抵当権消滅請求と代価弁済
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第3章 担保物権 #130/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
買った家に、知らない抵当権が
図:冒頭の場面板
- B所有の家にAの抵当権設定登記
- Bはその家をCに売却
- Cはこの事実を知らずに買った第三取得者
- Bの借金が返されなければ、この家は競売にかけられ、Cは代金とは無関係に所有権を失う
- Cにできることは何かない
抵当権の入り口の回で予告した場面です。家を買ったら、知らない人の抵当権が付いていました。売主の借金が返されなければ、この家は競売にかけられ、買った人は払った代金とは関係なく家を取り上げられます。何もできないわけではありません。民法は、こういう立場に置かれた第三取得者のために、いくつかの道を用意しています。今日はその道と、もう1つ、抵当権そのものがどうやって消えるかを見ていきます。
第三取得者に用意された3つの道
図:3つの道の板
- 抵当付き不動産を買った第三取得者Cが取りうる道
- 1、抵当権消滅請求(379条以下)
- Cが言い出す
- 2、代価弁済(378条)
- Aが言い出す
- 3、自ら競売に参加して買い受ける(民事執行法上の道)
Cに用意された道は3つあります。1つめは抵当権消滅請求、Cの側から言い出す道です。2つめは代価弁済、こちらはAの側から言い出す道です。3つめは、Cが競売そのものに参加して自分で買い受けてしまう道で、これは民事執行法の手続の話になるので、名前だけ押さえておいてください。1つめと2つめ、どちらも払えば抵当権が消える制度ですよね。何が違うんですか。そこが今日の核心です。フリマアプリの値下げ交渉を思い浮かべてください。出品者が自分から「これだけ値引きすれば手放す」と言ってくる交渉と、買い手が自分から「この値段でなら払う」と提示して、出品者が黙っていれば成立してしまう交渉、この2つは似ているようで主導権がまったく逆です。代価弁済は前者、抵当権消滅請求は後者にあたります。
代価弁済、抵当権者が言い出す道
図:代価弁済の関係図
- B所有の家にAの抵当権設定登記(1)
- BがCに売却(2)
- AがCに代価の支払いを請求(3)
- Cが代価を弁済(4)
- 弁済によりCとの関係で抵当権消滅
378条を確認します。
条文民法378条
民法 第378条(代価弁済) 第三百七十八条 抵当不動産について所有権又は地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は、その第三者のために消滅する。
この制度の主導権はAにあります。Aが、Cに向かって代価の支払いを請求し、Cがそれに応じて弁済すれば、抵当権が消えます。全額である必要はありません。被担保債権の額に満たなくても構いません。数字で見てみましょう。被担保債権が500万円あるとして、AがCに400万円の代価弁済を請求し、Cがそれに応じたとします。この400万円で抵当権はCとの関係で消滅しますが、残りの100万円は、担保のない普通の債権としてBに対して残ります。それでも代価弁済を使うメリットはあります。物上代位の回で見たとおり、CがBに払う代金債権を差し押さえて回収する方法もありますが、差押えの手続が要ります。代価弁済なら、差押えを経ずに直接回収できるぶん、簡便で、実行するより多く回収できる可能性もあります。
378条には「所有権又は地上権」とありますが、地上権のときは何か違うんですか。違います。Cが買ったのが所有権なら、抵当権はCとの関係で全部消えます。Cが買ったのが地上権なら、抵当権が消えるのはその地上権との関係だけです。不動産そのものへの抵当権はまだ生きていて、Aは実行できますが、実行してもその地上権には対抗できません。地上権が生き残る、というわけです。もう1つ、Cは代価としてAに払った分を、無駄にはできません。抵当権などの負担がある不動産を買った買主が、その負担を消すために費用を支出して所有権を守ったときは、売主にその費用の償還を求められるという条文があります。570条です。Cは、Aに払った代価をこの費用として、売主Bに償還を請求でき、これをBへの代金債務と相殺できます。払った代価の分だけ、Bへの支払いを免れられる、ということです。
