民法ゼロから民法#170

債権の二重譲渡と到達時説

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第4章 債権総論 #170/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

日付印は先、届いたのは後

冒頭の設例。卸会社が小売チェーンに売掛金200万円を持つ(譲渡制限特約は無い)。卸会社はこの債権を金融業者と商社に二重に売り、どちらの通知も卸会社が内容証明郵便で出した。金融業者への譲渡の通知=日付印11月1日・小売チェーンに届いたのは11月5日。商社への譲渡の通知=日付印11月2日・届いたのは11月3日。問い=どちらが勝つか。 図:冒頭の設例

  • 卸会社が小売チェーンに売掛金200万円を持つ(譲渡制限特約は無い)
  • 卸会社はこの債権を金融業者と商社に二重に売り、どちらの通知も卸会社が内容証明郵便で出した
  • 金融業者への譲渡の通知=日付印11月1日・小売チェーンに届いたのは11月5日
  • 商社への譲渡の通知=日付印11月2日・届いたのは11月3日
  • 問い=どちらが勝つか

卸会社が小売チェーンに、代金200万円の売掛金を持っています。譲渡制限特約は無く、支払期日は11月末です。卸会社はこの債権を、金融業者と商社の2人に、二重に売ってしまいました。どちらの譲渡契約も有効です。卸会社は、どちらの譲渡についても、内容証明郵便で小売チェーンに通知を出しました。通知を出すのは譲渡人でしたね。金融業者への譲渡の通知は、日付印の日が11月1日です。ところが不在で再配達になり、小売チェーンに届いたのは11月5日でした。商社への譲渡の通知は、日付印が11月2日で、届いたのは11月3日です。

確定日付の早さで決まる、と考える方は多いです。答えは最後に出します。それまで、日付と到着のどちらで測るのか、考えながら聞いてください。前回の終わりに、確定日付のある通知が2つ出ていたらどちらが勝つのか、と言いました。差押えとの勝負でも、差押えの側は、差押命令が送達された時で決まる、と見ました。では通知の側は、どの時点で数えるのか。それが今日の中心です。物権の回で、不動産の二重譲渡は、登記の先後で決まると見ました。債権でも同じように決まるんですか。そこが出発点です。不動産には登記簿があるので、登記の先後で測れました。ところが債権には、原則として登記簿のような公示が無いのです。何を物差しにして、先後を測るのか。これが今日の問いです。

民法の外にもう1本の道。債権譲渡登記

債権譲渡登記の背景。卸会社(法人)が、月ごとに発生する売掛金を何十社分もまとめて金融業者に譲渡。1件ずつ内容証明郵便を出すと、手間も費用も合わない。→ 債権譲渡登記ファイルに登記する。 図:債権譲渡登記の背景

  • 卸会社(法人)が、月ごとに発生する売掛金を何十社分もまとめて金融業者に譲渡
  • 1件ずつ内容証明郵便を出すと、手間も費用も合わない
  • → 債権譲渡登記ファイルに登記する

ここまでの設例では、第三者対抗要件は、内容証明郵便などによる通知でした。ところが、もう1本の道があります。想像してください。卸会社が、毎月発生する売掛金を、何十社分もまとめて、金融業者に譲渡する場合です。1社ずつ内容証明郵便を出していたら、手間も費用も合いません。そこで、特別法に、登記による方法が用意されています。動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律、といいます。長いので、以下、特例法と呼びます。4条を読みます。

条文動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律4条1項

動産・債権譲渡特例法第4条 法人が債権(金銭の支払を目的とするものであって、民法第三編第一章第四節の規定により譲渡されるものに限る。以下同じ。)を譲渡した場合において、当該債権の譲渡につき債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、当該債権の債務者以外の第三者については、同法第四百六十七条の規定による確定日付のある証書による通知があったものとみなす。この場合においては、当該登記の日付をもって確定日付とする。

みなす、というのは、本当にあったかどうかは問わず、あったものとして扱う、という意味です。登記がされると、467条2項の、確定日付のある証書による通知があったものと扱われます。登記の日付が、確定日付の役目をします。

