抵当権の物上代位の対象と賃料・保険金
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第3章 担保物権 #120/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
家が焼けても、抵当権は消えるのか
図:冒頭設例の関係図
- A(抵当権者・銀行)がB(所有者)のアパートに抵当権を設定
- 隣家からのもらい火で夜間に全焼
- 建物は失われたが、保険会社からBに火災保険金が下りる
- Aの抵当権はどこへ向かうかを問いかける構図
Bさんは、自分のアパートに、銀行Aのための抵当権を付けて、お金を借りていました。ところが、ある夜、隣の家からのもらい火で、Bさんのアパートは全焼してしまいました。建物そのものは、もう跡形もありません。建物は消えましたが、Bさんには、保険会社から火災保険金が下りることになりました。Bさんには、ほかにも借金があります。Aさんは、建物が無くなったのだから、もう抵当権もおしまいで、ほかの債権者と同じ列に並ぶしかないんでしょうか。先に答えを言っておきます。Aさんの抵当権は、焼けた建物の代わりに、この保険金へ追いかけていけます。これが物上代位です。ただし、追いかけていける先には、判例が線を引いた場面もあります。今日は、その中身を1つずつ見ていきます。
前回の最後の話と、物上代位という名前を思い出す
図:前回までの確認板
- 371条=「抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ。」効力が及ぶことを定めるだけで、実際に取り込む道具は別に要る、と前回終わった
- 総説の回では、倉庫が落雷で全焼して火災保険金に乗り移る例で、物上代位という名前と、器が変わっても価値は同じという理由を、先に出していた
前回、371条という条文で、不履行があった後の賃料には、抵当権の効力が及ぶ、というところまで見ました。なぜ別の道具が要るかというと、効力が及ぶと言っても、賃料は、放っておけばそのままBさんの手元に入ってしまうからです。Aさんが先に取るには、Bさんが賃料を受け取る権利そのものを押さえる手続が要ります。その道具が、今日のテーマ、物上代位です。名前と理由は、もっと前、担保物権の総説の回で出てきています。思い出せますか? 倉庫が落雷で全焼して、その代わりに火災保険金を受け取る権利へ、抵当権が乗り移る、という例でした。
今日は、あの仕組みを、条文でもう一度確かめて、賃料や代金や保険金といった、それぞれの場面で、実際にどこまで追いかけていけるのかを、じっくり見ていきます。
372条は304条を借りてくる
図:372条の全文カードの背景
- 抵当権は296条・304条・351条を準用する構造
- 今日扱うのは304条(物上代位)
まず、条文を確認します。抵当権に物上代位が使えるのは、抵当権そのものにそう書いてあるからではありません。
条文民法372条
民法第372条 第二百九十六条、第三百四条及び第三百五十一条の規定は、抵当権について準用する。
372条は、296条、304条、351条という、もともと留置権、先取特権、質権のために作られた条文を、そのまま抵当権にも当てはめる、という構造です。今日扱うのは、この中の304条です。
条文民法304条
民法第304条 1 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。 2 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。
そこで、読み替えが要ります。この304条は、もともと、先取特権という別の担保物権のために書かれた条文です。先取特権というのは、法律が決めた特別な場面で、他の債権者に優先して弁済を受けられる担保物権の一種です。372条がこの304条を借りてくるとき、「先取特権」は「抵当権」に、「債務者」は「抵当権の目的物の所有者」に読み替えます。
図:読み替えの対応表
- 304条の文言=抵当権での読み方
- 「先取特権」→「抵当権」
- 「債務者」→「抵当権の目的物の所有者」
- ※所有者と債務者が別人の場合(物上保証人)は、所有者のほうを指す