抵当権消滅請求、第三取得者が言い出す道
図:抵当権消滅請求の意義板
- 抵当不動産の所有権を取得した第三取得者Cが、383条所定の書面で自分が決めた金額を提示
- 抵当権者Aが2か月以内に競売を申し立てなければ、その額の支払いで抵当権が消滅する
- 主導権はC側
続いて、抵当権消滅請求の話です。379条を確認します。
条文民法379条
民法 第379条(抵当権消滅請求) 第三百七十九条 抵当不動産の第三取得者は、第三百八十三条の定めるところにより、抵当権消滅請求をすることができる。
こちらは、Cが自分で決めた金額を提示し、Aがそれを受け入れるかどうかを迫られる制度です。フリマアプリの喩えでいえば、買い手が値段を決めて持ちかける交渉にあたります。対象も違います。代価弁済は所有権でも地上権でも使えましたが、抵当権消滅請求は、Cが所有権を取得した場合に限られます。
消滅請求ができない人、できない場面
図:主体制限の板
- 380条、主たる債務者B、保証人、これらの承継人は抵当権消滅請求ができない
- 381条、停止条件付第三取得者は条件成否未定の間はできない
- 382条、競売による差押えの効力が発生する前にしなければならない
ここで、抵当権消滅請求ができない人と場面を確認します。今日から新しい人物が出てきます。Bの借金を保証している保証人です。380条を見てみましょう。
条文民法380条
民法 第380条(抵当権消滅請求をすることができない者) 第三百八十条 主たる債務者、保証人及びこれらの者の承継人は、抵当権消滅請求をすることができない。
抵当権消滅請求は、被担保債権の全額を返す義務を負わない第三者のために、抵当権という重荷を軽くしてあげる制度です。ところが主たる債務者Bと保証人は、そもそも被担保債権の全額を返す義務を、最初から自分の債務として負っています。重荷を軽くしてもらう筋合いがそもそもない人たちですから、この制度からは外れます。Cは全額を返す義務を負わない、単なる不動産の買い主です。だからこそ、抵当権を軽くしてもらう資格があります。例えば、Bの借金を保証している保証人が、この家をBから買い取ったとします。立場は買い主ですが、もともと借金の全額を返す義務を負っているので、やはり消滅請求はできません。同じ家を買っても、Cならできて、保証人ならできない、ということです。あと2つ、請求できない場面があります。381条です。
条文民法381条
民法 第381条(停止条件付第三取得者による抵当権消滅請求) 第三百八十一条 抵当不動産の停止条件付第三取得者は、その停止条件の成否が未定である間は、抵当権消滅請求をすることができない。
例えば、「来年の春に転勤が決まったら、この家を買う」という約束でCが買ったとします。転勤が決まるかどうか分からない間は、Cが本当に所有権を取得できるかも未確定です。そんな不安定な立場の人に、請求権を使わせるわけにはいきません。もう1つ、382条です。
条文民法382条
民法 第382条(抵当権消滅請求の時期) 第三百八十二条 抵当不動産の第三取得者は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に、抵当権消滅請求をしなければならない。
できます。制限があるのは弁済期の前後ではなく、差押えの前後です。競売の手続が動き出して差押えの効力が生じたあとでは、もう請求できません。そのあとに、Cが別の値段を持ち込めるとすると、進んでいる手続も、配当を待つほかの債権者の見通しも崩れてしまいます。だから差押えが線になっています。
消滅請求の手続、書面と2か月
図:消滅請求の手続フロー板
- Cが登記済み各債権者に383条の3つの書面を送付
- 1、取得の原因や代価等を記載した書面
- 2、登記事項証明書
- 3、2か月以内に競売を申し立てなければ提示額を弁済供託する旨の書面
- 債権者は2か月以内に競売を申し立てるか、黙って提示額を承諾したとみなされるかの二択
383条を見ます。Cは、登記をした各債権者に、次の書面を送らなければなりません。
条文民法383条
