債権の同時到達と供託金の按分
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第4章 債権総論 #171/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
同じ配達で届いた2通
図:冒頭の設例
- 卸会社が小売チェーンに売掛金200万円を持つ(譲渡制限特約は無い)
- 卸会社はこの債権を金融業者と商社に二重に売り、どちらも内容証明郵便で通知した
- 2通は11月10日午前の同じ配達で、小売チェーンの受付にまとめて届いた
- どちらが先に受け付けられたかは分からない
- 問い=小売チェーンは誰に払うのか
設例は前回の続投です。卸会社が小売チェーンに、売掛金200万円を持っています。譲渡制限特約は無く、支払期日は11月末です。卸会社はこの債権を、金融業者と商社に二重に売ってしまいました。どちらの譲渡も、内容証明郵便で小売チェーンに通知されています。ところが今回は、2通が同じ日の同じ配達で、小売チェーンの受付にまとめて届きました。記録に残っているのは、11月10日午前の配達、という事実だけです。どちらが先に受け付けられたのかは、誰にも分かりません。先後の付かない2通を、どう扱うのか。それが今日の問いです。決められないなら、小売チェーンは誰にも払えないのでしょうか。そもそも、どちらが債権者なのでしょうか。前回見たのは、確定日付のある通知が届いた先後で優劣が決まる、という到達時説でした。それが付かない場面を、今日は見ます。
同時に届いたら、各自が全額を請求できる
図:同時到達の結論
- 金融業者=全額200万円を請求できる
- 商社=全額200万円を請求できる
- 小売チェーン=どちらか1人に払えば債務は消える・他にも同順位の譲受人がいることを理由に断れない
結論から言います。同時に届いたとき、金融業者も商社も、小売チェーンに対して、200万円の全額を請求できます。請求できる、というのと、400万円もらえる、というのは別です。請求できる人が2人いる、ということです。小売チェーンが、どちらか1人に200万円を払えば、債権は消えます。もう1人は、請求を続けられません。判例を読みます。
判例最判昭55・1・11 民集34巻1号42頁
債権の二重譲渡で、通知が同時に届いたとき 指名債権が二重に譲渡され、確定日付のある各譲渡通知が同時に第三債務者に到達したときは、各譲受人は、第三債務者に対しそれぞれの譲受債権についてその全額の弁済を請求することができ、譲受人の一人から弁済の請求を受けた第三債務者は、他の譲受人に対する弁済その他の債務消滅事由がない限り、単に同順位の譲受人が他に存在することを理由として弁済の責めを免れることはできないもの、と解するのが相当である。
用語を確認します。第三債務者とは、譲渡された債権の債務者のことです。今回の設例では、小売チェーンです。同順位とは、優劣がつかない、同じ順位にいる、ということです。判旨は2つのことを言っています。1つめ、各譲受人は、全額の弁済を請求できる。2つめ、請求を受けた債務者は、他にも同順位の譲受人がいる、というだけでは、断れない。ただし、他の譲受人にすでに払った、といった債務が消えた事情があるなら、それは主張できます。事案も短く見ます。この判例では、債権の譲渡通知が3通と、同じ債権への差押えの通知が、いずれも同じ日の午後0時から午後6時までの間に債務者へ届き、どれが先か確定できませんでした。それでも、譲受人の請求が認められています。ただし、この判例が扱うのは、先後が付かない場面です。1通でも先に届いていれば、前回の到達時説のとおり、先に届いた方だけが勝ち、後の方は債務者に請求できません。
各自が全額を、という結論の理由が、今日の核心です。3段で考えます。
図:ほどく軸
- 「優先がつかない」と「債務者に請求できない」は別
- 同時=互いに相手に優先を主張できない
- しかし債務者との関係では、各自が467条の対抗要件を備えた債権者
1段目。同時に届いた場合、金融業者と商社は、お互いに、相手に勝てません。優先を主張できないのです。けれど、それは、譲受人どうしの話です。小売チェーンとの関係では、どちらも確定日付のある通知を届けています。つまり、債務者との関係では、2人とも、対抗要件を備えた債権者のままです。預かり所に置き換えます。同じ荷物の引換券を2人が持ち込みました。どちらも本物の券で、どちらが先に作られたかは分かりません。預かり所にとっては、2人とも、荷物を受け取る資格のある人です。2人の間では、優劣が付きませんが、預かり所に、お前たちは受け取れない、と言う資格はありません。
