民法ゼロから民法#173

抗弁の承継

印刷用PDFを開く

第4章 債権総論 #173/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

買った債権に、品物が来るまで払わないと言われたら

冒頭の設例。卸会社が小売チェーンに冬物衣料を300万円で売る(納品12月10日・代金は納品後)。11月5日、卸会社は代金債権300万円を金融業者に譲渡し、通知が小売チェーンに届く。12月10日を過ぎても卸会社は1着も納品していない。金融業者が小売チェーンに「300万円払え」と請求。問い=小売チェーンは「品物が来るまで払わない」と金融業者に言えるか。 図:冒頭の設例

  • 卸会社が小売チェーンに冬物衣料を300万円で売る(納品12月10日・代金は納品後)
  • 11月5日、卸会社は代金債権300万円を金融業者に譲渡し、通知が小売チェーンに届く
  • 12月10日を過ぎても卸会社は1着も納品していない
  • 金融業者が小売チェーンに「300万円払え」と請求
  • 問い=小売チェーンは「品物が来るまで払わない」と金融業者に言えるか

今日は、譲渡された債権に対して、債務者が何を言えるのか、を見ます。設例を作ります。卸会社が、小売チェーンに、冬物衣料を300万円で売る契約を結びました。納品は12月10日、代金は納品のあとに払う約束です。11月5日に、卸会社は、この代金債権300万円を、金融業者に譲渡して、資金を借りました。通知も、小売チェーンに届いています。ところが、12月10日を過ぎても、卸会社は、1着も納めていません。そこへ金融業者が、300万円払ってください、と請求してきました。今日の問いは、小売チェーンは、金融業者に対して、品物が来るまで払わない、と言えるのか、です。さらに、何をどこまで言えるのか、いつまでに生じた事情なら言えるのか、他の規定とぶつかったらどうなるのか、まで見ます。先に答えを言うと、言えます。ただし、どんな反論でも、いつの事情でも、というわけではありません。

468条1項:言えた反論は言える

468条1項の趣旨。債権は同一性を保ったまま移る(譲渡人が持っていた債権とそっくり同じ中身)+債務者は譲渡に関与しない→譲渡で債務者の地位を悪化させない。言える事由の例=①すでに払った(弁済)②契約が不成立・無効③取消し④解除⑤同時履行の抗弁。 図:468条1項の趣旨

  • 債権は同一性を保ったまま移る(譲渡人が持っていた債権とそっくり同じ中身)+債務者は譲渡に関与しない→譲渡で債務者の地位を悪化させない
  • 言える事由の例=①すでに払った(弁済)②契約が不成立・無効③取消し④解除⑤同時履行の抗弁

条文を見ます。

条文民法468条1項

民法第468条 債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。

債務者は、譲渡人に対して生じた事由を、譲受人に対抗できます。対抗するとは、その事情を理由に、請求を拒むことです。請求を拒む理由になる、こうした反論のことを、抗弁と呼びます。ただし、いつまでの事由かには、限りがあります。それが、対抗要件具備時、設例なら、通知が小売チェーンに届いた時までです。この時期の話は、あとで詳しく見ます。まず、原則の理由です。理由は2つあります。1つめは、債権は、同じ中身のまま移る、ということです。前に見ました、債権の同一性です。卸会社が持っていた債権は、品物と引き換えに払ってもらえる債権でした。金融業者が買ったのは、その、同じ債権です。別の、条件なしの債権が、新しく生まれたわけではありません。2つめは、債務者は、譲渡に関わっていない、ということです。小売チェーンは、卸会社と金融業者の間の取引に、同意も、口出しもしていません。自分の知らないところで債権が売られたせいで、品物なしに払わされたり、すでに払ったお金をまた請求されたりしたら、あまりに気の毒です。だから、譲渡によって債務者の立場を悪くしない、という方向で、条文ができています。

代表的なものを挙げます。すでに払った、つまり弁済で債権が消えた、という反論。契約が成り立っていない、または無効だ、という反論。取り消した、という反論。解除した、という反論。そして、同時履行の抗弁です。このほか、具備時までに時効が完成していれば、その反論も言えると解されています。なお、無効や取消しには、善意の譲受人に言えないものがあります。これは、あとで見ます。同時履行の抗弁とは、前に見たとおり、相手が自分の債務を履行するまで、自分の債務の履行を拒める、という反論です。売買で、代金は、品物と引き換えに払う、という関係です。冒頭の設例では、卸会社が納品していないので、小売チェーンは、卸会社に対して、品物が来るまで払わない、と言えます。その反論が、金融業者に対しても、そのまま言えるのです。これが、言える、の理由です。ただし、本当に言えるかは、いつ生じた事情か、が絡みます。続きを見ます。