抵当権の設定の回で、物上保証人という言葉が出てきました。自分は借金をしていないのに、他人の借金のために自分の不動産へ抵当権を設定する人のことでしたね。この場合、お金を借りているのは債務者ですが、抵当に入っている不動産の持ち主は物上保証人です。304条を抵当権に読み替えるときは、「その目的物の所有者」が受け取るべき金銭その他の物、という意味になります。たとえば、息子さんの借金のために、お父さんが自分の家に抵当権を付けた場合、その家が焼けて保険金を受け取るのはお父さんです。追いかける先は、このお父さんの保険金です。
この読み替えを頭に入れたうえで、なぜこんな効力が認められるのか、趣旨を確認しましょう。
なぜ、姿を変えたお金にまで効力が及ぶのか
図:趣旨の板
- 抵当権が押さえているのは不動産そのものではなく、不動産が持つ交換価値
- 売却・賃貸・滅失・損傷によって目的物が姿を変えても、価値そのものは同じところにある(価値代表物)
- 物上代位が無ければ、代位物は所有者の一般財産に混ざり、他の債権者と平等に按分されてしまう
抵当権が押さえているのは、不動産という物そのものではなく、その物が持つ交換価値です。これは、抵当権の設定の回で見た、抵当権の一番の特徴でしたね。例えば1万円札を、千円札10枚に崩したとします。お札という器は変わっても、合計1万円という価値そのものは変わりません。物上代位は、これと同じ発想です。目的物という器が、代金や賃料や保険金というお金に姿を変えても、その中に入っている価値は同じところにある。だから抵当権は、その価値が形を変えた先まで、追いかけていくんです。保険金や代金は、ただのBさんの財産になって、ほかの債権者とも平等に按分されてしまいます。物上代位があるからこそ、Aさんは、その中から先に回収できるんです。この1本の軸を頭に置いて、目的物が姿を変える場面を、売却、賃貸、滅失・損傷の3つに分けて、順番に見ていきましょう。
①売却代金にも及ぶか
図:売却代金の対立板
- 抵当権には追及力(目的物が第三者に渡っても、抵当権は付いたまま消えない性質)がある
- 否定説(柚木)=追及力があるので物上代位を認める実益がない
- 肯定説(我妻・通説)=売却代金も交換価値の具体化であり、明文に反してまで否定する理由がない
- 追及力と物上代位は競合しうる
1つめの場面は、目的物の売却によって受け取る代金です。ここでは、まず「追及力」という言葉を確認しておきます。抵当権のような物権は、目的物が誰の手に渡っても、その物に付いたまま消えない、という性質を持っています。これを追及力と呼びます。そこで争いになります。抵当権には、もともと追及力があって、目的物に付いていけるのに、その上さらに、売却代金にも物上代位を認める必要があるんでしょうか。この疑問から、否定説が出てきます。追及力があるのだから、代金にまで物上代位を認める実益はない、という考え方です。これに対して、通説は肯定説を採ります。売却代金も、目的物の交換価値が具体化したものにほかならない、304条の条文にも「売却」とはっきり書いてある、明文に反してまで否定する理由がない、というわけです。
通説では、追及力と物上代位は競合しうる、と考えます。抵当権者は、目的物そのものを追いかけることもできますし、売却代金を差し押さえることもできます。たとえば、Bさんが焼ける前のアパートを、買主に3000万円で売ったとします。Aさんは、買主の手に渡ったアパートに抵当権を実行することもできますし、買主がBさんに支払う前の、3000万円の代金を差し押さえることもできます。どちらを使うかは、抵当権者の選択です。
②賃料にも及ぶ
図:賃料の板
- 実は、Aさんは、Bさんが持っているもう一棟のアパートにも、抵当権を設定していた
- このアパートには入居者Cが住み、Bに家賃を払っている
- 371条で不履行後の賃料に効力が及ぶことを前回確認済み
- 304条によって、その賃料を実際に取り込む道具が物上代位
- 用益物権の対価(地代)も304条2項で同様
2つめの場面は、賃貸によって受け取る賃料です。ここで、前回の話とつながります。前回、抵当権の効力が及ぶ果実とは何でしたか? 平時と、不履行の後とで、答えは変わりましたね?平時は及ばず、不履行があった後に生じた果実にだけ、抵当権の効力が及ぶ、という話でした。賃料も、この果実に含まれるんでしたね。実は、Aさんは、燃えてしまったアパートとは別に、Bさんが持っているもう一棟のアパートにも、抵当権を設定していました。このアパートには、Cさんが入居していて、毎月Bさんに家賃を払っています。371条によって、不履行後の賃料には抵当権の効力が及びます。ただ、効力が及ぶことと、実際に取り込めることは別問題でした。ここで、304条の物上代位が働きます。効力が及んでいる賃料債権を、Aさんが実際に差し押さえて取り込む道具が、物上代位です。
