民法ゼロから民法#137

質権の要物性と転質

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第3章 担保物権 #137/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

預けないと成立しない担保

冒頭の場面板。質屋の店先。Bが腕時計を差し出し、Aがそれを受け取ってお金を渡している。吹き出しに「返せば時計は戻る、返せなければAが時計から回収する」。抵当権はここで物を受け取らなかった、という対比の一言。 図:冒頭の場面板

  • 質屋の店先
  • Bが腕時計を差し出し、Aがそれを受け取ってお金を渡している
  • 抵当権はここで物を受け取らなかった、という対比の一言

これまで見てきた抵当権は、物を取り上げない担保でした。Bが土地に抵当権を設定しても、Bはその土地に住み続けられましたし、自由に使えました。抵当権者は、いざというときに競売にかけられる権利を持っているだけで、普段は何も持っていない、という話でした。今日見る質権は、そこが正反対です。まずは場面から入ります。BがAの質屋に腕時計を持ち込んで、80万円を借ります。Aは腕時計を受け取り、その場でBにお金を渡します。今日のAやB、このあと出てくる人たちは、抵当権の回に出てきた人とは別の人物です。借りたお金を返せば、時計は戻ってきます。返せなければ、Aは預かっている時計から回収します。ここで大事なのは、預けている間、Bはその時計を使えないということです。

時計を使えないことは、この担保で大きな意味を持ちます。今日は、「預けないと成立しない」とはどういうことか、そして預けることが何を変えるのかを、順番に見ていきます。

質権とは何か、抵当権との決定的な違い

342条の全文カード背景。質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。抵当権との対比=抵当権は非占有担保、質権は占有担保(留置的効力あり)。 図:342条の全文カード背景

  • 質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する
  • 抵当権との対比=抵当権は非占有担保、質権は占有担保(留置的効力あり)

質権の中身を定めた条文を読みます。

条文民法342条

民法第342条 質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。

物を占有するかどうか、これが質権と抵当権の決定的な違いです。抵当権は、価値だけを先に押さえて、物そのものは取り上げませんでした。質権は、物を実際に占有します。Bの時計を預かっている間、Bはその時計を使えません。使えないこと自体が、「早く返さなければ」という心理的な圧迫になります。この、物を留め置いて圧力をかける効力を留置的効力と呼びます。抵当権は非占有担保なので、留置的効力を持ちません。質権は、抵当権が持っていなかったこの占有を足した担保だ、という見方で、今日はずっと進んでいきます。

4つの担保物権を、もう一度並べてみる

4担保×6項目の表(再掲)。行=留置権・先取特権・質権・抵当権。列=付従性・随伴性・不可分性・物上代位性・優先弁済的効力・留置的効力。質権の行だけ6項目すべてに○。抵当権の行は留置的効力だけ×。 図:4担保×6項目の表(再掲)。行=留置権・先取特権・質権・抵当権。列=付従性・随伴性・不可分性・物上代位性・優先弁済的効力・留置的効力。質権の行だけ6項目すべてに○。抵当権の行は留置的効力だけ×。

以前、担保物権の総論の回で、4つの担保物権を6つの項目で並べた表を作りました。覚えていますか。留置権だけ、優先弁済的効力に×が付いていた表ですね。あの表で、質権のところだけがすべての項目に○が付いていました。前半の4列は、総論の回で見た通有性、担保物権に共通する性質でしたね。債権が消えれば一緒に消える付従性、債権が移ればついていく随伴性、全部払われるまで物の全体に及ぶ不可分性、物が形を変えても代わりの金銭に及ぶ物上代位性です。質権はこの4つに加えて、優先弁済的効力と留置的効力の両方を持っていました。

抵当権は、優先弁済的効力はあるけれど、留置的効力だけが×でした。なぜ質権だけが全部そろうのか。質権は、抵当権と同じく優先して回収できる枠を押さえたうえで、物そのものを預かって手元に留め置くからです。留置権も物を留め置きますが、優先して回収できる枠は持ちません。この2つを1つで持つのが質権、という位置です。この位置を頭に入れたうえで、成立要件を見ていきましょう。

合意だけでは足りない、要物契約

344条の全文カード背景。質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。要物契約=合意+引渡しで成立。176条(意思主義)の例外。なぜ引渡しが要るか=預かること自体が制度の本体だから。 図:344条の全文カード背景

