民法ゼロから民法#134

共同抵当の放棄と物上保証人の代位

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第3章 担保物権 #134/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

守りは崩されないのか

冒頭の場面板。前回の結論(甲2000万・乙1000万・A1500万・C1000万・代位でCの取り分は常に1000万)を1行で示したあと、Aが乙の抵当権を「放棄」しようとしている場面。 図:冒頭の場面板

前回、Aがどちらの不動産を先に売っても、Cの取り分は代位のおかげで変わらないと確認しました。今日は、その守りが崩れそうになる場面を2つ見ていきます。1つ目は、Aが乙の抵当権そのものを消してしまう場面。2つ目は、乙の持ち主がBではなく別の人だった場面です。どちらも、答えを決めるのは同じ一つの物差しです。その負担を最終的に負うべきなのは誰か、という物差しです。

Aは自分の抵当権を消せるのか

放棄の意義板。抵当権者は自分の抵当権を放棄して消滅させることができる(抵当権の消滅原因の一つ)。共同抵当権者Aが乙の抵当権だけを放棄すると、Aの乙に対する1番抵当権はそこで消える。376条の「処分」としての放棄(一般債権者に按分させる制度)とは別物であることに触れる。 図:放棄の意義板

  • 抵当権者は自分の抵当権を放棄して消滅させることができる(抵当権の消滅原因の一つ)
  • 共同抵当権者Aが乙の抵当権だけを放棄すると、Aの乙に対する1番抵当権はそこで消える
  • 376条の「処分」としての放棄(一般債権者に按分させる制度)とは別物であることに触れる

抵当権者は、自分の抵当権をやめてしまうことができます。これを放棄といい、抵当権が消える原因の一つです。共同抵当権者Aが、乙に対する1番抵当権だけを放棄すると、Aの乙への抵当権はそこで消滅します。前に見た376条の「処分」としての放棄は、Aが抵当権を持たない一般債権者のために、優先して受け取れる利益を分け合うものでした。今日扱うのは、抵当権そのものをやめてしまう、より単純な放棄です。困るのはAではなく、甲の2番抵当権者Cです。放棄がなければ、Aが甲を先に売ったとき、Cは代位でAの乙の抵当権に乗り移れたはずでした。ところがAが先に放棄してしまうと、乗り移る先の抵当権そのものが消えています。Cが本来もらえたはずの代位の道が、Aの一存でふさがれてしまうんです。

自分の都合で他人の期待を壊せない

504条の全文カード背景。担保保存義務。債権者が故意又は過失で担保を喪失・減少させたときは、代位権者はその分だけ責任を免れる。 図:504条の全文カード背景

  • 担保保存義務
  • 債権者が故意又は過失で担保を喪失・減少させたときは、代位権者はその分だけ責任を免れる

ここで、504条を確認します。担保保存義務を定めた条文です。

条文民法504条1項

民法第504条1項 弁済をするについて正当な利益を有する者(以下この項において「代位権者」という。)がある場合において、債権者が故意又は過失によってその担保を喪失し、又は減少させたときは、その代位権者は、代位をするに当たって担保の喪失又は減少によって償還を受けることができなくなる限度において、その責任を免れる。その代位権者が物上保証人である場合において、その代位権者から担保の目的となっている財産を譲り受けた第三者及びその特定承継人についても、同様とする。

この504条は、本来は弁済による代位の場面で、債権者が担保を勝手に失わせたら代位権者はその分だけ責任を免れる、という規定です。判例は、この504条と392条を組み合わせて、共同抵当権の放棄にも同じ考え方を及ぼしています。直接使うのではなく、同じ考え方を当てはめる、という意味で類推適用といいます。当てはめ方はこうです。504条の「債権者」に当たるのが共同抵当権者A、「代位権者」に当たるのが、392条2項後段で乙の抵当権に乗り移れたはずのC、「担保を喪失させた」に当たるのが、Aによる乙の抵当権の放棄です。そして「責任を免れる」は、ここでは、AがCに優先できなくなる、という形で表れます。392条がCに代位の道を与え、504条がその道を勝手にふさぐことを許さない。この2つを組み合わせているわけです。

