問い「地役権を時効取得できるのはAだけで、Bは対象外になるのか」

甲土地は、AさんとBさんの2人で共有している土地です。Aさんは長年、隣の乙土地、Cさんの土地を通路として使い続けてきました。地役権を時効で取得するための要件は、もう満たしています。この場合、地役権を時効取得できるのは、実際に通ってきたAさんだけで、Bさんは対象外になるのでしょうか。先に答えを言っておきます。Bさんも一緒に地役権を取得します。共有者の1人について時効取得の要件がそろえば、それは共有者全員に及ぶんです。今日は、地役権が効力を持ち続け、そして消えていく仕組みと、この共有の特則、そして地役権によく似た「入会権」という権利を見ていきます。

前回の確認

一言板。前回(地役権①)で確認した内容。地役権=要役地(便益を受ける土地)のために承役地(便益を提供する土地)を使う物権。性質=随伴性・付従性・不可分性。対抗要件は登記が原則だが、通路使用が客観的に明らかで譲受人が認識可能なら登記が無くても対抗できる(最判平10・2・13)。 図:一言板

  • 前回(地役権①)で確認した内容
  • 地役権=要役地(便益を受ける土地)のために承役地(便益を提供する土地)を使う物権
  • 性質=随伴性・付従性・不可分性
  • 対抗要件は登記が原則だが、通路使用が客観的に明らかで譲受人が認識可能なら登記が無くても対抗できる(最判平10・2・13)

前回、地役権は、便益を受ける要役地のために、負担を負う承役地を使う権利で、3つの性質を持ち、対抗要件は登記が原則だと確認しました。前回見た性質のうち、随伴性と付従性のほかに、残りの性質は何でしたか?共有者の1人が、自分の持分についてだけ地役権を消すことはできない、という不可分性です。今日は、この不可分性の考え方が、時効の場面でどう働くかを見ていきます。

地役権の効力——内容は自由、期間の制限は無い

一言板。地役権の内容は280条の目的の範囲で自由に設定できる(通行・引水・眺望・日照など)。対価は契約次第で無償の地役権も可能。存続期間の制限はなく永久地役権も可(地上権・永小作権と異なり期間の上限規定が無い)。 図:一言板

  • 地役権の内容は280条の目的の範囲で自由に設定できる(通行・引水・眺望・日照など)
  • 対価は契約次第で無償の地役権も可能
  • 存続期間の制限はなく永久地役権も可(地上権・永小作権と異なり期間の上限規定が無い)

地役権が実際にどう働くか、効力を見ていきましょう。内容は、前回見た280条のとおり、設定行為で定めた目的の範囲で自由に決められます。対価をつけるかどうかも契約次第で、無償の地役権も認められます。もう1つ、地役権には存続期間の制限がありません。地上権や永小作権には期間の上限がありましたが、地役権には無いので、永久地役権も可能です。

水が足りないときの優先順位——用水地役権

285条の全文カードの背景。用水地役権の承役地で水が要役地・承役地双方の需要に対して不足するとき、まず生活用に供し、残りを他の用途に供する。同一の承役地に複数の用水地役権が設定されたときは、後の地役権者は前の地役権者の水の使用を妨げない。 図:285条の全文カードの背景

  • 用水地役権の承役地で水が要役地・承役地双方の需要に対して不足するとき、まず生活用に供し、残りを他の用途に供する
  • 同一の承役地に複数の用水地役権が設定されたときは、後の地役権者は前の地役権者の水の使用を妨げない

用水地役権という種類を、条文で見てみましょう。285条です。

条文民法285条

民法第285条 1 用水地役権の承役地(地役権者以外の者の土地であって、要役地の便益に供されるものをいう。以下同じ。)において、水が要役地及び承役地の需要に比して不足するときは、その各土地の需要に応じて、まずこれを生活用に供し、その残余を他の用途に供するものとする。ただし、設定行為に別段の定めがあるときは、この限りでない。 2 同一の承役地について数個の用水地役権を設定したときは、後の地役権者は、前の地役権者の水の使用を妨げてはならない。

飲み水や炊事といった生活用が最優先で、余った分をそれ以外の用途に回します。2項は、同じ承役地に用水地役権が何個も設定されたときのルールです。あとから設定した地役権者は、先に設定した地役権者の水の使用を邪魔してはいけません。