反論が切れるのは、いつか

抗弁の放棄。いまの民法=異議をとどめない承諾で抗弁が切れる仕組みは無い。債務者が反論を失うのは、債務者が「反論しません」と意思表示(抗弁の放棄)をしたとき。通知を受け取っただけ・「承諾しました」だけでは失わない。理由=債務者の保護。 図:抗弁の放棄

  • いまの民法=異議をとどめない承諾で抗弁が切れる仕組みは無い
  • 債務者が反論を失うのは、債務者が「反論しません」と意思表示(抗弁の放棄)をしたとき
  • 通知を受け取っただけ・「承諾しました」だけでは失わない
  • 理由=債務者の保護

通知を受けて承諾しただけでは、反論は失いません。いまの民法には、異議をとどめない承諾で反論が切れる、という仕組みはありません。以前は、債務者が、反論を留保しないまま承諾すると、言えたはずの反論を失う、という制度がありました。ただ、平成29年の改正で、それは無くなりました。理由は、債務者の保護です。譲渡があったと知らせるために承諾しただけで、全部の反論を失う、というのは、酷だからです。では、譲受人が、反論を封じたいときは、どうするのか。債務者に、抗弁を放棄する、つまり、この債権について反論はしません、という意思表示をしてもらう必要があります。承諾しました、とだけ言った場合や、通知を受け取っただけの場合は、反論を失いません。具体例です。小売チェーンが、通知を受けて、承知しました、と返事しただけなら、同時履行の抗弁は残ります。納品が無くても払います、と約束したら、それが放棄です。

いつまでに生じた事由か。対抗要件具備時

対抗要件具備時=債務者対抗要件(467条1項の通知または承諾)を備えた時。確定日付は要らない。時間軸=11月3日 弁済→言える/11月5日 通知到達(具備時)/11月10日 弁済→言えない(金融業者に二重に払うことになる)。

  • 対抗要件具備時=債務者対抗要件(467条1項の通知または承諾)を備えた時
  • 確定日付は要らない
  • 時間軸=11月3日 弁済→言える/11月5日 通知到達(具備時)/11月10日 弁済→言えない(金融業者に二重に払うことになる)

条文のとおり、言えるのは、対抗要件具備時までに生じた事由です。ここでの対抗要件は、467条1項の、債務者に対する対抗要件、つまり、通知か承諾です。確定日付は、要りません。前回、後付けの特約で見た線と、同じです。設例で見ます。11月5日に、通知が小売チェーンに届きました。もし、11月3日に、小売チェーンが、卸会社に300万円を払っていたら、通知より前の弁済です。弁済で債権は消えていたと、金融業者に言えます。他方、11月10日に払った場合はどうでしょう。通知が届いたあとに、あえて卸会社に払ったことになります。この事情は、具備時のあとに生じたものなので、金融業者には対抗できません。小売チェーンは、金融業者にも、もう一度払わなければなりません。通知で、債権者が金融業者に変わったことを知ったのに、卸会社に払ったのだから、自分で背負うのは仕方がない、という線引きです。もう1つ、短答で出る補足です。基準の時が、ずれる場面が、2つあります。条文は、468条2項です。1つめは、譲渡制限特約が付いた債権で、譲受人が特約を知っていたか、重大な過失で知らなかった場合です。前に見た、466条4項の催告の場面です。譲受人が、債務者に、譲渡人へ払うよう催告して、相当の期間内に払われなければ、その期間が経った時が、基準になります。2つめは、前に見た、466条の3の場面で、譲渡人が破産して、譲受人が、債務者に供託を求めた場合です。このときは、供託を求められた時が、基準になります。

どちらも、譲渡制限特約が付いた債権で、通知のあとも、債務者が、譲渡人に払ってよい、とされうる場面です。まだ譲渡人を相手にしてよいうちに生じた反論を、失わされるのでは、筋が通りません。だから、基準の時が、譲渡人を相手にできなくなる時まで、後ろにずれるのです。具備時のあとに生じた事情は、全部、言えないんですか。そこが、山場です。たとえば、解除を考えます。

具備後に解除権が生じたとき

設例の時間軸。11/5 通知到達(具備時)=卸会社の納品義務は未履行→12/10 納品期日を過ぎても納めない→小売チェーンに解除権が発生し、解除。解除の原因(納品しないこと)も解除も通知のあと。問い=それでも解除を金融業者に言えるか。 図:設例の時間軸

