将来債権の譲渡
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第4章 債権総論 #172/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
来年の売掛金は、今売れるか
図:冒頭の設例
- 12月の今、卸会社は資金が足りない
- 小売チェーンとは毎月取引が続いている
- 来年1月から12月までの1年分の売掛金を、まとめて金融業者に譲渡して資金を借りたい
- 来年の売掛金は、まだ1円も発生していない
- 問い=まだ生まれていない債権を、今のうちに売れるのか
設例を少し変えます。卸会社は、小売チェーンと、毎月取引を続けています。今は12月で、卸会社は資金が足りません。そこで、来年1月から12月までの1年分の売掛金を、まとめて金融業者に譲渡して、資金を借りたいと考えました。ところが、来年の売掛金は、まだ1円も発生していません。来年の注文が本当に入るのかも、決まっていません。今日の問いは、まだ発生していない来年の売掛金を、今のうちに売れるのか、です。売れるとして、生まれた債権は、いつ、誰のものになるのか。通知は、いつ出せるのか。もう1つ、譲渡のあとで、小売チェーンと卸会社が、譲渡禁止の約束を結んだら、どうなるのか。答えは最後に出します。
将来債権とは何か
図:将来債権の整理
- ①すでに発生していて、支払期日も来ている債権=将来債権ではない
- ②すでに発生しているが、支払期日が来ていない債権(例=11月末払いの売掛金を、11月初めに譲渡)=ふつうは既に発生した債権と整理する
- ③停止条件が付いているが、契約はすでに成立している債権(例=新店舗が開業したら代金を払う契約)=ふつうは既に発生した債権と整理する(②③を将来債権に入れる見方もあるが、今日のルールの結論は変わらない)
- ④まだ発生していない債権(例=来年の取引で初めて生まれる売掛金)=将来債権
最初に、将来債権とは何かを、決めておきます。将来債権とは、まだ発生していない債権のことです。来年の取引で、初めて生まれる売掛金が、これに当たります。支払期日がまだ来ていない債権を、将来債権と取り違えやすいのですが、ふつうは区別します。畑で例えます。まだ種もまいていない畑の、来年の収穫。これが、将来債権です。一方、実はもうついているけれど、まだ熟していない青い実。これは、すでに存在しています。支払期日が来ていない売掛金は、青い実のほうです。債権はすでに発生していて、期日が来ていないだけです。停止条件が成就していない債権も、同じです。たとえば、新店舗が開業したら代金を払う、という契約が、すでに結ばれているとします。契約は成立しているので、債権はすでに発生しています。条件が成就していないだけです。この2つは、ふつうは、すでに発生した債権として整理します。将来債権に入れる見方もありますが、どちらに入れても、今日見るルールの結論は変わりません。問いです。卸会社が、11月に結ばれる予定の契約の、12月に支払われる売掛金を、10月の時点で譲渡したとします。10月の時点では、契約はまだ結ばれていません。この売掛金は、将来債権でしょうか?
契約がまだ結ばれていないので、債権は発生していません。将来債権です。債権がすでに発生しているかどうかで、見分けます。
将来債権は譲渡できる。466条の6第1項
図:将来債権の譲渡
- 466条の6第1項=債権の譲渡は、その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない
- 理由=債権譲渡は合意だけで動く(物の売買のように現物が要らない)・資金調達を使いやすくする
- 発生しなかったときの損は、譲渡人の契約上の責任で清算する
条文を見ます。
条文民法466条の6第1項
民法第466条の6 債権の譲渡は、その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない。
条文のとおりです。譲渡の意思表示の時に、債権が発生している必要はありません。来年の売掛金も、今のうちに譲渡できます。債権の譲渡は、物の売買と違って、現物の引渡しが要りません。債権の持ち主を決める、合意だけです。卸会社と金融業者が、来年発生する売掛金は、金融業者のものにする、と決める。それだけです。種をまく前の畑に、この畑の収穫は、あなたのものです、と約束するようなものです。実際に、これが必要になる場面があります。担保の回で、取引先への売掛金を、来年の分までまとめて担保に入れる形を見ました。担保に入れるといっても、中身は、売掛金を、担保の目的で、お金を貸す側に譲渡することでした。だから、あの方法は、将来債権を譲渡できる、という、この条文があるから成り立っています。
見込みどおりに債権が発生しなかったときの扱いは、判例が答えています。最高裁は、将来の診療報酬債権、つまり、お医者さんがこれからの診療の代金として受け取る債権を、長い期間にわたって譲渡した事件で、こう言いました。
判例最判平11・1・29 民集53巻1号151頁
