民法ゼロから民法#175

履行引受と契約上の地位の移転

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第4章 債権総論 #175/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

借りている部屋を、借主の立場ごと友人に引き継ぎたい

冒頭の問い。借主が、借りている部屋を、借主の立場ごと友人に引き継ぎたい。家賃を払う義務だけでなく、部屋に住む権利も、契約を解く権利も、全部まとめて渡すには何が要るか。 図:冒頭の問い

  • 借主が、借りている部屋を、借主の立場ごと友人に引き継ぎたい
  • 家賃を払う義務だけでなく、部屋に住む権利も、契約を解く権利も、全部まとめて渡すには何が要るか

今日は、前回、債務引受とは別物として名前だけ出した履行引受を、まず片づけます。そのあと、立場ごと他人に渡す、契約上の地位の移転を見ます。入口は、身近な話です。借りている部屋を、借主の立場ごと、友人に引き継ぎたい。この場合、何が要るのでしょうか。家賃を払う義務だけなら、友人が払えば済むかもしれません。けれど、立場ごと、です。部屋に住む権利も、契約を解く権利も、すべて友人に移したい。そのために、大家さんの了解は要るのか。それが、今日の問いです。先に答えを言うと、大家さんの了解が要ります。なぜ要るのか。そして、逆に大家さんの側が替わるときは、なぜ要らないのか。今日は、そこまで見ます。

履行引受:払う約束は債権者に届かない

履行引受の関係図。A卸会社(債権者)→B小売チェーン(債務者)の3000万円は残る。B→C親会社:「Bに代わってAへ払え」という債権(BとCの間の契約)。AとCの間に線なし=Aは引受人Cに請求できない。 図:履行引受の関係図

  • A卸会社(債権者)→B小売チェーン(債務者)の3000万円は残る
  • B→C親会社:「Bに代わってAへ払え」という債権(BとCの間の契約)
  • AとCの間に線なし=Aは引受人Cに請求できない

前回、履行引受を、こう紹介しました。引受人は、債務者に対して払う義務を負うだけで、債権者は引受人に請求できない。今日は、その理由と、帰結を見ます。設例は、同じです。卸会社が、小売チェーンに3000万円の代金債権を持っています。小売チェーンと親会社が、この3000万円は、親会社が代わりに払っておく、と約束しました。ただし、卸会社には何も言っていません。約束した人になら請求できる、と考えるのは、つまずきやすい誤りです。約束をしたのは、誰と誰ですか。小売チェーンと、親会社です。卸会社は、約束の場にいません。契約の当事者ではない人は、その契約から、権利を取得しません。だから、卸会社は、親会社に何も請求できないのです。この契約から生まれるのは、小売チェーンが親会社に対して持つ債権だけです。内容は、小売チェーンに代わって卸会社に払ってほしい、というものです。

卸会社は、親会社には請求できません。小売チェーンに請求するしかありません。小売チェーンの債務は、そのまま残っているからです。履行引受では、債務者は、何も免れていません。一方、小売チェーンは、親会社に対して、約束どおり払ってくれ、と言えます。払わなければ、債務不履行責任を問えます。つまり、親会社が責任を負う相手は、債権者ではなく、債務者です。ここで、債務引受との区別の物差しを出します。引受人が、債権者に対して債務を負うかどうか、です。負えば、債務引受です。前回見たとおり、債務者も残って払う人が2人になる併存的債務引受か、債務者が抜けて引受人に替わる免責的債務引受か、のどちらかです。負わなければ、履行引受です。

区別板。履行引受と債務引受の比較。引受人が債権者に対して債務を負うか=履行引受は負わない/債務引受は負う。債権者は引受人に請求できるか=履行引受はできない/債務引受はできる。債務者は免れるか=履行引受は免れない/併存的は免れない・免責的は免れる。引受人が責任を負う相手=履行引受は債務者/債務引受は債権者。 図:区別板

