抵当権の効力と従たる権利・分離物・果実
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第3章 担保物権 #119/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
山から切り出した木は、まだ抵当権の中か
図:冒頭設例の関係図
- A(抵当権者・銀行)がB(山林所有者)の山林に抵当権を設定
- 返済が遅れる
- B→伐採・搬出→トラック→C(材木店)
- 山林上に残る木と、搬出されてCの倉庫にある木の2場面を並べる
Bさんは、自分の山林に、銀行Aのための抵当権を付けて、事業資金を借りました。ところが、返済が遅れ始めたころ、Bさんは山の杉を伐り出して、トラックで運び出しました。そして、材木店のCさんに売ってしまいました。山は丸裸になっています。Aさんはこう言いました。「その木は、抵当に入っていた山の木だ。返してもらう」。この主張は通るんでしょうか。先に答えを言っておきます。伐った木にも、抵当権の効力は及んでいます。ただ、山から運び出されてCさんの手に渡ると、AはそれをCさんには主張できません。山の上にある間なら、運び出しそのものを止められます。
今日は、その違いがどこで生まれるかを見ていきます。
前回の2つの説を、1枚で思い出す
図:前回の確認板
- A説=物理的一体性説(判例)
- 従物は独立の物なので370条本文には含まれないが、87条2項の「処分」を設定当時の行為と読んで及ぶとする
- B説=経済的一体性説(通説)
- 抵当権は交換価値を把握する権利であり、経済的な一体性があれば370条本文の付加一体物に含まれるとする
前回、抵当権が370条の「付加して一体となっている物」に従物を含むかで、2つの説が対立していました。覚えていますか?物理的にくっついているかを見る説と、経済的な価値のまとまりを見る説でした。A説、物理的一体性説は判例の立場です。従物は主物とは別の独立した物なので、370条本文には含まれない、とします。そこで持ち出したのが、87条2項の「従物は、主物の処分に従う」という条文でした。抵当権を設定することも、主物の権利関係を動かす「処分」だと読めば、設定したときにあった従物も、その処分に従うことになります。こうして、設定当時の従物にも及ぶという結論を導きました。B説、経済的一体性説は通説の立場で、抵当権が交換価値を押さえる権利であることから、物理的にくっついていなくても、経済的に一体なら370条本文にそのまま含まれる、としました。
今日も、この2つの説が出てくるんですか。出てきます。実は、今日の最初のテーマ、従たる権利の説明にも、この2つの説がそのまま使えます。今日は、前回とは違う物や権利や利益に、抵当権の効力がどこまで広がるかを見ていきます。
借地上の建物の抵当権は、借地権にも及ぶ
図:借地上建物の関係図
- X(地主)がB(建物所有者)に土地を賃貸
- Bはその土地の上に建物を所有し、建物にA(抵当権者)のための抵当権を設定
- 抵当権の効力は建物だけでなく、Bが持つ土地の賃借権にも及ぶ
ここからは、今日はじめて扱う場面です。Xさんの土地を借りて、その上に建物を持っているBさんがいたとします。Bさんが、この建物に、Aさんのための抵当権を設定しました。前回学んだとおり、土地と建物は別個の不動産なので、この抵当権は建物にしか付いていません。ところが、判例は、この抵当権の効力が、建物だけでなく、Bさんが持っている土地の賃借権、つまり借地権にも及ぶ、としています。考えてみてください。借地の上に建つ建物を、競売でCさんが買い受けたとして、借地権が付いてこなければ、Cさんはどうなりますか。その土地を使う権利がないので、建物があっても、すぐに出ていけと言われてしまいそうです。借地権が付いてこなければ、建物の交換価値は、ほとんど実現できません。だから、判例は、建物の抵当権の効力を、借地権にも及ぼすんです。ここで、前回の2つの説が、また出てきます。