民法 第383条(抵当権消滅請求の手続) 第三百八十三条 抵当不動産の第三取得者は、抵当権消滅請求をするときは、登記をした各債権者に対し、次に掲げる書面を送付しなければならない。 一 取得の原因及び年月日、譲渡人及び取得者の氏名及び住所並びに抵当不動産の性質、所在及び代価その他取得者の負担を記載した書面 二 抵当不動産に関する登記事項証明書(現に効力を有する登記事項のすべてを証明したものに限る。) 三 債権者が二箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないときは、抵当不動産の第三取得者が第一号に規定する代価又は特に指定した金額を債権の順位に従って弁済し又は供託すべき旨を記載した書面
1号で取得の経緯を、2号で登記の状況を明らかにしたうえで、3号で、自分が決めた金額を宣言します。ここから2か月、Aの側が試されます。384条です。
条文民法384条
民法 第384条(債権者のみなし承諾) 第三百八十四条 次に掲げる場合には、前条各号に掲げる書面の送付を受けた債権者は、抵当不動産の第三取得者が同条第三号に掲げる書面に記載したところにより提供した同号の代価又は金額を承諾したものとみなす。 一 その債権者が前条各号に掲げる書面の送付を受けた後二箇月以内に抵当権を実行して競売の申立てをしないとき。 二 その債権者が前号の申立てを取り下げたとき。 三 第一号の申立てを却下する旨の決定が確定したとき。 四 第一号の申立てに基づく競売の手続を取り消す旨の決定(民事執行法第百八十八条において準用する同法第六十三条第三項若しくは第六十八条の三第三項の規定又は同法第百八十三条第一項第二号ニに掲げる文書が提出された場合における同条第二項の規定による決定を除く。)が確定したとき。
ここが制度の核心です。書面を受け取ったAは、2か月以内に競売を申し立てるか、黙っているか、二択を迫られます。黙っていれば、Cが提示した金額を承諾したものとみなされます。フリマアプリの喩えでいえば、買い手の提示額に、出品者が期限内に返事をしなければ自動的に成立してしまう交渉です。伝える必要があります。385条です。
条文民法385条
民法 第385条(競売の申立ての通知) 第三百八十五条 第三百八十三条各号に掲げる書面の送付を受けた債権者は、前条第一号の申立てをするときは、同号の期間内に、債務者及び抵当不動産の譲渡人にその旨を通知しなければならない。
そして、承諾がそろい、Cが金額を払い渡すか供託すれば、抵当権は消えます。386条です。
条文民法386条
民法 第386条(抵当権消滅請求の効果) 第三百八十六条 登記をしたすべての債権者が抵当不動産の第三取得者の提供した代価又は金額を承諾し、かつ、抵当不動産の第三取得者がその承諾を得た代価又は金額を払い渡し又は供託したときは、抵当権は、消滅する。
1人でも競売を申し立てれば、その手続に乗ります。全員が承諾し、Cが実際に払い渡すか供託して、初めて抵当権が消えます。ここで一度止めます。代価弁済と抵当権消滅請求、言い出すのはそれぞれ誰でしたか。頭の中で並べてから、次の板を見てください。
代価弁済と抵当権消滅請求を並べる
図:代価弁済と抵当権消滅請求の比較板
- 言い出すのは誰か=代価弁済はA/消滅請求はC
- 金額を決めるのは誰か=代価弁済はAの請求額/消滅請求はCの提示額
- 対象=代価弁済は所有権または地上権の買受人/消滅請求は所有権の買受人のみ
- Aが応じないと=代価弁済はそもそもAの請求で始まる/消滅請求はAが2か月以内に競売を申し立てないと承諾したとみなされる
- 効果の及ぶ範囲=代価弁済は弁済した第三者との関係でのみ消滅/消滅請求は登記済み全債権者が承諾し支払供託して消滅
- 主たる債務者保証人その承継人=代価弁済はそもそも対象外/消滅請求は380条によりできない
対象も違って、代価弁済は所有権と地上権の両方に使えますが、消滅請求は所有権に限られます。効果の範囲も、代価弁済は弁済した相手との関係でのみ消滅するのに対して、消滅請求は登記済みの全債権者が絡む分、消滅すれば抵当権そのものが消えます。同じ家で試してみましょう。Cが買ったのが家の所有権なら、Aに請求されて代価弁済で応じる道も、自分から消滅請求をする道も、両方開いています。ところがCが買ったのが地上権だけなら、代価弁済の道は開いていても、消滅請求の道は閉じています。
抵当権はどうやって消えるか
図:抵当権の消滅原因総論板
- 放棄、所有権との混同、代価弁済抵当権消滅請求、競売による実行、そして被担保債権の消滅による付従性の消滅