  • 質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる
  • 要物契約=合意+引渡しで成立
  • 176条(意思主義)の例外
  • なぜ引渡しが要るか=預かること自体が制度の本体だから

質権は、AとBの合意によって設定される担保物権です。物権の変動は合意だけで起きる、という176条の原則を以前見ましたね。ところが質権には、その原則の例外があります。読んでみます。

条文民法344条

民法第344条 質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。

合意しただけでは、質権はまだ生まれないんですか。生まれません。質権が成立するには、AB間の合意に加えて、Bが実際に時計をAに引き渡すことが必要です。合意プラス引渡しで初めて効力が生じる契約を、要物契約と呼びます。なぜ、質権だけ引渡しが要るんですか。占有を取ることそのものが、この担保の本体だからです。もし合意だけで質権が成立するとしたら、Bが時計を持ったままの質権が生まれてしまいます。それでは、預かることによる圧迫という質権の本体が、最初から失われた質権になってしまう。だから、実際に物を渡した瞬間まで、質権はまだ存在しないことにしてあるんです。

形だけ預かったことにしてもダメ

345条の全文カード背景。質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。占有改定(183条)は344条の引渡しに含まれない。BがAのために時計を持ち続ける約束をしても質権不成立。 図:345条の全文カード背景

  • 質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない
  • 占有改定(183条)は344条の引渡しに含まれない
  • BがAのために時計を持ち続ける約束をしても質権不成立

引渡しにはいくつか種類があったのを覚えていますか。現実の引渡し・簡易の引渡し・指図による占有移転・占有改定のうち、質権の設定では占有改定だけが使えません。読んでみます。

条文民法345条

民法第345条 質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。

Bが「時計はこのまま自分が持っているけれど、今日からAのために持っていることにする」と約束する場面です。この約束だけでは、質権は成立しません。時計が現実にBの手元に残っている限り、Bは相変わらずその時計を使えてしまいます。占有改定は、名目の上でAのために持っているだけで、実際の圧迫は何も生まれません。留置的効力が働かない質権を認めてしまうと、質権から質権らしさが失われてしまうんです。抵当権はもともと占有を取らない担保なので、占有改定のような抜け道自体が問題になりません。質権だけが、占有を取ることを制度の本体としているからこそ、占有改定という抜け道を条文でふさいでいるんです。

第三者が自分の物で担保になる、物上保証

物上保証人の関係図。A(質権者)-B(債務者)、A-D(質権設定・Dの指輪)。BはAから80万円を借りる。DはBの借金のため、自分の指輪をAに預けて質権を設定する(物上保証)。Dが指輪の所有権を失えばBに求償できる。 図:物上保証人の関係図

  • A(質権者)-B(債務者)、A-D(質権設定・Dの指輪)
  • BはAから80万円を借りる
  • DはBの借金のため、自分の指輪をAに預けて質権を設定する(物上保証)
  • Dが指輪の所有権を失えばBに求償できる

質権を設定するのは、必ずしも借りた本人とは限りません。同じ80万円の借金に、Bの時計ではなく、Bとは別のDが、自分の指輪をAに預けて質権を設定することもできます。このDを物上保証人と呼びます。以前、抵当権の回でも出てきた立場です。読んでみます。

条文民法351条

民法第351条 他人の債務を担保するため質権を設定した者は、その債務を弁済し、又は質権の実行によって質物の所有権を失ったときは、保証債務に関する規定に従い、債務者に対して求償権を有する。

Dは、指輪の所有権を失った分だけ、Bに対して求償できます。自分の物を差し出して肩代わりした以上、その分をBに請求できるのは、保証人の場合と同じ考え方です。

質権が付けられる物、3つの種類

質権の目的の一言板(薄)。質権の目的は動産・不動産・権利の3種(343条・352条以下・362条以下)。343条=譲り渡すことができない物は目的にできない。詳細な対抗要件・使用収益権・取立権は次回。 図:質権の目的の一言板

  • 薄
  • 質権の目的は動産・不動産・権利の3種(343条・352条以下・362条以下)。343条=譲り渡すことができない物は目的にできない。詳細な対抗要件・使用収益権・取立権は次回。

