損害賠償額の算定基準時
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第4章 債権総論 #162/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
値上がりした土地は、いつの値段で
図:冒頭の関係図
- 買主Pが、売主Qから、宅地(甲地)を2000万円で買う契約をした
- 代金は引渡しと同時払いで、まだ払っていない
- 履行期の前にQは甲地をRに売り、登記もRに移した(二重売買)
- Pへの引渡しは不能
- 問い=不能にした時点の時価は2800万円、判決前の最後の審理の時点では4200万円
- PはQに、いくら払わせられるか
Pさんは、Qさんから、宅地の甲地を、2000万円で買う契約をしました。代金は、引渡しと同時に払う約束で、まだ払っていません。ところが、履行期の前に、Qさんは甲地をRさんに売り、登記もRさんに移してしまいました。二重売買です。Pさんへの引渡しは、できなくなりました。問題は、値段です。甲地は、近くの再開発で、値上がりが続いています。Qさんが引渡しをできなくした時点の時価は、2800万円。裁判が続く間にも上がり続けて、判決の前の最後の審理の時点では、4200万円になりました。今日の問いは、PさんはQさんに、いくら払わせられるか、です。2800万円の値段で計算するのか、4200万円の値段で計算するのか。答えは最後に出します。前の回で、賠償の範囲を見ました。どこまでの損害が賠償の対象になるかは、416条で決まります。ただ、範囲が決まっても、まだ終わりではありません。その損害を、いくらと見積もるか、という問いが残ります。買い直しの差額について、いつの時点の値段か、と次の回に送っていました。今日が、その回です。
賠償は金銭で、額を定める
図:417条の位置づけ
- 416条=どの損害まで賠償の対象にするか(範囲)/417条=その損害を金銭でいくらと定めるか(額)
- 原則=損害を被ったことと額は債権者が証明する
- 例外=①金銭債務は損害の証明が要らない(419条2項)②慰謝料は裁判所が自由な心証で量定③損害が生じたことは認められるが額の立証が極めて困難なとき、裁判所が相当な額を認定できる(民事訴訟法248条)
条文です。全文を見ます。
条文民法417条
民法第417条 損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。
損害賠償は、お金で払うのが原則です。別段の意思表示、つまり、当事者が別の方法を約束していれば、それに従います。たとえば、壊した物は同じ物で弁償する、と決めていた場合です。約束がなければ、金銭です。土地そのものを引き渡させる請求は、本来の履行の請求です。ところが、今回は、履行が不能になっています。だから、その代わりに、お金で賠償させる。これが、前に見た、填補賠償です。ここから先は、そのお金の額をどう見積もるか、の話です。整理します。416条は、どの損害まで賠償の対象にするか、という範囲の問いでした。417条の先にあるのは、その損害をいくらと定めるか、という額の問いです。前の回で見た保護範囲論の言葉で言えば、3つめの、金銭的評価にあたります。今日は、この額の問いのうち、時価が動く物で、いつの値段を見るか、を扱います。
原則は、債権者です。損害を被ったこと、その額を、債権者のほうで証明します。ただし、例外が3つあります。1つめは、金銭債務。これは、損害の証明が要らないと419条2項が定めていて、利息の回で見ました。2つめは、慰謝料。裁判所が、自由な心証で額を決めます。3つめは、損害が生じたことは認められるのに、性質上、額の立証が極めて難しいとき。民事訴訟法248条で、裁判所が相当な額を認定できます。いずれも、名前と結論だけ、持ち帰ってください。
履行不能の基準時:原則は、不能にした時の値段
図:立ち止まる問いの板
- 前の回の復習
- 特別の事情によって生じた損害は、どんなときに賠償を請求できるか。
基準時に入る前に、前の回の要点を1問。特別の事情によって生じた損害は、どんなときに賠償を請求できるでしょうか?債務者が、その事情を予見すべきであったときです。416条の全文で、確かめておきます。
条文民法416条
民法第416条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。 2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。
1項が通常損害、2項が特別の事情です。この2項の考え方が、今日は、値段の見方にも出てきます。
図:基準時の時間軸図
- 契約→(値上がり)→不能にした時(時価2800万円)→(値上がりが続く)→判決前の最後の審理の時(口頭弁論終結時・時価4200万円)
