根抵当権の意義と性質
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第3章 担保物権 #135/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
そのたびに登記をするのか
図:冒頭の場面板
- 卸売業者Aが小売店Bに毎月商品を卸し、Bが翌月末に代金を払う継続的な取引
- 月ごとに代金債権が生まれては消える様子を矢印の点滅イメージで示す
今までの抵当権は、1つの決まった債権のための担保でした。でもこの関係では、代金債権が毎月生まれては消えるを繰り返します。1月分の債権のために抵当権を設定しても、Bが払い終えれば、付従性でその抵当権は消えてしまいます。それでは現実に回りません。今日学ぶ根抵当権は、この困りごとをまるごと解決する、まったく別の設計の担保です。
特定の1個の債権のためではない担保
図:398条の2第1項の全文カード背景
根抵当権を定める条文を読みます。
条文民法398条の2第1項
民法第398条の2第1項 抵当権は、設定行為で定めるところにより、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するためにも設定することができる。
普通の抵当権は、「AがBに貸した1000万円」という、特定の1個の債権のために設定されます。これに対して根抵当権は、特定の1個の債権のためではなく、「A・B間の卸売取引から生じる債権」という範囲そのものに対して設定されます。この範囲の中でどの債権が生まれてどの債権が消えても、根抵当権という枠自体は残り続けます。この枠のおかげで、極度額という上限さえ決めておけば、個々の代金債権のたびに抵当権を設定し直す必要がなくなります。
消えても、枠は残る
図:付従性否定の一言板
- 成立における付従性の否定=被担保債権がまだ発生していなくても根抵当権を設定できる
- 消滅における付従性の否定=ある月の代金債権がゼロになっても根抵当権は消えず、翌月の新しい代金債権を担保し続ける
以前、担保物権の通有性として、成立における付従性と消滅における付従性を学びました。根抵当権では、この両方が働きません。成立における付従性の否定とは、被担保債権がまだ1個も発生していなくても、根抵当権をあらかじめ設定できる、ということです。AB間の卸売取引を始める前、まだ代金債権が1つも生まれていない段階で、A は根抵当権を先に設定しておけます。ある月末に B が全部払って、その月の代金債権がゼロになったとします。普通の抵当権なら、消滅における付従性でここに抵当権も消えます。ですが根抵当権は消えません。翌月にまた新しい代金債権が生まれれば、同じ根抵当権がそれを担保し続けます。
根抵当権が押さえているのは、特定の1個の債権ではなく、「範囲」そのものです。中身の債権が入れ替わっても、枠自体は影ではないので、消える理由がないんです。
1本だけ持ち出すことはできない
図:随伴性否定の場面板
- 元本確定前に、Aがある月の売掛代金債権を第三者Xに譲渡しても、Xはその債権について根抵当権を行使できない
- 第三者YがBに代わってその月の代金を弁済しても、弁済による代位で根抵当権を行使できない
続いて随伴性です。普通の抵当権なら、被担保債権が譲渡されると、抵当権も一緒に、譲り受けた人へ移ります。根抵当権では、ここも否定されます。条文に出てくる「元本の確定」とは、担保される債権の顔ぶれが、ある時点で締め切られて固まることです。確定前というのは、まだ債権が枠に出入りしている途中、という意味です。では、398条の7第1項を読みます。
条文民法398条の7第1項
民法第398条の7第1項 元本の確定前に根抵当権者から債権を取得した者は、その債権について根抵当権を行使することができない。元本の確定前に債務者のために又は債務者に代わって弁済をした者も、同様とする。
元本確定前に、A がある月の売掛代金債権を第三者に譲渡したとします。普通の抵当権なら抵当権も一緒に移るはずでしたが、根抵当権では、譲り受けた人はその債権について根抵当権を使えません。第三者が B に代わってその月の代金を払っても、弁済による代位によって根抵当権を代位行使することはできません。理由は付従性のときと同じです。根抵当権は特定の1個の債権のためのものではなく、範囲全体に対する枠なので、1本の債権だけを取り出して、根抵当権と一緒に持ち出すことができないんです。今の説明のとおり、行使できません。X が手に入れるのは、根抵当権の付いていない、ただの代金債権だけです。