質権の目的になる物にも触れておきます。質権は、動産だけでなく、不動産や、債権のような権利にも設定できます。抵当権の目的は、不動産と、地上権・永小作権に限られています。質権は動産・不動産・権利の3種類に設定できる点が、抵当権との違いです。ただし、譲り渡すことができない物には質権を設定できません。持ち主がそもそも手放せない物を、優先弁済のために質入れすることはできないからです。今日は、質権にはこの3種類があるとだけ押さえてください。

弁済期の前後で、結論が変わる約束

349条の全文カード背景。質権設定者は、設定行為又は債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済として質物の所有権を取得させ、その他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができない。趣旨=弱い立場の債務者の保護(暴利行為の防止)。 図:349条の全文カード背景

  • 質権設定者は、設定行為又は債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済として質物の所有権を取得させ、その他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができない
  • 趣旨=弱い立場の債務者の保護(暴利行為の防止)

質権には、もう1つ大事な禁止があります。Bが「返せなかったら時計はAのものになる」とあらかじめ約束することです。約束は本来自由に結べるはずですが、お金に困っている瞬間のBには、その自由が十分に働きません。読んでみます。

条文民法349条

民法第349条 質権設定者は、設定行為又は債務の弁済期前の契約において、質権者に弁済として質物の所有権を取得させ、その他法律に定める方法によらないで質物を処分させることを約することができない。

これを流質契約と呼びます。禁止される理由は、以前見た暴利行為の防止と同じ発想です。お金に困って質入れしに来たBは、弱い立場に置かれています。その弱みにつけこんで、時計の本当の価値よりずっと安い借金の形に、時計を持っていかれてしまう危険があるからです。弁済期が来てから同じ約束をするのは、どうなんですか。それは有効です。349条が禁止しているのは、あくまで弁済期前の契約です。弁済期が来たあとにBが「時計で払う」と合意するのは自由です。困窮につけこまれる場面ではなく、Bの判断力が正常に働く場面だからです。

質屋営業法という特別法によって、質屋はあらかじめ流質を予定した営業形態として認められています。質屋は許可を受けて行政の監督のもとで営業し、流質になるまでの期間も法律で確保されているので、個人どうしの約束のように弱みにつけこまれる危険が、制度として抑えられているからです。もう1つ、適用が除外される場面があります。

条文商法515条

商法第515条 民法第三百四十九条の規定は、商行為によって生じた債権を担保するために設定した質権については、適用しない。

商人同士は、専門的な立場でお互い対等に交渉できると考えられているので、弱い立場の保護という349条の趣旨があてはまりません。だから商行為から生まれた債権を担保する質権には、349条自体が適用されないんです。

預かった物を、さらに預ける

転質の関係図。B→A「原質権(80万円)」、A→E「転質(100万円)」の2本の矢印を重ねて描く。AがEから100万円を借り、預かっているBの時計をEにさらに質入れする。 図:転質の関係図

  • B→A「原質権(80万円)」、A→E「転質(100万円)」の2本の矢印を重ねて描く
  • AがEから100万円を借り、預かっているBの時計をEにさらに質入れする

今日の後半は、転質です。Aは、Bの時計を預かる質権者ですが、Aにもお金が必要になる場面があります。Aも、誰かからお金を借りることがあるんですか。あります。Aが、Eという人から100万円を借りるとします。手元にあるBの時計を、そのままEへの担保にできないでしょうか。これが転質です。転抵当は、抵当権の回で見たとおり、抵当権者が自分の抵当権を、他の債権の担保とすることでした。転質は、それを質権で行うものです。Aがもともと持っている、Bの時計の上の質権を原質権、Eが新しく得る質権を転質権と呼びます。転質には、2つの型があります。1つは、Bの承諾を得て行う承諾転質。もう1つは、Bの承諾なしにAが自分の責任で行う責任転質です。それぞれ見ていきましょう。

承諾を得れば、別個の新しい質権になる

承諾転質の板。根拠=350条が準用する298条2項(担保に供することの承諾)。要件=設定者Bの承諾。効果=原質権とは別個の新たな質権設定(通説)。Aは過失責任のみ、不可抗力責任は負わない。原質権が消えても転質権は当然には消えない。 図:承諾転質の板

  • 根拠=350条が準用する298条2項(担保に供することの承諾)
  • 要件=設定者Bの承諾
  • 効果=原質権とは別個の新たな質権設定(通説)
  • Aは過失責任のみ、不可抗力責任は負わない
  • 原質権が消えても転質権は当然には消えない

