民法ゼロから民法#132

抵当権の順位の譲渡・放棄・変更

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第3章 担保物権 #132/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

順番を譲ると、配当はいくらになるか

冒頭の場面板。B所有の土地に、A(1番抵当権者)・C(2番抵当権者)・E(3番抵当権者)の3人の抵当権が付いている。Aは自分の分を確実に回収できる立場。Eはこのままだと債権の半分ほどしか取れない。Aが「順番をEに譲る」と言い出す場面。 図:冒頭の場面板

  • B所有の土地に、A(1番抵当権者)・C(2番抵当権者)・E(3番抵当権者)の3人の抵当権が付いている
  • Aは自分の分を確実に回収できる立場
  • Eはこのままだと債権の半分ほどしか取れない
  • Aが「順番をEに譲る」と言い出す場面

1番抵当権者のAは、Bの土地から自分の取り分を確実に回収できる立場です。ところが3番のEは、このままだと自分の債権の半分ほどしか回収できません。なお、このEは、前回の転抵当の話に出てきたEとは別の人で、今日は3番の抵当権者です。3番だと、前の2人が先に持っていってしまうから、ということです。ここでAが、Eに「自分の順番を譲る」と言い出したらどうなるでしょうか。配当はいくらに変わるのか、そして間にいる2番のCの取り分は動くのか。先に答えの形だけ言っておくと、譲渡や放棄なら間のCの取り分は動かず、Cまで動くのは374条の順位の変更だけです。今日はこれを数字で確かめます。

「抵当権の」処分と「順位の」処分、相手が違う

相手方比較板。抵当権の譲渡(相手=一般債権者D、Dが先取り)・抵当権の放棄(相手=一般債権者D、AとDが按分)・順位の譲渡(相手=後順位抵当権者E、Eが先取り)・順位の放棄(相手=後順位抵当権者E、AとEが按分)の4行表。 図:相手方比較板

前回、抵当権の譲渡と放棄を扱いました。あのときの相手は、Bにお金を貸してはいるものの、抵当権を持たない一般債権者Dでした。今日の「順位の譲渡」「順位の放棄」は、相手が変わります。相手は、同じ土地に抵当権を持っている、後順位の抵当権者です。今日はこれをEとします。混同を避けるコツは1つだけです。相手が抵当権を持たない一般債権者なら「抵当権の」処分、相手が他の抵当権者なら「順位の」処分。これで区別してください。効果の作りは前回と同じで、譲渡は先取り、放棄は按分です。今日はこの型を、相手がEに変わった形で見ていきます。

抵当権者は、順位も動かせる

376条1項の全文カード背景。5類型のうち、今日扱う順位の譲渡・順位の放棄をハイライト。相手は後順位抵当権者。 図:376条1項の全文カード背景

  • 5類型のうち、今日扱う順位の譲渡・順位の放棄をハイライト
  • 相手は後順位抵当権者

根拠条文をもう一度確認します。

条文民法376条1項

民法第376条1項 抵当権者は、その抵当権を他の債権の担保とし、又は同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権若しくはその順位を譲渡し、若しくは放棄することができる。

抵当権そのものではなく、抵当権の「順位」を動かす処分です。対抗要件も前回と同じ仕組みで、177条の登記に加えて、377条1項の通知・承諾が必要になります。登記は、処分を第三者に主張するためのものです。通知・承諾は、処分があったことを債務者のBに知らせるか、Bが承諾することで、Bが事情を知らないままAに払ってしまい、処分を受けた人の利益が消えてしまうのを防ぐためのものです。

順位の譲渡、Eが先に取る道

順位の譲渡の構図板。B所有の土地にA(1番)・C(2番)・E(3番)の抵当権。AがEのために順位を譲渡する。AとEの取り分の合計をつくり、その合計からEが自分の債権額まで先に取り、残りをAが取る。Cには一切影響しない。 図:順位の譲渡の構図板

  • B所有の土地にA(1番)・C(2番)・E(3番)の抵当権
  • AがEのために順位を譲渡する
  • AとEの取り分の合計をつくり、その合計からEが自分の債権額まで先に取り、残りをAが取る
  • Cには一切影響しない

順位の譲渡とは、抵当権者Aが、後順位の抵当権者Eのために、自分の順位を譲ることです。効果は、AとEがそれぞれ受けられるはずだった配当額の合計をいったんつくり、その合計から、譲り受けたEが自分の債権額まで先に取り、残りを譲ったAが取る、という形になります。前回はAとD(一般債権者)の合計から、Dが先取りしていました。今日はAとE(後順位抵当権者)の合計から、Eが先取りします。相手が変わっただけで、先取りという効果の作りは同じです。間にいる2番のCは、この譲渡から一切影響を受けません。譲渡はAとEの間だけの取引で、2人の取り分の合計を材料にしているだけです。Cの取り分は、この合計にそもそも入っていません。数字は、あとでまとめて確認します。

