民法ゼロから民法#128

明渡し猶予と占有屋

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第3章 担保物権 #128/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

残してきた2つの約束を、回収します

冒頭の場面板。B所有の建物にAの抵当権設定登記。Bはこの建物をDに賃貸し、Dが賃借権の対抗要件を備えたのは登記より後だった。返済が滞り競売にかけられ、Cが買い受けた。Dは今日、Cに明け渡さなければならないか。 図:冒頭の場面板

  • B所有の建物にAの抵当権設定登記
  • Bはこの建物をDに賃貸し、Dが賃借権の対抗要件を備えたのは登記より後だった
  • 返済が滞り競売にかけられ、Cが買い受けた
  • Dは今日、Cに明け渡さなければならないか

抵当権の実行と消除主義の話をしたとき、賃借人の問題は、また別の回でじっくり扱うと言いました。前回の最後には、抵当に入った建物に、実は住んでいる人がいたらどうなるでしょうか、という宿題も残しました。今日は、その2つをまとめて回収します。Bが所有する建物に、銀行Aの抵当権が設定登記されています。Bはこの建物をDに貸していました。Dが賃借権の対抗要件を備えたのは、Aの抵当権設定登記より後です。返済が滞り、建物が競売にかけられ、Cが買い受けました。先に答えを言っておきます。Dは今日は出ていかなくていいんです。買受けから6か月間は、明け渡さなくてよいという制度があるからです。ところが、賃借人ではなく、競売そのものを妨害する目的で居座る占有屋が相手だと、話はまったく違ってきます。

Dは、なぜ対抗できないのか

消除主義の1行復習板。抵当権に対抗できない利用権は、売却によって効力を失う。基準は抵当権設定登記との先後。Dの対抗要件具備はAの登記より後なので、Dは対抗できない。 図:消除主義の1行復習板

  • 抵当権に対抗できない利用権は、売却によって効力を失う
  • 基準は抵当権設定登記との先後
  • Dの対抗要件具備はAの登記より後なので、Dは対抗できない

消除主義のところで確認した基準を思い出してください。抵当権に対抗できない利用権は、売却によって効力を失います。基準は、抵当権設定登記との先後です。対抗要件は、自分の権利を、契約の相手以外の人にも言えるようにするための条件でした。建物を借りた人なら、賃借権を登記していなくても、建物の引渡しを受けた、つまり鍵を受け取って住み始めた時点で、この条件を備えます。借地借家法31条のルールです。Dが住み始めたのは、Aが抵当権を登記したあとだった、ということです。だからDは、買受人Cに賃借権を対抗できません。原則どおりに考えると、Dは競売の日にすぐ出ていかなければならないことになります。

だから民法は、対抗できない賃借人のために、2つの緩和策を用意しています。まず1つ目、395条を見てみましょう。

395条、6か月は明け渡さなくていい

条文民法395条1項

民法第395条第1項 抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。一 競売手続の開始前から使用又は収益をする者 二 強制管理又は担保不動産収益執行の管理人が競売手続の開始後にした賃貸借により使用又は収益をする者

395条1項の板。抵当建物使用者=①競売手続の開始前から使用収益する者、②強制管理・担保不動産収益執行の管理人が開始後にした賃貸借による使用収益者。買受けの時から6か月は引き渡さなくてよい。Dは①に当たる。 図:395条1項の板

  • 抵当建物使用者=①競売手続の開始前から使用収益する者、②強制管理・担保不動産収益執行の管理人が開始後にした賃貸借による使用収益者
  • 買受けの時から6か月は引き渡さなくてよい
  • Dは①に当たる

条文を確認します。抵当権に対抗できない賃貸借で建物を使っている人のうち、条文が指定する2種類の人は、買受人の買受けの時から6か月を経過するまで、建物を引き渡さなくてよいとされています。1つ目は、競売手続が始まる前から、建物を使ったり収益を上げたりしている人です。2つ目は、競売手続が始まったあとに、強制管理や担保不動産収益執行という手続で選ばれた管理人が、新しく結んだ賃貸借で使っている人です。強制管理も担保不動産収益執行も、建物を売らずに、裁判所に選ばれた管理人が建物を貸して、その家賃を返済に回す手続です。Dは、競売が始まる前から住んでいたので、1つ目に当たります。

