民法ゼロから民法#124

法定地上権の要件①建物の存在

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第3章 担保物権 #124/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

今回も成立するのか

冒頭の場面板。Bは何も建っていない自分の土地(更地)に、銀行Aのための抵当権を付けて事業資金を借りた。そのお金でその土地に自宅を建てた。返済が滞り土地が競売にかけられ、Cが買い受けた。 図:冒頭の場面板

  • Bは何も建っていない自分の土地(更地)に、銀行Aのための抵当権を付けて事業資金を借りた
  • そのお金でその土地に自宅を建てた
  • 返済が滞り土地が競売にかけられ、Cが買い受けた

前回、法定地上権が成立するための要件は、全部でいくつありましたか?4つでした。①設定当時、建物が存在すること。②設定当時、土地と建物の所有者が同一であること。③土地または建物に抵当権が設定されたこと。④競売の結果、所有者が異なるに至ったこと。今日はその1つめ、要件①から潰していきます。場面を見てください。Bは、何も建っていない自分の土地に、銀行Aのための抵当権を付けて事業資金を借りました。そのお金で、その土地に自宅を建てました。返済が滞り、土地が競売にかけられ、Cが買い受けます。先に答えを言っておきます。今回は成立しません。理由は、銀行が抵当権を付けたとき、この土地を「何も建っていない土地」として値踏みしたからです。前回と何が違うのか、今日はそこを積み上げていきます。

要件①はどこから来るのか

388条前段の板。土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。「存する建物」に下線。 図:388条前段の板

  • 土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす
  • 「存する建物」に下線

条文民法388条前段

民法第388条 土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。

前回、全文を確認した条文です。よく見てください。「その上に存する建物」とあります。存する、つまり存在する建物、です。ここは解釈です。条文の組み立てを追うと、まず土地と建物が同一の所有者に属していて、そのうえで抵当権が設定される、という順番になっています。抵当権が設定される、そのときすでに建物が存在していなければ、「その上に存する建物」とは呼べません。だから、要件①「抵当権設定当時、建物が存在すること」は、この一言から読み取られています。この基準時を頭に置いて、今日の場面に戻りましょう。

更地の後の建築、成立しない

更地の後の建築の板。Bは更地にAのための抵当権を設定→その後Bが建物を建てた→土地の抵当権が実行された。抵当権設定当時、建物は存在しない=要件①を満たさない。結論=法定地上権は成立しない。 図:更地の後の建築の板

  • Bは更地にAのための抵当権を設定→その後Bが建物を建てた→土地の抵当権が実行された
  • 抵当権設定当時、建物は存在しない=要件①を満たさない
  • 結論=法定地上権は成立しない

判例大判大正4年7月1日、大判昭和11年12月15日(同旨)/判旨の要旨

更地への抵当権設定後の建築 更地に抵当権が設定された後に建物が建てられた場合、その建物のために法定地上権は成立しない。

冒頭の場面に、388条を当てはめてみます。Bが土地に抵当権を設定した時点で、そこに建物はありましたか。ありませんでした。更地で、建物が建ったのは、抵当権を設定したあとです。抵当権設定当時、建物は存在しません。要件①を満たさないので、法定地上権は成立しません。ではなぜ、判例はここまではっきり「成立しない」と言い切るのでしょうか。理由を数字で見てみましょう。

評価額の比較板。たとえば更地の評価額が1億円だとする。地上権付きの土地は、その2〜3割程度、たとえば2千万〜3千万円程度の値しか付かない。地上権が成立すると、担保の価値が大きく目減りする。 図:評価額の比較板

  • たとえば更地の評価額が1億円だとする
  • 地上権付きの土地は、その2〜3割程度、たとえば2千万〜3千万円程度の値しか付かない
  • 地上権が成立すると、担保の価値が大きく目減りする

銀行Aは、Bに融資するとき、目の前の土地を「更地」として評価します。たとえば、更地としての評価額が1億円だったとします。ところが、地上権が付いた土地は、更地よりずっと安くしか売れません。目安として、更地の2割から3割程度、たとえば2千万円から3千万円程度の値しか付かないと言われています。もし後から建てた建物にも地上権が成立するとしたら、Aは1億円のつもりで貸したのに、競売で回収できるのは、2千万円から3千万円程度、ということになりかねません。これはAの設定時の期待に真っ向から反します。Cは、抵当権が付いたときこの土地は更地だった、という前提で値を付けます。そこへ後出しで地上権が付いてくるなら、Cは当てが外れます。逆に、それを見越してCが安くしか入札しなければ、今度はAに回る配当が減ります。どちらに転んでも誰かが損をかぶる。だから、更地は更地のまま実行されるべきなんです。

