民法ゼロから民法#164

受領遅滞の法的性質と効果

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第4章 債権総論 #164/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

届けたのに、受け取ってもらえない

冒頭の関係図。売主Vが、買主Wに、古い和箪笥を1棹売った。約束の日にVが運んだが、Wは「置く場所が空いていない」と受け取らない。Vは箪笥を持ち帰り、保管する。運搬費と貸し倉庫代がかかった。問い=Vは、どの程度の注意で保管するのか。増えた費用は誰が負担するのか。 図:冒頭の関係図

  • 売主Vが、買主Wに、古い和箪笥を1棹売った
  • 約束の日にVが運んだが、Wは「置く場所が空いていない」と受け取らない
  • Vは箪笥を持ち帰り、保管する
  • 運搬費と貸し倉庫代がかかった
  • 問い=Vは、どの程度の注意で保管するのか
  • 増えた費用は誰が負担するのか

Vさんが、Wさんに、古い和箪笥を1棹、売りました。約束の日に、Vさんは、Wさんの家まで、箪笥を運びました。ところが、Wさんは、置く場所がまだ空いていないと言って、受け取りません。Vさんは、店の奥の物置に箪笥を戻しました。物置が湿っぽいので、1か月だけ、貸し倉庫も借りました。運び直す費用も、かかっています。今日の問いは2つです。Vさんは、いつまで、どの程度の注意で、この箪笥を保管し続けなければならないのか。そして、余計にかかった運搬費と倉庫代は、誰が負担するのか。答えは、最後に出します。ここまでの回は、債務者が約束を守らない側の話でした。今日は、向きが変わります。債務者は届けたのに、債権者が受け取らない側です。

受領遅滞とは何か

受領遅滞の構図。債務者Vが、債務の本旨に従った提供をした→債権者Wが、受け取らない(拒絶)または受け取れない(不在・入院)。履行は完了していない。債務者の遅れ=履行遅滞/債権者の遅れ=受領遅滞。 図:受領遅滞の構図

  • 債務者Vが、債務の本旨に従った提供をした→債権者Wが、受け取らない(拒絶)または受け取れない(不在・入院)
  • 履行は完了していない
  • 債務者の遅れ=履行遅滞/債権者の遅れ=受領遅滞

まず、意義です。受領遅滞とは、債務者が、約束どおりの中身で、履行の提供をしたのに、債権者が、それを受け取らない、または、受け取れない状態です。約束どおりの中身であることを、債務の本旨に従う、と言います。債務者のほうで、やるべきことをやって、差し出した、ということです。箪笥なら、約束の場所まで持っていって、受け取ってくださいと言える状態にした、という意味です。細かい方法は、別の回で見ます。今日は、差し出した、という一言で足ります。履行遅滞との違いを、1行で置きます。履行遅滞は、債務者が、遅れることです。受領遅滞は、債権者が、受け取らないことです。どちらも、履行が、終わっていない状態ですが、動かないのが、どちらの側かが違います。条文です。2項まで、続けて出します。

条文民法413条

民法第413条 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その債務の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、履行の提供をした時からその引渡しをするまで、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、その物を保存すれば足りる。 2 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないことによって、その履行の費用が増加したときは、その増加額は、債権者の負担とする。

今は、要件だけを読みます。条文の文言は、2つです。1つめは、履行の提供があったこと。2つめは、債権者が、債務の履行を受けることを拒み、または、受けることができないこと。拒絶と、受領不能、と呼びます。拒絶は、受け取れるのに、受け取らないことです。Wさんが、置く場所が無いと断るのが、これです。受領不能は、受け取りたくても、受け取れないことです。Wさんが、旅行中で不在だった、入院していて受け取れなかった、という場面です。どちらも、受領遅滞です。注意点が、1つあります。提供が、債務の本旨に従っていなければ、受領遅滞になりません。たとえば、Vさんが、虫に食われた箪笥を持っていって、Wさんに断られた。これは、本旨に従った提供ではないので、Wさんは、受け取らなくて当然です。もう1点。この条文の文言に、債権者の落ち度は、要件として出てきません。断った理由が、やむを得ないものでも、要件は、満たされます。

