譲渡担保の清算義務と受戻権
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第3章 担保物権 #146/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
土地は丸ごと取られるのか
図:冒頭の場面図
借りたのは100万円です。担保に出したのは、1000万円の土地です。返せなかったら、土地は丸ごとAさんのものになるんですか。形式だけ見れば、そう見えます。前回見たとおり、譲渡担保は契約上、所有権をAさんに移す形をとっているからです。やっぱり丸取りされてしまうんですか。違います。譲渡担保の実質は、あくまで担保です。担保である以上、Aさんが手にしてよいのは、貸したお金の分だけです。今日は、この「丸取りは許されない」という原則が、実行の場面でどう条文と判例に落とし込まれているかを見ていきます。
清算義務、丸取りは許されない
図:清算義務の板
- 土地の価額1000万円、被担保債権額100万円、差額900万円が清算金
- 譲渡担保権者Aは、目的物の価額が債務額を上回る場合、その差額を清算金として設定者Bに支払う義務を負う
結論から言います。Aさんは、土地の価額とBさんの借金の額との差額を、清算金としてBさんに支払わなければなりません。形式上は所有権が移っていても、Aさんが実際に手にしてよい価値は、貸した100万円の分だけです。それを超える900万円は、Bさんのものとして返す。これが清算義務です。
⭐ 論文で書く規範:譲渡担保の清算義務(規範) いずれの方法による場合であっても、目的物の適正評価額ないし売却代金が債務額を上回る場合は、譲渡担保権者は設定者にその差額を清算金として支払う義務がある。 (出どころ=判例型(最判昭和46年3月25日・民集25巻2号208頁))
判例最判昭46・3・25(民集25巻2号208頁)
清算金の支払義務と、清算金と引渡しの引換給付 債権者は、債務者が弁済期に債務の弁済をしない場合においては、目的不動産を換価処分し、またはこれを適正に評価することによつて具体化する右物件の価額から、自己の債権額を差し引き、なお残額があるときは、これに相当する金銭を清算金として債務者に支払うことを要するのである。……債務者が右清算金の支払と引換えにその履行をなすべき旨を主張したときは、特段の事情のある場合を除き、債権者の右請求は、債務者への清算金の支払と引換えにのみ認容されるべきものと解するのが相当である
判決文の言う「差し引き、なお残額があるとき」の残額が、今回で言えば900万円にあたります。判決文にある「換価処分」は売ってお金に換えること、「適正に評価する」は値打ちを見積もることです。これが、このあと見る実行の2つのやり方で、どちらでも差額を返す点は変わりません。借金の100万円に届かないので、返すべき差額がありません。清算金はゼロです。値打ちはAさんの言い値ではなく、適正に評価した額で測ります。このときAさんは、清算金が無いことをBさんに通知します。所有権的構成をとっても、譲渡担保である以上、実質は担保だという性格は消えません。契約の趣旨は、最初から「借金の担保にする」という一点にあります。だから、たとえ所有権的構成に立っても、担保としての枠、つまり清算義務からは逃れられないんです。
実行の2類型、帰属清算と処分清算
図:2類型の板
- 帰属清算型=Aが土地を自分のものにして、清算金を払う方法
- 処分清算型=Aが土地を第三者Dに売って、代金から清算金を払う方法
- 違いは所有権が確定的に移るタイミング
清算義務を果たしながら実行する方法には、2つの型があります。1つは帰属清算型です。Aさんが土地を自分のものにして、代わりに清算金900万円をBさんに払う方法です。Aさんが土地を第三者Dさんに売却して、その代金から借金の分を引いた残りを、清算金としてBさんに払います。どちらも、Bさんが最終的に受け取るのは差額の清算金という点は同じです。違うのは、土地の所有権がいつ確定的に移るかです。帰属清算型では、Aさんが自分のものにするタイミング。処分清算型では、第三者Dさんに実際に売却するタイミングです。この「所有権がいつ確定するか」が、このあと見る受戻権の話に直結します。
清算金の支払と土地の引渡しは同時履行
図:同時履行の板
- Aは清算金900万円の支払義務を、Bは土地の明渡し義務を負う
