根抵当権の元本の確定
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第3章 担保物権 #136/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
いつ、ただの抵当権に戻るのか
図:冒頭の場面板
- BがAとの卸売取引をやめたいと思っている
- Bの土地には、Aの根抵当権(1番・極度額3000万円)とCの2番抵当権が付いたまま
- 枠は開いたままなのか、という問い
前回、根抵当権は、債権が出入りする枠だと見ました。ですがその出入りには、必ず終わりが来ます。今日は、その終わりの瞬間、元本の確定を扱います。確定した瞬間に、根抵当権はただの抵当権に近づいていきます。何が締め切られて、何がそのまま残るのか、順番に見ていきましょう。
締め切られた瞬間に、何が固まるのか
図:確定の意味の板
- 確定=その時点で残っている債権だけが担保される状態に固まること
- 以後の新しい代金債権はもう枠に入らない
- 確定後に発生する利息・遅延損害金は、極度額の限度でなお担保される
冒頭の場面に戻ります。仮に、確定の瞬間に、まだBが払っていない売掛代金の元本が2400万円残っていたとします。確定の瞬間に残っていた債権は、そのまま担保され続けます。大事なのは、その先です。確定した後、Bがもし新しい商品をAから仕入れても、その新しい代金債権は、もうこの根抵当権には入ってきません。締め切られた後に残るのは、その時点で残っていた2400万円だけです。ただし、この2400万円の支払いがさらに遅れて、遅延損害金が発生することはあります。この損害金は、確定後に生まれた金額でも、極度額の限度でなお担保されます。この点は、後でもう一度数字で確かめます。
締め切りの合図は3つある
図:確定の3つのルート一覧板
締め切りの合図は、3つに整理できます。1つ目は、あらかじめ決めておいた期日が来ること。2つ目は、当事者が締め切りを求めること。3つ目は、取引を続けられない出来事が起きることです。1つずつ、なぜそれが締め切りの合図になるのかまで見ていきましょう。
あらかじめ日付を決めておく
図:398条の6の全文カード背景
- 根抵当権者と設定者は確定すべき期日を定め・変更できる
- 期日は定め又は変更した日から5年以内
- 期日の変更に第三者の承諾は不要
- 変更前の期日より前に登記をしなければ、変更前の期日に確定する
以前、確定期日は決めても決めなくてもよいと見ました。この期日そのものを定めた条文を読みます。
条文民法398条の6
民法第398条の6 根抵当権の担保すべき元本については、その確定すべき期日を定め又は変更することができる。 第三百九十八条の四第二項の規定は、前項の場合について準用する。 第一項の期日は、これを定め又は変更した日から五年以内でなければならない。 第一項の期日の変更についてその変更前の期日より前に登記をしなかったときは、担保すべき元本は、その変更前の期日に確定する。
5年以内、というのは、なぜですか。期日を何十年も先に設定できると、根抵当権が事実上ずっと固定されてしまうからです。5年ごとに、当事者が改めて期日を見直す機会を作っています。期日が動いても、極度額という上限額そのものは動きません。Cが登記で見積もっていた最悪の金額は変わらないので、承諾はいらないんです。範囲・債務者の変更と似ていますが、効果が少し違います。範囲や債務者の変更は、登記をしなければ「変更しなかったもの」とみなされました。期日の変更は、登記をしなければ「変更前の期日に確定してしまう」んです。どちらも登記が効力の要件になっている点は同じですが、結果の出方が違います。
縛られる年数が、AとBで違う理由
図:398条の19の全文カード背景
- 確定期日の定めがない場合に適用
- 設定者Bは設定から3年経過で確定請求でき、請求から2週間で確定
- 根抵当権者Aはいつでも確定請求でき、請求の時に確定
確定期日を決めていなかった場合、当事者は「確定してほしい」と請求することができます。読んでみます。
条文民法398条の19
民法第398条の19 根抵当権設定者は、根抵当権の設定の時から三年を経過したときは、担保すべき元本の確定を請求することができる。この場合において、担保すべき元本は、その請求の時から二週間を経過することによって確定する。 根抵当権者は、いつでも、担保すべき元本の確定を請求することができる。この場合において、担保すべき元本は、その請求の時に確定する。 前二項の規定は、担保すべき元本の確定すべき期日の定めがあるときは、適用しない。
