民法ゼロから民法#169

債権譲渡の対抗要件

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第4章 債権総論 #169/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

自分で出した手紙は有効か

冒頭の関係図。A=卸会社が、B=小売チェーンに売掛金200万円を持つ。譲渡制限特約は無い。A は C=金融業者にこの債権を売った。C は自分の名前で B に「これからは当社に払ってください」と手紙を出した。問い=B は C に払わなければならないか。 図:冒頭の関係図

  • A=卸会社が、B=小売チェーンに売掛金200万円を持つ
  • 譲渡制限特約は無い
  • A は C=金融業者にこの債権を売った
  • C は自分の名前で B に「これからは当社に払ってください」と手紙を出した
  • 問い=B は C に払わなければならないか

今日は、特約の無い、ふつうの売掛金です。ここは前の3回の設例と混ぜないでください。卸会社は小売チェーンに対して、200万円の売掛金を持っています。期日は3か月後です。卸会社はこの債権を金融業者に売りました。譲渡の契約は、きちんと成立しています。金融業者はすぐに、自分の名前で小売チェーンに手紙を出しました。これからは当社に払ってください、と。譲受人が自分で知らせれば足りる、と考える方は多いです。今日の最初の落とし穴が、これです。答えは最後に出します。もう1つ。この売掛金を卸会社の債権者が差し押さえたら、金融業者とどちらが勝つのか。これも対抗要件で決まります。答えは今日の後半で出します。

物権の回で見た対抗の話を思い出してください。対抗とは、契約の当事者ではない人に、自分が権利者だと主張することです。そのために必要な条件が、対抗要件でした。不動産なら、第三者に対する対抗要件は登記の1種類でした。ところが債権の譲渡では、対抗要件が2種類あります。ここが債権の特徴です。債務者に対するものと、第三者に対するもの。この2本柱で、今日は進みます。

条文の地図。対抗要件は2種類

467条の地図。1項=相手は債務者(その他の第三者)・要件は譲渡人の通知または債務者の承諾=最低条件。2項=相手は債務者以外の第三者・要件はその通知・承諾を確定日付のある証書でする=上乗せ条件。 図:467条の地図

  • 1項=相手は債務者(その他の第三者)・要件は譲渡人の通知または債務者の承諾=最低条件
  • 2項=相手は債務者以外の第三者・要件はその通知・承諾を確定日付のある証書でする=上乗せ条件

条文を読みます。467条です。

条文民法467条

民法第467条 債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。 2 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。

かっこの中の、現に発生していない債権の譲渡という部分は、のちの回で扱います。今日は読み飛ばしてください。条文は二段構えです。1項は、譲渡人が債務者に通知をするか債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗できない、と言います。つまり債務者に対しては、通知か承諾が最低条件です。2項は、その通知または承諾が確定日付のある証書でなければ、債務者以外の第三者には対抗できない、と言います。確定日付とは、あとから書き換えられない、公の日付のことです。第三者に対しては、それが上乗せの条件になる、という読み方です。

1項はまず、通知か承諾を全員への最低条件にしています。そのうえで債務者以外の第三者には、2項が確定日付を足します。だから第三者に対しては、2項の条件まで満たす必要があります。ここは、条文を読めば、そのまま出てくる要件です。覚え込む必要はありません。ただ、出し手が誰か、どう出すか、の2点は試験で取り違えやすいので、このあと1つずつ確かめます。

「対抗できない」の意味。譲渡契約は当事者の間では有効。ただし「自分が債権者だ」と相手に主張できない。無効ではない。 図:「対抗できない」の意味

  • 譲渡契約は当事者の間では有効
  • ただし「自分が債権者だ」と相手に主張できない
  • 無効ではない

もう1つ大事な点です。対抗できない、というのは無効という意味ではありません。卸会社と金融業者の間では譲渡は有効です。ただ債務者や第三者に、自分が債権者だと言えないだけです。では1項から順に見ます。