- 原則=不能にした時の値段/値上がりが続く事情を債務者が予見すべきであったとき=最後の審理の時の値段
まず、問題の所在です。物を引き渡す債務が、債務者の処分のせいで履行不能になり、債権者が、填補賠償を求める。この物の時価が動いているとき、どの時点の値段で額を決めるのか。判例が、枠組みを示しています。事案を、自分の言葉で言います。土地を買い戻したとして、登記を求める訴えを起こした人がいました。その裁判の最中に、相手方が、その土地を他に売って、登記を移してしまった。そこで、請求は、損害賠償に変わります。土地の時価は、相手方が処分した当時から、最後の審理のときまで、上がり続けていました。原審は、相手方がそれを知っていたか、予見できたと認定して、最後の審理のときの時価の範囲で、賠償責任を認めました。最高裁は、上告を退けました。判旨の最初の部分を、見てください。
判例最判昭37・11・16 民集16巻11号2280頁
履行不能の賠償額の基準時(原則と例外) 債務の目的物を債務者が不法に処分し債務が履行不能となつたとき債権者の請求しうる損害賠償の額は、原則としてその処分当時の目的物の時価であるが、目的物の価格が騰貴しつつあるという特別の事情があり、かつ債務者が、債務を履行不能とした際その特別の事情を知つていたかまたは知りえた場合は、債権者は、その騰貴した現在の時価による損害賠償を請求しうる。
まず、原則です。請求できる額は、原則として、処分当時の目的物の時価です。設例で言えば、Rさんへの登記が移った時点です。前に見たとおり、二重売買では、他の買主への登記が完了した時に、不能になります。その時点の時価、2800万円です。不能になった時に、甲地を渡せという権利は、お金の賠償に変わります。変わるその時に債権者が失ったのは、その時点の甲地です。だから、その時の値段で見積もります。前の回で見た、416条1項の通常損害、つまり、その種類の債務不履行があれば一般に生ずる損害の見方です。払わずに済む代金を差し引いて、2800万円引く2000万円で、800万円。約束どおりなら得られた値打ちから代金を引く、前に見た、履行利益と同じ引き算です。これが、原則の額です。そして、例外が、後半です。目的物の価格が騰貴しつつある、つまり値上がりが続いている、という特別の事情があり、債務者が不能にしたとき、その事情を知っていたか知りえたなら、騰貴した現在の時価で請求できる。この判決は、当時の416条2項の趣旨を、知っていたか知りえた、という言葉で書いています。当時の2項の文言は、予見し、又は予見することができた、でした。現行の2項は、予見すべきであった、です。前の回で見たとおり、規範的に、知っているべきだったか、を問います。予見する人は債務者、時期は、不能にしたとき、つまり、この場面での債務不履行の時です。時期がその時なのは、前の回のとおり、債務者は、その時に処分をやめれば、損害を避けられたからです。
値上がりが続くとき、なぜ終結時の値段か
図:例外の理由と中身
- 例外=特別の事情(価格が値上がりしつつある)+債務者が不能にしたとき予見すべきであった→騰貴した現在(判決前の最後の審理=口頭弁論終結時)の時価
- 理由=債務不履行がなければ、債権者は騰貴した価格のある物を現に持てたはず
- 予見の対象=値上がりが続く事情
- 予見の主体=債務者
- 予見の時期=不能にしたとき
例外の理由は、判旨の、けだし、つまり、なぜなら、に続く部分です。見てください。
判例最判昭37・11・16 民集16巻11号2280頁
騰貴した価格で賠償する理由 けだし、債権者は、債務者の債務不履行がなかつたならば、その騰貴した価格のある目的物を現に保有し得たはずであるから、債務者は、その債務不履行によつて債権者につき生じた右価格による損害を賠償すべき義務あるものと解すべきであるからである。
言い換えます。Qさんが、Rさんに売らなかったなら、Pさんは、甲地を、手元に持ち続けていました。その間に、甲地は、4200万円の値打ちになった。だから、その値打ちの分の損を、賠償させるのが相当、という理由です。不能にした時の2800万円で止めると、Pさんは、値上がりの分だけ、取り戻せずに終わってしまいます。予見の対象は、損害ではなく、値上がりが続く事情です。416条2項の、特別の事情、にあたります。通常の場合、値段が上がり続けることまでは、損害に入りません。だから、そこまで負わせるには、債務者が、その事情を予見すべきであった、と言える必要があります。
図:変形設例
- ①予見すべき事情がある例=再開発の計画がすでに公表され、近隣の地価が上がり続けていた時期に、QがRに二重売買して不能にした→Qは値上がりが続く事情を予見すべきであった→終結時4200万円−代金2000万円=2200万円