  • 履行引受と債務引受の比較
  • 引受人が債権者に対して債務を負うか=履行引受は負わない/債務引受は負う
  • 債権者は引受人に請求できるか=履行引受はできない/債務引受はできる
  • 債務者は免れるか=履行引受は免れない/併存的は免れない・免責的は免れる
  • 引受人が責任を負う相手=履行引受は債務者/債務引受は債権者

画面の表を見てください。縦に、引受人が債権者に対して債務を負うか、債権者は引受人に請求できるか、債務者は免れるか、を並べました。履行引受は、上の2つが、どちらも、いいえです。引受人と債務者が、同じ約束をしても、中身次第で、どちらにもなるんですか。なります。たとえば、小売チェーンと親会社が、親会社は卸会社に直接払う、と約束したとします。これは、債権者に権利を取得させる契約になります。前回見た、第三者のためにする契約です。契約の当事者でない人に、その契約から直接、権利を得させる契約のことです。卸会社が、その利益を受けます、と意思を示せば、卸会社は、親会社に直接請求できます。これは、併存的債務引受です。条文は、前回見た470条3項と4項でした。第三者のためにする契約の根拠は、537条です。逆に言えば、卸会社に何の意思表示も求めず、約束の相手が小売チェーンだけなら、履行引受です。短答では、履行引受では、債権者は引受人に直接請求できない、債務者の債務は消えない、の2点を押さえてください。なお、履行引受を、論文で問われる場面は、債務引受との区別を問う形です。

契約上の地位の移転とは

契約上の地位の移転とは。契約の当事者という立場そのものが、譲渡人から譲受人に丸ごと渡る(別名=契約引受)。債権譲渡=個別の債権が移る。免責的債務引受=個別の債務が移る。契約上の地位の移転=契約の当事者の名前が入れ替わる。2017年の民法改正で明文化(539条の2)。 図:契約上の地位の移転とは

  • 契約の当事者という立場そのものが、譲渡人から譲受人に丸ごと渡る(別名=契約引受)
  • 債権譲渡=個別の債権が移る
  • 免責的債務引受=個別の債務が移る
  • 契約上の地位の移転=契約の当事者の名前が入れ替わる
  • 2017年の民法改正で明文化(539条の2)

ここから、契約上の地位の移転です。ひと言で言えば、契約の当事者という立場そのものを、丸ごと、別の人に渡すことです。別名で、契約引受とも言います。2017年の民法改正で、条文になりました。動くものの大きさが違います。債権譲渡は、個別の債権が移ります。免責的債務引受は、個別の債務が移ります。契約上の地位の移転は、契約の当事者の名前が、入れ替わります。債権も、債務も、まとめて、です。

設例の関係図。前=A卸会社⇄B小売チェーン(継続的な売買契約。Bは買主)。後=A卸会社⇄C親会社(Bの買主たる地位がCに移る。Bは契約関係から離れる)。 図:設例の関係図

  • 前=A卸会社⇄B小売チェーン(継続的な売買契約。Bは買主)
  • 後=A卸会社⇄C親会社(Bの買主たる地位がCに移る。Bは契約関係から離れる)

設例を作ります。卸会社と小売チェーンは、継続的な売買契約を結んでいます。小売チェーンが買主です。この、買主としての地位を、小売チェーンが、親会社に移します。移ったあとは、卸会社の相手は、親会社です。小売チェーンは、契約から抜けます。免責的債務引受と、似ています。ただし、免責的債務引受で移るのは、代金を払う債務だけです。契約上の地位の移転では、商品を受け取る債権も移ります。さらに、重要な違いがあります。取消権や解除権まで、一緒に移ります。前回見たとおり、債務引受の引受人は、契約の当事者ではありません。だから、取消しも解除も、自分ではできません。債務者が取り消せる、解除できる、という間は、払うのを拒める、にとどまります。一方、契約上の地位の移転では、譲受人は、契約の当事者そのものになります。当事者の地位に付いてくる権利は、すべて移ります。設例なら、卸会社が納品を怠ったとき、買主が持つ契約の解除権は、親会社に移ります。親会社が自分で解除できます。

ここは、対比で覚えてください。債権譲渡も、債務引受も、取消権、解除権は移りません。前に見た、債権譲渡のときの解除の話は、債務者側の反論で、譲受人が自分で解除できるかとは別です。契約上の地位の移転だけ、移ります。