承役地の所有者にも義務がある——工作物の設置

一言板。286条=設定行為または設定後の契約で承役地の所有者が自己の費用で工作物を設置・修繕する義務を負ったときは、その義務は承役地の特定承継人にも引き継がれる。287条=承役地の所有者はいつでもその土地部分の所有権を放棄して地役権者に移転すれば、この義務を免れる。288条=承役地の所有者は地役権の行使を妨げない範囲でその工作物を使用でき、利益を受ける割合に応じて費用を分担する。 図:一言板

  • 286条=設定行為または設定後の契約で承役地の所有者が自己の費用で工作物を設置・修繕する義務を負ったときは、その義務は承役地の特定承継人にも引き継がれる
  • 287条=承役地の所有者はいつでもその土地部分の所有権を放棄して地役権者に移転すれば、この義務を免れる
  • 288条=承役地の所有者は地役権の行使を妨げない範囲でその工作物を使用でき、利益を受ける割合に応じて費用を分担する

もう1つ、承役地の所有者の側に義務が生じる場合があります。286条から見ていきましょう。

条文民法286条

民法第286条 設定行為又は設定後の契約により、承役地の所有者が自己の費用で地役権の行使のために工作物を設け、又はその修繕をする義務を負担したときは、承役地の所有者の特定承継人も、その義務を負担する。

設定契約などで、承役地の所有者が自分の費用で、水路や柵といった工作物を作ったり修理したりする義務を負うことがあります。この義務は、承役地を後から買った人にも引き継がれます。地役権が土地についてくるのと同じ発想で、負担のほうも土地についてきます。この義務から逃れる方法もあります。287条です。

条文民法287条

民法第287条 承役地の所有者は、いつでも、地役権に必要な土地の部分の所有権を放棄して地役権者に移転し、これにより前条の義務を免れることができる。

承役地の所有者は、その必要な部分の所有権を放棄して地役権者に渡してしまえば、この義務を免れることができます。そして288条です。

条文民法288条

民法第288条 1 承役地の所有者は、地役権の行使を妨げない範囲内において、その行使のために承役地の上に設けられた工作物を使用することができる。 2 前項の場合には、承役地の所有者は、その利益を受ける割合に応じて、工作物の設置及び保存の費用を分担しなければならない。

承役地の所有者自身も、地役権の行使を邪魔しない範囲で、その工作物を使うことができます。その代わり、利益を受ける割合に応じて、設置や維持の費用を分担しなければなりません。

承役地そのものが時効取得されると、地役権は消える

一言板。289条=承役地の占有者が承役地そのものについて取得時効の要件を満たす占有をしたとき、その負担である地役権は消滅する。290条=この消滅時効は、地役権者が権利を行使することで中断する(164条の占有中断と同じ意味の中断で、2017年改正で更新に置き換わった中断とは別物)。 図:一言板

  • 289条=承役地の占有者が承役地そのものについて取得時効の要件を満たす占有をしたとき、その負担である地役権は消滅する
  • 290条=この消滅時効は、地役権者が権利を行使することで中断する(164条の占有中断と同じ意味の中断で、2017年改正で更新に置き換わった中断とは別物)

次は、地役権が消える場面です。まず、承役地そのものが時効取得された場合を見ましょう。

条文民法289条

民法第289条 承役地の占有者が取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、地役権は、これによって消滅する。

例えば、承役地を占有している人が、地役権の負担を知らないまま、その土地全体について取得時効の要件を満たす占有を続けたとします。その場合、地役権という負担ごと消えてしまいます。この消滅時効について、もう1つ条文があります。290条です。

条文民法290条

民法第290条 前条の規定による地役権の消滅時効は、地役権者がその権利を行使することによって中断する。

似ているようで、別物です。一般の時効については、2017年の改正で「中断」から「更新」に呼び方が変わりました。でも、290条の「中断」は、その言い換えられた中断ではありません。以前、占有による取得時効の回で見た、占有が途切れることで時効の進行そのものが止まる、という意味の中断と同じです。改正で無くなった中断とは別の種類なので、条文もそのまま「中断」の文言を残しています。ここは言い換えずに、条文どおり「中断」と読んでください。地役権者が権利を行使すれば、承役地の占有者がその土地全体を時効取得したとしても、地役権は消えずに残ります。占有者は、地役権の負担がついたままの土地を取得する、という意味です。