設定者は建ててよい、ただし危険が残るの板。Bは所有者のままなので、抵当権を付けたあとも土地を使い、建物を建ててよい(使用収益権は設定者に残る)。ただし競売後、その建物は土地を使う権原を持てない=取り壊しの危険が残る。手当ては一括競売(389条)、別の回で扱う。 図:設定者は建ててよい、ただし危険が残るの板

  • Bは所有者のままなので、抵当権を付けたあとも土地を使い、建物を建ててよい(使用収益権は設定者に残る)
  • ただし競売後、その建物は土地を使う権原を持てない=取り壊しの危険が残る
  • 手当ては一括競売(389条)、別の回で扱う

抵当権を付けたあとでも、Bは建物を建ててかまいません。抵当権の入口の回で見たとおり、抵当権は、目的物を使う権利は設定者に残したまま、価値だけを押さえる権利です。Bは土地の所有者のままなので、そこに建物を建てるのは自由です。法定地上権が成立しない以上、この建物は競売後に土地を使う権原を持てません。取り壊しの危険が残ります。この危険への法律の手当てとして、一括競売という制度がありますが、中身は別の回で扱います。Aが抵当権を付けたときに更地として値踏みした、その前提どおりに実行されます。

承諾があっても、成立しない

承諾があった場合の板。同じく更地に抵当権を設定→ただし今度はAがあらかじめ「建ててよい」と承諾していた→その後Bが建築→実行。結論=それでも法定地上権は成立しない。 図:承諾があった場合の板

  • 同じく更地に抵当権を設定→ただし今度はAがあらかじめ「建ててよい」と承諾していた→その後Bが建築→実行
  • 結論=それでも法定地上権は成立しない

では、もし銀行があらかじめ「建ててもいいですよ」と言っていたら、結論は変わるでしょうか。実は、それでも成立しません。

判例最判昭和36年2月10日

承諾があった場合の法定地上権 ……本件建物の築造を予め承認した事実があつても、原判決認定の事情に照し本件抵当権は本件土地を更地として評価して設定されたことが明らかであるから、民法三八八条の適用を認むべきではなく、この点に関する原審の判断は正当である。

判決の理由は、この一文です。この事件の事情からすると、承諾があっても、Aが土地を更地として値踏みして抵当権を付けたこと自体は変わらない、というわけです。しかも、さっき見たとおり、Bは承諾が無くても、そもそも建ててよかったんでした。だから「建ててよい」という承諾は、土地の使い方を認めただけです。Aが土地を、地上権付きの安い土地として値踏みし直した、という意味までは持ちません。貸した額は、更地の値段を前提にしたままなんです。ここにもう1つ、別の角度からの説明を足しておきます。仮にA自身の利益は考えなくてよいとしても、法定地上権の成立を認めると、今度は登記簿を見て入札した買受人Cを害してしまいます。

AとBがどれだけ約束を交わしても、その約束は登記簿に現れません。買受人Cには、その約束の存在を知りようがないんです。当事者どうしの合意は、それに気づけない第三者を害してまで通用させることはできません。私的自治にも限界がある、という形でここは覚えておいてください。

未登記の建物があれば、成立する

未登記建物の板。抵当権設定当時、建物はすでに存在していたが、まだ保存登記されていなかった。結論=法定地上権は成立する。理由=抵当権者は融資の前に現地を調査するのが通常で、建物の存在は分かる。 図:未登記建物の板

  • 抵当権設定当時、建物はすでに存在していたが、まだ保存登記されていなかった
  • 結論=法定地上権は成立する
  • 理由=抵当権者は融資の前に現地を調査するのが通常で、建物の存在は分かる

逆に、抵当権を設定した時点で、建物はすでに建っていたけれど、まだ保存登記、つまり建物を建てたときに初めて持ち主の名前を登記簿に載せる登記だけが、済んでいなかった場合はどうでしょうか。

判例大判昭和14年12月19日/判旨の要旨

未登記の建物と法定地上権 抵当権設定当時、建物が未登記であっても、法定地上権は成立する。

ここは逆に、成立します。抵当権者は、お金を貸す前に、現地に行って土地の状態を調査するのが通常です。建物がそこに建っていれば、登記があろうとなかろうと、現地に行けば分かります。「不測の損害」にはあたりません。抵当権設定当時、要件①が求める「建物が存在すること」自体は、すでに満たされていたわけです。登記は要件①には要求されていません。前回の、抵当権の登記との先後で決まる対抗の話とは別物です。要件①が見ているのは、設定の時点で建物がそこに建っていたかどうか、という事実だけです。

