民法ゼロから民法#138

動産質・不動産質・権利質

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第3章 担保物権 #138/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

盗まれた時計、質権はどうなるか

冒頭の場面板。質屋の店先でBがAに腕時計を渡し80万円を受け取っている前回の場面を小さく再掲し、その隣に「盗難」を示す影の人物のシルエットが時計を持ち去る絵。吹き出しに「質権は消えるのか、取り返せるのか」。 図:冒頭の場面板

前回、質権は預けないと成立しない担保だと見ました。BがAに腕時計を渡して80万円を借りる、あの場面です。今日はその続きです。もしAの店から、預かっていたその時計が盗まれてしまったらどうなるでしょうか。質権が消えてしまう、ということはないんですか。そこがまさに今日の入口です。答えを先に言うと、質権そのものは消えません。ただし、盗まれた時計を取り戻す手段には、大きな制限がかかります。今日は、動産質・不動産質・権利質という3つの質権を並べながら、この「なぜ」を解いていきます。

3つの質権を一枚の比較板で見る

比較板(予告・空欄多め)。列=動産質/不動産質/権利質。行=目的物/成立要件/対抗要件/使用収益権/果実収取/利息/存続期間/375条準用。今回は列見出しと行見出しだけを示し、中身はこれから埋めていくことを示す矢印つき。 図:比較板(予告・空欄多め)。列=動産質/不動産質/権利質。行=目的物/成立要件/対抗要件/使用収益権/果実収取/利息/存続期間/375条準用。今回は列見出しと行見出しだけを示し、中身はこれから埋めていくことを示す矢印つき。

質権の目的になる物には、動産・不動産・権利の3種類があると前回触れました。今日は、この3つを同じ物差しで並べます。目的物、成立要件、対抗要件、使用収益権と果実収取、利息、存続期間、それに375条が準用されるかどうか。この7つの軸です。今はまだ空欄ですが、論点を1つ進めるごとに、この板の該当欄が埋まっていくとイメージしてください。最後にもう一度この板を出して、埋まった状態を見ます。まずは動産質から、成立と対抗の話です。

成立は引渡し、対抗は占有の継続

352条の全文カード背景。動産質権者は、継続して質物を占有しなければ、その質権をもって第三者に対抗することができない。前回の344条(成立=引渡し)との対比を上下に並べ、「成立」と「対抗」で矢印の色を変える。 図:352条の全文カード背景

動産質は、動産を目的とする質権です。ここで前回の復習を1つ挟みます。占有改定という引渡し方法だけは、質権の設定では使えませんでしたね。なぜ、占有改定では質権が成立しないのでしたか?時計が現実にBの手元に残ったままだと、Bを圧迫する効果が生まれないから、でした。要物契約として、実際に物を渡すことそのものが質権の本体でした。この引渡しには、実はもう1つの役割があります。読んでみます。

条文民法352条

民法第352条 動産質権者は、継続して質物を占有しなければ、その質権をもって第三者に対抗することができない。

動産質の引渡しには、成立要件としての役割と、対抗要件としての役割の両方が乗っています。占有した瞬間に質権は生まれ、その後も占有を続けている限り、第三者に「これは自分が預かっている質物だ」と主張できます。「成立は引渡し、対抗は占有の継続」という二段構えで覚えてください。この二段構えを頭に入れたうえで、冒頭の問いに戻ります。Aの店から時計が盗まれたら、この「占有の継続」が途切れます。では質権はどうなるのか。次で見ていきます。

占有を失ったら何が起きるか

353条の全文カード背景。動産質権者は、質物の占有を奪われたときは、占有回収の訴えによってのみ、その質物を回復することができる。352条(対抗要件)から353条(回復手段)への流れを矢印でつなぐ。 図:353条の全文カード背景

  • 動産質権者は、質物の占有を奪われたときは、占有回収の訴えによってのみ、その質物を回復することができる
  • 352条(対抗要件)から353条(回復手段)への流れを矢印でつなぐ