債務者対抗要件。通知は譲渡人がする

誰が誰に通知するか。A=卸会社が B=小売チェーンに売掛金を持ち、C=金融業者に譲渡した。A から B への通知=○。C から B への通知=×。 図:誰が誰に通知するか

  • A=卸会社が B=小売チェーンに売掛金を持ち、C=金融業者に譲渡した
  • A から B への通知=○
  • C から B への通知=×

冒頭の問いに戻ります。金融業者が自分の名前で出した手紙は、対抗要件になるでしょうか。条文をもう一度見てください。譲渡人が債務者に通知をし、とあります。通知をするのは譲渡人です。つまり卸会社です。譲受人である金融業者が出した通知では、対抗要件になりません。理由は債務者を守るためです。想像してください。もし譲受人が出す通知でよいなら、どうなるでしょう。誰でも、私が譲受人です、と名乗って小売チェーンに手紙を出せます。本物かどうか小売チェーンには確かめようがありません。偽物に払ってしまうと、二重に払うはめになりかねません。一方、譲渡人は自分に不利なことを告げる立場です。債権を手放したと自分で言うわけですから、嘘を言う動機が薄い。類型的に信頼できます。だから通知は譲渡人がする、と決まっています。この点は最高裁も判断しています。判決です。

判例最判昭46・3・25

譲渡通知は誰がすべきか 右通知は債権の譲渡人、その包括承継人またはそれらから委任を受けた者がなすべきで、委任を受けない者等が事務管理としてなすことを得ないものと解すべきである。

逐語に出てくる、右通知の右は、直前に書かれている債権譲渡の通知を指しています。ここは言い換えます。譲受人が自分の名前で通知しても、対抗要件としての効力は生じない。そう判断しました。

通知は誰がするか。譲受人が自分の名前で通知しても、対抗要件としての効力は生じない。債務者が譲渡を知っていても同じ。最判昭46・3・25。 図:通知は誰がするか

  • 譲受人が自分の名前で通知しても、対抗要件としての効力は生じない
  • 債務者が譲渡を知っていても同じ
  • 最判昭46・3・25

判決は、通知するのは譲渡人、その包括承継人、またはそれらから委任を受けた者だと言っています。そして、債務者が譲渡を知っていた場合でも通知が不要になるわけではない、という考え方に立っています。債務者がすでに譲渡を知っていても、通知は要らなくなりません。ここが短答の落とし穴です。知っていることと、法律が定めた方式で知らされることは別です。法律は債務者の頭の中の事情ではなく、誰がどう知らせたかという形で、対抗要件を決めています。ここで冒頭の問いの答えが半分出ました。金融業者の通知は対抗要件になりません。小売チェーンは金融業者に払う義務を負いません。卸会社に払えば免責されます。

結論として、譲受人が譲渡人に代わって通知することもできません。大審院の判例が、譲受人が譲渡人に代位して通知することは認められない、と言っています。

代位と代理の弁別。代位して通知=譲受人自身が通知する形=×(大判昭5・10・10)。理由=通知は譲渡人がするもの。そもそも通知は譲渡人が債務者に対して持つ権利ではなく、代位できる権利が存在しない。代理人・使者として通知=通知しているのは譲渡人=○。 図:代位と代理の弁別

  • 代位して通知=譲受人自身が通知する形=×(大判昭5・10・10)
  • 理由=通知は譲渡人がするもの
  • そもそも通知は譲渡人が債務者に対して持つ権利ではなく、代位できる権利が存在しない
  • 代理人・使者として通知=通知しているのは譲渡人=○