判例最判昭和44年7月3日・最高裁第一小法廷判決

共同抵当の放棄と後順位抵当権者の優先制限 共同抵当権者が、右抵当権の実行より前に乙不動産上の抵当権を放棄し、これを消滅させた場合には、放棄がなかつたならば第二順位の抵当権者が乙不動産上の右抵当権に代位できた限度で、右第二順位の抵当権者に優先することができないと解すべきである。

判例はこう述べています。共同抵当権者が抵当権を放棄した場合、放棄さえなければ後順位抵当権者が代位できたはずの限度で、共同抵当権者はもう優先できない、というものです。趣旨は一点に尽きます。共同抵当権者は、自分の都合で放棄しておきながら、それによって他人の代位への期待まで一方的に踏みにじることは許されない、ということです。

放棄すると、いくら削られるか

放棄の場面の配当設例板。前回と同じ甲2000万円(B所有)・乙1000万円(B所有)・A(共同抵当・1番・1500万円)・C(甲の2番・1000万円)。今回はAが乙の抵当権を放棄してから甲を競売する。 図:放棄の場面の配当設例板

  • 前回と同じ甲2000万円(B所有)・乙1000万円(B所有)・A(共同抵当・1番・1500万円)・C(甲の2番・1000万円)
  • 今回はAが乙の抵当権を放棄してから甲を競売する

前回と同じ設例で計算します。甲2000万円、乙1000万円、Aは1500万円の共同抵当権者、Cは甲の2番で1000万円です。今回はAが乙の抵当権を放棄してから、甲を競売にかけます。

代位できたはずの額の計算板。同時配当だったらAが乙から受けられた額=1500万円×(1000万円÷(2000万円+1000万円))=500万円。 図:代位できたはずの額の計算板

まず、放棄さえなければCが代位できたはずの額を出します。これは、前回の同時配当と同じ計算で、Aが乙から受けられたはずの金額です。甲2000万円と乙1000万円の比は2対1なので、1500万円を按分すると、乙からの取り分は500万円になります。

放棄後の配当板。Aの優先限度=1500万円-500万円=1000万円(残り500万円は無担保の一般債権として残る)。Cの取り分=甲2000万円-1000万円=1000万円(債権全額を回収)。検算:A1000万円+C1000万円=甲の代価2000万円。比較(判例の制限がなかったら)=A1500万円・C500万円。 図:放棄後の配当板

  • Aの優先限度=1500万円-500万円=1000万円(残り500万円は無担保の一般債権として残る)
  • Cの取り分=甲2000万円-1000万円=1000万円(債権全額を回収)
  • 検算:A1000万円+C1000万円=甲の代価2000万円
  • 比較(判例の制限がなかったら)=A1500万円・C500万円

Aが甲で優先できるのは、1500万円からその500万円を引いた1000万円までです。残りの500万円は、担保のない普通の債権として残るだけになります。甲の残り1000万円を、Cが全額回収します。Cの取り分は結局いくらになるんですか。1000万円です。実は、放棄が無かったとき、つまり前回の同時配当や異時配当でのCの取り分と、まったく同じ額になっています。そうなるように、判例の規範が設計されています。もし判例の制限が無かったら、Aは1500万円を全額優先し、Cは残りの500万円にとどまるところでした。その差の500万円が、判例によって守られているんです。

ここから乙の持ち主を変える

場面転換板。ここから乙の持ち主がBではなく、物上保証人Dに変わる。Dは他人(B)の借金のために自分の乙を担保に入れた人。以前は一般債権者の役だったDだが、今日は物上保証人として登場する。 図:場面転換板

  • ここから乙の持ち主がBではなく、物上保証人Dに変わる
  • Dは他人(B)の借金のために自分の乙を担保に入れた人
  • 以前は一般債権者の役だったDだが、今日は物上保証人として登場する