1つ目には当たりません。たとえば、手続が始まったあとに、BがFに部屋を貸し、Fが住み始めたとします。Fには、6か月の猶予はありません。なぜ、始まる前か後かで線を引くんですか。手続が始まってから入り込む人の中には、明渡しを引き延ばすために、わざと入ってくる人がいるからです。前から普通に暮らしていたDは守り、始まってから入ってきたFは守らない。線はそこに引かれています。ただし、注意してほしいことが1つあります。猶予されるのは明渡しだけで、Bとの賃貸借契約そのものが復活するわけではありません。あくまで、追い出されるまでの時間が延びるだけです。

CがDの大家さんになるわけではありません。だから、この6か月の間にDがCに払うお金は、家賃ではなく、建物を使わせてもらったことの対価です。この対価が、次の2項で効いてきます。

タダで6か月、住めるわけではありません

条文民法395条2項

民法第395条第2項 前項の規定は、買受人の買受けの時より後に同項の建物の使用をしたことの対価について、買受人が抵当建物使用者に対し相当の期間を定めてその一箇月分以上の支払の催告をし、その相当の期間内に履行がない場合には、適用しない。

395条2項の板。買受け後の使用の対価につき、買受人が相当期間を定めて1か月分以上の支払を催告し、その期間内に履行がなければ、猶予は適用されない。家賃相当額を払わなければ猶予は打ち切られる。 図:395条2項の板

  • 買受け後の使用の対価につき、買受人が相当期間を定めて1か月分以上の支払を催告し、その期間内に履行がなければ、猶予は適用されない
  • 家賃相当額を払わなければ猶予は打ち切られる

そこで働くのが、2項です。買受人は、買受け後にDが建物を使ったことの対価、つまり家賃相当額について、1か月分以上の支払いを、期間を決めて催告できます。その期間内にDが払わなければ、1項の猶予は適用されなくなります。たとえば、Bに毎月10万円の家賃を払っていたなら、買受けの後は、それと同じくらいの額をCに払うことになります。Cは代金を払って建物を手に入れたのに、6か月もタダで使われたら、その分をまるごと損します。2項は、その損を防ぐ仕組みです。つまり、395条は、賃借人をただ甘やかす制度ではなく、家賃相当額を払い続けることを条件に、明渡しまでの時間を稼がせる制度なんです。

なぜこの制度があるのか

趣旨と経緯の板。趣旨=賃借人保護と買受人の利益の調和。かつては短期賃貸借保護制度(旧395条)があったが、執行妨害目的で濫用されたため2003年改正で廃止し、現行395条(明渡猶予)に置き換えられた。 図:趣旨と経緯の板

  • 趣旨=賃借人保護と買受人の利益の調和
  • かつては短期賃貸借保護制度(旧395条)があったが、執行妨害目的で濫用されたため2003年改正で廃止し、現行395条(明渡猶予)に置き換えられた

この制度の趣旨は、賃借人の保護と、買受人の利益との調和です。完全に対抗させてしまうと、抵当権者や買受人の期待を裏切りますし、逆に即時の明渡しを求めるのは、賃借人には酷です。だから、期間を区切って折り合いをつけています。かつては、短期の賃貸借を保護する制度がありました。ところが、この制度が競売の妨害に濫用されるようになり、2003年の改正で廃止され、今の395条に置き換えられました。たとえば返済が危なくなったころに、形だけの短い賃貸借を結んで人を住まわせ、競売で買った人に、立ち退いてほしければお金を払え、と迫る。こうして居座る例が後を絶たなかったんです。居座る占有屋の問題は、今日の後半でもう一度出てきます。覚えるのは、現行のこの規定だけで大丈夫です。

387条、全員が同意すれば恒久的に対抗できる

条文民法387条1項

民法第387条第1項 登記をした賃貸借は、その登記前に登記をした抵当権を有するすべての者が同意をし、かつ、その同意の登記があるときは、その同意をした抵当権者に対抗することができる。

条文民法387条2項

民法第387条第2項 抵当権者が前項の同意をするには、その抵当権を目的とする権利を有する者その他抵当権者の同意によって不利益を受けるべき者の承諾を得なければならない。