A説、物理的一体性説からは、借地権は建物にくっついている「物」ではないので、370条本文には乗りません。そこで、87条2項を類推適用します。「従物は主物の処分に従う」という考え方を、「建物に従う借地権」というかたちで借りてくるわけです。一方、B説、経済的一体性説からは、借地権は建物の経済的な価値と一体をなす権利なので、370条本文を類推適用して、直接及ぶと説明できます。地上権が敷地の権利だった場合も、同じように及びます。
効力が及んでも、そのまま使えるとは限らない
図:承諾の板
- 地上権なら譲渡自由
- 賃借権は612条1項により賃貸人の承諾が必要
- 競売の買受人は、承諾が得られなければ借地借家法20条で裁判所に承諾に代わる許可を求める
ただ、ここで注意が要ります。「借地権に効力が及ぶ」ことと、「買受人がそのまま土地を使える」ことは、別の問題です。敷地の権利が地上権なら、地上権は自由に譲渡できる権利なので、問題は起きません。以前、地上権を扱った回で見たとおりです。ところが、敷地の権利が賃借権の場合は、話が変わります。条文を見てみましょう。
条文民法612条1項
民法第612条第1項 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。
借地権が賃借権の場合、競売でCさんが建物を買い受けても、地主Xさんの承諾がなければ、Cさんはその借地権を使えません。もっとも、Xさんがどうしても承諾してくれない場合のために、借地借家法20条という制度があります。Cさんが裁判所に申し立てれば、Xさんの承諾に代わる許可を出してもらえる、という仕組みです。地上権なら譲渡自由、賃借権なら承諾か裁判所の許可が要る。この対比だけ、押さえておいてください。
山から切り出された木にも、抵当権は及ぶか
図:分離物の板
- Aの抵当権が付いたB所有の山林の立木が伐採された場合、伐採されて動産になった木(分離物)にも、抵当権の効力はなお及ぶか、という論点
- 抵当権は不動産を丸ごと把握する物権であることから考える
ここからが、今日の本題です。冒頭のBさんの山林を、もう一度思い出してください。山林の上に生えている立木は、土地にくっついている付加一体物として、抵当権の効力が及んでいます。立木に効力が及ぶところまでは、前回と同じです。今日新しく問うのは、その立木が伐採されて、山林から切り離された場合です。切り離された木材、これを分離物と呼びます。分離物になっても、なお抵当権の効力は及ぶんでしょうか。切り離されて動産になった木にも、抵当権の効力は及ぶのか。これが、今日いちばんの問いです。結論から言うと、及びます。理由を考えてみましょう。抵当権は、どういう権利でしたか。
目的物全体を、丸ごと支配する物権です。抵当権は、山林という目的物を、丸ごと把握する物権です。その一部だった木が切り離されたからといって、抵当権という権利そのものが、その部分だけ消えてなくなる理由にはなりません。だから、伐採された木にも、抵当権の効力はそのまま及びます。
及ぶとして、誰に対抗できるか
図:公示の板
- 抵当権は登記を対抗要件とする物権(177条)
- 第三者に主張できるのは分離物が登記された不動産の上にある間だけ
- 山林上なら主張できるが、山林の外に出ると主張できなくなる
ただし、話はここで終わりません。「効力が及ぶ」ことと、「その効力を誰にでも主張できる」ことは、別の問題です。効力が及んでいても、誰にでも言えるとは限りません。抵当権は、登記を対抗要件とする物権でした。登記が示しているのは、あくまでその土地です。だから、第三者に向かって「この木にも抵当権が及んでいる」と言えるのは、木が、登記された土地の上にある間だけだ、と考えられています。登記は土地に付いていて、木材そのものには付いていない。そこがポイントです。木材そのものを公示する手段はありません。だから、抵当権の登記という公示が届く範囲、つまり山林の上にある間は、抵当権の効力を誰にでも対抗できます。前回、従物についても、抵当不動産の登記1つで第三者に対抗できる、と見ましたね。それと同じ理屈です。ところが、山林の外に搬出されてしまうと、その木材を見ても、もう「この山の登記が及んでいる物だ」とは分からなくなります。公示が届かなくなった以上、そこから先は対抗できない、と考えるわけです。
