民法ゼロから民法#140

牽連性と留置権の範囲

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第3章 担保物権 #140/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

建物は留置できるのに、部屋は無理なのか

冒頭の対比図。左側に「土地を返す場面」でAが建てた建物とB所有の土地、右側に「部屋を出る場面」でAが取り付けたエアコンとB所有の部屋を並べる。両方に共通の吹き出し「代金を払ってもらうまで、居座っていいのか」を配置。 図:冒頭の対比図

借りていた土地を返すとき、建てた建物の代金を払ってもらうまでは、建物だけでなく土地にまで居座っていいのか。今日はこの問いから始めます。もう1つ、似た形の問いがあります。借りていた部屋を出るとき、取り付けたエアコンの代金を払ってもらうまでは、エアコンだけでなく部屋そのものに居座っていいのか。そっくりな形をしていますが、法律の答えは正反対になります。土地のほうは居座れて、部屋のほうは居座れません。今日は、この2つの場面を比べながら、なぜ結論が分かれるのかを見ていきます。

借地を返すとき、建物はどうなるのか

借地借家法13条1項の全文カード背景。「建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる」に下線。 図:借地借家法13条1項の全文カード背景

まず前提を確認します。Aが、建物を建てる目的でBから土地を借りていたとします。これを借地権と呼びます。この借地契約の期間が満了して、更新もされなかったとします。Bは「土地を返してほしい」と言えますが、Aが建てた建物はどうなるのでしょうか。そこで条文があります。

条文借地借家法13条1項

借地借家法第13条第1項 借地権の存続期間が満了した場合において、契約の更新がないときは、借地権者は、借地権設定者に対し、建物その他借地権者が権原により土地に附属させた物を時価で買い取るべきことを請求することができる。

条文の『権原により』は、借地権という正当な権利に基づいて、という意味です。Aは、建物を時価で買い取るようBに請求できます。この請求権を建物買取請求権と呼びます。この権利は形成権と呼ばれる種類の権利で、Aが請求した瞬間に、当然に建物の売買契約が成立します。Aは建物の所有権をBに渡す代わりに、建物の代金債権を取得します。たとえば建物の時価が600万円だったとすると、Aは600万円の代金債権を持つことになります。Aは、この代金債権を被担保債権として、建物に対する留置権を取得します。前回見た295条の要件、つまり他人のものを占有していることと、債権がその物に関して生じていること、が、ここでも成り立っています。なお、第三者が建物を譲り受けた場合にも同じような買取請求権が認められていますが、今日はこの借地借家法13条の場面で考えます。

建物だけ留置して、土地は返せるのか

反射的効力の関係図。Aが建物を留置しつつ、Bが「代金は後で払う。まず土地を明け渡せ」と要求する構図。建物と敷地が一体で分離できないことを矢印や網掛けで示し、建物の留置(留置的効力)から敷地への矢印(反射)を点線で描く。 図:反射的効力の関係図

  • Aが建物を留置しつつ、Bが「代金は後で払う。まず土地を明け渡せ」と要求する構図
  • 建物と敷地が一体で分離できないことを矢印や網掛けで示し、建物の留置(留置的効力)から敷地への矢印(反射)を点線で描く

建物はもうBの物ですが、Aは600万円をもらうまで建物を留置できます。そこでBが「代金は後で払う。まず土地を明け渡せ」と言ってきたとします。土地についてはどうでしょうか。条文上、留置権が発生しているのは建物だけです。ですが、建物を留置しながら、土地だけをBに明け渡すことは、実際にはできません。建物の留置を認めた意味そのものが、土地を明け渡した瞬間に失われてしまいます。そこで、建物の引渡しを拒める効力が、その敷地にも及ぶと考えます。これを反射的効力と呼びます。建物を守るために発生した効力が、そのおまけとして敷地にも跳ね返ってくる、というイメージです。

判例の結論板。「建物の代金を受け取るまでは、建物だけでなく敷地の明渡しも拒める」という判例の結論を大きく示す(判旨の引用の形にせず、「効力が及ぶ」という理由づけは板に書かない)。判例名は隅に小さく表示(大判昭14・8・24)。 図:判例の結論板