- ②予見すべき事情が無い例=不能にした時点では値上がりを示す事情が何も見えていなかった→不能時2800万円で止まる→2800万円−2000万円=800万円
設例で確かめます。1つめ。再開発の計画が、すでに公表されていて、近隣の地価が上がり続けていた時期に、Qさんが、二重売買で不能にしました。この事情なら、Qさんは、値上がりが続く事情を、予見すべきであったと言えます。最後の審理の時の4200万円から、払わずに済む代金2000万円を引いて、2200万円です。2つめ。不能にした時点では、値上がりを示す事情が、何も見えていませんでした。その場合、Qさんは、予見すべきであったとは言えません。2800万円で止まって、差し引き800万円です。同じ不能でも、予見すべきであったか、で、800万円と2200万円に分かれます。
例外で賠償するのは、Pさんが甲地を持ち続けていたなら、今、手元にあるはずの値打ちです。値上がりが続く限り、その値打ちは、判決の直前まで動きます。裁判所が値段を確かめられる最後の機会が、判決前の最後の審理なので、その時の値段で見ます。権利が賠償に変わるのは不能の時でも、見積もる値打ちは今のもの。ここが、原則との違いです。ここまでが、判旨の例外の、中身です。
途中で処分したはず、いったん下がったとき
図:変形設例の続き
- ③PがQの不履行前から「3000万円になったら他に売る」と決めていた場合=その処分時の3000万円で止まる→3000万円−2000万円=1000万円
- ④途中で4500万円まで上がり、その後3800万円に下がった場合=中間最高価格(いったん上がって下がったうち最も高い価格)4500万円を基準にするには、4500万円のときに転売などで利益を確実に取得したであろうと予想されることが必要
次の2つは、例外の例外です。まず3つめ。Pさんが、もともと、3000万円になったら他に売る、と決めていたとします。この場合、Pさんは、甲地が3000万円になった時点で手放していたはずです。だから、それ以上の値上がりは、Pさんが持っていても手に入らなかった分で、処分したと予想される時点の3000万円で止まります。3000万円引く2000万円で、1000万円です。4つめです。甲地が、途中で4500万円まで上がって、その後、3800万円に下がったとします。いったん上がってから下がったとき、途中で最も高かった価格を、中間最高価格と言います。4500万円が、それです。
請求するには、条件があります。判旨の、後半です。見てください。
判例最判昭37・11・16 民集16巻11号2280頁
中間最高価格と、現在なお騰貴中のとき また、目的物の価格が一旦騰貴しさらに下落した場合に、その騰貴した価格により損害賠償を求めるためにはその騰貴した時に転売その他の方法により騰貴価格による利益を確実に取得したのであろうと予想されたことが必要であると解するとしても、目的物の価格が現在なお騰貴している場合においてもなお、恰も現在において債権者がこれを他に処分するであろうと予想されたことは必ずしも必要でないと解すべきである。
前半です。いったん騰貴して、下落した場合に、その騰貴した価格で賠償を求めるには、騰貴した時に、転売その他の方法で、騰貴価格による利益を確実に取得したであろうと予想されたことが必要。言い換えると、その4500万円のとき、Pさんが、転売などで、必ず儲けが出たと見られる事情が必要です。4500万円の値段がつく瞬間があっただけでは足りません。この条件を満たすと見られるなら、4500万円引く2000万円で、2500万円が、基準になります。条件を満たさないときに、額をどう見るかは、この判決が直接は述べていません。今日は、ここまでにします。
判旨の後半は、価格が現在なお騰貴している場合の話です。現在なお騰貴しているなら、現在、債権者が、これを他に処分するだろうと予想されたことは、必要ではありません。たとえば、4200万円まで上がり続けている今、Pさんが今すぐ売るつもりだったかは、問いません。上がり続けている以上、その価格で持っていたはずだから、という理由です。下落したときに、なぜ条件が要るのか。Pさんが持ち続けていたなら、今の手元は3800万円の物です。4500万円の値打ちを取れたと言うには、その時に売り抜けていたはずだ、と言える事情が要ります。今なお騰貴中なら、持ち続けているだけで、高値の物が手元にあります。違いは、ここです。
⭐ 論文で書く規範:履行不能の賠償額の基準時(判例の規範) 債務者が目的物を不法に処分して履行不能としたときの損害賠償の額は、原則として処分当時の目的物の時価である。目的物の価格が騰貴しつつあるという特別の事情があり、債務者が不能とした際その事情を予見すべきであったときは、債権者は、騰貴した現在の時価による賠償を請求できる。いったん騰貴して下落した場合に、その騰貴した価格により賠償を求めるには、その騰貴した時に転売その他の方法により騰貴価格による利益を確実に取得したであろうと予想されたことが必要である。 (出どころ=判例(条文に無い基準を、416条の当てはめとして判例が立てたもの。判旨の「知りえた」は、現行2項の文言で「予見すべきであった」と読む))