今日は、確定前は枠に債権の出入りがある、とだけ押さえておいてください。
範囲を絞らないと、際限なく縛られる
図:範囲の限定と包括根抵当否定の板
- 根抵当権の被担保債権は一定の範囲に属する債権に限定しなければならない
- 当事者間に生ずる一切の債権を担保する包括根抵当は認められない
根抵当権にはもう1つ、大事な縛りがあります。398条の2の第2項と第3項です。
条文民法398条の2第2項・第3項
民法第398条の2第2項・第3項 前項の規定による抵当権(以下「根抵当権」という。)の担保すべき不特定の債権の範囲は、債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるものその他債務者との一定の種類の取引によって生ずるものに限定して、定めなければならない。 特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権、手形上若しくは小切手上の請求権又は電子記録債権(電子記録債権法(平成十九年法律第百二号)第二条第一項に規定する電子記録債権をいう。次条第二項において同じ。)は、前項の規定にかかわらず、根抵当権の担保すべき債権とすることができる。
当事者間に生じる一切の債権をまとめて担保する設定は、包括根抵当と呼ばれ、認められていません。範囲の例は、AB間の卸売取引契約のような特定の継続的取引契約や、売買取引一般のような一定の種類の取引、それに手形・小切手上の請求権や電子記録債権です。なぜ、一切の債権を担保する設定は禁止されているんですか。範囲を絞らないと、B が際限なく縛られてしまうからです。もし包括根抵当が許されると、A・B間の卸売取引とはまったく関係のない、B の個人的な借金までいつの間にか同じ根抵当権で担保されることになりかねません。範囲を「この取引から生じる債権」に限定することで、B が自分でも把握できる形に縛りを収めているんです。
必ず決めること・決めなくてもよいこと
図:設定行為の一覧板
- 必ず決める=担保する不動産・債権の範囲・債務者・極度額
- 決めなくてもよい=確定期日(決める場合は5年以内)
根抵当権を設定するときに、必ず決めなければならないことと、決めなくてもよいことを整理します。必ず決めるのは、担保する不動産、債権の範囲、債務者、そして極度額です。冒頭の場面なら、Bの土地、AB間の卸売取引から生じる債権、債務者のB、そして極度額、たとえば3000万円。この4つを決めることになります。決めなくてもよいものもあるんですか。あります。確定期日です。これは、元本がいつ確定するかをあらかじめ決めておく期日で、決めても決めなくてもかまいません。ただし決める場合は、その日から5年以内でなければなりません。
条文民法398条の6第1項・第3項
民法第398条の6第1項・第3項 根抵当権の担保すべき元本については、その確定すべき期日を定め又は変更することができる。 第一項の期日は、これを定め又は変更した日から五年以内でなければならない。
この対比は、このあと見る確定前の変更のルールに、そのままつながっていきます。ここで、375条の回を思い出してください。普通の抵当権で、利息や遅延損害金は、どこまで優先弁済を受けられましたか?375条で、最後の2年分まででした。後順位者や一般債権者が、登記簿だけを見て、これくらいまでしか持っていかれないと見積もれるようにするための制限でしたね。それが今日の話と関係あるんですか。大ありです。根抵当権では、この375条がまったく働きません。なぜそうなるのか、これから見ていきましょう。
極度額まるごとで担保する
図:398条の3第1項の全文カード背景
- 極度額を限度として、確定した元本と、利息その他の定期金及び債務不履行による損害賠償の全部を担保する
- 375条の「最後の2年分」の制限は適用されない
条文民法398条の3第1項
民法第398条の3第1項 根抵当権者は、確定した元本並びに利息その他の定期金及び債務の不履行によって生じた損害の賠償の全部について、極度額を限度として、その根抵当権を行使することができる。
根抵当権者は、確定した元本と、利息やその他の定期金、それに損害賠償を、極度額を限度として全部、優先弁済を受けられます。普通の抵当権のように、利息・損害金を最後の2年分に切る、という制限はありません。375条が2年分に制限していた理由は、後順位者が登記簿だけを見ても、未払いの利息が何年分溜まっているか読み取れないからでした。ところが根抵当権では、極度額そのものが登記されています。後順位者のCは、最初から「Aはこの土地から、この極度額までは優先的に持っていく」と分かった上で、後から抵当権を設定しているんです。375条が守ろうとした予測可能性を、極度額の登記という別の方法で、しかもより直接的に確保しているので、375条の出番がないんです。