提供の効果と、受領遅滞の効果

立ち止まる問いの板(前の回の復習)。債務者が、自分の債務の履行を提供すると、相手方の同時履行の抗弁権の存在効果はどうなるか。 図:立ち止まる問いの板

  • 前の回の復習
  • 債務者が、自分の債務の履行を提供すると、相手方の同時履行の抗弁権の存在効果はどうなるか。

入る前に、以前に見た要点を、1問で思い出してみましょう。債務者が、自分の債務の履行を提供すると、相手方の同時履行の抗弁権の、存在効果は、どうなるでしょうか?効かなくなって、以後の相手の遅れは違法になります。存在効果は、遅れが違法になるかを見た回で扱った働きで、抗弁権を口に出さなくても、付いているだけで、相手の遅れを正当にします。品物と代金を引換えにする関係なので、こちらが差し出してしまえば、相手には、もう待つ理由がありません。だから、その働きが止まるのです。では、今日の話との関係を整理します。

提供の効果の切り分け。左=弁済の提供そのものの効果(債務者の側)=以後、債務を履行しないことによる責任を免れる(492条)・相手方の同時履行の抗弁権の存在効果が止まる。右=受領遅滞で加わる効果(債権者の側)=債務者の保存の注意が軽くなる(413条1項)・増えた費用は債権者の負担(413条2項)。 図:提供の効果の切り分け

  • 左=弁済の提供そのものの効果(債務者の側)=以後、債務を履行しないことによる責任を免れる(492条)・相手方の同時履行の抗弁権の存在効果が止まる
  • 右=受領遅滞で加わる効果(債権者の側)=債務者の保存の注意が軽くなる(413条1項)・増えた費用は債権者の負担(413条2項)

同じ、提供という出来事を、2つの側から見ます。413条は履行の提供、492条は弁済の提供と書きますが、同じ出来事です。まず、債務者の側です。提供をした債務者は、その時から、債務を履行しないことによる責任を免れます。これが、492条です。前に見た、同時履行の抗弁権の存在効果が止まる話も、この側の効果です。次に、債権者の側です。提供をしたのに受け取らない債権者には、保存の注意の軽減と、増加費用の負担、という効果が加わります。これが、今日の、413条の効果です。板の、左と右は、別の効果です。混ぜないでください。なお、提供の効果の残りは、提供の本体を扱う回で見ます。今日は、左右の区別だけです。

法的性質。債権者に、受け取る義務はあるか

問題の所在。受領遅滞の法的性質が争われる場面=債務者が、受領遅滞だけを理由に、損害賠償を請求したり、契約を解除したりできるか。Vの例=Wが受け取らない→VはWに、債務不履行だとして賠償を請求できるか。 図:問題の所在

  • 受領遅滞の法的性質が争われる場面=債務者が、受領遅滞だけを理由に、損害賠償を請求したり、契約を解除したりできるか
  • Vの例=Wが受け取らない→VはWに、債務不履行だとして賠償を請求できるか

ここが、今日の山場です。問題の場面は、こうです。Wさんが、箪笥を受け取らない。Vさんは、それを理由に、Wさんに損害賠償を請求できるのか。あるいは、売買契約を解除できるのか。これが、受領遅滞の法的性質として争われる、中心の場面です。考え方は、2つに分かれます。板を見てください。

2説の対比表。債務不履行責任説=債権者の受領義務は、常にある。受領遅滞の性質は、受領義務の債務不履行。受領遅滞だけで損害賠償・解除が、できる(415条・541条・542条)。/法定責任説=債権者の受領義務は、原則として無い(権利者であって、義務者ではない)。受領遅滞の性質は、公平の観点から法が特に定めた責任。受領遅滞だけでは、損害賠償・解除は、原則としてできない。例外=信義則上の引取義務や、引取の約束があれば、その義務の不履行を理由に、損害賠償・解除ができる。 図:2説の対比表