ここから、乙の持ち主を変えます。これまで乙はBの持ち物でしたが、これからは、Bとは別の人であるDが乙を所有していることにします。今日のDは一般債権者ではなく、他人の借金のために自分の不動産を担保に入れる、物上保証人という立場で登場します。物上保証人が乙を持っているだけで、何が変わるんですか。大きく変わります。乙の持ち主がBでない以上、これまで見てきた392条2項後段の代位は使えません。あの代位は、目的の不動産がすべて同じ人の持ち物であることが前提だったからです。代わりに主役になるのが、これから見る弁済による代位です。

他人の借金を肩代わりした人の権利

499条・501条の全文カード背景。弁済による代位の骨格。他人の借金を肩代わりして払った人は、債権者が持っていた被担保債権と抵当権をそのまま引き継いで使える。 図:499条・501条の全文カード背景

  • 弁済による代位の骨格
  • 他人の借金を肩代わりして払った人は、債権者が持っていた被担保債権と抵当権をそのまま引き継いで使える

弁済による代位を定めた条文を確認します。

条文民法499条

民法第499条 債務者のために弁済をした者は、債権者に代位する。

条文民法501条1項・2項

民法第501条1項・2項 前二条の規定により債権者に代位した者は、債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができる。 前項の規定による権利の行使は、債権者に代位した者が自己の権利に基づいて債務者に対して求償をすることができる範囲内(保証人の一人が他の保証人に対して債権者に代位する場合には、自己の権利に基づいて当該他の保証人に対して求償をすることができる範囲内)に限り、することができる。

499条は、債務者のために弁済をした人は、債権者に代位する、と定めています。501条は、その代位した人が、債権者が持っていた権利をそのまま使えることを定めています。骨格は一点です。他人の借金を肩代わりして支払った人は、もともとその債権者が持っていた被担保債権と抵当権を、そのまま引き継いで使えるようになる、ということです。あちらは後順位抵当権者が使う代位、こちらは弁済をした人が使う代位で、別の仕組みです。今日は名前が同じ2つの代位を、しっかり区別しながら進めます。

弁済による代位の骨格図。Aが債権者、Bが債務者、Dが物上保証人(乙の抵当権を実行された)。Dの乙が競売されてAが全額の弁済を受けると、Dは①Bに対する求償権と、②Aが甲に持っていた1番抵当権の両方を手に入れる。 図:弁済による代位の骨格図

  • Aが債権者、Bが債務者、Dが物上保証人(乙の抵当権を実行された)
  • Dの乙が競売されてAが全額の弁済を受けると、Dは①Bに対する求償権と、②Aが甲に持っていた1番抵当権の両方を手に入れる

今日の場面に当てはめます。Aの抵当権がDの乙で実行されて、Aが全額の弁済を受けると、Dは、Bに対する求償権を手に入れます。求償権とは、以前見たとおり、肩代わりした分をBに「返して」と請求できる権利です。それと同時に、Aが甲に持っていた1番抵当権も、そのまま代位で手に入れます。求償権をきちんと回収できるように、Aの担保ごと引き継がせる。これが弁済による代位の狙いです。この土台の上で、甲の2番抵当権者Cとの優劣を見ていきます。

甲が先に売られたら

パターン①板。甲2000万円(B所有・Cの2番=1000万円)・乙1500万円(D所有・2番なし)にA(1500万円・1番・共同抵当)。甲を先に競売すると、Aは甲の代価から1500万円全額の優先弁済を受け(392条2項前段)、甲の残り500万円をCが取る(Cの債権1000万円のうち500万円しか回収できない)。Cは乙に代位できない(392条2項後段は目的物の所有者が同じ場合に限る)。乙1500万円はそのままDの手元に残る。 図:パターン①板

  • 甲2000万円(B所有・Cの2番=1000万円)・乙1500万円(D所有・2番なし)にA(1500万円・1番・共同抵当)
  • 甲を先に競売すると、Aは甲の代価から1500万円全額の優先弁済を受け(392条2項前段)、甲の残り500万円をCが取る(Cの債権1000万円のうち500万円しか回収できない)
  • Cは乙に代位できない(392条2項後段は目的物の所有者が同じ場合に限る)
  • 乙1500万円はそのままDの手元に残る