  • 「建物の代金を受け取るまでは、建物だけでなく敷地の明渡しも拒める」という判例の結論を大きく示す(判旨の引用の形にせず、「効力が及ぶ」という理由づけは板に書かない)
  • 判例名は隅に小さく表示(大判昭14・8・24)

判例も、建物の代金を受け取るまでは、敷地の明渡しも拒めるという結論をとっています。この結論を説明するのが、今見た反射的効力という考え方です。建物と敷地を切り離せない以上、建物の留置権の効力が敷地にも反射的に及ぶ、と考えるわけです。

居座ってよいことと、タダでよいことは別問題

一言板。「留置できる≠タダで使える」を大見出しにし、地代を月3万円と仮定した場合、敷地を使い続ける間はその地代相当額の不当利得返還義務が発生する、という注記を添える。判例名は隅に小さく表示(最判昭35・9・20)。 図:一言板

  • 「留置できる≠タダで使える」を大見出しにし、地代を月3万円と仮定した場合、敷地を使い続ける間はその地代相当額の不当利得返還義務が発生する、という注記を添える
  • 判例名は隅に小さく表示(最判昭35・9・20)

ただし、ここで注意が必要です。Aは敷地を留置できても、その間タダで使ってよいわけではありません。たとえば地代がひと月3万円だったとすると、Aは敷地を使い続けるあいだ、その月3万円に相当する金額をBに返す義務を負います。借地契約が終わった以上、Aにはもう土地を使う法律上の理由がありません。理由なく他人の土地で得をした分は返す、というのが不当利得の考え方で、その詳しい中身は改めて扱います。留置権は居座る権利であって、無償で使う権利ではありません。

同じ形の問いを、部屋で考える

想起・予想の板。「さっきの建物と敷地の話と同じように考えると、エアコンの代金を理由に建物まで留置できそうに思えますが、どうでしょうか?」という一言問いかけ板。 図:想起・予想の板

ここで場面を変えます。今度は、Aが建物を借りて住んでいる場合です。Aは、Bの同意を得て、部屋にエアコンを取り付けました。このように、建物に付け加えた、あとから取り外せる設備を造作と呼びます。さっきと違って、今度は建物自体を借りているんです。建物の賃貸借契約が終了したとき、Aはこのエアコンをどうすればよいでしょうか。そこで、造作買取請求権という条文があります。

条文借地借家法33条1項

借地借家法第33条第1項 建物の賃貸人の同意を得て建物に付加した畳、建具その他の造作がある場合には、建物の賃借人は、建物の賃貸借が期間の満了又は解約の申入れによって終了するときに、建物の賃貸人に対し、その造作を時価で買い取るべきことを請求することができる。建物の賃貸人から買い受けた造作についても、同様とする。

Aが請求すると、エアコンについて当然に売買契約が成立し、Aはエアコンの所有権を失う代わりに、エアコンの代金債権を取得します。たとえばエアコンの時価が5万円だったとすると、Aは5万円の代金債権を持ちます。この代金債権を被担保債権として、エアコンに対する留置権を取得します。ここまでは、さっきの建物買取請求権とまったく同じ構造です。実は、ここで結論が変わります。判例は、エアコンの代金債権を理由に建物を留置することを認めていません。

判例の要旨紹介板。「造作の代金債権は、造作に関して生じた債権であって、建物に関して生じた債権ではない」という判示の要旨を大きく示す。判例名は隅に小さく表示(最判昭29・1・14)。 図:判例の要旨紹介板

  • 「造作の代金債権は、造作に関して生じた債権であって、建物に関して生じた債権ではない」という判示の要旨を大きく示す
  • 判例名は隅に小さく表示(最判昭29・1・14)

判例は、造作の代金債権は、あくまで造作に関して生じた債権であって、建物に関して生じた債権ではない、としています。つまり、建物との牽連性が認められない、という判断です。Aはエアコンについては留置権を主張できますが、建物についてはBの明渡し請求に応じるしかありません。