結論から言います。占有を失っても、動産質権そのものは消えません。352条が失わせるのは、あくまで第三者への対抗力だけです。古い大審院の判断でも、占有を失った質権者は対抗要件を失うにとどまり、質権自体は消滅しないとされています。質権はあるけれど、対抗できない状態になる、ということです。では、消えていない質権を使って、Aは時計を取り戻せるのでしょうか。ここで条文がもう1つ出てきます。

条文民法353条

民法第353条 動産質権者は、質物の占有を奪われたときは、占有回収の訴えによってのみ、その質物を回復することができる。

第三者に占有を奪われた場面では、使えません。ここが今日いちばんつまずきやすいところです。質権に基づいて「返せ」と請求する権利、これは物権的請求権と呼ばれる仕組みですが、第三者に占有を奪われた動産質権者は、この物権的請求権でその第三者から取り戻すことができません。使えるのは、占有回収の訴えだけです。占有の訴えの回で見た、占有を奪われた人が「返せ」と求める、200条の訴えです。さっき見た352条を思い出してください。動産質は、対抗要件を占有そのものに置く設計でした。占有こそが「これは自分の質物だ」という唯一のサインです。そのサインを失った人に、物権に基づく強い請求権まで認めてしまうと、占有という外から見えるサインだけを頼りに取引した第三者が、思わぬ形で不利益を受けてしまいます。だから、第三者から取り戻す手段は、あえて占有回収の訴えという、より限定された手段に絞られているんです。占有に賭けた制度だからこそ、占有を失った後は不利になる、これが353条の理由です。

立ち止まって考える

問いの板。時計を盗まれた場合と、落として拾われた場合とで、Aが使える手段は同じかを問いかけるシンプルな一言板。 図:問いの板

ここで一度考えてみてください。時計を盗まれた場合と、うっかり落として誰かに拾われた場合とで、Aが使える手段は同じでしょうか。占有回収の訴えは「占有を奪われたとき」の話でしたよね。盗まれたのと落としたのとでは、違いそうな気がします。実際に結論が変わります。誰に対して、どんな奪われ方をしたかで、3つのパターンに分けて見ていきましょう。

誰に対して、どう奪われたか、3パターンの検算

占有喪失3パターンの図(1枚に3コマ)。①A-時計←G(奪う・侵奪)、注記「占有回収の訴え〇・質権に基づく返還請求×」。②A→時計→B(任意に返す)、注記「質権に基づく返還請求〇」。③A…時計(落とす)→G(拾う・遺失)、注記「占有回収の訴え×・423条代位で対応」。 図:占有喪失3パターンの図

  • 1枚に3コマ
  • ①A-時計←G(奪う・侵奪)、注記「占有回収の訴え〇・質権に基づく返還請求×」。②A→時計→B(任意に返す)、注記「質権に基づく返還請求〇」。③A…時計(落とす)→G(拾う・遺失)、注記「占有回収の訴え×・423条代位で対応」。

1つ目、Gという第三者が、Aの店から時計を盗んだ場合です。これは典型的な侵奪にあたります。Aは、質権に基づく返還請求はできませんが、占有回収の訴えによって、Gから時計を取り戻せます。2つ目、AがうっかりBに時計を返してしまった場合です。返した相手は、質権の設定者本人であるBです。Bに対しても、占有回収の訴えしか使えないんですか。違います。相手が設定者Bであれば、Aは質権に基づく返還請求ができます。353条が制限しているのは、占有を失った後の回復手段のうち、外部の第三者との関係で対抗力を失うという場面です。設定者B自身に対しては、質権はもともと存続していますし、Bとの間で対抗力を云々する必要もありません。だから、当事者間では通常どおり請求できるんです。

