民法ゼロから民法#174

併存的債務引受と免責的債務引受

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第4章 債権総論 #174/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

親が子の借金を引き受けたら、子は抜けられるか

冒頭の設例。卸会社(債権者)は小売チェーン(債務者)に商品を売り、代金債権3000万円を持つ。小売チェーンの資金繰りが苦しくなり、小売チェーンの親会社が「3000万円の支払は、うちが引き受けます」と申し出る。問い=引き受けたあと、小売チェーンは支払義務から解放されるのか、それとも小売チェーンと親会社の2人が払う義務を負うのか。 図:冒頭の設例

  • 卸会社(債権者)は小売チェーン(債務者)に商品を売り、代金債権3000万円を持つ
  • 小売チェーンの資金繰りが苦しくなり、小売チェーンの親会社が「3000万円の支払は、うちが引き受けます」と申し出る
  • 問い=引き受けたあと、小売チェーンは支払義務から解放されるのか、それとも小売チェーンと親会社の2人が払う義務を負うのか

今日は、反対側です。債務者の側が替わる、債務引受を見ます。設例を作ります。卸会社が、小売チェーンに商品を売って、代金3000万円の債権を持っています。ところが、小売チェーンの資金繰りが苦しくなりました。そこで、小売チェーンの親会社が、この3000万円は、うちが引き受けます、と名乗り出ました。本当に、もう無関係になるのか。そこが、今日の問いです。親が子の借金を引き受けたとき、子は借金から解放されるのか。それとも、親子で2人になるのか。先に答えを言うと、どちらにもできます。そして、どちらになるかによって、誰と誰が契約すればよいのか、いつ効力が生じるのかが、変わってきます。

債務引受とは。2つの型

債務引受=契約で、第三者(引受人)が、債務者の債務と同一の内容の債務を負うこと。債権者A=卸会社、債務者B=小売チェーン、引受人C=親会社。債権(A→B 3000万円)は同一性を保ったまま、債務を負う側にCが加わる/Bに替わる。型は2つ。併存的=Bも残る(BとCの2人)・免責的=Bが免れる(Cだけ)。2017年の民法改正で条文になった(それまでは判例・実務)。履行引受=Cが債務者Bに対して弁済する義務を負うだけ。債権者Aとの関係は変わらない(別物)。

  • 債務引受=契約で、第三者(引受人)が、債務者の債務と同一の内容の債務を負うこと
  • 債権者A=卸会社、債務者B=小売チェーン、引受人C=親会社
  • 債権(A→B 3000万円)は同一性を保ったまま、債務を負う側にCが加わる/Bに替わる
  • 型は2つ
  • 併存的=Bも残る(BとCの2人)・免責的=Bが免れる(Cだけ)
  • 2017年の民法改正で条文になった(それまでは判例・実務)
  • 履行引受=Cが債務者Bに対して弁済する義務を負うだけ
  • 債権者Aとの関係は変わらない(別物)

債務引受とは、契約によって、第三者、これを引受人と呼びますが、その引受人が、債務者の債務と同じ内容の債務を負うことです。設例なら、卸会社が持つ、小売チェーンに対する3000万円の代金債権。この債権の中身はそのままで、同じ内容の債務を、親会社も負う、ということです。同じ内容の債務、というのは、どうして強調するんですか。ここが、あとの話すべてに効いてくるからです。債権の中身が変わらない、つまり、同一性が保たれる、ということです。前に、更改を見ました。更改は、古い債務が消えて、新しい債務ができる、同一性を失う仕組みでした。債務引受は違います。同じ債務が、同じ中身のまま、債務者と並んで引受人にも、あるいは債務者に代わって引受人に、存在します。だから、債務者が主張できた反論が、引き継がれるのです。抗弁のところで見ます。型は2つです。債務者が残って、引受人と2人になるのが、併存的債務引受。債務者が債務を免れて、引受人だけが残るのが、免責的債務引受です。どちらも、2017年の民法改正で、条文になりました。それまでは、判例と実務で認められていたものです。前に見た債権譲渡との対比を、一言で言います。債権譲渡では、債務者が、反論を持ち越しました。債務引受では、引受人が、債務者の反論を持ち越します。