- 競売手続そのものは民事執行の範囲で名前のみ
ここからは、抵当権そのものがどうやって消えるかという話に移ります。放棄は、抵当権者が自分の意思で権利を手放すことです。所有権との混同は、抵当権者が同じ不動産の所有権まで手に入れて、1人の中で抵当権と所有権が一体になってしまうことを指します。この2つに、いま見た代価弁済と抵当権消滅請求、そして競売による実行を加えたものが、すでに見た話も含めた抵当権の消滅原因です。競売の手続自体は民事執行法の領域なので、ここでは名前だけにとどめます。今日新しく押さえるのは、被担保債権の消滅による付従性の消滅、そして時効による消滅、この2つです。
付従性による消滅、消えない場合もある
図:付従性による消滅とひっかけの板
- 被担保債権が弁済や消滅時効の援用や混同で消えれば、抵当権も消える
- ただし第三者弁済により弁済による代位が生じる場合は、抵当権は消滅せず代位者に移転する
抵当権は、被担保債権が消えれば一緒に消えます。弁済でも、消滅時効の援用でも構いませんし、債権者と債務者が同じ人物になる混同でも構いません。さっき見た所有権との混同は抵当権自体が消える話でしたが、ここでの混同は被担保債権のほうが消える話です。これを消滅における付従性と呼びます。ここに1つ、ひっかけがあります。第三者が代わりにBの借金を弁済して、弁済による代位という仕組みが働く場合です。この場合、被担保債権は消えたように見えても、抵当権は消滅しません。代わりに弁済した人に移転します。例えば、さっきの保証人が、Bに代わってAに500万円を払ったとします。Aは満足しますが、抵当権は消えずに、払った保証人の側に移り、保証人がBから取り戻すための担保になります。中身は別の回で扱いますが、今日は「必ず消えるとは限らない」ということだけ押さえてください。次の396条に入る前に、思い出してください。抵当権の入り口の回で、物上保証人は、自分の債務を負わず、担保の限度で責任だけを負う立場だと見ました。この物上保証人は、396条の「抵当権設定者」に含まれるでしょうか?
396条、債務者と設定者には特別ルールがある
図:396条の板
- 抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない
- 物上保証人も抵当権設定者に含まれる
- 自分で担保に差し出した以上、被担保債権が生きている限り抵当権も生きているのが筋
ここで、前提を1つ確認します。抵当権も財産権の1つなので、本来なら、長く使わずにいれば、借金とは別に時効で消えうる権利です。その原則を、債務者と設定者に対してだけ止めているのが396条です。借金のカタに入った不動産に貼られた、差し押さえ予約の張り紙を思い浮かべてください。その張り紙を自分で貼った本人、つまり債務者Bや、物上保証人のような設定者が、そのまま住み続けているのに、長年放っておかれたから張り紙は無効だ、と言い出すのは筋が通りません。自分の借金が消えていない以上、自分で貼った張り紙も生きているのが当然です。396条を確認しましょう。
条文民法396条
民法 第396条(抵当権の消滅時効) 第三百九十六条 抵当権は、債務者及び抵当権設定者に対しては、その担保する債権と同時でなければ、時効によって消滅しない。
397条、及ぶのは誰か
図:397条と166条2項の対比板
- 左側、債務者と設定者、396条により被担保債権と同時でなければ抵当権は時効消滅しない
- 右側上、166条2項、抵当権自体が単独で20年の消滅時効にかかりうる道で、これは第三取得者Cにも開かれている
- 右側下、397条、抵当権と無関係に独立して占有してきた者(例:D)が取得時効の要件を満たしたとき、原始取得の反射として抵当権が消滅する道
- 抵当権の負担を引き受けて買った通常の第三取得者Cには原則として及ばないと整理される
では、その不動産がCの手に渡ったあとはどうでしょうか。張り紙を貼っていないCとの関係では、話が変わります。まず、抵当権そのものが独立して時効にかかる場合があります。166条2項です。
条文民法166条2項
民法 第166条第2項(債権等の消滅時効) 第百六十六条第二項 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。