債権譲渡登記の要件。成立要件(特例法4条1項・条文どおり)=①法人が譲渡する②金銭の支払を目的とする債権③債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされた。効果=債務者以外の第三者との関係で、確定日付のある証書による通知があったものとみなす。登記の日付=確定日付。 図:債権譲渡登記の要件

  • 成立要件(特例法4条1項・条文どおり)=①法人が譲渡する②金銭の支払を目的とする債権③債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされた
  • 効果=債務者以外の第三者との関係で、確定日付のある証書による通知があったものとみなす
  • 登記の日付=確定日付

条文は、法人が債権を譲渡した場合、と書いています。個人が売掛金を譲渡する場合は、この登記は使えません。467条2項の、確定日付のある通知によります。金銭の支払を目的としない債権も、同じく対象外です。要件は、条文を読めば分かるので、覚え込む必要はありません。ただ、将来発生する債権のように、まだ債務者が特定していない債権も、まとめて登記できる仕組みになっている点は、押さえてください。何十社分を一括で担保や売却に出せるのは、この仕組みのおかげです。登記をすれば、小売チェーンにも、金融業者が債権者だと言えるんですか。そこが落とし穴です。条文の前半は、債務者以外の第三者との関係、と書いてありました。登記で備わるのは、第三者対抗要件だけです。登記は、債務者の知らないところでもできます。そこで債務者に対抗するための道が、2項に用意されています。

条文動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律4条2項

動産・債権譲渡特例法第4条 2 前項に規定する登記(以下「債権譲渡登記」という。)がされた場合において、当該債権の譲渡及びその譲渡につき債権譲渡登記がされたことについて、譲渡人若しくは譲受人が当該債権の債務者に第十一条第二項に規定する登記事項証明書を交付して通知をし、又は当該債務者が承諾をしたときは、当該債務者についても、前項と同様とする。

登記事項証明書とは、登記の内容を、法務局が証明した書面です。この書面を付けて、譲渡人か譲受人が債務者に通知をするか、債務者が承諾をすれば、債務者に対しても、前項と同様、つまり確定日付のある通知があったものと扱われます。

債権譲渡登記の2本立て。第三者に対して=登記だけで備わる(債務者が知らなくてもよい)。債務者に対して=登記事項証明書を交付した通知(譲渡人・譲受人のどちらがしてもよい)または債務者の承諾が別に要る。民法467条の1項・2項と同じ二本立て。 図:債権譲渡登記の2本立て

  • 第三者に対して=登記だけで備わる(債務者が知らなくてもよい)
  • 債務者に対して=登記事項証明書を交付した通知(譲渡人・譲受人のどちらがしてもよい)または債務者の承諾が別に要る
  • 民法467条の1項・2項と同じ二本立て

条文は、譲渡人若しくは譲受人が、と書いています。登記事項証明書という確かな裏付けが付くので、譲受人が通知しても、なりすましの心配が小さいからです。民法の通知とは、ここが違います。問いです。金融業者が債権譲渡登記だけをして、小売チェーンには何も知らせていません。金融業者は商社に、自分が債権者だと言えますか。小売チェーンには、払えと言えますか。商社には言えますが、小売チェーンには、まだ言えません。債務者に対しては、登記事項証明書を付けた通知か、承諾が要ります。なお、登記と通知がぶつかった場合の先後は、別の回で扱います。今日は、民法の外にもう1本の道がある、というところまでです。

一方だけが備えたとき

一方だけが備えた設例。卸会社が出した通知のうち、金融業者への譲渡の通知=普通郵便(確定日付なし)。商社への譲渡の通知=内容証明郵便(確定日付あり)。第三者対抗要件を備えたのは商社だけ=商社が勝つ。 図:一方だけが備えた設例

  • 卸会社が出した通知のうち、金融業者への譲渡の通知=普通郵便(確定日付なし)
  • 商社への譲渡の通知=内容証明郵便(確定日付あり)
  • 第三者対抗要件を備えたのは商社だけ=商社が勝つ

