第三者による弁済
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第4章 債権総論 #177/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
大家が払わない地代を、借家人が払えるか
図:冒頭の関係図
- 借家人Bが住む家の大家Aは、土地の持ち主Cに地代を払っていない
- Cは「払わなければ土地の賃貸借を解除する」と言っている
- 解除されれば、Bも建物から退去することになりうる
- 問い=借家人Bは、大家Aの代わりに、地主Cへ地代を払えるのか
前回は、弁済の中身と弁済の提供を見ました。今日は、その弁済を誰がしてよいのか、という話です。入口は身近な場面です。あなたは一軒家を借りて住んでいます。ところが大家さんが、その土地の持ち主である地主さんに地代を払っていません。地主さんは、払われなければ大家さんとの土地の賃貸借を解除する、と言っています。解除されれば家は建っていられず、あなたも建物から出ていくことになりかねません。大家さんの借金を、あなたが払ってよいのか。しかも大家さんが、余計なことをするな、と言っていたら、どうなるのか。問いを2つに分けます。1つめは、そもそも他人の債務を第三者が払ってよいのか。2つめは、払ってはいけない場面があるのか。先に答えを言うと、あなたは払えます。大家さんが嫌がっていても、地主さんが断っても、です。なぜそう言えるのかを、条文と判例でたどります。
原則:第三者も弁済できる

- 474条1項=債務の弁済は、第三者もすることができる
- 原則=第三者弁済は有効
- 理由=債権の目的は給付の実現
- 誰が払っても、債権者の満足は同じ
- 第三者=債務者本人・代理人以外の者(保証人や連帯債務者は自分の債務として払うので、第三者ではない)
条文民法474条1項
民法第474条 債務の弁済は、第三者もすることができる。
原則は、1項です。第三者も、弁済できます。債権者が欲しいのは、約束の中身が実現されることです。代金債権なら、代金が入ること。誰の財布から出たお金でも、満足は変わりません。だから、債権者は、第三者の弁済を、原則として、拒めません。拒めば、受領遅滞になりうる、というのが、これまでの理屈です。
図:原則の関係図
- A卸会社(債権者)→B小売チェーン(債務者)に3000万円の代金債権
- B→Aの弁済は通常の道
- そこへC親会社が横から、Bの債務をAに弁済する
- この弁済も原則として有効=債権は消える
設例です。卸会社が、小売チェーンに、3000万円の代金債権を持っています。そこへ、小売チェーンの親会社が、横から、その3000万円を、卸会社に払いました。原則として、この弁済は有効で、債権は消えます。前々回に見た履行引受も、同じです。小売チェーンと親会社が、親会社が代わりに払う、と約束していたとき、親会社が、実際に卸会社へ払う根拠は、この474条です。「第三者」というのは、債務者以外の人、ということですか。少し絞ります。債務者本人や、その代理人は、第三者ではありません。そして、自分も債務を負っている人が、自分の債務として払う場合も、第三者弁済ではありません。たとえば、保証人は、自分の保証債務として払います。ここでいう第三者は、他人の債務を、他人の債務として、払う人です。
例外その1:債務者の意思に反する弁済

- 474条2項=弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない
- ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない
- 本文=正当な利益なし+債務者の意思に反する→無効
- ただし書=債権者が知らなければ有効
次に、例外です。1つめの例外は、2項です。
条文民法474条2項
民法第474条 2 弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない。
本文の効果です。債務者の意思に反して弁済しても、有効な弁済にならず、債権者は、受け取りを拒めます。理由は2つあります。1つめは、債務者の意思の尊重です。他人に、恩を着せられたくない、貸しを作りたくない、という債務者の気持ちを、法律は守ります。2つめは、債務者の保護です。弁済した第三者は、あとから債務者に、立て替えた分を請求できます。債務者が望んでいないのにこの請求を押しつけられては、債務者は困ります。
図:2項の設例
- 小売チェーン(債務者)は、卸会社に「来月に自分で払う」と決めていた
- ところが、小売チェーンの友人が、小売チェーンの意思に反して、3000万円を卸会社に払った
- 原則→無効
- ただし、卸会社が、小売チェーンの意思に反することを知らなかった→有効