将来債権の譲渡と、発生可能性 将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約にあっては、契約当事者は、譲渡の目的とされる債権の発生の基礎を成す事情をしんしゃくし、右事情の下における債権発生の可能性の程度を考慮した上、右債権が見込みどおり発生しなかった場合に譲受人に生ずる不利益については譲渡人の契約上の責任の追及により清算することとして、契約を締結するものと見るべきであるから、右契約の締結時において右債権発生の可能性が低かったことは、右契約の効力を当然に左右するものではないと解するのが相当である。
長い文ですが、骨組みは1つです。文中の右は、すぐ前に出た言葉を指します。発生しないかもしれないことは、当事者が最初から織り込んでいる。もし見込みどおりに発生しなかったら、金融業者の損は、卸会社に責任を追及して取り戻す。だから、発生する可能性が低かったというだけでは、契約は無効になりません。つまり、発生しないリスクは、当事者が、譲渡の代金の額などで、あらかじめ調整できます。だから、法が契約ごと無効にする必要はないのです。
図:将来債権が有効になる条件
- ①特定=発生原因や額などで、他の債権と区別できる(期間の始期と終期を明確にする)
- ②公序良俗に反しない=営業活動を著しく縛る長期の契約・他の債権者に不当な不利益を与える契約は、効力が否定されうる
- 境界ペア=有効の例(来年1月から12月の、小売チェーンに対する売掛金)/無効の疑い(卸会社の今後の全売上を、何十年も押さえてしまう契約)
ただし、何でも有効、ではありません。条件が2つあります。1つめは、特定です。同じ判例は、譲渡する債権が、発生原因や額などで、特定されている必要がある、と言っています。将来の一定期間に発生する債権をまとめて譲渡するなら、期間の始期と終期を明確にするなどして、他の債権と区別できるようにしなければなりません。設例の1年分の譲渡は、特定できています。来年1月から12月までに、小売チェーンに対して発生する売掛金、と書けば、他の売掛金と区別できます。なお、債務者の名前までは、必ずしも書かなくてよいとされています。来年1年に卸会社が取得する、この種類の売掛金すべて、と範囲を決めて、他の債権と区別できればよいのです。反対に、卸会社の売掛金のうち、適当な一部、のような書き方は、特定とは言えません。2つめは、公序良俗です。判例は、期間の長さなどの契約内容が、譲渡人の営業活動に対して、社会通念に照らして相当な範囲を著しく超える制限を加えたり、他の債権者に不当な不利益を与えたりする、などの特段の事情があるときは、公序良俗に反するなどとして、契約の効力が否定されることがある、と言っています。境界で考えます。来年1年分の売掛金を、金融業者に譲渡する。卸会社の資金調達として、よくある範囲です。他方、卸会社の今後何十年分の売掛金を、全部押さえてしまったらどうでしょう。ほかの取引先は、卸会社の売掛金から、一切回収できなくなります。卸会社も、自由に事業を続けられません。こうなると、特段の事情があるとして、効力が否定されることがあります。
覚えておくのは、条件を2つに絞った言い方です。将来債権の譲渡は、発生の可能性が低くても当然には無効にならず、債権が特定されていれば有効です。ただし、著しく行き過ぎた契約は、公序良俗に反します。
生まれた時は、誰のものか。466条の6第2項
図:取得の時期
- 12月=譲渡の合意(まだ債権は無い)
- 来年3月=売掛金が発生→譲受人の金融業者が、発生した債権を当然に取得
- 卸会社を経由して、別の移転の手続をする必要は無い
次は、生まれた債権が、誰のものになるかです。条文です。
条文民法466条の6第2項
民法第466条の6 2 債権が譲渡された場合において、その意思表示の時に債権が現に発生していないときは、譲受人は、発生した債権を当然に取得する。
12月に譲渡の合意をして、来年3月に、売掛金が実際に発生したとします。その時、債権は、最初から、金融業者のものとして生まれます。卸会社が、いったん取得して、それを渡し直す手続は、要りません。なぜ、そうなるのか。12月の合意は、生まれたら金融業者のものにする、と決める合意でした。生まれた時に、もう一度、譲渡をし直させても、同じ合意を繰り返すだけです。だから条文は、生まれた時に、合意どおり、譲受人のものになる、と決めたのです。学説には、譲受人のところで直接発生する、という考え方と、譲渡人のところで発生して、すぐ譲受人に移る、という考え方があります。前者が有力ですが、どちらでも、結果は同じです。金融業者が、当然に取得する。この結論を押さえれば、足ります。
対抗要件は、今のうちに備えられる
図:467条1項かっこ書
- 債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない
- 時間軸=12月に内容証明郵便で通知(到達)→来年3月に売掛金が発生
- 通知が届いた日時は12月のまま
もう1つの問いです。通知は、いつ出せるのか。467条1項を見ます。
条文民法467条1項
民法第467条 債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。