理由は2つです。1つめ。代位を認めると結局譲受人が通知することになり、通知は譲渡人がするという法の趣旨に反します。2つめ。債権者代位権は、債務者が自分の権利を使わないときに、債権者が代わりにその権利を使う制度でした。ところが通知は、譲渡人が債務者に対して持つ権利ではありません。代わりに使う権利が、そもそも存在しないのです。代理人や使者として通知を出すことはできます。譲渡人から委任を受けて、譲渡人の名前で出すのです。この場合、通知をしているのは譲渡人です。さきほどの判決の、委任を受けた者にも当たります。

見分けるコツは、通知の出し手が誰かです。代位は譲受人が自分の名前で出します。代理は譲渡人の名前で出します。手紙を実際に届けるのが譲受人でも、譲渡人の名前で、譲渡人の意思に基づいて出していれば、有効です。問いです。譲受人が自分の名前で出した通知を、債務者が受け取って譲渡を知りました。この場合、債務者に対する対抗要件は備わるでしょうか?備わりません。通知は譲渡人がするもので、債務者が知っただけでは足りません。ほかに短答で出る点を1つだけ。譲受人が譲渡人に通知を請求できる権利を持っているとき、さらにその債権を転売された人が、その請求権を代位して行使することは認められます。通知をするのは請求を受けた譲渡人だからです。通知の性質にも一言触れます。通知や承諾は事実を知らせる行為で、観念の通知と呼ばれます。意思表示ではありませんが、意思能力や代理など、意思表示の規定が類推適用されます。保証人が付いている債権なら、譲渡人が主たる債務者に通知をすれば、保証人にも効力が及びます。逆に、保証人に通知しても主たる債務者には効力が生じません。保証人の債務は、主たる債務に従って動く性質があるからです。主たる債務の側で済ませれば保証もついてきますが、その逆はありません。

承諾と、通知の時期

通知と承諾の違い(1項)。する人=通知は譲渡人だけ・承諾は債務者。相手方=通知は債務者・承諾は譲渡人でも譲受人でもよい(大判大6・10・2)。事前にすると=通知は無効(通説)・承諾は有効(債権と譲受人が特定していれば。最判昭28・5・29)。 図:通知と承諾の違い

  • 1項
  • する人=通知は譲渡人だけ・承諾は債務者。相手方=通知は債務者・承諾は譲渡人でも譲受人でもよい(大判大6・10・2)。事前にすると=通知は無効(通説)・承諾は有効(債権と譲受人が特定していれば。最判昭28・5・29)。

1項のもう1つの要件が承諾です。承諾とは、債務者が譲渡を了解したと告げることです。通知は譲渡人が出すと決まっていました。承諾は債務者が、誰に告げてもよいのです。譲渡人に対してでも譲受人に対してでも構いません。大審院の判例が、そう言っています。もう1つ時期の違いがあります。通知は譲渡のあとに出すものです。譲渡の前に出した通知は無効、というのが通説です。譲渡があるかもまだ分からない段階で通知されても、債務者は誰に払えばよいか判断できないからです。ところが承諾は、事前でも有効です。最高裁の判例が、債権と譲受人が特定している限り事前の承諾も有効、と言っています。

事前の承諾が有効な理由。対抗要件は債務者を守るためのもの。債務者が自分からその保護を手放すのなら、止める必要がない。条件=債権と譲受人が特定していること。 図:事前の承諾が有効な理由

  • 対抗要件は債務者を守るためのもの
  • 債務者が自分からその保護を手放すのなら、止める必要がない
  • 条件=債権と譲受人が特定していること

矛盾に見えますが、理由はきれいに分かれます。通知は、債務者に、誰に払うかを迷わせないためのものでした。事前だとその役目を果たせません。承諾は、債務者が自分の意思で、この譲受人に払うと決めて、守られる利益を手放すことです。対抗要件は債務者を守るためのものだから、本人が手放すのを止める必要はないのです。ただし、この事前承諾の話は、債務者に対する関係、つまり1項の話です。第三者に対する関係は、このあと見る2項の、確定日付の要件で、別に判断します。問いです。譲渡の前に、債務者が金融業者への譲渡を承諾していました。債権と譲受人は特定されています。この承諾は有効でしょうか?