引受人が弁済を約束するだけの、肩代わりとは違うんですか。違います。債務者に対して、あなたの代わりに払いますよ、と約束するだけの契約は、履行引受と呼ばれます。この場合、引受人は、債務者に対して払う義務を負うだけで、債権者との関係は何も変わりません。債権者は、引受人に請求できないのです。今日扱う債務引受は、引受人が債権者に対して直接、債務を負う、という点が違います。

併存的債務引受:2人になる(470条)

併存的債務引受の効果。引受前=A卸会社→B小売チェーン 3000万円。引受後=A卸会社→B小売チェーン 3000万円、かつ A卸会社→C親会社 3000万円。BとCは連帯(全額を各自が負う)。Bは抜けない。債権者Aから見ると、請求できる相手が1人増える=責任財産が増える。保証に似た働き。 図:併存的債務引受の効果

  • 引受前=A卸会社→B小売チェーン 3000万円
  • 引受後=A卸会社→B小売チェーン 3000万円、かつ A卸会社→C親会社 3000万円
  • BとCは連帯(全額を各自が負う)
  • Bは抜けない
  • 債権者Aから見ると、請求できる相手が1人増える=責任財産が増える
  • 保証に似た働き

まず、併存的債務引受です。条文を見ます。1項と2項です。

条文民法470条1項・2項

民法第470条 併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。 2 併存的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。

1項の中心は、連帯して、です。連帯とは、全額を、各自が負う、という意味です。設例なら、卸会社は、小売チェーンにも、親会社にも、3000万円の全額を請求できます。どちらかが全額を払えば、債権は消えます。連帯債務の中身は、別の回で詳しく見ます。今日は、全額を各自が負う、と押さえてください。請求できる相手が、1人増えます。つまり、債権者の責任財産が増えます。支払の当てが増える、という意味では、保証に似た働きがあります。ただし、保証とは違います。まず、書面は要りません。次に、引受人は、保証人のように、主たる債務に付き従う立場ではありません。さらに、まず債務者に請求してください、と言える立場でもありません。ここは一言にとどめます。次に、2項です。併存的債務引受は、債権者と、引受人となる者との契約でできます。つまり、債務者の同意は要りません。

小売チェーンの知らないところで、親会社と卸会社が決めてしまっていいんですか。構いません。理由は、債務者にとって、何も悪くなる点がないからです。債務が増えるわけではありません。払う義務を負う人が、もう1人増えるだけです。保証も、債権者と保証人の契約で結び、債務者の同意は要りません。それと同じ発想です。続いて、3項と4項です。

条文民法470条3項・4項

民法第470条 3 併存的債務引受は、債務者と引受人となる者との契約によってもすることができる。この場合において、併存的債務引受は、債権者が引受人となる者に対して承諾をした時に、その効力を生ずる。 4 前項の規定によってする併存的債務引受は、第三者のためにする契約に関する規定に従う。

3項は、債務者と引受人となる者の契約でもできる、というものです。設例なら、小売チェーンと親会社が、親会社が引き受ける、と契約を結ぶ場合です。ただし、この場合は、債権者が、引受人となる者に対して承諾をした時に、効力が生じます。2項と3項で、逆に見えるかもしれません。2項は、債権者自身が契約の当事者でした。だから、改めて承諾をする必要がありません。3項は、債権者が契約に関わっていません。債権者が、知らないところで、債権者に新しい権利を取得させる契約が結ばれた、という形です。この、第三者に権利を取得させる契約を、第三者のためにする契約と呼びます。4項が、そのとおりに従う、と書いています。第三者のためにする契約では、権利を取得する第三者、ここでは債権者が、受益の意思表示、つまり、その権利を受けます、と示した時に、権利が発生します。権利であっても、本人の知らないうちに押し付けることはしない。受けるかどうかは、本人に決めさせる、という考え方です。債権者が、引受人となる者に対して承諾をする、というのは、この受益の意思表示にあたります。だから、承諾の時に効力が生じるのです。まとめます。債権者が、契約に関わっていない、3項の場合だけ、承諾が要ります。債権者に権利を取得させる契約だからです。