- 実行という同じ出来事から生まれた対の義務として、どちらの履行も相手の履行と引換えでなければ拒める
もう1つ、実行の場面で押さえておきたいのが、清算金の支払と、土地の明渡しの関係です。Aさんが先に土地を明け渡すよう求めてきたら、Bさんはそれに応じないといけないんですか。違います。判例は、Aさんが明渡しを求める訴えの中で、Bさんが清算金の支払を主張したときは、特段の事情がない限り、清算金の支払と引換えでなければ明渡しを認めない、としています。清算金を払う義務と、土地を渡す義務は、同じ実行という出来事から生まれた、対になる義務だからです。片方だけ先に履行させるのは不公平なので、引換えにするんです。
条文民法533条
民法第533条 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
実行の場面に契約の条文を持ち込んでよいのかは、大事な点です。双務契約は、以前、冷蔵庫の売買で見たように、お互いが債務を負い合う契約でした。清算金の支払と目的物の引渡しが、実行という1つの出来事から生まれた対の義務だという点で、双務契約の対価関係と同じ扱いをしているんです。出典は、さきほどの清算義務のときと同じ判例です。引き換えにするお金がありませんから、Bさんは清算金を理由に明渡しを拒めません。引換えで守られるのは、返してもらうべき差額があるときだけです。
受戻権、いつまで土地を取り戻せるか
図:受戻権はいつまで存続するかの表
- 時間の流れ=弁済期→実行の意思表示→確定(受戻権消滅)
- 帰属清算型は清算金の支払・提供または清算金が無い旨の通知で、処分清算型は第三者Dへの処分で受戻権が消える
- 意思表示だけでは終わらず、それまでは受戻せる
ここが、今日いちばんの山場です。Bさんは、実行が終わるまでは、借金の全額を払えば土地を取り戻せます。これを受戻権といいます。具体例で考えましょう。友人に、家にある古い腕時計を担保として預けて10万円を借りたとします。時計の査定額は30万円です。友人が「もうこの時計は俺のものにする」と口で言っただけでは、まだ終わりません。友人が差額の20万円を用意して「受け取って」と差し出すか、実際に払うかして、初めて時計は友人のものに確定します。それまでは、あなたが10万円を耳をそろえて持っていけば、時計を取り戻せるんです。これを土地の話に置き換えると、帰属清算型では、Aさんが土地を自分のものにする意思表示をしただけでは終わりません。清算金900万円の支払か提供、さっきの80万円の土地のように清算金が無いときはその旨の通知をして、初めて所有権が確定します。提供とは、お金を用意して「受け取ってください」と差し出すことで、Bさんが受け取らなくても、そこで区切りがつきます。
Aさんが「土地は俺のものにする」と言っただけで、清算金の支払も通知も無いとき、Bさんはまだ受戻せますか。受戻せます。もし口で言っただけで受戻権が消えるとしたら、Bさんは土地を失ったのに、900万円はまだ1円も受け取っていない、という状態になります。それでは丸取りと変わりません。だから、清算金が確かにBさんの手に届く段階、つまり支払か提供があるまでは、受戻せるとしているんです。処分清算型のほうは、もっとはっきりしています。Aさんが第三者Dさんに実際に土地を売ってしまったら、その時点でBさんは受戻権を、ひいては土地の所有権を終局的に失います。お金を払って買ったDさんの立場を、いつまでも不安定にしておけないからです。
⭐ 論文で書く規範:受戻権の時的限界(規範) 帰属清算型の譲渡担保においては、譲渡担保権者が目的物を確定的に自己に帰属させる旨の意思表示をしても、譲渡担保権者が設定者に対して清算金の支払若しくはその提供又は目的物の適正評価額が債務の額を上回らない旨の通知をしない限り、設定者は受戻権を有し、債務の全額を弁済して譲渡担保権を消滅させることができる。ただし、譲渡担保権者が目的物を第三者に売却等をしたときは、設定者はその時点で受戻権ひいては目的物の所有権を終局的に失う。処分清算型の譲渡担保においては、目的物を第三者に処分するまでの間、設定者は受戻権を有する。 (出どころ=判例型(最判昭和62年2月12日・民集41巻1号67頁))
判例最判昭62・2・12(民集41巻1号67頁)