有効です。事前の承諾でも特定されていれば大丈夫です。短答では、通知は事前だとだめ、承諾は事前でもよい、という対比でよく出ます。

通知も承諾も無い場合

通知・承諾を欠く場合。債務者は譲受人を債権者として扱わなくてよい。譲渡人に払えば免責される。債務者が譲渡を知っていても同じ(大判大6・3・26)。ただし債務者の側から譲渡を認めて譲受人に払うのは差し支えない(大判明38・10・7)。 図:通知・承諾を欠く場合

  • 債務者は譲受人を債権者として扱わなくてよい
  • 譲渡人に払えば免責される
  • 債務者が譲渡を知っていても同じ(大判大6・3・26)
  • ただし債務者の側から譲渡を認めて譲受人に払うのは差し支えない(大判明38・10・7)

通知も承諾も無い場合を見ます。小売チェーンが通知も承諾も受けていない段階で、卸会社に200万円を払ったとします。債務者は譲受人を債権者として扱わなくてよいのです。卸会社に払えば免責されます。金融業者には、もう払ったと言えます。債務者が譲渡の事実を知っていても同じです。逆に、小売チェーンが金融業者に払ってもいいんですか。差し支えありません。通知や承諾は債務者を守る要件です。債務者の側から、譲渡があったと認めて譲受人に払うことはできます。また債務者の側から、譲渡人への弁済を拒むこともできます。まとめます。債務者は主張してよい。けれど譲受人は、対抗要件を備えなければ主張できない。片面の関係です。対抗要件が債務者を守るためのものだから、こうなります。この考え方を頭に置くと、ここまでの結論がまとめて説明できます。

第三者対抗要件。確定日付のある証書

確定日付のある証書の例。公正証書(公証人が作る・作成日が確定日付)・公証役場で日付印を押してもらった書面・内容証明郵便(郵便局が内容と差し出した日付を証明する)。確定日付にならないもの=普通郵便・メール・FAX。 図:確定日付のある証書の例

  • 公正証書(公証人が作る・作成日が確定日付)・公証役場で日付印を押してもらった書面・内容証明郵便(郵便局が内容と差し出した日付を証明する)
  • 確定日付にならないもの=普通郵便・メール・FAX

2項に進みます。債務者以外の第三者に対抗するには、通知または承諾を、確定日付のある証書でする必要があります。たとえば、手紙に日付を書いても、あとで書き換えられます。それでは、いつ通知したかの証拠になりません。確定日付のある証書の例を挙げます。1つめは公正証書です。公証人が作る書類で、その作成の日付が確定日付になります。2つめは、公証役場で、手元の書面に日付のある印を押してもらったものです。3つめは内容証明郵便です。郵便局が、手紙の内容と差し出した日付を証明してくれる郵便です。試験でいちばん出るのは、内容証明郵便と公証役場の日付印です。普通郵便、メール、FAXは確定日付になりません。確定日付は通知にも承諾にも必要です。譲渡人が内容証明で通知する。あるいは債務者が、承諾の書面に公証役場で日付印を押してもらう。どちらでも確定日付のある通知・承諾になります。担保物権の回で、債権の質権や物上代位の場面に出てきた、確定日付のある通知も、この2項の仕組みです。

なぜ第三者に対しては、そこまで厳しいんでしょうか。ここが論文でも使う趣旨です。債権は目に見えません。不動産なら登記簿を見れば誰の物か外から分かります。ところが債権には、登記のような公示がありません。たとえば債権を新しく買おうとする人がいるとします。その債権がすでに誰かに売られていないか、外から調べる方法が無い。そこで法律は債務者を窓口にしました。