3つ目、Aが時計を落として、それをGが拾った場合です。これは遺失であって、誰かに奪われたわけではありません。353条、そして条文が引く200条は、いずれも「占有を奪われたとき」に限定しています。遺失はこれに当たらないので、占有回収の訴えは使えません。Aに直接の手段はありません。ですが、Bは時計の所有者として、Gに対する返還請求権を持っています。AはこのBの権利を、423条の債権者代位権によって代位行使することで、間接的に時計を取り戻す道が残されています。債権者代位権は、責任財産の回で見た制度です。動こうとしない相手に代わって、その人が持っている権利を自分が使う、という仕組みでした。ここでは、Aが動かないBに代わって、Bの返還請求権を使い、Gに「時計を返せ」と求めるわけです。奪われたか、落としたか、この違いだけで使える手段がここまで変わるんです。どのパターンでも、質権そのものは消えていません。変わるのは、取り戻す手段だけです。

預かっている間、Aは何をしてよいか

350条準用の一覧板。297条(果実収取・利息への充当)、298条(善管注意義務・使用制限・違反時の消滅請求)、299条(費用償還請求権)を留置権の条文群として提示し、「詳細は留置権の回で」と注記。目的物の範囲は全部に及び、従物には、87条2項(従物は主物の処分に従う)があっても、引渡しがなければ及ばないことを併記。375条は動産質に不適用と明記。 図:350条準用の一覧板

  • 297条(果実収取・利息への充当)、298条(善管注意義務・使用制限・違反時の消滅請求)、299条(費用償還請求権)を留置権の条文群として提示し、「詳細は留置権の回で」と注記
  • 目的物の範囲は全部に及び、従物には、87条2項(従物は主物の処分に従う)があっても、引渡しがなければ及ばないことを併記
  • 375条は動産質に不適用と明記

時計を預かっている間、Aにはどんな権利義務があるのでしょうか。動産質権の効力は、付従性・随伴性・不可分性・物上代位性という通有性を全部持ちます。前回見た4担保の表で、質権だけが留置的効力と優先弁済的効力の両方に丸がついていたのを覚えていますか。質権者Aが預かった時計について何をしてよいかは、実は留置権の条文をそのまま借りる形で決まっています。350条という条文が、296条から300条や304条までを質権に準用しています。中身を3つだけ紹介します。まず、質物から生まれる果実を収取して、利息、次に元本の順で自分の債権に充てられる権利。次に、善良な管理者の注意で占有する義務と、設定者の承諾なしに使ったり貸したりしてはいけないという制限、これに違反すると設定者は質権の消滅を請求できます。最後に、時計の保存にかかった必要費や、価値を上げた有益費を、あとで償還してもらえる権利です。

どの条文も本拠地は留置権なので、詳しい中身は、留置権を扱う回で本格的に見ます。今日は、質権がこの条文群をまるごと借りているとだけ押さえてください。もう2つ、押さえておきたい点があります。1つは、質権の効力は目的物の全部に及ぶことです。ただし、従物には引渡しがない限り及びません。従物は主物の処分に従うという87条2項があっても、質権では現実に占有していない物にまで効力を広げることはできないからです。もう1つは、375条です。抵当権では、後順位の抵当権者を保護するために、利息などは満期後の最後の2年分に限られるという話をしましたね。

あの375条は、動産質には適用されません。動産に後順位の質権が競合する場面が、実務上ほとんど想定されていないからです。この違いは、このあと不動産質と比べるときにもう一度効いてきます。ここまでで、比較板の動産質の列がほぼ埋まりました。次は不動産質です。

対抗要件だけが違う、不動産質

不動産質の関係図。B(アパート一室)→A、対抗要件の吹き出しを「登記(177条)」に差し替え、動産質の「占有の継続」との対比を横に並べる。 図:不動産質の関係図

次は不動産質です。Bが所有するアパートの一室を、Aに質入れして500万円を借りる場面で考えます。アパートの一室も、質権の目的になります。成立要件は動産質と同じで、質権設定契約に加えて、実際の引渡しが必要です。占有改定が使えないのも同じです。対抗要件も、占有の継続なんですか。違います。不動産質の対抗要件は、占有ではなく登記です。アパートは動かせない不動産で、しかもAが自分では住まずに人へ貸してしまうこともあります。その場合、部屋の外から見ただけでは、誰がそこに質権を持っているかは分かりません。だから不動産質では、占有という見た目のサインではなく、177条の登記という記録で公示する仕組みに乗るんです。動産質は占有の継続が対抗要件でしたが、不動産質は登記さえ備えていれば、占有を一時的に離れても対抗力は落ちません。同じ「占有を要求される質権」でも、対抗の仕組みは目的物の性質でこう変わります。

