法定地上権の要件②所有者の同一
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第3章 担保物権 #125/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
前回の約束を、思い出してください
図:冒頭の場面板
- EはBの土地を借りて家を建てている
- Eはその家に銀行Aのための抵当権を付けて融資を受けた
- その後、BがEに土地を売り、土地も建物もEのものになった
- 返済が滞り、建物の抵当権が実行されCが買い受けた
前回の最後に、要件②の名前だけ挙げて終わりました。覚えていますか。今日はその要件②を潰していきます。場面を見てください。Eは、Bの土地を借りて、そこに自分の家を建てています。Eは、その家に銀行Aのための抵当権を付けて、お金を借りました。その後、BがEに土地を売り、土地も建物もEのものになりました。返済が滞り、建物の抵当権が実行されて競売にかけられ、Cが買い受けます。先に答えを言っておきます。法定地上権は成立しません。でも、Cは建物を壊さなくていいんです。理由は、Eがもともと持っていた借地権が、消えずに残っているからです。今日は、この一見矛盾した結論を、順番に積み上げていきます。
要件②はどこにあるのか
図:388条前段の板
- 土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において
- 「同一の所有者に属する場合」に下線
条文民法388条前段
民法第388条前段 土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。
前に全文を確認した条文です。「同一の所有者に属する場合」、この一言が要件②の根拠です。前回と同じで、ここも解釈です。条文の組み立てでは、まず所有者が同一である状態があって、そこに抵当権が設定される、という順番になっています。だから、判断の基準時は「抵当権が設定されたとき」だと読み取られています。この基準時を、今日もずっと使い続けます。
持ち主が別々なら、法定地上権は要らない
図:前提の板
- 土地はB所有、建物はE所有
- EはBと契約して借地権(地上権または賃借権)を持っている
- 借地権が無ければ、Eはただの無権原の占有者で、法定地上権で救う対象にすら入らない
まず、設定当時からBが土地、Eが建物を持つ、別人所有の場面を考えます。この場合、EはBと契約して、借地権を持てます。地上権でも、賃借権でも構いません。その場合、Eはただ他人の土地の上に建物を持っているだけの、無権原の占有者です。法定地上権はそもそも建物を守るための制度なので、権原が最初から無い建物は、救う対象にすら入りません。ここから、抵当権がどちらに付いたかで、2つの場面に分けます。
図:場面①建物に抵当権の板
- Eの建物にAの抵当権を設定
- 抵当権は建物の従たる権利である借地権にも及ぶ(87条2項類推)
- 実行後、Cは建物と借地権をセットで取得する
場面①、建物にAの抵当権が付いた場合です。前に確認したとおり、建物の抵当権の効力は、Eが持つ借地権にも及びます。87条2項は「従物は、主物の処分に従う」という条文でした。借地権は物ではありませんが、この考え方を借りて、借地権を、建物に従う権利として扱います。借地権が付いてこなければ、競売で建物を買った人は、すぐに出ていけと言われてしまい、建物の値打ちが実現できないからです。だから、抵当権が実行されると、Cは建物の所有権と一緒に、借地権も手に入れます。建物を支える権利は、もう用意されているんです。
図:場面②土地に抵当権の板
- Bの土地にAの抵当権を設定
- Eの借地権が抵当権の設定登記より前に対抗要件を備えていれば、実行後もEはその借地権をA・Cに対抗できる
場面②、Bの土地にAの抵当権が付いた場合です。ここで大事なのは、Eの借地権が、いつ対抗要件を備えていたかです。賃借権なら、605条の登記か、借地借家法10条1項の、自分名義の建物の登記でも足ります。
条文民法605条
民法第605条 不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。
条文借地借家法10条1項
借地借家法第10条1項 借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。