答案では、この規範を、判例の枠組みとして書きます。条文に無い基準を、判例が立てたものなので、覚えて使います。ここは、論文で論点になりうる部分です。416条2項の、予見すべきであったか、という当てはめが、そのまま値段の基準に出てきます。なお、前の回で、416条を相当因果関係の原則と解した判決として見た、大審院の富喜丸事件は、不法行為で物が失われたあとの値上がりについて、416条を類推して考えた判決です。中間最高価格の考え方の出どころも、この判決です。ここでは、名前と結論だけにします。
図:立ち止まる問いの板
- Qが値上がりが続く事情を、不能にしたとき予見すべきであった
- Pの賠償額は、何円の価格を基準にするか
- 予見すべきでなかったときは
ここで1問です。Qさんが、値上がりが続く事情を、不能にしたときに、予見すべきであったとします。Pさんの賠償額は、何円の価格を基準にするでしょうか。予見すべきでなかったときは、どうでしょうか?予見すべきであったなら、最後の審理の時の4200万円から、代金の2000万円を引いた額、2200万円です。予見すべきでなかったときは、不能にした時の2800万円から2000万円を引いて、800万円です。
自分で使う目的でも同じか
図:自己使用目的の買主
- 疑問=買主が転売で儲けるためではなく、自分で使うために買った不動産でも、値上がりした価格で請求できるか
- 結論=同じ理が妥当する(買主は不動産を騰貴した価格のまま現に持てたはずだから)
- 転売目的かどうかは、騰貴価格で請求できるかの条件ではない
値上がりの話をすると、転売して儲けるつもりだった人だけの話に見えます。では、自分で使うために買った人は、どうでしょうか。事案です。家を買った買主が、自分で住むつもりでした。ところが、売主の側で契約が解除されたと信じた別の買主に、その家が売られ、引渡しが不能になりました。原審は、不能になったときの価格で額を算定しました。最高裁は、値上がりの事情と、売主の認識を審理していないとして、原審を破棄して、差し戻しました。理由を、見てください。
判例最判昭47・4・20 民集26巻3号520頁
自己の使用に供する目的の買主 そして、この理は、本件のごとく、買主がその目的物を他に転売して利益を得るためではなくこれを自己の使用に供する目的でなした不動産の売買契約において、売主がその不動産を不法に処分したために売主の買主に対する不動産の所有権移転義務が履行不能となつた場合であつても、妥当するものと解すべきである。
この理、というのは、先ほどの、騰貴した価格で請求できるという理のことです。買主が、転売して儲けるためではなく、自分で使うために買った場合でも、同じように妥当する、と言っています。決め手は、転売で儲けるつもりだったかではなく、売主が処分しなければ、買主は、値上がりした価格の不動産を、そのまま持てたはずだ、という点です。住むつもりでも、持っていたはずの物の値打ちは、上がっています。だから、転売目的かどうかは、騰貴価格で請求できるための条件ではありません。ただし、外れるのは、転売目的という条件だけです。値上がりが続く事情を、売主が予見すべきであったか、という条件は、自分で使う目的の買主でも残ります。この事件も、その点を審理させるために、差し戻されました。
契約を解除した場合の基準時
図:解除した場合の設例
- Pは、Qから甲地を2000万円で買う契約をした
- Qが履行しないので、Pは契約を解除した
- 履行期の時価=2600万円、解除した時の時価=3000万円
- 基準=解除時の時価→3000万円−2000万円=1000万円
- 履行期の時価を基準にすると2600万円−2000万円=600万円だが、こちらは基準にしない
ここまでは、履行不能の場合でした。次に、売主が給付しないため、買主が契約を解除した場合を見ます。数字を変えます。Pさんが、Qさんから甲地を2000万円で買う契約をしました。Qさんが履行しないので、Pさんは契約を解除しました。履行期の時価は2600万円、解除した時の時価は3000万円だったとします。履行に代わる損害賠償の額は、どの時点の値段で見るのでしょうか。判決を見てください。
判例最判昭28・12・18 民集7巻12号1446頁
売買契約が解除された場合の基準時 次に、本件の如く売主が売買の目的物を給付しないため売買契約が解除された場合においては、買主は解除の時までは目的物の給付請求権を有し解除により始めてこれを失うと共に右請求権に代えて履行に代る損害賠償請求権を取得するものであるし、一方売主は解除の時までは目的物を給付すべき義務を負い、解除によつて始めてその義務を免れると共に右義務に代えて履行に代る損害賠償義務を負うに至るものであるから、この場合において買主が受くべき履行に代る損害賠償の額は、解除当時における目的物の時価を標準として定むべきで、履行期における時価を標準とすべきではないと解するのを相当とする。