  • 債務不履行責任説=債権者の受領義務は、常にある
  • 受領遅滞の性質は、受領義務の債務不履行
  • 受領遅滞だけで損害賠償・解除が、できる(415条・541条・542条)
  • 法定責任説=債権者の受領義務は、原則として無い(権利者であって、義務者ではない)
  • 受領遅滞の性質は、公平の観点から法が特に定めた責任
  • 受領遅滞だけでは、損害賠償・解除は、原則としてできない
  • 例外=信義則上の引取義務や、引取の約束があれば、その義務の不履行を理由に、損害賠償・解除ができる

分かれ目は、債権者に、受け取る義務があるか、です。債務不履行責任説は、債権者も、受け取る義務を負う、と考えます。根拠は、信義則です。債権は、債務者が差し出し、債権者が受け取って、初めて目的を達します。だから、受け取る側にも、協力する義務がある、と見るのです。受け取らないのは、その義務の債務不履行です。だから、415条で損害賠償ができ、541条や542条で解除もできます。Vさんの例なら、Wさんが受け取らないこと自体を理由に、Vさんは、損害の賠償を求めることも、売買を解除して、箪笥を別の人に売ることもできます。法定責任説は、逆です。債権者は、権利を持つ人です。権利を使うかどうかは、本来、自由のはずです。常に、受け取る義務を負わせるのは、妥当ではありません。ただ、受け取らないせいで、債務者が、保管を続けて、費用も増えるのは、不公平です。そこで、法が、公平の観点から、特に、責任を定めた。受領遅滞は、義務違反ではなく、そういう、法が定めた責任だ、と見ます。

法定責任説では、受領遅滞だけを理由に、損害賠償や解除をすることは、原則として、できません。ただし、例外があります。受け取る義務が、別に、あるときです。信義則上の引取義務や、引き取るという約束があれば、その義務の不履行として、責任を問えます。Vさんの例では、和箪笥の売買で、引き取る約束もありません。Wさんが受け取らないことだけを理由に、損害賠償も解除も、できません。Vさんに残るのは、このあと見る、条文が決めた効果です。ここで、1問です。受け取らない債権者は、それだけで債務不履行になるでしょうか?法定責任説なら、原則としてならない、です。例外は、引取義務があるときですね。通説は、この法定責任説です。判例の立場も、この説明と、合うものです。2つの判決を見ます。

判例の読み方。左=解除を扱った判決=受領遅滞を理由とする解除を、特段の事由が無ければ認めなかった。右=継続的供給の事案の判決=信義則上の引取義務を認めた。どちらも、事案の範囲で読む。 図:判例の読み方

  • 左=解除を扱った判決=受領遅滞を理由とする解除を、特段の事由が無ければ認めなかった
  • 右=継続的供給の事案の判決=信義則上の引取義務を認めた
  • どちらも、事案の範囲で読む

1つめは、受領遅滞を理由に、契約を解除できるかが争われた判決です。判旨を見てください。

判例最判昭40・12・3 民集19巻9号2090頁

受領遅滞を理由とする解除 債務者の債務不履行と債権者の受領遅滞とは、その性質が異なるのであるから、一般に後者に前者と全く同一の効果を認めることは民法の予想していないところというべきである。

判決は、特段の事由の認められない本件では、受領遅滞を理由に契約を解除することはできない、としました。理由は、引用の部分です。債務者の債務不履行と、債権者の受領遅滞は、性質が異なる。だから、債権者の受領遅滞に、債務不履行と同じ効果まで認めるのは、民法の予想していないところだ、ということです。2点、注意です。判決文には、法定責任説という語は、出てきません。ですから、この立場と、整合的だ、と読むところまでにしてください。そして、この判決が判断したのは、解除です。損害賠償ができるかを、直接判断した判決ではありません。2つめは、別の方向の判決です。鉱石の全量を、継続して売る契約がありました。買主は、市況が悪くなったことを理由に、引取を止めました。売主は、採掘を中止し、すでに採掘した分も、出荷の準備のまま、置くことになりました。判旨です。