まず、承諾転質の根拠となる条文です。

条文民法350条・298条2項

民法第350条・第298条第2項 第二百九十六条から第三百条まで及び第三百四条の規定は、質権について準用する。 (350条が準用する298条2項)留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。

Bの承諾を得て、この「担保に供する」ことを行うのが承諾転質です。要件はシンプルで、設定者Bの承諾、それだけです。承諾転質の効果は、原質権とは別個の新しい質権が生まれることです。原質権による制限を受けません。Bが、時計をEの担保に入れること自体を認めているので、AはBから新しく質権を設定する権限をもらったのと同じだからです。Aは、預かった時計の管理について、普通の過失責任しか負いません。不可抗力による損害までは、Aは責任を負わないんです。原質権が何らかの理由で消えても、転質権はそれとは別個に生まれたものなので、当然には消えず、Eは独自に実行できます。

承諾なしでも転質できる、その代わり

348条前段の板。質権者は、その権利の存続期間内において、自己の責任で、質物について、転質をすることができる。要件=①通常の質権の要件を満たすこと(占有改定以外の引渡し)②設定者Bの承諾は不要③被担保債権額・存続期間を超える転質も有効だが、行使は原質権の範囲内。 図:348条前段の板

  • 質権者は、その権利の存続期間内において、自己の責任で、質物について、転質をすることができる
  • 要件=①通常の質権の要件を満たすこと(占有改定以外の引渡し)②設定者Bの承諾は不要③被担保債権額・存続期間を超える転質も有効だが、行使は原質権の範囲内

もう1つの型、責任転質です。まず条文を読みます。

条文民法348条

民法第348条 質権者は、その権利の存続期間内において、自己の責任で、質物について、転質をすることができる。この場合において、転質をしたことによって生じた損失については、不可抗力によるものであっても、その責任を負う。

責任転質は、設定者Bの承諾は不要です。転抵当でも、Bの承諾はいりませんでした。ただ、転抵当と違って、質権では時計そのものがEの手元に移ります。そのリスクをどう手当てするかが、このあと見る重い責任です。責任転質はAの判断だけでできますが、無制限ではありません。ここで数字を使います。BがAから借りたのは、冒頭で見た80万円です。AがEから借りるお金、つまり転質の被担保債権のほうは、100万円だとします。転質の額のほうが、原質権の額より多いですね。それでも成立するんですか。成立します。AE間の転質は、原質権とは別の契約なので、金額が一致している必要はありません。ただし、Eが原質権を通じて優先弁済を受けられるのは80万円が上限です。転抵当のときと、まったく同じ構造です。超えた20万円は、Aに対する普通の債権として残るだけです。

立ち止まって考える

数字確認の板。原質権(A→B)の被担保債権80万円。転質(E→A)の被担保債権100万円。転質の設定は有効/優先弁済の上限は80万円、という問いを一度止めて確認する。 図:数字確認の板

  • 原質権(A→B)の被担保債権80万円
  • 転質(E→A)の被担保債権100万円
  • 転質の設定は有効/優先弁済の上限は80万円、という問いを一度止めて確認する

ここで一度、立ち止まって考えてみてください。Eの被担保債権は100万円、原質権の被担保債権は80万円でした。転質の設定自体は有効でしょうか。Eが優先弁済を受けられる額はいくらでしょうか。転質は、原質権と別の契約だから、設定自体は有効ですよね。優先弁済を受けられるのは、原質権の80万円が上限だと思います。この考え方が、このあと転抵当との比較でもう一度出てきます。

自由に転質できる反面、全責任を負う

348条後段の板。転質をしたことによって生じた損失については、不可抗力によるものであっても、その責任を負う。承諾転質(過失責任)との対比。実行要件=転質の被担保債権(E→A)+原質権の被担保債権(A→B)の両方の弁済期到来が必要(二重の弁済期)。 図:348条後段の板

  • 転質をしたことによって生じた損失については、不可抗力によるものであっても、その責任を負う
  • 承諾転質(過失責任)との対比
  • 実行要件=転質の被担保債権(E→A)+原質権の被担保債権(A→B)の両方の弁済期到来が必要(二重の弁済期)

