転抵当と抵当権の譲渡・放棄
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第3章 担保物権 #131/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
担保を、担保に入れられるか
図:冒頭の場面板
- 銀行A(1番抵当権者)がB所有の土地に抵当権を持つ
- Aが今度は自分でお金を借りたい
- 手元の一番の財産は「Bの土地への抵当権」そのもの
- これを他人への担保に差し出せるかという問い
銀行Aは、Bの土地に1番抵当権を持っています。ここまでの回で見てきたとおり、Bが借金を返さなければ、この土地を競売にかけて優先的にお金を受け取れる立場です。ところが、Aにも自分の都合でお金が必要になる場面があります。手元にある一番の財産は、まさにこの「Bの土地への抵当権」そのものです。この抵当権を、誰か別の人への担保として差し出すことはできるのでしょうか。抵当権って、借金があるからくっついている権利です。それ自体をさらに担保にする、というのが想像しにくいです。今日はそこから組み立てます。抵当権も、優先的にお金を受け取れる価値を持つ、一種の財産です。財産である以上、それ自体を動かして使うことができます。ただし、どう動かしても、Aが持っている優先の枠の中だけの話で、枠の外にいる人の取り分は変わりません。今日はその動かし方を見ていきます。
抵当権者は、自分の抵当権を動かせる
図:376条の全文カードの背景
376条1項を確認します。
条文民法376条1項
民法第376条1項 抵当権者は、その抵当権を他の債権の担保とし、又は同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権若しくはその順位を譲渡し、若しくは放棄することができる。
整理すると5つあります。1つめ、自分の抵当権を他の債権の担保にする「転抵当」。2つめと3つめ、抵当権そのものを他の債権者のために譲渡する、または放棄する。4つめと5つめ、抵当権の順位を他の債権者のために譲渡する、または放棄する。そしてもう1つ大事な区別があります。抵当権の譲渡と抵当権の放棄の相手は、同じBにお金を貸しているけれど、抵当権を持っていない一般債権者です。一方、順位の譲渡と順位の放棄の相手は、同じBの土地に抵当権を持つ、他の抵当権者です。転抵当は、Aが自分の抵当権を、Eという別の人への借金の担保にする話です。Eは、Bにお金を貸している人ではなく、Aにお金を貸す人です。しかも、抵当権そのものを渡すのではなく、担保として差し出す、という違いがあります。この違いは、あとで詳しく見ます。もう1つ、376条2項も確認しておきます。
条文民法376条2項
民法第376条2項 前項の場合において、抵当権者が数人のためにその抵当権の処分をしたときは、その処分の利益を受ける者の権利の順位は、抵当権の登記にした付記の前後による。
たとえば転抵当と抵当権の譲渡を同時に別の相手にしたようなときに、その受益者同士の間で優劣を決める必要が出てきます。その優劣は、登記にした付記の前後、つまり登記した順番で決まります。今日はこの2項は名前だけ押さえておけば十分です。
転抵当の意義、設定者の承諾がいらない理由
図:転抵当の構図
- B所有の土地にAの1番抵当権(原抵当権)
- Eが、Aに対する貸金の担保として、Aの抵当権の上に転抵当の設定を受ける
- 矢印はA→B(原抵当権)、E→A(転抵当)の2本
- 設定者Bの承諾は不要
転抵当とは、抵当権者が自分の抵当権を、他の債権の担保とすることです。冒頭のAが、Eという人からお金を借りるとします。Aは、自分がBに対して持っている抵当権を、Eへの借金の担保として差し出せます。このとき、AがBの土地に元から持っている抵当権を「原抵当権」と呼びます。性質については学説の対立がありますが、まずは「Aの抵当権の上に、Eのための抵当権がもう1つ乗っている」と捉えておけば十分です。実は、Bの承諾は不要です。ここが今日の最初のポイントです。転抵当は、あくまでAが自分の抵当権をどう扱うかという、A側だけで完結する処分です。Bから見れば、優先的にお金を持っていかれる相手が誰であっても、自分がいくらまで負担するかという限度は変わりません。Bの立場に変更が生じないので、Bの承諾を得る必要がないのです。
転抵当を第三者に対抗するには
図:対抗要件の板
- 177条=不動産物権変動の一般原則(登記で第三者に対抗)