極度額3000万円で、数字を確かめる
図:数字例の設定板
- Bの土地に、Aが1番で根抵当権(極度額3000万円)、Cが2番抵当権を設定
- 元本確定時にAの売掛代金の元本が2400万円
数字で確かめましょう。Bの土地に、Aが1番で根抵当権を設定し、極度額は3000万円です。Cが2番抵当権を持っています。元本確定時に、Aの売掛代金の元本が2400万円だったとします。支払いが遅れた分の遅延損害金です。まず、年200万円ずつ、3年分の支払いが遅れていたケースを見ます。
図:ケース①板
- 遅延損害金=年200万円×3年=600万円
- 合計=2400万円+600万円=3000万円=極度額ちょうど
- Aは3000万円全額について優先弁済を受けられる
200万円かける3年で、遅延損害金は600万円です。元本の2400万円と足すと、ちょうど3000万円、極度額と一致します。Aは、この3000万円の全額について、優先弁済を受けられます。375条なら、損害金は最後の2年分、400万円までしか担保されません。2400万円と400万円で、合計2800万円です。3年目の分の200万円は、無担保になります。つまり、極度額の枠の中では、根抵当権のほうがAをより厚く保護しているんです。その代わり、枠の外は一切担保されません。
図:ケース②板
- 遅延損害金が4年分に伸びた場合=年200万円×4年=800万円
- 合計=2400万円+800万円=3200万円
- 極度額3000万円を超えるため、根抵当権でも3000万円で頭打ちになり、超える200万円は無担保の一般債権にとどまる
4年分、800万円まで膨らんだとします。元本の2400万円と足して、合計で3200万円。極度額の3000万円を超えてしまいます。この場合、根抵当権でも3000万円で頭打ちです。超えた200万円は、担保のない普通の債権として残るだけになります。
図:土地の売却代金での検算板
- 損害金4年分・Aの債権3200万円のケースの続き
- 土地の売却代金3200万円、Cの債権額500万円とすると、Aが極度額の範囲で3000万円を優先取得し、残り200万円をCが取得する(Aの債権のうち200万円、Cの債権500万円のうち300万円は無担保のまま残る)。Aの3000万円とCの200万円で合計3200万円となり、売却代金と一致する。
この4年分のケースのまま、土地の売却代金で検算してみましょう。Aの債権は3200万円、売却代金も同じく3200万円、Cの債権が500万円だとします。Aは極度額の範囲で3000万円を優先取得し、残りの200万円をCが取ります。Cの債権500万円のうち、300万円は無担保のまま残ります。Aの3000万円とCの200万円で、売却代金とぴったり一致しますね。
中身が変わっても、枠は動かない
図:398条の4の全文カード背景
- 元本確定前は担保すべき債権の範囲・債務者を変更できる
- 後順位抵当権者その他の第三者の承諾は不要
- ただし元本確定前に登記をしなければ、変更をしなかったものとみなされる
条文民法398条の4
民法第398条の4 元本の確定前においては、根抵当権の担保すべき債権の範囲の変更をすることができる。債務者の変更についても、同様とする。 前項の変更をするには、後順位の抵当権者その他の第三者の承諾を得ることを要しない。 第一項の変更について元本の確定前に登記をしなかったときは、その変更をしなかったものとみなす。
さっき必ず決めると言ったもののうち、債権の範囲と債務者は、元本確定前なら後から変更できます。しかもこの変更には、後順位抵当権者その他の第三者の承諾がいりません。ここで、冒頭の2つ目の言葉、見えている上限額が効いてきます。範囲や債務者が変わっても、極度額、つまりCから見た上限額そのものは動きません。Cが最初に登記を見て見積もっていた「取られる上限」は変わらないので、Cの承諾は不要なんです。たとえば、卸売取引に加えて、AがBにお金を貸す取引まで範囲を広げたとします。担保される債権の種類は増えますが、Aが持っていけるのは3000万円まで。Cが最初に覚悟していた「最悪でも3000万円まで」という線は動きません。