かっこ書きに、現に発生していない債権の譲渡を含む、とあります。債権譲渡の対抗要件の回で、読み飛ばしてもらった部分です。将来債権の譲渡でも、譲渡の時点で、通知や承諾によって、対抗要件を備えられるのです。まだ債務が無くても、今のうちに通知しておく意味はあります。理由を、3月まで待った場合と比べます。3月まで待つと、その間に、卸会社が同じ来年分の売掛金を、別の商社にも売るかもしれません。運送会社が、同じ来年分の売掛金を差し押さえる、という事態も考えられます。そのとき、先に確定日付のある通知、つまり、内容証明郵便のように、あとから書き換えられない公の日付が付いた通知を、届けた側が勝つ、という、前回までの話になります。12月のうちに、卸会社から、内容証明郵便で通知を届けておけば、通知が届いた日時は、12月です。これが、あとから現れる商社や運送会社との競争で、先に届いたという地位になります。到達時説で見た、通知が届いた日時の先後です。将来債権でも、同じように使えます。問いです。12月に、卸会社が、金融業者への譲渡を、内容証明郵便で小売チェーンに通知しました。来年3月に、売掛金が発生しました。通知は、3月にもう一度出し直さなければならないでしょうか?
出し直す必要は無いと思います。12月の通知が、そのまま対抗要件になるので。
譲渡のあとに付いた譲渡制限特約。466条の6第3項
図:後付けの特約の設例
- 12月1日=卸会社が来年1年分の売掛金を金融業者に譲渡
- 12月3日=卸会社が普通郵便で通知し、小売チェーンに届く(確定日付は無い=債務者対抗要件だけを備えた)
- 12月10日=小売チェーンと卸会社が「この売掛金は譲渡禁止」と特約
- 来年3月=売掛金200万円が発生し、金融業者が請求
- 問い=小売チェーンは、断れるか
ここから、山場です。設例を作ります。12月1日に、卸会社が、来年1年分の売掛金を、金融業者に譲渡しました。12月3日に、卸会社が、普通郵便で、小売チェーンに通知し、それが届きました。確定日付は、ありません。ところが、12月10日に、小売チェーンと卸会社が、この売掛金は譲渡禁止にする、という特約を結びました。そして来年3月に売掛金200万円が発生し、金融業者が、小売チェーンに、200万円を請求しました。小売チェーンは、特約を理由に、拒めるでしょうか。条文を見ます。466条の6の3項です。
条文民法466条の6第3項
民法第466条の6 3 前項に規定する場合において、譲渡人が次条の規定による通知をし、又は債務者が同条の規定による承諾をした時(以下「対抗要件具備時」という。)までに譲渡制限の意思表示がされたときは、譲受人その他の第三者がそのことを知っていたものとみなして、第四百六十六条第三項(譲渡制限の意思表示がされた債権が預貯金債権の場合にあっては、前条第一項)の規定を適用する。
長いので、順に読みます。ここでの対抗要件具備時とは、譲渡人が次の条、つまり467条の規定による通知をした時、または、債務者が同条の規定による承諾をした時、と書かれています。この時までに、譲渡制限の意思表示、つまり特約がされたなら、譲受人は、それを知っていたものとみなされます。みなす、というのは、本当に知っていたかどうかは問わず、知っていたものとして扱う、という意味でした。そして、知っていたものとして扱われると、466条3項が使われます。これは、前に見ました。特約を知っていた、つまり悪意か、重大な過失で知らなかった譲受人に対して、債務者は、履行を拒めて、譲渡人への弁済などを対抗できる、という規定です。特約を知りながら譲り受けた人には、払う相手を卸会社に固めたい、という債務者の都合を、押しつけてよい、という考え方でした。
図:時間軸と分かれ目
- 12月1日=譲渡
- 12月2日の特約=対抗要件具備時(通知が届く時)より前=譲受人は悪意とみなされる→466条3項で、小売チェーンは履行を拒める
- 12月3日=通知が届く=対抗要件具備時
- 12月10日の特約=具備後=特約は無いものとして扱われる(通説)→小売チェーンは拒めない
設例に当てはめます。12月3日に、通知が届きました。これが、対抗要件を備えた時です。12月10日の特約は、その後です。具備後に結ばれた特約は、譲受人に対抗できません。特約は、無いものとして扱われます。条文の、までに、の反対解釈です。小売チェーンは、200万円の請求を、特約を理由に拒めません。対比します。特約が、通知が届く前の、12月2日に結ばれていたらどうでしょう。具備時までに特約がされているので、金融業者は、特約を知っていたものとみなされます。466条3項が使われ、小売チェーンは、履行を拒めます。卸会社への弁済を、金融業者に対抗することもできます。
不思議ですよね。理由を考えます。通知が届く前は、小売チェーンは、譲渡があったことを、まだ知りません。小売チェーンは、これまでどおり、卸会社だけを相手に、取引を続けるつもりです。そのつもりで、特約を結んだのですから、保護されます。通知が届いたあとは、小売チェーンは、譲渡があったと知っています。知ったうえで、あとから特約を結ぶのは、譲受人を締め出す手段になってしまいます。そこまでは保護しない、という線引きです。決め手は、小売チェーンが、譲渡を知ったか、です。確認です。通知が届いた日が、12月3日です。特約が、12月3日の午前に結ばれていて、通知が届いたのが同じ日の午後だったら、どちらになりますか?