2段目は、債務者の側から見ます。もし債務者が、同順位の譲受人が他にいるから払わない、と言えたらどうなるでしょう。債務者の都合で、全員の請求が止まります。しかも、払いたくなければ、他にも請求者がいる、と言い続ければよいことになります。前に見たとおり、債務者は、誰に譲られたかを外の人が確かめる、問い合わせの窓口でした。2通とも受け取って事情を知っている当の債務者が、そのことを理由に支払いを止めるのは、筋が通りません。3段目です。では、債務者は二重に払わされる危険があるのでしょうか。ありません。1人に払えば、債務は消えます。払ったあと、もう1人から請求されても、すでに弁済した、と主張できます。決めきれないなら、供託という道もあります。これは、次に見ます。
⭐ 論文で書く規範:同時到達の処理(判例の規範) 確定日付のある通知が同時に到達したときは、各譲受人は債務者に対して全額の弁済を請求でき、債務者は、他に同順位の譲受人がいることを理由に、弁済を拒めない。先後が不明のときも、同時と同じに扱う。 (出どころ=判例(条文に無い基準を、467条2項の解釈として判例が立てたもの。論文で論点になりうる))
論文では、この規範が、論点になりうる、と言っておきます。覚えるのは、全額の弁済を請求できる、拒めない、の2つの言葉です。
先後が分からないときも同じに扱う

- 先後不明=同時と同じ
- 冒頭の設例=記録は「11月10日午前の配達」だけ
- 2通のどちらが先に受け付けられたかが分からない
- → 同時に到達したものとして取り扱う
さきほどの判例の事案も、実は、どれが先か確定できない事案でした。では、先後が分からない通知は、どう扱うのか。それをはっきり述べたのが、次の判例です。今日の設例も、まさにそうです。午前の配達、という事実しかありません。
判例最判平5・3・30 民集47巻4号3334頁
先後が分からない通知の扱い 右各通知は同時に第三債務者に到達したものとして取り扱うのが相当である。
右各通知とは、判決の中で、すでに出ていた複数の通知を指します。先後が確定できない通知は、同時に到達したものとして取り扱う、と言っています。決めなければ、債務者が誰に払えば安全か、定まりません。先後が分からないなら、どちらも優先を主張できない、という点で、同時と同じです。そこで、同時に届いたものとして扱います。だから、冒頭の設例も、各自が全額を請求できる、という結論になります。
供託したら、債権額で分ける
図:供託の設例
- 小売チェーンは誰に払ってよいか決められず、200万円を供託した(債権者を確知できないときの供託・民法494条2項。手続の本体は別の回)
- 金融業者・商社とも債権全額200万円を譲り受けている
- 譲受債権額の合計400万円が供託額200万円を超える
- → 各100万円の還付請求権
小売チェーンが、どちらに払うか決めきれず、200万円を供託したとします。供託とは、お金を、法務局の供託所に預けて、債務を免れる手続です。債権者を確知できない場合の供託は、494条2項に定められています。前に見た、譲渡制限特約があるときの供託とは、別の条文です。今回は特約が無く、誰が債権者か決められないための供託です。手続の本体は、別の回で扱います。供託されたお金は、誰のものになるのでしょうか。金融業者も商社も、200万円の全額を譲り受けています。合計は400万円で、供託された額は200万円です。足りません。
判例は、公平の原則で分けるとしました。理由は、今日の軸にあります。2人は、どちらも相手に優先を主張できません。それなのに早い者勝ちにすると、先に手を伸ばした方を優先させることになり、優先がつかない、という前提と食い違います。だから、早さではなく、持っている債権の額に比例して分けます。
判例最判平5・3・30 民集47巻4号3334頁
供託金の分け方 被差押債権額と譲受債権額との合計額が右供託金額を超過するときは、差押債権者と債権譲受人は、公平の原則に照らし、被差押債権額と譲受債権額に応じて供託金額を案分した額の供託金還付請求権をそれぞれ分割取得するものと解するのが相当である。