使ってよい代わりに、利息はいらない

356〜359条の表裏板。使用収益権(356条)と利息禁止(358条)を天秤の左右に置き、357条(管理費用)を天秤の下に、359条(特約で外せる)を全体の枠外に注記。 図:356〜359条の表裏板

不動産質のいちばんの特徴です。読んでみます。

条文民法356条

民法第356条 不動産質権者は、質権の目的である不動産の用法に従い、その使用及び収益をすることができる。

動産質の時計と違って、Aはこのアパートを実際に使ってよいことになっています。ただし、その代わりがあります。

条文民法358条

民法第358条 不動産質権者は、その債権の利息を請求することができない。

使うことそのものが、利息の代わりだと考えてください。Aは家賃を得たり住んだりする利益を受け取る代わりに、貸したお金の利息は請求できません。使用収益権と利息禁止は、表と裏の関係にあるんです。動産質の果実収取は、留置権の準用によって、あくまで自分の債権の弁済に充当するためのものでした。不動産質の使用収益権は、それとは別に、利息の代わりとして与えられる利益です。優先弁済に充てるための収取ではなく、利息をもらわない代わりの使用収益、という位置づけの違いがあります。もう1つ、負担の話もセットです。

条文民法357条

民法第357条 不動産質権者は、管理の費用を支払い、その他不動産に関する負担を負う。

使わせてもらえる代わりに、管理コストもA持ちになります。ここまでの3つの条文には、抜け道があります。

条文民法359条

民法第359条 前三条の規定は、設定行為に別段の定めがあるとき、又は担保不動産収益執行(民事執行法第百八十条第二号に規定する担保不動産収益執行をいう。以下同じ。)の開始があったときは、適用しない。

使用収益・利息禁止・管理費用の3つはいずれも任意規定です。「利息は請求できる代わりに使用収益はしない」という設計に、AB間で変えることもできます。ここまでで、不動産質の使用収益・利息・管理費用の欄が埋まりました。次は存続期間と、抵当権とのつながりです。

10年の上限と、抵当権規定の準用

361条の準用板。不動産質→抵当権の規定を準用する矢印を太く描き、その中に375条(利息は最後の2年分)を含めて示す。動産質には375条が及ばないことを×印で対比。 図:361条の準用板

  • 不動産質→抵当権の規定を準用する矢印を太く描き、その中に375条(利息は最後の2年分)を含めて示す
  • 動産質には375条が及ばないことを×印で対比

不動産質には、動産質にはない期間の制限があります。

条文民法360条

民法第360条 不動産質権の存続期間は、十年を超えることができない。設定行為でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、十年とする。 不動産質権の設定は、更新することができる。ただし、その存続期間は、更新の時から十年を超えることができない。

更新はできますが、更新のたびに10年が上限です。占有していない設定者Bが、いつまでも自分の不動産を使えない状態に縛られすぎないための配慮です。もう1つ、大事な条文があります。

条文民法361条

民法第361条 不動産質権については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、次章(抵当権)の規定を準用する。

不動産質には、性質に反しない限り抵当権の規定がまるごと準用されます。ここに含まれるのが、さっき動産質のところで名前だけ出した375条です。動産質には及ばなかったこの375条が、不動産質には361条を通じて及びます。同じ質権でも、目的物が動産か不動産かで、この扱いが分かれるんです。

一問、思い出してください

想起確認の板。「抵当権者が利息を請求できるのは、満期となった最後の何年分までだったか」という問いかけの一言板。 図:想起確認の板

ここで1つ聞いてみます。抵当権者が請求できる利息は、満期となった最後の何年分までだったか、覚えていますか。たしか、最後の2年分でした。その375条が、不動産質にはそのまま準用されている、というつながりです。もう1つ、実務上の話に触れておきます。不動産質は、抵当権と同じ不動産を目的とする担保なのに、実際にはほとんど使われません。なぜですか。質権者が管理の負担を負い、しかも利息が取れないからです。抵当権であれば、占有も管理も設定者側に残したまま、利息も普通に請求できます。金融機関からすれば、特約なしの不動産質を選ぶ理由がありません。使用収益権という一見得な権利が、かえって不動産質を使いにくくしている、という一言だけ押さえてください。ここまでで、比較板の不動産質の列も埋まりました。最後は権利質です。