対比の板。承諾の場面=買受人は登記簿しか見られない、承諾は登記簿に載らないから知りようがない。未登記建物の場面=抵当権者は融資前に現地を見て判断する、建物の存在は現地で分かる。誰が・何を見て判断するかが逆になっている。 図:対比の板

  • 承諾の場面=買受人は登記簿しか見られない、承諾は登記簿に載らないから知りようがない
  • 未登記建物の場面=抵当権者は融資前に現地を見て判断する、建物の存在は現地で分かる
  • 誰が・何を見て判断するかが逆になっている

ここで、さっきの承諾の場面と並べてみましょう。承諾の場面では、買受人は登記簿しか見られませんでした。承諾は登記簿に載らないから、買受人には分かりません。今度の場面では、抵当権者自身が、融資の前に現地を見て判断します。建物の存在は、現地に行けば分かります。この「誰が・何を見るか」という物差しを持っていれば、この2つの場面を混同しなくなります。

共同抵当の建て替え、判例が変わった論点

共同抵当の場面板。AはBの土地と建物の両方に抵当権(共同抵当)を持っていた。その建物が取り壊され、同じ土地の上に新しい建物が建てられた(新建物には抵当権なし)。その後、土地の抵当権が実行された。 図:共同抵当の場面板

  • AはBの土地と建物の両方に抵当権(共同抵当)を持っていた
  • その建物が取り壊され、同じ土地の上に新しい建物が建てられた(新建物には抵当権なし)
  • その後、土地の抵当権が実行された

最後に、もう少し複雑な場面を見ます。Aが、Bの土地と建物の両方に、1つの債権を担保するための抵当権を持っていたとします。これを共同抵当と呼びます。ここで、共同抵当の付いた建物が取り壊され、同じ土地の上に新しい建物が建てられました。新しい建物には、抵当権は付いていません。その後、土地の抵当権が実行されました。

判例大判昭和13年5月25日/判旨の要旨

個別価値考慮説(旧判例) 土地と建物に共同抵当が設定された後、建物が取り壊されて再築された場合でも、土地の抵当権の実行により法定地上権は成立する。

かつての判例は、成立すると考えていました。建物の抵当権は「地上権付きの建物」としての高い価値を、土地の抵当権は「地上権の負担が付いた、低い」土地としての価値を、それぞれ個別に把握している、という考え方です。建物の抵当権が取り壊しで消え、土地の抵当権だけが実行された以上、地上権が成立するのは当然だ、というわけです。これを個別価値考慮説と呼びます。

個別価値考慮説の数字板。更地なら1億円の土地。建物がある間、土地の抵当権がつかむのは地上権の負担付きの土地=2千万〜3千万円。残りの7千万〜8千万円分は、地上権とともに建物の抵当権の側がつかむ。建物が壊されると、建物の抵当権ごとこの分が消える。 図:個別価値考慮説の数字板

  • 更地なら1億円の土地
  • 建物がある間、土地の抵当権がつかむのは地上権の負担付きの土地=2千万〜3千万円
  • 残りの7千万〜8千万円分は、地上権とともに建物の抵当権の側がつかむ
  • 建物が壊されると、建物の抵当権ごとこの分が消える

さっきの数字で見てみます。更地なら1億円の土地です。上に建物がある間、土地の抵当権がつかんでいるのは、地上権の負担が付いた土地、つまり2千万円から3千万円ほどです。残りの7千万円から8千万円ほどは、地上権と一緒に、建物の抵当権の側がつかんでいます。ところが建物が壊されると、建物の抵当権ごと、その7千万円から8千万円分が消えてしまいます。この考え方のままだと、Bが建物を取り壊して建て直すだけで、Aが押さえていたはずの担保価値の一部が消えてしまいます。抵当権の対象からわざと外れた新しい建物のために地上権が成立するなら、Aは踏んだり蹴ったりです。この抜け道が使われる危険が、繰り返し指摘されるようになりました。

判例最判平成9年2月14日・民集51巻2号375頁

全体価値考慮説(現在の判例) 新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたとき等特段の事情のない限り、新建物のために法定地上権は成立しない。

全体価値考慮説の板。原則は不成立。ただし新建物が建った時点で、土地の抵当権者が新建物にも土地と同順位の共同抵当を設定し直してもらえたときなど、特段の事情があれば成立する。 図:全体価値考慮説の板