第三者対抗要件の趣旨。債権には登記のような公示が無い。そこで債務者を「問い合わせ窓口」にする。債務者が、誰に譲渡されたかを知っている状態を作り、第三者は債務者に問い合わせて確かめる。確定日付が必要な理由=あとからの日付のさかのぼりを防ぐ。 図:第三者対抗要件の趣旨

  • 債権には登記のような公示が無い
  • そこで債務者を「問い合わせ窓口」にする
  • 債務者が、誰に譲渡されたかを知っている状態を作り、第三者は債務者に問い合わせて確かめる
  • 確定日付が必要な理由=あとからの日付のさかのぼりを防ぐ

荷物の預かり所を思い浮かべてください。預かり所は、どの荷物が誰宛てなのかを知っています。あとから来た人は預かり所に聞けば確かめられます。債務者がその預かり所です。通知や承諾は、預かり所に宛先を伝える手続です。そして確定日付は、預かり票に押された公の日付印です。あとから日付をさかのぼらせて、すでに伝えていたと偽ることを防ぎます。譲渡人が一部の譲受人や債務者と組んで日付をごまかす不正を、封じるための仕組みです。この債務者を窓口にする考え方を、学説では、債務者がインフォメーション・センターの役割を果たす、と表現することがあります。呼び名として知っておけば十分です。

だから通知や承諾は債務者に対して行うのです。

出す人と方式の組合せ。①卸会社が普通郵便で通知=債務者に○・第三者に×(確定日付なし)。②卸会社が内容証明で通知=債務者に○・第三者に○。③金融業者が内容証明で通知=債務者に×・第三者に×。 図:出す人と方式の組合せ

  • ①卸会社が普通郵便で通知=債務者に○・第三者に×(確定日付なし)
  • ②卸会社が内容証明で通知=債務者に○・第三者に○
  • ③金融業者が内容証明で通知=債務者に×・第三者に×

ここで取り違えやすい点を表で整理します。3つの組合せです。1つめ。卸会社が普通郵便で通知した場合。債務者には対抗できます。第三者には、確定日付が無いので対抗できません。2つめ。卸会社が内容証明で通知した場合。債務者にも第三者にも対抗できます。3つめ。金融業者が内容証明で通知した場合。出し手が譲受人なので、どちらにも対抗できません。方式がどれほど厳重でも無効です。

2つの軸は別物。誰が出すか=1項の要件(譲渡人。譲受人はだめ)。どう出すか=2項の要件(確定日付のある証書)。方式がどれほど厳重でも、出し手が譲受人なら無効。 図:2つの軸は別物

  • 誰が出すか=1項の要件(譲渡人。譲受人はだめ)
  • どう出すか=2項の要件(確定日付のある証書)
  • 方式がどれほど厳重でも、出し手が譲受人なら無効

内容証明という厳重な方式でも、出し手が譲受人なら対抗要件になりません。そこが狙われます。誰が出すかは1項の軸です。どう出すかは2項の軸です。別の軸なので、どれか1つが欠ければだめです。問いです。譲受人が内容証明郵便で通知を出しました。確定日付はついています。この通知は第三者に対して有効でしょうか?有効ではありません。出し手が譲受人なので、1項の要件を満たしません。

「第三者」とは誰か

二重譲渡の設例。A=卸会社が、B=小売チェーンへの同じ売掛金を、C=金融業者と E=商社に二重に売った。C と E は、お互いに「第三者」。 図:二重譲渡の設例

  • A=卸会社が、B=小売チェーンへの同じ売掛金を、C=金融業者と E=商社に二重に売った
  • C と E は、お互いに「第三者」

2項の第三者とは誰のことでしょう。設例を変えます。卸会社が同じ売掛金を、金融業者と商社の2人に二重に売りました。この2人は、お互いに相手に対して自分が債権者だと言いたい関係です。2項の第三者に当たります。

2項の「第三者」。債権そのものについて、法律上の利益を持つ者(大判大4・3・27)。言い換え=通知・承諾の欠けを主張する正当な利益を持つ者。 図:2項の「第三者」