登記の話は一度置きます。まず、一方だけが備えた場合です。前回の山場を思い出してください。譲受人と、あとから差し押さえた譲渡人の債権者の勝負で、譲受人が勝つには、何を備えている必要がありましたか?差押えより先に、確定日付のある通知か承諾を備えていることでした。今回は、差押債権者を、もう1人の譲受人に置き換えるだけです。卸会社は、金融業者への譲渡を普通郵便で通知しました。確定日付はありません。商社への譲渡は内容証明郵便で通知しました。確定日付があります。第三者に対抗できるのは、商社だけです。商社が勝ちます。金融業者の通知は、債務者に対する対抗要件にはなりますが、商社に対して、自分が債権者だとは言えません。

判例は、第三者対抗要件を備えた商社だけを、債権者として扱わなければならない、と言っています。債務者も、この優劣の決まりに従わなければならないのです。理由を考えてみます。もし債務者だけが、金融業者を債権者として扱ってよいとしたらどうなるでしょう。商社が勝つはずの二重譲渡の勝敗が、債務者の都合で変わってしまいます。それでは、第三者対抗要件で優先順位を決めた意味が無くなります。だから小売チェーンが金融業者に払っても、商社に対しては免責を主張できません。商社に、もう一度払わなければなりません。ただし、救われる余地が全く無いわけではありません。これは最後に扱います。

弁済の時期で分かれる。商社の確定日付ある通知が届いたあとに金融業者へ払った=商社に対して免責されない。商社の通知が届く前に金融業者へ払った=有効(金融業者は債務者対抗要件を備え、商社はまだ誰にも対抗できる状態ではない)。 図:弁済の時期で分かれる

  • 商社の確定日付ある通知が届いたあとに金融業者へ払った=商社に対して免責されない
  • 商社の通知が届く前に金融業者へ払った=有効(金融業者は債務者対抗要件を備え、商社はまだ誰にも対抗できる状態ではない)

商社の通知が届く前の弁済なら、有効です。商社の通知が届くまでは、商社はまだ、誰にも自分が債権者だと言える状態ではありません。一方で金融業者は、普通郵便の通知でも、債務者対抗要件を備えています。小売チェーンは、金融業者を債権者として扱ってよいのです。境界をはっきりさせます。商社の通知が届く前なら、金融業者への弁済は有効です。商社の通知が届いたあとなら、商社に払い直しです。この分かれ目は、通知が届いたかどうかです。問いです。商社の確定日付ある通知が届いた翌日に、小売チェーンが金融業者へ払いました。この弁済は、商社に対して有効でしょうか?

有効ではありません。商社の通知が先に届いているので、商社にもう一度払う義務があります。物権でいえば、二重譲渡の相手方に対して、登記を備えたほうが勝つ、という177条の型と同じです。登記のかわりに、確定日付のある通知や承諾が、備えたかどうかの目印になります。

山場。両方が備えたら、日付か到着か

467条の読み方。2項=確定日付のある証書で通知・承諾をしなければ、債務者以外の第三者に対抗できない。両方が備えたとき、どちらが先かは条文に書かれていない。→ 先後の基準は判例が解釈で立てた。 図:467条の読み方

  • 2項=確定日付のある証書で通知・承諾をしなければ、債務者以外の第三者に対抗できない
  • 両方が備えたとき、どちらが先かは条文に書かれていない
  • → 先後の基準は判例が解釈で立てた

山場です。金融業者も商社も、確定日付のある通知を備えました。条文をもう一度見ます。

条文民法467条

民法第467条 債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。 2 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。

2項は、確定日付のある通知が無ければ対抗できない、と言うだけです。両方が備えたとき、どちらが先に勝つのかは、書かれていません。そこで、2つの考え方が出てきます。

2つの考え方。確定日付説=通知・承諾に付された確定日付(日付印)の先後で決める。到達時説(判例)=確定日付のある通知が債務者に到達した日時(承諾なら承諾の日時)の先後で決める。冒頭の設例=確定日付説なら金融業者(日付印11月1日)・到達時説なら商社(到達11月3日)が勝つ。 図:2つの考え方