  • 11/5 通知到達(具備時)=卸会社の納品義務は未履行→12/10 納品期日を過ぎても納めない→小売チェーンに解除権が発生し、解除
  • 解除の原因(納品しないこと)も解除も通知のあと
  • 問い=それでも解除を金融業者に言えるか

設例を進めます。通知が届いた11月5日の時点で、卸会社は、まだ1着も納めていません。納品期日は12月10日で、期日を過ぎても納品がありませんでした。そこで、小売チェーンは、契約を解除しました。解除できるようになったのも、解除したのも、通知のあとです。条文は、具備時までに生じた事由、と書いています。具備後の解除は、言えないのでしょうか。判例は、言える、としました。判例は、請負の報酬債権の譲渡の事案でした。仕事が未完成のうちに、報酬債権が譲渡され、債務者が異議をとどめず承諾して、対抗要件が備わったあと、請負人が仕事を放り出し、契約が解除された事件です。最高裁は、こう言いました。

判例最判昭42・10・27 民集21巻8号2161頁

債権譲渡の後に解除権が生じた場合 右報酬請求権が第三者に譲渡され対抗要件をそなえた後に請負人の仕事完成義務不履行が生じこれに基づき請負契約が解除された場合においても、右債権譲渡前すでに反対給付義務が発生している以上、債権譲渡時すでに契約解除を生ずるに至るべき原因が存在していたものというべきである。

文中の右は、すぐ前に出た言葉を指します。骨組みは1つです。譲渡の時に、すでに、仕事を完成させる義務が発生していて、まだ果たされていない。その義務を果たさなければ、のちに解除に至る原因は、すでにあった、という考え方です。設例に当てはめます。条文の基準は具備時なので、判例の言う譲渡の時を、通知が届いた時に置き換えて考えます。通知の時点で、卸会社の納品義務は、まだ果たされていません。納めなければ、のちに解除に至る可能性は、通知の時点で、すでにありました。しかも、その可能性は、譲渡のあとに新しく生まれたものではありません。品物と引き換えに払う、という、譲渡の前に結ばれた契約の中身に、もともと入っていたものです。だから、解除の原因は、具備時までに存在していた、と言えます。そのため、小売チェーンは、解除を金融業者に対抗できます。300万円の支払は、拒めます。

⭐ 論文で書く規範:具備後の解除権(判例の規範) 双務契約上の債権が譲渡された場合に、対抗要件具備時までに反対債務が未履行であれば、その後に生じた解除を譲受人に対抗できる。解除に至る原因が、具備時までに存在していたといえるからである。 (出どころ=判例の趣旨を、現行468条1項の具備時に当てはめて整理した規範(判例自身の物差しは「譲渡前に反対給付義務が発生」。論文では「文言は具備時まで」との緊張が論点になりうる))

通知の時に、卸会社がすでに全部納品していた場合は、この規範は働きません。全部納めたあとなら、納品しないことを理由に解除する、ということは、もう起こりえません。納品しないことを理由とする解除の原因は、通知の時点で、そもそも存在していなかったのです。冒頭の小売チェーンに戻ります。通知の時に、納品がまだだった以上、のちの解除まで含めて、金融業者に言えます。金融業者が買ったのは、納品が無ければ解除されうる、という性質ごと移った、同じ債権だからです。品物が来ないなら払わない、という反論は、譲渡では消えません。

無効・取消しと、善意の譲受人

優劣の整理の表。弁済・同時履行=言える(468条1項)。虚偽表示による無効=善意の譲受人には言えない(94条2項)。詐欺による取消し=善意無過失の譲受人には言えない(96条3項)。解除=言える(545条1項ただし書の第三者にあたらない)。 図:優劣の整理の表

  • 弁済・同時履行=言える(468条1項)
  • 虚偽表示による無効=善意の譲受人には言えない(94条2項)
  • 詐欺による取消し=善意無過失の譲受人には言えない(96条3項)
  • 解除=言える(545条1項ただし書の第三者にあたらない)

ここから、無効や取消しの話です。譲受人に言えない場合があります。設例を作ります。卸会社と小売チェーンが、示し合わせて、実在しない取引の、300万円の代金債権を作りました。通謀虚偽表示です。卸会社は、この架空の債権を、それを本物だと信じた金融業者に譲渡しました。虚偽表示は、当事者の間では無効です。だから、原則は、払う必要はありません。ただ、条文があります。