Bだけが長く待たされるのは一見不公平に見えますが、それぞれの立場を考えると理由があります。Bは自分の土地が枠に縛られている立場です。枠に出入りがある限り、土地を自由に使いにくいですし、後順位の抵当権を設定しようとしても評価が下がります。ただし請求された瞬間に確定すると、Aは取引をどう続けるかや、別の担保を用意するかを考える間もありません。Aへの不意打ちを避けるために、請求から2週間の猶予を置いています。Aが確定を急いでも、枠が縮んで新しい債権が入らなくなるだけで、Bに不利益は生じません。むしろ担保される債権が減る方向なので、期間の制限も猶予も必要ないんです。
取引を続けられなくなったとき
図:398条の20の全文カード背景
- 競売・担保不動産収益執行・304条差押えの申立て(手続開始・差押えがあった場合)、滞納処分による差押え、それを知ってから2週間経過、債務者・設定者の破産手続開始決定
- いずれも取引継続の前提が崩れたことの現れ
3つ目の合図は、当事者の意思とは関係なく、一定の出来事が起きることで確定する場合です。
条文民法398条の20第1項
民法第398条の20第1項 次に掲げる場合には、根抵当権の担保すべき元本は、確定する。 一 根抵当権者が抵当不動産について競売若しくは担保不動産収益執行又は第三百七十二条において準用する第三百四条の規定による差押えを申し立てたとき。ただし、競売手続若しくは担保不動産収益執行手続の開始又は差押えがあったときに限る。 二 根抵当権者が抵当不動産に対して滞納処分による差押えをしたとき。 三 根抵当権者が抵当不動産に対する競売手続の開始又は滞納処分による差押えがあったことを知った時から二週間を経過したとき。 四 債務者又は根抵当権設定者が破産手続開始の決定を受けたとき。
競売や差押え、破産といった出来事ですね。なぜこれらが起きると、締め切られるんですか。どれも、もう通常どおり取引を続けられる状態ではない、という現れだからです。競売にかけられれば土地は売られていきますし、破産すれば債務者の財産関係は清算に向かいます。こうなった以上、配当や換価をするためには、その時点で担保される元本をどこかで固定する必要があります。2号の滞納処分とは、税金などの滞納に対して、国や自治体が裁判所を通さずに行う差押えのことです。例えば、2番抵当権者のCが、Bの土地の競売を申し立てたとします。Aが自分で申し立てたわけではないので、Aは気づかないまま、Bに商品を売り続けているかもしれません。開始の瞬間に確定させると、担保があるつもりで売った代金が、実は枠に入っていなかったことになってしまいます。だから、Aが知ってから2週間という区切りを置いて確定させるんです。
相続が起きたときの締め切り
図:398条の8の一言板
- 薄
- 元本確定前に根抵当権者・債務者について相続が開始したとき、相続開始時に存する債権に加え、相続人と設定者の合意で定めた相続人が相続開始後に取得する債権も担保できる。合意についての登記を相続開始後6か月以内にしなければ、相続開始の時に確定したものとみなされる。
もう1つだけ、軽く触れておきます。元本確定前に、AやBについて相続が起きた場合です。そのままでは確定しません。例えば、卸売をしていたAが亡くなり、息子がAの店を継いで、これからもBに商品を売り続けるとします。売り手が替わっても取引が続くなら、枠を閉じる理由はありませんよね。そこで、相続人と設定者の合意で、店を継いだ相続人が相続後に取得する債権も、この枠で担保する扱いにできます。ただし、この合意について、相続開始から6か月以内に登記をしないと、相続が開始した時にさかのぼって確定したものとみなされてしまいます。店を継ぐかどうかを決める猶予は与えつつ、枠が閉じたのか開いたままなのか分からない状態を、後順位のCなどのために、いつまでも放置しないための期限です。
合意しただけで安心せず、期限内に登記まで済ませないと、締め切りの効果が発生してしまう。確定が擬制される一例として押さえておいてください。
枠が開いている間しかできないこと
図:確定の前にだけできること・後もできることの一覧板
- 範囲・債務者の変更(398条の4)/確定期日の変更(398条の6)/根抵当権の譲渡(全部・分割・一部)
- 理由=枠に出入りがある前提の制度だから