免責的債務引受:子が抜ける(472条)

免責的債務引受の効果。引受前=A卸会社→B小売チェーン 3000万円。引受後=A卸会社→C親会社 3000万円のみ。Bは債務を免れて契約関係から抜ける(債権の同一性は保つ=Cが同じ内容の債務を負う)。債権者Aから見ると、責任財産が小売チェーンから親会社に入れ替わる。 図:免責的債務引受の効果

  • 引受前=A卸会社→B小売チェーン 3000万円
  • 引受後=A卸会社→C親会社 3000万円のみ
  • Bは債務を免れて契約関係から抜ける(債権の同一性は保つ=Cが同じ内容の債務を負う)
  • 債権者Aから見ると、責任財産が小売チェーンから親会社に入れ替わる

次に、免責的債務引受です。条文です。

条文民法472条1項〜3項

民法第472条 免責的債務引受の引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れる。 2 免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。この場合において、免責的債務引受は、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生ずる。 3 免責的債務引受は、債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもすることができる。

1項は、効果です。引受人は、同じ内容の債務を負担し、債務者は、自己の債務を免れます。設例なら、親会社が3000万円の債務を負い、小売チェーンは、抜けます。2項は、債権者と、引受人となる者の契約です。この場合、債権者が債務者に対して、その契約をした旨を通知した時に、効力が生じます。債務者の同意が無くても、いまの民法では、構いません。理由は、債務者が、免れるだけだからです。債務者は、自分の債務が消えて、利益を受けるだけで、不利益を受けません。同意を求める必要が、ありません。なお、改正前は、免責的債務引受は、債務者の意思に反してはできない、とされていました。いまは、債権者と引受人だけでできます。

通知が要るのは、債務者が、自分の知らないうちに、契約関係から外れてしまうのを防ぐためです。債務者は、不利益こそ受けませんが、自分の債務が消えたことは、知っておく必要があります。たとえば、知らされないままだと、もう要らない支払の準備を続けてしまうかもしれません。だから、債権者が、債務者に通知した時に、効力が生じる、としています。通知が、効力の発生要件です。3項は、債務者と引受人となる者が契約をして、債権者が、引受人となる者に対して承諾をする、という場合です。どうして、こちらは債権者の承諾が要るんですか。免責的債務引受では、債権者の責任財産が入れ替わる、からです。設例なら、卸会社は、小売チェーンの財産を当てにしていたのが、親会社の財産を当てにすることになります。親会社が、小売チェーンより資力が乏しい会社なら、卸会社は、不利益を受けます。債権者の利害が、大きいのです。だから、債権者の承諾が必須です。なお、2項は、債権者自身が契約をしているので、改めて承諾は要りません。

成立要件の比較表

比較表の問題。縦=併存的債務引受/免責的債務引受。横=債権者・債務者・引受人の三者の合意/債権者と引受人の契約/債務者と引受人の契約。各セルは空欄。問い=「効力が生じるのはいつか」。 図:比較表の問題

  • 縦=併存的債務引受/免責的債務引受
  • 横=債権者・債務者・引受人の三者の合意/債権者と引受人の契約/債務者と引受人の契約
  • 各セルは空欄
  • 問い=「効力が生じるのはいつか」

ここで、1枚の表にまとめます。縦が、併存的と免責的、横が、誰と誰の契約でするか、です。各マスに、いつ効力が生じるのか、を入れていきます。画面の表を見ながら、頭の中で埋めてみてください。併存的の、債権者と引受人の契約は、契約をした時に効力が生じます。債務者と引受人の契約は、債権者が引受人に承諾した時、でした。免責的はどうですか?免責的の、債権者と引受人の契約は、債権者が債務者に通知した時。債務者と引受人の契約は、債権者が引受人に承諾をすることで、できます。三者の合意の場合は、どちらの型でも、全員が合意した時に効力が生じます。表にします。