物の無い質権、権利質

権利質総論の板。362条1項(財産権を目的にできる)、2項(総則・動産質・不動産質を準用)、目的の限界として譲渡できる財産権に限る(343条準用)ことを示し、譲渡できない例として扶養請求権(881条・名前のみ)を注記。 図:権利質総論の板

ここまでの動産質・不動産質は、どちらも手で触れる「物」を預かる質権でした。権利質は違います。

条文民法362条

民法第362条 質権は、財産権をその目的とすることができる。 前項の質権については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、前三節(総則、動産質及び不動産質)の規定を準用する。

動産にも不動産にも当たらない財産権であれば、広く質権の目的にできます。ただし限界があります。譲渡できる権利でなければいけません。譲渡できない権利の典型例が、扶養請求権です。譲渡すること自体が認められていない権利を、優先弁済のために質入れすることはできません。持ち主が手放せない権利まで担保に取れてしまうと、制度として筋が通らないからです。権利質のうち、試験で問われるのはほとんどが債権質です。ここから債権質に絞って見ていきます。

債権譲渡と同じ対抗要件

債権質の関係図。B(設定者・原債権者)→F(第三債務者、300万円の債権)、A(質権者、対Bの被担保債権200万円)の三者関係。364条の対抗要件として、通知または承諾の矢印をB→Fに重ねて示す。 図:債権質の関係図

  • B(設定者・原債権者)→F(第三債務者、300万円の債権)、A(質権者、対Bの被担保債権200万円)の三者関係
  • 364条の対抗要件として、通知または承諾の矢印をB→Fに重ねて示す

設例で考えます。Bは、Fという人に対して300万円の貸金債権を持っています。この債権を目的に、AB間で質権を設定して、AがBに200万円を貸します。時計のような物ではなく、Bが持つ「Fに300万円を請求できる」という権利そのものを、質権の目的にします。ここで大事なのは対抗要件です。

条文民法364条

民法第364条 債権を目的とする質権の設定(現に発生していない債権を目的とするものを含む。)は、第四百六十七条の規定に従い、第三債務者にその質権の設定を通知し、又は第三債務者がこれを承諾しなければ、これをもって第三債務者その他の第三者に対抗することができない。

債権には占有できる実体がありません。だから対抗要件は、まだ扱っていない467条という条文、債権譲渡の対抗要件と同じ仕組みに乗り換わります。第三債務者Fに通知するか、Fが承諾するか、このどちらかが要ります。Fだけでなく、他の第三者にまで対抗するには、確定日付のある証書、たとえば内容証明郵便でこれを行う必要があります。詳しい中身は、債権譲渡を扱う別の回で見ることになります。今日は、債権質の対抗要件が債権譲渡と同じ構造だ、ということだけ押さえてください。

他の担保にはない、直接取立てという強さ

直接取立ての検算板。F→A(300万円のうち200万円を取立て)、F→B(残り100万円)の2本の矢印。366条3項の供託パターンも1枠で図解し、Fの弁済期3月1日、Aの被担保債権の弁済期6月1日という日付を添える。 図:直接取立ての検算板

  • F→A(300万円のうち200万円を取立て)、F→B(残り100万円)の2本の矢印
  • 366条3項の供託パターンも1枠で図解し、Fの弁済期3月1日、Aの被担保債権の弁済期6月1日という日付を添える

債権質には、動産質にも不動産質にもない強い効力があります。

条文民法366条

民法第366条 質権者は、質権の目的である債権を直接に取り立てることができる。 債権の目的物が金銭であるときは、質権者は、自己の債権額に対応する部分に限り、これを取り立てることができる。 前項の債権の弁済期が質権者の債権の弁済期前に到来したときは、質権者は、第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができる。この場合において、質権は、その供託金について存在する。 債権の目的物が金銭でないときは、質権者は、弁済として受けた物について質権を有する。