要件と、なぜ相手方の承諾が要るのか

契約上の地位の移転の要件。ルート①=契約の両当事者と譲受人の三者合意。ルート②=契約の一方当事者(譲渡人)と譲受人の合意+契約の相手方の承諾。設例=B小売チェーンとC親会社だけの合意では足りない。A卸会社が承諾する。または、A・B・Cの三者で合意する。 図:契約上の地位の移転の要件

  • ルート①=契約の両当事者と譲受人の三者合意
  • ルート②=契約の一方当事者(譲渡人)と譲受人の合意+契約の相手方の承諾
  • 設例=B小売チェーンとC親会社だけの合意では足りない
  • A卸会社が承諾する
  • または、A・B・Cの三者で合意する

要件です。条文を見ます。

条文民法539条の2

民法第539条の2 契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する。

契約の当事者の一方が、第三者と、地位を譲渡する旨を合意します。そのうえで、契約の相手方が、その譲渡を承諾したとき、地位が移転します。設例なら、小売チェーンと親会社が、地位を譲渡する、と合意します。そして、卸会社が承諾する。これで、親会社が、買主になります。条文の書き方は、一方当事者と第三者の合意に、相手方の承諾が足される形です。もう1つのルートが、契約の当事者全員と第三者の、三者合意です。この場合は、相手方も合意の当事者なので、改めて承諾は要りません。どちらにせよ、相手方の関与が必要です。債権譲渡では要らなかったのに、地位の移転ではなぜ要るのか。大事な問いです。債権譲渡では、債権者が替わるだけでした。債務者の払う額も、払う中身も、変わりません。だから、譲渡そのものに、債務者の同意は要らないのです。対抗要件の回で見た、通知か承諾は、譲受人が債務者に主張するための条件で、別の話です。ところが、契約上の地位の中には、債務が入っています。小売チェーンが買主として負っていた代金の債務を、親会社が負うことになります。卸会社から見ると、代金を払う人が、替わるのです。

承諾が要る理由の対比。債権譲渡=債権者が替わる→債務者の払う額・中身は変わらない→債務者の同意は不要(対抗要件の通知・承諾とは別)。契約上の地位の移転=地位に債務が含まれる→相手方から見ると払う人(債務者)が替わる→免責的債務引受と同じ利害→承諾が必要。免責的債務引受の例=債権者×引受人の契約は通知が効力要件、債務者×引受人の契約は債権者の承諾が必要(472条)。 図:承諾が要る理由の対比

  • 債権譲渡=債権者が替わる→債務者の払う額・中身は変わらない→債務者の同意は不要(対抗要件の通知・承諾とは別)
  • 契約上の地位の移転=地位に債務が含まれる→相手方から見ると払う人(債務者)が替わる→免責的債務引受と同じ利害→承諾が必要
  • 免責的債務引受の例=債権者×引受人の契約は通知が効力要件、債務者×引受人の契約は債権者の承諾が必要(472条)

前回、免責的債務引受では、債務者と引受人の契約だけでは足りず、債権者の承諾が要る、と見ました。債権者にとって、払う人が替わるのは、大問題だからです。小売チェーンなら払えるが、親会社は払えない、ということもあり得ます。契約上の地位の移転も、同じです。相手方から見れば、債務者が替わる話が含まれています。だから、承諾が要ります。理由をひと言で言うと、地位に債務が含まれていて、相手方の立場が、大きく変わるからです。なお、論文では、この理由づけまで書けるように、しておいてください。承諾が要る、とだけ書いても、理由が足りません。

例外:賃貸人たる地位は、賃借人の承諾が要らない

賃貸人たる地位の移転。D家主がビルをE買主に譲渡→賃貸人たる地位がDからEに移る。賃借人B小売チェーン(店舗を借りている)の承諾は不要。向きの注意=承諾が不要なのは賃貸人側の地位。借主側の地位を渡すときは、賃貸人の承諾が必要。 図:賃貸人たる地位の移転

