抵当権の実行と法定地上権の趣旨
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第3章 担保物権 #123/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
家を取り壊されてしまうのか
図:冒頭の場面板
- Bは自分の土地に自分の家を建てて住んでいる
- 事業資金を銀行Aから借りるとき、土地にだけ抵当権を設定した
- 返済が滞り土地が競売にかけられ、Cが買い受けた
地上権を学んだ回の最後に、1つ約束をしました。当事者の意思表示によらず、法律上当然に成立する地上権があると話したのを、覚えていますか。今日がその回です。Bは自分の土地に自分の家を建てて住んでいます。事業資金を銀行Aから借りるとき、Bは土地にだけ抵当権を設定しました。返済が滞り、土地が競売にかけられ、Cが買い受けます。Cは「ここは私の土地です。家を取り壊して出て行ってください」と言えるでしょうか。先に答えを言っておきます。Cは家を取り壊せません。法律が、Bの家のために地上権があったものとみなすからです。今日はその中身を、なぜそんな”みなし”が必要なのかも含めて、競売の仕組みから順に見ていきます。
抵当権の実行、2つの方法
図:実行の2方法の板
- 担保不動産競売=不動産を売って、その代金から優先的に弁済を受ける方法
- 担保不動産収益執行=不動産を売らずに、賃料などの収益から弁済を受ける方法
- 371条の「不履行後の果実に及ぶ」を実際に取りにいく手続
ここまで抵当権は、使う権利は設定者に残したまま、価値だけを押さえる権利として見てきました。では、実際に返済が滞ったとき、その価値をどうやって取るのでしょうか。方法は2つあります。1つは、担保不動産競売です。不動産そのものを売って、その代金から優先的に弁済を受けます。もう1つは、担保不動産収益執行です。こちらは不動産を売らずに、そこから生まれる賃料などの収益から弁済を受けます。たとえば抵当権の付いた賃貸マンションなら、売らずに、毎月入る家賃から返してもらうのが収益執行です。371条は、不履行があった後は抵当不動産の果実に抵当権の効力が及ぶ、という条文でした。収益執行は、その果実を実際に取りにいく手続の1つです。もう1つの道が、物上代位で賃料債権を差し押さえる方法でしたね。
今日はこの先、話をもう1つの道、不動産そのものを売る担保不動産競売のほうに絞ります。収益執行の細部には立ち入りません。
実行の要件と手続の流れ
図:実行の要件と流れの板
- 要件=抵当権の存在・被担保債権の存在・履行遅滞(弁済期の到来)
- 流れ=抵当権者の申立て→開始決定(債務者に送達)→差押え→売却(入札)→代金納付(買受人が取得)→配当
競売を始めるための要件は3つです。抵当権が存在すること、被担保債権が存在すること、そして履行遅滞、つまり弁済期が来ているのに払われていないことです。抵当権者の申立てで始まります。1番抵当権者だけでなく、後順位の抵当権者にも申立ての権利があり、先順位者の承諾は要りません。申立てのあと、裁判所が開始決定を出します。この開始決定は債務者に送達されます。それから不動産が差し押さえられ、入札などの方法で売却されます。買受人が代金を納付した時点で、不動産の所有権は買受人に移ります。そして、複数の抵当権者がいれば、順位に従って配当が行われます。冒頭の場面なら、銀行Aが裁判所に申し立て、Bの土地が差し押さえられ、入札でCが買い受けて代金を納め、その代金がAに配当されます。
消除主義、買受人はきれいな所有権を得る
図:消除主義の板
- 競売による売却で、不動産の上の先取特権・使用収益をしない旨の定めのある質権・抵当権は消滅する
- 抵当権設定登記より後に対抗要件を備えた利用権も、その効力を失う
- 基準は抵当権者に対抗できるかどうか、つまり抵当権設定登記の先後
ここが本題への分かれ道です。競売で不動産が売却されると、その不動産の上に付いていた先取特権や、使用収益をしない旨の定めのある質権、そして抵当権は、売却によって消滅します。売却代金が被担保債権の額に満たなくても同じです。この仕組みを消除主義と呼びます。さらにもう1段広く働きます。抵当権に対抗できない利用権も、売却によって効力を失います。対抗要件とは、自分の権利を第三者にも主張するための備えで、土地を借りる権利なら登記などがそれに当たります。この備えが抵当権の設定登記より後になった利用権は、抵当権者に対抗できません。基準は、抵当権設定登記との先後です。