成立要件の比較表の答え。三者の合意なら、併存的も免責的も、合意が成立した時に効力が生じる。債権者と引受人の契約なら、併存的は契約をした時(470条2項)、免責的は債権者が債務者に通知した時(472条2項)。債務者と引受人の契約なら、併存的は債権者が引受人となる者に承諾した時(470条3項)、免責的は債権者が引受人となる者に承諾をすること(472条3項)。債務者が関わらなくてもできるのは、債権者と引受人の契約の列(債務者の同意は要らない=併存的も免責的も)。三者の合意と債務者と引受人の契約の列は、債務者自身が契約の当事者。表の縦は併存的と免責的、横は三者の合意・債権者と引受人の契約・債務者と引受人の契約。 図:成立要件の比較表の答え

  • 三者の合意なら、併存的も免責的も、合意が成立した時に効力が生じる
  • 債権者と引受人の契約なら、併存的は契約をした時(470条2項)、免責的は債権者が債務者に通知した時(472条2項)
  • 債務者と引受人の契約なら、併存的は債権者が引受人となる者に承諾した時(470条3項)、免責的は債権者が引受人となる者に承諾をすること(472条3項)
  • 債務者が関わらなくてもできるのは、債権者と引受人の契約の列(債務者の同意は要らない=併存的も免責的も)
  • 三者の合意と債務者と引受人の契約の列は、債務者自身が契約の当事者
  • 表の縦は併存的と免責的、横は三者の合意・債権者と引受人の契約・債務者と引受人の契約

表の見方の軸は、1つです。債権者の関与が、足りているか、です。併存的は、債権者にとって、不利益がありません。請求できる相手が増えるだけです。だから、債権者の関与が薄くてよい。債権者と引受人の契約なら、債権者が当事者なので、すぐ効力が生じます。債務者と引受人の契約なら、債権者に権利を取得させる契約なので、承諾が要ります。免責的は、債権者の責任財産が入れ替わります。だから、債権者の関与が必須です。債権者と引受人の契約なら、債権者は当事者ですが、債務者を保護するために、通知が要ります。債務者と引受人の契約なら、債権者を保護するために、承諾が要ります。通知は債務者保護、承諾は債権者保護です。債務者が関わらなくてもできるのは、債権者と引受人の契約の列だけです。そこでは、併存的も免責的も、債務者の同意は要りません。債務者と引受人の契約や三者の合意の列では、債務者自身が契約の当事者です。

引受人の抗弁(471条・472条の2)

引受人の抗弁。引受人C(親会社)は、引受の効力が生じた時にBが主張できた抗弁を、債権者Aに言える。例=①引受の時すでに一部を弁済していた→その分は払わない ②Aの納品した商品に瑕疵があり、同時履行の抗弁が使える→瑕疵が直されるまで払わない。理由=同じ内容の債務を負っているから。 図:引受人の抗弁

  • 引受人C(親会社)は、引受の効力が生じた時にBが主張できた抗弁を、債権者Aに言える
  • 例=①引受の時すでに一部を弁済していた→その分は払わない ②Aの納品した商品に瑕疵があり、同時履行の抗弁が使える→瑕疵が直されるまで払わない
  • 理由=同じ内容の債務を負っているから

次は、引受人が、何を言えるのかです。その前に、前回の確認です。債権が譲渡されたとき、債務者は、譲受人に対して、どんな反論を言えましたか?譲渡人に対して言えた反論は、譲受人にも言えました。債権が、同じ中身のまま移るからです。468条1項の決まりでした。債務引受でも、同じ考え方が働きます。併存的の条文です。

条文民法471条

民法第471条 引受人は、併存的債務引受により負担した自己の債務について、その効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができる。 2 債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは、引受人は、これらの権利の行使によって債務者がその債務を免れるべき限度において、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。