ここまでは、地役権の負担を「負う」側の承役地が時効取得されて、地役権が消えるという話でした。では逆に、地役権を「取得する」側の土地が共有だったら、どうなるでしょう。冒頭のAさんとBさんを思い出してください。

共有者の1人が時効取得すれば、全員に及ぶ

冒頭設例の回収図。甲土地の共有者A・Bのうち、Aだけが乙土地(C所有)への通行について時効取得の要件を満たした。284条1項により、地役権を行使していないBにも地役権が及ぶ。前回の不可分性(282条=共有者の1人が自分の持分についてだけ地役権を消せない)の延長として位置づける矢印を添える。 図:冒頭設例の回収図

  • 甲土地の共有者A・Bのうち、Aだけが乙土地(C所有)への通行について時効取得の要件を満たした
  • 284条1項により、地役権を行使していないBにも地役権が及ぶ
  • 前回の不可分性(282条=共有者の1人が自分の持分についてだけ地役権を消せない)の延長として位置づける矢印を添える

ここからが、今日いちばんの核です。冒頭のAさんとBさんの問いに、条文で答えます。前回学んだ不可分性を思い出してください。共有者の1人が、自分の持分についてだけ地役権を消すことはできませんでしたね。実は、生まれるときも同じ発想です。地役権は、AさんやBさんという「人」ではなく、甲土地という「土地」のためにある権利です。持分ごとに付けたり外したりできないので、「Aさんの持分のためだけの地役権」という形は作れません。すると、成立させるなら甲土地全体のため、つまり共有者全員のために成立させるしかありません。逆に、Bさんが通っていないことを理由に全員分を否定すれば、要件を満たしたAさんまで道を失います。だから民法は、成立させる側に揃えました。地役権はできるだけ成立させ、できるだけ消滅させない、という一貫した方向性です。条文で確かめましょう。

条文民法284条

民法第284条 1 土地の共有者の一人が時効によって地役権を取得したときは、他の共有者も、これを取得する。 2 共有者に対する時効の更新は、地役権を行使する各共有者に対してしなければ、その効力を生じない。 3 地役権を行使する共有者が数人ある場合には、その一人について時効の完成猶予の事由があっても、時効は、各共有者のために進行する。

1項を見てください。共有者のうちの1人が時効によって地役権を取得すれば、それ以外の共有者も、あわせてこれを取得すると書かれています。冒頭の答えは、これです。

284条2項・3項の場合分け板。場合①Aだけが通行=CはAに更新の手続きを取れば足り、通行していないBへの手続きは不要。場合②A・Bとも通行=Aにだけ更新してもBの時効は進み、Bが取得すれば1項でAも取得する→止めるには通行している全員に更新が必要(2項)。3項=Aに完成猶予の事由があっても、時効は各共有者のために進行する(Bの時効は止まらない)。いずれも地役権に有利な方向。 図:284条2項・3項の場合分け板

  • 場合①Aだけが通行=CはAに更新の手続きを取れば足り、通行していないBへの手続きは不要
  • 場合②A・Bとも通行=Aにだけ更新してもBの時効は進み、Bが取得すれば1項でAも取得する→止めるには通行している全員に更新が必要(2項)
  • 3項=Aに完成猶予の事由があっても、時効は各共有者のために進行する(Bの時効は止まらない)
  • いずれも地役権に有利な方向

続けて2項です。時効の更新の効力を生じさせるには、地役権を行使している共有者の、一人ひとりに対して、その手続きを取らなければなりません。Cさんが、時効取得を止めたいとします。時効の回で見たとおり、更新は、それまでのカウントをリセットすることでした。Cさんは、地役権を行使している共有者、つまり実際に通行している人全員に、この更新の手続きを取らなければなりません。通行していないBさんに手続きを取る必要はありません。2項が効いてくるのは、AさんとBさんの両方が通行している場面です。このとき、Aさんにだけ更新の手続きを取っても、Bさんの時効は進み続けます。そしてBさんが取得すれば、1項によってAさんも取得してしまいます。だから、止めたいなら通行している全員に手を打たなければなりません。取得を止めるほうを難しくする、ここでも地役権に有利な方向です。最後に3項です。地役権を行使する共有者が数人いる場合、その1人について完成猶予の事由、つまり時効の完成を一時先送りにする事由があっても、時効は各共有者のために個別に進行します。