通知が届く前に特約が結ばれているので、悪意擬制が働くと思います。同じ日でも、前後で分けます。
対抗要件は、どちらの対抗要件か
図:2種類の対抗要件
- 債務者対抗要件=467条1項の通知・承諾(確定日付は要らない)
- 第三者対抗要件=467条2項の確定日付のある証書による通知・承諾
- 466条の6第3項の「対抗要件具備時」は、どちらの意味か
対抗要件具備時の対抗要件が、2種類のどちらを指すのか。これが、今日の山場です。前に見たとおり、1項の通知や承諾は、債務者に対する対抗要件、2項の、確定日付のある通知や承諾は、債務者以外の第三者に対する対抗要件でした。債務者に対するものは、債務者に、払う相手は自分だ、と言うための要件です。第三者に対するものは、同じ債権を取り合う、ほかの譲受人や差押えをした人に、自分が債権者だ、と言うための要件です。466条の6第3項の、対抗要件具備時は、このどちらで測るのか。答えは、債務者に対する対抗要件、つまり、467条1項の通知や承諾です。理由は3つあります。
図:3つの理由
- ①条文=3項は具備時を「次条の規定による通知」「同条の規定による承諾」と定義→467条1項の通知・承諾
- 確定日付は2項が別に要求する
- ②趣旨=この線は、債務者の利益と譲受人の利益の分かれ目→債務者が譲渡を知った時に引くのが筋
- ③不都合=確定日付のある通知を基準にすると、普通郵便で譲渡を知った後に特約を結んでも悪意擬制が働き、譲受人が不利になる
1つめは、条文の文言です。先ほどの3項は、対抗要件具備時を、次条の規定による通知をした時、同条の規定による承諾をした時、と定義していました。この、通知と承諾は、467条1項の通知と承諾そのものです。確定日付は、2項が別に要求しているものです。3項が定義した範囲には入っていません。2つめは、趣旨です。この線は、債務者の利益と、譲受人の利益の、どちらを守るかの分かれ目でした。先ほど見たとおり、決め手は、債務者が譲渡を知ったか、でした。債務者が知ったかどうかは、債務者に通知が届いたか、債務者が承諾したか、で決まります。確定日付があるかどうかは、債務者以外の第三者との関係の話で、債務者が知っていたかとは関係が薄いのです。3つめは、不都合です。設例の12月3日の通知は、普通郵便でした。もし、基準が、確定日付のある通知だったら、どうなるでしょう。確定日付はありませんから、この通知は、まだ第三者対抗要件ではありません。すると、12月10日の特約は、まだ対抗要件を備える前に結ばれたことになります。譲受人は、特約を知っていたものとみなされて、小売チェーンは、履行を拒めてしまいます。
譲渡を知ったあとで特約を結んで、金融業者に払わなくてよくなる。それを許すと、譲受人に、とても不利です。だから、基準は、債務者に対する対抗要件です。対比します。同じ通知が、内容証明郵便で届いたとしても、結論は変わりません。債務者が譲渡を知った時、つまり通知が届いた時が、基準です。確定日付の有無では、結論は変わりません。
⭐ 論文で書く規範:3項の「対抗要件」の意義 466条の6第3項の「対抗要件」は、債務者に対する対抗要件(467条1項の通知・承諾)を意味する。第三者対抗要件(同条2項の確定日付のある証書による通知・承諾)ではない。 (出どころ=解釈で立てる規範(通説型・条文の定義文言+趣旨。判例の出典は付かない。論文では「債務者対抗要件か第三者対抗要件か」の対立が論点になりうる))