結論が割れる2つの物差し

2軸整理の比較表。縦軸に「分離可能性」「価格の釣り合い」、横軸に「建物と敷地(できる)」「造作と建物(できない)」。各セルに一言理由(一体不可分/分離可能、問題にしない(押さえないと建物の留置が無意味)/著しい価格差)を入れ、建物代金600万円・地代月3万円・造作代金5万円・借家の建物 時価500万円の数字も添える。 図:2軸整理の比較表

  • 縦軸に「分離可能性」「価格の釣り合い」、横軸に「建物と敷地(できる)」「造作と建物(できない)」
  • 各セルに一言理由(一体不可分/分離可能、問題にしない(押さえないと建物の留置が無意味)/著しい価格差)を入れ、建物代金600万円・地代月3万円・造作代金5万円・借家の建物 時価500万円の数字も添える

同じ「買取請求権の代金債権で、隣にある別の物まで留置できるか」という問いなのに、結論が正反対になりました。理由を2つの物差しで整理します。その前に1つ確認します。判例は造作の場面で「建物に関して生じた債権ではない」と言いましたが、実は建物買取の場面でも、あの600万円という代金は建物に対して払われるもので、土地に対してではありません。どちらも、隣の物との牽連性はありません。違いは、それでも隣の物まで押さえさせるかどうかで、それを決めるのが次の2つの物差しです。1つ目は、物理的な分離可能性です。建物と土地は、建物を留置しながら土地だけ明け渡すことが現実にできません。一体になっていて、切り離せないんです。

エアコンだけを取り外して留置し、建物のほうは明け渡すことが物理的に可能です。切り離せる以上、エアコンの留置権の効力を建物にまで広げる必要がありません。2つ目の物差しは、価格の釣り合いです。ただし、これは単独で働く物差しではなく、1つ目の物差しで切り離せると分かった場面で効いてきます。さっきの数字で比べてみます。エアコンの代金は5万円でしたが、建物の時価はおよそ500万円と仮定します。この著しい価格差があるのに、5万円の代金を確保するためだけに、500万円の建物全体を留置できるとしたら、Bにとって酷すぎます。

実は、土地のほうが建物よりずっと高いことも珍しくありません。それでも敷地まで留置できるのは、敷地を押さえないと、建物の留置権そのものが意味を失うからです。値段の差だけなら、前回の時計の話と同じで、3万円の修理代のために50万円の時計を丸ごと留め続けることも認められていました。つまり価格の差は、それだけでは留置を否定する理由になりません。切り離せる物のために、はるかに高い別の物まで押さえるのは、公平に反します。隣の別の物まで留置できるのは、それを押さえないと本来の留置権が意味を失う場合だけです。建物と敷地はこれに当たり、エアコンと建物は当たりません。敷地の側でBが損をしすぎないように調整しているのが、さっきの地代相当額の不当利得です。

牽連性は、範囲まで一枚岩ではない

今日のまとめ板。「建物買取請求権→敷地まで留置できる(反射的効力)」「留置できる≠タダ(地代相当額の不当利得)」「造作買取請求権→建物までは留置できない(造作の留置は可)」「分かれ目は分離可能性(切り離せる物で高い物まで押さえるのは公平に反する)」の4項目を1枚に並べる。 図:今日のまとめ板

今日の内容を振り返ります。建物買取請求権を行使したAは、建物の代金債権を理由に建物を留置でき、反射的効力によって敷地まで留置できます。ただし、敷地を使い続ける間は地代相当額の不当利得返還義務を負います。一方、造作買取請求権を行使したAは、造作の代金債権を理由に造作は留置できますが、建物までは留置できません。牽連性は、物とお金が同じ出来事から生まれているかを見る要件でしたが、隣接する別の物にまで効果を広げられるかどうかは、この2つの物差しでさらに絞られます。

参照条文

  • 借地借家法13条1項
  • 借地借家法33条1項

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