1項です。引受人は、引受の効力が生じた時に、債務者が主張できた抗弁を、債権者に対抗できます。抗弁とは、請求を拒む理由になる反論でした。理由は、さきほど見ました、同一性です。引受人は、債務者と同じ内容の債務を負っているのです。債務者が言えた反論は、同じように言えます。設例です。引受のときに、小売チェーンは、すでに500万円を卸会社に払っていた、とします。親会社は、残りの2500万円しか払う必要がありません。また、卸会社が納めた商品に瑕疵があり、小売チェーンが、直るまで払わない、と言える同時履行の抗弁を持っていたなら、親会社も、同じ抗弁を言えます。2項に進みます。債務者が、債権者に対して、取消権や解除権を持っているときです。たとえば、小売チェーンが、卸会社にだまされて契約し、取消権を持っていたとします。このとき、引受人である親会社は、取り消せるでしょうか。

契約の当事者じゃないので、取り消せない気がします。取消権も解除権も、契約の当事者の地位に基づく権利です。引受人は、当事者ではないので、自分で取り消したり、解除したりはできません。ただし、2項は、履行を拒める、としています。債務者が、これらの権利を行使すれば、債務を免れる、その限度で、履行を拒むことができます。

取消権・解除権と履行拒絶。債権者A=卸会社、債務者B=小売チェーン、引受人C=親会社。Bが卸会社にだまされて契約し、取消権を持つ。Cは、契約の当事者ではないので、自分では取り消せない・解除もできない。ただし、Bが取消権・解除権を行使すれば債務を免れる限度で、CはAに対して履行を拒める(471条2項)。免責的債務引受でも同じ(472条の2第2項)。条文の言い回し=471条2項「これらの権利の行使によって債務者がその債務を免れるべき限度」、472条の2第2項「免責的債務引受がなければこれらの権利の行使によって債務者がその債務を免れることができた限度」。言い回しは違うが、中身は同じ(Bが取消し・解除をすれば消えたはずの範囲で履行を拒める)。 図:取消権・解除権と履行拒絶

  • 債権者A=卸会社、債務者B=小売チェーン、引受人C=親会社
  • Bが卸会社にだまされて契約し、取消権を持つ
  • Cは、契約の当事者ではないので、自分では取り消せない・解除もできない
  • ただし、Bが取消権・解除権を行使すれば債務を免れる限度で、CはAに対して履行を拒める(471条2項)
  • 免責的債務引受でも同じ(472条の2第2項)
  • 条文の言い回し=471条2項「これらの権利の行使によって債務者がその債務を免れるべき限度」、472条の2第2項「免責的債務引受がなければこれらの権利の行使によって債務者がその債務を免れることができた限度」
  • 言い回しは違うが、中身は同じ(Bが取消し・解除をすれば消えたはずの範囲で履行を拒める)

免責的の条文も見ます。

条文民法472条の2

民法第472条の2 引受人は、免責的債務引受により負担した自己の債務について、その効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができる。 2 債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは、引受人は、免責的債務引受がなければこれらの権利の行使によって債務者がその債務を免れることができた限度において、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。

1項は、併存的と同じです。2項は、言い回しが少し違います。471条2項は、これらの権利の行使によって債務者がその債務を免れるべき限度。472条の2第2項は、免責的債務引受がなければ、これらの権利の行使によって債務者がその債務を免れることができた限度、です。免責的の場合、債務者は、すでに債務を免れて、契約関係から抜けています。だから、取消権や解除権を行使しても、免れる債務そのものが、もう残っていません。そこで、免責的債務引受がなければ、という仮定を置いて、言い表しているのです。中身は同じです。債務者が取消し、解除をすれば消えたはずの範囲で、引受人は、履行を拒める、ということです。設例なら、小売チェーンが、だまされて買っていたとしても、代金を払う債務は、もう小売チェーンにはありません。それでも、引受がなければ、取り消して払わずに済んだはずの範囲で、親会社は、払いを拒めます。前に、取消しの回で、保証人も、主たる債務者が取り消せば助かる範囲で、払いを拒める、と見ました。それと同じ型です。