条文民法94条2項

民法第94条 2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

善意の第三者には、虚偽表示の無効を対抗できません。大事なのは、債権を真に買い取った譲受人が、この第三者にあたるかです。ここで、総則で見た、94条2項の第三者を思い出してください。どんな人が、第三者にあたりましたか?当事者以外で、嘘の外形を土台にして、新しく、独立した法律上の利害関係を持つに至った人、でした。架空の債権を本物だと信じて買い取った金融業者は、その外形を土台に、新しく権利を取得した人なので、第三者にあたります。ただし、取立てを任されただけの譲受人は、あたりません。結論です。金融業者が善意、つまり、架空の取引だと知らなかったなら、小売チェーンは、無効だと言えません。金融業者が、架空だと知っていたなら、言えます。同じ形の規定は、心裡留保の93条2項や、錯誤の95条4項にもあります。取消しも見ます。小売チェーンが、卸会社にだまされて契約し、取り消す前に、卸会社が、その債権を金融業者に譲渡したとします。

条文民法96条3項

民法第96条 3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

96条3項です。善意で、かつ過失がない、つまり、だまされた事情を知らず、知らなかったことに落ち度もない第三者には、取消しを対抗できません。取消しの前に、この債権を買い取った金融業者は、だまされてした意思表示のあとに、新しく利害関係を持った人なので、この第三者にあたります。金融業者が善意無過失なら、小売チェーンは、取消しを言えません。悪意か、過失があれば、言えます。総則で見たとおり、趣旨は、取消しがさかのぼって効力を失うことから、取引した第三者を守ることです。468条1項と、94条2項や96条3項のどちらが優先するか、という問題です。468条1項が債務者を守るのは、知らないところで債権が売られて、立場を悪くされるのは気の毒だから、でした。でも、虚偽表示では、ありもしない債権の外形を、卸会社と示し合わせて作ったのは、小売チェーン自身です。その外形を信じて買った金融業者より、作った側が負けるべきだ、というのが94条2項の考え方でした。詐欺の取消しも、さかのぼって効力が消える巻き添えから、取引に入った第三者を守るのが、96条3項です。だから、譲受人がこれらの第三者にあたる以上、そちらが優先します。善意の譲受人には、虚偽表示の無効も、詐欺の取消しも、言えません。ただし、これは、94条2項や96条3項という保護規定がある場合の話です。たとえば、強迫による取消しには、こうした規定がなく、善意の譲受人にも言えます。他方、弁済や同時履行は、こうした第三者保護の規定とは関係がありません。468条1項のとおり、言えます。

解除と、545条1項ただし書

解除と第三者。545条1項本文=解除すると原状回復義務を負う。ただし書=第三者の権利を害することはできない。問い=債権の譲受人は、この「第三者」にあたるか。あたるなら、金融業者が善意でも悪意でも、解除を対抗できなくなる。 図:解除と第三者

  • 545条1項本文=解除すると原状回復義務を負う
  • ただし書=第三者の権利を害することはできない
  • 問い=債権の譲受人は、この「第三者」にあたるか
  • あたるなら、金融業者が善意でも悪意でも、解除を対抗できなくなる

最後に、解除です。条文を見ます。

条文民法545条1項

民法第545条 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。

ただし書は、解除しても、第三者の権利を害せない、と言っています。問いは、債権の譲受人が、この第三者にあたるか、です。あたるなら、金融業者が善意でも悪意でも、小売チェーンは、解除を対抗できなくなります。判例と通説は、あたらない、とします。ここでの第三者は、解除された契約の効果を土台に、解除の前までに、その契約の目的について新しく権利を得た人をいいます。債権の譲受人は、これにあたりません。解除で債権が消えるから、という説明では、区別できません。虚偽表示でも、債権は、そもそも無効です。消えるか残るかでは、区別できないのです。違いは、次の2つの理由で説明されます。1つめは、解除された契約から生じた債権の譲受人は、解除によって消える債権そのものを、受け取っただけだ、ということです。虚偽表示と比べると、違いが見えます。虚偽表示では、小売チェーン自身が、ありもしない債権の外形を作り、金融業者は、その嘘の外形を信じて買いました。解除では、嘘の外形は、どこにもありません。金融業者が買ったのは、本物の、しかも、納品が無ければ解除されうる債権で、その性質ごと受け取っています。解除された契約を土台に、新しく独立した権利を築いた人とは、いえないのです。もっとも、この説明でも、詐欺の取消しを定める96条3項との違いは埋まりきらず、そこが批判される点です。2つめは、仮に第三者にあたるとすると、譲渡人は、債権を譲渡するだけで、いつでも解除を免れられる、ということです。設例なら、卸会社が、1着も納めないまま代金債権を売ってしまえば、小売チェーンが解除しても、金融業者に300万円を払わされます。譲渡に関わっていない小売チェーンが、譲渡のせいで立場を悪くする。それでは、解除権を認めた意味が、無くなってしまいます。