  • D家主がビルをE買主に譲渡→賃貸人たる地位がDからEに移る
  • 賃借人B小売チェーン(店舗を借りている)の承諾は不要
  • 向きの注意=承諾が不要なのは賃貸人側の地位
  • 借主側の地位を渡すときは、賃貸人の承諾が必要

契約上の地位の移転は、相手方の承諾が要る。これが原則です。ところが、大事な例外が1つあります。賃貸不動産が譲渡されたときの、賃貸人たる地位の移転です。設例を少し足します。小売チェーンは、店舗用のビルを、家主から借りています。その家主が、ビルを、別の人に売りました。賃貸人、つまり貸す側の地位は、新しい所有者に移ります。このとき、借りている小売チェーンの承諾は要りません。地位が移るのに、小売チェーンの承諾が要らないんですか。さっきの理由と、矛盾しませんか。矛盾しません。さっきの理由は、相手方から見て、債務を負う人が替わり、不利益になることでした。賃貸人の主な債務は、借主に、使わせることです。これは、誰が貸す側になっても、内容が変わりません。借りている人の立場が、ほとんど変わらないのです。だから、承諾を求める必要がありません。条文は2つあります。1つ目は、605条の2の第1項です。賃貸借の対抗要件を備えている場合に、不動産が譲渡されたときは、賃貸人たる地位が、当然に、譲受人に移転します。2つ目は、605条の3です。譲渡する人と譲り受ける人の合意で、移転させることができる、という規定です。

条文民法605条の3

民法第605条の3 不動産の譲渡人が賃貸人であるときは、その賃貸人たる地位は、賃借人の承諾を要しないで、譲渡人と譲受人との合意により、譲受人に移転させることができる。この場合においては、前条第三項及び第四項の規定を準用する。

どちらも、承諾は不要という結論です。当然に移る場合と、合意で移す場合で、役割が分かれています。詳しい要件は、賃貸借の本体で扱います。ここでは、賃貸人側の地位の移転は、承諾不要、と覚えてください。冒頭の、借主の立場を友人に渡す話は、どっちですか。借主側です。賃貸人側ではありません。向きが逆です。借主が、借りる権利を他人に譲るときは、貸す側の承諾が必要です。条文は、612条です。地上権と賃借権を比べた回や、借地の上の建物に抵当権がつく回でも見た条文です。理由は、さっきの物差しのままです。借主の債務は、家賃を払うことと、借りた物を大切に使うことです。誰が借りるかで、家賃がきちんと払われるか、物がどう扱われるかが、大きく変わります。貸す側から見ると、債務を負う人が替わり、不利益になりうる。だから、承諾が要ります。向きを取り違えないでください。賃貸人側は承諾不要、賃借人側は承諾が要る、です。

債権・債務の移転5類型を1枚で

比較表の問題。縦=債権譲渡/併存的債務引受/免責的債務引受/履行引受/契約上の地位の移転。横=何が移る・どうなる/誰の合意・承諾が要るか/取消権・解除権。各セルは空欄。 図:比較表の問題

  • 縦=債権譲渡/併存的債務引受/免責的債務引受/履行引受/契約上の地位の移転
  • 横=何が移る・どうなる/誰の合意・承諾が要るか/取消権・解除権
  • 各セルは空欄

ここで、ブロックの締めとして、1枚の表にまとめます。縦に、債権譲渡、併存的債務引受、免責的債務引受、履行引受、契約上の地位の移転を、並べました。横は、何が移るか、誰の関与が要るか、取消権と解除権はどうなるか、です。これまでの回を思い出して、頭の中で埋めてみてください。まず、債権譲渡は、何が替わりますか?債権者が替わります。債権だけです。債務者の同意は要りません。取消権、解除権は、移りません。次に、併存的債務引受です。免責的債務引受は、どうでしょう。残りの2つ。履行引受は、どうですか。最後に、契約上の地位の移転です。