  • 確定日付説=通知・承諾に付された確定日付(日付印)の先後で決める
  • 到達時説(判例)=確定日付のある通知が債務者に到達した日時(承諾なら承諾の日時)の先後で決める
  • 冒頭の設例=確定日付説なら金融業者(日付印11月1日)・到達時説なら商社(到達11月3日)が勝つ

1つめは、確定日付説です。通知に付された確定日付、つまり日付印の先後で決める考え方です。2つめは、到達時説です。確定日付のある通知が、債務者に到達した日時の先後で決める考え方で、判例と通説です。承諾なら、承諾の日時で決めます。冒頭の設例に当てはめます。確定日付説だと、日付印が11月1日の金融業者が勝ちます。到達時説だと、11月3日に届いた商社が勝ちます。答えが分かれます。確定日付は公の証明なので、日付で決めるほうが、素直に思えます。なぜ到着なんですか。そこが、今日の核心です。理由を、2段で考えます。まず、確定日付説で困ることから。

確定日付説の難点。11月3日=商社の通知が届く(日付印は11月2日)→小売チェーンは商社を債権者として扱う。11月5日=金融業者の通知が届く(日付印は11月1日)→確定日付説では優劣が逆転する。商社に払っていたら、事後的に覆る。 図:確定日付説の難点

  • 11月3日=商社の通知が届く(日付印は11月2日)→小売チェーンは商社を債権者として扱う
  • 11月5日=金融業者の通知が届く(日付印は11月1日)→確定日付説では優劣が逆転する
  • 商社に払っていたら、事後的に覆る

確定日付説で進めてみます。11月3日に、商社の通知が届きました。小売チェーンは、商社が債権者だと考えて、商社に払う準備を始めます。ところが11月5日に、日付印が11月1日の、金融業者の通知が届きます。日付印は商社より古いので、確定日付説では、金融業者が逆転して勝つことになります。日付印の古い通知があとから届くと、それまでの商社への支払いも、理屈の上では払い直しになりかねません。しかも小売チェーンは、日付印の古い通知が、いつ何通届くのか、事前には分かりません。確定日付説だと、誰に払えば安全なのかが、いつまでも落ち着かないのです。

窓口の考え方。第三者(新たな買い手)が小売チェーンに問い合わせる。小売チェーンが答えられるのは、自分の手元に届いた通知だけ。日付印が古くても、まだ届いていない通知は知らない。→ 基準は、窓口が知った時=到達。 図:窓口の考え方

  • 第三者(新たな買い手)が小売チェーンに問い合わせる
  • 小売チェーンが答えられるのは、自分の手元に届いた通知だけ
  • 日付印が古くても、まだ届いていない通知は知らない
  • → 基準は、窓口が知った時=到達

2段目が、本質です。前回、債務者は問い合わせの窓口だ、と言いました。荷物の預かり所を思い浮かべてください。宛先を変える連絡票が届くたびに、預かり所は、届いた順に宛先を書き換えます。連絡票に押された日付印は、いつ作った票かを証明します。けれど預かり所が答えられるのは、自分の手元に届いた票の順番だけです。まだ届いていない票は、日付印がいくら古くても、預かり所は知りません。新しい買い手が、11月4日に、この債権は誰のものですか、と窓口に尋ねたとします。小売チェーンの手元には、商社の通知しか届いていません。だから、商社です、と答えるしかありません。もし日付印で決めるなら、翌日に金融業者の通知が届いた時点で、その答えは、さかのぼって間違いになります。窓口が正しく答えたのに、あとから覆る。それでは、尋ねる意味がありません。だから基準は、窓口が知った時、つまり到達の日時になります。

ここで、判例の言葉を見ます。

判例最判昭49・3・7 民集28巻2号174頁

債権の二重譲渡と、窓口の仕組み 民法の規定する債権譲渡についての対抗要件制度は、当該債権の債務者の債権譲渡の有無についての認識を通じ、右債務者によつてそれが第三者に表示されうるものであることを根幹として成立しているものというべきである。