2項と同じ形です。Aさんの事情ではBさんの時効は止まらず、Bさんが取得すれば、1項でAさんも取得します。1項の効果が核になる、それが284条の設計です。共有者の誰か1人でも要件を満たせば、地役権はできるだけ成立する方向に働くようになっているんです。

消す側にも同じ発想がある——要役地共有の消滅時効

284条と292条の対比板。284条=取得時効の特則、共有者の1人が取得すれば他の共有者も取得する(全員に有利な方向)。292条=消滅時効の特則、要役地共有の場合、共有者の1人についての完成猶予・更新は他の共有者にも効力を生ずる(絶対効・これも全員に有利な方向)。 図:284条と292条の対比板

  • 284条=取得時効の特則、共有者の1人が取得すれば他の共有者も取得する(全員に有利な方向)
  • 292条=消滅時効の特則、要役地共有の場合、共有者の1人についての完成猶予・更新は他の共有者にも効力を生ずる(絶対効・これも全員に有利な方向)

284条は、地役権を「取得」する側、つまり承役地の時効取得ではなく、地役権そのものの時効取得についての特則でした。今度は逆に、地役権が「消える」側、消滅時効について、要役地が共有だった場合の特則を見ます。292条です。

条文民法292条

民法第292条 要役地が数人の共有に属する場合において、その一人のために時効の完成猶予又は更新があるときは、その完成猶予又は更新は、他の共有者のためにも、その効力を生ずる。

ここで284条2項は、更新の効力が及ぶには各共有者に対して手続きが要る、という限定でした。292条は逆に、1人についての完成猶予や更新が、他の共有者にも当然に及ぶ、という絶対効です。時効の完成猶予と更新の回で、猶予や更新の効果は、その事由が生じた当事者と承継人の間でしか効かない、という相対効の原則を見ました。その回で、例外は3つだけと言って、保証人、物上保証人、そして要役地が共有の場合の地役権を挙げました。292条が、その3つ目です。例えば、甲土地をAさんとBさんが共有していて、乙土地の通行地役権を持っているのに、しばらく2人とも使っていなかったとします。Aさんが乙土地の所有者Cさんを相手に裁判を起こせば、Aさんのための完成猶予、判決が確定すれば更新は、Bさんのためにも効力を生じます。Bさんの分だけ地役権が消える、ということは起きません。

284条は地役権を新しく生み出す取得時効の話、292条は既にある地役権が消えてしまう消滅時効の話です。どちらの場面でも、地役権に有利な方向に働くように作られています。取得のときは全員が一緒に取得しやすく、消滅を止めるときも1人の行動で全員分の消滅が止まりやすい。方向はそれぞれですが、地役権をできるだけ存続させるという目的は共通しています。

一言板。283条の確認。地役権の時効取得=継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものに限る。通行地役権の「継続」=承役地の上に通路が開設されていること。開設は要役地の所有者によることを要する(最判昭30・12・26)。要役地の所有者が自己所有地の提供等の負担をして共同で拡幅し、承役地がその一部となった場合も開設にあたる(最判平6・12・16)。∵好意による通行と権利としての通行を区別する。 図:一言板

  • 283条の確認
  • 地役権の時効取得=継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものに限る
  • 通行地役権の「継続」=承役地の上に通路が開設されていること
  • 開設は要役地の所有者によることを要する(最判昭30・12・26)
  • 要役地の所有者が自己所有地の提供等の負担をして共同で拡幅し、承役地がその一部となった場合も開設にあたる(最判平6・12・16)
  • ∵好意による通行と権利としての通行を区別する

さっきの284条は、そもそも地役権が時効で取得できることが前提でした。その要件を、少しだけ思い出しておきましょう。283条は、地役権を時効で取得できるのは、継続的に行使され、かつ外形上認識できるものに限る、と定めています。承役地の上に、通路が作られていることです。これを通路の開設といいます。そして判例は、その開設が要役地の所有者自身によることを要求しています。どちらも、以前の回でじっくり扱いました。開設の要件について、1つだけ付け加える判例を紹介します。要役地の所有者たちが、承役地の所有者に土地の一部を道路用に出すよう働きかける一方、自分たちも所有地の一部を差し出すなどの負担をして、共同で道路を広げた。その結果、承役地が通路の一部になった、という事案がありました。最高裁は、この場合も「要役地の所有者による通路の開設」にあたると認めています。