- 一方、確定の前後を問わずできること=極度額の変更(398条の5・利害関係を有する者の承諾が必要)/転抵当(確定前は376条1項の処分のうちこれだけ・398条の11)
ここで一度、確定前にしかできないことを整理します。以前見た、範囲・債務者の変更や、今日見た確定期日の変更、これらは、確定前でなければできません。一方、極度額の変更は、確定の後でも、利害関係を有する者の承諾があればできます。上限額を動かす話で、枠への出入りとは関係がないからです。なぜ確定前に限られるんですか。これらの制度は、枠にまだ出入りがある、という前提があって初めて意味を持つからです。確定した後は、担保される債権はもう固定されているので、範囲や債務者を変える必要も、変える余地もありません。加えて、根抵当権そのものを他人に譲ることもできます。読んでみます。
条文民法398条の12
民法第398条の12 元本の確定前においては、根抵当権者は、根抵当権設定者の承諾を得て、その根抵当権を譲り渡すことができる。 根抵当権者は、その根抵当権を二個の根抵当権に分割して、その一方を前項の規定により譲り渡すことができる。この場合において、その根抵当権を目的とする権利は、譲り渡した根抵当権について消滅する。 前項の規定による譲渡をするには、その根抵当権を目的とする権利を有する者の承諾を得なければならない。
条文民法398条の13
民法第398条の13 元本の確定前においては、根抵当権者は、根抵当権設定者の承諾を得て、その根抵当権の一部譲渡(譲渡人が譲受人と根抵当権を共有するため、これを分割しないで譲り渡すことをいう。以下この節において同じ。)をすることができる。
全部を渡す、2つに分けて片方を渡す、それに、分けずに共有する形で一部を渡す。どの形でも、設定者の承諾が必要です。分割譲渡は、さらに転抵当権者など、その根抵当権を目的とする権利を持つ人の承諾もいります。確定前の根抵当権は、枠そのものです。譲渡は、その枠ごと、あるいは枠の一部を渡す行為です。確定後は、すでに特定の債権に固まっているので、これはもう根抵当権付きの債権の譲渡の話です。債権が移れば担保も一緒に移る、つまり随伴性で片がつくので、この譲渡の制度は使えなくなります。もう1つ、抵当権の処分についても復習します。
条文民法398条の11
民法第398条の11 元本の確定前においては、根抵当権者は、第三百七十六条第一項の規定による根抵当権の処分をすることができない。ただし、その根抵当権を他の債権の担保とすることを妨げない。 第三百七十七条第二項の規定は、前項ただし書の場合において元本の確定前にした弁済については、適用しない。
確定前は、転抵当だけができて、それ以外の376条1項の処分はできません。理由は、譲渡のときと同じです。根抵当権は、特定の1個の債権のためのものではなく、範囲全体に対する枠なので、1本の債権だけを取り出して一緒に持ち出すことができないんです。転抵当だけが許されるのは、枠から債権を取り出さないからです。以前見たとおり、転抵当は、Aが自分の抵当権そのものを、自分の借金の担保に差し入れることでした。根抵当権なら、枠をまるごと差し入れるだけなので、中の債権の出入りは、そのまま続けられます。
締め切られた後、性質はどう変わるか
図:確定後に戻る性質・残る性質の板
- 戻る=付従性(弁済すれば消える)・随伴性(譲渡で移る、代位弁済で代位できる)
- 残る=極度額の枠・375条不適用(確定後に生じた利息・損害金も極度額まで担保される)
ここからが今日の一番大事なところです。確定した後、根抵当権の性質はどう変わるでしょうか。以前、確定前に売掛代金債権を第三者Xに譲渡しても、Xはその根抵当権を行使できないと見ました。確定後はどうなるでしょうか。できます。確定した以上、担保されるのはもう「2400万円の、この特定の債権」に固まっています。この特定の債権が譲渡されれば、根抵当権も一緒にXへ移ります。付従性や随伴性が働かなかったのは、範囲全体という枠のままだったからで、確定して中身が固まった今は、もう普通の抵当権付きの債権と同じです。確定後にYがBの代わりに弁済した場合は、弁済による代位によって、Yはこの根抵当権を代位行使できます。確定前はできませんでしたが、確定後はできる。結論が完全に逆転していますね。