  • 債権そのものについて、法律上の利益を持つ者(大判大4・3・27)
  • 言い換え=通知・承諾の欠けを主張する正当な利益を持つ者

判例の定義はこうです。債権そのものについて法律上の利益を有する者。言い換えると、通知や承諾が欠けていることを主張する正当な利益を持つ者です。物権の回の177条の第三者と、似た言い方です。同じ型です。177条の第三者は、当事者とその包括承継人以外で、登記が無いことを主張する正当な利益を持つ者でした。その登記を、通知・承諾に置き換えたのが今回です。

「第三者」にあたる者・あたらない者。あたる=二重譲受人・債権の質権者・差押債権者(転付命令を受けた者を含む)・破産管財人(最判昭58・3・22)。あたらない=債務者(1項の相手)・譲渡人の一般債権者(差押えをしていない債権者)。 図:「第三者」にあたる者・あたらない者

  • あたる=二重譲受人・債権の質権者・差押債権者(転付命令を受けた者を含む)・破産管財人(最判昭58・3・22)
  • あたらない=債務者(1項の相手)・譲渡人の一般債権者(差押えをしていない債権者)

試験に出る、あたる者を4つ挙げます。1つめ、債権の二重譲受人。2つめ、債権の質権者です。担保物権の回で見た、債権を担保に取った人です。3つめ、債権を差し押さえた債権者です。差押えとは、裁判所の手続で、借金を返さない人の財産を、勝手に処分できないよう押さえることです。差し押さえた債権を、裁判所の命令で自分に移してもらった人も含みます。この命令を転付命令と言います。4つめ、破産管財人です。破産手続が始まると、破産した人の財産は、債権者全員のために、まとめて差し押さえられたのと同じ状態になります。破産管財人は、その財産を債権者全員のために管理する立場です。差押債権者と同じ立場に立つので、第三者に当たるのです。破産者が破産手続の開始前にした債権譲渡では、譲受人が管財人に勝つには確定日付のある通知または承諾が要る、と最高裁が言っています。逆に、あたらない者もいます。債務者です。債務者に対しては1項の話だからです。もう1人は、卸会社の一般債権者、つまり差押えをしていないふつうの債権者です。差押えをするまでは、卸会社の財産全体をあてにしているだけで、この売掛金という特定の債権には、まだ手を付けていません。だから、債権そのものに法律上の利益がまだ無いのです。

二重譲受人どうしも、確定日付のある通知・承諾を備えない限り、お互いに自分が債権者だと言えません。今日はそこまでです。

譲受人と差押債権者、どちらが勝つか

山場の設例。A=卸会社が、C=金融業者に売掛金を譲渡し、普通郵便の手紙で B=小売チェーンに通知した(確定日付なし)。その後、D=運送会社が、運賃債権で A の B に対する売掛金を差し押さえた。C は D に勝てるか。 図:山場の設例

  • A=卸会社が、C=金融業者に売掛金を譲渡し、普通郵便の手紙で B=小売チェーンに通知した(確定日付なし)
  • その後、D=運送会社が、運賃債権で A の B に対する売掛金を差し押さえた
  • C は D に勝てるか

山場です。設例の前に、1つ思い出してください。前回、譲受人と、あとから差し押さえた譲渡人の債権者の、どちらが勝つかは、何で決まると言ったでしょうか?譲渡の対抗要件と差押えの、どちらが先か、でした。その対抗要件の中身は、もう今日見ました。設例で確かめます。では、卸会社が金融業者に売掛金を譲渡しました。卸会社は普通郵便の手紙で小売チェーンに通知しました。確定日付はありません。そのあとで運送会社が、運賃の未払いを理由に裁判で勝ち、この売掛金を差し押さえました。金融業者は運送会社に勝てるでしょうか。前回の運送会社は、譲渡されていない売掛金を差し押さえました。今日は、譲渡されたあとの売掛金です。