387条の板。登記した賃貸借は、登記前に登記した抵当権者全員が同意し、かつ同意の登記があれば、その同意した抵当権者に対抗できる。2項=抵当権者が同意するには、その抵当権を目的とする権利者や不利益を受ける者の承諾が要る。 図:387条の板

  • 登記した賃貸借は、登記前に登記した抵当権者全員が同意し、かつ同意の登記があれば、その同意した抵当権者に対抗できる
  • 2項=抵当権者が同意するには、その抵当権を目的とする権利者や不利益を受ける者の承諾が要る

395条とは別に、もう1つ道があります。387条です。賃貸借を登記していて、その登記より前に登記していた抵当権者が全員同意し、その同意まで登記していれば、その同意した抵当権者に対して、賃貸借を対抗できます。同意したほうが得な場面があるんです。たとえば、人気のお店が長く入っている店舗ビルなら、お店を追い出して売るより、お店が入ったまま売ったほうが、毎月の家賃が見込める分、高く売れることがあります。そういうとき、抵当権者は同意します。この道を通れば、恒久的に対抗できるようになります。ただし、条件は重いです。抵当権者が同意するには、その抵当権を目的とする権利を持つ人や、同意によって不利益を受ける人の承諾も要ります。ただ、同意すれば必ず高く売れるとは限らず、かえって建物の値段が下がることもあります。そうなると、Aの抵当権をあてにしている人、たとえばAの抵当権そのものを自分の貸金の担保にとっている人の取り分が減りかねない。だから、その人たちの承諾も要るんです。

これで賃借人は完全に守られたと思いますか

対比板。395条=法律上当然に生じる、賃借人側の手続不要、6か月だけの一時的な保護。387条=抵当権者全員の同意+同意の登記という重い手続、しかし恒久的に対抗できる。387条は全員の同意を得るのが難しく、実務で使われる場面は限られる。 図:対比板

  • 395条=法律上当然に生じる、賃借人側の手続不要、6か月だけの一時的な保護
  • 387条=抵当権者全員の同意+同意の登記という重い手続、しかし恒久的に対抗できる
  • 387条は全員の同意を得るのが難しく、実務で使われる場面は限られる

ここで2つを並べてみます。395条は、賃借人が何もしなくても法律上当然に生まれる保護ですが、6か月だけの一時的なものです。387条は、全員の同意と登記という重い手続を踏めば、恒久的に対抗できます。実際には、そうとも言い切れません。387条は、先に登記している抵当権者が2人も3人もいれば、その全員から同意を取り付けなければなりません。1人でも同意していない抵当権者が残っていれば、その人が競売を申し立てたとたんに賃借権は消えてしまい、恒久的とは言えないからです。1人でも拒めば使えないので、実務で使われる場面は限られています。

丸暗記するのではなく、一時的な保護と恒久的な保護という、2つの役割の違いとして押さえてください。

賃借人ではない、もう1つの相手

占有屋への転換板。抵当権は非占有担保物権であり、抵当権者は原則、設定者による使用収益に干渉できない。しかし対抗力の無い占有者の中には、賃借人ではなく、競売手続を妨害する目的で居座る占有屋がいる。買受け希望者が入札をためらい、競売が進まなくなる。 図:占有屋への転換板

  • 抵当権は非占有担保物権であり、抵当権者は原則、設定者による使用収益に干渉できない
  • しかし対抗力の無い占有者の中には、賃借人ではなく、競売手続を妨害する目的で居座る占有屋がいる
  • 買受け希望者が入札をためらい、競売が進まなくなる

ここで、話を切り替えます。今日の最初に確認した、消除主義の基準を覚えていますか?抵当権設定登記より後に対抗要件を備えた利用権は、対抗できない、というものでした。ただし、対抗できない占有者は、Dのような賃借人だけとは限りません。中には、賃借人ですらなく、競売の手続そのものを妨害する目的で居座る不法占有者がいます。占有屋と呼ばれる存在です。狙いは、居座ることで立ち退きのお金を払わせたり、買い手を遠ざけて安く手に入れたりすることです。さっきの短期賃貸借の濫用と同じ発想です。占有屋がいると分かった不動産には、誰も高い値段を付けて入札しようとしません。買受け希望者が尻込みして、競売そのものが進まなくなってしまうんです。