⭐ 論文で書く規範:545条1項ただし書の「第三者」(判例・通説の規範) 解除された契約の効果を土台に、解除の前までに、その契約の目的について新しく権利を得た者が、545条1項ただし書の「第三者」である。債権の譲受人は、解除で消える債権そのものを受け取っただけだから、「第三者」にあたらない。 (出どころ=判例・通説(条文の「第三者」の定義づけ。論文では94条・96条との違いの説明が批判される点で、論点になりうる))

設例の結論です。金融業者は、第三者にあたらず、小売チェーンは、解除を対抗できます。ちなみに、94条や96条との違いを説明しにくい、という批判があります。また、有力な考え方は、あたるとして、94条・96条と同じ趣旨で保護する、とします。論文では、結論を理由とともに示すのが基本です。解除と第三者の詳細は、解除の回で見ます。

冒頭の答えと、まとめ

冒頭の答え。小売チェーンは、品物が来るまで払わないと金融業者に言える(468条1項・同時履行の抗弁)。ただし、具備時までに生じた事由が基準。放棄の意思表示をしない限り反論は切れない。善意の譲受人には、虚偽表示の無効・詐欺の取消しは言えない。解除は言える。 図:冒頭の答え

  • 小売チェーンは、品物が来るまで払わないと金融業者に言える(468条1項・同時履行の抗弁)
  • ただし、具備時までに生じた事由が基準
  • 放棄の意思表示をしない限り反論は切れない
  • 善意の譲受人には、虚偽表示の無効・詐欺の取消しは言えない
  • 解除は言える

冒頭の答えです。小売チェーンは、金融業者に、品物が来るまで払わない、と言えます。譲渡人に言えた反論は、譲受人にも言えるからです。

まとめ。①言える反論の基準時=対抗要件具備時(債務者対抗要件)。具備後の解除でも、具備時までに反対債務が未履行なら対抗できる。②異議をとどめない承諾による切断は無い。失わせるには抗弁の放棄の意思表示。③虚偽表示の無効・詐欺の取消しは、善意(無過失)の譲受人に言えない(94条2項・96条3項)。強迫による取消し等は言える。解除は、譲受人に言える(545条1項ただし書の第三者にあたらない)。 図:まとめ

  • ①言える反論の基準時=対抗要件具備時(債務者対抗要件)
  • 具備後の解除でも、具備時までに反対債務が未履行なら対抗できる
  • ②異議をとどめない承諾による切断は無い
  • 失わせるには抗弁の放棄の意思表示
  • ③虚偽表示の無効・詐欺の取消しは、善意(無過失)の譲受人に言えない(94条2項・96条3項)
  • 強迫による取消し等は言える
  • 解除は、譲受人に言える(545条1項ただし書の第三者にあたらない)

整理します。1つめ。言える反論の基準は、対抗要件具備時です。通知の後に解除権が生じても、具備時までに反対債務が未履行なら、解除を対抗できます。2つめ。異議をとどめない承諾で反論が切れる仕組みは、ありません。反論を失わせるには、抗弁を放棄する意思表示が要ります。3つめ。虚偽表示による無効や詐欺による取消しは、善意の、または善意無過失の譲受人には、言えません。ただし解除は、債権の譲受人が第三者にあたらないので、言えます。虚偽表示の無効は善意の譲受人に、詐欺の取消しは善意無過失の譲受人に、言えないけれど、解除は言える、と覚えます。その整理で大丈夫です。付け加えると、強迫による取消しなど、こうした第三者保護の規定が無いものは、善意の譲受人にも言えます。前に見た467条は、誰に効力を主張できるかを決める規定で、468条は、債務者がどこまで反論を残せるかを決める規定です。債権譲渡で、債権者が変わったとき、債務者が持つ反論の中でも、相殺は、別の回で見ます。

参照条文

  • 民法468条1項
  • 民法94条2項
  • 民法96条3項
  • 民法545条1項

民法 全体ロードマップへ →