抵当権に基づく妨害排除請求
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第3章 担保物権 #129/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
Bの権利を借りられないとき
図:冒頭の場面板
- B所有の建物にAの抵当権設定登記
- その後、競売妨害の目的で、Bが暴力団構成員Cにこの建物を賃貸し、Cが占有している
- Cは正式な賃借人であり、不法占有者ではない
- Aは、抵当権に基づいて、Cに明渡しを求められるか
前回、抵当権者Aが、所有者Bの権利を借りて、不法占有者Hを追い出す道を確認しました。今日は、その借り方が使えない相手を見ます。Bが所有する建物に、Aの抵当権が設定登記されています。ところが今回Bは、競売を邪魔する目的で、暴力団の構成員Cにこの建物を貸し、Cが住み着いています。Cは、前回のHと違って、Bから正式に部屋を借りている人です。Bが追い出せないなら、Aは、Bの権利を借りることもできません。今日のテーマは、この行き詰まりを、Aがどう突破するかです。
代位構成は、なぜCに届かないのか
図:代位構成の限界板
- 前回の代位行使は、Bの妨害排除請求権を423条の法意によりAが代わりに行使する構成
- 借りられるのはBが実際に持っている権利だけ
- CはBから適法に部屋を借りているため、B自身がCに出て行けと言う権利を持たない
- したがってAが借りる権利も存在しない
前回の道を思い出してください。Aは、Bが持つ妨害排除請求権を、423条の法意に従って、代わりに行使していました。Bの権利を借りて使うので、これを代位構成と呼んでおきます。借りられるのは、あくまでBが実際に持っている権利だけです。ところが今回のCは、Bから適法に部屋を借りている人です。B自身、Cに出て行けと言う権利を持っていません。代位構成は、ここで壁にぶつかります。では、Aには、もう打つ手がないのでしょうか。ここから、判例は発想を変えます。Bの権利を借りるのではなく、Aが自分自身の権利として動けないか、という方向です。
占有そのものが、抵当権への侵害になるとき
図:抵当権侵害の評価板
- 抵当不動産の所有者は、抵当不動産を使用又は収益するにあたり、抵当不動産を適切に維持管理することが予定されている
- 競売手続を妨害するような占有権原の設定は許されない
- 要件①占有権原の設定に競売妨害目的があること/要件②その占有により交換価値の実現が妨げられ優先弁済請求権の行使が困難な状態にあること
- 両方そろって初めて抵当権に対する侵害と評価できる
抵当権は占有を伴わない担保物権ですから、普通に考えると、Bが誰に部屋を貸しても、Aは口を出せないはずです。この原則を、判例はどう乗り越えたのか。判決は、こう考えます。抵当不動産の所有者は、その不動産を使ったり収益を上げたりするにあたって、抵当不動産を適切に維持管理することが予定されている。だから、競売手続を妨害するような占有権原の設定は、そもそも許されない。普通に部屋を貸しているだけなら、Bの自由です。ただ、Bにあるのは、担保の価値を保ちながら使う自由であって、競売を邪魔するために貸す自由ではありません。Aが口を出せるのは、①その占有権原の設定に、競売手続を妨害する目的が認められ、②その占有によって、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、Aの優先弁済請求権の行使が困難になっているような状態があるとき、この2つがそろったときだけです。
抵当権の入門の回で見たとおり、交換価値は売ったらいくらかという価値で、Aはその代金から他の債権者より先に回収できます。ところが、Cのような人が住み着いた建物は、買い手に敬遠され、競売で値がつかなかったり、ずっと安くなったりします。Aが先に回収できるはずの代金そのものがしぼんで、回収が危うくなる。これが②の状態です。目的だけなら、まだBの自由の範囲内かもしれません。逆に、たまたま実害が出ていても、目的がなければ単なる不運です。①と②が両方そろって初めて、これは単なる賃貸ではなく、抵当権そのものへの侵害だと評価できます。
図:境界の板
- 妨害目的の有無で分かれる2人を並べる
- D=抵当権設定登記の後に相場の家賃で借りて住む賃借人(目的は住むこと=①に当たらない=競売前に排除できない。買受人には対抗できない)
- C=競売の直前に、相場よりずっと安い家賃・長期間の契約で住まわせた占有者(買い手を遠ざける目的=①に当たる)
- 見るのは契約書の有無ではなく、何のために結ばれたか