比較表の答え。債権譲渡(467条等)=債権者が替わる(債権だけ)/譲渡人と譲受人の合意(債務者の同意は不要・対抗要件の通知・承諾とは別)/取消権・解除権は移らない。併存的債務引受(470条)=債務者が1人増える(連帯)/債権者と引受人の契約、または債務者と引受人の契約(債権者の承諾で効力)/引受人は自分では行使できず履行拒絶のみ。免責的債務引受(472条)=債務者が替わる(元の債務者は免れる)/債権者と引受人の契約(債務者への通知で効力)、または債務者と引受人の契約+債権者の承諾/同じく履行拒絶のみ。履行引受=何も替わらない(債務者と引受人の内部約束)/債務者と引受人のみ(債権者は関与せず権利も取得しない)/該当しない。契約上の地位の移転(539条の2)=契約の当事者が丸ごと替わる(債権・債務)/三者合意、または譲渡人と譲受人の合意+相手方の承諾/移る。 図:比較表の答え

  • 債権譲渡(467条等)=債権者が替わる(債権だけ)/譲渡人と譲受人の合意(債務者の同意は不要・対抗要件の通知・承諾とは別)/取消権・解除権は移らない
  • 併存的債務引受(470条)=債務者が1人増える(連帯)/債権者と引受人の契約、または債務者と引受人の契約(債権者の承諾で効力)/引受人は自分では行使できず履行拒絶のみ
  • 免責的債務引受(472条)=債務者が替わる(元の債務者は免れる)/債権者と引受人の契約(債務者への通知で効力)、または債務者と引受人の契約+債権者の承諾/同じく履行拒絶のみ
  • 履行引受=何も替わらない(債務者と引受人の内部約束)/債務者と引受人のみ(債権者は関与せず権利も取得しない)/該当しない
  • 契約上の地位の移転(539条の2)=契約の当事者が丸ごと替わる(債権・債務)/三者合意、または譲渡人と譲受人の合意+相手方の承諾/移る

表が埋まりました。使い方を2つ言います。1つ目は、債権者は引受人に請求できるか、という軸です。できないのは、履行引受だけです。2つ目は、取消権、解除権が移るか、という軸です。移るのは、契約上の地位の移転だけです。この2つの軸で見れば、5つは区別できます。なぜ、この2つの軸で分かれるのか。どちらも、誰と誰が約束したかで決まるからです。履行引受では、卸会社は、小売チェーンと親会社の約束の外にいます。だから、親会社に請求できません。契約上の地位の移転では、親会社が、買主そのもの、つまり契約の当事者になります。だから、当事者に付いてくる取消権や解除権まで、移るのです。真ん中の列、誰の関与が要るか、も同じ物差しで読めます。関与が要るのは、その動きで、新しく権利を得る立場か、払ってもらえなくなるおそれを負う立場です。免責的債務引受と契約上の地位の移転では、払う人が替わるので、払ってもらう側の承諾が要ります。免責的で、債権者と引受人が契約するときは、免れるだけの債務者は不利益を受けないので、知らせる通知で足ります。併存的で、債務者と引受人が契約するときに債権者の承諾が要るのは、債権者が、引受人に対する権利を新しく得るからです。第三者のためにする契約と同じ形です。反対に、債権譲渡は払う中身が変わらないので、債務者の同意は要りません。履行引受では、債権者は何も得ず、何も失わないので、関与しません。

有価証券の4類型

有価証券の4類型(民法第三編第一章第七節・520条の2〜520条の20)。①指図証券(520条の2〜520条の12)=譲渡は、譲渡の裏書をして譲受人に交付しなければ効力を生じない。②記名式所持人払証券(520条の13〜520条の18)=債権者を指名する記載があり、所持人に弁済すべき旨が付記された証券。譲渡は証券の交付だけで効力を生ずる。③その他の記名証券(520条の19)=債権者を指名する記載がある証券で①②以外のもの。債権譲渡の方式に従い、その効力をもってのみ譲渡できる。④無記名証券(520条の20)=記名式所持人払証券の規定を準用する。 図:有価証券の4類型