⭐ 論文で書く規範:分離物への効力と対抗(規範) 抵当権は、抵当不動産を丸ごと把握する物権である。そのため、不動産から切り離された物にも、効力は及ぶと解する。もっとも、抵当権の公示は登記によるから、第三者に効力を主張できるのは、分離物が登記された不動産の上にある間に限られると解する。 (出どころ=抵当権の性質(不動産全体を支配する物権性・登記による公示)からの解釈(通説))
このあと、伐採された木がどこにあり、相手が誰かによって、結論が分かれていきます。1つ、考えてみてください。もし、山の上にまだ木がある間に、無権利の第三者がその木を運び出そうとしているのを見つけたら、Aさんは何ができるでしょうか。搬出されたあとと、同じ結論になるでしょうか。うーん、山の上にある間なら、まだ公示は届いていますよね。搬出されたあととは、違う結論になりそうな気がします。では、場面を分けて確認していきましょう。
177条の「第三者」で、結論が分かれる
図:伐った木はどこにあり、相手は誰か。行=(a)山林上にある/(b)搬出後・相手が設定者B/(c)搬出後・相手が無権利の不法行為者/(d)搬出後・相手が譲受人C。列=177条の第三者にあたるか/Aは対抗できるか。(a)登記が届いている・誰にでも対抗可・搬出の差止め可。(b)当事者なので第三者にあたらない・対抗できる。(c)不法行為者は第三者にあたらない・対抗できる。(d)第三者にあたる(背信的悪意者を除く)・対抗できない。下段に注記:最判昭和57年3月12日は工場抵当法という特別法の事案で、備付動産が搬出され即時取得の保護を受けない第三者には返還を請求できるとした別枠のルール。一般の抵当権の伐木とは別の枠組み。
分かれ目は、177条の「第三者」にあたるかどうかです。当事者やその包括承継人以外で、登記が無いことを主張する正当な利益を持つ人、でしたね。まず、(a)伐木が、まだ登記された山林の上にある場合です。この場合、公示はまだ届いているので、Aさんは誰に対してでも効力を対抗できます。搬出しようとしている者がいれば、その搬出行為を差し止める請求もできます。さっきの問いへの答えは、これです。山の上にある間なら、無権利の第三者による搬出も止められます。搬出された後は、相手によって分かれます。(b)相手が設定者のBさん自身の場合。Bさんは、抵当権を設定した当事者そのものであって、177条の「第三者」にはあたりません。だから、Aさんは山林への返還を求められます。(c)相手が、権利もないのに勝手に持ち出した不法行為者の場合も、同じです。不法行為者も177条の「第三者」にはあたらないので、Aさんは対抗できます。
ところが、(d)搬出された木を、材木店のCさんのような譲受人が買い受けた場合は、話が変わります。このCさんは、177条の「第三者」にあたります。抵当に入っていた山の木だと知って買っていたとしても、それだけでは変わりません。Aさんはこの効力を対抗できず、山林へ戻すよう求めることはできません。ただし、Aさんへの嫌がらせを目的に買ったような背信的悪意者なら、第三者にあたらないので、Aさんは対抗できます。ここで、1つだけ注意しておきたい判例があります。工場に置かれた機械などの備付動産について、それが搬出され、第三者に譲渡された事案で、その第三者が即時取得の保護を受けない限り、元の場所に戻すよう請求できるとした判例です。
さっきの(d)と似た場面ですが、これは工場抵当法という特別な法律のもとでの話です。一般の抵当権の伐木では、(d)のとおり、譲受人が177条の第三者にあたれば、それだけでAさんは対抗できません。工場抵当の事案では、譲受人が即時取得の保護まで受けていなければ戻させられる、という別の枠組みです。なお、搬出そのものを実力で止める請求の中身は、抵当権に基づく妨害排除として、別の回で詳しく扱います。今日は、そういう請求ができる、という結論だけ押さえておいてください。山の上にある間なら止められ、Cさんの手に渡れば言えない。これが、冒頭の問いへの答えです。
効力が及ばない物
図:及ばない物の板