具体的に並べてみましょう。前回のDのように、Aの登記の後に、相場の家賃で部屋を借りて普通に暮らしている人がいたとします。Dは買受人には対抗できませんが、借りた目的は住むことだけで、①に当たりません。だから競売の前に、AがDを追い出すことはできません。これに対して、返済が危なくなったBが、競売の直前に、Cと、相場よりずっと安い家賃で長い期間の契約を結び、住まわせたとします。契約書はあっても、中身は、買い手を遠ざけて担保の価値を壊すためのものです。こちらは①に当たります。見るのは、契約書があるかどうかではなく、その契約が何のために結ばれたかです。
判例最判平17・3・10 民集59巻2号356頁
占有権原がある占有者への妨害排除 抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者についても、その占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ、その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、当該占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、上記状態の排除を求めることができるものというべきである。なぜなら、抵当不動産の所有者は、抵当不動産を使用又は収益するに当たり、抵当不動産を適切に維持管理することが予定されており、抵当権の実行としての競売手続を妨害するような占有権原を設定することは許されないからである。
この判決の意味は、Aが、Bの権利を借りるのではなく、Aの抵当権そのものの効力として、妨害排除を求められる、というところにあります。代位構成に対して、これを直接構成と呼びます。占有権原を持っていることが、関係ないわけではありません。占有権原がある相手なら、1つめの妨害目的と、2つめの行使困難の両方が要ります。その2つがそろえば、権原があっても排除できます。
⭐ 論文で書く規範:【論文で書く定義・規範】抵当権に基づく妨害排除請求の要件 抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者についても、①その占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ、②その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、当該占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求をすることができる。なお、占有権原が全く無い不法占有の場合は、①の要件は不要である。 (規範(最判平17・3・10))
前回の最後に残した問いでもありますね。占有権原の設定という事実自体が無いので、①は端から問題になりません。②の状態、つまり優先弁済請求権の行使が困難になっているかどうかだけで判断します。前回の判決が抵当権への侵害と評価したのも、この②の状態でした。
直接、自分に明け渡させることもできる
図:直接引渡しの板
- 抵当権者が妨害排除請求権を行使するにあたり、所有者において抵当権への侵害が生じないように不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には、抵当権者は、占有者に対し、直接自己への明渡しを求めることができる
- 前回の代位行使の事案と同じ理由づけ
妨害排除ができるとして、では、Cを追い出したあと、建物はどこへ戻るべきでしょうか。建物は、所有者であるBのところへ戻すのが原則です。ですが、Bが、抵当権への侵害が生じないように不動産を適切に維持管理することを期待できないなら、話は別です。この場合、Aは、Cに対して、直接自分へ明け渡すよう求めることができます。前回、不法占有者Hを追い出したときも、同じ理由でAへの直接引渡しが認められました。今回も、考え方は同じです。
判例最判平17・3・10 民集59巻2号356頁
抵当権者への直接引渡し 抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり、抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には、抵当権者は、占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができるものというべきである。