- 377条1項=主たる債務者B・保証人・設定者・その承継人に対抗するには、Aが原債務者Bに通知するか、Bが承諾することが必要(467条の規定に従う)
転抵当を確認したところで、少し思い出してください。抵当権の設定そのものを見た回で、抵当権にも登記が必要だとお話ししました。あれは何のための登記でしたか?対抗要件、でしたよね。登記をしないと、第三者に対抗できない、という話でした。ここでも同じ考え方が2段構えで出てきます。1段目は177条です。不動産に関する物権の変動は、登記をしなければ第三者に対抗できません。転抵当も抵当権に関する変動なので、この一般原則がまず及びます。2段目が、転抵当に特有の377条1項です。
条文民法377条1項
民法第377条1項 前条の場合には、第四百六十七条の規定に従い、主たる債務者に抵当権の処分を通知し、又は主たる債務者がこれを承諾しなければ、これをもって主たる債務者、保証人、抵当権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができない。
177条の登記だけでは足りないんですか。足りません。原債務者Bや保証人、設定者、その承継人に対抗するためには、Aが原債務者Bに転抵当の設定を通知するか、Bが承諾することが必要です。ここで名前が出ている467条は、債権を譲るときの対抗要件を定めた条文で、今日は名前だけ押さえてください。詳しくは別の回で扱います。承諾が要るかどうかは、設定の場面と、Bに主張する場面とで別の話です。転抵当を設定するのに、Bの同意はいりません。ただ、設定した転抵当をBに主張するには、Bに知らせるか、Bが知ったと認めるかが要ります。設定の話と、Bに主張できるかの話を、分けて考えてください。
理由は、二重弁済を防ぐためです。もしBが転抵当の存在をまったく知らなければ、Bはいつもどおり、原債務者としてAに直接弁済してしまいます。ところが転抵当が設定されている以上、本当はEの利益を守りながら弁済しなければなりません。Bに転抵当の存在を知らせることで、Aへの弁済がEを害する形にならないようにする、というのがこの通知・承諾の狙いです。
通知・承諾のあと、弁済にはリスクが生じる
図:377条2項の板
- Bが通知を受け、または承諾した後は、Bらが転抵当権者Eの承諾を得ないでAにした弁済は、Eに対抗できない
- 以後、BはAへの弁済に注意が必要になる
377条2項も見ておきましょう。
条文民法377条2項
民法第377条2項 主たる債務者が前項の規定により通知を受け、又は承諾をしたときは、抵当権の処分の利益を受ける者の承諾を得ないでした弁済は、その受益者に対抗することができない。
通知を受けた、または承諾をしたあとのBは、もう無防備にAへ弁済できなくなります。Eの承諾を得ずにAへ弁済しても、その弁済はEに対抗できません。つまり、Bは自分では払ったつもりでも、Eとの関係では払っていないのと同じ扱いを受けるおそれがあります。二重に払わされるかもしれない、ということですか。そうなりかねません。だからこそBは、通知や承諾のあとは、Eの利益を害さない形で弁済する必要に迫られます。これが、二重弁済を防ぐという377条の趣旨の中身です。
転抵当の被担保債権額は、原抵当権の額を超えてもよい
図:転抵当の設例板
- 土地の価額2000万円
- A(1番抵当・対Bの被担保債権1200万円)、C(2番抵当・被担保債権800万円)
- EはAに融資し、Eの転抵当の被担保債権(対A)は1500万円
- 転抵当の設定自体は有効だが、Eが原抵当権から優先弁済を受けられるのは1200万円が上限
ここで、転抵当の要件を数字で確認します。今日ずっと使う土地を出します。B所有の土地の価額は2000万円です。1番抵当権者Aの被担保債権は、1200万円。2番抵当権者Cの被担保債権は、800万円です。ここにEが登場します。EはAにお金を貸し、Aの抵当権に転抵当の設定を受けます。Eの転抵当の被担保債権、つまりAがEに返さなければいけない額は、1500万円だとします。EからAへの貸付けの1500万円は、Aの原抵当権の被担保債権である1200万円を上回っていますが、それでも転抵当の設定自体は問題なく成立します。転抵当は、AとEの間の別の契約なので、金額が一致している必要はないのです。