抵当権は、この「債権又は所有権以外の財産権」にあたります。抵当権を行使する、つまり競売を申し立てられるようになるのは、被担保債権の弁済期が来て、Bが払わなかったときです。そこから20年間行使されなければ、抵当権は単独で時効消滅しえます。判例も、第三取得者との関係でこの結論を認めています。もう1つ、397条にはこれとは別の消滅の仕方が書かれています。ただし、こちらは原則としてCには使えません。
条文民法397条
民法 第397条(抵当不動産の時効取得による抵当権の消滅) 第三百九十七条 債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する。
Cには使えない、というのはどういうことですか。20年たてば自動的に消えるという話とは違うんですか。違います。397条が対象にしているのは、債務者でも設定者でもなく、抵当権とは無関係に、その不動産を自分のものとして占有してきた人です。例えば、抵当権とは関わりなく、その土地を長年自分のものとして占有してきたDがいたとします。Dが取得時効の要件を満たせば、時効取得という原始取得、つまり前の権利者の負担を引き継がずにまっさらな所有権を手に入れる制度によって、抵当権の負担も反射的に消えます。Cも、抵当権が付いていることを知っていて買っているんですから、Dと同じじゃないんですか。そこは知っていたかどうかでは決まりません。抵当権の存在を知っていても、それとは無関係に自分のものとして占有してきたと言えれば、時効取得はできます。分かれ目は、抵当権の負担を引き受けて買ったかどうかです。Cは、その不動産に抵当権が付いていることを前提として、その負担ごと引き受けて買っています。この立場は、設定者と同じ側に立つと扱われます。抵当権の負担を引き受けて買った第三取得者には397条を使わせない、という古い判例があり、Cにはこの397条のルートは使えないと整理するのが一般的です。ただ、この点の判例の立場は完全には固まっていません。時効の面でCに開かれているのは、さっき見た166条2項の単独消滅時効のルートです。
逆に、B自身が自分の不動産を時効取得しても、抵当権は消えないんですか。消えません。397条は「債務者又は抵当権設定者でない者」に限っています。Bは最初から自分の不動産を占有しているにすぎず、原始取得と呼べるだけの実質がないからです。まとめると、166条2項のルートは、Cにも開かれた、抵当権という権利そのものが単独で古びて消える道です。397条のルートは、抵当権と無関係に占有してきたDのような人が、時効取得の反射として抵当権を消す道で、負担を引き受けて買ったCには原則として使えません。
今日の判断を、1枚の地図に
図:まとめ板
- 第三取得者に用意された3つの道、抵当権消滅請求はCが言い出しCが金額を決める、代価弁済はAが言い出しAが金額を決める、380条により主たる債務者保証人その承継人はできない
- 抵当権の消滅原因、付従性代価弁済消滅請求競売、ただし弁済による代位は消えず移転
- 396条、債務者設定者には被担保債権と同時でなければ時効消滅しない
- 166条2項により第三取得者Cにも抵当権単独の消滅時効が及びうるが、397条の時効取得の反射による消滅は抵当権と無関係に占有してきた者に限られ、負担を引き受けて買ったCには原則として及ばないと整理される
冒頭の問いに戻ります。抵当付きの家を買ってしまったCには、Aに代価弁済を求められて応じる道、自分から抵当権消滅請求をする道、そして自ら競売に参加する道があります。主たる債務者や保証人には、この重荷を軽くしてもらう筋合いがないので、消滅請求は使えません。そして、時効による消滅は、張り紙を貼った本人であるBや設定者には及びません。166条2項の単独消滅時効はCとの関係でも開かれていますが、397条の時効取得による消滅は、抵当権と無関係に占有してきた人に限られ、負担を引き受けて買ったCには原則として及びません。第三取得者の保護と、抵当権の消滅、この2つが今日で一通りつながりました。
参照条文
- 民法378条
- 民法379条
- 民法380条
- 民法381条
- 民法382条
- 民法383条
- 民法384条
- 民法385条
- 民法386条
- 民法396条
- 民法166条2項
- 民法397条