これで、③維持管理を期待できないこと、という要件が加われば、Aは直接自分への明渡しまで求められることになります。
もらえるのは、管理であって稼ぐ権利ではない
図:直接引渡しの限界板
- 抵当権者は、抵当不動産に対する第三者の占有により賃料額相当の損害を被るものではない
- 理由=抵当権者は不動産を自ら使用できず、民事執行法上の手続によらずにその使用による利益を取得することもできない
- 妨害排除請求により取得する占有は、所有者に代わり維持管理することを目的とするものであって、使用及びその使用による利益の取得を目的とするものではない
建物を貸して家賃を稼ぐことはできません。判決は、抵当権者は、第三者の占有によって賃料相当額の損害を被るわけではない、とはっきり述べています。理由はこうです。抵当権者は、そもそも不動産を自分で使うことができませんし、民事執行の手続を通さずに、その使用による利益を得ることもできません。妨害排除請求で得る占有は、所有者に代わって不動産を維持管理するための占有であって、使ったり、その使用で利益を得たりするための占有ではないんです。マンションの管理会社を思い浮かべてください。管理不全になった部屋を、緊急に引き取って掃除したり鍵を管理したりすることはできます。でも、引き取ったついでに、その部屋を勝手に又貸しして家賃を稼ぐことは許されません。Aが得る占有も、これと同じ性質です。
判例最判平17・3・10 民集59巻2号356頁
賃料相当損害の否定 抵当権者は、抵当不動産に対する第三者の占有により賃料額相当の損害を被るものではないというべきである。なぜなら、抵当権者は、抵当不動産を自ら使用することはできず、民事執行法上の手続等によらずにその使用による利益を取得することもできないし、また、抵当権者が抵当権に基づく妨害排除請求により取得する占有は、抵当不動産の所有者に代わり抵当不動産を維持管理することを目的とするものであって、抵当不動産の使用及びその使用による利益の取得を目的とするものではないからである。
前回と今回、2つの構成を並べる
図:代位構成と直接構成の比較表
- 誰の権利=代位構成はBの権利/直接構成はA自身の権利
- 相手の範囲=代位構成は所有者Bが権利を持つ相手にしか届かない(不法占有者のみ)/直接構成は占有権原の有無を問わない(要件①と②を満たせば占有権原がある占有者にも届く)
- 引渡し先=代位構成はこの事件で所有者のための管理目的による直接引渡しを認めた/直接構成は所有者に管理を期待できない場合という一般的な基準で直接引渡しを認める
ここで、前回と今回を並べてみます。前回の代位構成は、Bの権利を借りる構成でした。借りられる範囲は、Bが実際に持っている権利の範囲に限られます。だから、届くのは、占有権原をまったく持たない不法占有者だけでした。直接構成はAの抵当権そのものの効力ですから、要件①と②さえ満たせば、占有権原があるかどうかを問わずに届きます。相手の範囲は、こちらのほうが広いことになります。前回の代位構成では、この事件に限って、所有者のために建物を管理する目的で、直接自分への明渡しが認められました。今回の直接構成では、より一般的に、所有者に管理を期待できない事情があれば、抵当権者への直接引渡しがありえます。誰の権利を使うかで、届く相手が変わり、直接引渡しの認め方にも、この事件限りか、一般的な基準かという違いがあります。
建物が壊されたら、賠償を求められるか
図:709条の数値例板
- 被担保債権300万円・建物500万円相当の場合
- 近隣の工事現場から資材が飛んできて建物が350万円まで下落=優先弁済で全額回収できるため損害なし
- 建物が90万円まで下落=300万円の債権のうち210万円分が回収できず、その210万円が損害となる
- 担保割れが生じて初めて損害が発生する
ここからは、占有ではなく、抵当不動産そのものが壊されたり、傷つけられたりする侵害に移ります。今度は、Bとは関係のない第三者Eが、近くの工事現場で不注意に資材を飛ばし、建物を壊してしまったとします。この場合、Aは、Eに対して、709条の不法行為に基づく損害賠償を求められるでしょうか。建物の値段が下がった分が、そのまま損害になるわけではありません。抵当権者が持っているのは、あくまで優先弁済請求権です。建物の価値が下がっても、被担保債権を全額回収できるなら、Aには損害が生じていません。数字で見てみましょう。被担保債権が300万円、建物はおよそ500万円相当のケースです。Eの不注意で、建物が一部壊れ、350万円まで下がっても、Aは優先弁済で300万円を丸ごと回収できるので、損害はありません。ところが、もし90万円にまで下がってしまうと、Aが回収できるのは90万円だけになり、残りの210万円が、まさにAの損害になります。