ただし1つ条件があります。この変更は、元本確定前に登記をしなければ、変更をしなかったものとみなされます。つまりこの登記は、単なる対抗要件ではなく、変更が効力を持つための要件そのものです。
上限額が動くときだけ、承諾がいる
図:398条の5の全文カード背景
- 極度額の変更は利害関係を有する者の承諾を得なければすることができない
- 増額なら後順位抵当権者・差押債権者、減額なら転抵当権者などが「利害関係を有する者」にあたる
条文民法398条の5
民法第398条の5 根抵当権の極度額の変更は、利害関係を有する者の承諾を得なければ、することができない。
極度額の変更は、利害関係を有する者の承諾がなければできません。増やせば、後ろにいる後順位抵当権者や差押債権者の取り分が削られます。減らせば、この根抵当権を自分の債権の担保に取っている転抵当権者の取り分が削られます。だから、それぞれの人が、この利害関係を有する者にあたります。極度額は、Cから見える「上限額」そのものです。範囲や債務者の変更とは違って、これが動くと、Cが最初に立てていた見積もりそのものが崩れてしまいます。だから承諾が必要になる。範囲・債務者の変更とは、要件がまったく別なんです。さっきの検算を使います。Aの債権が3200万円、売却代金も3200万円のとき、極度額が3000万円なら、Cは200万円を受け取れました。もしCの承諾なしに、極度額が4000万円まで上げられたら、Aが3200万円を全部取り、Cの取り分はゼロになります。だから、Cの承諾が要るんです。
確定した瞬間、範囲は固まる
図:元本の確定を名前だけ立てる板
- 元本の確定=ある時点で、そのとき残っている債権だけに担保される状態に固まること
- 確定事由・確定後の効果は次回
ここまで、「元本確定前」という言葉を何度も使ってきました。最後に、確定の中身を例で確かめます。たとえば確定の瞬間に、3月分と4月分の代金債権が残っていたとします。担保されるのはこの2本だけで、5月分以降の新しい代金債権は、もう枠に入ってきません。固まった後は、普通の抵当権に近い性質に変わっていきます。
対抗要件と、もう1つの根抵当権
図:登記と共同根抵当の一言板
- 根抵当権も物権であり対抗要件は登記(177条)
- 共同根抵当は、設定と同時に数個の不動産に根抵当権を設定した旨の登記をした場合に限り、共同抵当のルールが適用される(398条の16)
最後に2点だけ、短く触れておきます。根抵当権も物権である以上、対抗要件は登記です。もう1点、根抵当権を複数の不動産にまとめて設定することもできます。これを共同根抵当といいますが、設定と同時に、同一の債権を担保するために数個の不動産に根抵当権を設定した旨の登記をした場合に限って、共同抵当のルールが適用されます。この登記がない場合にどうなるかは、また別の機会に扱います。
範囲をまとめる枠と、見えている上限額
図:普通の抵当権と根抵当権(元本確定前)の比較板。列=普通の抵当権/根抵当権(元本確定前)/理由。行=被担保債権(特定の1個の債権/一定の範囲に属する不特定の債権)、付従性(あり/なし=範囲をまとめる枠で特定の債権の影ではない)、随伴性(あり/なし=1本の債権だけを持ち出せない)、375条(適用あり=最後の2年分/適用なし=極度額が登記で見えている)、担保する範囲(—/一定の範囲に限定・包括根抵当は不可=際限なく縛られない)、変更の承諾(—/範囲・債務者=不要・極度額=利害関係人の承諾が必要=上限額が動くか)。
今日見てきたことを、普通の抵当権と並べて振り返ります。根抵当権は、一定の範囲に属する不特定の債権を、極度額の限度で担保する枠でした。この枠だからこそ、付従性も随伴性も働きません。極度額の登記そのものが、後順位者にとっての予測可能性を確保しているので、最後の2年分に切る375条の出番がないんです。範囲を絞らなければならず、包括根抵当が許されないのも、B が際限なく縛られないようにするためでした。確定前の変更で、承諾がいる場合といらない場合が分かれるのも、結局は同じ話ですね。上限額そのものが動くかどうか。範囲をまとめる枠であることと、その上限額が後順位者から見えていること。この2つで、今日見た違いは全部説明がつきます。冒頭で悩んでいた、毎月登記をし直すのかという問題も、この枠の仕組みのおかげで解決していましたね。
参照条文
- 民法398条の2第1項
- 民法398条の7第1項
- 民法398条の2第2項・第3項
- 民法398条の6第1項・第3項
- 民法398条の3第1項
- 民法398条の4
- 民法398条の5