受戻権の消滅時期 弁済期の経過後であつても、債権者が担保権の実行を完了するまでの間、すなわち、(イ)債権者が目的不動産を適正に評価してその所有権を自己に帰属させる帰属清算型の譲渡担保においては、債権者が債務者に対し、目的不動産の適正評価額が債務の額を上回る場合にあつては清算金の支払又はその提供をするまでの間、目的不動産の適正評価額が債務の額を上回らない場合にあつてはその旨の通知をするまでの間、(ロ)目的不動産を相当の価格で第三者に売却等をする処分清算型の譲渡担保においては、その処分の時までの間は、債務者は、債務の全額を弁済して譲渡担保権を消滅させ、目的不動産の所有権を回復すること(以下、この権能を「受戻権」という。)ができるものと解するのが相当である
土地の場合も同じで、弁済期を過ぎたあとにAさんが土地を処分してしまうと、帰属清算型の約束だったとしても、また買った人の事情にかかわらず、Bさんは受戻権を失います。こう考えないと、土地が誰のものかがいつまでも決まらない状態が続いてしまうからです。似ていますが、別物です。抵当権消滅請求は、抵当に入った不動産を買った第三取得者が、自分で決めた金額を提示して、抵当権という負担を消す制度でした。受戻権は、担保に入れた本人であるBさんが、借金を全額払って、いったん移した所有権そのものを取り戻す権能です。誰が、何を払って、何を取り戻すのか、そこがまるで違います。受戻権が消えたあとも、Bさんには、差額の900万円を清算金として受け取る権利が残ります。土地は戻らなくても、丸取りはされません。Aさんが手にしてよいのは貸したお金の分だけ、という今日の原則は、時間の線の上でも貫かれています。
受戻権を放棄して清算金だけは請求できない
図:受戻権放棄の板
- Bが受戻権を放棄して清算金だけ請求しても認められない
- 理由=清算金支払請求権と受戻権は発生原因を異にする別個の権利/認めるとBが実行時期を一方的に決められてしまう
さっきの腕時計の話に戻ります。あなたが「時計はもう諦めるから、20万円だけちょうだい」と言ったら、それは通るんですか。通りません。判例は、これを認めていません。理由は2つあります。1つは、清算金支払請求権と受戻権は、発生原因を異にする別個の権利だということです。受戻権を放棄しても、それだけで清算金支払請求権が生まれるわけではありません。清算金を請求する権利は、Aさんが実行を終えたとき、つまり土地を自分のものにするか、第三者に売ることによって、初めて生まれる権利です。受戻権は逆に、Bさんが借金を全額払うことで、土地を取り戻す権利です。生まれるきっかけがまったく違うので、片方を放棄しても、もう片方が自動的に生まれるわけではないんです。
⭐ 論文で書く規範:受戻権放棄による清算金請求の可否(規範) 譲渡担保権設定者の清算金支払請求権と受戻権とは発生原因を異にする別個の権利であるから、設定者が受戻権を放棄しても、これにより清算金支払請求権を取得することにはならない。また、これを認めると、設定者が受戻権を放棄することにより、本来譲渡担保権者が有する実行時期決定の自由を一方的に制約し得ることになり、相当でない。 (出どころ=判例型(最判平成8年11月22日・民集50巻10号2702頁))
判例最判平8・11・22
受戻権放棄と清算金請求 譲渡担保権設定者は、譲渡担保権者が清算金の支払又は提供をせず、清算金がない旨の通知もしない間に譲渡担保の目的物の受戻権を放棄しても、譲渡担保権者に対して清算金の支払を請求することはできないものと解すべきである。……譲渡担保権設定者の清算金支払請求権は、……その価額から被担保債権額を控除した残額の支払を請求する権利であり、他方、譲渡担保権設定者の受戻権は、……弁済等によって被担保債務を消滅させることにより譲渡担保の目的物の所有権等を回復する権利であって、両者はその発生原因を異にする別個の権利であるから、……また、このように解さないと、譲渡担保権設定者が、受戻権を放棄することにより、本来譲渡担保権者が有している譲渡担保権の実行の時期を自ら決定する自由を制約し得ることとなり、相当でないことは明らかである。
もう1つは、実行の主導権の問題です。いつ実行するかを決めるのは、本来Aさんの自由です。Bさんが「もう受戻さない、清算金だけくれ」と言えてしまうと、Bさんのほうが実行の時期を一方的に決められることになってしまいます。それでは、実行時期についてのAさんの自由が奪われてしまうので、認められません。ただし、判例が否定したのは、Aさんが清算金の支払も通知もしていない段階で、Bさんのほうから言い出す場合です。Aさんが自分から、土地を自分のものにする、あるいはDさんに売ると動いたなら、Bさんは900万円の清算金を請求できます。いつ実行するかを決めたのが、Aさんだからです。