抵当権は、不動産の占有を伴わない担保物権です。だから抵当権者は、原則として、所有者による使用収益に干渉できません。ここで一度、行き詰まります。この行き詰まりを破ったのが、最高裁の大法廷判決です。

抵当権者が持つ、担保価値維持請求権

判決の事案を単純化した関係図。B(所有者・設定者)の建物にA(抵当権者)が抵当権を持ち、Bへの貸金債権を担保している。Hが権原なく建物を占有し、買受け希望者が入札をためらい競売が進まない。 図:判決の事案を単純化した関係図

  • B(所有者・設定者)の建物にA(抵当権者)が抵当権を持ち、Bへの貸金債権を担保している
  • Hが権原なく建物を占有し、買受け希望者が入札をためらい競売が進まない

判決の事案を単純化して説明します。Bが所有する建物にAの抵当権があり、Bへの貸金を担保しています。Hが、権原なくこの建物を占有していて、買受け希望者が入札をためらい、競売が進みません。Aは、この状況にどう対処できるでしょうか。

判例最大判平11・11・24 民集53巻8号1899頁

大法廷判決、担保価値維持請求権と代位行使 抵当権は、競売手続において実現される抵当不動産の交換価値から他の債権者に優先して被担保債権の弁済を受けることを内容とする物権であり、不動産の占有を抵当権者に移すことなく設定され、抵当権者は、原則として、抵当不動産の所有者が行う抵当不動産の使用又は収益について干渉することはできない。しかしながら、第三者が抵当不動産を不法占有することにより、競売手続の進行が害され適正な価額よりも売却価額が下落するおそれがあるなど、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、これを抵当権に対する侵害と評価することを妨げるものではない。そして、抵当不動産の所有者は、抵当権に対する侵害が生じないよう抵当不動産を適切に維持管理することが予定されているものということができる。したがって、右状態があるときは、抵当権の効力として、抵当権者は、抵当不動産の所有者に対し、その有する権利を適切に行使するなどして右状態を是正し抵当不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権を有するというべきである。そうすると、抵当権者は、右請求権を保全する必要があるときは、民法四二三条の法意に従い、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができると解するのが相当である。

カードの「右状態」「右請求権」の「右」は、判決文の古い言い回しで、前に書いた、という意味です。この判決の判断は、大きく二つです。一つ目は、AがBの権利を借りてHを追い出せるか。二つ目は、追い出したあと、建物を誰に渡させるか。一つ目はさらに、侵害と言えるか、AはBに何を求められるか、どの条文の考え方を借りるか、の3段で進みます。出発点は、さっき確認した、干渉できないという原則です。判決は続けます。占有屋のような第三者の不法占有によって、競売の進行が害され、交換価値の実現が妨げられ、優先弁済請求権の行使が困難になるような状態があるなら、それを抵当権に対する侵害と評価できる、としました。

直接、占有を奪われたわけではなくても、担保としての価値が発揮できなくなっている以上、侵害と評価する、ということです。そして、所有者Bは、抵当権に対する侵害が生じないよう、不動産を適切に維持管理することが予定されている、と判決は言います。担保に差し出した以上、その価値を損なわないように管理する立場にある、ということです。抵当権者は、所有者に対し、その状態を是正し、不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権を持ちます。これを、担保価値を維持するための請求権と呼びます。Hを追い出すこと自体は、本来はBが自分ですればいい話です。所有者Bは、所有権に基づいて、Hに出て行けと言えます。ですが、返済に行き詰まったBには、もう建物を守る気がないことが多いんです。放っておいて困るのは、売却代金が減るAのほうです。

本来Bがすべき片付けを、担保の価値を守るために、Aが代わりにやる。ただしAには、自分の名前でHに出て行けと言う根拠がありません。抵当権は占有を伴わないからです。そこで、Bが持っている権利を借りる、という発想になります。

条文民法423条1項

民法第423条第1項 債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。

423条1項の対比板。本来の債権者代位権は、自己の債権(貸したお金など)を保全するために使う制度。今回、Aが保全しようとしているのは貸金債権そのものではなく、いま確認した担保価値維持請求権である。だから判決は「423条」ではなく「423条の法意」という言い方をしている。 図:423条1項の対比板