新しい設例です。甲は2000万円でB所有、2番のCは1000万円です。乙はD所有で、1500万円です。Aは1500万円の共同抵当権者です。まず、甲を先に競売する場合を考えます。甲を先に売る異時配当なので、Aは甲の代価から1500万円を全額回収できます。甲の残りは500万円で、ここをCが取りますが、Cの債権は1000万円ですから、半分の500万円で終わってしまいます。甲・乙がともにBの持ち物だった前回とは、ここで結論が分かれます。乙の持ち主はBではなくDなので、392条2項後段の代位は使えません。Cは乙にはまったく手が出せず、500万円で打ち止めになります。乙の1500万円は、誰にも取られずDの手元にそのまま残ります。

乙が先に売られたら

パターン②板。同じ設例で乙が先に競売される場合。乙の価額1500万円はAの被担保債権額と一致するため、Aは乙の代価から1500万円全額を回収(乙の残りは0円)。Dは①Bへの求償権1500万円、②499条・501条によりAが甲に持っていた1番抵当権を代位取得する。 図:パターン②板

  • 同じ設例で乙が先に競売される場合
  • 乙の価額1500万円はAの被担保債権額と一致するため、Aは乙の代価から1500万円全額を回収(乙の残りは0円)
  • Dは①Bへの求償権1500万円、②499条・501条によりAが甲に持っていた1番抵当権を代位取得する

今度は逆に、乙を先に競売する場合です。乙の価額はちょうど1500万円なので、Aはここから1500万円を全額回収し、乙の残りはゼロになります。少し考えてみてください。乙が競売されてAが全額回収したあと、物上保証人Dは何を手に入れると思いますか。今日の弁済による代位の骨格をヒントにしてみてください。Dは、Bへの求償権1500万円と、甲に対するAの1番抵当権を代位で取得します。

パターン②の甲の配当板。甲2000万円が競売され、Dの代位取得した1番抵当権が優先(1500万円回収)。甲の残り(2000万円-1500万円=500万円)をCが取る(Cの債権1000万円のうち500万円)。検算:D1500万円+C500万円=甲2000万円。全体の配当合計=A1500万円(乙から)+D1500万円+C500万円(甲から)=3500万円=売却代金合計(乙1500万円+甲2000万円)。 図:パターン②の甲の配当板

  • 甲2000万円が競売され、Dの代位取得した1番抵当権が優先(1500万円回収)
  • 甲の残り(2000万円-1500万円=500万円)をCが取る(Cの債権1000万円のうち500万円)
  • 検算:D1500万円+C500万円=甲2000万円
  • 全体の配当合計=A1500万円(乙から)+D1500万円+C500万円(甲から)=3500万円=売却代金合計(乙1500万円+甲2000万円)

続いて甲が競売されると、Dが代位で手に入れた1番抵当権が優先します。Dはここから1500万円を回収し、甲の残り500万円をCが取ります。Cの債権は1000万円ですから、やはり500万円で終わります。乙を先に売られても後から売られても、Cの取り分は変わりません。甲の配当を検算すると、Dの1500万円とCの500万円を足して2000万円になります。全体では、Aの1500万円とDの1500万円とCの500万円を足して3500万円です。これは、乙1500万円と甲2000万円を足した売却代金の合計と一致します。

なぜCではなくDが優先するのか

判旨の要点板。物上保証人は、他の共同抵当物件(甲)から求償の満足を得られるという期待をもって担保を差し出している。後から甲に後順位抵当権が設定されても、その期待は害されない。 図:判旨の要点板

  • 物上保証人は、他の共同抵当物件(甲)から求償の満足を得られるという期待をもって担保を差し出している
  • 後から甲に後順位抵当権が設定されても、その期待は害されない

ここで気になるのは、なぜCではなくDが優先するのか、という理由です。判例の理由は、大きく二つです。一つはDの期待を守ること、もう一つは、Cはもともと損をする立場にない、ということです。ここは論文でも論点になりうるところです。