判例最判昭46・12・16 民集25巻9号1472頁

継続的供給契約における買主の引取義務 信義則に照らして考察するときは、被上告会社は、右約旨に基づいて、その採掘した鉱石全部を順次上告人に出荷すべく、上告人はこれを引き取り、かつ、その代金を支払うべき法律関係が存在していたものと解するのが相当である。したがつて、上告人には、被上告会社が採掘し、提供した鉱石を引き取るべき義務があつたものというべきであり、上告人の前示引取の拒絶は、債務不履行の効果を生ずるものといわなければならない。

上告人が買主、被上告会社が売主です。約旨は、契約で約束した中身のことです。買主には、信義則上、引き取る義務があり、引取の拒絶は、債務不履行の効果を生ずる、と判断しました。債権者には、受け取る義務があると、判例は言っているんですか。違います。この判決は、債権者一般に受領義務がある、と言ったものではありません。全量を継続的に売る契約、という事案の性質を見て、信義則から、引取義務を導いた判断です。先ほどの、解除を認めなかった判決と、矛盾するものではありません。原則は、受領遅滞だけでは責任を問えない。ただ、事案によっては、別に、引取義務が認められる。この二段で持ってください。

引取義務が認められやすい場面。設例=養鶏場Xが、製パン会社Wのために、W専用の規格の卵を、毎週納める契約(期間3年)。Xは専用の選別設備を新設した。1年後、Wが「売れ行きが落ちた」と、引取を止めた。①継続的な供給で、債務者が投資を済ませている②腐りやすく、長く持てない物③保管に過大な費用がかかる物。 図:引取義務が認められやすい場面

  • 設例=養鶏場Xが、製パン会社Wのために、W専用の規格の卵を、毎週納める契約(期間3年)
  • Xは専用の選別設備を新設した
  • 1年後、Wが「売れ行きが落ちた」と、引取を止めた
  • ①継続的な供給で、債務者が投資を済ませている②腐りやすく、長く持てない物③保管に過大な費用がかかる物

例外の見つけ方を、別の例で確認します。養鶏場のXさんが、製パン会社のWさんのために、Wさん専用の規格の卵を、毎週納める契約をしました。期間は3年です。Xさんは、そのために、専用の選別設備を新しく作りました。1年たって、Wさんが、売れ行きが落ちたからと、引取を止めたとします。この場合、Wさんに、信義則上の引取義務が認められやすいです。決め手は、継続的な供給で、Xさんが、投資を済ませていて、引取が止まると、Xさんの準備が無駄になるからです。ほかに、腐りやすくて長く持てない物や、保管に過大な費用がかかる物も、引取義務が認められやすい場面です。和箪笥のように、保管が簡単で、時間がたっても傷まない物は、Vさんが持ち帰って保管すれば足りるので、義務までは認められにくい、という対比です。

改正との関係。旧413条=「債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないときは、その債権者は、履行の提供があった時から遅滞の責任を負う。」→現行413条=1項(保存の注意の軽減)・2項(増加費用)として、効果を書いた。損害賠償・解除の可否は、条文に書かれていない→従来どおり、解釈で決まる。 図:改正との関係

  • 旧413条=「債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないときは、その債権者は、履行の提供があった時から遅滞の責任を負う。」→現行413条=1項(保存の注意の軽減)・2項(増加費用)として、効果を書いた
  • 損害賠償・解除の可否は、条文に書かれていない→従来どおり、解釈で決まる

2017年の改正との関係です。改正前の413条は、債権者が受け取らず、または受け取れないとき、その債権者は、履行の提供があった時から、遅滞の責任を負う、とだけ書いていました。要件は今と同じで、遅滞の責任の中身が、条文に書かれていなかったのです。現行の413条は、その中身として、1項で保存の注意の軽減、2項で増加費用の負担、という具体的な効果を書きました。改正は、効果を明文にしたものです。改正が、どちらの説を採ったかまでは、言えません。条文が書いたのは、効果です。受け取る義務があるか、という法的性質そのものを、条文が決めたとは言えません。受領遅滞だけで損害賠償や解除ができるかは、条文に書かれていませんから、従来どおり、先ほどの、2説や信義則で考えることになります。ここまでを、1行に戻します。債権者に、受け取る義務は、原則として無い。だから、受領遅滞だけでは、損害賠償も解除もできない。引き取る義務が別にあるときだけ、話が変わります。この二段の構造は、論文で論点になりうる部分です。

