物権の消滅と混同
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第2章 物権 #88/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
借りていた土地を、買い取ったら
図:冒頭の関係図
- 元の所有者Aと地上権者Bが向き合っている
- ①Aの土地にBが地上権を設定してもらい、自宅を建てて20年住んでいる
- ②地上権は登記簿にも載っている
- ③ある日、AがBに土地を売り、Bが買い取った
Bは、Aの土地を借りて、そこに自宅を建てて20年住んでいます。土地を借りる権利は、地上権です。登記簿にも、ちゃんと載っています。賃貸マンションの契約とは、少し違うんですか。そこは大事な点です。今日は物権どうしの話なので、地上権で考えます。「借地権」と呼ばれる権利には、この地上権のほかに、契約で借りる賃借権もありますが、その違いはまた別の回で扱います。ある日、Aが「土地を売りたい」と言い出しました。そしてBが、その土地を買い取りました。Bは不動産屋に聞きました。「土地を借りる権利の登記も、毎年の地代の話も、このまま残るんですか」。
今日の問いは1つです。土地の持ち主になったBの、この地上権はどうなるのか。先に答えを言っておきます。Bの地上権は消えます。自分の土地を、自分から借りる意味はないからです。ただし、消すと困る人がいる場面では、消えずに残ります。今日は、その線引きを1本の問いで説明できるようにします。
前回までの橋——物権が消える場面
図:今日の地図
前回は、契約で所有権が移る瞬間を見ました。物権変動には、発生・変更・消滅の3つがある、とも確認しました。前回、別の回に回すと言っておいた消滅を、今日扱います。物権が「消える」場面です。
物権が消える4つの原因
図:物権が消える4つの原因の板
- ①目的物の滅失
- ②混同
- ③放棄
- ④消滅時効
- 今日の重心は②混同
- ほかに、国が公共のために強制的に取り上げる場合(収用)もある
物権が消える原因は、大きく4つに整理されます。1つめは、物がなくなってしまう滅失。2つめは、今日いちばん時間をかける混同。3つめは、権利を手放す放棄。4つめは、時効による消滅です。混同、というのは、日常で使う言葉とは別物ですか。別物です。今日の「混同」は、法律用語として使います。1人の中で、2つの権利が一体になってしまう、という意味の言葉で、日常の会話で使う場面とは分けて聞いてください。もう1つだけ触れておくと、国が公共のために土地を強制的に取り上げる場合もあります。これも物権が消える場面の1つですが、今日はこの4つが中心です。
混同以外の3つは、先に短く済ませます。
滅失——物が無くなれば、権利も消える
図:滅失の関係図
- 倉庫の持ち主と、落雷で全焼した倉庫
- ①倉庫に落雷があり、全焼した
- ②倉庫にかけていた抵当権は、消えるのではなく、火災保険金を受け取る権利に乗り移る
1つめ、滅失です。ある倉庫が、落雷で全焼してしまいました。物権は、物があってはじめて成り立つ権利なので、物が無くなれば、その上の物権も消えるのが原則です。例外は、あるんですか。あります。もし、この倉庫に抵当権が付いていたとしたら、その抵当権は消えずに、火災保険金を受け取る権利へ乗り移ります。これを物上代位と呼びます。乗り移るための細かい条件は、また別の回で扱います。今日は、名前と、この乗り移る仕組みがあることだけ押さえてください。
混同の原則——1人の手に2つの権利がそろうと
図:179条の板
- 所有権と他の物権が同一人に帰属したときは、他の物権が消滅する
- 冒頭の場面に当てはめると、Bの地上権は消える
ここから、今日の中心、混同です。混同を説明する前に、1つ思い出してほしいことがあります。所有権とは、どんな権利でしたか?物権の種類を一通り見た回で、使う・利益を得る・処分する、の3つの力を全部持つ権利、と見ました。地上権は、そのうち使う力と利益を得る力を、土地の持ち主から分けてもらった権利でした。この点が、今日の理由づけの土台になります。
条文民法179条
民法 第179条(混同) 同一物について所有権及び他の物権が同一人に帰属したときは、当該他の物権は、消滅する。ただし、その物又は当該他の物権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。 2 所有権以外の物権及びこれを目的とする他の権利が同一人に帰属したときは、当該他の権利は、消滅する。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。 3 前二項の規定は、占有権については、適用しない。
まず1項を、そのまま冒頭のBに当てはめます。Bは、地上権者でしたが、土地を買ったことで、所有者にもなりました。だから、地上権は消えます。所有権は、使う力も利益を得る力も、もともと全部持っています。地上権が切り出していた力は所有権の中にそろっているので、自分の物の上に、自分のための地上権を残しておく意味が、もうありません。ここで、今日の1本の問いを渡します。1人の手に、上の権利と下の権利がそろったら、下の権利は消える。残しておく意味がなくなるからです。この問いを、今日はずっと使い続けます。