右債務者の右は、前に出てきた当該債権の債務者を指します。債務者がまず譲渡を知り、それを債務者が第三者に伝えられる。この窓口の仕組みが、対抗要件制度の根幹だ、と言っています。この根幹から、結論が出ます。

判例最判昭49・3・7 民集28巻2号174頁

債権の二重譲渡と、譲受人相互の優劣 債権が二重に譲渡された場合、譲受人相互の間の優劣は、通知又は承諾に付された確定日附の先後によつて定めるべきではなく、確定日附のある通知が債務者に到達した日時又は確定日附のある債務者の承諾の日時の先後によつて決すべきであり、また、確定日附は通知又は承諾そのものにつき必要であると解すべきである。

⭐ 論文で書く規範:到達時説の物差し(判例の規範) 債権が二重に譲渡された場合、譲受人相互の間の優劣は、確定日付のある通知が債務者に到達した日時(確定日付のある債務者の承諾の場合はその承諾の日時)の先後によって決する。 (出どころ=判例(条文に無い基準を、467条2項の解釈として判例が立てたもの。論文では確定日付説との対立が論点になりうる))

判旨の要点は3つです。1つめ、優劣は日付印の先後ではなく、通知が債務者に到達した日時の先後で決める。2つめ、承諾なら承諾の日時。3つめ、確定日付は、通知や承諾そのものについて必要です。ここで、条文どおりの成立要件と、判例が立てた物差しを分けます。確定日付のある通知や承諾を備えること、これは467条2項に書かれた成立要件です。覚え込まず、趣旨から出せます。他方で、到達の日時で測る、という物差しは、条文に無く、判例が立てたものです。こちらは、到達の日時の先後、という言葉を覚えて使います。日付印は、先後を決める物差しではありません。けれど役目があります。判旨はこう考えています。確定日付を求める趣旨は、譲渡人が債権を二重に譲渡して、債務者と通謀し、通知や承諾のあった日時をさかのぼらせるなどの作為を、できるだけ防ぐことにある、と。

日付印の役目。到達の日時が基準。日付印=「これより前には届いていない」と言える下限。譲渡人・債務者・二重譲受人が口裏を合わせて、通知・承諾の日時をさかのぼらせるのを防ぐ。確定日付は通知・承諾そのものについて必要。 図:日付印の役目

  • 到達の日時が基準
  • 日付印=「これより前には届いていない」と言える下限
  • 譲渡人・債務者・二重譲受人が口裏を合わせて、通知・承諾の日時をさかのぼらせるのを防ぐ
  • 確定日付は通知・承諾そのものについて必要

預かり所の例で言えば、日付印は、これより前には届いていない、という下限を示します。日付印のない連絡票だと、実は先に届いていた、と後から言い張れてしまいます。日付印が、届いた日時をさかのぼらせる不正を封じます。確定日付説と到達時説の違いを、一言で整理します。確定日付説は、日付印を物差しにします。到達時説は、日付印を下限にして、物差しは到達にします。たとえば、卸会社が、金融業者への譲渡を普通郵便で通知し、それが11月1日に届いたとします。そのあと11月10日に、卸会社が内容証明郵便で、あらためて通知を届けたとします。数えるのは、確定日付のある通知の届いた、11月10日です。11月1日に届いた普通郵便の通知は、数えません。確定日付が必要なのは、通知そのものだからです。問いです。冒頭の設例で、金融業者の通知の日付印は11月1日、届いたのは11月5日でした。商社は日付印が11月2日で、届いたのは11月3日です。到達時説では、どちらが先でしょう?

11月3日に届いた商社が先です。冒頭の答えは、商社です。

昭和49年判決の事案。債権の譲渡人が、債権譲渡証書に公証人の日付印を受け、同日午後3時ごろ債務者の職員に交付(=確定日付のある通知)。同じ日の午後4時5分ごろ、同じ債権の仮差押命令が債務者に送達された。→ 譲受人の勝ち。同じ日でも時刻まで比べる。 図:昭和49年判決の事案