ただし書です。債務者の意思に反することを、債権者が知らなかったときは、有効です。設例で見ます。小売チェーンは、来月、自分で払うつもりでした。ところが、小売チェーンの友人が、小売チェーンに頼まれた、と嘘をついて、卸会社に払いました。卸会社は、それが小売チェーンの意思に反するとは、知りませんでした。この場合、弁済は、有効です。債権者の立場に立ってみてください。債務者が、本当は嫌がっているかどうかは、外からは、分かりません。知らずに受け取ったのに、あとで、あれは債務者の意思に反していたから無効だ、と言われて、返還を迫られたら、たまりません。そこで、知らなかった債権者は、保護されます。なお、このただし書は、2017年の改正で入りました。改正前は、債務者の意思に反する弁済は、債権者が知っていたかどうかを問わず、無効でした。善意の債権者は、いつ返還を求められるか分からない状態だったので、改正で、手当てされたのです。大事な点を1つ。この例外は、正当な利益を有する者でない第三者にだけ、働きます。正当な利益のある者は、債務者の意思に反しても、有効に弁済できます。では、正当な利益とは、誰のことか。ここが、今日の山場です。
正当な利益とは:法律上の利害関係

- 正当な利益=弁済をすることについて法律上の利害関係を有すること
- 物差し=払わないと、自分が法律上の不利益(財産や地位を失う)を受けるか
- ある=物上保証人・担保不動産の第三取得者・後順位抵当権者・借地上の建物の賃借人
- ない(事実上の利害関係にとどまる)=親族・友人・恋人・保証も担保もない親会社
判例の言葉から、確認します。
判例最判昭39・4・21 民集18巻4号566頁
正当な利益とは 民法第四七四条第二項にいう「利害ノ関係」を有する者とは、物上保証人、担保不動産の第三取得者などのように弁済をすることに法律上の利害関係を有する第三者をいうものと解するのが相当であり、
判決が引いているのは、改正前の条文の言葉で、利害の関係、です。現在の条文の、正当な利益のことだと、読み替えて構いません。この判決は、法律上の利害関係を有する第三者をいう、と言いました。例として、物上保証人と、担保不動産の第三取得者が挙がっています。事案は、ある会社が、別の会社の債務を代わりに弁済した、というものです。その会社には、法律上直接の利害関係を有した事実は認められない、と判断されました。物上保証人は、他人の債務のために、自分の不動産に、抵当権を設定した人でした。債務は負わず、差し出した不動産の限度で責任を負います。第三取得者は、抵当権の付いた不動産を買った人です。どちらも、債務者が払わなければ、抵当権が実行され、自分の不動産を失います。だから、代わりに払って、抵当権を消したい。この立場が、法律上の利害関係です。後順位抵当権者も入ります。同じ不動産に、抵当権が複数ある場合、先順位の債権が消えれば、後順位の順位が上がるからです。判決が挙げた例ではありませんが、同じ理屈で入ります。
物差しを、1本出します。払わないと、自分が、法律上の不利益を受けるか、です。財産を失うか、地位を失うか。感情の強さや、経済的な結びつきの深さは、物差しではありません。たとえば、火事の場面です。隣の家が燃えています。放っておくと、自分の家に燃え移る人は、水をかけます。気の毒に思って見ている友人は、水をかけても、それは善意の応援です。法律上の不利益を受けるのは、前者だけです。なぜ、ここで線を引くのか。財産や地位が懸かっている人を、債務者の気持ちだけで止めれば、その人は、黙って財産や地位を失うしかありません。法律上の不利益は、恩を着せられたくない、という気持ちより重い。だから、例外を向けないのです。ない人の例です。債務者の親族、友人、恋人は、どんなに親しくても、事実上の利害関係にとどまり、正当な利益はありません。親会社も、同じ整理になります。小売チェーンが倒れたら、取引が減る。企業グループの信用に傷がつく。それらは、経済的な関係です。保証もしていない、担保も出していない親会社は、法律上の利害関係のない者と、同じ扱いです。
親会社を正当な利益のない第三者だとした判例が、あるわけではありません。いま言ったのは、判例の基準への、あてはめです。保証、担保の提供、債務引受など、債権者に対して、法律上の義務や責任を負っているなら、話は変わります。その法律関係が、利害関係を基礎づけます。親会社であるというだけでは、事実上の利害関係にとどまる、という線です。
図:冒頭の答えにつながる判例
- 借地上の建物の賃借人Bは、地主Cへの地代の弁済について、法律上の利害関係を有する
- 理由=土地賃借権が消滅すると、Bは建物から退去して土地を明け渡す義務を負う→地代を払って賃借権の消滅を防ぐ法律上の利益がある
そして、冒頭の借家人です。判例が、そのものずばり、判断しています。
判例最判昭63・7・1 集民154号245頁
借地上の建物の賃借人と地代の弁済 借地上の建物の賃借人はその敷地の地代の弁済について法律上の利害関係を有すると解するのが相当である。けだし、建物賃借人と土地賃貸人との間には直接の契約関係はないが、土地賃借権が消滅するときは、建物賃借人は土地賃貸人に対して、賃借建物から退去して土地を明け渡すべき義務を負う法律関係にあり、建物賃借人は、敷地の地代を弁済し、敷地の賃借権が消滅することを防止することに法律上の利益を有するものと解されるからである。