還付請求権とは、供託されたお金を、供託所から返してもらう権利です。按分とは、比率に応じて割り振ることです。事案を正確に言います。この判例は、譲受人どうしの争いではありません。滞納処分、つまり税金の滞納を理由に国などがする差押えと、債権の譲渡の通知が、先後の分からないまま届いた事案です。カードの被差押債権額は差し押さえた額、譲受債権額は譲り受けた額のことです。債務者が62万円を供託し、差押債権者と譲受人が、各31万円ずつ分け合いました。ここから、譲受人どうしでも、債権額に応じて分け合う、と考えます。判例は、相手が税金の差押えだから按分にした、とは言っていません。判決が公平の原則を当てはめたのは、同時に届いたものとして扱われ、どちらも相手に優先を主張できない2人が、足りない供託金を前にしていた、という形です。譲受人2人の同時到達も、まったく同じ形です。だから、同じ分け方になります。これは、判決文そのものではなく、判例の考え方を延ばした説明です。
図:按分の計算
- 供託額200万円
- 式=供託額×自分の債権額÷債権額の合計
- 例1(全額同士)=金融業者200万円・商社200万円→100万円と100万円
- 例2=金融業者が譲り受けたのは120万円分・商社は180万円分(合計300万円)→金融業者80万円・商社120万円
計算です。式は、供託額に、自分の債権額を掛けて、債権額の合計で割ります。例1。2人とも200万円なら、200万円を200対200で分けて、100万円ずつです。例2。金融業者が譲り受けたのは120万円分、商社は180万円分とします。合計は300万円です。供託額は200万円です。金融業者は、200掛ける120割る300で、80万円。商社は、200掛ける180割る300で、120万円です。もし合計が供託額以下なら、足りているので、それぞれが自分の債権額を受け取れます。超えたときに、按分です。問いです。譲り受けた額が、金融業者150万円、商社50万円の合計200万円で、供託額が200万円なら、各自は、いくら受け取れるでしょうか?
合計が供託額と同じで、超えていないので、金融業者150万円、商社50万円です。もう1点。供託せずに、小売チェーンが、金融業者に全額を払った場合です。金融業者が全額を受け取れたのは、小売チェーンが、たまたま金融業者を選んだからです。商社より優先していたからではありません。そこで、商社は、金融業者に対して、債権額に応じた分を分けて、と求められる、と考えられています。判例の事案は供託の場面です。弁済のあとの場面も、公平の理念から、同じように分け合う、という整理がされています。
通知と債権譲渡登記がぶつかったら
図:通知と登記の競合の設例
- 金融業者への譲渡=確定日付のある通知(11月10日に債務者に到達)
- 商社への譲渡=債権譲渡登記(11月8日に登記・登記事項証明書付きの通知は11月14日に到達)
- 比べるのは「通知が届いた時(11月10日)」と「登記がされた時(11月8日)」→登記が先=商社が勝つ
次は、通知と登記がぶつかった場合です。前回、債権譲渡登記を見ました。条文を、もう一度出します。
条文動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律4条1項
動産・債権譲渡特例法第4条 法人が債権(金銭の支払を目的とするものであって、民法第三編第一章第四節の規定により譲渡されるものに限る。以下同じ。)を譲渡した場合において、当該債権の譲渡につき債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記がされたときは、当該債権の債務者以外の第三者については、同法第四百六十七条の規定による確定日付のある証書による通知があったものとみなす。この場合においては、当該登記の日付をもって確定日付とする。
登記がされると、債務者以外の第三者との関係では、確定日付のある通知があったものとみなされます。つまり、登記は、第三者対抗要件になります。設例を少し変えます。金融業者への譲渡は、確定日付のある通知で、11月10日に小売チェーンへ届きました。商社への譲渡は、債権譲渡登記で、それより前の11月8日に登記がされました。前回見たとおり、小売チェーンに払えと言うには、登記事項証明書を付けた通知が別に要ります。その通知が小売チェーンに届いたのは、11月14日です。どちらが勝つのでしょう。証明書が届いた日で比べるのは、落とし穴です。比べるのは、通知が届いた時と、登記がされた時です。登記事項証明書が届いた時ではありません。11月8日の登記が、11月10日の通知の到達より先です。だから、商社が勝ちます。