もう1つ問題になるのは、この損害賠償を、抵当権の実行、つまり競売による売却価格が確定する前に、Aが請求できるかどうかです。実行前に請求できるかどうかは、判例が答えを出しています。抵当権の実行前でも、被担保債権の弁済期がすでに到来しているなら、Aは損害賠償を請求できます。損害の算定自体は、実行を待たなくても可能だからです。実行を待って初めて請求できるとすると、Aは、建物が壊されてから何年も待たされることになり、あまりに酷だからです。
担保が傷んだときの、2つの武器
条文民法137条
民法 第137条(期限の利益の喪失) 次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。一 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。二 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。三 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。
図:137条の板
- 2号=債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたときは、期限の利益を主張できない
- 抵当権者は、弁済期を待たずに、直ちに抵当権を実行できる
- 増担保請求=明文はないが、債務者が自分の落ち度で担保を傷めたときは、追加の担保(増担保・代担保)を請求できる(通説)
- 特約があれば、その特約に基づいても請求できる
今度は、建物を傷めたのが第三者Eではなく、債務者であるB自身だった場合です。このとき、債権者であるAには、もう1つの武器があります。それが137条2号です。条文を確認します。債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたときは、債務者は、期限の利益を主張できない、とされています。民法総則の期限の回で見たとおり、期限の利益は、期限まで返さなくてよい債務者の利益で、担保はその猶予の前提でした。その前提を、B自身が崩したので、利益も失われます。つまりAは、弁済期を待たずに、直ちに抵当権を実行できるようになります。
もう1つの武器が、増担保請求です。明文の規定はありません。それでも、債務者が自分の落ち度で担保を傷めたときは、追加の担保を積むよう請求できる、とするのが通説です。特約で定めてあれば、その特約に基づいても請求できます。通説が挙げる理由は、担保を差し出した側は、その価値を適切に保つ立場にある以上、自分の落ち度で担保を傷めたなら、その分を埋め合わせるべきだ、という考え方です。実行を早めるか、担保を積み増すか。Bが自分で担保を傷めたとき、Aにはこの2つの選択肢があります。数字で比べてみましょう。さっきと同じ、被担保債権300万円、建物500万円のケースで、今度はB自身が建物の一部を壊し、250万円まで下がったとします。137条2号で今すぐ実行すれば、回収できるのは250万円までで、残りの50万円には担保がありません。これに対して、増担保を求め、足りない分を埋める別の土地などを追加で差し出させれば、返済の期限はそのままにしておいて、300万円全額を、担保で押さえ直せます。
今日の判断を、1枚の地図に
図:まとめ板
- 抵当権侵害への対応の地図
- 占有=占有権原なしなら代位構成(Bの権利を借りる)、占有権原ありでも競売妨害目的+行使困難なら直接構成(Aの権利で妨害排除、要件が揃えば直接引渡しも可、ただし賃料相当損害は取れない)
- 毀損=担保割れがあれば709条の損害賠償(実行前でも弁済期到来後なら可)
- 債務者Bが担保を傷めたとき=137条2号で期限の利益喪失、自分の落ち度なら増担保請求も可能(通説)
冒頭の問いに戻ります。Cが正式な賃借人でも、その占有権原の設定に競売妨害目的があり、Aの優先弁済請求権の行使が困難になっているなら、Aは、自分自身の権利として、Cに妨害排除を求められます。所有者に管理を期待できなければ、直接自分への明渡しも求められますが、賃料相当額まではAのものになりません。加えて、B自身が担保を傷めたなら、137条2号で期限の利益を失わせて、すぐに実行することもできますし、増担保を求めることもできます。今日で、抵当権侵害への対応は一通り揃いました。占有を奪われたとき、壊されたとき、それぞれに、Aが自分の権利として動ける道があります。
参照条文
- 民法137条