結論は、借地上の建物の賃借人は敷地の地代の弁済について法律上の利害関係を有する、です。大切なのは理由です。借家人と地主の間に、直接の契約はありません。ただ、土地の賃借権がなくなれば、借家人は地主に対して、建物から出て土地を明け渡す義務を負います。つまり地代が払われずに賃借権が消えれば、自分が地位を失う。だから地代を払って賃借権の消滅を防ぐことに、法律上の利益がある、と言っています。ここで、2つの判例を、取り違えないでください。正当な利益とは法律上の利害関係だ、と定義したのが、先の判例です。借地上の建物の賃借人は、それに当たる、と個別に判断したのが、いまの判例です。ですから、冒頭の借家人は、正当な利益のある人です。大家さんが嫌がっていても、払えます。自分の地位を守るために払う人には、例外を向けない。今日の軸の、いちばん大事なところです。
例外その2:債権者の意思に反する弁済

- 474条3項=前項に規定する第三者(=正当な利益を有しない第三者)は、債権者の意思に反して弁済をすることができない
- ただし、その第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知っていたときは、この限りでない
- 本文=債権者は受領を拒める
- ただし書=債務者の委託+債権者が知っていた→有効(拒めない)
- 2017年の改正で新設
2つめの例外は、3項です。
条文民法474条3項
民法第474条 3 前項に規定する第三者は、債権者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、その第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知っていたときは、この限りでない。
前項に規定する第三者とは、正当な利益を有する者でない第三者です。この第三者は、債権者の意思に反して、弁済できません。つまり、債権者は、受け取りを拒めます。この3項は、2017年の改正で、新しく設けられました。債権者の立場で見ます。見知らぬ第三者が、お金を持ってきました。債務者が頼んだのか、嫌がっているのか、債権者には、分かりません。受け取ったあとで、債務者の意思に反していた、と言われると、先ほどの2項で、弁済が無効になり、お金を返すことになりかねません。2項のただし書で守られるのは、知らなかったときだけです。知っていたかどうかは、あとで争いになりえます。受け取るその場では、債権者は、白黒をつけられません。そこで、3項は、債権者に、拒む権利を与えました。無用なリスクを避けられるようにしたのです。ただし書です。第三者が、債務者の委託を受けて弁済する場合で、そのことを、債権者が知っていたときは、有効です。債務者が頼んだことが明らかで、それを債権者も知っているなら、拒む理由がないからです。
図:3項の設例
- 履行引受
- 親会社Cは、小売チェーンBとの間で「Bに代わってAへ払う」と約束している(Bの委託を受けた第三者)。卸会社Aが、それを知っている→Cの弁済は有効、Aは拒めない。卸会社Aが、知らない→3項本文によりAは拒める(Aが受け取れば有効)。ただし親会社は、保証も担保もなく、正当な利益を有しない第三者とする。
設例です。前々回の履行引受を使います。親会社は小売チェーンとの間で、小売チェーンに代わって卸会社へ払う、と約束しています。この約束は小売チェーンとの間のもので、卸会社に対して払う義務を負うものではありません。親会社は保証も担保もなく、正当な利益のない第三者です。この約束が、債務者の委託にあたります。卸会社がその事情を知っていたら、親会社の弁済は有効で、卸会社は拒めません。反対に卸会社が知らなかったら、3項の本文によって受け取りを拒めます。ただし、拒まずに受け取れば有効です。正当な利益のある人の弁済は、債権者は、拒めるんですか。拒めません。1項の原則どおりで、拒めば、受領遅滞です。債権者の拒絶権は、正当な利益のない第三者にだけ、あります。ここは、板で、判断の順番にして整理します。
判定のまとめ表
図:第三者弁済の判定順
- 入口=4項に当たる(性質・特約)→そもそも不可
- 当たらなければ3段
- ①正当な利益あり→有効(債務者・債権者の意思に反しても。債権者は拒めない)②正当な利益なし→(ア)債務者の意思に反する?→反する=無効(ただし債権者が知らなければ有効)/(イ)債権者の意思に反する(拒む)?→拒む=無効(ただし債務者の委託を債権者が知っていれば有効)
入口で、4項に当たらないか、つまり、そもそも第三者が払えない債務ではないかを確かめます。そのうえで、判断の順番は、3段です。まず、正当な利益があるか。あれば、債務者や債権者の意思に反しても、有効です。なければ、次に、債務者の意思に反するか。反するなら、無効です。ただし、債権者が知らなければ、有効です。さらに、債権者が、拒むか。拒むなら、無効です。ただし、債務者の委託を、債権者が知っていれば、有効です。2項と3項は、独立しています。問いです。小売チェーンの友人が、小売チェーンの意思に反して、卸会社に払いました。卸会社は、そのことを知らずに受け取りました。この弁済は、有効でしょうか?