開設を要役地の所有者に求めるのは、隣人の好意で通らせてもらっているだけの通行と、権利としての通行を区別するためでした。自分の土地を差し出すなどの負担をして道づくりに加わったなら、好意に甘えていただけとはいえません。だから、開設にあたると認められたのです。

いつから数えるか、一部だけ消えることもある

一言板。291条=消滅時効の起算点。継続的でない地役権(例:年に数回だけ通る)は最後に行使した時から、継続的な地役権(例:日常的に通る)は行使を妨げる事実(通路の閉鎖など)が生じた時から起算する。293条=地役権者がその権利の一部を行使しないときは、その部分のみが時効消滅する(例:幅3mの通行地役権のうち2mしか使っていなければ、残り1m分だけが対象)。 図:一言板

  • 291条=消滅時効の起算点
  • 継続的でない地役権(例:年に数回だけ通る)は最後に行使した時から、継続的な地役権(例:日常的に通る)は行使を妨げる事実(通路の閉鎖など)が生じた時から起算する
  • 293条=地役権者がその権利の一部を行使しないときは、その部分のみが時効消滅する(例:幅3mの通行地役権のうち2mしか使っていなければ、残り1m分だけが対象)

消滅時効がいつから進み始めるか、起算点を見ておきましょう。291条です。

条文民法291条

民法第291条 第百六十六条第二項に規定する消滅時効の期間は、継続的でなく行使される地役権については最後の行使の時から起算し、継続的に行使される地役権についてはその行使を妨げる事実が生じた時から起算する。

日常的に通行しているような継続的な地役権は、通路を塞がれるなど、行使を妨げる事実が起きた時から数えます。逆に、年に数回だけ使うような継続的でない地役権は、最後に実際に使った時から数えます。もう1つだけ、293条を見てください。

条文民法293条

民法第293条 地役権者がその権利の一部を行使しないときは、その部分のみが時効によって消滅する。

地役権の一部だけを使わなくなった場合、その使っていない部分だけが消えます。例えば、幅3メートルの通行地役権を設定していたのに、実際には道の端の幅2メートルしか使っていなかったとします。この場合、使われていない残り1メートル分だけが、時効によって消滅する対象になります。現に使っている範囲だけは残り、使っていない部分だけが縮んでいく、というイメージです。

地役権が消える理由、まとめて確認

消滅原因の一覧板。①放棄(一般の物権の消滅原因)②承役地の時効取得による消滅(289条)③消滅時効(291条の起算点・293条の一部消滅)④存続期間の満了(原則なし・永久地役権も可)。284条・292条・282条(不可分性)・289条・290条を貫く方向性=地役権はできるだけ存続させる。 図:消滅原因の一覧板

  • ①放棄(一般の物権の消滅原因)②承役地の時効取得による消滅(289条)③消滅時効(291条の起算点・293条の一部消滅)④存続期間の満了(原則なし・永久地役権も可)
  • 284条・292条・282条(不可分性)・289条・290条を貫く方向性=地役権はできるだけ存続させる

ここまで見てきた、地役権が消える理由をまとめておきましょう。1つめは、地役権者が自分から手放す放棄です。2つめは、承役地そのものが時効取得された場合、その負担である地役権が消えるという289条です。ただし290条により、地役権者が権利を行使し続ければ、この消滅時効は中断します。3つめが、291条の起算点から始まる消滅時効と、293条の一部消滅です。そして4つめ、存続期間の満了です。ただし地役権には原則として期間の制限が無いので、永久地役権であれば、この理由では消えません。並べると、284条、292条、そして前回の不可分性、さらに290条の中断まで、どれも地役権をできるだけ存続させる方向で設計されていることが分かります。

地役権に似た慣習上の権利——入会権

入会権の比較板。共有の性質を有する入会権(263条)=入会地の所有権自体が入会集団にある場合、慣習に加えて共有の規定を適用。共有の性質を有しない入会権(294条)=入会地の所有権は入会集団になく利用権にとどまる場合、慣習に加えて地役権の規定を準用。いずれも各地方の慣習が第一で民法の規定は補充。 図:入会権の比較板