効果1。保存の注意が軽くなる(413条1項)

立ち止まる問いの板(前の回の復習)。特定物の引渡債務の債務者は、引渡しまで、どの程度の注意で保存するか。 図:立ち止まる問いの板

  • 前の回の復習
  • 特定物の引渡債務の債務者は、引渡しまで、どの程度の注意で保存するか。

効果に入ります。その前に、最初の方で見た要点を1問。特定物の引渡債務の債務者は、引渡しまで、どの程度の注意で保存するのでしたか?善良な管理者の注意です。善管注意義務、400条でした。今日は、その水準が、下がる場面です。特定の効果を見たところで、受け取ってもらえないと保存の注意が軽くなる、と一言だけ触れた、その中身です。

注意の水準の対比。受領遅滞の前=善良な管理者の注意(400条)=契約その他の債権の発生原因と取引上の社会通念に照らして定まる。↓下がる↓ 受領遅滞の後=自己の財産に対するのと同一の注意(413条1項)=債務者が自分の物に払うのと同じ程度。対象=特定物の引渡し(特定後の種類債権を含む)。期間=履行の提供をした時から引渡しまで。 図:注意の水準の対比

  • 受領遅滞の前=善良な管理者の注意(400条)=契約その他の債権の発生原因と取引上の社会通念に照らして定まる
  • ↓下がる↓ 受領遅滞の後=自己の財産に対するのと同一の注意(413条1項)=債務者が自分の物に払うのと同じ程度
  • 対象=特定物の引渡し(特定後の種類債権を含む)
  • 期間=履行の提供をした時から引渡しまで

先ほどの条文の、1項です。債権者が受け取らず、その債務の目的が特定物の引渡しであるとき、債務者は、履行の提供をした時から、引渡しをするまで、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、保存すれば足ります。債務者が、自分の物を扱うときと、同じ程度の注意です。Vさんの例で見ます。Wさんが受け取る前は、Vさんは、箪笥が湿気で傷まないよう、店として標準的な防湿まで、気を配る必要がありました。取引上の社会通念で定まる、善管注意です。たとえば、梅雨の時期には、ときどき扉を開けて風を通し、カビが出ていないか見て回る。店として預かった品なら、そこまで気を配ることが求められます。ところが、Wさんが受け取らなくなった後は、Vさんは、自分の家の家具を保管しているのと同じ程度で、足ります。店の奥に置いて、自分の家具にするのと同じ程度の手入れをすれば、それで十分です。ただし、何をしても責任を負わない、ということではありません。自分の物に対する程度の注意は、必要です。たとえば、自分の家具なら、濡れたら拭いて乾かすのに、Wさんの箪笥だけ、濡れたまま放置した。これは、同一の注意を欠いています。趣旨は、公平です。債権者が受け取らないせいで、保管が長引いています。その間も、債務者に、高い水準の保管を求め続けるのは、公平ではありません。対象は、特定物の引渡しです。特定物とは、この1棹、というように、個性に着目した物です。種類物は、特定した後なら、特定物と同じ扱いになります。特定の回で見たとおりです。

効果2。増えた費用は債権者の負担(413条2項)

増加費用(413条2項)。原則=弁済の費用は、債務者の負担(485条本文)。受領遅滞で履行の費用が増えたら、増加額は、債権者の負担。例=再度の運搬費・保管のための倉庫代。485条ただし書(債権者が住所の移転などで費用を増やしたとき)と同じ発想。 図:増加費用

  • 413条2項
  • 原則=弁済の費用は、債務者の負担(485条本文)。受領遅滞で履行の費用が増えたら、増加額は、債権者の負担。例=再度の運搬費・保管のための倉庫代。485条ただし書(債権者が住所の移転などで費用を増やしたとき)と同じ発想。