図:比べる時点
- 比べる=通知が債務者に到達した時/登記がされた時
- 比べない=登記事項証明書が債務者に届いた時(債務者に対抗するための要件であり、譲受人どうしの優劣の話ではない)
理由は、前回の窓口の考え方を、登記に当てはめるとわかります。通知を、届いた時で比べたのは、その時に窓口が譲渡を知り、外の人が窓口に尋ねて確かめられるようになるからでした。登記は、窓口を通しません。法務局の登記ファイルに載った時に、窓口とは別の、確かめる手がかりができます。だから、登記の側は、登記がされた時です。どちらも、外の人が確かめる手がかりができた時、という同じ物差しで比べます。登記は窓口を通さないので、小売チェーンは、登記があることを知りません。登記事項証明書を付けた通知が別に要るのは、そのためです。債務者に対して債権者だと言うための要件で、譲受人どうしの先後とは、別の話です。
通知の到達は、前回見たとおり、時刻まで比べます。登記の側は、登記がされた時、と言います。登記と通知の到達が同じ日になる場面の、時刻の比較までは、細かく詰める必要はありません。今日は、通知が届いた時と、登記がされた時の先後で決める、までを覚えてください。ここは、判例ではなく、通説の考え方です。
すでに消えた債権は譲れない
図:存在しない債権
- 金融業者への譲渡(普通郵便で通知)→小売チェーンが金融業者に200万円を弁済し債権は消滅→その後で卸会社が同じ債権を商社に譲渡し内容証明郵便で通知
- 商社が譲り受けたのは、すでに消えた債権=空振り
最後に、薄い論点です。前回の設例を思い出してください。卸会社が金融業者に譲渡して、普通郵便で通知しました。小売チェーンは、金融業者に200万円を払い、債権は消えました。そのあと、卸会社が、同じ債権を、商社にも売りました。内容証明郵便で通知まで出しました。商社の通知は、確定日付のある通知です。商社は、金融業者に勝てるでしょうか?金融業者に払った時点で、債権は消えています。商社が譲り受けたのは、消えた債権です。二重譲渡で対抗問題が生じるのは、債権が存在する場合だけです。債権がすでに弁済で消えていれば、譲渡しても、空振りです。確定日付のある通知を備えても、無いものは手に入りません。戦前の大審院の判例も、同じ考え方です。消えた債権の譲渡は、そもそも効力が無い、とされます。勝ち負けを決める以前の問題です。小売チェーンの弁済は、有効のままです。商社の通知が、あとから届いても、さかのぼって無効にはなりません。前回見た、通知が届く前の弁済は有効、という話の続きです。
冒頭の答えと、まとめ
図:冒頭の答え
- 同時に届いた2通=各譲受人は全額を請求できる
- 小売チェーンはどちらに払ってもよく、1人に払えば債務は消える
- 決められないときは供託し、譲受人は債権額に応じて按分した額の還付請求権を取得する
冒頭の答えです。小売チェーンは、金融業者と商社のどちらに払ってもよいのです。1人に払えば、債権は消えます。どちらに払うか決められなければ、供託できます。そのとき、2人は、債権額に応じて、供託金を按分して受け取ります。
図:まとめ
整理します。1つめ。確定日付のある通知が同時に届いたときも、先後が分からないときも、各譲受人は、債務者に全額を請求できます。債務者は、他に同順位の譲受人がいることを理由に、断れません。ただし、1人に払えば、債務は消えます。2つめ。供託されたら、譲受人どうしは、債権額に応じて供託金を按分します。式は、供託額に自分の債権額を掛けて、合計で割る、です。3つめ。通知と債権譲渡登記がぶつかったら、通知が届いた時と、登記がされた時の先後で決まります。登記事項証明書が届いた時ではありません。4つめ。すでに消えた債権は、譲渡しても空振りです。対抗問題にもなりません。
供託の手続そのものは、別の回で扱います。次は、まだ生まれていない債権も譲れるのか、という問いに進みます。
参照条文
- 動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律4条1項