確定後に、Bが2400万円を全額払ってしまったら、根抵当権はどうなりますか。消えます。担保する債権が確定して固まっている以上、その債権を弁済すれば、付従性によって根抵当権も消滅します。ただし、確定しても変わらないものが2つあります。極度額という上限額と、375条が働かないという性質です。極度額は、根抵当権が枠だったから付いていたものではなく、Cのような後順位者に対して「ここまでしか持っていきません」と登記で見せている、性質そのものです。この性質は、確定の前後で変わる理由がありません。だから、確定後に生じた利息や損害金も、375条のように最後の2年分に切られることなく、極度額の限度でなお担保され続けます。
極度額3000万円で、もう一度確かめる
図:数字例の板
- Bの土地、Aの根抵当権(極度額3000万円)、Cの2番抵当権
- 確定時の元本2400万円
- 確定後に生じた遅延損害金で確かめる
- ケース①=年200万円×3年、ケース②=年200万円×4年
前回と同じ数字で確かめましょう。Bの土地に、Aの根抵当権、極度額3000万円。確定時の元本は2400万円でした。確定後、Bの支払いがさらに遅れて、遅延損害金が発生したとします。
図:ケース①板
- 遅延損害金=年200万円×3年=600万円
- 合計=2400万円+600万円=3000万円=極度額ちょうど
- 確定後に生じた損害金でも、極度額まで全部担保される
まず、年200万円の損害金が3年分たまったとします。600万円ですね。元本2400万円と足すと、ちょうど3000万円、極度額と一致します。これは確定後に生まれた損害金ですが、375条の2年分という制限は働かず、極度額まで全額担保されます。
図:ケース②板
- 遅延損害金が4年分に伸びた場合=年200万円×4年=800万円
- 合計=2400万円+800万円=3200万円
- 極度額3000万円を超えるため、確定後でも3000万円で頭打ちになり、超える200万円は無担保の一般債権にとどまる
4年分、800万円まで膨らんだとします。元本2400万円と足すと、合計は3200万円になり、極度額3000万円を上回ります。この場合、確定したあとであっても3000万円で頭打ちです。超えた200万円は、担保のない普通の債権として残ります。極度額は、Cから見た「最悪でもここまで」という上限でした。Aがどれだけ損害金を積み増しても、Cの見積もりである3000万円という線は動きません。この後、その線が動く場面を見ていきます。
使わない枠を、縮めさせる
図:398条の21の全文カード背景
- 元本確定後、設定者は極度額を「現に存する債務の額+以後2年間に生ずべき利息その他の定期金及び債務不履行による損害賠償の額」に減額請求できる
- 共同根抵当は1個の不動産についてすれば足りる
確定した後、Bには2つの新しい請求権が用意されています。まず1つ目、極度額の減額請求です。
条文民法398条の21
民法第398条の21 元本の確定後においては、根抵当権設定者は、その根抵当権の極度額を、現に存する債務の額と以後二年間に生ずべき利息その他の定期金及び債務の不履行による損害賠償の額とを加えた額に減額することを請求することができる。 第三百九十八条の十六の登記がされている根抵当権の極度額の減額については、前項の規定による請求は、そのうちの一個の不動産についてすれば足りる。
確定後は、担保される元本の顔ぶれはもう固定されて、これ以上増えません。それなのに、極度額いっぱいの枠が、そのままBの土地を押さえ続けると、Bは新しく後順位の抵当権を設定する余地や、土地の担保としての余力を、不当に奪われたままになってしまいます。
図:減額請求の数字例板
- 確定後、現に存する債務(元本)が1800万円に減った場面
- 今後2年分の利息等を年200万円×2年=400万円と見積もる
- 合計1800万円+400万円=2200万円
- Bはこの2200万円まで極度額3000万円の減額を請求できる
数字で確かめます。確定後、元本の一部が弁済されて、現に存する債務が1800万円に減っていたとします。今後2年間に生じる見込みの利息や損害金を、さっきと同じ年200万円で見積もると、2年分で400万円です。Bは、合計2200万円まで、極度額3000万円の減額を請求できます。もう使われない800万円分の枠を、Bは自分の判断で縮めさせられるんです。なお、2項にある398条の16の登記とは、前回見た共同根抵当の登記のことです。1つの枠を複数の土地にかけている場合も、減額の請求は、そのうち1つの土地についてすれば足ります。
極度額を払って、根抵当権を消す
図:398条の22の全文カード背景