  • 債権の譲渡人が、債権譲渡証書に公証人の日付印を受け、同日午後3時ごろ債務者の職員に交付(=確定日付のある通知)
  • 同じ日の午後4時5分ごろ、同じ債権の仮差押命令が債務者に送達された
  • → 譲受人の勝ち
  • 同じ日でも時刻まで比べる

この判例の事案は、差押えと同じ型でした。債権の譲渡人が、債権譲渡証書に公証人の日付印を受けて、同じ日の午後3時ごろに、債務者の職員へ交付しました。これが、確定日付のある通知です。同じ債権に対する仮差押命令の送達は、同じ日の午後4時5分ごろでした。仮差押えとは、本差押えの前に、財産を動かせなくしておく手続です。最高裁は、債権を譲り受けた側、つまり譲受人の勝ちとしました。譲受人と仮差押えをした者の優劣も、同じ物差しで決まる、と言いました。同じ日でも、時刻まで比べる点を、覚えておいてください。差押えの側は送達の日時、通知の側は到達の日時です。どちらも、窓口である小売チェーンが知った時です。だから同じ物差しで、先後を比べます。前回の、売掛金を差し押さえた運送会社で言えば、その差押命令の送達より、金融業者の確定日付のある通知の到達が先なら、金融業者が勝ちます。論文では、確定日付説と到達時説の対立が問われることがあります。今日は、判例と通説の到達時説を、理由とあわせて言えるようになってください。

承諾の場合と、今日扱わない場面

承諾の場合。基準=確定日付のある債務者の承諾の日時。例=小売チェーンが、公証役場の日付印のある承諾書で承諾した日時。通知の到達日時と承諾の日時も、同じ物差しで並べて先後を比べる。 図:承諾の場合

  • 基準=確定日付のある債務者の承諾の日時
  • 例=小売チェーンが、公証役場の日付印のある承諾書で承諾した日時
  • 通知の到達日時と承諾の日時も、同じ物差しで並べて先後を比べる

承諾の場合も見ます。さきほどの判旨は、通知が到達した日時、または承諾の日時、と言っていました。卸会社が商社への譲渡を通知し、金融業者への譲渡については、小売チェーンの承諾を得たとします。小売チェーンが、公証役場の日付印のある承諾書で承諾したら、その確定日付のある承諾の日時が基準になります。通知が届いた日時と、承諾の日時を並べて、先後を見ます。同時に届いた場合や、先後が分からない場合は、別の回で扱います。登記と通知がぶつかった場合も、別の回です。今日は、先後がはっきり付く場合までです。

負けた側に払ってしまったら

設例。商社の確定日付ある通知が先に届いたのに、小売チェーンが金融業者に200万円を払ってしまった。原則=商社に対する関係では免責されず、商社にもう一度払う義務。例外=478条(受領権者としての外観を有する者への弁済)。 図:設例

  • 商社の確定日付ある通知が先に届いたのに、小売チェーンが金融業者に200万円を払ってしまった
  • 原則=商社に対する関係では免責されず、商社にもう一度払う義務
  • 例外=478条(受領権者としての外観を有する者への弁済)

最後の場面です。商社の通知が先に届いたのに、小売チェーンが、金融業者に200万円を払ってしまいました。どうなるでしょう。原則は、さきほど見たとおりです。商社に対しては免責されず、商社に、もう一度払う義務があります。そこで478条の出番です。受領権者以外の者であっても、受領権者としての外観を有するものに払った弁済は、払った人が善意で、かつ過失がなかったときに限り、有効になります。受領権者としての外観を有する者とは、本当は受け取る権限が無いのに、取引の常識から見て、受け取る権限があるように見える者です。二重譲渡で負けた側の譲受人を、劣後する譲受人と呼びます。ここでは金融業者です。金融業者は、譲渡人の卸会社が出した通知を備えています。小売チェーンから見れば、債権者らしく見えるのです。だから判例は、劣後する譲受人も、この外観を有する者に当たるとしています。478条で弁済が有効になると、商社の債権は消えます。そのときは、商社が、金融業者に対して、受け取った分を不当利得として返せと求めることになります。