結論は、解除当時の時価です。履行期の時価ではありません。数字では、解除時の3000万円から、払わずに済む代金の2000万円を引いて、1000万円。履行期の2600万円を基準にした600万円ではありません。買主は、解除の時まで、目的物を給付させる権利を持っています。解除で初めて、その権利を失って、代わりに賠償請求権を取得します。売主のほうも、解除の時まで、給付する義務を負っていて、解除で初めて、その義務が賠償義務に変わります。賠償の権利と義務が生まれるのが解除の時なので、その時の値段を見る、という筋です。なお、この判決は、実際に契約を解除した場合の判断です。解除権が発生しただけで、解除せずに填補賠償を求める場合の基準時までは、述べていません。この判決は、インフレで物価が騰貴していた事案で、解除当時の時価と代金の差額を、416条1項の通常損害としました。あくまで、この事件での判断です。範囲の線は416条、値段を見る時点はこの判決、と、役割を分けて持っておいてください。もう1つ、名前の区別です。訴訟の上で、本来の給付が履行不能や執行不能、つまり、強制執行しても取れない状態になったときに備えて、あらかじめ求めておく、履行に代わる賠償の請求を、訴訟上の代償請求と言います。この場合の基準時は、事実審の口頭弁論終結時、つまり、判決前の最後の審理の時です。詳しくは、民事訴訟法の回で扱います。なお、契約の解除と損害賠償の関係そのものは、第5章で見ます。
図:基準時のまとめ表
- 履行不能・解除
- 履行不能
- 原則=不能にした時の時価
- 値上がりが続く特別の事情+不能にしたとき債務者が予見すべきであった=口頭弁論終結時の時価
- 値上がりの前に他に処分したと予想される=その処分時の価格
- いったん上がって下がった=中間最高価格は、その時に確実に利益を取得したと予想されることが必要
- 現在なお値上がり中=今、他に処分すると予想されることは不要
- 自分で使う目的の買主=同じ理が妥当
- 解除した場合=解除当時の時価。
表にまとめます。履行不能なら、原則は、不能にした時の時価。値上がりが続く特別の事情があり、不能にしたとき、債務者が予見すべきであったなら、口頭弁論終結時の時価。ただし、値上がりの前に、他に処分したと予想されるなら、その処分時の価格です。いったん上がって下がったときは、中間最高価格を基準にするのに、確実に利益を取得したという予想が要ります。今なお値上がり中なら、今処分する予想は要りません。自分で使う目的の買主にも、同じ理が妥当します。解除した場合は、解除当時の時価です。取り違えを避ける手がかりは、権利が賠償に変わる時です。履行不能は、不能になった時に変わります。解除した場合は、解除の時に変わります。この手がかりから、履行不能は不能時、解除は解除時、と取り出してください。
冒頭の答えと、まとめ
図:まとめ板
- 冒頭の答え=原則は不能にした時の時価2800万円−払わずに済む代金2000万円=800万円
- Qが不能にしたとき、値上がりが続く事情を予見すべきであったなら、口頭弁論終結時の4200万円−2000万円=2200万円
冒頭の答えを、言い切ります。原則は、不能にした時の時価、2800万円から、払わずに済む代金2000万円を引いた、800万円です。Qさんが、不能にしたとき、値上がりが続く事情を予見すべきであったなら、最後の審理の時の4200万円から2000万円を引いた、2200万円です。
図:まとめ板
- 続き
- ①417条=賠償は金銭で額を定める。範囲(416条)の次に額の問いがある②履行不能の基準時=原則は不能時・予見すべきであったなら終結時(昭37)・途中で処分予想なら処分時・中間最高価格は確実取得の予想が要る・今なお騰貴中なら処分予想は不要③自分で使う目的でも同じ(昭47)④解除した場合は解除時(昭28)。
整理します。1つめ、417条です。損害賠償は金銭で額を定めます。範囲の416条の次に、額の問いがあります。2つめ、履行不能の基準時です。原則は、不能にした時の時価。値上がりが続く事情を予見すべきであったなら、最後の審理の時の時価。途中で処分したと予想されるなら、その処分時。いったん下がったときの中間最高価格には、確実に利益を取得したという予想が必要です。3つめは、自分で使う目的の買主でも、同じ理が妥当する、でしたね。4つめ、契約を解除した場合は、解除当時の時価です。値段の見積もりには、まだ続きがあります。続きは、次の回で見ます。
参照条文
- 民法417条
- 民法416条