  • 民法第三編第一章第七節・520条の2〜520条の20
  • ①指図証券(520条の2〜520条の12)=譲渡は、譲渡の裏書をして譲受人に交付しなければ効力を生じない。②記名式所持人払証券(520条の13〜520条の18)=債権者を指名する記載があり、所持人に弁済すべき旨が付記された証券。譲渡は証券の交付だけで効力を生ずる。③その他の記名証券(520条の19)=債権者を指名する記載がある証券で①②以外のもの。債権譲渡の方式に従い、その効力をもってのみ譲渡できる。④無記名証券(520条の20)=記名式所持人払証券の規定を準用する。

最後に、有価証券です。ここまでは、債権や契約上の地位を、合意と、通知や承諾で移す話でした。有価証券は、債権を紙、つまり証券に結びつけて、その紙を渡すことで、債権を移しやすくした仕組みです。民法には、有価証券の節があり、4つの類型が定められています。詳しい扱いは、手形法や小切手法の領域なので、ここでは、短答で名前を見たときに迷わない程度に押さえます。画面の表です。1つ目は、指図証券です。証券に書かれた人、または、その人が指図した人、つまり、つぎの権利者として指定した人に払う、という証券です。次の人を指定する方法が、裏書です。証券に、次の権利者に譲る旨を書いて、署名することです。譲渡の方式は、条文を見ます。

条文民法520条の2

民法第520条の2 指図証券の譲渡は、その証券に譲渡の裏書をして譲受人に交付しなければ、その効力を生じない。

譲渡の裏書をして、譲受人に交付する。この2つがそろわなければ、効力が生じません。2つ目は、記名式所持人払証券です。債権者を指名する記載があり、さらに、その所持人に弁済すべき旨が付記された証券のことです。名前は書いてありますが、持っている人に払う、という性格もある、ということです。たとえば、卸会社様、ただし、この券をお持ちの方にお支払いします、と書かれた券です。払う相手を、名前ではなく、持っている人で決めると書いてあるので、名前は、払う相手を絞りません。だから、譲渡は、証券の交付だけで、効力が生じます。

裏書は要らないんですか。要りません。交付だけです。ここが、指図証券との違いです。3つ目は、その他の記名証券です。債権者を指名する記載がある証券で、ほかの2つにあたらないものです。譲渡は、債権譲渡の方式に従って、その効力をもってのみ、できます。つまり、合意で譲り、対抗要件の回で見た、通知か承諾で、債務者に主張する、というやり方です。4つ目は、無記名証券です。記名式所持人払証券の規定が、準用されます。つまり、譲渡は交付だけで足ります。短答で迷わない軸は、譲渡の方式です。方式は、証券が誰を権利者として書いているかで決まります。次の人を指図する証券だから、裏書で次の人を指定します。持っている人に払う証券だから、渡すだけで足ります。たとえば、名前の書かれていない商品券が、無記名証券の典型です。名前だけが書かれた証券は、普通の債権と同じだから、債権譲渡の方式です。指図証券は、裏書と交付。記名式所持人払証券と無記名証券は、交付。その他の記名証券は、債権譲渡の方式です。なお、指図証券と記名式所持人払証券には、善意取得と、抗弁の制限の定めもあります。善意取得は、権利の無い人から、事情を知らず、大きな落ち度も無く証券を受け取った人が、権利を得る仕組みです。動産の即時取得の、証券版です。抗弁の制限は、債務者が前の持ち主に言えた反論を、事情を知らない新しい持ち主には言えなくなる仕組みです。前々回、債権譲渡では、譲渡人に言えた反論を譲受人にも言える、という468条を見ました。証券では、そこが逆になります。短答では、この2つの名前と意味を知っていれば足ります。

冒頭の答えと、まとめ

冒頭の答え。借主の立場を友人に引き継ぐ=契約上の地位の移転(539条の2)=契約の相手方(大家)の承諾が要る。地位に債務が含まれ、相手方から見ると払う人が替わるから。家主側の地位(賃貸人たる地位)の移転は例外で、賃借人の承諾は不要(605条の2第1項・605条の3)。履行引受は立場を渡すのではなく、払う約束をしただけ。 図:冒頭の答え