478条の適用。劣後譲受人への弁済も、478条で有効になりうる。要件=弁済者が善意・無過失。無過失というには、劣後譲受人を真の債権者であると信ずるにつき相当な理由があることが必要(優先譲受人の譲受行為・対抗要件に瑕疵があって効力がないと誤信してもやむを得ない事情など)。 図:478条の適用

  • 劣後譲受人への弁済も、478条で有効になりうる
  • 要件=弁済者が善意・無過失
  • 無過失というには、劣後譲受人を真の債権者であると信ずるにつき相当な理由があることが必要(優先譲受人の譲受行為・対抗要件に瑕疵があって効力がないと誤信してもやむを得ない事情など)

ただし、無過失というには、劣後する譲受人を、真の債権者であると信じるについて、相当な理由が必要だ、というのが判例です。たとえば、優先する譲受人の譲受行為や対抗要件に、不備があって効力がないと、誤信してもやむを得ない事情がある場合です。信じる対象を、取り違えないでください。優先する譲受人を債権者と信じたかではありません。弁済を受けた劣後する譲受人を、真の債権者と信じたことに、相当な理由があるかです。優先する譲受人の通知が先に届いていると分かっていたなら、劣後する譲受人が真の債権者だと信じてよいのか、疑問を抱くべき事情があります。過失が認められやすく、免責されにくくなります。小売チェーンは、窓口として、届いた通知を知っている立場だからです。478条の要件の中身そのものは、別の回で扱います。今日は、劣後者に払っても原則は無効で、478条の例外がありうる、という骨格までです。

冒頭の答えと、まとめ

冒頭の答え。商社の通知=日付印11月2日・到達11月3日。金融業者の通知=日付印11月1日・到達11月5日。判例の基準=確定日付のある通知が債務者に到達した日時の先後。先に届いた商社が勝つ。 図:冒頭の答え

  • 商社の通知=日付印11月2日・到達11月3日
  • 金融業者の通知=日付印11月1日・到達11月5日
  • 判例の基準=確定日付のある通知が債務者に到達した日時の先後
  • 先に届いた商社が勝つ

冒頭の答えを言い切ります。日付印が早かったのは金融業者です。でも先に届いたのは商社です。基準は、確定日付のある通知が、債務者に到達した日時の先後です。だから商社が勝ちます。理由は、債務者が問い合わせの窓口だからでした。窓口は、届いた通知の順にしか答えられません。日付印で決めると、その答えが、あとからひっくり返ってしまいます。日付印は、これより前に届いていない、という下限として、日付のさかのぼりを防ぎます。

まとめ。①第三者対抗要件の別ルート=債権譲渡登記(法人・金銭債権・登記の日付が確定日付・債務者に対しては登記事項証明書付きの通知か承諾が別に要る)②一方だけが備えた=備えた方が勝つ・債務者もその者だけを債権者として扱う③両方が備えた=到達の日時の先後(承諾は承諾の日時・同じ日でも時刻まで・確定日付は通知・承諾そのものに必要)④劣後者に払ったら=原則無効・478条の例外(劣後者を真の債権者と信ずるにつき相当な理由)。 図:まとめ

整理します。1つめ。民法の外に、債権譲渡登記という別の道があります。法人が金銭債権を譲渡し、登記をすると、登記の日付を確定日付として、第三者に対しては通知があったものとみなされます。債務者に対しては、登記事項証明書を付けた通知か承諾が、別に要ります。2つめ。一方だけが第三者対抗要件を備えたなら、備えた方が勝ちます。債務者も、その者だけを債権者として扱わなければなりません。備えた側の通知が届く前の弁済は有効です。3つめ。両方が備えたなら、確定日付のある通知が到達した日時の先後で決まります。承諾なら承諾の日時です。同じ日でも時刻まで比べます。確定日付は、通知や承諾そのものに必要です。4つめ。負けた側に払っても、原則は商社に払い直しです。478条で救われる余地はありますが、劣後する譲受人を真の債権者と信じたことに、相当な理由が必要です。

同時に届いた場合と、登記と通知がぶつかった場合は、別の回で見ていきます。

参照条文

  • 動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律4条1項
  • 動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律4条2項
  • 民法467条

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