順位の放棄、比で分け合う道

順位の放棄の構図板。AがEのために順位を放棄する。AとEの取り分の合計を、両者の債権額の比で按分する。Cには一切影響しない。 図:順位の放棄の構図板

  • AがEのために順位を放棄する
  • AとEの取り分の合計を、両者の債権額の比で按分する
  • Cには一切影響しない

順位の放棄は、Aが、後順位のEのために自分の優先弁済を受ける利益を放棄することです。放棄した瞬間、AとEは同じ順位に並んだものとして扱われます。効果は、AとEの取り分の合計を、両者の債権額の比で按分することです。相手がDからEに変わっただけで、按分という考え方はまったく同じです。対抗要件も、順位の譲渡と同じ仕組みです。放棄でも、Cへの影響は譲渡と同じです。放棄も、AとEの2人だけで完結する取引なので、Cの取り分は動きません。ここまでで型は出そろいました。次は、この土地で実際に数字を出して確認します。

同じ土地で、4パターンを計算する

配当設例①(処分なし)。土地の価額2300万円(前回の2000万円から変更)。A(1番・被担保債権1200万円)、C(2番・800万円)、E(3番・600万円)。処分がなければ、A1200万円(全額)、C800万円(全額)、E300万円(600万円のうち300万円しか取れない)。合計2300万円。 図:配当設例①

  • 処分なし
  • 土地の価額2300万円(前回の2000万円から変更)。A(1番・被担保債権1200万円)、C(2番・800万円)、E(3番・600万円)。処分がなければ、A1200万円(全額)、C800万円(全額)、E300万円(600万円のうち300万円しか取れない)。合計2300万円。

前回と同じ、Aの1200万円とCの800万円を引き継ぎ、今日は3番のEを足します。Eの被担保債権は600万円です。土地の価額は、前回の2000万円から変えて、今回は2300万円とします。3番のEにも、処分がなくても一部だけ配当が回るようにするためです。何も処分がなければ、Aが1200万円をまるごと、Cも800万円をまるごと受け取り、残り300万円をEが受け取ります。Eは600万円の債権のうち、300万円しか回収できません。

配当設例②(順位の譲渡)。AからEへ順位の譲渡。AとEの合計は1200+300=1500万円。Eが自分の債権額600万円まで先に取り、残り900万円をAが取得。A900万円・C800万円(不変)・E600万円。合計2300万円。 図:配当設例②

  • 順位の譲渡
  • AからEへ順位の譲渡。AとEの合計は1200+300=1500万円。Eが自分の債権額600万円まで先に取り、残り900万円をAが取得。A900万円・C800万円(不変)・E600万円。合計2300万円。

ここでAが、Eのために順位を譲渡したとします。AとEの、処分がないときの取り分を合わせると、1200万円に300万円を足して、1500万円です。この合計から、Eが自分の債権額である600万円まで先に取ります。合計の1500万円から600万円を引くと、900万円がAの取り分になります。Cは、この取引にまったく関わっていないので、800万円のままです。合計は900足す800足す600で、ちょうど2300万円です。では、同じ合計1500万円を、今度は放棄で按分するとしたら、AとEはいくらずつになるでしょうか。Aの債権額1200万円とEの債権額600万円の比を思い出して、一度自分で計算してみてください。

配当設例③(順位の放棄)。AからEへ順位の放棄。AとEの合計1500万円を、債権額の比(A1200:E600=2:1)で按分。A1000万円・E500万円・C800万円(不変)。合計2300万円。 図:配当設例③

  • 順位の放棄
  • AからEへ順位の放棄。AとEの合計1500万円を、債権額の比(A1200:E600=2:1)で按分。A1000万円・E500万円・C800万円(不変)。合計2300万円。

答え合わせをします。AとEの債権額の比は、1200対600、つまり2対1です。この比で合計1500万円を分けると、Aは3分の2で1000万円、Eは、3分の1で500万円になります。先に取り切るか、比で分けるかの違いが、そのまま金額の差になります。ここでもCは800万円のまま、まったく動いていません。合計は1000足す500足す800で、やはり2300万円です。

374条の順位の変更、表そのものを書き換える

374条の要件板。要件は3つ。①各抵当権者の合意、②利害関係を有する者(転抵当権者・不動産質権者・差押債権者など)があるときはその承諾、③登記(登記をしなければ効力を生じない=効力要件)。 図:374条の要件板

  • 要件は3つ
  • ①各抵当権者の合意、
  • ②利害関係を有する者(転抵当権者・不動産質権者・差押債権者など)があるときはその承諾、
  • ③登記(登記をしなければ効力を生じない=効力要件)

ここまでの譲渡と放棄は、AとEという当事者2人の話でした。ここからは、374条が定める「順位の変更」を見ます。

条文民法374条1項

民法第374条1項 抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができる。ただし、利害関係を有する者があるときは、その承諾を得なければならない。