裁判所の手続を経る必要はなく、設定者Bも間に入りません。ここが、他の担保物権には見られない強さです。なぜこんな強い力が認められるのか。債権は、時計のように手元に預かっておける物ではありません。預かれない代わりに、支払われるお金そのものを押さえる、それが債権質の実行のしかただからです。ただし無制限ではありません。数字で検算してみましょう。AがBに対して持つ被担保債権は200万円で、BのFに対する債権は300万円でした。Aが取り立てられるのは、いくらまでだと思いますか。Aは自分の債権額に当たる200万円分までしか取り立てられません。その差額の100万円は、Bに支払われます。Aが300万円全額を独り占めすることはできません。

そこで3項が効きます。たとえば、Fの弁済期が3月1日、Aの被担保債権の弁済期が、6月1日だとしましょう。3月1日の時点では、Aはまだ取り立てる立場にありません。この場合、Aは、第三債務者Fに300万円全額を供託させることができます。供託されたお金の上に質権が乗り、6月1日になったら、その供託金から200万円分の権利を行使できます。最後にもう1つだけ。目的物が金銭ではなく物だった場合は、Aは受け取ったその物について質権を持つことになります。ここは名前だけ押さえておいてください。なお、設定者Bのほうは、質権のついた債権を勝手に免除したり相殺したりして、その価値を損なうことは許されないと考えられています。ここまでで、比較板の権利質の列も埋まりました。最後に、3つを並べながらまとめます。

3つの質権、占有の扱いはこう変わる

比較板(完成版)。列=動産質/不動産質/権利質。行=目的物(動産/不動産/財産権)、成立要件(引渡し/引渡し/契約)、対抗要件(占有の継続352/登記177/通知・承諾364)、使用収益権(なし/あり356/なし)、果実収取(あり350準用297/使用収益として吸収/該当なし)、利息(請求可・375不適用/請求不可358/直接取立て366)、存続期間(制限なし/10年360)、375条準用(不適用/361条経由で適用/該当なし)。 図:比較板(完成版)。列=動産質/不動産質/権利質。行=目的物(動産/不動産/財産権)、成立要件(引渡し/引渡し/契約)、対抗要件(占有の継続352/登記177/通知・承諾364)、使用収益権(なし/あり356/なし)、果実収取(あり350準用297/使用収益として吸収/該当なし)、利息(請求可・375不適用/請求不可358/直接取立て366)、存続期間(制限なし/10年360)、375条準用(不適用/361条経由で適用/該当なし)。

最初に出した比較板を、埋まった状態でもう一度見てみましょう。動産質は、占有の継続が対抗要件そのものでした。占有を失っても質権は消えませんが、対抗力が落ちます。第三者に奪われたときに取り戻す手段は、占有回収の訴えに限られます。不動産質は、占有に使用収益権までついてきます。使ってよい代わりに利息は請求できず、管理費用を負い、10年という期間の縛りもあります。抵当権の規定を準用する結果、375条という制限もここに及んできます。そして権利質は、そもそも預かる「物」がありません。だから対抗要件は債権譲渡と同じ仕組みに乗り換わり、その代わりに、他の担保にはない直接取立てという強い効力が与えられます。抵当権を占有ゼロの原点だとすると、動産質は占有をサインとして使い、不動産質は占有を使用収益にまで広げ、権利質は占有という道具そのものを手放して直接取立てに乗り換える。この一本の流れが、今日見てきた3つの質権のすべてです。

占有こそが動産質の対抗要件だからこそ、それを失った質権者には、限られた回復手段しか与えられません。今日の3つの質権は、これで一区切りです。

参照条文

  • 民法352条
  • 民法353条
  • 民法356条
  • 民法358条
  • 民法357条
  • 民法359条
  • 民法360条
  • 民法361条
  • 民法362条
  • 民法364条
  • 民法366条

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