買受人の立場で考えてください。もし「知らない権利がまだ付いてくるかもしれない」と不安なら、誰も高い値段を付けて買おうとしません。売却で権利をきれいに消してしまえば、買受人は安心して買えます。高く売れれば、それだけ配当も増えますから、抵当権者にとっても、設定者にとっても得なんです。ところが、この消除主義が強力であるがゆえに、2つの問題が生まれます。1つは、土地の上に建っている建物はどうなるのか。もう1つは、そこに住んでいる賃借人はどうなるのか、という問題です。賃借人の問題は、また別の回でじっくり扱います。
実はその問いへの答えが、冒頭で予告した、法定地上権です。まず、条文を確認しましょう。
388条、全文で確認する
図:388条の板
- 前段=土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす
- 後段=地代は当事者の請求により裁判所が定める
条文民法388条
民法第388条 土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。
これが法定地上権の根拠条文です。前段を読みます。土地と、その上に建っている建物が同一の所有者に属している場合に、その土地か建物のどちらかに抵当権が設定され、その実行によって所有者が別々になったときは、その建物について地上権が設定されたものとみなす、とあります。誰かが契約で地上権を設定したわけではないのに、法律が「設定されたことにする」と言い切っています。ここが今日いちばん深く掘るところです。地代は、当事者の請求によって裁判所が定める、とだけ定めています。地代の具体的な決め方や、地上権の存続期間の中身には、別の回で立ち入ります。今日はこの後段の位置だけ確認しておいてください。なお、この388条は強行規定です。抵当権を設定する当事者どうしが特約で「法定地上権を成立させない」と決めても、その特約は効力を持ちません。この仕組みが守っているのは、当事者2人の都合ではなく、建物を壊さずに済ませるという社会全体の利益だからです。
なぜ法定地上権が必要か
図:別個の不動産と利用権の板
- 日本法では土地と建物は別個の不動産
- 他人の土地の上に建物を持つには、地上権や賃借権のような土地の利用権が要る
- 利用権が無ければ、建物は収去(取り壊し)を求められる
ここから、今日の本題です。なぜ、法律はこんな”みなし”を用意してまで、建物を守るのでしょうか。出発点は、日本法の1つの前提にあります。日本では、土地と建物は別個の不動産です。別個の不動産だからこそ、土地だけに、あるいは建物だけに抵当権を付けられますし、競売の結果、土地と建物の所有者が分かれることも起こり得ます。ここで、もう1つ大事な原則を思い出してください。他人の土地の上に建物を持つには、その土地を使う権利、つまり地上権や賃借権のような利用権が要ります。利用権が無ければ、建物は収去、つまり取り壊しを求められてしまいます。土地の持ち主からすれば、自分の土地の上に、権利も無く他人の建物が建っている状態だからです。
図:自己借地権が作れない理由の板
- 抵当権を設定する時点で、Bは土地も建物も両方所有している
- Bが自分の土地に自分のための地上権を設定しようとしても、所有権と地上権が同一人に帰属した瞬間、179条1項本文の混同で地上権は消滅する
- だから設定時に権原を用意できない
では、ここで1つ考えてみてください。Bは、抵当権を設定する時点で、土地も建物も両方持っています。だったら、将来に備えて「自分の土地に、自分の建物のための地上権を、あらかじめ設定しておく」ことはできないのでしょうか。物権の消滅を学んだ回を思い出してください。所有権と、他の物権が同一人に帰属したら、その物権はどうなりましたか?179条1項でしたね。他の物権のほうが消滅する、混同という仕組みでした。地上権というのは、他人の土地を使わせてもらう権利です。土地の持ち主と、それを使う人がいて、はじめて成り立つ関係です。たとえるなら、自分の右手が、自分の右手に向かって「貸してください」と言うようなものです。貸す側と借りる側が同じ1人なら、そもそも”貸し借り”という関係が成り立ちません。