賃料を差し押さえても、Bさんが建物を使うことも、Cさんに貸すことも、何も妨げられません。使う権利はBさんに残ったままだから、価値だけを押さえるという抵当権の性質とは、ぶつからないんです。最高裁も、そう考えて、賃料のような法定果実への物上代位を認めています。抵当権が把握している交換価値が、形を変えて賃料になっただけだ、という、さっきの1万円札の理屈と同じ軸です。なお、地上権のような用益物権を設定した対価、つまり土地の使用料についても、304条2項によって、同じように物上代位できます。ただ、この賃料の場面には、判例が細かく線を引いた3つの争いがあります。1つずつ見ていきましょう。
転貸賃料には、原則、及ばない
図:転貸の関係図
- A(抵当権者)がBのアパートに抵当権
- BはCに賃貸
- Cは、B(所有者)の承諾を得て、部屋の一室をD(転借人)へ転貸
- 原則、AはC→Dの転貸賃料債権に物上代位できない(×印)
- 例外=Cを所有者Bと同視すべき場合(法人格の濫用・賃貸借の仮装など)
たとえば、Cさんが、自分の部屋の一室を、Dさんに又貸ししていたとします。この場合、DさんがCさんに払う転貸賃料に、Aさんは物上代位できるでしょうか。判例は、原則としてできない、としました。理由は2つあります。1つめは、条文の文言です。さきほど、304条を、「所有者」が受け取るべき金銭、と読み替えました。転貸人であるCさんは、所有者ではありません。文理上、含めるのは無理があります。2つめは、実質的な理由です。Cさんは、抵当権の負担を負う立場にありません。BさんとCさんの間の、正常な賃貸借から生まれた転貸関係で、Cさん自身の商売の利益に近い転貸賃料まで持っていかれるのでは、Cさんの利益を不当に害してしまいます。
Cさんの転貸賃料は、Cさんが自分の判断で又貸しして生み出した、Cさん自身の儲けに近いものです。Bさんの手元に入るお金でもありません。ただし、例外もあります。Cさんが、実はBさんのご家族だけが役員をしている会社で、名目だけの賃貸借契約を結んでいたような場合です。こういうときは、Cさんを所有者Bさんと同視することが相当な場合として、物上代位が認められます。
⭐ 論文で書く規範:転貸賃料債権への物上代位(規範) 抵当権者は、抵当不動産の賃借人(転貸人)を所有者と同視することを相当とする場合を除き、賃借人が取得する転貸賃料債権について物上代位権を行使することができない。 (出どころ=判例(最高裁決定))
ここは論文で論点になりうる場面です。原則否定と、その例外の線引きを押さえておいてください。
賃料を差し押さえた後、相殺は通るか
図:相殺の時系列図
- ①抵当権設定登記→②Bが Cへ賃貸→③CがBに対する金銭債権を取得(登記の後に、CがBへお金を貸した)→④Aが物上代位で賃料債権を差し押さえる
- この順番なら、Cは③の債権を自働債権とする相殺で、Aに対抗できない
もう1つ、別の争いを見てみましょう。たとえば、Aさんの抵当権の登記がされた後で、Cさんが、大家であるBさんに、個人的にお金を貸していたとします。Aさんが、この賃料債権を差し押さえた後になって、Cさんが「実は私、Bさんにお金を貸していたので、それと相殺します」と言ってきたら、Aさんは賃料を受け取れなくなるでしょうか?判例は、これを認めませんでした。抵当権設定登記の後にCさんが取得した債権であれば、Aさんの差押えの後は、その債権を自働債権とする相殺を、Aさんに対抗できない、としたんです。自働債権というのは、保証と相殺を扱った回で見たとおり、相殺を持ち出す側、ここではCさんの貸金の債権のことです。
理由は、公示です。賃料債権にまで抵当権の力が届くことは、抵当権の登記がされた時点で、外から分かる形になっています。Cさんが後になって取得した債権による相殺は、Cさんが差押えの後になって持ち出す、いわば後出しの精算です。先に公示されていた抵当権の効力を、後から出てきた個人的な期待に優先させる理由はありません。なお、もしCさんの相殺が、Aさんの差押えよりも前に済んでいれば、話は別です。その場合、Cさんは相殺をAさんに対抗できます。時系列の順番が、結論を決めます。