  • 借主の立場を友人に引き継ぐ=契約上の地位の移転(539条の2)=契約の相手方(大家)の承諾が要る
  • 地位に債務が含まれ、相手方から見ると払う人が替わるから
  • 家主側の地位(賃貸人たる地位)の移転は例外で、賃借人の承諾は不要(605条の2第1項・605条の3)
  • 履行引受は立場を渡すのではなく、払う約束をしただけ

冒頭の答えです。借主の立場を、友人に引き継ぐのは、契約上の地位の移転です。契約の相手方、つまり大家さんの承諾が要ります。地位の中に、家賃を払う債務が含まれていて、大家さんから見ると、払う人が替わるからです。逆に、家主の側の立場が替わるときは、例外で、借主の承諾は要りません。

まとめ。①履行引受=引受人と債務者の約束だけ。債権者は権利を取得せず、引受人に請求できない。引受人が払わなければ、債務者が引受人に債務不履行責任を問う。債務者の債務は残る。区別の物差し=引受人が債権者に対して債務を負うか。②契約上の地位の移転(539条の2)=契約当事者の地位が丸ごと移る。債権・債務に加え、取消権・解除権も移る。要件=三者合意、または譲渡人と譲受人の合意+相手方の承諾。承諾が要る理由=地位に債務が含まれ、相手方から見て債務者が替わるから。③例外=賃貸人たる地位の移転は賃借人の承諾不要(605条の2第1項・605条の3)。借主側の地位は賃貸人の承諾が要る。④5類型の比較。⑤有価証券=指図証券(裏書+交付)・記名式所持人払証券(交付)・その他の記名証券(債権譲渡の方式)・無記名証券(交付)。 図:まとめ

  • ①履行引受=引受人と債務者の約束だけ
  • 債権者は権利を取得せず、引受人に請求できない
  • 引受人が払わなければ、債務者が引受人に債務不履行責任を問う
  • 債務者の債務は残る
  • 区別の物差し=引受人が債権者に対して債務を負うか
  • ②契約上の地位の移転(539条の2)=契約当事者の地位が丸ごと移る
  • 債権・債務に加え、取消権・解除権も移る
  • 要件=三者合意、または譲渡人と譲受人の合意+相手方の承諾
  • 承諾が要る理由=地位に債務が含まれ、相手方から見て債務者が替わるから
  • ③例外=賃貸人たる地位の移転は賃借人の承諾不要(605条の2第1項・605条の3)
  • 借主側の地位は賃貸人の承諾が要る
  • ④5類型の比較
  • ⑤有価証券=指図証券(裏書+交付)・記名式所持人払証券(交付)・その他の記名証券(債権譲渡の方式)・無記名証券(交付)

整理します。1つめ。履行引受は、引受人と債務者の約束だけです。債権者は何の権利も得ず、引受人に請求できません。引受人が払わなければ、債務者が引受人に、債務不履行責任を問います。債務者の債務は残ります。区別の物差しは、引受人が債権者に対して債務を負うか、です。2つめ。契約上の地位の移転は、契約当事者の地位が丸ごと移ります。債権と債務に加えて、取消権や解除権も移ります。要件は、三者合意、または、譲渡人と譲受人の合意に、相手方の承諾を足すことです。承諾が要る理由は、地位に債務が含まれ、相手方から見て債務者が替わるからです。3つめ。賃貸人たる地位の移転は、例外で、賃借人の承諾が要りません。借主側の地位を渡すときは、貸主の承諾が要ります。4つめ。債権・債務の移転は、5類型の表で再現できるようにしておいてください。最後に、有価証券は、譲渡の方式で4類型を見分けます。

履行引受は、立場を渡しているのではなくて、払う約束をしているだけ、なんですね。債権者が替わるのが債権譲渡、債務者の側が替わる、または増えるのが債務引受、立場ごと替わるのが契約上の地位の移転です。履行引受は、誰も替わりません。ここで、債権譲渡から続いたブロックが、一区切りです。契約上の地位の移転は、論文でも、承諾の理由づけとともに、論点になりうる分野です。

参照条文

  • 民法539条の2
  • 民法605条の3
  • 民法520条の2

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