物上代位の差押えの趣旨と3つの説
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第3章 担保物権 #121/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
なぜ、受け取る前に差し押さえないといけないのか
図:前回の続きの確認板
- Aさん(抵当権者・銀行)、Bさん(所有者)、Bのアパートは全焼し保険会社から火災保険金
- Aの抵当権は保険金に物上代位できるところまで前回確認済み
- 304条ただし書=「払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない」
- 前回末尾で「代表的な見方が2つある」と予告し名前を伏せたまま終わっている
- 今回はこの2つに名前を与え、3つ目を加える
前回、Bさんのアパートが全焼して、Aさんの抵当権はその保険金に物上代位できるところまで確認しました。前回の最後に代表的な見方が2つあると予告しました。覚えていますか?1つは、Bさんの手元のお金に混ざってしまう前に押さえておくという見方。もう1つは保険会社がBさんとAさんのどちらに払えばいいか分からなくなる、という見方でした。実は見方はもう1つあって、全部で3つに分かれます。そして、どの見方に立つかによってAさんが自分で差し押さえないといけないのかという次の問題の答えまで変わってきます。今日はこの3つの見方の中身と、その先にある問題を順番に見ていきましょう。
304条ただし書、もう一度
図:304条の確認板
- 372条で「先取特権者」を抵当権者に、「債務者」を所有者に読み替える
- 今日扱うのはただし書の「払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない」の部分
条文民法304条
民法第304条 1 先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。 2 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。
前回にも見たこの条文でしたね。372条の規定によって「先取特権者」は抵当権者に、「債務者」は目的物の所有者に読み替えるんでしたね。この一文だけを見ても、なぜ差押えが要るのかは書いてありません。だからこそ説明の仕方が分かれるんです。
なぜ差押えが要るのか、3つの説
図:3説の比較板
- ①優先権保全説=物上代位は法が担保権者に与えた政策的な恩恵であり、差押えは他の債権者・譲受人との利害調整のための資格要件
- ②特定性維持説=物上代位は担保物権が交換価値を把握する権利として当然に認められる権能であり、差押えは目的物が一般財産に混ざるのを防ぐ要件にすぎない
- ③第三債務者保護説=差押えは、弁済先を誤ると二重弁済を強いられる第三債務者を保護するための対抗要件
差押えがなぜ要るのか、代表的な説明は3つあります。まずたとえ話をはさみます。スーパーの特売で「先着100名限定・整理券が要ります」という掲示を見たことはありますか。この「なぜ」にも、いくつかの説明が考えられます。1つは整理券を持つ人だけが特典を受ける資格を得るという説明です。2つめは整理券がどの客の商品かを区別する目印に過ぎないという説明です。3つめはレジ係が後から来た別の客にも同じ商品を渡すよう求められないための証明書だという説明です。304条の差押えも、これと同じです。1つめの見方が①優先権保全説です。物上代位は法が担保権者に特別に与えた政策的な恩恵だと考えます。だとすれば差押えは、この恩恵を受けるための資格要件だということになります。
2つめが②特定性維持説です。物上代位は、抵当権が交換価値を把握する権利である以上当然に認められる権能だと考えます。だとすれば差押えは、保険金がBさんの一般財産に混ざって区別できなくなるのを防ぐ技術的な要件に過ぎないということになります。そして3つめが③第三債務者保護説です。差押えは弁済先を誤ると二重弁済を強いられかねない保険会社、つまり第三債務者を保護するための対抗要件だと考えます。二重弁済というのは、保険会社がBさんに保険金を払ったあとで、Aさんからも「それは私の抵当権が及ぶお金です」と請求されて、もう一度払わされることです。