例外——第三者の権利の目的であるとき
図:例外の関係図
- 地上権者Bと銀行Cが向き合っている
- ①Bは、土地を買う前に、自分の地上権に銀行Cの抵当権を付けていた(地上権にも抵当権を設定できる)
- ②Bが土地を買っても、Bの地上権は消えない
ただ、1項にはただし書があります。その物、または他の物権が、第三者の権利の目的であるときは、消えません。冒頭のBが、実は土地を買う前に、自分の地上権に、銀行Cの抵当権を付けていたとします。地上権にも、抵当権を付けられるんですか。付けられます。地上権も、抵当権の目的にできると条文で定められています。ここでは、名前だけ押さえてください。この状態で、Bが土地を買ったらどうなるでしょうか。実は、消えません。Bの地上権は、そのまま残ります。ここで、さっきの問いを使います。地上権を消してしまうと、その地上権に乗っていた銀行Cの抵当権は、土台を失ってしまいます。
Cが害されてしまいます。残しておく意味が、Cのためにまだあるから、消えないんです。つまり、ただし書の「第三者」とは、この銀行Cのように、その物や地上権の上に、自分の権利を乗せている人のことです。以前、対抗できるかを見た場面の第三者とは、役回りが違います。
図:頻出の関係図
- 1番抵当権者Dと2番抵当権者Eが、同じ土地に抵当権を持っている
- ①その土地の元の所有者はXのまま
- ②Dが土地を買う場合と、Eが土地を買う場合を、それぞれ考える
もう1つ、短答でも論文でも、よく出る場面を見ます。同じ土地に、1番抵当権者のDと、2番抵当権者のEが付いています。ここで、1番抵当権者のDが、その土地を買ったとします。Dの1番抵当権は、どうなるんですか。消えません。ここが、今日いちばん頭を使うところです。ただ、消えないことで守られるのは、実はD自身なんです。数字で確かめましょう。Dの被担保債権は300万円、Eの被担保債権は250万円、土地の売却代金は420万円とします。
図:計算板
- 原則どおりDの1番抵当権が残る場合=Dが300万円を優先弁済で受け取り、残り120万円をEが受け取る(検算:300+120=420)
- 仮にDの1番抵当権が消えたとする場合=Eの2番抵当権だけが残り、Eが250万円を優先弁済で受け取り、残り170万円がDの手元に残る(検算:250+170=420)
- 差=Dは130万円を失う
まず、原則どおり、Dの1番抵当権が残る場合です。Dが先に300万円を受け取り、残り120万円をEが受け取ります。Dが300万円、Eが120万円で、合計420万円です。ちょうど売却代金と一致します。では、仮に、Dの1番抵当権が消えてしまったとしたらどうでしょうか。Eの2番抵当権だけが、残ることになりますね。そうなると、Eが先に250万円を受け取り、残り170万円がDの手元に残るだけになります。だから、Dの1番抵当権を消してしまうと、損をするのはD自身です。残しておく意味があるのは、Dのためなんです。
ただし書は、文言だけを追うのではなく、残す意味があるかで読む、ということです。ここで1つ、考えてみてください。逆に、2番抵当権者のEが、その土地を買ったとしたら、結論は同じだと思いますか。実は、逆になります。Eが買った場合、Eの2番抵当権は消えます。判例も、そう考えています。もう一度、残す意味を考えてみましょう。Eは2番目です。Eの後ろに、守るべき順位者はいません。残しておく意味がないから、消えます。DとEで結論が違うのは、条文の形式ではなく、残す意味があるかどうかの違いです。
例外の例外——被担保債権が消えれば、抵当権も消える
図:付従性の関係図
- 1番抵当権者兼債権者のDと、元の所有者兼債務者のX
- ①代物弁済=Xが返済の代わりに土地をDに渡す
- ②相続=Xが亡くなり、Dが単独で相続する
- どちらも、被担保債権が消え、Dの1番抵当権も消える
もう1つ、注意してほしい場面があります。ただし書に当たって、抵当権が残るはずの場面でも、消えることがあります。残す意味の話とは別の理由です。物権の種類を一通り見た回で、担保物権に共通する性質として、付従性を見ましたね。混同とは関係なく、被担保債権そのものが消えれば、抵当権は付従性で消えます。1つの場面は、代物弁済です。Dが、貸したお金を返してもらう代わりに、その土地を受け取ったとします。これで、Dの被担保債権は消えます。すると、付従性で、Dの1番抵当権も消えます。もう1つの場面は、相続です。土地の持ち主だったXが亡くなり、Dが1人でXを相続したとします。
貸していた相手を、あとで相続した場合、債権と債務が1人に帰属します。これが、債権の混同です。債権が消えれば、また付従性で、Dの1番抵当権も消えます。口で言いたいのは1点だけです。混同の問題を解くときは、まず被担保債権が残っているかを確かめてください。債権が消えていれば、混同を考えるまでもなく、抵当権はもう消えています。
179条2項——所有権以外の物権どうし