整理します。具備前か、具備後かで分ける、これは、条文に書かれていることです。覚え込まず、条文から出せます。他方、その対抗要件が、債務者に対するものだ、という点は、条文の言葉と、趣旨から立てた解釈です。こちらは、債務者に対する対抗要件、という言葉を、理由とあわせて言えるようにしてください。論文で、論点になりうるところです。もう1点だけ、補強します。債権譲渡登記の回で見た、登記で第三者に対する対抗要件を備える道でも、この発想は同じです。登記だけでは、債務者に譲渡が伝わりません。そこで、あの回の特例法は、登記の内容を証明する、登記事項証明書を付けた通知か、承諾があった時を、対抗要件具備時としています。債務者が知った時に、線を引く点は、同じです。
最初から特約付きで生まれる債権
図:特約が前提とされている将来債権
最後に、1つだけ、短い話を足します。将来発生する債権が、最初から譲渡制限特約付きで生まれることを、譲渡の合意の時点で前提としている場合があります。将来の預貯金債権、つまり、これから口座に入ってくる預金の債権が、その例です。預金規定に、最初から譲渡禁止の特約が入っているからです。この場合は、466条の6第3項は使いません。ふつうの特約付きの債権の譲渡として、466条2項以下のルールを、そのまま当てます。一般の債権なら、譲渡は有効で、悪意か重大な過失のある譲受人には、債務者が履行を拒めます。預貯金債権なら、3項のかっこ書きにもあった、466条の5第1項です。そういう譲受人には、譲渡そのものが効きません。理由は単純です。3項が扱うのは、譲渡のあとに、特約が付けられた場合です。最初から特約付きで生まれる債権は、あとから付けられたのではないので、あとからの特約を疑う場面ではありません。
冒頭の答えと、まとめ
図:冒頭の答え
- まだ生まれていない来年の売掛金も、特定できれば今売れる(466条の6第1項)
- 発生した時は、譲受人が当然に取得(2項)
- 対抗要件も今備えられる(467条1項かっこ書)
- 譲渡のあとに付いた特約=債務者に対する対抗要件(通知・承諾)を備えた時より前か後か(前=悪意とみなす・後=特約は無いもの)
冒頭の答えです。来年の売掛金は、まだ生まれていなくても、特定できれば、今売れます。生まれた時は、譲受人の金融業者が、当然に取得します。対抗要件も、今のうちに、内容証明郵便の通知などで備えられます。譲渡のあとで特約が付いた場合は、債務者に対する対抗要件を備えた時より前か後かで決まります。前なら、譲受人は悪意とみなされ、債務者は拒めます。あとなら、特約は無いものとして扱われ、債務者は拒めません。
図:まとめ
- ①将来債権=まだ発生していない債権(期日未到来・停止条件未成就はふつう既発生と整理)
- 発生可能性が低くても当然には無効にならず、特定されていれば有効
- 行き過ぎた契約は公序良俗違反
- ②発生した時に譲受人が当然に取得
- 対抗要件は譲渡の時に備えられる
- ③後付けの特約=債務者に対する対抗要件(467条1項の通知・承諾)の前か後か
- 理由=条文の文言・債務者が知った時が線・確定日付基準だと不都合
- ④最初から特約付きで生まれる債権=466条2項以下(預貯金債権は466条の5)
整理します。1つめ。将来債権とは、まだ発生していない債権です。発生可能性が低くても当然には無効にならず、特定されていれば有効です。ただし、行き過ぎた契約は、公序良俗に反します。2つめ。生まれた時は、譲受人が当然に取得します。対抗要件は、譲渡の時に備えられます。3つめ。後付けの特約は、債務者に対する対抗要件を備えた時の前か後かで決まります。その対抗要件が、債務者に対するものだという理由は、条文の文言、債務者が知った時が線であること、確定日付基準だと譲受人が不利になることでした。4つめ。最初から特約付きで生まれる債権は、466条2項以下で処理します。預貯金債権なら、466条の5です。
譲渡された債権に、債務者が主張できる事情がどう残るかは、別の回で見ていきます。
参照条文
- 民法466条の6第1項
- 民法466条の6第2項
- 民法467条1項
- 民法466条の6第3項