  • 本来の債権者代位権は、自己の債権(貸したお金など)を保全するために使う制度
  • 今回、Aが保全しようとしているのは貸金債権そのものではなく、いま確認した担保価値維持請求権である
  • だから判決は「423条」ではなく「423条の法意」という言い方をしている

ここで、いったん別の条文を確認します。423条1項です。本来この制度は、お金を貸した人が、自分の貸金債権を守るために、借り主の権利を代わりに行使する制度です。担保物権のところで見た物上代位とは、名前は似ていますが別の仕組みです。物上代位は抵当権が形を変えた価値に及ぶ話、こちらは他人の権利を代わりに行使する話です。だから判決は、423条をそのまま適用するとは言わず、423条の法意に従う、という言い方をしています。423条という制度の考え方だけを借りて、担保価値維持請求権を保全するために、Bが持つ妨害排除請求権を、Aが代わりに行使できる、と結論づけたんです。条文にあった被代位権利というのは、この、代わりに行使される側の権利のことで、今回なら、Bの妨害排除請求権がそれにあたります。この代位行使の要件そのものの細かい話は、別の回で扱います。

これが、要旨第一の中身です。ただし、この道には限界があります。Aが借りられるのは、Bが持っている権利だけです。もしHが、Bから正式に部屋を借りて住んでいる人だったら、B自身がHを追い出せないので、Aが借りる権利もありません。この判決が相手にしたのは、占有する権利をまったく持たない不法占有者です。

直接、自分に明け渡させることもできる

判例最大判平11・11・24 民集53巻8号1899頁

大法廷判決、抵当権者への直接引渡し 被上告人は、所有者であるEに対して本件不動産の交換価値の実現を妨げ被上告人の優先弁済請求権の行使を困難とさせている状態を是正するよう求める請求権を有するから、右請求権を保全するため、Eの上告人らに対する妨害排除請求権を代位行使し、Eのために本件建物を管理することを目的として、上告人らに対し、直接被上告人に本件建物を明け渡すよう求めることができるものというべきである。

直接引渡しの板。代位行使の効果は所有者への引渡しに限られない。この事案で判決は、抵当権者は、所有者のために建物を管理する目的で、不法占有者に、自分へ直接明け渡すよう求めることができる、とした。 図:直接引渡しの板

  • 代位行使の効果は所有者への引渡しに限られない
  • この事案で判決は、抵当権者は、所有者のために建物を管理する目的で、不法占有者に、自分へ直接明け渡すよう求めることができる、とした

カードの被上告人が抵当権者A、Eが所有者B、上告人らが占有屋Hにあたります。代位行使しても、明け渡す先はBだと考えるのが普通です。ですが判決は、この事件で、もう1歩踏み込みました。抵当権者は、所有者のために建物を管理する目的で、不法占有者に対して、直接自分に明け渡すよう求めることができる、としたんです。占有屋を追い出した意味を保つために、Aが直接建物を引き取れる道まで、この判決は認めました。これが要旨第二です。

今日の判断を、1枚の地図に

まとめ板。対抗できない占有者への対応の地図。賃借人向け=395条(6か月の明渡猶予)・387条(全員の同意と登記で恒久的に対抗)。不法占有者(占有屋)向け=担保価値維持請求権を保全するため、423条の法意に従い、所有者の妨害排除請求権を代位行使(場合により直接引渡し)。 図:まとめ板

  • 対抗できない占有者への対応の地図
  • 賃借人向け=395条(6か月の明渡猶予)・387条(全員の同意と登記で恒久的に対抗)
  • 不法占有者(占有屋)向け=担保価値維持請求権を保全するため、423条の法意に従い、所有者の妨害排除請求権を代位行使(場合により直接引渡し)

冒頭の問いに戻ります。Dは、Aの抵当権に対抗できませんが、395条によって、Cの買受けから6か月間は明け渡さなくてよい、という結論でした。もし387条の要件まで満たしていれば、恒久的に対抗できる道もあります。今日の地図をまとめます。対抗できない占有者への対応は、相手が賃借人か不法占有者かで、まったく別の道になります。賃借人には395条と387条、不法占有者には、代位行使という道です。ただし、今日見た代位行使は、あくまで所有者の権利を借りる形でした。

参照条文

  • 民法395条1項
  • 民法395条2項
  • 民法387条1項
  • 民法387条2項
  • 民法423条1項

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