前回の2つの見方は②特定性維持説と③第三債務者保護説のことだったんです。今日はそこに①優先権保全説を加えて3つとも見ていきます。
同じ保険金の設例に、3つの説を当てはめる
図:設例あてはめ図
- A(抵当権者・銀行)、B(所有者)、アパート全焼、保険会社から保険金
- ①優先権保全説=Aが自ら差し押さえて初めて優先的に取れる資格を得る
- ②特定性維持説=保険金がBの手元の他の財産と混ざる前に押さえる
- ③第三債務者保護説=保険会社がBに払うべきかAに払うべきか分からず困る
では冒頭の設例に3つの説を当てはめてみましょう。Aさんの抵当権付きのアパートが全焼して、保険会社からBさんに保険金が下りる場面でしたね。①優先権保全説なら、こう説明します。Aさんが自分で保険金請求権を差し押さえて初めて、他の債権者に優先して取れる資格を得る。差押えはいわばAさんが恩恵を受けるための手続です。②特定性維持説では、保険金がBさんの口座で他のお金と混ざる前に押さえておくことが、差押えの役目です。保険金という中身さえ特定できていれば、それでよいという発想です。そして③第三債務者保護説なら、こうなります。保険会社はBさんに払うべきなのかAさんに払うべきなのか、放っておいては分かりません。差押えがあって初めて保険会社は「Aさんに払えばよい」と分かるんです。
この視点の違いを頭に入れておくと、この先の問題の答えがなぜ説によって分かれるのかがすっと見えてきます。
判例は、どの説に立つか
図:判例の立場板
- 差押えの趣旨について、現在の判例(取立債権事件)は③第三債務者保護説に立つ
- 決め手=差押え前ならBに払えば足りる=保険会社を二重弁済から守る
ここで判例がどの説に立つかを確認しておきましょう。現在の判例は③の第三債務者保護説に立っています。差押えは、保険会社のような第三債務者が誰に払えばよいか分からないまま二重の請求を受けることのないようにするための対抗要件だ、という理解です。なぜ判例はこの説を採るのか。抵当権の効力が保険金にまで及ぶ以上、保険会社は、Bさんに払っても、その支払いをAさんに主張できないかもしれない不安定な立場に置かれます。そこで、差押えが届く前ならBさんに払えば済む、という線を引いて、保険会社を二重弁済の危険から守ったんです。
3つめだけ知っていても、なぜ3つめが選ばれているのかは見えてきません。1つめや2つめと比べて、初めて3つめのどこが違うのかが分かります。3つとも、しっかり押さえておいてください。それでは、この3つの説が実際に答えを分ける問題に進みましょう。
自分で差し押さえないといけないのか
図:抵当権者自身による差押えの要否の設例図
- Aが保険金請求権を差し押さえる前に、Bの別の債権者Eが、同じ保険金請求権を先に差し押さえた
- Aは、Eの差押事件に配当要求をするだけで足りるか、それとも自分で(別途)差し押さえる必要があるか
ここでもう1つ場面を加えます。Aさんが差し押さえる前に、Bさんの別の債権者であるEさんが、同じ保険金請求権を先に差し押さえていたとします。Eさんの差押事件はもう手続が進んでいます。Aさんはこの事件に「私にも優先して配当してください」と配当要求をするだけで足りるでしょうか。それとも、Aさんは自分でも別に保険金請求権を差し押さえないといけないんでしょうか。ここでさっきの3つの説が効いてきます。順番に見ていきましょう。
図:抵当権者自身による差押えの要否の帰結表
- 優先権保全説=必要(恩恵を受けるのは自ら差し押さえた者だけ)
- 特定性維持説=不要(誰が差し押さえても保険金は特定される)
- ただし特定性維持説に立ちつつ必要説を採る論者もいる
- 第三債務者保護説=必要(自ら差し押さえて初めて保険会社にAへの優先権が伝わる)