条文民法374条2項

民法第374条2項 前項の規定による順位の変更は、その登記をしなければ、その効力を生じない。

ただし譲渡や放棄と違って、要件が3つそろう必要があります。1つめ、変更に関わる各抵当権者の合意。2つめ、転抵当権者、つまりその抵当権をさらに担保に取っている人や、不動産質権者、つまり土地に質権を持っている債権者、それに被担保債権を差し押さえた債権者など、利害関係を持つ人がいれば、その人の承諾。3つめ、登記です。374条の2項が定める登記は、これまで何度も出てきた対抗要件とは違います。ここが今日いちばんの注意点で、この登記は、対抗要件ではなく、効力要件です。登記をしなければ、そもそも順位の変更という効力自体が生まれません。177条の登記が「第三者に主張できるかどうか」の話だったのに対し、374条の2項の登記は「変更が成立するかどうか」の話です。

合意だけして、登記をしないうちに土地が競売になった場合、順位の変更は、まだ生まれていません。配当は元の順位のまま、Aが1200万円、Cが800万円、Eが300万円です。合意した抵当権者どうしの間でも、変更を持ち出すことはできません。登記がなくても当事者の間では効力が生じ、第三者に主張するときに登記が問われる順位の譲渡とは、ここが違います。

なぜ順位の変更だけ、こんなに要件が重いのか

374条の順位入れ替え図。変更前(A1番・C2番・E3番)と変更後(E1番・A2番・C3番)を並べる。順位表そのものが書き換わるので、Cの位置も動く=Cも合意の当事者になる。 図:374条の順位入れ替え図

  • 変更前(A1番・C2番・E3番)と変更後(E1番・A2番・C3番)を並べる
  • 順位表そのものが書き換わるので、Cの位置も動く=Cも合意の当事者になる

譲渡や放棄はAとEの合意だけで足りるのに、変更の要件が重いのはなぜか。そこが、譲渡・放棄と変更の決定的な違いです。譲渡と放棄は、AとEの取り分の合計を材料にして、その中で分け方を変えるだけの取引でした。合計の外にいるCは、材料にすら入っていません。ところが順位の変更は、土地にかかっている抵当権の順位表そのものを書き換えます。たとえば、順位をE・A・Cの順に入れ替えたとします。Eが上がるだけでなく、Aは1つ下がり、2番だったCも3番に下がります。表が書き換わった以上、Cの取り分も、新しい順位表で計算し直されます。譲渡や放棄では材料にすら入っていなかったCが、ここでは当事者になるのです。だからこそ374条は、順位が動く抵当権者全員、この例ならE・A・Cの3人の合意を求め、さらに誰からも見える登記を、変更が成立する条件そのものにしています。

配当設例④(374条の順位の変更)。E→1番・A→2番・C→3番に変更。新しい順位で計算し直す。E600万円(1番として全額)、A1200万円(2番として残り1700万円のうち全額)、C500万円(3番として残り500万円のうち全額)。合計2300万円。 図:配当設例④

  • 374条の順位の変更
  • E→1番・A→2番・C→3番に変更。新しい順位で計算し直す。E600万円(1番として全額)、A1200万円(2番として残り1700万円のうち全額)、C500万円(3番として残り500万円のうち全額)。合計2300万円。

数字で確認します。順位を、Eが1番、Aが2番、Cが3番に入れ替えたとします。新しい順位のとおりに、頭から計算し直します。まずEが1番として、自分の債権額600万円をまるごと取ります。残り1700万円のうち、2番になったAが1200万円をまるごと取ります。さらに残り500万円のうち、3番になったCが500万円を取ります。変更の後、Cの取り分は800万円から500万円に減りました。そこが今日いちばん見せたかった対比です。順位の譲渡や放棄では、Cの取り分はずっと800万円のまま動きませんでした。ところが順位の変更では、Cの取り分は、800万円から500万円まで動きます。合計は600足す1200足す500で、やはり2300万円ですが、内訳がCまで巻き込んで変わっています。

今日の骨格を、もう一度

まとめ板。順位の譲渡=AとEの合計からEが先取り。順位の放棄=AとEの合計を債権額比で按分。いずれもCは不変。374条の順位の変更=順位表そのものを書き換えるため、各抵当権者の合意+利害関係人の承諾+登記(効力要件)が必要で、Cの取り分も動きうる。 図:まとめ板

  • 順位の譲渡=AとEの合計からEが先取り
  • 順位の放棄=AとEの合計を債権額比で按分
  • いずれもCは不変
  • 374条の順位の変更=順位表そのものを書き換えるため、各抵当権者の合意+利害関係人の承諾+登記(効力要件)が必要で、Cの取り分も動きうる

今日の骨格を振り返ります。抵当権の処分の相手が一般債権者なら「抵当権の」譲渡・放棄、相手が他の抵当権者なら「順位の」譲渡・放棄でした。AとEの取り分の合計を材料にする取引だから、合計の外にいるCには及びません。一方、374条の順位の変更は、順位表そのものを書き換える処分でした。冒頭の問いに戻ります。Aが3番のEに「順番を譲る」と言えば、譲渡なら合計1500万円のうちEが600万円、放棄なら比で分けて500万円を受け取ります。そして、どちらの処分でも、間にいるCの取り分は800万円のまま動きません。Cの取り分が動くのは、AとEだけでなく、Cも合意の当事者に加わって、順位表そのものを書き換えたときだけです。

参照条文

  • 民法376条1項
  • 民法374条1項
  • 民法374条2項

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