⭐ 論文で書く規範:差押え後の相殺の可否(規範) 抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権を差し押さえた後は、賃借人は、抵当権設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって、抵当権者に対抗することができない。 (出どころ=判例(最高裁判決))
敷金は、差し引かれて当然に消える
図:敷金充当の板
- Cさんは入居のとき、Bさんに敷金を差し入れていた
- Aが賃料債権を差し押さえた後、賃貸借が終了しCがBへ明渡しをすると、賃料債権は敷金の充当により当然に消滅する(その限度でAは回収できない)
- 敷金は、賃料の不払いなどに備えて賃借人が賃貸人に預ける担保
もう1つ、敷金の場面です。Cさんは、この部屋に入居するとき、Bさんに敷金を差し入れていました。敷金というのは、家賃の不払いなどに備えて、賃借人があらかじめ賃貸人に預けておくお金のことです。Aさんが賃料債権を差し押さえた後、CさんとBさんの賃貸借契約が終わって、Cさんが部屋を明け渡したとします。このとき、未払いの賃料に、敷金が充てられます。ところが、判例は、この敷金の充当を認めました。賃料債権は、敷金の充当によって、その限度で当然に消滅する、としたんです。つまり、Aさんは、敷金が充てられた分だけ、回収できなくなります。たとえば、敷金が20万円で、未払いの家賃が30万円だとすると、20万円分は敷金で消えます。Aさんが取れるのは、残りの分の10万円だけです。
⭐ 論文で書く規範:差押え後の敷金による充当(規範) 抵当権者が物上代位権の行使により賃料債権を差し押さえた場合であっても、賃貸借契約が終了して目的物が明け渡されたときは、賃料債権は敷金の充当によりその限度で当然に消滅する。 (出どころ=判例(最高裁判決))
相殺は対抗できないのに、敷金の充当は通る。この逆になる結論を、次に対比して整理しましょう。
なぜ相殺はダメで、敷金充当はOKなのか
図:対比板
- 相殺=賃借人の意思表示による能動的な債権消滅
- 差押え後の後出しの精算であり、先に公示された抵当権の効力に劣後する→対抗できない
- 敷金充当=敷金契約から当然に生じる受動的な消滅であり、賃借人の意思表示による相殺ではない
- 抵当権設定者は、目的物を自由に賃貸し敷金契約も結べる立場にあり、抵当権者もその制約を当初から織り込み済み→対抗できる
相殺は、Cさんが差押えの後になって、「実はこういう債権も持っていました」と、自分の意思表示で後から持ち出す、いわば後出しジャンケンです。これに対して、敷金の充当は、CさんとBさんが賃貸借契約を結んだ最初の時点から、「賃貸借が終わったら、未払い分に敷金を充てます」と決まっていた、契約上の自動引き落としです。Cさんの意思表示は要りません。もう1つの見方をすると、Bさんは、抵当に入れた不動産を、自由に賃貸することができますし、その賃貸借に敷金を付けることもできる立場にあります。抵当権者のAさんも、賃貸借に敷金が付くことは、いわば最初から織り込み済みのはずです。だから、敷金の充当は、Aさんに対抗できます。一方、Cさんが差押えの後に持ち出す個人的な相殺は、Aさんが先に登記で公示していた効力に、後から割り込むものです。だから、対抗できません。
同じ「賃借人の側から賃料を消す話」に見えても、その中身が能動的な後出しか、契約上の当然の帰結かで、結論が逆になります。この対比だけ、押さえておいてください。
③滅失・損傷によって受けるべき金銭
図:滅失・損傷の板
- 第三者が目的物を壊した場合=損害賠償請求権(709条)にも物上代位できる
- 火災保険金請求権にも物上代位できる(判例・通説)
- 反対の筋=保険金は保険料の対価であって目的物の価値そのものではない
- 肯定の理由=①抵当権者の最後のよりどころ②保険金も交換価値の具体化といえる
- 実務では、この手続を避けるため保険金請求権に質権を設定するのが通例