債権者が、債務者の意思に反することを知らなかったので、2項のただし書で、有効だと思います。ただ、もう1点あります。この友人は、正当な利益のない第三者ですから、卸会社は、3項の本文によって、そもそも受け取りを拒むことも、できました。有効な弁済になったのは、拒まずに受け取ったからです。2項で、債務者の意思に反するかを見て、3項で、債権者が拒むかを見る。2つは、別の話です。
4項:性質・特約による制限

- 474条4項=前三項の規定は、その債務の性質が第三者の弁済を許さないとき、又は当事者が第三者の弁済を禁止し、若しくは制限する旨の意思表示をしたときは、適用しない
- ①債務の性質=債務者本人でなければ意味がない給付(例=特定の画家に自分の肖像画を描いてもらう債務)②当事者の特約=契約で「第三者の弁済は認めない」と決めた
- 「適用しない」=1項の原則も働かない
条文民法474条4項
民法第474条 4 前三項の規定は、その債務の性質が第三者の弁済を許さないとき、又は当事者が第三者の弁済を禁止し、若しくは制限する旨の意思表示をしたときは、適用しない。
1項も含めて、全部が働かない、という意味です。つまり、第三者の弁済は、そもそもできません。債権者は、受け取りを拒めます。例を2つ。1つめは、性質です。特定の画家に、自分の肖像画を描いてもらう債務です。その画家本人が描くことに、意味があります。ほかの人が、代わりに描いて渡しても、約束の中身を実現したことになりません。2つめは、特約です。契約で、支払は、債務者本人だけがする、と決めていたなら、第三者の弁済は、認められません。
効果:有効なら債権は消え、無効なら残る
図:第三者弁済の効果
- 有効=債権は消滅する
- 第三者は債務者に対して求償権を取得(委託を受けて払った→委任の費用償還/委託なし→事務管理の費用償還)
- 弁済による代位=第三者が債権者の権利(担保を含む)を行使できる(中身は別の回)
- 無効=債権は消えない
- 第三者は債権者に、給付した物の返還を不当利得として請求できる
効果に入る前に、思い出してください。前回、債務者が弁済の提供をしただけで、債権は消えたでしょうか?消えません。債権が消えるのは、債権者が受け取って、弁済が完成したときです。では、第三者が、有効に弁済したら、債権は、どうなるのか。有効なら、債権は、消えます。債務者の債務も、なくなります。ただし、それで終わりではありません。払った第三者は、債務者に対して、求償権を取得します。立て替えた分を請求する権利です。債務者は、自分の借金が消えて助かったのですから、その分は、払った人に返すのが筋です。債務者の委託を受けて弁済したなら、委任の費用償還、委託なしなら、事務管理の費用償還が、根拠になります。さらに、第三者は、弁済による代位によって、債権者が持っていた権利を、使えます。抵当権などの担保も含みます。求償を、確実に回収できるようにするためです。最初の設例で言えば、横から払った親会社の弁済が有効なら、卸会社の代金債権は消えます。親会社は、小売チェーンに3000万円を求償できます。代位の中身は、別の回で扱います。ここでは、有効なら、債権は消え、第三者には、求償と代位の道が開く、とだけ持ち帰ってください。
無効なら、債権は消えません。債務者の債務は、残っています。払った第三者は、債権者に対して、渡した物の返還を、不当利得として請求できます。いわゆる、不当利得返還請求です。債権は残っているのに、渡した物だけが債権者の手元にある。受け取る理由がないので、返させるのです。さきほどの友人の例で、卸会社が、小売チェーンの意思に反すると知っていたなら、弁済は無効です。卸会社は、受け取った3000万円を友人に返し、小売チェーンの代金債務は残ります。
他人の物による弁済

- 475条=弁済をした者が弁済として他人の物を引き渡したときは、その弁済をした者は、更に有効な弁済をしなければ、その物を取り戻すことができない
- 476条=前条の場合において、債権者が弁済として受領した物を善意で消費し、又は譲り渡したときは、その弁済は、有効とする