債権譲渡(468条)と債務引受の対比。債権譲渡=債権者が替わり、債務者が、譲受人に、譲渡人に言えた反論を言う。債務引受=債務を負う側が替わり、引受人C(親会社)が、債権者A(卸会社)に、債務者B(小売チェーン)の反論を言う。反論を持ち越す点は同じ。違いは2つ。①持ち越す人=債権譲渡では債務者B、債務引受では引受人C。②基準の時=債権譲渡では対抗要件を備えた時、債務引受では引受の効力が生じた時。加えて、併存的債務引受を債務者Bと引受人Cの契約でした場合(470条3項・4項)は、引受けの契約から生じる反論もCはAに言える(第三者のためにする契約の仕組み)。

さきほど確認した、債権譲渡の468条と並べます。反論を持ち越す、という点は同じです。違いは2つです。1つは、持ち越す人です。債権譲渡では債務者、債務引受では引受人です。もう一方は、いつまでに生じた反論か、という基準の時です。債権譲渡では、対抗要件を備えた時。債務引受では、引受の効力が生じた時です。なお、併存的債務引受を、小売チェーンと親会社の契約でした場合、つまり470条3項・4項の形では、その引受けの契約から生じる反論も、親会社は卸会社に言えます。たとえば、小売チェーンが親会社に払うと約束した引受けの対価を払わないときの反論です。親会社が卸会社に負う債務は、小売チェーンとの引受けの契約から生まれたものです。だから、その契約から生じる反論も、一緒についてきます。第三者のためにする契約の仕組みです。

引受人の求償(472条の3)

免責的債務引受の求償。引受前=A卸会社→B小売チェーン 3000万円。免責的引受後=A→C親会社 3000万円。Cが3000万円をAに払っても、C→B(求償)は取得しない(472条の3)。理由=Cは自分の債務として引き受け、費用を最終的に自分が負担する意思だから。併存的=BとCは連帯→Cが弁済すれば求償の問題が出る(連帯債務の求償・別の回)。 図:免責的債務引受の求償

  • 引受前=A卸会社→B小売チェーン 3000万円
  • 免責的引受後=A→C親会社 3000万円
  • Cが3000万円をAに払っても、C→B(求償)は取得しない(472条の3)
  • 理由=Cは自分の債務として引き受け、費用を最終的に自分が負担する意思だから
  • 併存的=BとCは連帯→Cが弁済すれば求償の問題が出る(連帯債務の求償・別の回)

次に、求償です。求償とは、立て替えて払った分を、本来負担すべき人に請求することです。免責的債務引受の条文です。

条文民法472条の3

民法第472条の3 免責的債務引受の引受人は、債務者に対して求償権を取得しない。

免責的債務引受の引受人は、債務者に対して、求償権を取得しません。設例なら、親会社が、卸会社に3000万円を払っても、すでに免れた小売チェーンに、その分を請求できません。理由は、親会社が、自分の債務として引き受けたからです。免責的債務引受では、債務者は抜けています。もう、小売チェーンの債務ではありません。親会社の、自分の債務です。自分の債務を払うのだから、その費用は、最終的に、自分が負担する。それが、引き受けるということの意味です。併存的は、違います。小売チェーンと親会社は、連帯債務者です。どちらかが弁済すれば、求償の問題が、出てきます。この中身は、連帯債務の回で、扱います。

担保の移転(472条の4)

免責的債務引受と担保。引受前=A卸会社→B小売チェーン 3000万円。担保=B所有の倉庫にAの抵当権・保証人D(小売チェーンの社長)。引受後=A→C親会社 3000万円。元の債務(A→B)は消える→抵当権・保証は、当然には引受人Cの債務についてこない(付従性)。移すには、Aが、Cに対する意思表示で行う(あらかじめ又は同時に)。設定者(B)の承諾が要る。保証人Dの承諾は書面。併存的=元の債務が残るので担保もそのまま残る。 図:免責的債務引受と担保