転抵当が設定できることと、Eが優先して受け取れる額とは別で、受け取れる額には上限があります。これが要件のもう半分です。Eが原抵当権を通じて優先弁済を受けられるのは、Aの原抵当権の被担保債権額、つまり1200万円が上限です。Aが持っている優先弁済の枠を超えて、Eに渡すことはできません。超えた300万円は、Aに対する普通の債権として残るだけです。2番抵当権者のCの取り分は、これで変わるんですか。変わりません。Cは、Aの1200万円の枠の外にいる後順位者です。Aの枠の中で、EがどれだけAから引き継ごうと、Cの800万円という取り分には一切影響しません。この「当事者以外には影響しない」という考え方は、今日ずっと出てきます。
転抵当権者は、原抵当権を実行できる
図:転抵当の効果板
- 転抵当権者Eは原抵当権を実行できる(判例)
- 実行の要件は2つ、
- ①Eの転抵当の被担保債権(対A)の弁済期到来、
- ②Aの原抵当権の被担保債権(対B)の弁済期到来、の両方が必要(二重の弁済期)
転抵当の効果を見ます。転抵当権者Eは、Aの原抵当権そのものを実行することができます。抵当権の実行を見た回で、抵当権者が土地を担保不動産競売にかけ、その代金から優先的に受け取る手続を確認しました。Eは、その競売を自分で申し立てられるのです。これは判例が認めているところです。担保は、相手が返さないときに、担保に取ったものをお金に換えて回収するための仕組みです。Eが担保に取っているのは、土地そのものではなく、Aの抵当権、つまり「土地を競売にかけて、1200万円の枠から優先的に受け取る力」です。この力をお金に換えるには、原抵当権を実行するしかありません。Aが実行してくれるかどうかに任せていたら、Eの担保は、いざというときに働きません。だから、Eは自分でその力を使えるとされているのです。
ただし、いつでも実行できるわけではありません。実行するためには、2つの条件がそろう必要があります。1つめ、EがAに対して持っている転抵当の被担保債権の弁済期が来ていること。2つめ、Aが本来Bに対して持っている原抵当権の被担保債権の弁済期も来ていること。この2つの弁済期が両方とも来て初めて、Eは原抵当権を実行できます。たとえば、EがAに貸した1500万円の返済期限は来たのに、AがBに貸した1200万円の期限がまだ先なら、Eはまだ実行できません。Bは、約束の期限までは払わなくてよい立場です。Eの都合で期限前に土地を競売にかけられては、Bに約束以上の負担を負わせることになるからです。ここに、さっき見た377条2項の保護も重なります。二重の弁済期という要件と、この保護が合わさって、Eは自分の債権を回収できる仕組みになっています。
抵当権の譲渡、Dが先に取る道
図:抵当権の譲渡の板
- 抵当権者Aが、一般債権者Dのために抵当権を譲る
- Dに回した分だけ、Aは優先の立場を失う
- 効果は、Dが譲渡された枠の中から自分の債権額を上限に先に優先弁済を受け、Aは残りを取得する
- 対抗要件は転抵当と同じ(177条+377条1項)
- 当事者以外(C)には影響しない
続いて、抵当権の譲渡です。転抵当が「担保として差し出す」処分だったのに対して、譲渡と放棄は「抵当権そのものを一般債権者のために使う」処分です。抵当権の譲渡とは、抵当権者Aが、抵当権を持たない一般債権者Dのために、自分の抵当権を譲渡することです。効果は2つに分かれます。Dに回した限度で、Aは優先して受け取れる立場を失い、その部分については担保のない一般債権者と同じ扱いになります。Dは、Aが持っていた順位の抵当権を、自分の債権額の限度で取得します。ただし、Dが受け取れるのは自分の債権額まで、しかもAが持っていた枠の中に限られます。対抗要件は、転抵当と同じで、177条の登記と377条1項の通知・承諾です。この対抗要件の作り自体は転抵当と共通なので、覚え直す必要はありません。Dが実際にいくら受け取るかは、このあと放棄と並べて、同じ土地の数字で確かめます。
抵当権の放棄、分け合う道
図:抵当権の放棄の板
- 抵当権者Aが、一般債権者Dの利益のために自分の優先弁済権を放棄し、優先弁済の利益を債権額の比で分け合う
- 譲渡とは違い、先取りではなく按分になる
- 対抗要件は転抵当と同じ
- 当事者以外(C)には影響しない
最後に、抵当権の放棄です。抵当権そのものを手放すわけではありません。抵当権の放棄とは、抵当権者Aが、一般債権者Dの利益のために、自分の優先弁済権を放棄し、その優先弁済の利益をDと分け合うことです。譲渡は、Dが先に取り切る話でしたよね。放棄は違うんですか。そこが今日いちばんの分かれ目です。譲渡は、Dが先に自分の債権額の分だけ取り切って、Aは残りを取ります。放棄は、AとDが、それぞれの債権額の比に応じて、按分して分け合います。Aは、Dに対しては自分の優先を主張しないと約束するので、Aの枠の中では、AとDが同じ順位に並ぶことになります。同じ順位の債権者どうしは、債権額の比で分けるしかありません。先に取り切るか、比で分け合うか、この違いです。対抗要件は、譲渡や転抵当と同じです。