図:179条2項の板
- 地上権と、その地上権の上の抵当権が同一人に帰属したときは、抵当権が消える
- 理由は1項と同じ、残す意味がないから
- ただし書も同じように使える
ここまでは、所有権と、他の物権の話でした。179条2項は、所有権以外の物権どうしの場面です。所有権が絡まない場合も、あるんですか。あります。さっきの、地上権に銀行の抵当権が付いていた場面を思い出してください。もし、銀行Cが、Bからその地上権を買い取ったら、Cの抵当権は消えます。地上権と、その上の抵当権が、同じCの手にそろうからです。1項の図を1段ずらしただけで、理由も同じです。自分の地上権に、自分のための抵当権を残しておく意味がありません。ただし書も、同じように使えます。
179条3項——占有権には適用しない
図:占有権の板
- 混同の規定は、占有権には適用しない
- 理由=占有権は、今、事実として物を持っていることを守る権利で、所有権ともともと並んで存在する
- 持ち主が自分で住んでいれば、所有権と占有権を両方持っている
もう1つ、忘れてはいけない例外があります。179条3項です。混同の規定は、占有権には使いません。占有権は、今、事実として物を持っていることを、そのまま守る権利です。所有権とは、もともと並んで存在しています。持ち主が自分でその家に住んでいれば、所有権と占有権を、両方持っています。所有権を持ったからといって、占有権が要らなくなるわけではありません。今日は、混同の対象にすら入らない、という結論だけで十分です。
物権の放棄
図:放棄の板
- 物権は放棄できる
- ただし、他人を害する放棄はできない(地上権や永小作権に抵当権が付いている場合、その放棄を抵当権者に対抗できない=抵当権者との関係では放棄されずに残っているものとして扱われる)
- 動産を放棄すれば無主物となる
- 不動産を放棄すれば国庫に帰属する
3つめの原因、放棄です。物権は、自分の意思で手放すことができます。物権を放棄するのは自由ですが、制限があります。他人を害する放棄は許されません。さっきの、地上権に銀行の抵当権を付けていた場面を思い出してください。もし、Bが自分の地上権を放棄してしまったら、銀行Cは困りますよね。だから、地上権や、小作料を払って他人の土地で耕作する永小作権に抵当権が付いている場合、その権利者は、放棄を抵当権者に対抗できません。つまり、抵当権者との関係では、権利は放棄されずに残っているものとして扱われます。放棄の場面にも、同じ考え方が顔を出しています。もう2つ、短く見ておきます。動産の所有権を放棄すれば、持ち主のいない物になります。不動産の所有権を放棄すれば、国のものになります。
消滅時効
図:消滅時効の板
- 所有権以外の物権は20年で時効消滅する(166条2項)
- 所有権は時効で消えない
- 占有権も時効で消えない
- 担保物権は、原則として被担保債権と一緒に消える(付従性)
- 抵当権には、この原則の例外がある
最後の原因、消滅時効です。所有権以外の物権は、20年、権利を使わずにいると、時効で消えます。所有権は、166条2項の対象から外されていて、時効では消えません。使っていない期間があっても中身が減っていかない、恒久性のある権利だからです。占有権も、時効では消えません。事実として物を持っていれば生まれ、持たなくなれば消える、というだけの権利だからです。担保物権は、原則として、被担保債権と一緒に消えます。さっき見た、付従性の話です。ただ、抵当権には、この原則に例外があります。抵当権が付いた不動産を、あとから買った人に対しては、抵当権だけが時効で消えることがあります。詳しい中身は、担保物権の回で扱います。
今日の背骨、もう一度
図:まとめの比較板。行=原則(Bが土地を買う)/地上権に銀行の抵当権が付いている/1番抵当権者Dが買う/2番抵当権者Eが買う/代物弁済・相続/占有権。列=①残す意味はあるか ②結論(消える・残る) ③理由の一言。
ここで、今日見てきた場面を、1枚の板に並べます。原則の場面は、残す意味がないので、地上権が消えます。地上権に銀行の抵当権が付いている場面は、銀行のために残す意味があるので、消えません。1番抵当権者Dが買う場面は、D自身のために残す意味があるので、消えません。2番抵当権者Eが買う場面は、残す意味がないので、消えます。代物弁済と相続の場面は、被担保債権そのものが消えるので、混同ではなく付従性で消えます。占有権は、もともと混同の対象に入りません。今日、口で言いたいのは、この1点だけです。1人の手に、上の権利と下の権利がそろったら、下の権利は消えます。残しておく意味がなくなるからです。だから、残しておく意味がまだある場面では、消しません。
2つの権利がそろっても自動的には消えず、残しておく意味があるかを毎回確かめる。それが、今日の1本の線です。冒頭のBに戻りましょう。Bの地上権は、もう消えています。ただし、もしBが自分の地上権に、銀行の抵当権を付けていたら、話は別でした。この考え方は、ずっと先の担保物権の回で、もう一度出てきます。今日の「消えない地上権」を、また思い出すことになると思います。
参照条文
- 民法179条