  • 引受前=A卸会社→B小売チェーン 3000万円
  • 担保=B所有の倉庫にAの抵当権・保証人D(小売チェーンの社長)
  • 引受後=A→C親会社 3000万円
  • 元の債務(A→B)は消える→抵当権・保証は、当然には引受人Cの債務についてこない(付従性)
  • 移すには、Aが、Cに対する意思表示で行う(あらかじめ又は同時に)
  • 設定者(B)の承諾が要る
  • 保証人Dの承諾は書面
  • 併存的=元の債務が残るので担保もそのまま残る

最後に、担保です。設例に、担保を足します。卸会社の3000万円の債権には、小売チェーンが所有する倉庫に、抵当権が付いています。また、小売チェーンの社長が、保証人になっています。免責的債務引受をしたとき、これらは、どうなるでしょうか。前に見た、抵当権の付従性を、思い出してください。担保は、元の債務に付き従います。免責的債務引受では、元の、小売チェーンの債務は、消えます。だから、担保も、当然には、引受人の債務に付いてきません。そこで、条文は、担保を移す方法を用意しています。1項と2項です。

条文民法472条の4第1項・2項

民法第472条の4 債権者は、第四百七十二条第一項の規定により債務者が免れる債務の担保として設定された担保権を引受人が負担する債務に移すことができる。ただし、引受人以外の者がこれを設定した場合には、その承諾を得なければならない。 2 前項の規定による担保権の移転は、あらかじめ又は同時に引受人に対してする意思表示によってしなければならない。

債権者は、担保権を、引受人の債務に移せます。方法は、引受人に対する意思表示です。しかも、あらかじめ、または同時に、しなければなりません。元の債務が消えたあとでは、担保権も付従性で消えています。移す対象が、もう無いからです。ただし書は、引受人以外の者が設定した担保は、その承諾が必要、と言っています。理由は、自分の財産が、別の債務の担保になる、からです。設例なら、倉庫の抵当権です。倉庫は、小売チェーンの所有です。引受人は、親会社です。この抵当権を、親会社の債務の担保に移すには、小売チェーンの承諾が必要です。もし、親会社自身が設定した担保なら、承諾は要りません。保証人は、3項から5項です。

条文民法472条の4第3項〜5項

民法第472条の4 3 前二項の規定は、第四百七十二条第一項の規定により債務者が免れる債務の保証をした者があるときについて準用する。 4 前項の場合において、同項において準用する第一項の承諾は、書面でしなければ、その効力を生じない。 5 前項の承諾がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その承諾は、書面によってされたものとみなして、同項の規定を適用する。

保証人にも、同じように移せます。設例では、社長の保証を、親会社の債務の保証に移す場合です。社長は、引受人以外の者です。だから、社長の承諾が要ります。しかも、その承諾は、書面でしなければ、効力を生じません。これは、保証契約に書面を求めるのと同じ考え方です。電磁的記録でされたときは、書面とみなされます。保証契約そのものの書面の要件は、保証の回で、扱います。併存的では、元の債務が、残っています。小売チェーンの債務は消えません。だから、倉庫の抵当権も、社長の保証も、そのまま残ります。移す、という問題が、起きません。

冒頭の答えと、まとめ

冒頭の答え。親が子の借金を引き受けたとき=どちらにもできる。併存的債務引受=子(小売チェーン)も残る・親(親会社)と連帯の2人(470条)。免責的債務引受=子が抜ける・親だけが債務を負う(472条)。抜けるには債権者の関与が必要=債権者が債務者に通知するか、債権者が引受人に承諾する。 図:冒頭の答え

  • 親が子の借金を引き受けたとき=どちらにもできる
  • 併存的債務引受=子(小売チェーン)も残る・親(親会社)と連帯の2人(470条)
  • 免責的債務引受=子が抜ける・親だけが債務を負う(472条)
  • 抜けるには債権者の関与が必要=債権者が債務者に通知するか、債権者が引受人に承諾する