Eの借地権が、Aの抵当権設定登記より前にこの対抗要件を備えていれば、実行の後も、EはA、そしてCに対して借地権を主張できます。設定当時から持ち主が別々なら、抵当権がどちらに付いていても、建物のための利用権は、契約の側ですでに用意できています。だから、法定地上権という法律の後付けの手当ては要りません。設定当時は別人所有だったけれど、そのあとで、同じ持ち主の物になったら結論は変わるか、次はそこを見ていきましょう。
後から同じ持ち主の物になっても、成立しない

判断時点は、いつも「抵当権設定当時」です。設定当時に別人所有だった以上、そのあとで同一人所有になっても、結論は変わりません。Eの建物にAの抵当権が設定された時点で、土地はB、建物はEの別人所有でした。その後、BがEに土地を売り、Eが土地・建物の両方の持ち主になりました。建物の抵当権が実行され、Cが買い受けます。今は同じ人の持ち物になっているのに、成立しないんですか。成立しません。もう1つ、逆の場面も見ておきます。

場面(b)です。Bの土地にAの抵当権が設定された時点で、土地はB、建物はE。Eの借地権は対抗要件も備えていました。その後、EがBに建物を売り、Bが土地・建物の両方の持ち主になりました。土地の抵当権が実行され、Cが買い受けます。どちらの場面も、結論は不成立です。
図:最判昭44・2・14の板
判例最判昭和44年2月14日
抵当権設定当時に別人所有だった場合の判例 本件のように、抵当権設定当時において土地および建物の所有者が各別である以上、その土地または建物に対する抵当権の実行による競落のさい、たまたま、右土地および建物の所有権が同一の者に帰していたとしても、民法三八八条の規定が適用または準用されるいわれはなく
この判決の結論は、この一文に尽きます。注目してほしいのは「たまたま」という言葉です。設定の後で起きた成り行きは、要件②の判断に入れない、ということです。言葉も確認します。「各別」は別々、「競落」は競売で買い受けること、「いわれはなく」は当てはめる理由が無い、という意味です。判決文自体は、なぜ適用されないかの理由までは書いていません。理由は、次に見ていきましょう。Aは、抵当権を設定した時点で、担保の値打ちを見積もっています。前回と同じく、更地なら1億円の土地で考えてみます。場面(b)なら、Aが見たのは借地権の負担が付いた土地です。たとえば、2千万円から3千万円ほどと値踏みして貸しています。場面(a)なら、Aが見たのは借地権ごとの建物で、残りの値打ちはこちらの側にあります。その後、たまたま持ち主が1人にまとまっても、Aが設定のときにした値踏みは変わりません。だから、法定地上権で後から手当てをする理由はありません。
設定当時にどう値踏みされたかが、ずっと基準になり続けます。成立しないなら、Cは建物を壊さなければならないんじゃないですか。そこが今日いちばん大事なところです。1つ、思い出してほしい条文があります。179条1項のただし書を、思い出してください。物権が消える回で見た条文です。物権が消えずに残るのは、その物や権利が、誰の権利の目的になっているときでしたか?第三者の権利の目的になっているとき、でした。ここでの「第三者」は、その物や権利の上に、自分の権利を乗せている人のことです。さっき605条などで見た、対抗できるかを争う相手の第三者とは、役回りが違います。今日は、その道具を使い切ります。
なぜ要らないのに、建物は守られるのか
図:179条1項の板
- 同一物について所有権及び他の物権が同一人に帰属したときは、当該他の物権は消滅する
- ただし、その物又は当該他の物権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない
条文民法179条1項
民法第179条1項 同一物について所有権及び他の物権が同一人に帰属したときは、当該他の物権は、消滅する。ただし、その物又は当該他の物権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。

まず、場面(a)です。EはBから土地を買って、土地所有権も持つに至りました。原則どおりなら、Eの借地権は、土地所有権と同じEの手にそろった瞬間、179条1項本文の混同で消えます。さっき見たとおり、抵当権は借地権にも及んでいます。Eの借地権には、Aの抵当権が乗っています。Eの借地権を消してしまうと、その上に乗っていたAの抵当権が、土台を失ってしまいます。だから、Eの借地権は、179条1項のただし書に当たって、消えません。逆に、EがAにお金を全部返して、抵当権が消えた後で土地を買っていたら、どうでしょう。