  • 原則は不成立
  • ただし新建物が建った時点で、土地の抵当権者が新建物にも土地と同順位の共同抵当を設定し直してもらえたときなど、特段の事情があれば成立する

いま読んだのが、今の判例です。土地と建物のセットで担保価値をひとまとめに見るので、全体価値考慮説と呼びます。原則は不成立、例外的に、新しい建物にもきちんと同じ順位で抵当権を設定し直してもらえた場合などに限って成立する、という組み立てです。この判例変更の理由を、さっきの値踏みの物差しで見てみましょう。Aは、共同抵当を設定した時点で、土地と建物をワンセットで評価しています。建物が存続している間は、その建物のために地上権が成立することも織り込み済みです。しかし、建物が取り壊されたら、Aは土地について、地上権の制約のない更地としての担保価値を確保しようとするのが、抵当権を設定した当事者の合理的な意思です。抵当権の設定されない新しい建物のために地上権の成立を認めると、Aは思わぬ不利益を受けます。建物を保護すべきだという要請にも一理ありますが、当事者の合理的な意思に反してまで、それを優先すべきとは言えません。

個別価値考慮説のままだと、建て替えという行為だけで、Aの押さえていた価値がこっそり抜け落ちてしまいます。全体価値考慮説は、その抜け道をふさぎました。例外の理由も同じ物差しで読めます。新しい建物にも同じ順位で抵当権を付け直せば、Aは土地と建物のセット、1億円分をもう一度まるごと押さえ直せます。だからその場合は、地上権を認めてもAは困りません。

4つの場面を1枚に整理する

4場面の比較表。更地の後の建築=設定時に建物なし・評価は更地・害される相手は銀行と買受人・不成立。承諾あり=設定時に建物なし・評価は更地(承諾は登記簿に載らない)・害される相手は買受人・不成立。未登記建物あり=設定時に建物あり・評価は現地調査込み・害される相手なし・成立。共同抵当の建替え=旧建物はセットで評価・害される相手は銀行・原則不成立。 図:4場面の比較表

  • 更地の後の建築=設定時に建物なし・評価は更地・害される相手は銀行と買受人・不成立
  • 承諾あり=設定時に建物なし・評価は更地(承諾は登記簿に載らない)・害される相手は買受人・不成立
  • 未登記建物あり=設定時に建物あり・評価は現地調査込み・害される相手なし・成立
  • 共同抵当の建替え=旧建物はセットで評価・害される相手は銀行・原則不成立

今日見た4つの場面を、1枚の表にまとめます。更地の後の建築は、設定当時に建物が無く、評価は更地としての価値、害される相手は抵当権者と買受人、結論は不成立です。承諾があった場合も、設定当時に建物は無く、評価はやはり更地のまま、害される相手は買受人、結論は不成立です。未登記の建物があった場合は、設定当時にすでに建物があり、評価には現地調査で建物の存在が織り込まれていて、誰も害さないので、結論は成立です。共同抵当の建て替えは、旧建物を含めてセットで評価されていたので、害される相手は抵当権者、結論は原則不成立です。

建物の有無そのものより、抵当権者がその時点で何を評価に織り込んでいたか、それによって誰の信頼が壊れるか、で結論が決まります。

今日の答えを、もう一度

まとめ板。冒頭のBの場合、更地に抵当権を設定した後で建てた家だから、法定地上権は成立しない。Cは土地を更地として買い受けたことになる。4つの場面を貫く物差し=抵当権者が設定時にその土地をどう評価していたか、で誰の信頼を壊すかが決まる。 図:まとめ板

  • 冒頭のBの場合、更地に抵当権を設定した後で建てた家だから、法定地上権は成立しない
  • Cは土地を更地として買い受けたことになる
  • 4つの場面を貫く物差し=抵当権者が設定時にその土地をどう評価していたか、で誰の信頼を壊すかが決まる

冒頭の問いに戻ります。Bは更地に抵当権を設定した後で家を建てました。だから、法定地上権は成立しません。Cは、土地を更地として買い受けたことになります。今日見た4つの場面は、すべて同じ1本の物差しで測れます。抵当権者が設定の時点で、その土地をどう評価していたか。それによって、誰の信頼を壊すことになるか。この物差しさえ持っていれば、場面が増えても迷いません。要件②は、設定当時、土地と建物の所有者が同一であること、です。

参照条文

  • 民法388条前段

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