- 元本確定後、現に存する債務が極度額を超えるとき、物上保証人本人または第三取得者等は、極度額に相当する金額を払い渡し又は供託して根抵当権の消滅請求ができる
- この払渡し・供託は弁済の効力を持つ
2つ目の請求権が、根抵当権消滅請求です。今度は、現に存する債務が極度額を超えてしまっている場面を考えます。
条文民法398条の22第1項
民法第398条の22第1項 元本の確定後において現に存する債務の額が根抵当権の極度額を超えるときは、他人の債務を担保するためその根抵当権を設定した者又は抵当不動産について所有権、地上権、永小作権若しくは第三者に対抗することができる賃借権を取得した第三者は、その極度額に相当する金額を払い渡し又は供託して、その根抵当権の消滅請求をすることができる。この場合において、その払渡し又は供託は、弁済の効力を有する。
ここで、Bの土地を買った人を登場させましょう。この人をDと呼びます。
図:消滅請求の関係図
- A(根抵当権者)-B(債務者兼設定者)-D(Bの土地を買った第三取得者)
- Aの根抵当権が付いたままの土地をDが買った
- 現存債務3200万円が極度額3000万円を超えている
- Dが極度額相当額の3000万円をAに払い渡す(または供託する)と、根抵当権が消滅する
Dは、Aの根抵当権が付いたままのBの土地を買った第三取得者です。現存する債務は3200万円、極度額は3000万円で、極度額を超えています。この場合、Dは極度額に相当する3000万円を、Aに払い渡すか、供託します。そうすると、根抵当権は消滅します。払う金額が極度額に決まっている点が、以前見た第三取得者の抵当権消滅請求との違いです。あちらは、第三取得者が自分で決めた金額を提示して、抵当権者が2か月以内に競売を申し立てなければその額で消滅する、という制度でした。金額は交渉の余地があります。根抵当権の消滅請求では、金額は極度額に固定されていて、交渉の余地はありません。その代わり、請求できる人の範囲は広く、Dのような第三取得者だけでなく、他人の債務のために自分の土地に根抵当権を設定した物上保証人も、この消滅請求を使えます。
債務者のBさん本人も、3000万円を払えば根抵当権を消せるんですか。違います。Bは使えないんです。398条の22の第3項が、主たる債務者は消滅請求できないという380条を準用しているからです。Bは3200万円の全部を払う義務を負う本人なので、3000万円だけ払って土地を解放させるのは筋が通らないんです。
枠が閉じる瞬間、何が起きたか
図:全体の比較まとめ板。列=確定前/確定後/理由。行=範囲・債務者・確定期日の変更(できる/できない=枠に出入りがある前提が消えたから)、極度額の変更(できる/できる=承諾が要るのは同じ・上限額の性質は変わらないから)、根抵当権の譲渡(できる/できない=枠ごと渡す制度だから)、376条1項の処分(転抵当だけ/すべてできる=特定の債権に固まったから)、付従性・随伴性(働かない/戻る)、極度額までの優先弁済・375条の2年分の制限なし(極度額まで/なお極度額まで)。
今日見てきたことを、確定前と確定後で並べて振り返ります。確定前は、範囲・債務者・確定期日を変更でき、根抵当権そのものを譲渡できました。376条1項の処分は、転抵当だけに限られていました。どれも、枠にまだ出入りがある、という前提があったからです。確定すると、担保される債権はその時点のものに固まります。中身が特定の債権に固まった以上、付従性・随伴性が戻り、弁済で消え、譲渡や代位弁済で移るようになります。確定しても極度額の枠と375条の不適用だけは残る、ここが今日の一番のポイントです。極度額という上限額が登記で見えている、という性質は、枠が開いていようが閉じていようが関係のない、根抵当権そのものの性質だからです。だからこそ、確定後に、必要な額より極度額が大きく余っていれば減額請求、債務が極度額を超えて足りなくなっていれば消滅請求という形で、その上限額そのものを使った調整が用意されているんです。
枠は、確定という締め切りを迎えれば、特定の債権に固まって、普通の抵当権に近づいていきます。ただし、上限額が見えているという性質だけは、最初から最後まで変わらないんです。
参照条文
- 民法398条の6
- 民法398条の19
- 民法398条の20第1項
- 民法398条の12
- 民法398条の13
- 民法398条の11
- 民法398条の21
- 民法398条の22第1項