冒頭の答えです。親が子の借金を引き受けたとき、子が残る、併存的にも、子が抜ける、免責的にも、できます。2人になるのが、併存的。抜けるのが、免責的です。そして、抜けるためには、債権者の関与が要ります。債権者が債務者に通知するか、債権者が引受人に承諾するか、です。

まとめ。①併存的=引受人は債務者と連帯して同一内容の債務を負う(470条)。債権者×引受人の契約なら債務者の同意は不要。債務者×引受人の契約だけ、債権者の承諾が効力要件(第三者のためにする契約)。②免責的=債務者は免れる(472条)。債権者×引受人は債権者の通知が効力要件(債務者保護)。債務者×引受人は債権者の承諾が必要(債権者保護)。債権者×引受人の契約なら、債務者の意思に反しても可。③引受人の抗弁=効力発生時に債務者が主張できた抗弁を言える。取消し・解除は自分ではできず、履行を拒める限度(471条2項・472条の2第2項)。④免責的の引受人は求償権を取得しない(472条の3)。⑤免責的は担保が当然には移らない。引受人に対する意思表示で、あらかじめ又は同時に移す。引受人以外の設定者の承諾が要る。保証人の承諾は書面(472条の4)。 図:まとめ

  • ①併存的=引受人は債務者と連帯して同一内容の債務を負う(470条)
  • 債権者×引受人の契約なら債務者の同意は不要
  • 債務者×引受人の契約だけ、債権者の承諾が効力要件(第三者のためにする契約)
  • ②免責的=債務者は免れる(472条)
  • 債権者×引受人は債権者の通知が効力要件(債務者保護)
  • 債務者×引受人は債権者の承諾が必要(債権者保護)
  • 債権者×引受人の契約なら、債務者の意思に反しても可
  • ③引受人の抗弁=効力発生時に債務者が主張できた抗弁を言える
  • 取消し・解除は自分ではできず、履行を拒める限度(471条2項・472条の2第2項)
  • ④免責的の引受人は求償権を取得しない(472条の3)
  • ⑤免責的は担保が当然には移らない
  • 引受人に対する意思表示で、あらかじめ又は同時に移す
  • 引受人以外の設定者の承諾が要る
  • 保証人の承諾は書面(472条の4)

整理します。1つめ。併存的では、引受人が、債務者と連帯して、同じ内容の債務を負います。債権者と引受人の契約でするなら、債務者の同意は要りません。債務者と引受人の契約でする場合だけ、債権者の承諾が、効力要件になります。2つめ。免責的では、債務者が債務を免れます。債権者と引受人の契約なら、債権者の通知が効力要件で、債務者を守るためです。債務者と引受人の契約なら、債権者の承諾が要り、債権者を守るためです。債権者と引受人の契約でする場合は、債務者の意思に反しても、できます。3つめ。引受人は、効力が生じた時に債務者が主張できた抗弁を、債権者に言えます。ただし、取消しや解除は、自分ではできず、履行を拒める限度で、認められます。4つめ。免責的の引受人は、債務者に対して、求償権を取得しません。5つめ。免責的では、担保が当然には移りません。移すには、引受人に対する意思表示を、あらかじめ又は同時にして、引受人以外の設定者の承諾を得ます。保証人の承諾は、書面です。

担保が移るかどうかが問題になるのは、免責的のときだけ、ということですね。併存的では元の債務が残るので、担保もそのまま残ります。付け加えると、免責的債務引受の要件は、論文でも、理由づけとともに問われる可能性があります。債権者の関与が必須なのはなぜか、債務者の同意が要らないのはなぜか、を、説明できるようにしておいてください。

参照条文

  • 民法470条1項・2項
  • 民法470条3項・4項
  • 民法472条1項〜3項
  • 民法471条
  • 民法472条の2
  • 民法472条の3
  • 民法472条の4第1項・2項
  • 民法472条の4第3項〜5項

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