ここで、逆に効力が及ばない物も、1枚で確認しておきます。第三者が所有する物には、そもそも効力は及びません。これは、従物についても前回見たとおりです。また、付合物でも従物でもない、ただそこにあるだけの独立した動産にも、効力は及びません。ここまでが、山という不動産にまつわる「物」と「権利」の話でした。最後に、不動産そのものが生み出す「利益」の話に移ります。
果実には、不履行の後から及ぶ
図:371条の板
- 「抵当権は」「その担保する債権について不履行があったときは」「その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ」の3箇所を区切って示す
- 平時は及ばない、不履行後だけ及ぶ、という構造
抵当権を設定した山林や建物から、賃料や収穫物のような利益が生まれることがあります。これを果実と呼ぶのは、以前学んだとおりです。この果実に、抵当権の効力は及ぶんでしょうか。条文を読みましょう。
条文民法371条
民法第371条 抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ。
この条文を裏から読むと、不履行がない平時は、果実には及ばないのが原則だと分かります。なぜかというと、抵当権は、目的物の占有を設定者のもとに残したままの、非占有担保物権だからです。設定者は、返済をきちんと続けている限り、自分の山林や建物を自由に使い、そこから利益を得てよいはずです。ところが、被担保債権について不履行があると、話が変わります。設定者に使わせておいてよい、という前提そのものが崩れるからです。不履行があった後に生じた果実には、抵当権の効力が及ぶようになります。
果実には、賃料も収穫物も含まれる
図:果実の種類の板
- 天然果実(物の用法に従って生まれる産出物・山で採れる栗やきのこなど)と法定果実(使用の対価・賃料)、どちらも371条の果実に含まれる
- 賃料を実際に取りにいく道具は物上代位、次回
果実には、天然果実と法定果実の、両方が含まれます。物の回で見たとおり、天然果実は木になる果物のような産出物、法定果実は物を使わせた対価でしたね。抵当不動産が人に貸されている場合の賃料は、法定果実の典型です。371条の理屈を思い出してください。不履行の後は、設定者に不動産の利益を自由に使わせておく、という前提が崩れるからでした。山で採れる実りでも、山を貸して得る賃料でも、この理屈は同じように当てはまります。だから条文も、果実の種類を分けていません。今日は、冒頭の杉を、山の一部が切り離された分離物として見てきました。ここでいう果実は、山を壊さずに、その用法に従って生まれる実りや、貸して得る賃料のほうです。
ただし、この条文、371条は、あくまで「効力が及ぶ」ことを定めているだけです。Aさんが、実際にその賃料を自分の手元に取り込むには、もう1つ道具が要ります。それが、物上代位という手続です。
冒頭の答えを、もう一度
図:まとめ板
今日の骨格を振り返りましょう。抵当権は、目的物にくっついている物だけでなく、その外側に広がる権利や、切り離された物、生み出される利益にまで、効力が及ぶ場面がありました。条文操作は、前回のA説、B説がそのまま使えました。賃借権の場合は、612条の承諾か、借地借家法20条の許可が要る、という点も押さえておいてください。抵当権は、山林を丸ごと把握する物権なので、分離物にも効力は及びます。ただ、対抗できるのは、その分離物が登記された不動産の上にある間だけです。山の上にある間はAさんが誰にでも対抗でき、搬出しようとする者は止められます。搬出された後も、相手が設定者や不法行為者なら対抗できますが、譲受人には、背信的悪意者でない限り対抗できません。
Bさんが山の杉を伐り出して、材木店のCさんに売ってしまった時点で、Aさんはその木を取り戻せなくなっています。もし、Bさんが搬出しようとしている段階でAさんが気づいていれば、話は違っていました。抵当権が、占有ではなく交換価値を押さえる権利だという、この1本の軸で、今日の3つとも説明がつきます。
参照条文
- 民法612条1項
- 民法371条