その場合は本文どおり、借地権は混同で消えます。土地も建物もEの物なので、困る人もいません。

場面(b)も同じ考え方です。BはEから建物を買い、そのとき、建物に従う借地権も一緒に受け取ります。この借地権も、土地がAの抵当権の目的になっている以上、ただし書に当たって、消えません。ただ、ここで残す意味は、場面(a)と少し違います。借地権が消えると、Aは2千万円から3千万円と値踏みした土地を、1億円の更地として売れてしまいます。Aは最初から借地権の負担付きで値踏みしていたので、残してもAは困りません。消せば、建物だけが足場を失います。だから、残す意味があるんです。どちらの場面も、借地権は消えません。場面(a)を、イメージで言うと、EはBから傘を借りていて、そこにAがキーホルダーを掛けているようなものです。Eがその傘を自分の物として買い取っても、キーホルダーごと消してしまうと、Aが困ります。だから、傘に「借り物」という扱いそのものは、Aのキーホルダーが掛かっている間、残り続けるんです。
図:地上権と賃借権の板
- 借地権が地上権なら179条1項がそのまま直接適用される
- 賃借権は所有権・他の物権の混同を定めた179条1項の対象に入らないため、類推適用で同じ結論を導く
賃借権の場合は、少し違います。179条1項は「所有権及び他の物権」の混同を定めた条文なので、賃借権という債権は、そのままでは対象に入りません。残す意味は、借地権が地上権でも賃借権でも変わりません。消せばAが困る、あるいはAに思わぬ得をさせる、という事情は、物権か債権かで違わないからです。ここは、類推適用という形で同じ結論を導きます。
図:179条1項の本文とただし書の板
- 本文は自分の土地に自分のための地上権を作れないという形で自己借地権を封じる
- ただし書は第三者の権利の目的であるときに他の物権を残し、借地権を生かす
もう1つ、思い出してほしいことがあります。前々回、法定地上権がなぜ必要かを考えたとき、179条1項の「本文」が出てきました。あのときは、混同の本文が、自己借地権を封じる方向に働きました。今日は、同じ条文の「ただし書」が、借地権を生かす方向に働いています。法定地上権は成立しませんが、Cは建物を壊さなくて済みます。Eがもともと持っていた借地権は、混同で消えずに残っていて、建物の競売とともにCへ移るからです。
3つの場面を1枚に
図:3行の比較表
- 設定当時「別人所有・建物に抵当」=建物を支える権利は約定の借地権(セットで移転)・結論は不要
- 「別人所有・土地に抵当」=建物を支える権利は約定の借地権(対抗要件で存続)・結論は不要
- 「別人所有→設定後に同一人所有」=建物を支える権利は混同を免れた借地権・結論は不成立
今日見た3つの場面を、1枚の表にまとめます。別人所有で建物に抵当権が付いた場合、建物を支える権利は約定、つまり契約で結んだ借地権で、抵当権とセットでCに移ります。結論は不要です。別人所有で土地に抵当権が付いた場合も、建物を支える権利は約定の借地権で、対抗要件のおかげで生き残ります。結論は不要です。設定後に同一人所有になった場合は、建物を支える権利は、混同を免れた借地権です。結論は不成立です。法定地上権は、利用権の無い建物を救うための後付けの手当てです。設定当時すでに、あるいは混同の例外によって、利用権があるなら、その手当ては要りません。
今日の答えを、もう一度
図:まとめ板
- 冒頭のEの場合、建物に抵当権が設定された当時、土地はB、建物はEの別人所有だった
- その後EがBから土地を買い取って同一人所有になっても、法定地上権は成立しない
- それでもCは建物を壊さなくてよい
- Eの借地権は179条1項ただし書で混同を免れ、競売とともにCへ移る
冒頭の問いに戻ります。Aが抵当権の設定を受けたとき、土地はB、建物はEの別人所有でした。その後、EがBから土地を買い取って、同一人所有になりましたが、法定地上権は成立しません。Aの抵当権は、Eの借地権にも及んでいました。Eが土地を買った時点で、その借地権は179条1項ただし書により、混同で消えずに残ります。競売の結果、Cは建物と一緒に、その借地権を手に入れます。今日押さえてほしいのは1点だけです。要件②は、いつも「抵当権設定当時」で判断します。今日は抵当権が1つの場面でした。
参照条文
- 民法388条前段
- 民法605条
- 借地借家法10条1項
- 民法179条1項