判例最判昭和44年7月3日・最高裁第一小法廷判決

物上保証人と後順位抵当権者の優劣 第二順位の抵当権者と物上保証人との関係についてみるに……物上保証人としては、他の共同抵当物件である甲不動産から自己の求償権の満足を得ることを期待していたものというべく、その後に甲不動産に第二順位の抵当権が設定されたことにより右期待を失わしめるべきではない……第二順位の抵当権者のする代位と物上保証人のする代位とが衝突する場合には、後者が保護されるのであつて、甲不動産について競売がされたときは、もともと第二順位の抵当権者は、乙不動産について代位することができないものであり、共同抵当権者が乙不動産の抵当権を放棄しても、なんら不利益を被る地位にはないのである。

物上保証人は、自分の乙がダメになったときは、もう一つの共同抵当物件である甲から、求償の満足を得られるはずだと期待して担保を差し出しています。その後になって甲に2番抵当権が設定されたからといって、その期待を壊してよい理由にはなりません。ただ判例はこう続けます。甲がもし先に競売されていたら、Cはもともと乙に代位することなどできない立場でした。だから、Dが乙から代位して甲に来たとしても、Cは何か特別に不利益を受ける地位にあったわけではない、ということです。判旨の最後の一文も、同じ理屈です。乙がDの持ち物なら、Aが乙の抵当権を放棄しても、Cはもともと乙に代位できません。ですから、前半で見たようにAの優先が削られることもないんです。

それに、もしここでCを優先させてしまうと、物上保証人を害するために、わざと債務者の不動産にだけ後順位抵当権を設定する、という濫用的なやり方を許すことにもなりかねません。だから判例は、Dを優先させているんです。この借金を最終的に負担すべきなのは、債務者のBです。Dは、Bの借金のために自分の乙を差し出しただけの人です。だから、肩代わりした分を、Bの持ち物である甲から取り戻せるようにするのが筋です。その負担を最終的に負うべきなのは誰か。この物差しで見ると、Dが優先するのは自然な結論なんです。

乙にも後順位者がいたら

パターン③板。同じ甲2000万円(B所有・Cの2番=1000万円)・乙1500万円(D所有)の設例に、さらに乙にE(D所有不動産の2番・被担保債権600万円)が加わる。乙が先に競売されると、Aが乙の代価1500万円全額を回収し、Eはこの時点では乙から一切回収できない。 図:パターン③板

  • 同じ甲2000万円(B所有・Cの2番=1000万円)・乙1500万円(D所有)の設例に、さらに乙にE(D所有不動産の2番・被担保債権600万円)が加わる
  • 乙が先に競売されると、Aが乙の代価1500万円全額を回収し、Eはこの時点では乙から一切回収できない

もう一つ、条件を足します。乙にも後順位の抵当権者がいる場合です。乙に、Dが自分で設定した2番抵当権があり、その持ち主をEとします。今日のEは、この乙の2番抵当権者という立場で登場します。被担保債権は600万円です。乙の価額は1500万円です。Aの被担保債権も1500万円ちょうどなので、Aが全額を持っていってしまいます。この時点でEはまったく回収できません。本来なら、Eの2番抵当権は乙の売却で消滅してしまうところです。

判例最判昭和53年7月4日・最高裁第三小法廷判決

物上保証人所有不動産の後順位抵当権者の優先 後順位抵当権者は、共同抵当の目的物のうち債務者所有の不動産の担保価値ばかりでなく、物上保証人所有の不動産の担保価値をも把握しうるものとして抵当権の設定を受けているのであり、一方、物上保証人は、自己の所有不動産に設定した後順位抵当権による負担を右後順位抵当権の設定の当初からこれを甘受しているものというべきであつて……物上保証人に移転した一番抵当権は後順位抵当権者の被担保債権を担保するものとなり、後順位抵当権者は、あたかも、右一番抵当権の上に民法三七二条、三〇四条一項本文の規定により物上代位をするのと同様に、その順位に従い、物上保証人の取得した一番抵当権から優先して弁済を受けることができるものと解すべきであるからである。