効力の及ぶ範囲と物上代位
図:範囲・物上代位の板
- 効力の及ぶ範囲は抵当権と同じ枠組み(370条類推)=付加一体物・従物・従たる権利にも及ぶ
- 目的物が売却・滅失・損傷した場合、譲渡担保権者は物上代位もできる(動産譲渡担保につき肯定した判例あり)
ここは軽く確認します。譲渡担保の効力が及ぶ目的物の範囲は、抵当権と同じ枠組みで考えます。370条を類推して、付加一体物や従物、従たる権利にも効力が及びます。詳しくはその回で扱ったので、ここでは同じ枠組みが使い回されている、とだけ押さえてください。もう一点、目的物が売却されたり、滅失・損傷したりして、Bさんが金銭を受け取る立場になったときは、Aさんはその金銭にも物上代位できます。差押えの要否や細かい要件は、物上代位を扱った回で見たとおりです。動産の譲渡担保についても、この物上代位を認めた判例があります。担保である以上、目的物が姿を変えても、その価値を追いかけられるということです。
動産なら、新法はどう書いたか
図:新法対比の板
- 前回の工場の機械の例
- 土地=不動産=新法の対象外(2条1号イ)=判例法理のまま
- 動産の譲渡担保は施行されると、60条=帰属清算方式、61条=処分清算方式、65条=清算金支払請求権の処分禁止、9条=物上代位、を条文で定める
前回見た2025年の新しい法律は、今日の話にも関係するんですか。関係します。ただし、今日の設例の土地は不動産なので、新法の対象外です。前回確認したとおり、不動産の譲渡担保は新法の定義から外れているので、これまでどおり判例法理で説明されます。前回登場した、工場の機械のような動産です。新法が施行されると、動産の譲渡担保の実行は、条文で定められることになります。呼び名は「型」から「方式」に変わりますが、中身は今日見た帰属清算型・処分清算型と同じ枠組みです。帰属清算方式は60条、処分清算方式は61条です。Aさんが「機械をもって弁済に充てること」、見積価額とその算定根拠、被担保債権の額を通知すると、通知から2週間が経つか、機械の引渡しを受けるかの早いほうの時点で、被担保債権が消滅します。その時点の価額が債務額を超えていれば、差額を清算金として払わなければなりません。処分清算方式も、第三者への譲渡を基準に、同じ構造で定められています。
新法は、判例が積み重ねてきたこの構造を、条文にしたと言えます。清算金の支払と目的物の引渡しについて533条を準用すると明文で定め、さらに、Bさんは清算金の支払を受けるまで機械を留置できる、とも定めています。判例も、土地の例でいえば、AさんがDさんに土地を売ったあと、Dさんから明渡しを求められたBさんは、清算金を受け取るまで留置権を主張できる、と認めています。新法は、こうした設定者の守りを、条文ではっきりさせたわけです。新法の条文には、受戻という言葉そのものは出てきません。ただ、60条や61条が「清算の時点になって初めて被担保債権が消滅する」と定めている以上、その時点に至るまでは、Bさんは普通に弁済して債務を消滅させることができます。これが、判例法理の受戻権と同じ働きをしています。65条は、清算の時点までは清算金支払請求権を譲渡そのほかの処分の対象にできないと定めています。9条は、目的物の物上代位を条文で定めたものです。土地なら判例法理、機械なら新法の条文、と場面で切り替えて考えてください。
今日の地図(保存版)
図:まとめ板
今日の内容を振り返ります。譲渡担保の実質は担保だから、Aさんが手にしてよいのは貸した分だけ。超えた分は清算金として返さなければならない、これが清算義務でした。実行のやり方には、帰属清算型と処分清算型の2つがあって、違いは土地の所有権がいつ確定するかでした。清算金の支払と土地の明渡しは、対になる義務として同時履行の関係に立ちます。そして今日の山場、受戻権は、その所有権が確定する時点まで存続します。帰属清算型なら清算金の支払・提供または通知まで、処分清算型なら第三者への処分までです。実行時期を決める自由は、あくまでAさんにあるからです。効力の及ぶ範囲や物上代位は、抵当権と同じ枠組みの使い回しでした。そして、動産の場合は、新法が施行されると、この構造が条文になります。冒頭のBさんの土地は、900万円の清算金を受け取る権利と、それまでの受戻権に守られています。
参照条文
- 民法533条