2項です。受領遅滞によって、履行の費用が増加したときは、その増加額は、債権者の負担とする、という内容です。履行の費用とは、運送や保管など、債務を果たすためにかかる費用のことです。原則は、弁済の費用は、債務者の負担です。485条の本文に、そう書いてあります。ただ、受領遅滞のせいで、費用が増えたなら、増えた分は、受け取らなかった側が払う。これが、413条2項です。485条には、ただし書があって、債権者が、住所の移転などで、弁済の費用を増やしたときは、その増加額は、債権者の負担とされています。増えた分は、増やした側が持つ、という発想で、同じです。範囲は、たとえばです。Wさんが断ったために、Vさんが、箪笥を運び直す費用が、増えました。保管のために、貸し倉庫を借りた費用も、増加費用に含まれると解されています。もっとも、何が増加費用に含まれるかは、個別に見ることになります。

もう1つの効果と、冒頭の答え、まとめ

もう1つの効果(名前だけ)。危険の移転(413条の2第2項)=受領遅滞の間に、当事者双方の責めに帰することができない事由で履行が不能になったとき、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。 図:もう1つの効果

  • 名前だけ
  • 危険の移転(413条の2第2項)=受領遅滞の間に、当事者双方の責めに帰することができない事由で履行が不能になったとき、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。

受領遅滞には、もう1つ、効果があります。危険の移転、413条の2の2項です。受領遅滞の間に、双方の責めに帰することができない事由で、履行が不能になったとき、債権者の責めに帰すべき事由によるものと、みなされます。かみくだくと、受け取らない間に、誰のせいでもない事故で物がだめになったら、その不利益は、受け取らなかった債権者の側に回る、ということです。今日は、名前と、この一言だけです。中身は、別の回で見ます。

まとめ板。冒頭の答え=Vは、自己の財産に対するのと同一の注意で、保管すれば足りる。増えた運搬費と倉庫代は、Wに請求できる。 図:まとめ板

  • 冒頭の答え=Vは、自己の財産に対するのと同一の注意で、保管すれば足りる
  • 増えた運搬費と倉庫代は、Wに請求できる

冒頭の答えを、言い切ります。Vさんは、Wさんが受け取らなくなった後は、自己の財産に対するのと同一の注意で、箪笥を保管すれば足ります。いつまで、は、条文のとおり、Wさんに引き渡すまでです。そして、増えた運搬費と、貸し倉庫代は、Wさんに請求できます。

まとめ板(続き)。①受領遅滞=債務の本旨に従った提供と、債権者の受領拒絶・受領不能(条文どおり2要件)②法的性質の軸=債権者に受け取る義務があるか。原則は受領義務なし。信義則上の引取義務や約束があれば別③効果=保存の注意が下がる(413条1項)・増加費用は債権者負担(413条2項)。改正は効果を明文にした。 図:まとめ板

  • 続き
  • ①受領遅滞=債務の本旨に従った提供と、債権者の受領拒絶・受領不能(条文どおり2要件)②法的性質の軸=債権者に受け取る義務があるか。原則は受領義務なし。信義則上の引取義務や約束があれば別③効果=保存の注意が下がる(413条1項)・増加費用は債権者負担(413条2項)。改正は効果を明文にした。

整理します。1つめ、受領遅滞は、債務の本旨に従った提供と、債権者の受領拒絶、または受領不能、という条文どおりの2つの要件です。2つめ、法的性質の軸は、債権者に受け取る義務があるか、です。原則は、受領義務なし。受領遅滞だけでは、損害賠償も解除もできません。ただし、信義則上の引取義務や、引取の約束があれば、その義務の不履行として、責任を問えます。2017年の改正は、効果を明文にしたもので、法的性質を条文で決めたとは、言えません。受領遅滞の効果として、保存の注意が、善管注意から、自己の財産と同一の注意に下がります。そして、増えた費用は、債権者の負担です。次の回は、危険の移転と、第三者が債権を侵害する場面を見ます。

参照条文

  • 民法413条

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