そこで判例は、Eを救う道を用意しています。Eの抵当権が付いていた乙は、売られてなくなりました。けれども、乙の代金でAに払った代わりに、Dは甲の1番抵当権を手に入れています。いわば乙が姿を変えたものです。そこでEは、その甲の1番抵当権の上に、まるで372条・304条1項の物上代位のような形で乗り移り、Dより先に弁済を受けられるとしているんです。判旨のいう理由も一点です。Eは、乙という不動産だけでなく、共同抵当のもう一方の甲の担保価値にも及ぶことを期待して抵当権の設定を受けています。一方でDは、自分で乙にEのための2番抵当権を設定した以上、その負担を最初から引き受けているはずだ、という考え方です。だからEはDより優先されます。

パターン③の甲の配当板。甲2000万円の配当は、Eが優先して600万円(乙の2番の被担保債権額)を取り、残り(1500万円-600万円=900万円)をDが取り、さらに甲の残り(2000万円-600万円-900万円=500万円)をCが取る。検算:E600万円+D900万円+C500万円=甲2000万円。全体の配当合計=A1500万円(乙から)+E600万円+D900万円+C500万円(甲から)=3500万円=売却代金合計(乙1500万円+甲2000万円)。 図:パターン③の甲の配当板

  • 甲2000万円の配当は、Eが優先して600万円(乙の2番の被担保債権額)を取り、残り(1500万円-600万円=900万円)をDが取り、さらに甲の残り(2000万円-600万円-900万円=500万円)をCが取る
  • 検算:E600万円+D900万円+C500万円=甲2000万円
  • 全体の配当合計=A1500万円(乙から)+E600万円+D900万円+C500万円(甲から)=3500万円=売却代金合計(乙1500万円+甲2000万円)

数字で確かめます。甲2000万円の配当は、まずEが600万円を優先して受け取り、残り900万円をDが取ります。甲のさらに残り500万円をCが取ります。パターン②との違いは、Eがいるかどうかです。Eがいなければ、Dは甲から1500万円を満額回収できました。Eがいると、Dの取り分はEの分だけ削られて900万円になります。Dが自分でEのために抵当権を設定した以上、その負担からは逃れられません。甲の配当を検算すると、Eの600万円とDの900万円とCの500万円を足して2000万円になります。全体では、Aの1500万円とEの600万円とDの900万円とCの500万円を足して3500万円になり、売却代金の合計と一致します。

一本の物差しで振り返る

まとめ板。放棄の場面=共同抵当権者は自分の都合で後順位抵当権者の代位の期待を壊せない(504条類推)。物上保証人の場面=物上保証人は他人の借金のために財産を提供した者であり、債務者所有不動産から回収できるという期待は保護される(後順位抵当権者Cに優先)一方、自分で設定した後順位抵当権の負担からは逃れられない(後順位抵当権者Eには劣後)。共通するのは「誰が最終的にその負担を負うべきか」という一点。 図:まとめ板

  • 放棄の場面=共同抵当権者は自分の都合で後順位抵当権者の代位の期待を壊せない(504条類推)
  • 物上保証人の場面=物上保証人は他人の借金のために財産を提供した者であり、債務者所有不動産から回収できるという期待は保護される(後順位抵当権者Cに優先)一方、自分で設定した後順位抵当権の負担からは逃れられない(後順位抵当権者Eには劣後)
  • 共通するのは「誰が最終的にその負担を負うべきか」という一点

今日見た2つの場面を振り返ります。放棄の場面では、共同抵当権者は自分の都合で放棄しておきながら、それによって後順位抵当権者の代位への期待を一方的に壊すことはできませんでした。物上保証人は、他人の借金のために自分の財産を差し出した人です。その財産が競売されて肩代わり弁済をしたら、債務者の財産から回収できるという期待は保護され、その財産の後順位抵当権者よりも優先されます。ただし、自分で自分の財産に設定した後順位抵当権の負担からは、逃れられません。放棄の場面も物上保証人の場面も、根っこにあるのは「誰が最終的にその負担を負うべきか」という一つの物差しです。この物差しに沿って、代位できる範囲や優劣が決まっているんです。

参照条文

  • 民法504条1項
  • 民法499条
  • 民法501条1項・2項

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