責任転質には、もう1つ重い性質があります。もう一度348条の後段を見てください。転質をしたことによって生じた損失は、不可抗力によるものであってもAが責任を負う、とありました。承諾転質が過失責任にとどまるのに対し、責任転質は不可抗力でも責任を負う。ここが決定的な違いです。承諾転質は、Bの承諾を得たうえでの転質なので、責任は普通の過失責任で足ります。責任転質は、Bの承諾を得ずにAが一存で時計を外に持ち出した処分です。承諾を得ずにリスクを外へ持ち出した以上、そのリスクは持ち出した本人が引き受ける、という考え方です。だから、Eのもとで地震のような不可抗力によって時計が壊れても、AはBに対して責任を負います。

実行には2つの弁済期が要ります。1つは、EのAに対する転質権の被担保債権の弁済期。もう1つは、AのBに対する原質権の被担保債権の弁済期です。この両方が到来して初めて、Eは実行できます。2つの弁済期がそろうまで待つのは、片方の期限しか来ていない段階で、Bに約束以上の負担を負わせるわけにはいかないからです。転質権は、その被担保債権が消滅すれば消滅しますし、原質権そのものが消えれば、それに乗っている転質権も一緒に消えます。

責任転質は何を質入れしているのか

責任転質の法的性質、4学説の一覧板。①債権・質権共同質入説=原質権の被担保債権の質入れ(批判:自分の債権を質入れできるのは当然)。②質権再度設定説=原質権そのものの質入れ(批判:①と同じ)。③質権移転説=原質権の移転、被担保債権消滅を解除条件(批判:譲渡と見るのは妥当でない)。④質物再度質入説(通説)=質物の再度の質入れ(348条の文言から。批判:所有者でないAになぜ質入れの権原があるのか説明できない)。 図:責任転質の法的性質、4学説の一覧板

  • ①債権・質権共同質入説=原質権の被担保債権の質入れ(批判:自分の債権を質入れできるのは当然)
  • ②質権再度設定説=原質権そのものの質入れ(批判:①と同じ)
  • ③質権移転説=原質権の移転、被担保債権消滅を解除条件(批判:譲渡と見るのは妥当でない)
  • ④質物再度質入説(通説)=質物の再度の質入れ(348条の文言から。批判:所有者でないAになぜ質入れの権原があるのか説明できない)

最後に、責任転質が理論的に何をしているのか、という議論に軽く触れておきます。ここは、読んで理解できれば足りる水準で、暗記は必要ありません。責任転質でAが質入れしているものの正体です。学説は大きく4つに分かれます。1つ目は、債権・質権共同質入説です。転質は、Aが持つ原質権の被担保債権を質入れするものであり、原質権は付従性によってついてくる、という考え方です。ただ、自分の債権を質入れできるのは当然のことで、348条をわざわざ置いた理由が説明できない、という批判があります。2つ目は、質権再度設定説です。転質は原質権そのものの質入れだ、という考え方ですが、こちらも1つ目と同じ批判を受けます。3つ目は、質権移転説です。転質は、原質権をEに移転させるものであり、転質の被担保債権が消えることを解除条件としてつけている、という考え方です。ただ、質入れのはずが譲渡だと見るのは不自然ですし、原質権者のAが権利を失う結果になるのもおかしい、という批判があります。4つ目、質物再度質入説が通説です。転質は、時計そのものをもう一度質入れするのだ、という考え方です。348条が「質物について、転質をすることができる」と書いていることが根拠です。ただ、Aは時計の所有者ではないのに、なぜ質入れする権原を持つのかを説明できない、という批判が残ります。

通説の根拠は、いま見た348条の言葉です。そのうえで並べてみると、1つ目と2つ目は348条をわざわざ置いた意味が説明できず、3つ目はAが原質権を失ってしまいます。4つ目は、この2つの弱点をどちらも抱えず、条文の言葉どおりに読めます。権原の説明という弱点は残りますが、4つの中でいちばん無理が少ない、という位置です。

転抵当と、同じ骨格・違う中身

比較表板。項目=設定者の承諾/被担保債権額の超過/存続期間/不可抗力責任/実行の弁済期/対抗要件。責任転質列=不要/超えてもよいが原質権の範囲内/あり(原質権の存続期間内)/ある/2つとも必要/占有の継続(352条・次回)。転抵当列=不要/超えてもよいが原抵当権の額まで/なし/ない/2つとも必要(二重の弁済期)/177条の登記+377条1項の通知・承諾。共通=原担保権者の枠の中でしか優先を渡せない、実行には2つの弁済期が要る、設定者の承諾は要らない。 図:比較表板