では、数字で確かめましょう。
譲渡と放棄、数字で比べる
図:配当設例①
- 原則
- 土地の価額2000万円。A(1番抵当・1200万円)、C(2番抵当・800万円)、D(一般債権者・400万円、抵当権なし)。処分がない場合、Aが1200万円、Cが800万円を優先弁済で取得。Dは無担保のため取り分0円。
さっきの土地をもう一度使います。価額2000万円、Aの被担保債権1200万円、Cの被担保債権800万円です。ここにDという、抵当権を持たない一般債権者がいて、Bに対して400万円の債権を持っているとします。何も処分がなければ、Aが1200万円、Cが800万円を優先弁済で受け取り、Dは無担保のため取り分0円です。ここから、Aが抵当権をDのために処分すると、どう変わるか見ていきます。
図:配当設例②
- 放棄
- Aが自分の1200万円の枠をDのために放棄。AとDの債権額の比(A:1200万円、D:400万円=比3:1)で按分する。A=1200万円×1200/1600=900万円。D=1200万円×400/1600=300万円。Cは不変=800万円。
まず、Aが自分の1200万円の枠を、Dのために放棄したとします。放棄は按分でしたね。債権額の比は、Aが1200万円、Dが400万円、つまり3対1です。この比で、Aの枠の1200万円を分けます。Aの取り分は、1200万円かける1600分の1200で、900万円です。Dの取り分は、同じく1200万円かける1600分の400で、300万円になります。合わせるとちょうど1200万円で、元の枠におさまっています。
図:配当設例③
- 譲渡
- Aが自分の1200万円の枠をDに譲渡。Dは、Aの枠のうち自分の債権額(400万円)を限度に先に優先弁済を受ける=D400万円。Aは残り(1200-400=800万円)を取得。Cは不変=800万円。
答え合わせをします。譲渡は、按分ではなく先取りでした。Dは、Aの1200万円の枠のうち、自分の債権額である400万円を限度に、先に優先弁済を受けます。Dの取り分は、そのまま400万円です。Aの取り分は、残りの1200万円引く400万円で、800万円になります。譲渡でも放棄でも、AとDの合計は、ちょうど1200万円で、Aの枠の外に出ることはありません。後順位のCが、処分の計算の中に、まったく出てこないこと。そこが今日いちばん確認したかったところです。放棄でも譲渡でも、Cの取り分は800万円のまま、1円も動いていません。処分の当事者はAとDだけで、その効力は当事者の間にとどまり、後順位のCには一切及ばないからです。譲渡はDが先取りする、放棄はDと按分する、この一点だけが違って、Cへの影響がゼロという結論は共通しています。
今日の地図(保存版)
図:まとめ板
- 376条1項の5類型(転抵当・抵当権の譲渡・抵当権の放棄・順位の譲渡・順位の放棄)
- 転抵当=Bの承諾不要・177条と377条1項の通知承諾が対抗要件・被担保債権額は超過可だが優先弁済は原抵当権の枠が上限・判例により二重の弁済期で原抵当権を実行できる
- 譲渡=Dが先取り
- 放棄=AとDが按分
- いずれも後順位者Cには影響しない
- 順位の譲渡・放棄は次回
今日の骨格を振り返ります。抵当権者Aは、376条1項によって、自分の抵当権を5つの型で動かせます。今日見たのは、そのうちの転抵当と、抵当権の譲渡・放棄でした。転抵当は、抵当権の上にもう一段抵当権を乗せる話でした。設定者Bの承諾はいらないけれど、Bに対抗するには通知か承諾が必要でした。その通知・承諾は、二重弁済を防ぐためのものでした。そして転抵当権者Eは、Eの債権とAの債権の、2つの弁済期がそろったときに、原抵当権を自分で実行できます。冒頭の問いに戻ります。Aは、自分の抵当権を、転抵当という形で他人への担保に差し出すこともできますし、譲渡や放棄という形で一般債権者のために使うこともできます。どの処分も、Aの持ち分という決まった枠の中で完結し、その枠の外にいる後順位者には及びません。
参照条文
- 民法376条1項
- 民法376条2項
- 民法377条1項
- 民法377条2項