  • 共有の性質を有する入会権(263条)=入会地の所有権自体が入会集団にある場合、慣習に加えて共有の規定を適用
  • 共有の性質を有しない入会権(294条)=入会地の所有権は入会集団になく利用権にとどまる場合、慣習に加えて地役権の規定を準用
  • いずれも各地方の慣習が第一で民法の規定は補充

用益物権ブロックの最後に、地役権とよく似た、もう1つの権利を見ておきましょう。入会権です。入会権とは、村落の住民が、慣習に基づいて山林や原野などを共同で利用する権利です。まきを集めたり、山菜を採ったりする、昔ながらの共同利用のかたちですね。民法には263条と294条の2か所に規定がありますが、どちらも共通しているのは、まず各地方の慣習が適用され、民法の規定は補充的な位置づけにとどまる、という点です。

条文民法263条

民法第263条 共有の性質を有する入会権については、各地方の慣習に従うほか、この節の規定を適用する。

条文民法294条

民法第294条 共有の性質を有しない入会権については、各地方の慣習に従うほか、この章の規定を準用する。

入会地の所有権そのものが、入会集団にあるかどうかの違いです。263条は、所有権自体が村の住民たちにある場合で、慣習に加えて共有の規定を適用します。294条は、所有権は入会集団になく、他人の土地を利用する権利にとどまる場合です。この場合は、慣習に加えて地役権の規定を準用します。だから294条は、地役権の規定を準用する、という作りになっているんです。もう1つ押さえておきたいのは、入会集団の法律上の扱いです。多くの場合、入会集団には法人格が無く、権利能力なき社団として扱われます。入会地は、構成員全員に総有的に帰属すると扱われます。総有は、権利能力なき社団の回で見た、具体的な持分も潜在的な持分も無い持ち方でしたね。持分が無いので、1人が自分の分だけを処分することはできず、入会権を処分するには構成員全員の同意が要ります。訴訟も同じ発想です。入会権そのものがあることの確認を求める訴訟は、原則として入会集団の構成員全員でなければ提起できません。全員が一緒に訴える必要がある、固有必要的共同訴訟という形です。

今日の骨格を、もう一度

まとめ板。地役権の効力=内容は自由・期間の制限なし・用水地役権(285条)・工作物の負担(286-288条)。消滅=承役地の時効取得(289条・290条の中断)・消滅時効(291条の起算点・293条の一部消滅)・放棄。共有の特則=284条(取得は全員に及ぶ)・292条(消滅時効の完成猶予・更新は絶対効)。地役権はできるだけ成立させ、できるだけ消滅させない、という一貫した方向性。入会権(263・294条)=慣習が第一、民法は補充。 図:まとめ板

  • 地役権の効力=内容は自由・期間の制限なし・用水地役権(285条)・工作物の負担(286-288条)
  • 消滅=承役地の時効取得(289条・290条の中断)・消滅時効(291条の起算点・293条の一部消滅)・放棄
  • 共有の特則=284条(取得は全員に及ぶ)・292条(消滅時効の完成猶予・更新は絶対効)
  • 地役権はできるだけ成立させ、できるだけ消滅させない、という一貫した方向性
  • 入会権(263・294条)=慣習が第一、民法は補充

最後に、今日の骨格を振り返りましょう。そして今日の核は、共有の特則でした。284条により、共有者の1人が時効取得すれば他の共有者も一緒に取得します。292条により、要役地共有の場合、消滅時効の完成猶予や更新は他の共有者にも絶対的に及びます。冒頭のAさんとBさんに戻りましょう。Aさんが時効取得の要件を満たせば、通行に一切関わっていなかったBさんも、一緒に地役権を取得します。そして最後に、地役権とよく似た入会権も見ました。これで、地役権、そして用益物権ブロック全体が終わります。まずは、担保物権全体の地図からです。

参照条文

  • 民法285条
  • 民法286条
  • 民法287条
  • 民法288条
  • 民法289条
  • 民法290条
  • 民法284条
  • 民法292条
  • 民法291条
  • 民法293条
  • 民法263条
  • 民法294条

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