まず①優先権保全説です。差押えは恩恵を受けるための資格要件でした。だとすれば恩恵を受けられるのは、自分でルールどおり差し押さえた人だけです。Eさんの差押えに乗っかるだけでは、Aさんは資格を得られません。結論は必要です。次に②特定性維持説です。差押えは保険金がBさんの一般財産に混ざらないようにするための要件でした。だとすれば誰が差し押さえたかは関係ありません。Eさんが差し押さえた時点で保険金請求権はもう特定されています。結論は不要です。ただし②特定性維持説に立ちながらも必要説を採る論者もいます。ここは深追いせず、こういう立場もあると知っておくだけで十分です。最後に③第三債務者保護説です。差押えは保険会社が誰に払えばよいか分かるようにするための要件でした。Eさんが差し押さえても保険会社に分かるのは「Eさんに払えばよい」ということだけです。Aさんが優先権を持っていることは保険会社には伝わりません。
3つめの説からも、Aさんは自分で差し押さえる必要がある、という結論になります。1つめも3つめも必要、2つめは原則として不要。同じ「差押えが要るか」という一文の理解の違いが、この結論の分かれ方を生んでいるんです。
判例の結論
図:判例の結論板
- 物上代位権者は、他の債権者の申し立てた債権差押事件に配当要求をする方法によっては優先弁済を受けられない
- 自ら差し押さえる方法によるほかない(配当異議事件)
- 射程=方法の話であって、いつまでに差し押さえればよいかという時期の話ではない
判例は、③第三債務者保護説の立場と同じ結論を採っています。抵当権に基づいて物上代位権を行使する債権者は、他の債権者が申し立てた債権差押事件に配当要求をするという方法によっては優先弁済を受けることができません。
⭐ 論文で書く規範:物上代位権者自身による差押えの要否(規範) 抵当権者が物上代位権を行使するには、他の債権者の申し立てた債権差押事件に配当要求をする方法によっては優先弁済を受けることができず、目的債権を自ら差し押さえる方法によるほかない。 (出どころ=判例(最高裁判決))
理由づけも第三債務者保護説の説明とつながっています。372条で準用している304条ただし書の「差押え」に配当要求は含まれない、という条文の文理からこのように判断されています。ただしこの判例が言っているのは、あくまで「配当要求では足りず、自ら差し押さえるという方法によるほかない」という方法の話です。「では、いつまでに差し押さえればよいのか」という時期の問題は、この判例が直接答えたものではありません。たとえば、Aさんが差し押さえる前に、Bさんが保険金請求権を別の人に譲り渡してしまっていたら、Aさんはもう間に合わないのか。これが時期の問題です。方法と時期を混同しないよう注意してください。
今日の答えを、もう一度
図:まとめ板
- 304条ただし書=差押えが必要
- なぜ要るかは3説(①優先権保全説=資格要件②特定性維持説=特定のための要件③第三債務者保護説=第三債務者保護のための対抗要件・判例)
- 抵当権者自身による差押えの要否=Eが先に差し押さえても、Aは自ら(別途)差し押さえる必要がある(①③必要・②原則不要)
- 次回=差押えの前に保険金請求権が譲渡されていたら
今日の骨格を振り返りましょう。304条ただし書は、払渡しまたは引渡しの前に差押えをしなければならない、と定めていました。なぜ差押えが要るかについて、①優先権保全説は資格要件だと考え、②特定性維持説は保険金が混ざるのを防ぐための要件だと考え、③第三債務者保護説は保険会社を守るための対抗要件だと考えます。そして、Bさんの別の債権者Eさんが先に差し押さえていた場合でも1つめの立場と3つめの立場からは、Aさんは自分で別に差し押さえる必要があります。判例も同じ結論です。Eさんの差押事件に乗っかるだけでは、Aさんは優先弁済を受けられません。
冒頭の疑問もこれでつながりました。混ざる前に押さえる、誰に払えばいいか分かるようにする、資格を得る。この3つの見方の違いが、次の問題の答えまで変えていたんです。差押えの前に、この保険金請求権そのものが別の人に譲り渡されていたら、Aさんはまだ差し押さえられるのか。譲渡が304条の「払渡し又は引渡し」に当たるのかどうか、そこでも今日の第三債務者保護説が答えを決めます。
参照条文
- 民法304条