  • 項目=設定者の承諾/被担保債権額の超過/存続期間/不可抗力責任/実行の弁済期/対抗要件
  • 責任転質列=不要/超えてもよいが原質権の範囲内/あり(原質権の存続期間内)/ある/2つとも必要/占有の継続(352条・次回)
  • 転抵当列=不要/超えてもよいが原抵当権の額まで/なし/ない/2つとも必要(二重の弁済期)/177条の登記+377条1項の通知・承諾
  • 共通=原担保権者の枠の中でしか優先を渡せない、実行には2つの弁済期が要る、設定者の承諾は要らない

転質を一通り見終えたところで、以前扱った転抵当を思い出してみましょう。転抵当の被担保債権額は、原抵当権の額を超えて設定できましたか? そのとき優先弁済は、どこまででしたか?超えて設定できました。ただ、優先して受け取れるのは、原抵当権の額までだったと思います。あのときのA・B・Eと、今日のA・B・Eは、同じ役の位置にそろえてあります。転抵当も責任転質も、設定者Bの承諾は要りません。これがまず共通点です。どちらも、原担保権者A自身が完結させる処分だからです。ただし優先弁済の上限は、転抵当が原抵当権の額まで、責任転質は原質権の範囲内です。

実行に2つの弁済期が要る点も共通です。転質権の被担保債権と、原質権の被担保債権、転抵当の被担保債権と原抵当権の被担保債権、それぞれ両方の弁済期が到来しないと実行できません。この、原担保権者の枠の中でしか優先を渡せないという骨格と、2つの弁済期が要るという骨格は、質権でも抵当権でもまったく同じです。違うところは、どこですか。3つあります。1つ目、責任転質には348条後段の不可抗力責任がありますが、転抵当にこれに相当する重い責任規定はありません。転抵当では土地はBのもとに残ったままで、物がEの手元へ移るリスクが生まれないからです。2つ目、責任転質には存続期間の制限が明記されていますが、転抵当の要件にはその言葉がありません。抵当権には、そもそも存続期間の定めが無いからです。3つ目、質権には承諾転質という別の型が並んでいますが、転抵当のような処分に、承諾の有無で型が分かれる制度はありません。

動産質の対抗要件は占有の継続で、352条という条文があります。転抵当の対抗要件は、177条の登記と、377条1項の通知・承諾でしたね。質権は占有そのものが外から見える印になり、占有を取らない抵当権は登記で示すしかない、という違いがそのまま出ています。今日は、この違いがあるとだけ押さえておいてください。

占有を足した担保、その締めくくり

全体の振り返り板。抵当権(非占有)に占有(留置的効力)を足したのが質権。だから成立に引渡しが要り、占有改定は使えず、流質は弱い立場を守るために弁済期前だけ禁止される。転質は原担保権者の枠の中でしか優先を渡せないという転抵当と同じ骨格を持つ。 図:全体の振り返り板

  • 抵当権(非占有)に占有(留置的効力)を足したのが質権
  • だから成立に引渡しが要り、占有改定は使えず、流質は弱い立場を守るために弁済期前だけ禁止される
  • 転質は原担保権者の枠の中でしか優先を渡せないという転抵当と同じ骨格を持つ

今日見てきたことを、1本の線で振り返ります。質権は、抵当権が持たなかった占有を足した担保物権でした。占有を取ることが本体だからこそ、合意だけでは成立せず、実際に引渡しをして初めて質権が生まれます。物が設定者の手元に残ったままでは、圧迫という本体が働きません。流質契約が弁済期前だけ禁止されるのも、判断力の落ちた瞬間だけを狙い撃ちして、弱い立場の債務者を守るためでした。原担保権者の枠の中でしか優先を渡せない、実行には2つの弁済期が要る。この骨格は、質権でも抵当権でも変わりません。違うのは、責任転質だけが背負う不可抗力責任と、承諾転質という別の型があることでした。

時計を預けたその瞬間から、質権のすべてが始まっています。

参照条文

  • 民法342条
  • 民法344条
  • 民法345条
  • 民法351条
  • 民法349条
  • 商法515条
  • 民法350条・298条2項
  • 民法348条

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