Bが、自分の土地に自分のための地上権を設定しようとしても、その瞬間、所有権と地上権が同じBの手に帰属して、179条1項本文の混同で地上権は消えてしまいます。だから、自分の土地に自分のための地上権、いわゆる自己借地権は、原則として作れません。1つだけ例外があります。借地借家法15条です。他の人と共有的に地上権や賃借権を持つ場合に限って、自己借地権が認められます。単独で自分のためだけに持つことは、それでもできません。この例外の細部には立ち入りません。今日は、原則として自己借地権は作れない、という1点だけ押さえてください。
図:比較の板
- 設定当時、土地と建物の持ち主が別々=土地の持ち主と契約して借地権を用意できる
- 抵当権の登記より前に対抗要件を備えれば、競売の後も消えない
- 設定当時、土地も建物も同じ1人=混同で自分のための借地権は作れない
- 備える道が無いので、法律がみなす
比べてみましょう。もし抵当権を設定した当時、土地はBのもの、建物は別の人Eのものだったらどうでしょう。EはBと契約して、借地権を持てます。その借地権が抵当権の登記より前に対抗要件を備えていれば、さっきの消除主義の基準で、競売の後も消えません。Eには、自分で備える道があるんです。
図:必要性のまとめ板
- 設定の時点で、Bは建物のための権原をあらかじめ用意しておく方法が無い
- 何も手当てしなければ、実行のたびに建物は収去の危機にさらされる
- それは社会経済上の大きな損失
- だから法律が地上権を設定されたものとみなす
ここまでをつなげます。抵当権を設定する時点で、Bは土地と建物を両方持っています。将来、土地だけが競売にかけられるかもしれません。そのときのために、あらかじめ建物のための利用権を用意しておきたくても、混同のせいでそれができません。もし法律が何もしなければ、抵当権が実行されるたびに、土地の持ち主が変わり、建物は収去を求められることになります。建物を壊してしまうのは、社会経済上の大きな損失です。だから法律は、実行によって所有者が分かれた時点で、地上権が設定されたものとみなすことにしました。これが388条が「みなす」という強い言葉を使っている理由です。誰かの意思表示ではなく、法律が直接、地上権を発生させています。
要件4つの列挙
図:要件4つの板
388条の中身を、要件として4つに分けます。1つめ、抵当権を設定した当時、土地の上に建物が存在すること。2つめ、設定当時、土地と建物の所有者が同一であること。3つめ、土地または建物に抵当権が設定されたこと。4つめ、競売の結果、土地と建物の所有者が異なるに至ったこと。建物のほうに抵当権が付いた場合も、同じように成立します。建物にだけ抵当権が付いて、競売でCが建物を買ったときは、建物の新しい持ち主Cのために、Bの土地に地上権があったものとみなされます。地上権を得るのは、いつも建物の側です。やってみましょう。Bが土地に抵当権を設定する前から、その土地の上にはBの家が建っていました。1つめの要件を満たします。抵当権を設定した当時、土地も建物もBの所有でした。これで2つめも満たします。抵当権が付いたのは土地です。これで3つめも満たします。そして競売の結果、土地だけがCの所有になりました。4つめも満たします。
だからBのために法定地上権が成立し、Cは家を取り壊せません。ただ、これらの要件は、いつも今日の場面のようにきれいに揃うとは限りません。たとえば、更地に抵当権を設定した後で建物を建てた場合はどうか。抵当権を設定した後に土地や建物の所有者が変わった場合はどうか。同じ土地に2番目の抵当権が付いていた場合はどうか。土地や建物が共有だった場合はどうか。こうした場合に法定地上権が成立するかどうかは、要件ごとに1つずつ答えを出していく必要があります。
今日の答えを、もう一度
図:まとめ板
- Cは家を取り壊せない
- Bが土地と建物を両方持っていた時点で土地に抵当権が設定され、実行でCが土地だけを取得した=4要件を満たすので、法定地上権が成立する
- 必要性=土地と建物は別個の不動産で、自分の土地に自分のための地上権は混同で作れない、という2つの事実から出てくる必然
今日の骨格を振り返ります。冒頭の問いに戻ると、Cは家を取り壊せません。Bが土地と建物を両方持っていた時点で、土地に抵当権が設定され、実行によってCが土地だけを取得しました。4つの要件をすべて満たすので、Bのために法定地上権が成立します。契約で備える道が閉ざされているからこそ、法律が代わりに地上権を発生させます。これで、地上権の回に残した約束を、1つ回収できました。
参照条文
- 民法388条