譲渡が先でも、答えは、金融業者は勝てません。運送会社は差押債権者です。さきほど見たとおり2項の第三者に当たります。金融業者は、確定日付のある通知も承諾も備えていません。普通郵便の通知は債務者に対しては有効です。ですが第三者には対抗できないのです。

譲受人は差押債権者に勝てるか。差押えより先に備えたものが、確定日付のある通知・承諾=譲受人が勝つ/普通郵便の通知だけ=譲受人が負ける/何も備えていない=譲受人が負ける。 図:譲受人は差押債権者に勝てるか

結論の骨格を板にします。譲受人が差押えより先に確定日付のある通知か承諾を備えていれば、譲受人が勝ちます。備えていなければ差押債権者に負けます。普通郵便の通知だけでは勝てません。差押えの効力は、差押命令が小売チェーンに送達された時に生じます。送達とは、裁判所の書類が、法律の決めた方式で正式に届けられることです。民事執行法にそう書かれています。その時から、小売チェーンは卸会社に払えなくなります。つまり、比べる片方の差押えの側は、届いた時で決まります。もう片方の、確定日付のある通知や承諾の側を、どの時点で数えるのか。今日は、差押えより先に備えたか、までです。

問いです。運送会社の差押えより前に、金融業者が内容証明郵便による通知を備えていたとします。金融業者は勝てるでしょうか?勝てます。確定日付のある通知を差押えより先に備えているからです。

冒頭の答えと、まとめ

冒頭の答え。金融業者が自分の名前で出した通知は、対抗要件にならない。小売チェーンは、金融業者に払う義務を負わない。卸会社に払えば、免責される。代位して通知することも、できない。 図:冒頭の答え

  • 金融業者が自分の名前で出した通知は、対抗要件にならない
  • 小売チェーンは、金融業者に払う義務を負わない
  • 卸会社に払えば、免責される
  • 代位して通知することも、できない

冒頭の答えを言い切ります。金融業者が自分の名前で出した手紙は、対抗要件になりません。小売チェーンは金融業者に払う義務を負いません。卸会社に払えば免責されます。金融業者が卸会社に代位して通知することも、できません。通知を出すなら、卸会社の名前で卸会社の意思に基づいて出す必要があります。

まとめ。1項(債務者に対して)=出し手は譲渡人の通知または債務者の承諾・方式の定めなし・欠くと債務者は譲渡人に払えば免責。2項(債務者以外の第三者に対して)=同じ通知・承諾を確定日付のある証書で(内容証明郵便・公正証書・公証役場の日付印)・欠くと二重譲受人・差押債権者・破産管財人に負ける。 図:まとめ

  • 1項(債務者に対して)=出し手は譲渡人の通知または債務者の承諾・方式の定めなし・欠くと債務者は譲渡人に払えば免責
  • 2項(債務者以外の第三者に対して)=同じ通知・承諾を確定日付のある証書で(内容証明郵便・公正証書・公証役場の日付印)・欠くと二重譲受人・差押債権者・破産管財人に負ける

整理します。1つめ。対抗要件は2種類です。1項は債務者に対するもの。2項は債務者以外の第三者に対するものです。2つめ。1項の要件は、譲渡人の通知、または債務者の承諾です。通知は譲渡人がするもので、譲受人からの通知も代位もだめです。承諾は、譲渡人でも譲受人でも、どちらに対してしても構いません。事前の承諾も有効です。3つめ。2項の要件は、その通知または承諾を確定日付のある証書でする、ことです。趣旨は、債務者を問い合わせの窓口にして日付のさかのぼりを防ぐことでした。4つめ。第三者には、二重譲受人、差押債権者、破産管財人などが含まれます。確定日付のある通知や承諾を差押えより先に備えていなければ、譲受人は差押債権者に負けます。

参照条文

  • 民法467条

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