ここで、冒頭の火災保険金に戻ります。3つめの場面は、目的物の滅失・損傷によって受け取る金銭です。まず、単純な場合として、たとえば、トラックが突っ込んでアパートの壁を壊したように、第三者が目的物を壊した場合は、Bさんに損害賠償請求権が生まれます。この請求権にも、物上代位できます。それは、なんとなく分かります。壊した人への賠償請求権も、交換価値の姿を変えたものです。では、冒頭のBさんのように、火事で焼けて、保険会社から保険金が下りる場合はどうでしょうか。実は、ここには反対の筋もあります。火災保険金は、Bさんが保険料を払い続けてきたことの対価であって、アパートそのものの価値ではないのではないか、という考え方です。
保険金は保険料の対価で、目的物の価値そのものではない、という疑問はもっともです。ですが、判例・通説は、この火災保険金請求権にも、物上代位を認めています。理由は2つです。1つめは、目的物そのものが無くなってしまった以上、火災保険金は、抵当権者にとって最後のよりどころだということ。2つめは、火災保険金も、目的物が持っていた交換価値が、形を変えて具体化したものだと言えることです。だから、Aさんは、冒頭の答えのとおり、この火災保険金に物上代位できます。ただし、実際の実務では、こうした煩雑な手続を避けるため、あらかじめ保険金請求権そのものに、総説の回で見た4つの担保物権の1つ、質権を設定しておくことが多いです。
お金を受け取る前に、自分で差し押さえる
図:差押えの確認板
- 304条1項ただし書=「先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。」抵当権に読み替えても同様
- この差押えが具体的に何を意味するか、なぜ必要とされるかの議論は、次回
最後に、もう一度、304条のただし書を思い出してください。物上代位を行使するには、払渡しまたは引渡しの前に、自分で差押えをしなければなりません。Bさんが保険金を受け取ってしまってから、Aさんが「その保険金は自分のものだ」と後追いすることはできません。では、なぜ払われる前でなければならないのでしょうか。冒頭の場面で、保険会社が先に、Bさんの預金口座へ保険金を振り込んでしまったら、どうなると思いますか。Bさんの口座には、ほかのお金も入っていますよね。どこまでが保険金だったのか、もう分からなくなりそうです。代表的な見方が2つあります。1つめは、今のように、Bさんの手元のお金に混ざってしまうと、焼けたアパートの代わりだった部分を区別できなくなるから、混ざる前に押さえておく、という見方です。2つめは、払う側の保険会社から見る見方です。Bさんに払えば済むのか、Aさんに払わなければならないのかが分からないと、Bさんに払った後で、Aさんからも請求されかねません。差押えがあれば、誰に払えばよいかがはっきりします。この2つのどちらを重く見るかで、差押えの意味の理解が変わってきます。今日は、払われる前に自分で差し押さえる、という一文と、その裏にこの2つの見方があることを押さえておいてください。
冒頭の答えを、もう一度
図:まとめ板
- 372条・304条=抵当権への読み替え(債務者→所有者)
- 趣旨=価値代表物(器が変わっても価値は同じ)
- ①売却代金=追及力と競合しうる(通説)
- ②賃料=371条とつながり物上代位で取り込む
- 転貸賃料は原則否定・例外は所有者と同視すべき場合
- 差押え後の相殺は対抗不可、敷金充当は当然に優先
- ③滅失・損傷=損害賠償請求権・火災保険金請求権にも及ぶ
- 差押えが要る(304条1項ただし書、次回)
今日の骨格を振り返りましょう。抵当権は、372条によって304条を借りてきて、目的物が姿を変えたお金にまで効力を及ぼしていました。押さえているのは物そのものではなく交換価値だから、という1本の軸でしたね。賃料については、前回の371条とつながって、効力が及んだ賃料を実際に取り込む道具が物上代位でした。転貸賃料には原則として及ばず、所有者と同視すべき場合だけ例外的に及ぶ。差押え後の相殺は対抗できないけれど、敷金の充当は当然に優先する。この2つの対比が、今日いちばんの山場でしたね。そして、滅失・損傷による損害賠償請求権にも、冒頭の火災保険金請求権にも、物上代位は及びます。Aさんの抵当権は、焼けたアパートの代わりに、この保険金へ追いかけていけます。ほかの債権者と同じ列に並ぶ必要はありません。
ただし、Aさんがこの保険金を実際に受け取るには、払渡しの前に、自分で差し押さえておく必要がありました。
参照条文
- 民法372条
- 民法304条