- この場合において、債権者が第三者から賠償の請求を受けたときは、弁済をした者に対して求償をすることを妨げない
最後に、弁済として、他人の物を渡してしまった場合を見ます。条文は、2つです。
条文民法475条
民法第475条 弁済をした者が弁済として他人の物を引き渡したときは、その弁済をした者は、更に有効な弁済をしなければ、その物を取り戻すことができない。
設例です。小売チェーンが、別の取引先から預かって保管していた商品を、自分の物のように、卸会社へ渡して、代金債務の弁済に充てました。預かっているだけの商品は、小売チェーンの物ではありません。人の物を渡しても、約束どおりの弁済には、なりません。弁済になっていないのですから、本来なら、渡した小売チェーンは、返してくれ、と言えるはずです。でも、卸会社は、代金を受け取っていない状態に戻ります。そこで、475条は、取り戻したいなら、先に、更に有効な弁済、つまり、自分の物を引き渡すなどをしなさい、と求めます。債権者を、宙ぶらりんにしない、ための規定です。
条文民法476条
民法第476条 前条の場合において、債権者が弁済として受領した物を善意で消費し、又は譲り渡したときは、その弁済は、有効とする。この場合において、債権者が第三者から賠償の請求を受けたときは、弁済をした者に対して求償をすることを妨げない。
476条が答えです。債権者が、その物が他人の物だと知らないまま、消費したり、譲り渡したりしたときは、弁済は、有効になります。もう返せないからです。ここで言う善意は、他人の物だと知らなかった、という意味です。そして後段です。卸会社は、本当の所有者である取引先から、賠償の請求を受けるかもしれません。そのとき卸会社は、弁済をした者、つまり他人の物を渡した小売チェーンに求償できます。損失は最終的に、他人の物を渡した者が負う、ということです。
冒頭の答えと、まとめ
図:冒頭の答え
- 借家人は、地代の弁済について法律上の利害関係がある(借地上の建物の賃借人)=正当な利益あり→大家の意思に反しても、地主の意思に反しても、有効に払える
- 対比=正当な利益のない親会社は、債務者の意思にも債権者の意思にも反して払えない(ただし債務者の委託を債権者が知っていれば、債権者の意思に反しても有効)
冒頭の借家人の答えです。借地上の建物の賃借人は、地代の弁済について、法律上の利害関係を持ちます。地代が払われず、土地の賃借権が消えれば、自分が、建物から出ていかなければならないからです。つまり、正当な利益のある人です。だから、大家さんの意思に反しても、地主さんが拒んでも、有効に払えます。2つの問いに、答えます。他人の債務を、第三者が払ってよいのか。原則として、よい。払ってはいけない場面は、あるのか。正当な利益のない第三者は、債務者の意思に反しては払えず、債権者の意思に反しても払えない、という例外があります。
図:まとめ板
整理します。1つめ、第三者の弁済は、原則として有効です。債権者は、満足すれば足りるからです。2つめ、正当な利益を有しない第三者は、債務者の意思に反して払えません。ただし、債権者が知らなければ有効です。3つめ、正当な利益とは、法律上の利害関係です。判断の物差しは、払わないと、自分が法律上の不利益を受けるか、です。4つめ、正当な利益のない第三者は、債権者の意思に反して払えません。ただし、債務者の委託を受けて払い、そのことを債権者が知っていれば、有効です。5つめ、4項の、性質や特約があるときは、第三者の弁済は、そもそもできません。6つめ、効果です。有効なら債権は消えて、求償と代位の道が開く。無効なら債権は消えません。7つめ、他人の物を弁済として渡したとき、取り戻すには、更に有効な弁済が先です。債権者が善意で消費や譲渡をしたら、有効で、債権者は、賠償請求を受ければ、弁済をした者に求償できます。正当な利益の有無によるあてはめは、論文でも論点になりうる分野です。誰に払えば有効なのかは、別の回で見ます。
参照条文
- 民法474条1項
- 民法474条2項
- 民法474条3項
- 民法474条4項
- 民法475条
- 民法476条